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 事件は、俺が帰社したときには起こった後だった。
 亜美がバカやってさー、と開口一番。渋い顔をしているのは双子の片割れ・真美である。
「ライブ近いからレッスンマシマシだっつうのに『ちゃららららら〜』だよ、いきなり」
 かいつまんで説明すると、ストレスが溜まった亜美が調子に乗って手品師の真似をした、というのだ。
 二人は先週からレッスン漬けになっており、若さゆえ体力はともかく鬱憤の方がうなぎ登りであったらしい。今日の自主トレをこなしてみんなでお茶会の時に亜美が『手品やっちゃうよーん』と宣言して……。
「普通に剣ならともかく、バナナとか呑めるワケないっしょねー」
「いや剣の方が無理だろ」
 ……バナナを丸呑みしようとして真美たちに取り押さえられたのだそうだ。
「んで亜美は?」
「仮眠室にフーインした。疲れてんのは疲れてたみたいだし、ヨガの眠りに入ってろーっつって」
「そうか、すまなかったな真美。お前も疲れたろ」
「ん、ヘーキだよ」
「そうは言ってもおんなじだけ体力使ってるしな。亜美は俺が見ておくから、先に帰っててくれるか?」
「んん〜?兄ちゃんくんは亜美のことばっか気になるのかな?」
「バカ言ってんじゃないの。倒れたのが真美だったらお前を看病するさ」
「んっふっふ、まあいいや。たぶん亜美も平気なんだと思うけど、今夜はよろしくたのむよ兄ちゃんくん」
「一休みさせたら送り届けるよ。お前もちゃんと休めよな」
「はいはいっと。ゆきぴょん一緒に帰ろー」
 真美は不安を感じていないようだ。これも双子の効能で、亜美にも心配はないということか。居合わせて今まで付き合ってくれていた雪歩を誘って、真美は事務所を出て行った。
 残照の差し込む765プロ。
 タレントもスタッフたちも出払い、今日は小鳥さんも社長に連れられて業界の会合だ。亜美真美を担当している俺が戸締まりを任されたのだが、思わぬ仕事が舞い込んで来たものだった。
「亜美、大丈夫か?」
「……」
 事務所の施錠を確認して仮眠室のドアをノックし、開ける。薄暗い部屋の真ん中で布団に潜った人影が見えた。
「寝てるのか?」
「おきてる」
 もぞり、と布団が動き、顔が覗く。いつもの調子なら飛び起きてくるところだ。実際に疲れているのだろうか。
「びっくりしたぞ。急にハジケたって聞いたから」
「真美は?」
「帰したよ、あとは俺たちだけだ。真美、心配してたぞ」
「……ごめんね」
「俺じゃなく真美に謝っとけよ」
 ゆっくり体を起こして、布団の上に座り込んだ。レッスン着ではなく、Tシャツにジーンズのスカート姿だ。
 俺も仮眠室に上がり込み、布団の脇にあぐらをかいた。
「どうした。本番近くなってイラついた?」
「……ライブは、楽しみだよ」
「練習がキツい?」
「そーでもない。もっと大変なのもあったし」
 うつむいてぽつぽつと話す姿は、不満がない奴の姿勢ではない。俺ははたと考え込んだ。
「ふむ、じゃあ、どうして?」
「……だって」
「どうしたんだよ。いつもの亜美らしく――」
「だってっ!」
「――んぐ」
 口をつぐんだのは、いきなり亜美に飛び掛られたからだ。布団を跳ね除け、俺の首に両腕を回してがっしりとしがみついてきたからだ。
「だってっ!……兄ちゃんが、いないん、だもん」
「……亜美」
「亜美たちずっとレッスンで、兄ちゃんずっと局回りで、亜美たちと会ってくれてなかったじゃん。新しいステップ憶えたって見てくれないじゃん。新曲歌えるようになったって、聞いてくれないじゃん」
 レッスンは専門のトレーナーがいるので、亜美たちにオーディションや営業がなければ俺には出る幕がない。だから、彼女たちに少しでもいい仕事を取ってやろうと放送局や制作会社を行脚して回っていた。俺が戻る時間は夜遅く、当然亜美たちは帰宅している。俺も夜半のがらんとした事務所で、亜美や真美の朗らかな笑い声を思って寂しさを募らせたものだ。
 大の男がそうなのだ。亜美も同じように……いや、亜美は俺以上に寂しかったに違いないではないか。
「そっか。そうだったのか」
「……くんっ」
 目をきつくつぶり鼻をすする頬に、そっと手を添える。
「ごめんな、亜美。俺も寂しかったのに、お前のこと気づけなくてごめん」
「兄ちゃん……」
「俺は一人ぼっちだったけど、亜美には真美がいるから平気かなって、そう思ってたんだ」
「そんなわけ、ないじゃん」
 そうだ。俺は自惚れていたのだ。俺さえ我慢すれば万事うまくゆくと勝手に思い込んでいたのだ。
 そんなわけはないのに。
「だよな。亜美は俺の」
「兄、ちゃん」
 なぜなら……。
「大切な、恋人なのに」
 小さな体を、ぎゅっと抱きしめながら、そう告げた。そう、なぜなら、俺たちは恋人同士なのだから……ただし、条件つきの。

****

 亜美が口にした不満は、やはりそのことだった。
 自分と俺との間に確かなつながりがないから、こういう時に不安になるのだと。
「ほら、亜美まだ兄ちゃんとホントにしちゃダメじゃん。だから兄ちゃんさ、あんときも自分でしてたっしょ?」
「ん、まあな。慣れたもんだ」
 俺と亜美は少し前に、初めて肌を合わせた。
 ただそれはいま亜美が言ったとおり、直接の行為に及んだわけではない。
 いくら相思相愛と言ってもまだ幼い亜美の体や心をどうこうする権利は今の俺にはないと思うし、彼女の俺への想いにしてもまだまだ手探りの状態だろう。肉体も精神も充分に成長し、その時あらためて互いの意志を確かめ合えばいいのだと俺は考えていた。
「でもそれじゃ亜美がいなくたって一緒じゃん。エッチな本やビデオ見てるのと変わらないんでしょ」
「んー、それは違うぞ亜美。目の前にお前がいるんだから」
「亜美がいたって、兄ちゃんになにもしてあげられないのはなんかヤなんだよー」
「んなこと言ったってなあ」
 言いたいことはもちろん理解している。亜美は俺が彼女にしてやるのと同じように、俺に尽くしたいと考えている。別に偉そうに考えているわけではない。俺が亜美に尽くしているように、彼女もまた俺といる時間を、俺とイーブンに過ごしたいと思っているのだ。
「前にも言ったろ?俺は亜美のこと大好きだけど、お前はまだ成長途中なんだ。心も体も大人になるまでは、超えちゃいけない部分もあるんだよ」
「それはわかってるけど。でもさ、亜美こないだインターネットでこっそり調べたんだよ。他にどんなことできるか」
「他に?ってこら、はしたない」
 亜美が布団の上で座り込んだまま、両膝を開いたのだ。デニムのミニスカートの裾が開き、下着が丸見えになる。
「亜美のココでする他に、兄ちゃんを気持ちいくさせるやりかた」
「インターネットって、自分ちの?双海家のペアレントロックはどうなってんだ」
「ぬかりないよん。そしたらいっぱい出てきたよ。ちょっと笑っちゃうくらい」
「笑っちゃう?」
「おシリとかムネとかはクラスの子から聞いたりしたことはあったけどさ、髪の毛とか足の裏とかワキの下とか。なにあれ、男の人って女の人のドコ使っても気持ちいくなれんの?」
「誰でもってわけじゃないよ。人によって好みがあるってこった」
「兄ちゃんは?髪の毛でコチョぐられるの好き?」
「お、俺は別に」
「じゃあさじゃあさ、ここはどう?んあー」
「!」
 亜美が、いたずらっ子の瞳で口を大きく開いた。ボイストレーニングの時のように唇を丸く形作り、舌は下顎に押し付けて、喉の奥まで柔らかなトンネルを作り上げたのだ。
「お、いーハンノーだねえ兄ちゃんくん。なめられるの、好きなの?」
「いい反応とかじゃなく面食らったんだよ!ったく、ガッコで教えない知識ばっかり蓄えやがって」
「んっふっふー、亜美はね、兄ちゃんのためならエッチ博士号だってエッチノーベル賞だってとっちゃうのだよ」
「ねえよそんな賞……あ、お前さては」
 真美から聞いた話は『亜美が手品の真似をした』だったが、剣の代わりに丸飲みしようとしたのはバナナだ。
「俺が帰る前にバナナ飲み込んでたのは」
「うわ、兄ちゃん頭の回転早っ」
 要するに、おやつで出てきたバナナが大きさといい太さといい反りといい、俺の愚息を想起させたのだという。ちょうど予習もしていたところで、試してみたくてたまらなくなったのだそうだ。
「昨日は家の冷蔵庫にそーゆーカンジのものなくってさ、さっきあれ見たらもーウンメー的なもの感じちゃって」
「アホか、何が運命だ」
「にゃはは、さすがに恥ずかしかったんでマジシャンのフリした」
「そういう問題じゃねえよ。バナナってのはああ見えて固いんだ。声帯を傷つけでもしたら歌どころか話すこともできなくなるんだぞ」
「うん……ごめんね兄ちゃん。怒ってる?」
 声を荒らげてしまったのはもちろん、怒りではなく心配からだ。
「怒ってなんかいるもんか。亜美がどっか痛くでもしたら大変だからだよ」
「ん、アレはちょっと無理あったよ。もうしないから許して?兄ちゃん」
 俺自身も営業回り中、昼メシがわりのエネルギーバーをひとかけら飲み込んでしまい七転八倒した記憶がある。さしもの亜美も反省しているようなので、この話はこれまでにすることにした。
「ん、気をつけてくれよ。亜美はこの世にお前一人しかいないんだから」
「……えへへ」
 頬を染め、こちらに体重をかけてくるのを受け止めてやる。二人で一人分の活動をしている彼女らは、自分たちのアイデンティティをいつも欲している。
 俺の胸に額を預けていたのが不意に上を向き、視線が交錯するかしないかで目を閉じた。顔が近づく。そして。
 そして、俺たちはキスをした。
「……んっ」
「ん、んはっ」
 小鳥のような可愛らしいのはパスだ、俺たちにはいつも時間がない。強く唇を吸い、薄く開いた歯の隙間に舌をこじ入れる。
 ぴちゃぴちゃとねばっこい水音がして、俺の聴覚を埋め尽くした。
 互いの気持ちを確認した先日の夜以来、俺は亜美に指一本触れていない……少なくとも、いま行なわれているような意味では。そしてその間、俺は自分の性欲を溜まるがままにしていた。
「兄、ちゃ、ぁん」
「亜美……」
 なにかが溢れるような音にまぎれて、甘ったるい呼び声がする。亜美が、キスの合間に俺に呼びかけている。俺もそれに応え、愛しい人の名を口にした。
「俺の、亜美」
「くふん」
 鼻を鳴らしてますます俺に体を預けてくるのを、体の後ろで支えていた腕を外して押し倒されるままに布団の上に寝転んだ。少し勢いがつきすぎ、歯と歯がぶつかって軽く硬い音がする。
「いて。えへへ」
「大丈夫か?」
 俺の問いに返ってきたのは……。
 べろり、と俺の鼻を舐め上げる亜美の舌だった。
「ぷぁ、なんだぁ?」
「んっふっふー。れろん」
 続いて、頬。夕刻に顔を出した無精ひげを味蕾がなでてゆく。
「亜美……?」
「今日の亜美はね、コレで」
 ニコニコと笑いながら、赤く可愛らしい舌をひらめかせた。
「兄ちゃんのこと、気持ちいくさせたげるんだっ」
 言い終わるや否や、再び口へキス。俺の唇を丸ごと噛み取りそうな、男女が逆転したみたいにワイルドなキスだ。そのキスにおずおずと応じていると、ネクタイをしていないシャツの胸ボタンを小さな手が探り、上から順に外し始める。
 どうするのだろうとなすがままになっていたら、シャツのボタンを下りてゆくにつれ、体も顔も口も同時に下がり始めた。
「ん、ん……ん。ぇろん」
 口から漏れるのは擬音か吐息か、そんな風にまるで自分の舌の動きを実況しながら唇を俺の顎へ、喉へ、鎖骨へと下ろしていく。
 ぺろぺろ、ぺろ。
 れろれろ。ぴちゃぴちゃ、くちゅくちゅ。
 亜美の小さな体の、さらに小さな唇の、そのまた小さな舌の水音。こうして言葉にしても到底伝わるものではない。柔らかな、それでいて弾力のある、湿って温かな彼女の肉片が、手や指よりも細やかに念入りに、そうしてとてもいやらしく、俺の皮膚を愛撫してゆくのだ。
 数瞬前まで俺の口中を飛び跳ねていた亜美の舌と唇は、俺の唇を優しく挟んで振り、無精ひげの伸び始めた顎を甘噛みし、喉の皮膚を強く吸っていま、喉仏の下のくぼみをほじくっている。
「んく、むふ、ん、んっ」
「うへへ、亜美、それくすぐってえよ」
「ほんと?ここ?れろれろ」
「わははは、こら」
 寝転んだままワイシャツから両腕を抜き、亜美が裾から捲り上げるのにまかせて下着代わりのTシャツを脱ぎ捨てた。まだズボンは穿いているがこれで上半身は裸だ。
「お前は脱がないのか?」
「今日の亜美は、兄ちゃんキャンディをペロペロするのがお仕事だかんねー」
 体幹にしがみつきながらずり下がっていた体を俺からどかし、脇腹の側で体を落ち着かせた。寝転がる俺をキーボードにでも見立てたようなポジションで、今度はズボンの上に覆い被さった。
「んふふ。これもベンキョーしてきたんだよー」
 何かをたくらんでいる表情でそう言い、ベルトを抜き去った。なにを始めるのか興味津々で見ていたら、鼻面を俺の股間に潜りこませてきた。
「亜美?」
「あんぐ」
 続いて引っ張られる感触と、ジッという音。ははあ、ズボンのジッパーを、歯でつまんで下ろしているのだ。
「お前なー。いったいなに勉強してきてんだよ」
「んふ、これけっこうカンタンかも。押し上げてくれてるかんね」
 こんなことをされて無反応でいられるほど行儀の良いセガレは持ち合わせていない。亜美の言うとおり、俺の股間はジッパーを下ろした社会の窓から、トランクスの生地を持ち上げたテントが出来上がっていた。
 続いての感触はその下着の、前の合わせを通してくる吐息。首をもたげて下半身を見やれば、いとおしげな瞳で俺の股間を見つめる彼女がいる。
「ふん、ふん。兄ちゃんのニオイ。いいニオイ」
「よかねえだろ」
「いいニオイだよ。そんでね、エッチなニオイ。あむ」
 布の端を唇でつまみ、注意深く剥いてゆく。さながら、バナナの皮でも開いてゆくかのように。
 数瞬で下着の前穴は広げられてしまい、ついにセガレが顔を覗かせた……いや、そんな大人しい様子ではない。合わせの布端を開いたとたん、ちょとしたビックリ箱のように飛び出し、亜美の頬を打ったほどだ。
「うひゃっ」
「お、ぶつかったか?大丈夫か?」
「あははは、ヤンチャっ子だね、兄ちゃんのここ」
「お前に合わせてるだけだよ」
「ふーんだ。ねえ、兄ちゃん」
 亜美が話すたび、吐息が敏感な部分に触れてゆく。ほんのささやかな、しかし温かく優しいひとひらの風だ。
「なんだ?」
「亜美のこと、見ててね」
 そう言うと、亜美は俺のペニスにキスをし、次いで大きく口を開けてかぶりついた。
「……ぅお……!」
 俺自身は、童貞でこそないが大した経験を持っているわけではない。いわんや、フェラチオなど俺の知らない世界のテクニックだと思っていた。
「んっ、んっ、んぐぅ」
「く……っ」
 かなり以前、かろうじて経験したと言える女の膣内の感想は、熱い肉の坩堝だった。こちらも夢中でなにがなんだかわからないうちに果てていたそれは、高温で締め付けてくるぶ厚い肉の塊だった。ところがこの、いま味わっているこの快感は、そんなものとは次元が違う。
「んちゅ。ぐ、ぐんっ、ぅぎゅう……っ」
「うお、お、っ……あ……あ、み、っ」
 ちらりと俺の顔を見て、瞳だけでにんまりと笑ったのがわかった。
 亀頭からほお張れる限りの深さでまっすぐ口中に飲み込んで、唇で締め付け、中では舌がぐりぐりとまきつき、こすり、ずり上げる。時折顔を左右に振ると、奥歯の隙間をにじり抜け、頬の肉に絡めとられる。AVで『歯を立てるな』とか言ってるがそんなことはない、引っかかれる位の強さで当たっても痛みどころか快感ばかりがいや増してゆく。
 亜美がゆっくりと口を離し始めた。抜きながら、中でブレンドされた液体は一滴たりともこぼさないつもりか、唇をすぼめてじりじりと吸い取りながら顔を上げる。こちらを見つめる顔の、口から逆再生のように俺のペニスが抜き出され、最後に先端と唇の間に細い銀の糸を紡いだ。
「ぷぁ、はあ、はあ。兄ちゃんのスティックキャンディ、おいし」
「亜美……お前、天才だな」
「兄ちゃん、気持ちいの?んふぅ、なら嬉しいな。もっとしたげるね」
「……なあ、亜美」
 再び腰元に顔を近づけようとする亜美に声をかけた。この勢いで吸われ続けてはあっという間に限界突破してしまう。
「ん、なに?兄ちゃん」
「お前もしてやるよ。俺だけじゃ悪いからな」
「ええ〜?」
 小ぶりな尻をぽんぽんと叩いて促してやる。亜美はその意味を一瞬遅れて掴み、頬を赤くした。
 俺は亜美に、シックスナインを持ちかけたのだ。
「兄ちゃんのエッチぃ」
「ここまでしといて今さらだろ」
「で、でもぉ」
 俺だけが服を脱がされ、亜美は普段着のままだ。その亜美がミニスカートの尻をもじもじさせながら躊躇している姿は、まさに今さらであるがそれはそれでなかなかそそられるものがある。
「亜美、そのまま俺をまたげよ」
「……」
「ほら」
「んー……」
 重ねて言うとようやく心を決めたようで、のろのろと膝立ちの足を移動させはじめた。四つんばいのまま、体重をかける位置を探るように膝を俺の首元へ寄せてくる。はるか遠く、下半身の上にある亜美の顔がこちらを窺い、おそらくは俺の視線と自分のこれからのポーズを天秤にしているのだ。
「いいぞ、そのまま足を上げて」
「う、うん」
 ゆっくりと、本当にゆっくりと、片膝が床から離れる。スローモーションの動きで生足が俺の眼前を横切る。
 デニムの生地は足を開くのには向いていない。思い切ったようにぐい、と足を上げた拍子に、裾が太腿をすべり上がった。
「ひぁ、にい、ちゃ……」
「そのまま、そのままだ」
 とっさに足を閉じようとするのを少し語気を強めて制した。いま亜美は、俺の顔の上でミニスカートの足を大きく開いた姿勢のまま、ポーズがかかったように動きを止めた。
「兄ちゃん……やだ、恥ずかしいよ」
「さっきは自分で見せてたくせにか?」
「だ、だって……っあ!」
 亜美が戸惑ったような声を上げた。俺が、宙に浮いている彼女の膝を掴み、下ろせないようにしたからだ。
「だって、なんだ?」
「に、にいっ……」
 続いてもう一方の手の指を、丸出しになっている下着の股間に押し当てた。
「ひぁ!」
「ここが、こんなになっちゃってるから、か?」
 触る前から、すでに染みができていた。布越しに指先をつぷりと潜り込ませれば、まるで水飴が垂れそうに透明な粘液が溢れ出る。その滴から、甘く青い亜美の体臭が香った。
「トロトロじゃないか、亜美」
「ふうぅ……っ」
「俺のを舐めてるうちに、触ってもいないのに、勝手に感じちゃってたのか?亜美はエッチだな」
「ちが……っ」
 ふるふると顔を振るままにさせておき、掴んだ膝頭を支えながら床に下ろした。俺の頭の反対側に。
 亜美の股が、俺の顔をまたぐように。
「こいつはいい景色だな、亜美」
「やぁ……恥ずかしいよぉ」
 俺の視界の大部分を亜美の下半身が占めている状態だ。そのしとどに濡れた下着ごと、俺は亜美の尻にむしゃぶりついた。
「ふぁうっ!?」
 予想外の手順だったのだろう。亜美がほえるように声をこぼし、俺の下半身に倒れこんだ。
 スカートは汚すわけに行くまいがパンツはすでにぐしょぐしょで、今から手心をくわえたところでどうにもならない。後で洗って干すか、手近の店でなにか買うしかないだろうと開き直り、湿った布地もろとも亜美の花芯を口に含んだ。
 ものも言わず両手で尻を抱き込み、口中で彼女の股間を愛撫する。下着の隙間から舌を差し入れればその内奥は熱い糖液で満たされ、両の唇で絞るように力をこめれば、スポンジケーキのようにしとどに蜜をあふれさせる。
「ああ!に、にい、っ……ふゃん、んんんっ、んふうっ」
 染み出してくるジュースの全てを飲み、啜り、味わいつくしながらさらに刺激を与え続ける。亜美の蜜壷はあとからあとからそのかぐわしい粘液を生み出し続け、こちらがごくごくと喉を鳴らしていてさえとどまることを知らない。
「亜美、亜美、俺の亜美」
「あふっ、くう、ぅ、あぅううんんっ!」
 水音の合間に愛を囁くと、まるでここに鼓膜があるかのように反応をする。言葉と舌と唇と、顔中を使って可愛い恋人を愛撫しまくり、ふと気づいた。
「おいおい亜美、なんだよ」
「あ、ふ……?」
「もう口が疲れたのか?すっかりお留守じゃないか」
 俺が攻勢に出てから亜美の口戯が止まっていた。
 快感に押し流されて何も考えられなくなったのだろう。嬌声を洩らしながら俺の動きのまま、顔をペニスに擦り付けるにまかせている。
 一時は危ないリミットまで昇り詰めていた俺もどうにかコントロールを取り戻し、おおむね思惑通りといったところだ。
「ふわぅ。あむぅ」
「んっ」
 言われて思い出したのか、急に手を伸ばし、両手でつかんで頬張った。
「に、兄ちゃんは、亜美の、キャンディなんら、からぁっ」
 強く吸われ、息を呑む。今度は手の動きも加わって、快感も刺激もさっきとは段違いだ。
「ぷふぁ。んふふ、こっちも、おいしそ」
「な、なに、が?」
「ちゅっぱちゃーっぷす。2ーコっ」
 ……玉、か。まるごと口の中で転がされ、比喩でなく俺そのものがこねくりまわされているような感覚を味わう。竿のほうも手で強くこすり上げられ、股間がまるで別の生き物になって暴れまわっているようだ。首をリズミカルに動かしながら、次第に強く攻め立ててくる。
「ん、ぐちゅ、くちゅ、っぷ、ぅぐ、んぐ、っ」
「亜美……お……俺も……っ」
 意識が遠のきそうなのをむりやり掴み戻し、俺も亜美の尻にむしゃぶりついた。足を開かせているので下着を脱がせられない。片手で大きく引き伸ばし、秘められた部分を天井の蛍光灯に曝した。
「ふゃあ、っ?」
「亜美だって俺の砂糖菓子だよ。甘くてやわらかくて最高に旨い、極上のロリポップだ……っ!」
 無我夢中で小さいクレヴァスに舌を突っ込む。入口の双門はさながらマシュマロ、内側でひらめく襞はマジパン細工の繊細さ、唾液でとろかせば甘くやわらかく波打つ。
 練りこむように舌をなぞり、くねらせ、折りたたむ。
 とめどなく湧いてくる甘いシロップを掬い取り、飲み下す。
 もう一息で一番奥のジェリーにさえ届きそうだ。口全体で甘噛み、揉みしだき、1センチでも1ミリでも奥へ進もうと舌を先へ先へ突き出した。
「ぷぁ。ひゃふぅ、ふぅ、にい、ひゃん」
「……亜美」
 口いっぱいにほお張ったまま、亜美が俺を呼んだ。
「好き、らよ、にいひゃん」
「俺も……だ」
 俺も顔をうずめたままだ。自分で思っているように発声できているとは到底思えないが、それでも続けて言い放った。
「大好きだ、亜美。愛してる、亜美」
「にい……ちゃぁんっ」
 再び口を睾丸からペニスに戻し、まっすぐに飲み込まれたのが感触でわかった。
「んう、んぐ、ぐぐぅ」
「あ……み、っ?」
 勉強していたというのが、これか。
「ん、んっく、んぐぅっ」
「ぐ、う……亜美……すごい、な」
 ディープ・スロート。俺自身はすでに亜美の口の、頬の、喉の奥にすっかり飲み込まれていた。
 俺の声が届いたのか、勢いづいて次第に強く早くなってゆく。こちらも夢中で舌を動かし、小さな部屋は今また粘っこい液音と荒々しい呼吸音で満たされてゆく。
「んっ、んん、ふぅう……んっ」
 亜美の鼻息が変化したのとほぼ同時に、俺の舌が新たな味覚を感じ取った。それまでの刺激の強い甘酸っぱさがあるジュースに、ほろ苦いカラメルシロップが混ぜ込まれていくようだ。理由はよくわからないままに、頂点が近いのだろうと察した。
「亜美、いいぞ、イッて。俺ももうすぐだ」
「ふ……ぅん、なっ……なら、にいちゃんも、いっしょ、に……っ」
「ああ、もうすぐだ、亜美。いくぞ、亜美、もういくぞっ!」
 亜美の喉の締め付けが一段と強くなる。俺も口戯に一層力を込める。二人の体がゆさゆさと揺れ動き、ところどころで小さく痙攣し、その波は次第に大きくなってゆく。
「んふうっ!」
 次の瞬間、亜美の体がびくんと跳ねた。開かせていた膝が強く閉じ、俺の顔を挟み込む。
 大きくあえぐさなかでも離さない口の、その感触は強く優しく激しく弱く、俺を締め付け蠕動し、こちらももうたまらなくなる。
「亜美、亜美、もう、出……っ!ぐ、うう……っ!」
「にい……んんっ、くふぁ……ふあああぁぁぁっ!」
 俺の欲望の果てはそのまま亜美の口中に発射され、、細かな痙攣を幾度も繰り返した。受け入れ切れなかった分が垂れているのだろう、腹にぽたぽたという温かい雫を感じる。
 そこに覆いかぶさるように、力を失った亜美の顔が落ちてくる。咥えていたペニスも口から抜け落ち、軽く咳き込む音と嚥下の音が幾度か繰り返された。
「……けぷ。兄ちゃんの、いっぱいすぎるよぉ」
「無理して飲むことないんだぞ?」
「ムリしてないもん。おいしいもん」
 残すまいとしているのか、俺の下腹部に落ちた分を舐めとってゆく。ぺろぺろと舌が俺の不摂生な腹の皮膚を刺激し、先ほど精を撃ち干した逸物に再び力が入りそうになる。くすぐったいようなむず痒いような感触になんとか耐えるうち、どうやら掃除が終わったらしい。
「ん、こくん。……兄ちゃん、ごちそうさま」
「なんかおかしいな、それ」
「んふふ、でもお腹いっぱいだよー。兄ちゃん、ずっとタマってたの?」
「ん……なんとなく、かな。しようって思えばできたけど……」
「けど?」
「亜美がいない所でするの、なんか亜美に悪い気がしてさ」
「えー?えへへ」
 その後は、二人で仮眠室の片づけをした。布団をしまい、空気を入れ替え、身支度を整える。
「スカート大丈夫だったか?気をつけてたけど」
「ん、ありがと。ヒガイシャはパンツだけでござる」
「どうする、どっか店でも寄って」
「ああ、だいじょぶだよ兄ちゃん。ちょっと行ってくんね」
 気になっていたことを訊ねるとあっけらかんと笑って、ロッカールームのほうに走っていった。予備でも置いていたのだろう。しばらくして汚した下着も洗ったようで、ちいさなポーチをカバンに詰めながら亜美が戻ってきた。
「そろそろ帰らなきゃな。車とってこよう」
「送ってくれるの?兄ちゃん」
「ああ、初めからそのつもりだったしな」
「やった」
「だけどはしゃぐなよ?車は外から丸見えなんだからな」
「うへえい」
「んー……そうだな、だから」
「?どしたの?兄ちゃん」
 実際、新聞や写真週刊誌のことを考えると事務所の外で俺と亜美が必要以上に近づくのは危険だった。
 だから。
「ん」
「……んふっ。ん、んんっ」
 だから、ここでするキスが本日最後の逢瀬だ。

****

 亜美の家への道はとくに渋滞もなく、少し残念だが時間をかけずに彼女を送り届けることができた。
 事務所からご両親には電話をかけ、心配ないと伝えてある。真美は一人がつまらないのか雪歩の家へ遊びに行ったそうだ。真美には亜美から連絡してもらうことにし、亜美には今日は素直に早く寝るよう念を押した。
「ちぇー。つまんないの」
「本調子じゃないのもほんとだろ。それに体力も使ったわけだし」
「えへへ」
「だからちゃんとメシ食って、たくさん寝て、早く元気になれ、な」
「うん、兄ちゃん」
 玄関先まで送ろうと申し出たが遠慮された。こんな時間でも路上駐車は危険だし、なにより俺も別れがたくなるので正直ありがたい。
 亜美が後部座席から降り、助手席のドアを開けて置いていた荷物を手に取った。
「じゃあな、また明日な。いろいろ持ってくるもんもあるが、よろしく頼む」
「うん、ばっちりだよ」
 衣装の参考用に、亜美たちの普段着を何着か持参してもらうことになっていた。そのことから先ほどのことを思い出す。
「そういえば、さすが女の子は用意がいいな」
「ほぇ?なんのこと?」
「ほら、さっきの……さ。俺もワイシャツの替えくらい置いてるけど、下着まで準備してあるとか」
「……?ああ、パンツのこと。え、兄ちゃん亜美がパンツはき替えてきたと思ってたの?」
「え?」
 ……なに?思わず相手を見つめ直す。
「いやぁ……ほらさ、初めは洗って絞ってはこうかなって思ったんだけど、やっぱ濡れたまんまのヤだったし兄ちゃんたぶん亜美のこと送ってくれるかもだったし、だからさ」
 頬を染めてあたりを気にしながら亜美は助手席のドア枠にかがみこみ、片膝をくい、と持ち上げた。反射的に意識がそちらへ向き、視線が釘付けになる。
「だから……『そのまんま』で来ちゃった。えへへ」
 亜美はスカートの下に……何も着けていなかった。
「……おっま……」
「んふふ、じゃーね兄ちゃん、おやすみー!」
 荷物をかっさらい、勢いよくドアを閉め、たたたと足取りも軽く駆けて行く。俺は車に取り残されたまま、まあ、あのスカートなら走っても捲れたりしないしな、などとぼんやりと考えさせられることとなった。
 ハザードの音だけが響く車内で、数分だろうか。突然手元の携帯にメールが着信して我に返った。
「ん?亜美?……ぶは!?」
 忘れ物でも、と本文に目を通し、思わず噴き出す。亜美からの伝言は、こんな内容だったのだ。
『兄ちゃんへ。さっきの、憶えておいて『使って』も、いいよ?あんまりタメないよーにねっ』
「バッカじゃねーのか、まったく」
 メールを削除し、悪態をついた。もっとも、自分の頬がゆるみ切っているのは自覚しているが。
 さて、事務所に戻って仕事の続きだ。担当アイドルのため……大切な恋人のためとはいえ、少々休憩し過ぎた。終電ギリギリまでは書類仕事を頑張り、ともかく帰宅して、……そうだな、寝る前に亜美の助言を実践してみようか。
 ニヤニヤ笑いが止められない。電車移動でなくてよかった、と思いつつ、俺は車をUターンさせた。





おわり

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