659 名前:闇と時と本の旅人 ◆UKXyqFnokA [sage] 投稿日:2012/05/22(火) 21:12:38 ID:lgNf78lI [2/10]
660 名前:闇と時と本の旅人 ◆UKXyqFnokA [sage] 投稿日:2012/05/22(火) 21:13:26 ID:lgNf78lI [3/10]
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666 名前:闇と時と本の旅人 ◆UKXyqFnokA [sage] 投稿日:2012/05/22(火) 21:20:19 ID:lgNf78lI [9/10]

■ 3





「凍結作戦!?本当に、これを行うつもりなんですか、グレアム提督!?」

 次元航行艦隊司令部に赴いたリンディは、現在、機動一課の後見人を務めている艦隊総司令ギル・グレアムに対峙していた。
 グレアムは管理局が保有するすべての艦隊を統括する立場にあり、彼の下に各次元世界ごとの現地司令官がいる。グレアム自身は本局内の司令部で勤務し、そして彼の使い魔、リーゼ姉妹は機動一課に出向していた。

 リンディが驚愕したのは、機動一課が過去10数年間の分析に基づいて提出した、闇の書対策の作戦案である。

 それは、現在の管理局の保有する技術力では闇の書を完全に殲滅することは不可能であり、そのため、通常の封印ではなく、アルカンシェルの空間歪曲効果を利用して時間減速操作を行う──すなわち闇の書を破壊はせず、外界に出られないように凍結するというものであった。
 無論これとて完璧ではなく、破られる可能性はある。しかしこれまでのような、闇の書を直接攻撃する方法ではたとえ物理的に魔導書を破壊できたとしてもすぐ転生してしまい、結局いたちごっこになってしまう、と結論付けられた。
 転生回数に制限があるのかどうかも不明であるし、現状得られている情報では無限に再生できる可能性が高い。
 そうなると、いくら攻撃しても無駄ということになってしまいかねない。

 そして今、闇の書は第97管理外世界に狙いを定めている。
 第97管理外世界の住人は、少なくとも一般市民は魔法の存在を知らない。
 過去の管理局での作戦の事例でも、魔法技術が存在しない世界での事件は対処が困難だった。しかも、今回の相手は管理局史上で最大最強のロストロギア、闇の書である。

 必要な準備なども含めて、その遂行は困難を極めるだろう。

 グレアムも、部下の手前自信を持っているように振舞ってはいるが、その内心では少なくない焦りがある。
 闇の書は半ば自動的にリンカーコアを蒐集し、そこには人間の魔導師が持っているような迷いのようなものはない。搭載されている守護騎士システムは、人間とは価値観を異にする無慈悲な戦闘マシーンだ。
 インテリジェントデバイスでも、使用者と対話を行うAIはあくまでもヒューマンインターフェースを備えた戦術補助コンピュータでありそれ自体に能動的な意志はない。
 人間でないものが意志を持つ、それはすなわち人間そのものの存在意義の危機である。

 リンディもそれは理解している。理解しているからこそ、グレアムが企てている作戦に驚愕しつつも完全に否定しきれないジレンマがある。
 闇の書を本気でねじ伏せようとするならばこうするしかない。
 人類にとって必要な試練、と決断するには、それはあまりにも重過ぎる責である。





 その日クロノはいつもよりやや遅く目覚め、あくびをしながらリビングに出てきた。
 エイミィは先に出てきて朝食の支度をしていたが、こちらも、どうやら昨夜はあまり寝つきがよくなかったようだ。

 昨日、本局施設内で起きた事故の後処理が長引いて、リンディは本局に泊まりこみになっていた。
 せっかく帰ってきたばかりなのに、と思うも、クロノとエイミィにとっては二人きりで過ごせる時間ではある。
 クロノは毎朝牛乳を欠かさない。食パンに合うように胡椒をきかせたスクランブルエッグが好物なのもエイミィは知っていて、手馴れた手際でフライパンを操り、皿に盛り付ける。

「スティックシュガー入れる?頭をシャッキリさせなきゃ」

「いや、遠慮しとく……朝から甘いものとりすぎると胃にもたれそうだ」

 わざとらしく砂糖を出すも、クロノは手で制して牛乳をコップでひといきに飲む。
 小さいころ、リンディの砂糖茶をうっかり飲んでしまったことがいまだに記憶に残っていて、クロノはそれ以降甘い飲み物が苦手だ。

「フェイトちゃんの初公判は、日程はもう?」

「まだ本決まりじゃないが、少なくとも6月に入ってからだ」

「そっか……いい結果になるといいね」

「ああ」

 少なくとも今回のPT事件に関して言えば、人的・物的被害はごく限定的なものだった。
 ユーノの尽力もあり、第97管理外世界への影響も最小限にとどめられた。問題は次元震だが、規模そのものは小さなものだった。しかしそれがロストロギアによって発生させられたものだということがカギにはなる。
 フェイトはジュエルシードの効果について知らなかったし、次元世界でも、それと知らずにロストロギアに触れたケースについてはよほど重大なものでない限りは過失に問われる事は少ない。

 ともかくとして、全く楽観というわけではないがひとまず、貴重な休暇を満喫したいというのはクロノもエイミィも共通だった。
 こうして二人でゆっくりできるのも大切な時間だ。考えてみれば、クロノが執務官として現場に出ている間以外のほとんどの時間、アースラに乗り組んでいる間も、自宅に戻っている間もほとんどの時間を一緒に過ごしている。
 いつもそばにいるのが当たり前のように自然になっている。
 それゆえに、改めて意識してしまうとやや気恥ずかしさが出る、といったものだ。

「ねえクロノくん」

「なんだ?」

「今日さ、久しぶりに二人で出かけない?」

 感情が敏感になっているのだろうか、とクロノは思った。エイミィとはだいぶ付き合いが長く、男女の関係を意識したことはこれまでほとんどなかったが、こうしてエイミィが面と向かって外出を持ちかけるというのも珍しいことだ。
 子供の頃なら、外へ遊びに出かける感覚で極普通に連れ立っていたが、今はただ日用品の買い物に出かける程度でも気を使ってしまう。

 これが思春期に入ったという事なのか、それとも、もっと別の原因か。

 もしエイミィと二人で歩いているところをアインスに見られたらどうなるだろうか。そんな心配をするのは杞憂だとわかっていても、クロノは昨夜帰宅してから寝付くまで、おそらく一秒たりとも彼女の事を意識から拭い去れていなかった。
 これまで、女性からあのように積極的に接近された事は初めてだった。
 ハグというだけならば、リンディやレティ、リーゼ姉妹ともしたことがあるが、それはあくまでも挨拶としてだったり、母親として息子を愛する、あるいは遊び盛りの娘が幼子にじゃれつくようなものだった。
 アインスのそれは、完全に対等な、男と女としての抱擁だった。
 もし、そのような行為を望むのなら、彼女は応じてくれるだろうか。同時に、食卓をはさんで向かいの椅子についているエイミィの顔が目に入り、彼女とそのような行為をしたら、と思い浮かべてしまう。

 思わず俯いてしまう。エイミィの顔を見て、彼女の裸身を想像するなど、大変失礼な思考である。自分がそのようないやらしい性格だなどと思われたくないし、男としてはしたないことだとクロノは考えていた。
 もっともエイミィはエイミィで、アースラの先輩女子乗組員から、あの彼(クロノ)とはどこまでいってるの、などといじられたこともあるし、クロノともしそんな関係に進展したら、と考えた事はある。

 エイミィの身分としてはハラオウン家の下宿人だが、クロノもリンディも、エイミィを全く家族の一員として扱っていた。
 休暇で三人揃ったときにはよく街へ出かけたし、エイミィも積極的に家事を手伝い、クロノも一緒になってリンディから炊事や洗濯、掃除のうまいやり方などを教わった。
 管理局提督としての仕事もある中で、よく心を傾けてくれたものだと思う。
 それだけに、エイミィは、こうしてクロノと一緒に過ごすことが当たり前のようになり、しかしそれのありがたみを忘れてしまわないように胸に留めていた。
 感情は、常に新鮮さを保つようにしなければあっというまにかすれてしまう。クロノへの想いは、常に確かなものだと、確かめ合う必要がある。

「久しぶりに外の空気吸いにいこう。クロノくんもさ、休めるうちに休んでおかなきゃ」

「そうだな……」

「ねっ!私もさ、お皿片付けたらすぐ着替えてくるから」

 元気よく自室への階段を上がっていくエイミィの後姿を見送りながら、クロノはとうとう着替えという言葉に反応してしまっていた。
 ダイニングにしばし一人きりになり、とりあえず、盛り上がった股間のテントを見られる心配はない。

「こんなんじゃなかったはずなのにな……」

 自分がこれほど、ありていにいえばスケベだったのか。健全な男子なら、とはいうものの、今まで管理局員の職務一筋に打ち込んできたクロノにとっては、自己嫌悪に陥るには十分すぎた。
 思えば、士官学校での同期生たちでも執務官になったのはクロノだけで、他の若い執務官も勤務地が離れていたりしてクロノと個人的な付き合いのある者はいない。
 実質、このもやもやした性欲を誰にも相談できないという状態だ。

 昨日見た、ブラウスをはだけてブラジャーの肩紐を抓んでいたアインスの裸の背中が、目に焼きついている。
 女性的なしなやかさを備えながら、逞しい筋肉を編み上げられた背と肩と腕が、艶かしい。脇の間から、横乳が見えていた気がする。それが想像を絶する大きさのカップのブラジャーに収まり、背中に回されたアインスの手指が、当然のようにホックを掛ける。

 部屋着のトレーナーを脱ぎ、よそ行きの服に着替えるため下着姿になったエイミィを思い浮かべる。鏡の前で、どの服を選ぶか胸に当てている姿。ブラジャーは、スポーツタイプか、それとも子供用か、あるいはもう立派な婦人用か。
 エイミィは同年代の女子に比べるとわりあいぽっちゃりとして肉付きはいい。去年あたりはまだ寸胴なのを気にしていたそぶりがあったが、今は腰と胸が発達し、ぐっと女らしい体つきになってきているのがわかる。
 今、エイミィの部屋に行けば、彼女のあられもない姿が見られる。
 ずっと一つ屋根の下で暮らしてきて、クロノはそういう行動を起こした事は一度も無かった。エイミィも、まさかクロノがそんな事をするわけないと思っているだろう。もし、彼女の部屋を覗いて、それがばれたら、エイミィはどう思うだろうか。
 今まで寄せてきた信頼が一気に崩れてしまうだろう。幻滅して、一転して最低男の烙印を押されるだろう。
 そんなことは絶対に嫌だ。自分がそんな人間になってしまうなんて耐えられない。だから、この欲望は我慢して抑えなければならない。

 ダイニングの椅子から重い腰をあげ、クロノは食器を流しにつけると自分の部屋へ上がった。とりあえず自分も、寝巻きから私服に着替えなくてはならない。
 今度は、まさか自室で処理をするわけにもいかないだろう。エイミィでも身支度を整えるのにそんな何十分もはかからないだろうし、これからオナニーを始めたら余計に時間を食ってしまう。それに、静かな家の中でやっていたら音で気づかれる。
 次々と、フラッシュバックのようにエイミィの肉体が想像に思い浮かぶ。それは普段の日常の中でごく自然に目にしたものだが、その中から、唇や目元、頬やうなじ、胸元、腕、尻などが、断片的に脳裏に浮かぶ。

 半ばやけくそな勢いで、クロノは自分のベッドにうつ伏せで倒れこんだ。実際のところ、休日だからといって何もしないというのも落ち着きがない。エイミィの言う通り、気分転換に散策をするのが精神の健康にはいいだろう。
 だがそれとはまた別に、この下半身の疼きをどうしたものかとなる。健康な男子の証とはいうが、正直、やはり困ってしまう。
 うつ伏せでベッドに横になると、股間で元気一杯になっている自分自身が敷布団に押し付けられ圧迫され、わずかな摩擦を神経が拾う。
 このままベッドに腰をこすりつければそれもオナニーのやり方のひとつだ。
 どうする、このままやってしまうか。しかしこの体勢ではすぐにいけるか自信がない。10歳過ぎの頃、まだリンディと一緒の部屋で寝ていた頃、母が寝静まるのを待って、隣で寝息を立てる母の胸を見ながら、ベッドに腰を擦っていた。

 さすがに子供心に罪悪感はあった。今はもう、正直、子供の頃のようにリンディとのスキンシップをするのが気後れしてしまう。もちろんリンディも、クロノももう大きくなって年頃だし、男の子にはそういう時期がある、とは理解している。
 クロノ当人はまだ、自分自身の認識が不確かな状態だ。他の次元世界に比べて早熟なミッドチルダ社会にあっては、クロノの年齢でどうこうというのは、いわば成人手前の通過儀礼、のような認識である。
 士官学校での先輩、ちょうど現在16歳くらいで局員をやっている少年たちはもうそのような時期を過ぎ、後輩たちを生暖かく見守っている。
 今さらのように先輩たちの視線の意味を理解し、クロノは一抹の悔しさを味わいつつ、それでも腰を少しずつ動かしていた。

 精通はいつだったか。リーゼロッテに、士官学校に入る前に済ませられてよかったねと言われたのを覚えている。
 それ以降も、さほど興味をひかれない時期が続いたが、久しぶりに帰省してリンディに再会したとき、母の肉体に女を意識してしまった。
 クロノ自身は、まだリンディは自分を幼い息子として見ていると思っており、そんな母親に劣情を抱いてはいけないと強く欲を押し殺した。
 それでも、ひそかに、母に抱きしめられる事を夢見た。管理局の高級士官の厚い制服ではなく、薄手の、光に透けるようなネグリジェで床についている母の肉体を、まじまじと見つめ、乳房のふくらみに心臓を高鳴らせた。

 それも一時の気の迷いだと思っていた。士官学校を卒業し、執務官候補生になりそれまでにもまして猛勉強に打ち込み、そのような雑念は振り払ったと思っていた。晴れてアースラに配属されたときも、もうそのような、母への甘えは振り切ったと思っていた。
 確かに今は、リンディに対してはもう大丈夫かもしれない。ただ、今度は同年代の女性、すなわちエイミィに、興味が移った。
 エイミィに、14歳の若い女に、性的な興味を抱いている。14歳の女の肉体。ある意味、赤ん坊の頃に風呂に入れてもらったりして、リンディに対しては、大人の女性なのだし成熟した人間の身体として、これが人間なんだと思っていた。
 しかし、少女はまだ知らない。子供から大人へ成長していく、少女の肉体をクロノは知らない。エイミィの裸、果たして何から想像するのか。こっそり女子浴場を覗きに行って罰のランニングをさせられた同期生もいた。彼らは、少女の肉体を見ただろう。
 あるいは彼女持ちなら、そのような男女の関係になっていれば相手の身体を見ている。
 クロノとエイミィはそうではない。あくまでも幼馴染、まだ友達のレベルだ。あるいは、家族。しかし、姉弟というか、きょうだいならば互いの裸は意識しないかもしれない。しかし配偶者であったら?妻と夫なら、当然、褥を共にする事はある。

 エイミィと寝る。まだ朝食をすませたばかりで、まさか真昼間からホテルへ、などというのも考えにくい。
 あるいは今夜。いくらなんでも気が早すぎる。想いを打ち明けて、気持ちを整理して、それから。しかし、勢いに任せてやってしまうか?

 いったん腰を持ち上げ、パンツの中のモノの向きを直してから改めて腰をベッドに押し付ける。圧迫感はもう確実に性的感覚に変わっている。
 何から想像する。グラビア雑誌?書店でも、そんなものを手に取った事はない。しかし、窓の外から背表紙くらいは見える。
 性力あふれる青少年向け雑誌の表紙を飾るのも10代の者が多い。エイミィももう2、3年すれば彼女たちのように見事な肢体に成長するだろうか。
 幼さを引きずったアンバランスな性の匂い。割れ目、エイミィの裸、エイミィの股間。突如ひらめきのように、瞼の裏に、少女の肉体が浮かび上がる。顔はわからない、全身を見てはいない。ただ断片的に、それらしい少女の身体を思い浮かべた。
 陰毛はもう生えただろうか。産毛が萌えひろがる、健康的な肉付きの下腹から股間へのなだらかなライン。よくふくれた股の盛り上がり、肉の割れ目。股間にひとすじ、それは少女の幼い性器。エイミィの性器。成長途中の、少女の秘所。

「ああ……っ、エイミィ……」

 思わず口に出し、ほぼ同時にドアをノックする音がして、クロノは心臓が飛び出すかと思うほど驚き、ベッドから跳ね起きた。
 間違いなく聞かれた。少なくとも、取り乱したのが外にも察せられただろう。

「クロノくん?」

「あ、ああすまない、もう少し待ってくれ」

 エイミィの方はもう仕度ができた。クロノもこうなってはもう抜くことはできない。
 仕方なく、急いで普段着のシャツに袖を通し、タオルで顔を拭いて髪を整える。
 すでに様子がおかしいというのは昨日から指摘されていることなので今更どうしようもないが、威勢のあるエイミィに引っ張られて、クロノは軽い興奮状態を持続させながら自宅を出た。
 今日も空は曇りで、薄いもやのような層雲が、クラナガン都心部の高層ビル頂上部を隠している。
 腕を組み、まるでカップルのようだとクロノは思った。エイミィはそのつもりだろう。
 笑顔がまぶしくて、クロノはまたしても意識が浮かびそうになった。小うるさい跳ねっ返りだと思っていた幼馴染が、いつの間にか落ち着いた大人の女性に変わりつつある。
 それは抗いがたい魅力だ。情欲に溺れるならこちらのほうがまだ健全か、などと思案しながら、クロノは組んだ腕の肘に当たるエイミィのほのかなふくらみをしばし味わった。





 ぽつり、と雨粒が頬にあたり、それが積乱雲から落ちてくるのに特有のひときわ大きな温い雨粒であることに気づく。
 雨粒は次々と数を増し、勢いを増して落ちてくる。すぐに雨脚は強まる。

「これは……エイミィ、一雨来るぞ」

「大変、どっか、屋根のあるところない?」

 公園内は開けていて、水路の水面に次々と大きな波紋が浮かび、強い雨が近づいてきているのがわかる。
 傘を持ってこなかったので、雨を凌ぐには建物の中に入らないといけない。

「あそこ、あそこならひとまず大丈夫だよ」

 一時間もすれば上がるだろうが、それまで外にいたらずぶぬれになってしまう。クロノの手を引いてエイミィは走った。

 雨宿りに駆け込んだ公園の庵の中で、クロノはため息をついて木椅子に座り、何かを探すように雲空を眺める。
 濡れた袖を拭ってから、エイミィはクロノの隣に座る。クロノもそのしぐさは自然なつもりにしているが、やはり、昨日までのクロノとは、自分に対する接し方や感情にわずかな変化が出ているのはエイミィには感じ取れた。

「どしたのきょろきょろして?……もしかして、誰か探してる?たとえば、アインスさんとか」

「ち、違うよ」

 昨日、アインスと会ったのもこのような雨雲の下だった。
 この時期のクラナガンは雨が多く、常に霧雨に囲まれたようなみずみずしい空気に包まれる。日本の梅雨と違い気温が低いので、じめじめした不快感は少ない。ある種幻想的な初夏の風物詩とされている。

「だ〜め、探してもいないのっ」

 木椅子の上に手をついてクロノに向かい合い、エイミィはいじらしく頬を膨らませた。
 平日の昼間、しかもにわか雨のため、人通りはほとんどない。雨雲であたりは一時的に薄暗くなっており、屋外なのに二人きりのように感じる。

「わ、わかったよ……だから離れて」

「……やだよ」

「──……エイミィ?」

 辺りを見回そうとするクロノの視界を塞ぐように、エイミィはクロノの膝の上にまたがり、額をくっつけていく。
 風邪気味のときに熱を見るように、手を当て、クロノの肌に触れる。
 一瞬遅れて、クロノも自分とエイミィの体勢がどうなっているかを理解し頬が赤くなる。

「濡れたままじゃ、風邪ひくよ」

 エイミィの、か細い声。いじらしささえ感じる甘い声。それは普段の彼女からは想像もできないくらい、クロノの感情をくすぐった。
 少女。少女の身体がすぐそばにあり、その気になればすぐにでも抱ける位置にある。

 クロノの両肩に手を置き、エイミィは腰をゆすって、クロノの膝の上で体勢を直した。
 デニム地のショートパンツながら、着古してやわらかくなった生地越しに、エイミィの股間の肉の感触がクロノの足に伝わる。
 反射的にクロノは足を閉じるように動かしてしまい、自分の太ももで、エイミィの股間を、尻たぶから内側へ撫でこむような格好になった。敏感な部分へ刺激を受ける感覚に、エイミィもかすかに眉を寄せ、目を潤ませる。
 睫が濡れているのは、雨に降られたからではない。クロノに対する、ずっと秘め続けていた感情が滲み出しつつあった。

「ねえ、クロノくん……」

 今までに聞いたこともない、扇情的なエイミィの声。
 アースラのチーフオペレーターとして、常に現場のクロノをサポートし続けてくれていた、心強い同僚であり、また幼馴染であった。
 しかしそれも、あくまでも人間関係のひとつの状態であり、それは常に変化し続ける。エイミィは、クロノを求めている。

 濡れた身体を乾かそう、という理由だけではなしに、二人の体温はどんどん上がっていく。

「エイミィ……」

「……キス──しよ」

 ごくり、とのどが鳴る。
 あどけない、少女の唇。エイミィの唇がこれほど情欲をかきたてられるとは思わなかった。もう、わずか数センチの間隔。息遣いが互いの頬に触れる。肉感たっぷりの、厚めの唇。化粧なんて何もしなくても、少女らしい潤いに満ちている。

 体重が移動し、エイミィの太ももが、クロノの腰を押さえた。

 いったん離れ、見つめあう。唇からこぼれる唾液が、二人の口元をさらに潤す。
 クロノとキスした。一線を、越えた。ここから先に何本の線があるのか、ともかく、一歩を踏み出した。クロノに、もっと自分を見て欲しい。
 アースラの中でもいつも世話を焼いて、同い年なのに可愛い弟のように思っていたクロノ。愛らしささえ覚えていた彼が、今は、男を意識させてくる。

 再び、唇が出会う。まだ二度目なのに、懐かしむように、惜しむように。
 リンディに知れたらどうなるだろう。まだ早い、と窘められるか、それとも息子の縁談を喜ぶか。
 そしてクロノのほうも、意識が高揚し身体を起こしていた。唇を広げてエイミィの唇を丸ごと吸い込むようにくわえ、舌を伸ばす。さらに木椅子についていた右手をエイミィの胸に伸ばし、ポロシャツの上から、彼女のふくらみを握った。

 ほぼいきなりだった。まさかクロノから触ってくるとは思わなかったエイミィは思わず両手を突っ張り、クロノを突き放してしまう。クロノも、自分がやってしまったことに瞬間遅れて焦りを自覚した。
 雨天の暗がりの中でも、エイミィの顔が、頬も、耳の先まで、真っ赤になっているのがわかる。

「クロノっ、く、クロノくん、なにするの」

 嫌ではない。ただ、驚いた。しかし、言葉に出してしまえば、それはクロノには拒絶と受け取られる。

「す、すまないつい……」

 クロノも狼狽えていた。してはいけないことをしてしまった。女性に不埒な行為を働いたという自覚が浮かび上がってくる。
 同時にエイミィも、ここで止めては引っ込みがつかないと焦る。瞬間的に周囲に注意を配り、公園にほかの人間が来ていないのを、少なくともこの庵が見える範囲に誰もいないのを確かめる。

「だっ、だいじょうぶ!」

 上ずった声で、エイミィはクロノの両肩を押さえた。この体勢を崩して、クロノを離してしまったらもう、この年頃の男の子では気後れして女の子に近づけなくなる。
 それ以上に、自分にこのように接してくれるのがクロノだけだということをなんとなくでも、本能的にわかっていた。

 驚くクロノを、押し殺したささやき声で強く誘う。ここは自分が引っ張ってやらないといけない。

「え、エイミィ!?」

「いいからっ!なんだったら前開けても、いいよっ、クロノくんにだったら、させてあげるっ」

 触らせて、と言おうとして口が滑った。これでは、キスとその次を通り越して一気に最後までいってしまう意味になる。
 クロノの顔もみるみる紅潮して真っ赤に染まり、まるで数年子供に返ったような純な瞳になる。
 なんて可愛いんだ。エイミィは、女である自分にもまぎれもない性欲があるんだ、ということを実感していた。そんなだから、清楚さを出せず、同期生たちに比べて乳臭い印象になっていたのか、と。
 でもそれももうコンプレックスではない。逆にそのほうが、女としての魅力が増し、熟しつつあるということなんだ。

 背を伸ばし、クロノの顔を抱きしめる。胸に、乳房にクロノの顔が当たる。クロノも、つい昨日までは夢にも思わなかった、エイミィの少女の乳房を眼前に、そしてじかに触れている。
 少女。エイミィの、乳房。二次性徴が現れるに従い大きく発達する乳首が、むっとするような乳と脂の匂いを放ってクロノの鼻腔をくすぐる。
 同年代の少年で、いったいどれだけが、この匂いをかげるのだろう。大人になってからではもう二度と戻らない、子供と大人の中間にいる少女の匂い。

「エイミィっ……エイミィ」

 小さなふくらみに頬を置くように、エイミィの胸に顔を埋めるクロノ。抱きしめ、腰を近づけ、そしてクロノも、股間にむずむずした感覚をたくわえつつあった。このまま上に乗られたままでは、苦しい。
 エイミィは両足を椅子の上に載せ、クロノの膝の上に座る体勢になる。この状態で、クロノはエイミィを膝の上に抱ける。

「うん、いいよ……もっと私の名前、呼んで」

「エイミィ」

「すごい、でしょ、私のむねっ、こんなの、させてくれるのわたししかっいないよね!?」

 ポロシャツのボタンの隙間から、エイミィの着けているブラジャーが見える。クリーム色のレース地が見える。服飾店で買うときもきちんとフィッティングをして、カップの形を合わせるようにとリンディから指導された。
 光のわずかな陰影が、エイミィの胸のふくらみをしっかりと際立たせてクロノの目に届ける。幼馴染の、少女の乳房。少女の、乳房。
 今朝からのむらむらが溜まっていたクロノの股間はあっという間に張り詰め、パンツが湿ってくるのがわかる。
 エイミィの体重もかかって、先端が、切ないくらいに濡れている。尿道口から出た透明な先走りが、パンツの布に塗り広げられ、生地の繊維がクロノの亀頭をこする。
 堪えきれないほどの刺激がクロノの意識に電撃を走らせ、さらに雨で程よく蒸れたエイミィの、思春期の少女に特有の甘い体臭がクロノを包み込む。

 堪えきれない。我慢できない。もうどうにでもなれ。
 そんな意識で、クロノはとうとう腰を動かした。椅子に座ったまま、エイミィを膝の上に乗せたまま、突き出すように腰をゆする。
 ぱんぱんに盛り上がったズボンの前が、エイミィのショートパンツの股下をぐいぐいと押す。その意味するところは、もちろんエイミィもわかる。誰にも許したことの無い肉の扉を、クロノがこじ開けようとしている。そういう欲望が男にはある。

「あっ、クロノ……くん……あぁっ」

「ごめん、エイミィ、っ、く、くぅっ、でもぼくはっ」

 さらに抱きしめて、離さない。誰も見に来る者はいないはず、誰にも見られていないはず。クロノの吐息が胸に当たり、クロノの舌が乳房を目指して服の合わせ目を泳いでいる。
 エイミィはポロシャツの前のボタンをひとつだけ外し、引っ張って、クロノが胸を間近に見られるようにする。

「さあ」

 もう言葉は要らない。クロノは何も言わず反射的なように、エイミィの胸に吸い付いた。同時に、クロノの股間の盛り上がりが、エイミィの肉丘をいっきにこすりあげるように動いた。

「くあっ……、え、エイミィ、エイミィ!あ、あ、あ……」

 ぎゅっと腰を押し付け、胸に唇を吸いつけたまま、クロノは身体を強張らせて震えた。
 達したんだ、というのがわかる。きっとクロノのズボンは、また自分のパンツも、股間のところに粘った染みができていることだろう。
 雨が止むのだけではなく、これが乾くのも待たなくてはならない。

 それをまるで見計らっていたかのように、本局のリンディから、とりあえず昨日の事故の後処理がひと段落したので家に帰る、と携帯メールが届いた。
 もう、二人きりの時間はおしまいだ。雨が止んだら家に戻って、リンディを迎えなくてはいけない。

 涙がこぼれたのだろうか、クロノはじっと顔を伏せている。あるいは射精したことで、意識が醒めてしまい自分のやったことを後悔しているのか。
 たまらなく、愛しい。この人は自分がいなければだめなんだ、という意識をそそる。
 クロノを、このまま陥としてしまいたいという欲望が生まれる。14歳の少年、男らしさと可愛らしさが同居するわずかな時間。もし年齢が少しでも違ったらこんな感情を味わえなかっただろう。
 もし自分がもうわずかでも幼かったら、この魅力に気づけなかっただろう。
 射精の疲れに脱力するクロノを慰めるように、エイミィはしばし、彼をやさしく抱きしめ、慈しむように撫で続けていた。
 雨足は弱まり、公園の水面は落ち着きを取り戻しつつある。





 数日後、フェイトの裁判に用意する資料をまとめるため、管理局本局の資料室に来たクロノは無限書庫への捜索依頼の手続きをしていた。
 過去の判例を探し、有利な判決を引き出すための提出証拠を用意しなくてはならない。アースラに保管されている次元波動の記録と、過去のロストロギアの観測データを照らし合わせ、ジュエルシードによる次元震が不可抗力であったと証明する。
 フェイト自身、ジュエルシードやロストロギアについて詳しい知識がなく、ただ集めると母が喜ぶ、という認識だった。
 これまでの事例からしても、PT事件の規模では周辺次元への影響は軽微でありこれだけで有罪にはあたらないと思われる。

 無限書庫は、管理局本局施設内にある大規模図書館の通称である。
 現在の管理局では、無限書庫の資料探索担当部署は形式上はグレアム提督の直轄とされており担当官は一人しかいない、事実上の閑職である。
 まず蔵書の整理からはじめなくてはならないので、何も出てこなかったら、というより期日までに見つけられなければ存在しなかったのと同じ扱いになる、というのが慣習だ。

 それでも最近格納されたもの程度なら、数日あれば出てくることが多いので、クロノもこれまでに何度か利用していた。

 総合窓口の職員が書庫内へ連絡を取り、しばらくして、入館証をクロノに手渡した。
 フェイトとアルフはいまだ、本局内の拘置施設で軟禁された状態である。面会は開廷までの間に何度か行えるが、早く安心させてやりたいというのが正直な思いだ。

 書庫中心部の周囲に、間に合わせのように設置された小さなオフィスが、現在の無限書庫司書の執務室である。
 とはいっても、今の司書はグレアム提督の旧い知り合いという以外はあまりはっきりしない風変わりな局員です、と受付の職員はクロノに言い置いた。実質、日がな一日蔵書をいじくりまわして、好き勝手に調べ物ができるし外出もほぼ無制限だ。
 そんなのんびりとした場所ではあるが、それは外部から見た印象でしかない。

「ハラオウン執務官──必ず来ていただけると、思っていました」

 机にうず高く革本を積み上げて、彼女──クロノにとっては今もっとも心惹かれる女性──は眼鏡を置いた。

「アインスさん」

「提督から聞きました。PT事件のあらましも──」

「僕も意外でした。貴女が、まさかこんなところにいるなんて」

 アインスには二つの顔があるのだとクロノは思っていた。
 敬愛する艦長を喪い、内勤にこもりながら彼を弔い続ける深窓の佳人。
 非合法すれすれの密偵活動を行う、管理局遺失物管理部のエージェント。
 表情も違えば言葉遣いも違う。ふわりとした、雲のような柔和な女性、そして、男勝りな怜悧かつ冷徹な女捜査官。

 どちらが彼女の本性だろうか、としばし思案する。
 書物を扱うための眼精疲労緩和の眼鏡をかけるアインスの顔は、知的で優しく、昨日地上本部前の大通りでスナイパーライフルの魔力弾からクロノを守ったときの彼女とはまるで別人のように見える。
 クライドの墓に手を合わせ、思い出を守っていた彼女。クロノに闇の書の存在を語り、女としてクロノに接してきた彼女。

「ここにはなんでもあります。さかのぼれば、過去数百年間もの文献があります。その中にはもちろん、今管理局が追っているロストロギアに関する記述も──闇の書だけではない、ジュエルシードに関するものもあります」

「フェイトさんをなんとか助けたいと思っています。彼女の辛い運命を僕は放っておくことはできません」

「好き、なんですね」

「えっ?」

 外した眼鏡を机に置いて、オフィスチェアの座面を回してアインスはクロノに向き直った。
 管理局員の制服に包まれた胸が、堅いスーツによってなおさらに強調されている。局員制服は支給されるときにあらかじめ採寸されているが、あとから主計課で仕立て直しを依頼することもできる。
 サイズにすればどれだけの数値になるのだろう、アインスの豊満なバストと肢体を包み込む制服は、そのような趣味がないと思っていたクロノをさえ激しく煽情する。

「何も知らない少女を救う、それは彼女にとっては自らの存在意義をさえ決定付ける──きっと惚れるぞ、そのフェイトという娘はお前に──」

 人格の切り替えはどうしているのだろう。気分の問題だろうか。クロノをからかうように、アインスはいたずらっぽく笑う。

「い、いえ僕は決してそのようなつもりは」

「いいんだ、彼女の感情は彼女の自由だ。それに──それを言うなら私も同じだ」

「──どういう──ことですか?」

 オフィスチェアから立ち上がり、アインスはクロノに歩み寄ってくる。
 一足を踏み出すごとに、ぱんと張った太ももの肉が、制服のタイトスカートを艶かしく盛り上げる。胸だけではない、腰つき、尻回りも途轍もない大きさだ。スーツを着ていてさえ、いやスーツだからこそ強調されるのか。
 しなやかなメスの肉食獣のようなアインスを前にしてしまうと、クロノはもはや射竦められた獲物になってしまう。

「クロノ──私はお前に会えて嬉しかった。この運命を絶対に手放したくない。これは、私の欲望だ」

 近づく。アインスの、スーツの下のブラウスは第二ボタンまで外していて、胸の谷間が見えている。
 この部屋には、いや無限書庫の中には自分とアインスの他には誰もいない。
 まんまと彼女の根城に入り込んでしまったのだ。逃げられない、と、かすかな期待をこめてクロノは悟った。





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目次:闇と時と本の旅人
著者:SandyBridge ◆UKXyqFnokA

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