38-823
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体から出ていこうとする何かを、まだ手放したくはなくて、それを堪えるようにシーツを握りしめた。
堪えた何かは小さなしびれとなって体の中を充満していく。
呼吸が荒くなる。
耳元にかかった吐息に、耐えきれず、体がびくりと小さく震えた。
もうほとんど力の入らない指先をシーツから離し、目の前の愛しい人に腕をまわす。
――なのは
名前を呼ばれるのと同時に、ひときわ大きな波が押し寄せて、堤防はいとも容易く崩壊し、なのはの体は大きくしなった。
はぁ、はぁ
鼓動と同じくらいの早さで、浅い呼吸を繰り返す。
なのは、とフェイトが呼ぶ。
ゆっくりと重なってきた唇は、やわらかく、自然と開いた口のなかに侵入してきた熱に頭の芯がぼうっとなる。
肌を通じて感じる自分のものではない温かさとその重みが心地よい。
深く息を吸い込めば、湿った甘ったるい香りがなのはの鼻腔をやさしく刺激し、意識をどこか遠くへといざなう。
海の中にいるようだと思った。
風のない夜の海にとけていくような、そんな感覚だと思う。
なのはの体はゆっくりとしたリズムで浮上し、深く沈み、静かに寄せてはかえす波に漂い、
やがてその境界は曖昧になり、緩やかに溶けだし、混ざり合う。
静寂な空気のなかに聞こえるのは、ふたりの息づかいだけだった。
なのはの息が十分に落ち着いてから、フェイトがベッドから体を起こして問うた。
「気持ちよかった?」
納まりかけていたはずの熱が、顔に集中する。
なのはは羞恥に耐えながらも、それを小さく肯定した。
その言葉は、あまりにも微かな音だったが、それでもこの至近距離ではフェイトには十分届いたはずだ。
誕生日にお目当てのプレゼントを貰えた子どものように、嬉しそうな顔をするフェイトに、なのはは気付かれないように小さなため息をこぼす。
事情の後に、必ずと言っていいほど問うてくるフェイトに、なのはは恥ずかしさを我慢し、毎回、律儀に答えるのには訳がある。
はじめの方こそ、羞恥が勝り、うんともううんとも言えず黙っていたなのはだったが、遠慮がちに自分の名を呼ぶ声は微かにだが震えている気がした。
フェイトの声は、からかいを含んでおらず、なのはを見つめる瞳は不安げな色を映し、いつまでもその答えを待った。
――私の好きとなのはの好きは違う
彼女はまだそんなことを思っているのだろうか?
行為の一つ一つに、承諾を得るフェイトはきっと無意識なのだろうけれど、恥ずかしいものは恥ずかしいし、慣れるなんてことはない。
何とかして、この癖が治らないかなぁ、とぼんやりと思う。
そんなことは露知らず、本人は気づいていないのだろうが、口元から漏れた笑みがなんとも憎たらしい。
「なのは」
フェイトに呼ばれて、なのはは思考を中断し、ほんの少しだけ頭をあげた。
ベッドとの間できた小さな空間に、フェイトの腕がするりと割り込む。
なのはは、その専用枕に頭を降ろし、フェイトと向き合うように体の向きを変えると、しなやかな白い指が伸びてきた。
汗でくっついた前髪をそっとのけ、額と目と鼻と唇に、ついばむようにやさしい口づけが落とされる。
それはおやすみの合図だった。
なのはは体をさらに少しだけフェイトへと移動させ、やわらかな胸に頬を押し当てた。
奥から聞こえるトクリ、トクリという安心する音は、さざ波となり、なのはを安らかな眠りへと誘う。
フェイトは、「海」なのかもしれない。
理由なんていらない。ただ、そこは帰る場所だと感じていた。
フェイトを抱きしめていると、愛しているという言葉よりも、もっと大切ななにかが、触れあった部分から溢れだしていくような気がする。
そんなことを思ったが、少しずつ思考が発散しはじめた。さきほどから、徐々に瞼が重くなりはじめている。
起きたら一番に伝えよう。フェイトの不安が少しでも軽くなるように。
なのはは、そっと意識を手放した。
体から出ていこうとする何かを、まだ手放したくはなくて、それを堪えるようにシーツを握りしめた。
堪えた何かは小さなしびれとなって体の中を充満していく。
呼吸が荒くなる。
耳元にかかった吐息に、耐えきれず、体がびくりと小さく震えた。
もうほとんど力の入らない指先をシーツから離し、目の前の愛しい人に腕をまわす。
――なのは
名前を呼ばれるのと同時に、ひときわ大きな波が押し寄せて、堤防はいとも容易く崩壊し、なのはの体は大きくしなった。
はぁ、はぁ
鼓動と同じくらいの早さで、浅い呼吸を繰り返す。
なのは、とフェイトが呼ぶ。
ゆっくりと重なってきた唇は、やわらかく、自然と開いた口のなかに侵入してきた熱に頭の芯がぼうっとなる。
肌を通じて感じる自分のものではない温かさとその重みが心地よい。
深く息を吸い込めば、湿った甘ったるい香りがなのはの鼻腔をやさしく刺激し、意識をどこか遠くへといざなう。
海の中にいるようだと思った。
風のない夜の海にとけていくような、そんな感覚だと思う。
なのはの体はゆっくりとしたリズムで浮上し、深く沈み、静かに寄せてはかえす波に漂い、
やがてその境界は曖昧になり、緩やかに溶けだし、混ざり合う。
静寂な空気のなかに聞こえるのは、ふたりの息づかいだけだった。
なのはの息が十分に落ち着いてから、フェイトがベッドから体を起こして問うた。
「気持ちよかった?」
納まりかけていたはずの熱が、顔に集中する。
なのはは羞恥に耐えながらも、それを小さく肯定した。
その言葉は、あまりにも微かな音だったが、それでもこの至近距離ではフェイトには十分届いたはずだ。
誕生日にお目当てのプレゼントを貰えた子どものように、嬉しそうな顔をするフェイトに、なのはは気付かれないように小さなため息をこぼす。
事情の後に、必ずと言っていいほど問うてくるフェイトに、なのはは恥ずかしさを我慢し、毎回、律儀に答えるのには訳がある。
はじめの方こそ、羞恥が勝り、うんともううんとも言えず黙っていたなのはだったが、遠慮がちに自分の名を呼ぶ声は微かにだが震えている気がした。
フェイトの声は、からかいを含んでおらず、なのはを見つめる瞳は不安げな色を映し、いつまでもその答えを待った。
――私の好きとなのはの好きは違う
彼女はまだそんなことを思っているのだろうか?
行為の一つ一つに、承諾を得るフェイトはきっと無意識なのだろうけれど、恥ずかしいものは恥ずかしいし、慣れるなんてことはない。
何とかして、この癖が治らないかなぁ、とぼんやりと思う。
そんなことは露知らず、本人は気づいていないのだろうが、口元から漏れた笑みがなんとも憎たらしい。
「なのは」
フェイトに呼ばれて、なのはは思考を中断し、ほんの少しだけ頭をあげた。
ベッドとの間できた小さな空間に、フェイトの腕がするりと割り込む。
なのはは、その専用枕に頭を降ろし、フェイトと向き合うように体の向きを変えると、しなやかな白い指が伸びてきた。
汗でくっついた前髪をそっとのけ、額と目と鼻と唇に、ついばむようにやさしい口づけが落とされる。
それはおやすみの合図だった。
なのはは体をさらに少しだけフェイトへと移動させ、やわらかな胸に頬を押し当てた。
奥から聞こえるトクリ、トクリという安心する音は、さざ波となり、なのはを安らかな眠りへと誘う。
フェイトは、「海」なのかもしれない。
理由なんていらない。ただ、そこは帰る場所だと感じていた。
フェイトを抱きしめていると、愛しているという言葉よりも、もっと大切ななにかが、触れあった部分から溢れだしていくような気がする。
そんなことを思ったが、少しずつ思考が発散しはじめた。さきほどから、徐々に瞼が重くなりはじめている。
起きたら一番に伝えよう。フェイトの不安が少しでも軽くなるように。
なのはは、そっと意識を手放した。
2011年12月10日(土) 00:54:52 Modified by sforzato0