Love Again 6
7 名前: Love Again 6 [sage] 投稿日: 2008/10/19(日) 10:09:14 ID:HGcKdd6W
* * *
数週間後の夜。
小雨の降る中、肩にかかった雨しずくを払ったなのはは、ミッド中心部にあるとあるバーのドアを開けた。
「ごめんはやてちゃん、最後の報告が長引いてて遅くなっちゃった。待った?」
奥のカウンターにいたはやてを見つけると声をかける。
「ん、そんなに待ってへんよ〜、まだ一杯目や」と半分ほどになっているグラスを指さす。
「何飲んでるの?」
「モッキンバードや。ま、わたしは本当は家で焼酎が一番くつろぐけどな」
二人はテーブルのある席に移る。
「家でシグナムと杯を酌み交わすのもなかなかええもんやで。なによりシグナムが喜んでなー。主とこうして酒を飲める日が来たのが嬉しいって」
「そっか。あ、私は赤ワインをグラスでお願いします」
テーブルに寄って来たウェイターになのはは告げると、
「ふふ、うちの場合ならお父さんが喜ぶかな?次に帰省出来るのはいつかなぁー」
とため息をついた。
「今日はフェイトちゃんとヴィヴィオは?」
「ヴィヴィオは魔法学院の合宿で、フェイトちゃんはハラオウンのお家にみんなが集まるっていうのでお呼ばれしてるよ」
フェイトはすでに何度か日本を訪れ、なのはとヴィヴィオと一緒に高町家にも行っていた。
はやては分かった、というように頷いた。
「なんや、そら誰もいない家に帰りたくないわなぁ。よし、今夜はとことん付き合うで―。あ、すみませーんワインリストをくださいー」
なのはは慌てて言う。
「は、はやてちゃん、わたしそんなつもりじゃなくて、ただ最近はやてちゃんとゆっくり喋ってなかったし、この間のバースデーカードの事で会ってお礼言いたかったし。ありがとう」
「ああ、あれか。フェイトちゃんもええ事考え付いたな。なのはちゃん嬉しかったやろ」
「うん、フェイトちゃんいつも一生懸命だけど、どんな気持ちでカード書いたか考えてたら……なんだかいじらしくなっちゃって……」
「そしたら、『お誕生日おめでとう、愛してる』って書いとけば良かったな?」
はやてはなのはに向かってニヤリとした。
「ちょ、ちょっとはやてちゃん、フェイトちゃんが日本語読めないからって勝手に本人の気持ち改変しないでよ〜」
「じょうだん、冗談や。冗談やけど、実際どうなん?フェイトちゃんと」
はやてはグラスを持ち上げ、一口飲むと、グラスを持ったまま硝子越しになのはをじっと見た。
「どうっていわれても……」
なのはは運ばれてきたチーズをフォークの先でつつく。
「普通に仲良くしてるよ。どんなに疲れて帰っても仕事で大変なことがあっても、家にフェイトちゃんとヴィヴィオが居てくれるって本当に心から安心するし、次の日もがんばって仕事に出かけられるよ」
「そうやなくて……フェイトちゃんの気持ち、わかっとるんやろ?」
なのはは自分のワイングラスに視線を落とした。
「うん……そうだね……時々なにか言いたげな眼してるし、ベッドで寝るときは手をつないでくれるけど、お風呂は一緒に入ってくれなくなっちゃったし……」
「でも、わたしと恋人同士になってフェイトちゃんがわたしにベッタリになってしまうより、今は沢山の人と関わって、色々な経験をして欲しいんだ。また執務官を目指してるんだから……」
はやては驚いて聞き返した。
「なのはちゃん、知ってたん!?」
「本人は隠してるみたいだけどね。ふふっ。なんでだろ。時々ティアナの所にこっそり行って勉強を教えてもらってるみたい。フェイトちゃん、いまマグナス事件の裁判の傍聴にも通ってるんだよ」
「ああ……きっとティアナから聞いたんやね……」
「そうだとおもう。社会勉強になるからって言ってた」
その後二人はお互いの近況、仕事の情報などを話題に軽い食事をし、別れた。
外へ出ると雨はいつのまにか上がっており、月が浮かんでいた。
帰宅したなのはは、ただいま、と返事の無い部屋に声をかけ明かりを付け、かばんをソファの横に置き、上着を脱いだ。
もう結構遅い時間になっちゃったなぁ、フェイトちゃんどうしてるだろ、ハラオウン家のみんなと仲良くやってるかな……と通信装置に目をやる。
シンとしたリビングに、壁時計の音だけがやけに耳につく。
なのはは通信装置を起動させてはみたものの、待機画面をしばらくぼけっと眺めた後、結局オフにして、シャワーを浴びに行った。
バスルームから戻り、ベッドに上がると、もう寝なければいけない時間だった。
ブランケットをかぶると、ひとりきりのベッドがやけに広く感じられる。いつもはなのはが真ん中で、時にふざけて枕を投げ合うヴィヴィオとフェイトをたしなめ、寝入るまでふたりと手をつないであげるのが常だった。
フェイトちゃん……傍らの温もりを探すかのようになのはは寝返りをうった。
はやてちゃんには今日あんなこと言ったけど、ホントは時々私フェイトちゃんのこと……抱きしめたくて……キスしたくて……限界な時があって……
酔いは完全に醒めていたはずなのに、なのははベッドの中で体の奥から熱が湧いてくるのを止めることが出来なかった。
こんな時には、いやでもあの夜の事が思い出されてしまう。
愛を伝え合った、あの夜を――
高く上がった月だけが、なのはを見ていた。
一方の海鳴市のハラオウン家。
フェイトはひとり、ハラオウン家の自分の部屋のベッドで暗い天井を見つめていた。
今日はハラオウン家の面々が全員集合するというめったにないイベントで、にぎやかな夜を過ごし、それはそれで楽しい一日だったが、
こうして一人になると、考えるのはこれからのこと、なのはとの事だった。
時々、フェイトは夜中に小さく叫んでベッドから飛び起きることがあった。
また記憶を失うかもしれないという不安から、悪夢を見てうなされていた。
隣で眠っているなのはが気がついて、フェイトの汗を拭い、手を握って落ち着かせ、再び眠るまで抱きしめていてくれるが、不安は完全にはなくならない。
もし、本当にまた九歳の記憶に戻ってしまったとしても、なのはは再びフェイトの名前を呼び、守り、慈しむだろう。
フェイトにはなぜかその確信があった。
そして自分も、きっとまたなのはを好きになる――
その笑顔を――
その蒼い瞳を――
今夜は隣で手を握ってくれるなのはは、いない。
おそらく、今後もこの不安は襲ってくるだろう。
しかし今はただ、前を見るしかなかった。
Love Again 7
2009年08月30日(日) 21:05:22 Modified by coyote2000