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April planner-1

956 名前: 名無しさん@秘密の花園 [sage] 投稿日: 2008/04/22(火) 20:17:34 ID:jEg7/Abm

賑わってるところ失礼して
>>554で書いたフェイシグの続きというか前段階の話を落とします
一応こっちが本編です シグフェイっぽくなったのは御愛嬌
ころころ視点が変わります 9レスほど
はやて視点はなんかおかしい気もするけど書き直す気力がありません



957 名前: April planner [sage] 投稿日: 2008/04/22(火) 20:18:50 ID:jEg7/Abm

 二人は十年ほど前に出会い、何度も刃を交え、やがては友となり。
 そして―――
 これは首都クラナガンに突如舞い降りた、嘘のような本当の物語。


 コンコン。
 再度ノック音を響かせてしばし待つ。その部屋にいるはずの人物からは相変わらず何の反応も返ってこない。
 沈黙を保つドアの前で、顎に手を当てた。取り合えず、今度は声をかけてみる事にする。

「お〜い、シグナムぅ・・・入ってもええかぁ?」

 長期任務明けにもぎ取った三日間の連休。
 シグナムの様子がおかしいと耳打ちされたのは、つい先ほど。私達が食料の買い出しに出ている間に何かあったようだ。
 守護騎士プログラムのリンクが弱まった現在、余程の事が無い限り互いに起こった変化は感じ取れなくなった。宿めから開放され各々の道を歩き始めたと喜ぶべきだが、こんな時は少し不便でもある。

「ええな、ほな入るよ〜」

 公的には主従であるが、この家に住むのは大切な家族。ちゃんとマナーを守って手順を踏んだ。
 鍵はかかっておらず、あっさりノブが回る。暗い室内に足を進めると、部屋の中央にペタンと座り込む背中が見えた。

「さっきから上の空らしいけど、何かあったん?」
「・・・・・・」

(無視?! あの従順なシグナムが―――なんや新鮮かも)

 家族として暮らし始めて十年あまり。
 シグナムが主の呼びかけに答えなかった事は一度もない。忠義・忠実・忠信と三拍子揃ったベルカの騎士の鑑だった。

(っていうか・・・聞こえてるかどうかも怪しい感じやな)

 ぴくりとも動かない背に眉をひそめる。アギトが言うように確かにおかしい。常にぴんと伸びた背は丸くなり隙だらけ。今だったら自分でも勝てるんじゃないかと思った。
 さすがにおチャラけでもいられず、回り込んで正面にしゃがみこむ。
 すると―――



958 名前: April planner [sage] 投稿日: 2008/04/22(火) 20:19:33 ID:jEg7/Abm

(ふおぅ?! なんやこの甘酸っぱいむず痒くなるオーラはっ!!)

 自分がとうに失った何かを直視してしまいよろめく。
 ポ〜とした表情で宙を見つめるシグナムは、まるで思春期の少女のようだった。

「シ、シグナムっあ、あの」
「・・・・・・主はやては、誰かに好きだと言われた事はありますか?」

( 恋バナキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!! )

 守護騎士の母代わりになってから、いつかはと期待していた類の相談。まさかシグナムが先陣をきるとは!
 にやけてしまう顔を引き締め、逸る心を制して猫なで声を出した。

「残念ながら私はまだや。こんなに気立てもええのに何でやろ」
「はあ、そうですか・・・」
「それで、シグナムは誰に告白されたん?」
「?! ――― い、いえ、それはっその」
「もう! ここまできて隠さんでええやん。私の知ってる人? なあ、なあって♪」
 あっさりと自制が外れる。真っ赤になって黙り込む人物に絡みつき答えを迫った。こんな面白そうな話、逃すわけにはいくまい。
「・・・し、知ってる人といいますか、その・・・友人」
「友人?!」
 瞬時に知る限りの顔を思い浮かべる。懇意にしている男性はそれほど多くなく、現在『友人』となると片手で足りるほど。具体的にはヴァイス、グリフィス、ロッサの内の誰か。
「うっ―――その、っと・・・・・・ッサに」
「ほんまに! そないなそぶり一つもなかったから、気ぃつかへんかったわ」
 脳裏から他候補の顔を消し、長髪の美男子を残す。飄々とぬるくこの世を生きているヴェロッサは、どこにこれ程の情熱を隠し持っていたのか。
「いやぁ〜・・・まあでもカリムやシャッハとも仲良しやし、考えてみれば凄いええカップルかも」
「あの、どうして御二人が出てくるのですか?」
「どうしてって、ロッサは二人の弟分やないの」
 首を傾げるシグナムと同様、私も同じ角度に頭を倒す。しばしそのままお見合い。何か話がくい違っている気がした。
「ヴェロッサじゃなくてテスタロッサ・・・なのですが」
「ああなんや、ロッサ違い。・・・っふ・・・ふふっ・・・・・・フェイトちゃんかぁ納得納得・・・・・・・・・って何やてぇぇえええーーーーー!!!」

 凄い勘違いをした自分にウケている場合ではない。
 確かに小学校からの友人、マブダチ、幼馴染み。
 だけど、だけど―――



959 名前: April planner [sage] 投稿日: 2008/04/22(火) 20:20:22 ID:jEg7/Abm

「なにぶん私はこういった分野は不得手で、情けないですがどうしていいのか・・・」
「ま、まあ、シグナムは騎士道一直線やったしなぁ」
 私の受け答えもキレを失う。まだ諸々の衝撃から心が戻ってこない。ちょっと自分を立て直す時間をいただきたかった。
「先ほど通信で言われ、驚いて思わず回線を切ってしまい・・・」
「ああ、それで」
 近くに浮かぶそれに目をやる。力加減を忘れた成れの果て、局員が携帯する簡易コンソールから火花が散っていた。

(―――ん? パネルに何か・・・)

 ブラックアウトしたモニター、その隅に小さく点滅する表示が気になり顔を寄せる。読み取った内容に愕然とした。全てがただ一つに集約されていく。

(あっちゃぁ〜〜・・・今日はあの日か・・・・・・)

 額に脂汗が浮かぶ。シグナムはまだ気づいていないのだ。
 ちらりと目だけ動かし様子を盗み見る。この真実を伝えて大丈夫か、探りを入れてみる事にした。

「なあ、シグナムはフェイトちゃんの事どう思っとるん?」
「―――っえ?!」
 赤い顔が更に赤くなる。ライバルとか友人とか何やらもごもご言っていたが、ついには頭から湯気を出して固まってしまった。
 もよもよオーラ、のぼせたような表情、醸し出す全てが答えを物語っている。

(最悪や・・・これは血の雨が降るか)

 頭を抱えたい気分だった。何故よりによってシグナムを選んだのか、幼馴染みを小一時間ほど問い詰めたくなる。最悪の場合、今日が彼女の命日となるだろう。

「主はやて、私はどうすれば・・・」
 揺れる瞳、迷子のような頼りない声、僅かに震える手。
 満場一致の採決、心は決まった。
「よっしゃっ! お母ちゃんに任せときっ!!」
 自らの胸をどんと叩く。一世一代の大舞台を用意しよう。そのドサクサで痛み分けを狙うのだ。
 私も泥を被る事になるけど、矛先が一点に集中するよりはマシなはず。
 きょとんとするシグナムに向け、にかっとした笑いを投げた。

(細工は流々、仕上げを御覧じろっ!)   

 部屋を小走りに出る。万事抜かりなく進めるのだ。
 頭の中で描いた計画を成功に導くため、周囲への根回しは不可欠。
 家族はみんな協力してくれるはず。
 そして、鍵となる人物―――
 私は懐から自分専用の携帯端末を取り出し、とある直通回線をコールした。


                                   ◇◆◇◆◇◆◇



960 名前: April planner [sage] 投稿日: 2008/04/22(火) 20:21:06 ID:jEg7/Abm

「あれっ? もしもし、シグナム・・・・・・もしも〜し」
 本局オフィスにて一人きり、コンソールに向かい声を張り上げる。回線が急に落ちモニターがブラックアウトしたのだ。

(うわぁっどうしよう。凄い所で切れたよね)

 まだ続きがあるのにと、焦って再接続を要求する。
 ツーツーっという合成音に赤ランプ。通信中らしく一向に繋がらない。

(もしかして怒らせちゃった? シグナムだって今日が何の日か知ってるはずだし)

 段々と気弱になる。怖い想像に血の気が引いた。
 くだらない事で掛けてくるな! 鉄拳を受け地に沈む自分がイメージされる。


 そう、今日は4月1日。
 ミッド出身の私が第97管理外世界にて友人一同に騙され続けた忌むべき日。
 いい加減学習すれば済むのに、根が単純なのか用意された嘘に面白いほど引っ掛かった。幼馴染み達が仕掛けてくる大小様々な作り話に幾度泣かされた事か。
 そんな苦い経験を踏まえ、今年こそは自分が仕掛ける側に回るのだと―――奮起した。


(・・・シグナムは不味かったかなぁ。冗談通じなさそうだもんね)

 通信が切れる寸前の鋭い目を思い出す。今にもレヴァンティンを抜きそうな苛烈さだった。
 シグナムを選んだ理由。今日が何の日か知っていて気の置けない仲、どう考えても引っ掛かりそうにない面々を候補から外すと、自ずと的が絞られた。

「まさか本気にしてたりして」
 リダイヤルを繰り返しながら一人ごちる。
 いや、そんなわけ無い無い。はやてもいるだろうし、絶対バレている。
 応答を待つ間、さっきの会話をなんとなく思い返していた。


XXX


「シグナムだ」
 回りくどさを嫌う彼女らしい。個人回線を使ったので私だとわかっているはず。
 内心ほくそ笑みながら私は常どおり振舞う。
「テスタロッサです。休暇中にすみません」
 これはシグナム向けの特別な名乗り。『テスタロッサ』はファミリーネームなのだが、彼女は昔から私をそう呼ぶ。私にとっても大切な名前であるので実は嬉しい。



961 名前: April planner [sage] 投稿日: 2008/04/22(火) 20:22:05 ID:jEg7/Abm

「いや構わない。緊急事態か、テスタロッサ?」
 シグナムは真剣な表情で目を光らせた。
 それはそうだろう。執務官の制服を着用している私から通信が入ったらエマージェンシーだと思うはずだ。
「いえ、プライベートです。今日はオフシフトなんですよ。ちょっと書類ためちゃって自主的に仕事してます」
 人気のないオフィスでせっせと残務処理に励んでいた。一応制服は着ているが形だけ。
 モニターに映る人物から一気に緊張感が失せた。次いで呆れたふうに肩を竦められる。
「それは優秀なことだな」
「うっ・・・」

 さらりと皮肉。
 他の人には礼儀正しく絡まないくせに、私に対してのみこんな言動をとる。
 私が執務官試験に二度落ちた事を、いまだにからかいのネタとして持ち出してくるほどだ。

「そっそれよりですね、今日はどうしてもシグナムに伝えたい事がありまして」
「伝えたい事?」
 訝しげに眉がよった。

 いよいよだ。手の平に汗が浮かぶ。鼓動が耳元で大きく響いた。
 私の言葉に彼女はどんな反応を見せるだろう?

「―――ずっと貴女が好きでした。愛しています、シグナム」
 その言葉の直後、モニターはブラックアウトした。


XXX


 本当は話の最後に今日はエイプリルフールだと伝えるつもりだった。嘘をついたことへの謝罪も忘れずに。
 何度リダイヤルしても通信中。デスクワークを続ける気にもならず、手に持ったままのペンをくるくる回す。種明かしをしないままの状態は非常に落ち着かない。自業自得とはいえ、どんどん罪悪感が募っていった。

(あ〜もう仕方ないっ! 殴られるのを覚悟で直接謝りに行こう)

 もやもやとオフィスで腐っているよりは良いはず。どうやら自分にはエイプリルフールの仕掛け人になる素質はないらしい。
 溜め息をついて立ち上がったその時、端末の着信音が鳴り響いた。光の速さで回線をオンにすると、勢いこんでモニターに顔を寄せる。

「はいっ、テスタロッサです! あの、シグナム―――っえ?」
「・・・ごめんなさい。お取り込み中だったかしら、テスタロッサ・ハラオウン執務官」
「き、騎士カリム?! 失礼致しました!!」
 とんでもない非礼な振る舞いに蒼くなり慌てて平謝り。六課の後見人だった方になんて事を!
 はやての直属の上司であるその人は、モニターの向こうで鈴が鳴るような笑い声を上げた。
「ふふっ、しっかり者に見えて意外と慌てんぼう。はやてに聞いていた通り」
「あうっそのぅ・・・以後気をつけます、騎士カリム」
 恥ずかしくて頬に朱がのぼる。はやてが私の事をどんなふうに語っているのか、今の言葉で十分わかった。あちこちで面白おかしく吹聴してまわっているのだ。



962 名前: April planner [sage] 投稿日: 2008/04/22(火) 20:22:45 ID:jEg7/Abm

「公式の場以外で敬称は不要ですよ。私もフェイトさんとお呼びしても?」
「は、はい、勿論」
 気さくに笑いかけられて心臓が大きく跳ねる。はやてが懐くのもわかる気がした。
 しかし、ほんわりしている場合ではない。私の直通回線をコールするとは何事だろう。
「それで、カリムさんの御用件は? 公的なものではないようですが」
「ええ、フェイトさんにお願いがあって」
「お願い? 私でこなせるのなら何なりと」

 その言葉に嘘はなかった。尽力は厭わない。
 彼女には教会騎士団もついているし荒事ではないはず。執務官たる私が役に立てる分野といえば、後は法務関係。
 プライベートないざこざだろうか。個人的に彼女を好ましく思うし、時間の都合さえつけば手を貸そう。

「結婚してください」
「・・・・・・?」

 今、カリムさんは何と言ったのか。
 耳の遠い老人のように手を添えて、モニターに顔を寄せる。

「結婚式を挙げましょう」
「ぅええええぇぇーーーーーーー!!」

 今度は一字一句もらさずはっきり聞こえた。
 あまりの驚きに椅子ごと引っくり返り、受身すら取れず硬い床に後頭部をごっつんこ。意識が遠のきかけた。

「場所はミッド北部の聖王教会、これより三時間後に式を執り行います」
「ちょっちょっと待って! あああのっあなたの情熱的な言葉にどぎまぎしてます、ちょっと待ってぇ!!」
 人生における重要事項をそんな簡単に。泣きたい気持ちでモニターに取りすがり待ったをかける。私と彼女の接点はそれほど多くない。こんなに熱烈に想われる理由なんて見当もつかない。
「あら嬉しい。情熱的だなんて言われたのは初めて」
「だって物事にはじゅじゅ順序ってものがぁ! そもそも私、いつの間にカリムさんに愛されちゃってるんです?! い、いやまずはやっぱりお互いの事をよく知るのが大事かとってここは一つお友達からスタートしませんか」
 わけがわからなくて大パニック。
 延々と続く青臭い私の台詞に、耐え切れなくなったようにカリムさんが吹き出した。上品に口元を手で覆い、目には涙。
「ご、ごめ・・・さ・い、私じゃ・・ないの」
「―――へ?」
 爆弾発言の連続に思考が追いつかない。それじゃあ私は三時間後に誰と式を挙げるのか。
 答えを握る人物はいまだ笑いの発作の最中。その衝動が過ぎ去るまで、私はぽかんとした表情で呆けていた。


                                   ◇◆◇◆◇◆◇



963 名前: April planner [sage] 投稿日: 2008/04/22(火) 20:23:34 ID:jEg7/Abm

 教会前で手を振るカリムに駆け寄り、そのままの勢いで抱きついた。
 変わらない微笑みと体温にほっとする。姉のような存在、私はどうやらカリムに肉親のイメージを重ねているらしい。

「ごめんなぁ、カリム。色々面倒かけてしもて」
「いいのよ。はやての頼みだもの、お安い御用だわ」
 そう言われ優しく頭を撫でられた。一芝居うってもらった事を、嘘をつかせてしまった事を、本当に申し訳なく思う。だけどカリムの協力無しにこの舞台の成功は有り得ない。
「フェイトちゃんはどんなやった?」
「面白い子よね、ふふっ。いやだ、思い出したらまた・・・笑いが」
「カリム?」
 カリムが思い出し笑いをするなんて。不思議そうに見つめる私に、ちょっと待ってと片手が上がる。一度ツボに入ったら引き摺るタイプなのか、その手が下りるまで数分も待たされた。
「私が突然結婚を申し込んだものと勘違いされて。まあ、私の言い方も悪かったのだけど」
「ああ、フェイトちゃんらしいわ。勝手に思い違いしてきりきり舞い、あれはもう一種の才能やな」

 さすがはフェイトちゃん。一体どうしたらカリムが、と思えるのか。
 何度もエイプリルフールのカモにしてきた立場としては、その時の一連の反応まで目に浮かぶ。
 彼女ほど引っ掛けやすい人物はいない。いや、自分から引っ掛かりにくると言った方が正しいかも。
 つまりは、カモねぎ。

「きっと純粋なのね。人を疑う事を知らないのよ」
「悪い人に騙されへんかほんま心配。私が言うなって感じやけど」
 溜め息を一つ。お互いもういい大人だが、幼馴染みの将来に不安を覚える。局員としての腕は疑いようもないが、それ以外の素の部分が危なっかしすぎた。
「今回は上手く釣られてくれるかしら? 幾ら何でも普通は信じないわよ」
「フェイトちゃんは普通やないから。まあ踏ん切りがつくまでしばらくかかるかもしれへんけどな」
「ふふっ それじゃあ、はやてに花嫁はお任せするわね。私は式の段取りがあるから失礼」
 手を上げてカリムと別れる。司祭として式を執り行う事を快く了承してくれた彼女に、心の中で頭を下げた。

(さて、花嫁さんはどないしとるかな―――)

 教会の近くにある建物に足を踏み入れた途端、耳に飛び込んでくる騒音と地響き。
 甲高い悲鳴、何かを打ち鳴らす金属音、低い咆哮、ぶつかり合う大きな魔力。
 それはもう石造りの床を揺るがすほどで、このまま放置すれば建物ごと崩壊するのは時間の問題と思われた。

(ああ、やっぱり。仕方のない子ぉらやなぁ)

 予想通りの展開に苦笑い。
 魔力サーチから状況を分析するに、花嫁一人を残る全員で押さえ込んでいるようだ。やはり将は強い。だが式を前に怪我をされても困る。
 私は震源地である最奥のホールへ歩を進め、重厚なドアをそっと開いた。


                                   ◇◆◇◆◇◆◇



964 名前: April planner [sage] 投稿日: 2008/04/22(火) 20:24:13 ID:jEg7/Abm

 何故こんな事になったのだろう?
 エイプリルフールの仕掛け人になりたかっただけなのに。
 私は燃え尽きたようにオフィスの床に座り込み、ぐるぐると考え続けていた。

 だって、だって―――
 知らなかったのだ。ベルカの騎士にそんな掟があるなんて。
 本当に知らなかったのだ。愛の告白をうけたなら、潔く婚礼を挙げねばならないなんて。
 
 騎士カリムが真顔で語った古き誓約。
 それを破った者はどのような騎士であれ例外なく除籍されるという。
 何事においても潔さを重視する古代ベルカの名残りなのだと。

 実はあの告白は全て嘘なんです。
 聖王教会の幹部たる彼女に向かって、どんな顔でそれを言えるのか。
 言ったが最後、教会騎士団所属の死の猟犬が放たれるだろう。
 
 そしてなんと私の元に、伝説の三提督から祝辞が届いた。
 いまさら全てを放り出せば銀河の果てまで追っ手がかかるはず。
 管理外世界に逃げるくらいしか生き残る術はない。

 ここに進退窮まる。
 どう考えても穏便な解決策なんてない。
 嘘の代償はとんでもなく高くついた。

 私はのろのろと立ち上がり、外套を手に取る。
 指定された教会へ行かねばなるまい。
 種を蒔いたのは私自身なのだから。


                                   ◇◆◇◆◇◆◇


 ただ呆然と姿見を覗き込んでいた。そこに映る人物、これは一体誰なのか。
 長き記憶においてこのような格好をした事は一度もない。武人には簡素な鎧がお似合いであり、着飾るドレスなど邪魔にしかならないのだ。

「よう似合うとるよ、シグナム」
 背後からかかった主の声に正気を取り戻す。
 なし崩しに着せられたこの純白の衣装。今は呆けている場合ではない。
「主はやて、どうして私がこのような」
「どうしてって、シグナムがフェイトちゃんと結婚するからやない」
「・・・・・・?」

 今、主はやては何とおっしゃったのか。
 失礼ながら耳に手を添えて再度お言葉を頂戴する事にする。



965 名前: April planner [sage] 投稿日: 2008/04/22(火) 20:25:12 ID:jEg7/Abm

「だからやなぁ、今日この聖王教会でシグナムとフェイトちゃんが結婚式を挙げるんや」
「・・・私とテスタロッサが、ですか?」
「そうや。シグナムとフェイトちゃんがな」
 しれっと返された答え。主の言っている事が何一つ理解できない。何がどうなって、私とテスタロッサが式を挙げる事になるのだろう。

 助けを求めるように周囲を見回すと、ことごとく私から視線を逸らす仲間達。
 この建物に入ってすぐ円陣を組まれ衣装を突きつけられた。力ずくで着用を迫る彼らに対し応戦。これを着るか着ないか、それはもう全身全霊の戦い。
 結局は主の介入にて水がさされ、デバイスを取り上げられてしまったのだが。

「善は急げって言うやん。カリムが式を執り行ってくれるから安心してな」
「騎士カリムが?!」
 信じられない言葉に目を剥いた。
 上下関係を超えて親しくはしている。しかし彼女は聖王教会の幹部、もし主の話が本当なら冗談では済まされない。
「カリムも司祭として婚姻を纏めるのは初めてらしいわ。あっ大丈夫やよ? シグナムは『誓います』って言えばええだけやから」
「い、いえっ、私がお聞きしたいのはそこではなく! 何故私とテスタロッサが婚姻を結ぶのかという事で」
 目の前の華奢な両肩を思わず掴む。わけがわからない中、最も根源に位置する疑問。
 主は心底不思議そうに首を傾げると、私をじっと見上げた。全てを見透かすような澄んだ瞳で。
「なんでも何も・・・お互い好き合ってるんやろ?」
「すっ好きィッ?! わっわたわたしがっテテスタロッサをぉっ??」
 とんでもない声が出る。体がカッカと熱い。
 浴びせられた言葉の意味を咄嗟に理解できず、いや頭ではわかっていたが認められず、頭が沸騰停止した。
「そうや。私達のリンクはほとんど切れてしもたけど、まだそれくらいはわかる。主として家族として、私はうちの子ぉらに幸せになってほしい」
「―――!」

 優しい微笑みを凝視する。
 主はやては待機形態のレヴァンティンを手の平にのせ、私に差し出した。私はそれを反射的に受け取ってしまう。
 これは儀式なのだと気づいた。
 私の誓いを白紙に戻すのだ、と。

「フェイトちゃんなら申し分ない。シグナムは絶対に幸せになれる」
「・・・・・・主」
「そやから、もう私を守らんでええ。シグナムが自分に正直に生きてくれたら私は嬉しい。今まで本当にありがとうな」
 
 衝撃が駆け抜けた。
 主からの労い、それは騎士にとって誉れ。
 だと、いうのに―――
 身に余るほどの御言葉をいただいたのに、心は暗闇に塗りつぶされていく。
 踵を返して去っていく背を前に一歩も動けない。

 夜天の王。
 レヴァンティンを捧げた最後の主。
 寄る辺なき身の我らは、この少女に出会って初めて騎士としての本分を知った。
 我が身の全てにかえて主を守り抜く、それはなんと甘美な喜び。
 たかだか十年。
 されど、それまでの永きを足しても敵わないほど輝きを放った日々。
 
 暗闇の中、ぽつんと取り残される。
 主をなくした騎士。
 存在意義を失った剣。
 私はレヴァンティンを手にただ呆然と立ちすくんでいた。


                                   ◇◆◇◆◇◆◇



966 名前: 名無しさん@秘密の花園 [sage] 投稿日: 2008/04/22(火) 20:26:15 ID:jEg7/Abm

今回はここまで はやてとカリムが出張ってます
ちょっと長くなったので、後編は近いうちに
感想くれた人ありがとうございます 笑っていただければ嬉しいです
リボンに反応をいただきましたが、言葉が足りませんでした
『昔』のリボンです、あ〜みん先生 どれだけ知ってる人がいるのやら


続き) April planner-2
2009年05月05日(火) 17:51:46 Modified by coyote2000




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