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Hello, Again 3



478 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/06/26(木) 01:57:52 ID:AZeoRq1k


*  *  *



新人たちの指導を終え、誰も「お疲れさま」の一言も掛けられないくらい
急いで帰り支度をする。
今日は夜間訓練のせいですっかり遅くなった。
見上げれば既に満点の星空だ。

――早く、早く!
――早くあの子のところへ戻らなくちゃ……!
――今頃泣いているかもしれないのに!
――あんな話をしたから……!

早足でゲートまで行くと、そこにはやてが立っていた。

「はやてちゃん……どうしたの?」
「ん、なのはちゃんの姿が見えたから」

そう、となのはは一言だけ。
友人がフェイトと自分を心配してくれているのは目に見えて解っている。

「……フェイトちゃんの様子どうなん?」

なのはとはやては並んで歩き始めた。
早く帰らなければと思いつつも、
この胸の内を誰かに――親しい人に話したかったのも事実。
フェイトが不安でいるだろうことは解っている。
自分が不安でいることも解っている。

「……何日か前にね、話したの……あのこと……」
はやてはなのはの言葉にギョッとする。
あのことと言うのが何であるか即座に理解したからだ。
「え、本当のこと言うたん?」
「まさか、本当のことは言えない……言えなかった……」
「……そ、か……」
「プレシアさんは事故で亡くなったって伝えた」
「そうなんか……」
「リンディさんとアルフさんと話し合って……」

そして11年前の事件の真相やプレシアの発言などはフェイトには伝えないと決めた。
母親に愛されなかったという真実。
もしフェイトに詳しく訊かれたら、母親は研究中にコンピューターの
誤作動による爆破事故に巻き込まれたとでも言うつもりだ。

「……それでよかったん……?」

「だって言えないよ!?」





479 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/06/26(木) 01:58:52 ID:AZeoRq1k


なのはが立ち止まったので、はやても足を止める。
「フェイトちゃん、混乱してるんだよ……?」

言えるワケ……ないよ




『早く帰らなきゃ』

部屋の窓から外を見つめていたフェイトが呟く。
視線の先は遥か遠く南に広がっているだろう山々。

『母さんがきっと心配してくれてる』

……そんなフェイトに自分の口から言えるのは、真実を削ぎ落とした事実。

なのはは血を吐くような思いだった。
数日間心の準備をして、やっとの思いでそれを伝えた。

『フェイトちゃん、言わなくちゃいけないことがあって……』

『……なんですか?』

『……フェイトちゃんのお母さん……』

『……え』

『もう……フェイトちゃんに会えないんだ……』




「悲しいこと、これ以上思い出させなきゃいけない理由ないでしょ……!?」
なのはは今にも泣きそうな顔ではやてを見た。
「そやね……」
自分だってフェイトに辛い過去を伝える役目は遠慮したいし、
フェイトが悲しまないで済むならそれが正解かもしれない。
なのはの言う通り知らない方がいいのかもしれないな、とはやては思い直した。
「それで、フェイトちゃんは何て?」
「最初は、そんなの嘘だよねって……アルフさんに何度も訊いてた。
それからその日はずっと黙って泣いてた……」
「……」
「今、充分悲しんでるの……もう充分だよ……」

はやてはそんなフェイトの姿が想像出来なかった。
今までフェイトが泣いているところを自分は見たことがない。
いつも六課の仕事で困っているとき支えてくれたあのフェイトが。





480 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/06/26(木) 02:01:19 ID:AZeoRq1k


「フェイトちゃん……今、一生懸命理解しようとしてる。
諦めようとしてる。必死で耐えようとしてる。まだ……子どもなんだよ?
心は本当に子どもになってしまったの……それなのに…!」

母親と最後の別れの言葉も交わせず、知らない世界に放り込まれ、
孤独の中で膝を抱えて泣いているのだろうか?
そんな姿のフェイトを思うとはやては胸を痛めるしかなかった。

「昨日の夜、フェイトちゃん布団の中で泣いてた。
私が起きないように、声を出さないように、静かに……」

そして目の前のなのはのことを思うとまた胸が痛かった。
なのはは暫く黙って俯いていた。
はやてが掛ける言葉を探していると、
なのははそれから急に何かを思い出したようだった。
見開かれた瞳は瞬きもしていない。

「はやてちゃん……」
「ん……?」

「私……バカだ……」

なのはは真っ青な顔をして震えていた。
「……なのはちゃん?」
声も同じように震えている。
肩に掛けていた荷物がスルスルと落ちていくのも気づかないでいる。

「私ね、フェイトちゃんがこの前帰って来たとき、
フェイトちゃんがお昼ご飯の約束忘れたからって、すごく怒ったの……」

はやては以前なのはから聞かされたその時の出来事、
フェイトが長期出張から戻った時の話をすぐに思い出した。
律儀なフェイトにしては珍しい失敗だなと思っていた。

「どうしよう……私フェイトちゃんに『もう知らない』なんて……私……」

今更後悔しているのだろう。
フェイトがこんなことになって今更。





481 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/06/26(木) 02:04:05 ID:AZeoRq1k


「フェイトちゃんは何度も謝ってた……
きっと忘れたのはフェイトちゃんのせいじゃなかったのに……!」
「なのはちゃん、そのことは――」
「あの時フェイトちゃんがヴィヴィオの部屋の扉を開けられずに
じっと立っている姿を見て、自業自得だよなんて思ってたんだよ!?」

今になってその時のフェイトのすまなそうな顔を思い出す。
なのはは自分が許せなくて耐えられなくて叫びたくなる。
胸が苦しくて気が変になりそうだった。

『ごめんね、なのは』

思い浮かぶのはヴィヴィオに渡せずにいた紙袋を
そっとダッシュボードに入れているフェイトの姿。
フェイトが二人の笑顔を思い浮かべながら選んだのだろうそれを。
どんな気持ちでそれを買ったか知ってたはずなのに、
いつも必ず約束を守ってくれていたのに、
どうしてあのとき、フェイトを責めることしかしなかったのか……

「……私こんなに近くで何見てたんだろう……?
やっと……やっと手に入れた人なのに……私……バカだ……」

「なのはちゃん……」
「ごめんなさい、こんなことになるなんて思わなかったの、ごめんなさい……」
なのはは声にならないような声で呟く。
謝る相手が違うということも解らないくらい参っているのだろう。

「フェイトちゃん、ごめんね……ごめん…」

はやてはぐっと奥歯を噛み締めた。

フェイトちゃんはここにおらんよ、なのはちゃん――
なのはちゃんがこんなんでどうすんねん――

「……なのはちゃん、もっとしっかりしい!」

はやてはなのはの両肩に勢い良く手を置いた。
思い切りだったので静かな夜道にバシンと音が響き、なのはの体は大きく跳ねた。
「えっ……」
いきなりのことになのはは一瞬何をしゃべっていたのかも忘れてしまった。

「ほら、荷物ちゃんと持って!もう帰らなあかんのやろ?」

はやては肘までずれ落ちたなのはのバッグを掛け直してやると、
なのはの背中を強く擦った。
「引き止めてごめんな」
それからもう一度なのはの肩を、今度は軽くポンと叩いた。





482 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/06/26(木) 02:06:17 ID:AZeoRq1k


「早よ戻ってやり、フェイトちゃんのところに」
「ん……」
「今は謝ってる場合ちゃうやろ」
「……そうだけど」
「他に何か出来ることあるやろ?」

医師は何も出来ないと言った。
そっとしておくのが一番だと。
それなのに自分に出来ることが……?

「今は困ってるその子を大事にしてあげたらええんちゃうかな」

大事だよ、もちろん。
だってフェイトちゃんなんだから……

「いっぱい甘やかして可愛がったり」

それは……
きっとそうするだろうけど……だけど……

「フェイトちゃんが元に戻ったら、いくらでも謝ったらええ」

……うん

もし元に戻ったら――ううん、きっと……戻るよね?

「うん、そうだね……」
「そや!」

そうだよね……
はやてちゃんの言うようになればいい。

そうだ、今は帰ってあげなくちゃ。
寂しくないように。

それで、いつものあの人に戻っときに言えばいい。
あの時はごめんね。
もうあんなことで責めたりしないから。
だから――

「ほれ、さっさと行かんかい!!」

「う、うん!!」

大事に、大事にしよう。
まだ独りぼっちのあの子を。

なのはは肩に掛かったバッグの紐をキュッと握り、帰路を急いだ。





483 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/06/26(木) 02:09:34 ID:AZeoRq1k



*  *  *



今日もまた、静かにベッドに腰掛けていた。
なのはが寝室の扉を開けるまで、なのはが帰って来たことにも気づいていなかった。

「フェイトちゃん」

「あ、なのは……おかえりなさい……」

フェイトは力なくそう言うと、ベッドから立ち上がった。
なのはより大きい体で、大人びた顔で、なのに子どもなのだ。
その証拠に瞳は出会ったときのまま。
その優しい瞳が好きだけれど、その中に再び悲しい色を見ることが辛い。

――どう考えればいのか、何をすべきなのか、解らないことばかり。
だけど傷ついている姿を見るのは嫌だから。

私が守るよ。
大切にする。

「ただいま」
それだけ言ってフェイトをそっと抱きしめた。

「なのは……大丈夫です、私……」
何も訊いていないのに、フェイトは怖ず怖ずと答え始めた。
「ん?」
「母さんがもういないんだと思うととても悲しいけど、もう泣いたりしてませんから」
頬に涙の筋を残して、そんなことを。
だからもうなのはからプレシアの話をすることは、きっと無い。

「……フェイトちゃん、チョコ好き?」
「え?」

真剣に話している最中、徐にそんなことを言われるとは
フェイトでなくとも思わないだろう。
何故急にそんなことを聞かれるのかと固まってしまったフェイト。





484 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/06/26(木) 02:12:19 ID:AZeoRq1k


「帰りに買ってきたの。嫌い?」

なのはは肩に掛けたままだったバッグを開けると
中から長方形の薄い箱を取り出して、それをフェイトに見せた。




『ヴィヴィオが私にケーキ?』

『うん!フェイトママの好きなやつにするの!!』

『ありがとう。嬉しい……じゃあ……チョコレートのがいいな』

『やっぱり、フェイトちゃんそう言うと思った』

『お仕事いってらっしゃい!楽しみにしててね!』




フェイトはなのはの顔とその箱を交互に見て、
それからなのはが待ちくたびれた頃、やっと小さな声で答えた。

「嫌いじゃ、ないです……」

――うん、知ってるよ。本当は好きだって

「じゃあご飯出来るまで時間かかるから、先にこれ一緒に食べよう?」
「え……は、はい」

よかった、となのはは箱の包みを剥がしていった。
以前自分が受け取らなかったのと同じロゴ入りの包み紙を。

「はい、どうぞ」
一粒フェイトに差し出すと、フェイトはそれを
遠慮勝ちに受け取って、ゆっくり口の中へ入れた。

「どう?ここのお店おいしいって有名なんだよ?」
「ん……はい……おいしいです」
「よかった!どうしてもフェイトちゃんと一緒に食べたかったんだ」
「え、ど、どうして……?」

――それはあなたが望んでくれたことだったから

「どうしても」
「……?」

フェイトは不思議そうになのはを見たが
それ以上尋ねることもなく、口の中のものが完全に溶けるのを待っていた。



485 名前: Hello, Again [sage] 投稿日: 2008/06/26(木) 02:15:46 ID:AZeoRq1k


「はい、もう一個」
今度はフェイトが手で受け取る前に、それをフェイトの口に持っていった。
フェイトは受け取ろうと伸ばした手を宙に浮かせたまま、とっさに口を開いた。
そして自分を見つめるなのはの様子を伺いながらモグモグと口を動かした。
あんまり見つめられるので、少しばかり恥ずかしくなった。

大人になってからも照れ屋だったけれど、そういえば昔はもっとそうだった。
可愛いな、と単純にそう思った。
それが昔のフェイトを思ってなのか、少し前まで一緒に居たあのフェイトを思ってなのか、
それともただ目の前のこのフェイトを思ってなのか、それは解らなかった。
兎も角、すっかり美しく成長した姿で一生懸命口を動かしている様子は、
妙になのはの心を捕らえるものだった。

「なのはは、食べないんですか?」
飲み込んでから、フェイトはなのはに言った。
「え?あぁそうだよね、食べるよ」
すっかりフェイトに気を取られて自分が食べることは忘れていた。
すぐに摘んで口に入れてみると、なるほどおいしかった。

――それはそうだよね、私の好みに合うと思って選んでくれたものと同じなんだから

うん、おいしいね、そう言ってなのははまたフェイトの口に一つ入れてやる。
再びフェイトが食べている様子を見ながら自分ももう1つ食べる。
箱が空になるまでそれは繰り返された。
それから暫し、チョコレートの甘い香りが消えるまで
夕飯の支度もしないでベッドに腰掛けてフェイトの頭を撫でていた。

何をしたいのか、何を言ってあげたらいいのか、色々自分でもよく解らなかったが
ただそうしたいと思ったから。

フェイトは何も言わず、チラチラとなのはの顔を不思議そうに見ていた。
なのはにとってそんなフェイトの仕草も心をくすぐるものだった。

フェイトと二人きりになることを選んだこと。
母親について真実を言わなかったこと。
ヴィヴィオを実家に預けたこと。

私がしていること、間違ったりしてないよね?
きっと……

「なのは……私、チョコレート好きです」

ほんの少しフェイトが笑ったような気がした。



Hello, Again 4
2009年08月30日(日) 16:48:41 Modified by coyote2000




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