（写真：三千年前の鼎） 東京大学総合研究博物館
高僧がサンオクに贈った「三つのツール」の二番目は「鼎(かなえ)」の文字でした。
「鼎」は古来より、中国や朝鮮国で王様の象徴として大事に扱われているようです。
四本足の鼎もありますけど基本的に三本足の形状をして、上部は器になっています。
それなら、器に入る「中身」の容量で王様の能力・器量を表現しているのでしょう。
三本の足の一本でも欠けていたり・歪んでいれば、中身はこぼれてしまうでしょう。
即ち、王が器(国)を良く治めるには、三本の足はバランス良く保たれる必要がある。
一つ）国の経済が安定しなければ民の不満は絶えず、王の悩みが消えることはない。
二つ）王の徳が高ければ民は王を慕い寄ってくる故に、国は自然にまとまるだろう。
三つ）経済が豊かで徳が高くても、王の立場が不安定ならば民心は動揺するだろう。
徳高き王が、経済的に潤い・誠実な臣下に支えられている時は、即ち有能な王です。
だが、その三つの中の一つでも好い加減ならば、その王は愚か者の誹りを免れない。
それゆえ、王は自ら徳を積み、経済発展に心を砕き、不正を憎まなければならない。
王は国の平和に責任を持ちますが、サンオクも国の責任者の自覚を身に付けている。
有能な王・賢王と同等の自覚に立っているサンオクが保身に奔ることは決してない。
有能な人物(の徳)は、既に賢王に等しく、国や民を憂うることは賢王と同じである。
サンオクは商人ですが、既に・徳と経済は手に入れて、立場だけが不安定なのです。
もちろん、湾商の部下や朝鮮商界の多くの人や民心はサンオクを慕ってくれている。
慕うだけでなく、支える人物…すなわち、サンオクと同じく有能な人物が望まれる。
それでは、不安定な立場のサンオクを支えるべき有能な人物とは誰なのでしょうか。
サンオクが「有能」と知って・大事にした男は、じつは武力革命を企てていました。
実際、お互いに相手の能力を認め合い、そして両者は互いに相手に魅かれ合います。
その男・洪景来（ホン・ギョンネ）は、サンオクを革命軍に曳き入れようとします。
「国王の責任とは何か」を知るサンオクは、革命後の未来図をホンに問い掛けます。
革命後の未来がサンオクの描く未来に優るなら、サンオクはホンに遵ったでしょう。
己の正義に執着しないサンオクは、ホンの正義に納得できた時は彼に遵ったのです。
サンオクの質問に答えられないホンの心のなかで、革命への自信が揺らいでいます。
塗炭の苦しみにあえぐ民と共に苦悩し、しかも・確かな実証を示しているサンオク。
もし、武力革命の計画段階であったなら、ホンはサンオクの正義に遵ったでしょう。
ホンにとっては、己の正義よりも魅力的で着実に思えるサンオクの正義に違いない。
ホンはサンオクの正義に遵いたいと思っても、革命は既に実行段階に入っています。
ホンは己に付き従ってきた仲間を見棄てる気にならず、計画通りに革命を決行する。
ホンの正義が叶わない場合、サンオクの正義を実現して欲しいと考えたのだろうか、
武力革命がもつ致命的な欠陥に、ホン自身はどの程度まで気づいていたのだろうか。
武力革命が成功しても「支配者が替るだけ」だと、ホンが気づいたのは間違いない。
鼎の足の意を「財力欲・名誉欲・権力欲」だと勘違いする者が支配者になったなら、
たとえ、武力革命が成功しても社会の窮状は現状と何ら変わる事はないに違いない。
そうなってから、何のために武力革命を起したのかと悩むことは目に見えています。
武力革命の無意味さに気づいたホンは心奥では、有能なサンオクに後事を託します。
サンオクは有能なホンを死なせたくなかったでしょうし、傍に置いておきたかった。
結局、ホンの革命は民衆のメッセージ（不満）を王の耳に届ける意味しか無かった。
誰かが己の命を捨てて暴動を起してこそ、為政者の重い腰が動くのかも知れません。
ホンは、民衆の苦しみを為政者に知らせるために死ぬことを良しとしたに違いない。
サンオクも敢えて死を避けないが、テロで利を得るのは不忠の官僚だと知っていた。
賢王の姿勢とサンオクの姿勢は相通じていくと確認し合った「サンオク」と「ホン」
奇妙な友情を感じつつ、行動を共にすることが出来なかった数奇な運命の二人です。
鼎の真の意味を知った賢者は、身を慎み・権威に拠らず・一番弱い人を案じて護る。
そしてそれを身を以って実践している人を、守護できる人を賢王というのでしょう。
鼎の中の多くの生命がこぼれないように、賢者と賢王は手を携えて協力するのです。
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