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13-519

519 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 09:46:23 ID:Ka1RfXtH
さて、誰もいないようなので、投下いきます。
バレンタインネタで、前半はカカオ分多め。
6レスぐらい使用。

520 名前:1/6 ◆6Gzt0D6RRc [sage] 投稿日:2008/02/14(木) 09:47:09 ID:Ka1RfXtH
昼休みが終わるやいなや、転送ポートに飛び乗り、ずっと缶詰になっていた絶海の施設から脱出する。
向かう先は、ついこの間までの職場。手にしたのは、この日のために用意した贈り物。
それを渡すために、あの人が居るであろうその場所へ。

「フェイ――

だけど、私は。
その場所から、それを渡すことなく、逃げるように立ち去っていた。
あの人の姿を見た瞬間。正確には、あの人のデスクの惨状を見た瞬間。
苦しかった。
どうしようもなく、苦しかった。
その感情に突き動かされるままに、我を忘れて六課の庁舎を飛び出していた。

521 名前:2/6 ◆6Gzt0D6RRc [sage] 投稿日:2008/02/14(木) 09:47:38 ID:Ka1RfXtH
「あれ?」

誰かに呼ばれた気がして、その方向に目を向けるも、そこにあったのは誰もいない廊下。
疲れてるのかな、と無意識に身構えた体から力を抜き、目線を元に戻す。

「どうしたの?」
「ん、大したことじゃないよ。さっき誰か来なかった?」
「えっ……私は、見てないよ?」
「そっか。……それはそうと、これどうしようかな」

位置的に、私よりも廊下側が見やすいなのはが見てないなら、やっぱり気のせいだったんだろう。
なのはの反応に少し引っかかるものはあったけど、そんな些末なことを追求するよりは、今目の前の問題をどうにかすることが先決だ。

「にゃはは、モテるのも大変だね?」
「笑い事じゃないよ……はぁ、ここの所2月14日はずっと船の上だったから、油断してた……」

ガックリと肩を落とす私の前には、山と積まれたチョコレート。
色取り取りの包装が施されたそれらは、明らかに一人で食べきれる量ではなく。

「……ねぇ、なのは、ちょっとでも……」
「それは、相手に失礼だよ?」
「うぅ……でも、この量は流石に……」
「だったら、最初から受け取らないこと」
「だ、だって、突き返すのは、可哀想だし……」
「フェイトちゃんは甘すぎるよ…………まあ、そこが良いんだけどね」
「え? なのは?」
「ん、何でもないよ。……まあ、ダメにしちゃう方がよっぽど失礼だから、どうしてもって時は手伝うよ」
「……ありがとう、なのは」

そう言えば、似たようなやり取りを、前にもしたことがある気がする。
確か、中学2年。今みたいに大量にチョコをもらって……結局、半分以上いつもの4人に手伝ってもらったっけ。

522 名前:3/6 ◆6Gzt0D6RRc [sage] 投稿日:2008/02/14(木) 09:48:00 ID:Ka1RfXtH
……そう言えば、なんで、2年の時だけだったんだろう。
特に変わった事なんてなかったはずなのに……なのはが仕事で居なかったのは、関係ないよね?

「でも、これはちゃんとフェイトちゃんが食べてね?」
「なのはも、ね?」

微笑みと共に交換したのは、対照的な包装のチョコレート。
海鳴に居た頃は、毎年のようにやっていたのに、それぞれの道を歩き始めてから、こんな機会はほとんどなくなってしまった。

「なのはちゃんに、ギンガに、その山か……モテモテやなぁ、フェイトちゃん」
「は、はやて!」

その感傷を、方言混じりの囃し声がぶち壊す。

「でも、諦めへんよ。フェイトちゃん、私が心を込めて作ったこのチョコ、受け取……冗談やて冗談。ほら、ちゃんとなのはちゃんの分もあるよ。三倍返しな」
「じゃあ、私にも三倍返しってことかな、はやてちゃん?」
「むぅ。差し引きゼロってことやね。久しぶりに、翠屋のクッキー食べたかったんやけどなぁ」

そのぶち壊した張本人は、私にチョコを渡すと、なのはと微笑ましい漫才のようなやり取りをしながら、チョコを交換する。
あまりに微笑ましすぎて、なのはの目が笑ってないよ。

それはいいとして、少し気になる単語があった。

「そうだ、はやて。ギンガ、こっちに来てたの?」
「ありゃ、来てなかったんか」
「うん、昼休みはずっとなのはと二人っきりだよ。そうだよね、なのは?」
「う、うん……」
「んー、さっき廊下ですれ違ったから、フェイトちゃんの所やと思ったんやけど……」
「そっか、来てたには来てたんだ……じゃあ、さっきのはギンガだったのかな」
「……ところで、フェイトちゃん。私の分の……」
「ん、はい、三倍返しね?」
「……ちょう、それはヒドイんちゃう?」

523 名前:4/6 ◆6Gzt0D6RRc [sage] 投稿日:2008/02/14(木) 09:48:25 ID:Ka1RfXtH
「はぁ……」

考え無しに走り続けて、たどり着いた場所は何処とも分からない場所。

「なに……やってるんでしょうね……」

忙しい合間を縫って、本を読みあさり、材料を調達し、前日は徹夜までして、結局残ったのは何?
受け取る人を無くした可哀想な贈り物。たったそれだけ。
分をわきまえれば良かったんだ。あの山の中がお似合いなのに、それ以上を求めるから……。
私なんかが、あの人の特別になれるわけ……n

「見つけた」

名前も知らぬ公園のベンチに座って、ぼーっと空を見上げていた私の耳に飛び込んできた声。
それは、聞こえるはずのない、聞きたかった声。
憧れ続けた、追い続けた、あの人の声。

聞き違いかと思って、顔を起こした私の目の前で、漆黒の戦斧を携えた女性が、長い金色の髪と白いマントを靡かせて降り立つ。

「こんな所にいるなんて。六課に来てたって聞いたから、近くにいると思ったのに、探すの苦労したよ?」
「どう……して……?」
「これを渡そうと思って」

差し出されたのは、黄色いリボンが掛けられた黒い直方体。

どうして、フェイトさんがここに居るのか。
どうして、フェイトさんが私にチョコを渡すのか。

本当に現実なのか。夢じゃないのか。
……いや、夢だったとしても、構わない。
いつか覚める夢だとしても……

524 名前:5/6 ◆6Gzt0D6RRc [sage] 投稿日:2008/02/14(木) 09:48:52 ID:Ka1RfXtH
「……えっと、こう言うのは、キライかな?」
「えっ……そ、そんなこと無いです! フェイトさんから頂けるなんて、きょ、恐縮です……」

フェイトさんのちょっと困ったような声で我に返ると、慌ててそれを受け取る。

「久々に作ったから、味の保証は出来ないけど……あ、ギンガ、時間大丈夫?」
「時間……? あっ――」

胸のブリッツ・キャリバーが告げた時刻は驚愕すべき時刻で。
挨拶もそこそこに、駆け出そうとしたけど、フェイトさんが肩を掴んで引き留める。

「ギンガ、道分かるの?」
「あっ……」
「送っていくよ」

ここがどこだか分からない。
その事実に頭が真っ白になる。

そして、次に認識したのは、フェイトさんに抱えられて、クラナガンの上空を飛ぶ自分。
体温が、吐息が、直に感じられるほど近くにフェイトさんが居て。
BJの白いマントに包まれた中には、ほのかにシャンプーの香りが漂う。
徐々に高鳴る鼓動は、高所で他人に身を任せているにしても、少々テンポが速すぎる。

「中央の転送ポートまでで良いよね?」
「は、はい……」
「大丈夫、すぐ着くよ」

すぐ着くと言うことは、つまり今日フェイトさんと居られる時間が、すぐ終わってしまうと言うことで。
要するに、この手の中にある物を渡すチャンスは、今しかないと言うこと。

「あ、あの、フェイトさん……」
「ん、何?」

525 名前:6/6 ◆6Gzt0D6RRc [sage] 投稿日:2008/02/14(木) 09:49:14 ID:Ka1RfXtH
「わ、たししも……チョコ……作ったんです。……えっと、その……良ければ、受け取ってください!」
「えっ――」

ありったけの勇気を振り絞ったその一言。
それに対する返事は、驚きと戸惑い。

「……ありがとう、ギンガ。嬉しいよ」
「そんな、こちらこそ、ありがとうございます」

その意味を考える間もなく、それらは、頬を淡く朱に染めた喜びに塗り替えられる。
今までの苦労を差し引いても山のようにお釣りが来る、柔らかな笑顔に。

「……ねぇ、今、食べても良いかな? 昼休みまだ何にも食べてなくて」
「良いですけど、フェイトさん、手が塞がってるんじゃ……」
「うん、だからね……えっと、その……」

私を抱えながら、どう食べる気だったのか。
それを知ろうにも、フェイトさんは私から目をそらし、進行方向を真っ直ぐ見つめている。

手元のチョコとフェイトさんの白い喉元を交互に見ながら導き出した解答は二つ。
一つは、ちょっと恥ずかしい方法。もう一つは、とっても恥ずかしい方法。

いつもの私なら、ためらうことなく一つ目の方法を選ぶはず。
そもそも、二つ目は思い付きもしないかもしれない。
だけど、どういう訳か、私が選んだのは二つ目。
きっとフェイトさんが狂わせたに違いない。
だから、責任を持って、このチョコは食べてもらおう。

(フェイトさん)

念話の呼びかけに応えて、フェイトさんが視線を私に戻す。
その先には、チョコの端をくわえた……

526 名前:7/6 ◆6Gzt0D6RRc [sage おまけ] 投稿日:2008/02/14(木) 09:49:45 ID:Ka1RfXtH
「はぁ……」
「何や、溜息なんか吐いて。幸せが逃げてくよ?」
「もう逃げられちゃったから、平気ですよー……はぁ……」
「いやいや、幸せってのは、案外近くにあるもんやで」
「じゃあ、その幸せさんに言っておいて、もっとハッキリしないとなのは分かんないって」
「ok、了解や、なのはちゃん。今度会うたら伝えておくよ」
「…………まあ、いいや。そうそう、本当に相殺で良いの?」
「なんや、その間は。相殺? ああ、なのはちゃんがくれるなら、大歓迎やで。こっちは、ちょっと多めに作るだけやから」
「にゃはは、フェイトちゃんに三倍返ししないといけないもんね?」
「フェイトちゃん、私は何も言ってないのに、三倍返し要求とかヒドイと思わへん?」
「……」
「……」
「はやてちゃん、そろそろ、お昼にしない?」
「……なぁ、なのはちゃん。ボケって言うのは、つっこみがないと生きてけへんのよ」
「知ってるよ?」
「……悪魔やね、なのはちゃん」
2008年02月14日(木) 12:58:48 Modified by nanohayuri




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