「追憶」

初出スレ:二章20〜

属性:陵辱・未完


「屋敷はここの角を曲がれば見えてくるはずなんだが…」
地図を開きながら、青年は目的の屋敷を探す。
「…あれか」
ようやくそれらしき門構えを見つけた。地図をおり畳む。
門を潜ると広い庭園が見渡せた。
丁寧に整えられた庭木が青空に美しく映えている。
鳥のさえずりさえも庭園の見事にとけ込んでいた。
『…きゃあ、…あはは…』
どこからか少女らしき笑い声が聞こえてきた。
手鞠がころころと、こちらに転がってくる。拾いあげて近寄ってきた少女に手渡す。
「…ありがとうございます」
少女は青年を見上げて、嬉しそうな顔で礼を返してきた。
その瞬間、青年は息を呑み彼女を見つめた。
「…え?」
彼の変化に少女はきょと、と彼を見上げている。
その顔は彼の知っている人物の顔にどことなく似ていたのだ。
だが、彼女の優雅な動作、どことなく品のある物腰から彼女がこの屋敷の令嬢であることを判断した。
「…麗葉様ですね?私は如月と申します」
令嬢らしき少女に一礼し、彼は挨拶をする。
「今日からこのお屋敷で働かせて頂くことになりました。どうぞよろしくお願いします」
「…そういえば…!ええ…お父様から聞いていました」
思い出したように口元に手をあてると、彼女はこくりと軽く頷く。
彼女によく似合う上品な髪留めが陽光をうけて光り、艶やかな黒髪がさらりと揺れた。
「麗葉お嬢様?」
その時、若い男の声がした。
「北都!」
目の前の少女の瞳が輝き、顔には柔らかい笑みが浮かぶのを見た。
声や姿から判別するに年頃はおそらくそう彼女と変わらないだろう。
「…麗葉お嬢様、この方は?」
「如月よ、今日から使用人としてここで働くのですって」
麗葉は今し方、あったばかりの自分をその男に紹介しはじめた。
「如月、紹介します。彼は北都。私の幼なじみで、他の使用人から比べるとまだ若いけど
長らくこの屋敷に働いてもらっているんです。わからないことがあったら彼に何でも聞くと良いでしょう」
そう言うと麗葉は彼の知っている誰かと似た顔で二人に眩い笑みを向けた。

§

あれから数週間がたった。
如月は午前の仕事があらかた片づきしばしの休憩を取っていた。
今日届いたばかりの手紙に目を通す。
『兄さん、お元気ですか』
そんなおきまりの台詞からはじまり、兄への心配や最近のできごとなどが綴られていた。
「どう?もう、こちらの生活には馴れましたか?」
鈴の音を鳴らしたような可憐な声が気さくに話しかけてきた。
如月は唇の端を少し持ち上げて、彼女に軽く礼を返す。
「おかげさまで」
「そう、良かった」
にっこりと笑った麗葉を見て『妹』を思いだしていた。
妹を残して家を出た、その前夜の記憶――

「兄さん…寝てる?」
そっと背中に掛けられた、か細い声。
「どうした…?」
「一緒に…寝てもいい?」
躊躇いがちな少女の声に、仕方ないなと布団を持ち上げてやる。
潜りこんできた少女の背を優しくなでる。
彼の胸元をきゅっと握り込む白い手。
「明日、本当に行っちゃうの…?」
「…ああ。少し遠いけど昔、母さんが働いてたお屋敷だ」
俯いた少女の頭に息がかかり数本の髪の毛が揺れる。
ふわふわと首に触れてきて擽ったかった。
「……行かないで…っていっても?」
少女が短い沈黙を破る。その声は不安そうに揺れていた。
ため息が彼の口から漏れる。
「大きくなってもまだ甘えん坊なんだな、千鶴は…」
「だって…」
少し潤んだ声が千鶴と呼ばれた少女の口から漏れる。
何を言うべきかわからず再び沈黙が訪れる。
温かな温もりが身を捩る。
「……お母さんも、逝ってしまうに教えてくれれば良かったのに…」
千鶴の言葉に彼は息を呑む。
「千鶴…」
何かを制そうとするように少女の肩を掴んで覗き込む。
彼女はごく真剣な顔をして彼を見つめた。
「大事なことよ…、兄さん。私…兄さんが…」
「千鶴…!」
彼女の言おうとすることに予感を覚えて思わず大きな声を出してしまった。
「……いつも思ってるのよ、本当は私は誰の子供なんだろうって…」
――兄さん…と本当は血が繋がってなければいいなって…
最後の方は音に出さず唇の動きだけで漏らした呟き。

…笑った顔の彼女は、本当に似ていると思う。妹に。
雰囲気は違うが面立ちは姉妹と言われればそう信じてしまうほどだった。
姉妹…
頭の中でそれがずっとひっかかっていた。
「あの、麗葉様は他に兄弟はおりますか?」
「…変なことを聞くのね?この屋敷の娘は私一人よ」
麗葉は首を傾げてみせた。
「そうですね、すいません」
口で謝りながら、やはり麗葉と千鶴は姉妹なのではないかとうっすら思った。
母が千鶴を連れてきたのは母がこのお屋敷で働いていた後だ。
でも…そうだとしたら何故、同じ歳の麗葉はこの屋敷の令嬢で千鶴はそうでないのかわからなくなる。
嘆息がでた。
なんにせよ、自分の憶測はあまりにも無理があった。
思わずため息がでる。すると麗葉が顔をあげた。
「どうかなさって?」
「いいえ。…ああ、それより――」
怪訝そうに眉を寄せた麗葉になんでもないと首を振った。
そして彼は先日のことを思い出し話題を替える。
「麗葉様は北都と仲がずいぶんと良いのですね。いつも二人でいるところを良く見かけるので」
すると、蕾が開くように麗葉の頬がみるみる薔薇色に染まっていく。
その変化につい吹きだしてしまう。
「…!…もう、どうして笑うのですか!?」
耳の端まで赤く染め上げた少女は、目の前の青年に怒る素振りをみせた。
「ふっ…、すいません…。あまりにも麗葉様がお可愛らしいので」
吹き出しそうな口に如月は手をやって堪える。
「馬鹿にして!」
本格的に怒りだしそうな彼女に、如月は両手をあげる。
「いや、ただ…羨ましく思ったんです」
目元を和らげて麗葉を見る。
麗葉は彼の言葉に興味を引かれたのか、怒りの気配をどこかに投げやり彼の言葉に耳を傾けた。
「私には、あなたのように想いを交わすことはできないから…」
「……如月にも好きな人が…いるの…?」
「してはいけないんです」
妹とよく似た顔を見つめる。
じっと見つめられて困惑したのか彼女は逃げるように視線をずらした。
「…そういうのでしたら、わかるような気がします。私も…」
「北都ですか?使用人と屋敷の令嬢。たしかに困難かもしれませんね」
麗葉の顔に影が落ちる。長い髪が顔を隠してしまってその表情は伺い知ることはできない。
「上に立つべき人間が使用人を好きって可笑しいかしら」
「いえ、ちっとも」
即答で返すと少しだけ元気を取り戻したように「ありがとう」と声が返ってきた。
すぐに顔は下がってしまったが…。

「でも、いつか…いつかは私は違う人に嫁することになるわ」
それきり麗葉は俯き沈黙してしまった。
麗葉はこの屋敷の主の一人娘。
より正しい血筋の人間と婚姻を交わし屋敷を継ぐことになるのだろう。
そっと手を伸ばし麗葉の頭に自分の手を置いた。
「…如月?」
麗葉はわずかに驚いた声をだした。軽く髪を撫で梳く。
それは落ち込んだ千鶴に対しても、よくしていたことだ。
「……なんだか、さっきの話じゃないけど…」
俯いたままの麗葉の口元からくすっと笑う声が聞こえた。
「今ね、私、もし兄がいたとしたら貴方みたいな人がいいって思ったわ」
大人しく髪を撫でられていた麗葉が何気なく漏らした言葉。
その言葉に彼は胸がぎくりと冷えた心地がしたのだった。

――千鶴は母がお屋敷で働いていた頃に産まれた娘だ。
母が家に千鶴を連れてきたのはまだ彼女がまだ赤ん坊の頃だった。
父親は誰なのかは母は明かしてはくれなかった。
兄妹はあまり似ている所がなかった。それは外見も性格もである。
二人が成長するに従ってそれは如実に現れるようになった。
それでも二人はとても仲が良かった。
…それがいつ頃からだったろう、兄と妹という関係というだけでは収まりきれなくなっていた。
母はそんな二人を見ていつも咎めようとはしなかった。
気づかぬ振りをしていたのか、何故か、いつも曖昧な笑みを向けて見守っていた。
母が事故で亡くなってからは、二人だけの生活が始まると次第により互いに男女としての意識を強く持つようになった。
妹に想いを告げられたとき、はじめて家を出る覚悟をした。

そうだ…だから、だからこそ離れて暮らすことを選んだ。
少女の頭から手を離す。
さらさらと髪の束が手の平からこぼれ落ちる。
如月はその様子を複雑な顔を浮かべながら見つめていた。


――離れていたほうがいいと思った。
――しかし、それはいずれ悲劇的な結末へ結びついた

妹からの手紙は頻繁に届いていた。
いつも、そこにはたわいない事や今の自分の気持ちなどが、真摯に書かれていた。
妹の手紙を手に取っていると彼女の笑顔すら見えてくるようだった。
それが、なぜか数週間を境に途絶えていた。
たかが数週間、たまたま忙しくて出せなかったのかもしれない。
いちいち気にしすぎなのかもしれないと、不安な心に無理矢理、蓋をしていた。
天井を向いていた瞳に目蓋が降りていくと、いつしか眠りに落ちていった。


夢を見ていた。
一人であの小さな家に残された妹の夢を…
寂しそうにしている彼女を見ていると胸が痛み、今すぐにでも駆け寄りたかった。
しかしある時、ぱっと彼女が顔をあげて、家の中を散策しだした。
妹しかいないはずである家の中で誰か、何者かの気配があるのだ。
その気配を彼女は兄だと思っているらしい。
だが、それは兄ではない。彼は御屋敷にいてそこにいるはずがなかった。
ざわざわと木々のざわめく音が聞こえる。
暗がりに人影があった。駆け寄っていく妹。やがて、側までくると足を止め
彼女は後ずさりを始めた。
人影は動き、彼女に近づいていく。それは男のようだった。
逃げようとする彼女を捕らえて、引き倒す。
服が破かれ、甲高い叫び声が空気をつんざいた。
少女の身体に覆い被さっていく黒い影――


がばっ、と身体を起こし目が覚めた。
壁掛けの時計を見ると、夜が明けるにはまだ大分時間があった。
まだ、心臓がせわしなく鳴っていた。
もう一度、上掛けを羽織るが虫の知らせとでもいうのだろうか、
いつまでもたっても不安な気配が抜けることはなかった。

結局、あれから眠ることもできず、まんじりと夜を明かした。
太陽が空の真上を指した頃、麗葉と北都の姿を見つけた。
そこはあまり、普段は人気のないような場所だった。
二人の影が重なっていくのを見た。
彼らはいつも、なるべく人目を避けて逢瀬を重ねていたようだ。
影が離れて、麗葉の綺麗な顔が遠目にも紅潮しているのがわかった。
なぜだか、その顔を見ていると、胸のどこかが、ひどくざわついたような気がした。
彼女とよく似た妹の顔を重ねているからだろうか…
麗葉が北都から離れ、振り向きざまに手を振っていた。
そのままこちらに、駆け寄って、自分の胸にぶつかった。
「きゃ…?!」
「前を向いてないと、危険ですよ?麗葉様」
苦笑して、彼女を胸から離す。
「…如月!…もしかして見てました?」
「ええ、見てましたが…?」
その応答の声には意地悪な響きが混じっていた。
あまりにも真剣な表情をしていたものだから、少しからかいたくなる。
「お願い!如月、今のは見なかったことにしてくださる?」
「でも、見てしまったものは仕方ないでしょう?」
「もう!どうしてそんな意地の悪いことを言うの?」
彼女は形の良い柳眉をきっとあげる。
気の強そうな眼差し。そういうところは比較的大人しめの千鶴とは反対だった。
「…いいでしょう。黙っていて差し上げましょう…そのかわり…条件があります」
麗葉の瞳が一瞬輝き、すぐにそれが不安げなものに代わる。
「なに…?」
沈黙を置かれる。
「……次ぎに会うまでに、考えておきますね」
くすりと笑みを浮かべる。
本当は条件など考えてはいなかった。ただ彼女の変化を楽しみたかったのかもしれない。
「…ちょっと、…そんな…」
手を振って彼女から、離れると戸惑った声が背中の後ろで聞こえて来ていた。
彼女が、振り返っても見えなくなった頃でも、今頃、青くなっている麗葉の姿が
脳裏に浮かんできて、つい人知れず苦笑を漏らした。…自分があまりにも子供っぽい真似をしたなと。

§

それは突然だった。その知らせを聞いたのは――
その知らせを聞いてすぐに、妹の元へ急いだ。
白い布をかけられた小さな顔…
頬を撫でると、ひやりと冷たかった。
細い手首を包み込む。その手首には痛々しい傷跡があった。
いつの日にか、見た夢が思い起こされる。
せめてあの日に、すぐさま妹の元へ帰っていたらと思う。
喪が明けても、それから長らく自分を責め続けていた。
そして、心に深い傷をおったまま屋敷に戻った。

淡々と日々が過ぎていった。
ある日、如月の充てられていた使用人部屋に麗葉が訪ねてきた…
「如月…いるんでしょう?入ってもかまいませんか…?」
「開いてます、どうぞ…」
かちゃ、とノブが回り麗葉が入ってきた。
「突然、お邪魔してごめんなさい…でも、どうしても話がしたくて」
「…わざわざ、なんのご用ですか?」
彼女は如月を気遣ってか躊躇いがちに口を開く。
「如月の妹って…千鶴さんって言うのね?」
「……そうですが?」
今はできるだけ、千鶴のことを考えないようにしていたのに何故、今持ち出してくるのかと
彼は苛立った。
視線も合わさずに無愛想に窓に目を向ける。ぽつぽつと雨の粒が窓ガラスを叩いている。
「彼女のこと…なんて言ったらいいか…」
麗葉は視線を臥せる。そっといたわるように如月の手の甲に自分の手を重ねてきた。
逃げるようにその手を振り払うと、悲しそうな麗葉の視線とぶつかる。
「あまり、自分を責めないで…如月」
「心配しなくても仕事には支障は有りません。一人でいる時くらい放って置いてくれますか…」
事情をろくに知らぬ人間が何を勝手なことを言うのかと神経が逆立った気がした。
「今は妹の話をしたくはないんです。出ていってもらえますか」
「そ、そんなわけにはいかないんです。…言わなければならなかったことがあるんです」
追い出してしまいたかった。その声も、顔も今は聞きたくも、見たくもなかった。
いたわるような優しさも受けたくはなかった…。
「お願い、聞いて…」
一瞬雷が光った。
「…貴方と『千鶴』は血は繋がってはいないんです」
その眩しい光りにも目は閉じることなく彼は麗葉を凝視した。
「以前、貴方は私に『してはいけない恋』をしているといいました。
…ほとんど感みたいなものでしたでしたが、その相手がもし私の知っている『千鶴』なのだとしたらと思って調べていたんです」
雨はさらに険しく窓を叩いていた。
「…以前、私がまだ産まれたばかりの頃、如月という女性が前にこの屋敷で働いていたんです。
貴方をみた時、顔立ちがなんとなく似ていたからもしかしてって思いました…
お父様の書斎で調べていたら、案の定、彼女と貴方が親子ということが知れました」
如月は彼女の言葉に真剣に耳を傾ける。
「…千鶴は私の母の双子の妹の娘で、私にとっては従姉妹です。
叔母がまだいた当時、屋敷で働いていた使用人との間にできた子供でした」
「…使用人と?」
「ええ…。当時、当主だった祖父は、大変に怒ったそうです。
祖父はその使用人を追い出してしまいました。そして叔母が現に目を覚ますまでと
女中に預けて…その女中が貴女のお母様です」
語る麗葉の瞳は悲しげにみえた。おそらく自分と北都のことを重ねているのかもしれない…
…それが、なぜか癇にさわった。
「…でも叔母は恋人と子を奪われて…
元々強くはなかったのですが、ついに身体を壊してしまったのです。そしてそのまま――」
「どうしてその子を私の家に?」
「祖父は醜聞を隠すために叔母の子を貴女のお母様に託しました。」
それでは、捨てられたも同然だと思った。
質の良い服に身を包んだ麗葉を見つめる。
同じ血を引いていながら、どうしてこれほどの差が生まれたのか。
「…いまさら…そんなことを知ってどうだと言うのです…」
如月は怨念のように低い呟きを漏らした。
「出ていって下さい、本当に今は一人になりたいんです…」
「…ごめんなさい。もう行きますね…」
麗葉は背中を向けて彼の部屋から立ち去っていった。
一度、振り返って何かを言おうとしていたが、結局諦めたように吐息が吐かれたのをみた。

§

窓を覗くと、麗葉の姿があった。
北都もいた。何かを話し合っているようだった。
仲むつまじい二人の様子を見ているとかつての自分と千鶴を思いだし重ねてしまいそうになり、
目を背ける。
――彼女は千鶴ではない。
そして…一途に慕う少女の瞳、それが自分に向けらたものではない。
その事実が彼の胸を突き刺していた。黒い感情が胸に去来する。
その夜、麗葉は再び彼の部屋へ現れた。
逡巡した後、顔をあげ口を開く。
「…あの、やっぱり私、心配なんです。…貴方が思い詰めてるみたいにみえるから…」
「親切は結構です」
迷惑そうに冷たくあしらう。彼女は悲しそうに彼を覗き込む。
「千鶴はもう…いないんですよ。もっと早くそれを知っていたら、家をでることも
彼女を一人にすることもなかったのに…!」
言葉にだすほどどす黒く怒りが視界を狭める。他人に対しての、そして自分に対しての怒りだ。
どこかにぶつけなければ、気がふれそうだった。
「如月…!」
頭を抱え込んだ彼に、麗葉は近づき慰めるように手を伸ばしてきた。
ふわりと甘い少女の匂いがした。
その時であった。雷がどこかに落ち、部屋の灯りが消えた。
「……あ!」
麗葉は急に暗くなったことに対して驚いた声をあげた。
何かに躓いたのか、ガターンと何かを倒す物音と柔らかい華奢な身体がぶつかってくる。
「…ごめんなさい」
首の付近に麗葉の息がかかる。
くすぐるような息が彼をを苛立たせた。
「そんなに、気に掛けてくださるならば、私を慰めてごらんなさい」
少女の香りが鼻腔を刺激する。
寄りかかる華奢な身体を自分の胸に強引に引き寄せる。
「え…何…どういう意味…?…ぅんんっ…!!」
狼狽えた少女の唇を噛みつくように奪った。
暗闇の中では、目を開けていても何が起こっているのかわからないようだった。
否、理解したくもなかったのかもしれない。彼女は口付けられていても始めは抵抗らしきものがほとんどなかった。
唇を割り生ぬるい舌が口腔を犯した時、初めて彼女は己の状況を理解した。
手首を捕らえると、後が付くくらいきつく握りしめて、悲痛な息の音を聞いた。
「…やぁっ…!何…?!」
華奢な腕が彼の胸を突き飛ばす。…が、深窓育ち細腕では、後ろに軽く押された程度のものだった。
苛立つ心を持て余し、感情のまま乱暴に彼女を引き倒す。
恐怖を感じた麗葉は激しく抵抗した。
びりっと、服がさける音がして彼女の唇から、悲鳴が迸る。装飾されたボタンが飛んで床に硬い音が飛ぶ。
「少し黙っていてもらいませんか」
暗い声音で彼女の口を自分の手の平で押さえる。
「んーっ!?んんーっ」
自由な方の手でめちゃくちゃに殴られる。
多少、うっとおしいが、それを許す。いまから、自分はもっと彼女に酷い行為をしようとしているのだから…
「…大人しくして頂けますか?」
耳朶に囁きかけ、胸元の開かれた鎖骨に唇を落とす。
その感触にびくっと麗葉の肩が大きく揺れた。

「…ん」
暗闇の中で微かな甘い響きを聞いた。
そんな彼女を口を歪めて、嘲る。
「おや、どうかされましたか?麗葉様」
耳元に唇を寄せ息を吹きかけながら、彼女の下着の下から胸の膨らみに手を伸ばす。
大きいとは言えないが柔らかに押し返すその感触。その頂を摘み、弄ぶ。
「んっ…んんーっ、ふぅんっ」
すぐにそれは、赤く色づき硬く凝る。それを虐めるように指で弾く。
「んんっ!」
麗葉が頭を振り、髪が揺れて広がる。
横に背けられたその白い首に小さな鬱血の跡が見えた。
その赤い印を汚すように己の口唇を押しあてる。
麗葉の目が大きく開かれ、やや勝ち気そうな瞳から一筋の涙が零れた。
闇に目が馴れてくると、その姿に嗜虐心をそそられた。
「…誰を思いだしたんです?…まぁ、想像はつきますけどね」
いつから、自分かこんな風に意地の悪いことをいうようになったのだろう…
千鶴が死んでから、思い詰めすぎておかしくなってしまったのだろうか…
いや、そうではないのかもしれない。
なにがそうさせるのか、知らないが
少なくとも、麗葉と北都に対して嫉妬に似た感情をこれまで感じていたのだ。
「…んん、…やぁ…止めて、たすけて…」
緩んだ手の間から、悲痛な叫びが漏れた。
「如月…お願い、もう、やめて」
その瞳が懇願している。愉悦を感じた。
もっと、壊してしまいたい気がした。
如月の長い指が服の裂け目から更に腹の上をすべり、そのもっと下を目指す。
彼女の大切な部分を隠す布を軽く指で擦る。
布越しに触れられて麗葉が息を鋭く呑みこむ。
その反応を窺いながら淡い茂みに指が潜りこませた。
「だめ…っ!」
その茂みから小さな花芽を見つけだす。
指で押しつぶす。
「…っぁ…」
敏感なそこを、くにくにとこねくり廻す。
「…ぁ…なに?…やぁ…ン…はぁ…」
麗葉は自らの感覚に驚いていた。それを見た彼は意外そうな顔をする。
「…おや、『彼』にはまだ触れさせていないんですか?ここは」
首に跡まで残しておきながら、大事な一線は越えてない。
そんな彼らを哀れに思った。
「…如月、この、よくもこんな…無礼、です…」
「…無礼ですか。ですが、麗葉様のお身体は…」
彼女の秘裂をなぞりあげる。くちゅ、と粘着質な音がした。
麗葉の頬に恥じ入ったように朱が走る。そして唇を噛む麗葉を追いつめる。
「ほら、気持ちいいでしょう?」
奥からひかえめながら、ぴちゃぴちゃと水音がする。それをわざと聞かせるように指を動かす。
「…やぁっ…ん、やめてぇっ…ぃやぁっ」
潤みを得た指先を、秘肉の奥へと侵入させる。

中で、絡みつく襞を掻き回していく。
悲痛に訴える声がやがて潤み、泣き声へと変化する。
「…麗葉様はここがお好きなのですね」
指先がある一点を刺激していた。そのたびに麗葉の息は乱れ、緊張するように身を震わしている。
「ちが……ぁぁあん」
否定しようと口を開けば、嬌声じみた大きな声が可憐な唇から漏れた。
「私の指をこんなにおいしそうに銜えて、いやらしい方だ…」
麗葉の瞳から涙が溢れていた。それを指で掬い、口に含むと塩辛い味がした。
「ひぁっ…あっ…あん…ぁあ…ぅうんん…」
彼女の身体を抱え起こし、華奢な背中を胸に預けさせ後ろから抱き込むような姿勢を作る。
背後から手を伸ばし胸の膨らみを包む。
下腹部より下ではもう一つの手が彼女の下着の中で蠢いていた。
「…あ、…お願い、ゆるして…」
「強情ですね」
「…ぁはあっ…」
お仕置きとばかりに乳首、そして肉芽を摘み捻る。
「…いい子にしていれば、優しく扱ってさしあげます。どうか抵抗しないで」
赤く色づいた耳元に穏やかに囁けば、彼女は背中をのけ反らせて肌を粟立たせる。
麗葉の耳たぶを軽く噛む。
「…は…ぁ…」
麗葉の濡れた唇から、長い息が天井に吐き出された。
官能に浸った濡れた甘い息だった。
少女の色気だった変化に、彼は頃合いを見計らい彼女を寝台に転がす。
乱れた服をはぎ取られると彼女の本来白い肌は、うっすらと桜色に染まり、汗を滲ませていた。
「…ん…」
顔を重ねても、麗葉は抵抗もなく従順のそれを受けていた。
彼女は咽をならし唾液を嚥下した。
「いい子ですね」
そう言うと彼は、自分のシャツに指をかけ、服を脱ぎ捨てた。そして彼女の太股を掴み広げさせ、脚の間に自分の身体を割り込ませた。
軽く息を吸い込み、濡れた少女の秘裂に己の猛った熱をあてがう。
「………ぁ…ぃぃあああっっっ」
ぼんやりと天井を見上げていた麗葉は突如として起こった、鋭い痛みに悲鳴を上げる。
彼女は目を見開いて、苦痛を訴える。
「…やぁあっぁ…ああっっ…いた…ひぃ…ぁあああっ…」
「麗葉様、お声が…」
あまりの、大きな叫びに彼は眉を寄せた。
少しでも鎮めてくれるように、汗の浮かんだ柔肌を撫でる。
慰めるように、慎重に…
「身体を痛めます。無理に暴れないで、…そう、息をして、ゆっくり…」
「…はぁっ…ぁあっ…ん」
麗葉は痛みから逃れるために必死に彼に従った。
根本まで埋め込まれた時には、ぐったりと身体を投げ出していた。
痛みすら感じるほどきつい締め付け――堪えて抑えなければ、そのままどこまでも突き上げたい衝動に駆られる。
「…ぅ…痛い…抜いて…」
「そうですね、そろそろ大丈夫でしょう…」
ずる、と彼女から己を途中まで引き出す。その際にも「ぁああっ」と悲痛な叫びがあがる。
しかし、すべて抜かれてはおらず、困惑した表情で麗葉は彼を見つめた。
「勘違いされてませんか?…残念ですが、まだ終わりませんよ」
「うそ…、いゃあぁっ、…あぅうっ…はぁっ…あぁっ…」

荒々しく身体がぶつかり合う。
濡れた肉同士が粘着質な音を立てる。
「ひぃぁっ…ぁあん…」
時に弱点を突き、そして深い最奥を突き上げる。
抱えた彼女の脚を寝台に押しつける。
苦しそうな麗葉の息、その唇を奪う。
「…ぅふぅっ…んん…っ…」
呼吸すら奪われて、麗葉は頭を振った。
離された唇が透明な線が橋を造った。
少女の中に埋められた熱はさらに膨れ上がり、抽送は激しさを増す。
「…ぁぁああ…ぁああ」
もう、堪えられないとばかりにビクビクと華奢な脚が痙攣をしている。
「…私を貴女の中に、受け止めてくださいますか?」
熱っぽい声で麗葉の下腹を撫でる。
その意味を理解した彼女は総毛立ち、逃れようと必死で身体を捩った。
しかし、逆に強い力で引き寄せる。
「…ぁ…うそ…やぁ、だめぇ…ぁああーーー!!!」
「…ッ…」
彼女の叫び虚しく彼は小さく、呻きその奥へ熱を解き放つ。
「…ぁ…あ………やぁぁあああ!!!」
麗葉の胎内に勢いよく精が流れ込む。幾度も身体を痙攣させ、
やがて、彼女は身を震わせながら意識を失った。

§

麗葉の身を清めても、シーツには彼女の破瓜による血痕が残っていた。
いまだ彼女は深い眠りに落ちていた。
そっと、髪を掻き上げ、額を撫でる。
今は綺麗にされていたが、幾方に涙の跡を残していたその顔を思い出し
罪悪感が胸を締め付けた。
これでは、千鶴を犯した男とかわらないではないか。
「……すみません」
身勝手な許しを請い、自らに嫌気がさす。
麗葉の唇が微かに動く。
じっとその唇が刻む動きに注目する。
「…………北都――」
その時、胸の内側に鋭く爪を立てられたような感じがした。
胸元を掴む。
――気づいてしまった自分の心に
いつのまにか惹かれてしまっていたのだ、麗葉に。
この妹の面影を残す顔、でも、おそらくそんなことだけではないのだろう。
何不自由なく、かしずかれてきた令嬢のくせに、何故か他人に対してひたむきな少女だったから…
「…はっ…」
口の端が歪み、自嘲の笑みを刻む。
今になって、千鶴を犯した男の気持ちが理解できたような気がした。
欲しかったのだ、この手に力ずくでも奪いたかったのだ。
それが…どんなに残酷なことであろうと。
壁に手を叩き付ける。
「…くっ」
外では、いまだ激しく雨が降っていた。月の見えない暗い空。
窓を開けると強い風と雨粒が彼を襲った。
どれほど、雨が彼の涙を流そうと、彼の罪も、感情もぬぐい去られることはなかった。

関連作品:

シリーズ物 秘密 秘密II 秘密III 秘密IV 「追憶」
2007年01月30日(火) 20:38:49 Modified by ssmatome




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