ラブライブ!派生キャラ チュン(・8・)チュンのまとめwikiです。

全ての始まりは、私の恋人であるTが変死を遂げたことだ。
いや、より正確に言えば、作家である彼が雑誌の取材企画のために、南米はアマゾンの熱帯雨林を訪れたところからだろうか。
帰国後、Tは森を探検途中、誤って食糧の入った鞄を川に落としてしまい、仕方なしにその場で捕まえたチュンチュンを食べたことを私に告白した。
チュンチュンといえば、それこそ現地に住む未開の原住民ですらその肉には手を付けない害獣だ。
体のほとんどは脂身で栄養素など皆無に等しく、また臭みと呼ぶにはあまりに耐え難い悪臭を放つ。チュンチュン自身が偏食であるお陰で味も酷いものらしい。

私は、その告白に驚くと共に、そんな状態でよくチュンチュンを捕まえられたね、と感心してみせた。
ここ数百年で、チュンチュンが世界の大半の人々から忌み嫌われ虐げられる嫌悪の対象となってから、チュンチュンの側もそれを学習したのか、
人の姿をちらと見るだけで一目散に逃げ出すようになってしまった。
昔はよく見られたという、ものを知らぬ幼い子供とチュンチュンたちが戯れる光景は今日び、まだ自然の多く残る田舎の方でも滅多にないことだ。
彼が言うには、空腹に耐えかねて地べたに腰を下ろし休んでいると、目の前にある大木の影から、じっとこちらを見つめている大柄なチュンチュンの姿に気付いたのだという。
そのチュンチュンは彼が近付いても別段慌てる素振りすら見せず、まるで自分に食べられるのを待っていたかのように、大人しくその身を差し出したのだという。


それからすぐのことだ、Tの様子が目に見えておかしくなったのは。
最初の異変は、彼の帰国を祝したデートのとき。
予約していたレストランで、厚切りステーキを3皿ぺろりと平らげたTは、まだ1皿の半分ほどしか食べていなかった私のを見て、それ頂戴と言ってきた。
呆気にとられている私の前で、彼は一口で肉を頬張りながらウェイターを呼び、さらにおかわりを要求した。
その日から彼の右手には常にポテトチップスの特用袋が握られることとなった。
仕事場である自宅マンションの部屋には、資料に混じってカップ麺の段ボールが山と積まれ、冷蔵庫の中身はチーズケーキやマカロンといった甘味で埋め尽くされた。
外食ともなれば、その店のメニューを片っ端から食べ尽くす勢いで注文する。
健啖家と呼ぶにはあまりに旺盛過ぎる食欲。元々のTは、私よりも細身だったのに。
日に日に達磨のように肥え太り、ずんずん肥大化していく彼を見て、私は心配よりも一種の恐怖を感じずにはいられなかった。

異変はそれだけに留まらない。彼は、出国前の消極的な姿勢とは打って変わって、毎夜絶えず私の身体を求めてくるようになった。
最初は彼の恋人として嬉しくも感じたが、日を追って醜く変容していく彼の姿形を前に、私は次第に行為を拒むようになった。
するとTは唐突に、日中私の職場に押しかけてきた。何事かと思えば、この場で今すぐに君を抱きたいなどとのたまう。
まるで万年発情期といった風情だ。流石に激怒した私は半ば強引に彼を追い払い、しばらく連絡を絶ったのだ。


あれから何日経ったろうか。私の頭はとっくに冷却され、むしろ自分の態度はまずかったと思い始めていた。
帰国後の彼の行動はどう考えても異常である。アマゾンの森で、彼に何かが起きたのではないか。
彼の変化の、その原因を突き止め、真摯に今の彼と向き合い、一緒に問題を解決すべきだったのでは?
そう考えると居ても立っても居られず、彼のマンションを訪れる。が、留守であった。
何か胸騒ぎを感じながら、Tの携帯に電話をかける。ややあって、彼が出た。
「もしもし、私だけど。あの時はごめんなさい。会いたいんだけど、今どこにいるの?」
「さあて、どこだろうね……んぐっ、うまい」
「あなた、また食べてるのね。食べすぎは命に関わるのよ? お願いだから、ほどほどにして…」
『ヤンヤン!』
「!?」
その時、私はスピーカーの向こうに、チュンチュン特有の、あの甲高い耳障りな鳴き声を聞いた気がした。
「うるさいぞ。静かにしてくれ。囀りがよく聞こえないじゃないか」
「何を言ってるの…? 今のって、チュンチュンの鳴き声?」
「ああ、そうだよ。僕は今、チュンチュンたちと暮らしているんだ。たくさんの、守護天使たちと」
「あなたが、チュンチュンを…?」
信じられなかった。
彼がアマゾンでチュンチュンを食したと聞いたときも同様の思いだったが、あの時は空腹で死にそうだったという前提条件があった為、まだ納得できたのだが。


なぜなら彼は、病的なまでの(・8・)恐怖症(チュンチュンフォビア)だったからだ。
映像や写真はおろか、チュンチュンという単語を聞いただけで渋面を作り、あんなやつらは一匹残らずこの世から消え去ってしまえばいい、と吐き捨てるほどに。
彼が幼少の頃、住んでいた田舎で、チュンチュンという生き物の、何かひどくおぞましい生態を目撃してしまったのが切欠だと、漏らされたことがあった。
それ以上は口にするのも憚られるらしく、詳しくは教えてもらえなかったのだが、とにかく。

『オナカスイタチーン!』『ヒナチンガナイテユチュン!ハヤクチーユケーキモッテクユチュン!』『ピュワピュワ〜ラビュラビュ〜♪』『マーピヨ!マーピヨ!』『ウンチュンデタチュン』『クチャイチュン!ハヤクカタスチュン!!』『ハノケチュン!!ハノケチュン!!』
耳を澄ますまでもなかった。最低でも十数羽、恐らくはその倍以上のチュンチュンたちの姦しい話し声が私の鼓膜を乱暴に犯し、思わず携帯を耳から離した。

――彼は、こんなやつらに囲まれて生活を?

「お願い、どこにいるか言って! このままじゃあなたの気がふれてしまうわ!」
「ちょっと待って……ああ、聞こえてきた。聞こえてきた」
「聞こえるって、何が? 私にはチュンチュンの鳴き声しか聞こえないわ」
「それこそが天使の囀りだよ。チュンチュンの声が、こんなにも心地よいものだったなんて、僕は知らなかった」
「は…?」
まさか、彼はもう、とっくの昔におかしくなって――恐ろしい想像が頭をよぎる。
「もう切るよ。この囀りを、一時たりとも聞き逃したくない」
「待っ」
「――ブツッ」



それから数日後、彼のマンションから見つけた手がかりを元に探し当てたとある貸倉庫の中で、
私は変わり果てた恋人の遺体を発見した。

.





「さてさて」
男は、恋人からの電話を切ると、自らを囲むように配置した幾つもの飼育ケージの方へ目をやった。
『チーユ!チーユケ-キマダチン!?』『ハヤクスユチュン!!モウマテナイチュン!!』
「はいはい。今あげまチュからね〜」
猫撫で声でそう言うと、広い貸倉庫内の隅の置かれた大型冷蔵庫に貯蔵されたチーズケーキを取りに行く。
今や、ペットのチュンチュンたちとそっくりな、ほとんど脂肪の塊となった彼には、その往復にもひどく時間を要した。

『オショイチン! イチュマデマタセエバキガスムチン』『オンナノコヲマタセユナンテイイドキョウシテユチュン。プン!プン!』
普通の人間なら殺意を覚えるようなチュンチュンたちの抗議を涼しい顔で受け流すと、ケージの蓋を開き、彼らの好物を差し入れる。
途端にケージ内のチュンチュン一家はその塊目掛け一目散に突進すると、欲望の赴くまま頭を突っ込んで汚らしくも食べ散らかし始める。
「ふふ、たんとお食べ」
なんて微笑ましい光景なんだろう。いつまでもいつまでも、眺めていられそうな。
と、ここで一匹の好奇心旺盛なピヨチュンが、ケージに入れたままの男の指に掴まると、そのまま這い上ってきた。
生まれて間もない、ただでさえこんな環境で人間への警戒心が薄いことに加え、そんな我が子を保護すべき立場の親鳥が目の前の食べ物に夢中になっていることもあって、
そのピヨチュンは何の障害もなく男の手の中に収まると、そのままケージの外へ連れ出された。
『ピヨピヨ♪』
指先で軽く産毛を撫でてやると、ピヨチュンは気持ちよさそうに目を細めた。それから小枝のような細足で、頼りなさげによちよちと、彼の掌の上を歩行する。

――ああ、なんて可愛いんだチュンチュン。


以前の自分なら、こうしてチュンチュンが一部でも自身の身体に触れているというだけで全身が粟立つ思いだったろうが、今は違う。
チュンチュンの一挙手一投足が、こんなにも愛らしいものだったなんて。その鳴き声がこんなにも癒しと安息を与えてくれるものだったなんて。
それを教えてくれたのも全部、あの囀りのお陰だ。あの囀りが、全てを変えてくれた。
囀りは、無事帰国して一息ついていた時、突如として彼の脳内に直接語りかけてきた。今も時折、そのハスキーボイスは男の頭の中に何の前触れもなく反響する。
囀りは、常人なら耐えられないであろう、数十匹のチュンチュンたちが一斉に喚き立てる不協和音を、心地よくも澄み切ったセイレーンの妙なる調べに変える力を持っていた。
そうしているうち、男には、チュンチュンの発するキンキン声が、その調子っぱずれな歌声が、自らを守護する天使の囀りと同様のものに聞こえるようになっていった。
こんなにも沢山の守護天使たちに囲まれて、自分はなんて幸せな人間なのだろう。

――そういえば、まだ彼女には名前を付けていなかったな。

男は自分の掌を転げまわって遊んでいるピヨチュン――サオリチュンの様子を眺めながら思った。
現在飼育しているチュンチュンには全て、ケージとリボンの色で識別して固有の名を命名している(チュンチュンは、同一のケージ内では決して同じリボンの個体を作らない)。
しかし彼女――男のチュンチュン観を変えてくれた頭の中の守護天使には、名前がなかった。
チュンチュンの声を天使の囀りと同一視し始めた彼は、頭の中にもチュンチュンを一匹飼っている気になっていたのだ。
「ハノケチュン…」
その名は、自然と口をついて出てきた。チュンチュンが発する人語の中で、これまで唯一何を差しているのか理解できなかった単語。
もしかしてこれは、チュンチュンたちの信奉する女神のことではないだろうか?――きっと、そうに違いない。
半ば確信めいて、男がなんの気なしにその場で一歩を踏み出したその時、バランスボールさながらに膨れ上がった胴とは対照的に、
枯れ枝のように細く短く退化した足が、倉庫の床に散乱していた食糧の空き箱を踏ん付けて滑った。
バランスを取ることなど叶わず、男の巨体が前のめりにつんのめる。


『ピヨッ?』

――いけない、守護天使を守らねば!

転倒しながら、自分の身よりもチュンチュンの保身を第一に考えた男は、その短い時間で精一杯ピヨチュンを包んだ両手を振り上げようとし――
ずしんと、音を立てて男の身体が床に叩き付けられる。と、同時に、男の口内に、生温かい感触が広がっていった。


僕は、なんてことを――

自分が、ピヨチュンを顎で押し潰してしまったことに気付くのにさほど時間はかからなかった。
あろうことか、その一部が口内に侵入し、ぬるぬるした血液とぐちゃぐちゃになった肉片とが舌の上で混じり合って泡立つ不快な感触が――不快?なにが?
確かに、味は酷いものだ。だがこの食感は――悪くない。いやそれどころか、他に類を見ない逸品ではないか?
もっと――男は、掌の中に残ったピヨチュンの、かろうじて潰れることを免れた半身を一気に口に含んで、噛み締めた。
ぷちっと、その肉が弾け、ふさふさで少しちくちくとした産毛の隙間から、どろりとした何かがゆっくりと舌先を優しく撫ぜる。
それとは別に、ブシュと、炭酸飲料の蓋を開ける音にも似た噴出音と共に、ゲル状の物質が先程の食感を上書きし、
その苦渋味に満ちた吐き気を催す味覚に、男はむせ返りそうになり――すぐに唇をきゅっと結ぶと、一滴残らず飲み込んだ。

なんて、最高なんだ。ああ、僕は今天にも昇るような、この上なく最高の気分だ。
床に這いつくばったままの姿勢で、そのコンクリに付着したピヨチュンの残滓を舌を使って残らず舐めとる。
あの時、アマゾンの森でチュンチュンを食べた時は、色々な感覚が正常に働かなくて、味なんて分からなかった。
何て勿体ないことを。もっと早く、これに気付いていれば。


『チュン…? ピヨチュンイナクナッテユチュン! ピヨチューン! ドコイッタチューン! デテクユチューン!』
御馳走を残らず食べ尽くしたところでようやく我が子の不在に気付いた危機感のないお馬鹿鳥のお間抜けな呼び声が聞こえてくる。
ゆっくりと、男は立ち上がってそちらの方へ顔を向けた。
『チュン! ピヨチュンドコヘヤッタチュン! ハヤクカエサナイト オマエヒドイメニアワスチュン!』『ピヨチンカエスチーン!』『ピーヨー!!』
ぷりぷりと頬を膨らませ、傲慢な口調で男を罵っていた親鳥が、はたと何かに気付いたようにその嘴を閉じ、目を瞬かせた。
男の口の端に、血に染まったピヨチュンの産毛がこびり付いていたのを見たのだ。
『マシャカ…』
その顔がみるみる青ざめていく。そんなチュンチュンを尻目に、男はケージの蓋をあけると、無造作にもう一匹のピヨチュンを掴み取った。
『ピーヨー!! イタピヨ! ハヤスピヨォ!!』
『ヤメユチュン!! ピヨチュンカエスチュン!! ヤンヤン!!』
必死にジャンプしてピヨチュンを取り返そうとするも、すぐ届かないところまで持ち上げられ、今度はケージから出ようとその壁に突進し『ヂュブッ!』と情けない声を上げてその場でひっくり返る。
男はピヨチュンの尻の方を前にし、ハンバーガーにかぶりつく様に大口を開け、それを咥えてみせた。
『ヒナチューン!! オネガイダカヤヤメテェ!! オネガァァイ!!!』
『ピーヨピヨーー!!!マーピヨタスケピヨォォォォ!!』
ああ、嗚呼、守護天使の囀りが、脳内だけでなく口内にも広がっている。これをさらに身体の中に取り込めるなんて――そうだ、このまま飲み込んでみよう。
男は舌先を器用にピヨチュンに絡めると、そのままごくんと嚥下した。流石にむせて、喉に引っ掛かったごわごわとした感触を、大量の水で一気に流し込む。
そして、直後に襲ってきたこの上ない多幸感を伴った快感に、彼は、ほとんど射精する寸前だった。
丸呑みにされたピヨチュンの断末魔――即ち天使の囀りが、彼の喉から食道、さらに胃袋の中へと移動しながら、彼の全身を内側から満たしていった。


「もっと、もっと――」
『ヤンヤンヤンヤン!!!』『ママチンタスケテチーン!!』
気がふれたセサミストリートの青い怪物を思わせる焦点の定まらない目つきで、口周りについた血と羽毛を舐めとって、男はケージに手を伸ばす。
『ヤメテ!ヒナチュンアゲユチュン!! ダカヤチュンチュンノコトタベヤイデ!!』『チン!? ママチンナニイッテユチィン!!?』
我が身かわいさに自分の雛を差し出したチュンチュンの手羽から乱暴にそれを奪い取る。
ブチリと雛チュンの片方の手羽が千切れて、子は痛みに泣き叫び、親鳥は手元に残されたその残骸を『ヤンヤン!!』とケージの床に投げ捨て、血の付着した手羽を必死に擦り合わせ始めた。
今度もまた、雛の表情を親に見せるつけるように唇に挟み、徐々に圧を加えながらゆっくりと押し潰してゆく。
『イ゛ダヂィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛!!!! マ゛マ゛ヂン゛ダズゲヂッ…!!!!』
『チュン…チュン…ヒナチュンゴメンチュン…』
歯と歯の間で激しく片手羽を動かして絶叫する雛チュンと、その光景から、頭の両脇を手羽で押さえ、
瞼をぎゅっと閉じて震えながら目をそらす親鳥の消え入るような泣き声が、再び男を興奮の高みへと上り詰めさせる。
今度は時間をかけてじっくりと味わったことで、男は死せるチュンチュンの体から噴き出す糞便とその肉とでは、味に大した違いがないことを理解した。
ぼりぼりと骨を噛み砕いて咀嚼し終えると、最後に残った親鳥のサイドテールを引っ張ってわざと大きな悲鳴をあげさせてみた。
『ヤンヤンヤンヤン!!!! ヤクソクガチガウチュン!!!! チュンチュンノコトハタベナイッテイッタチュン!!!! ヒッパヤナイデェ!!!』
ポケット英和辞典ほどあるそのぶにぶにした塊を両手で掴み上げ――この子は流石に一口じゃ無理だな――取りあえず頭に齧りつく。
『ビィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛!!!!!!!!! ヂュヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!!!!!!!!』
成鳥だけあって、毛の量が多く中々皮膚にたどり着けない。ぐいっと顎に力を込めて噛み千切ろうとするも、
厚手の手袋をかじったような歯ごたえと一緒に、僅かばかりの頭皮とサイドテールの毛がリボンごとぶちぶちと音を立てて引っこ抜けただけ。
『ヤメデェェェェェェェ!!!! オネガアアアアアアアアイ!!!! ヤンッヤァァァァァァァン!!!!!』
短い手羽を必死に振り乱して無意味な抵抗を続け、羽毛と涙とを撒き散らすチュンチュン。
その頬に、男は舌を這わせる。チュンチュンの涙は、人工甘味料の味がした。
さあ、この子をもっと取り込みやすい大きさに切り分けよう。そのための道具は、奥にある。


本当は包丁かナイフがあれば手っ取り早かったのだけれど、無いものは仕方がない。
冷蔵庫脇の作業台で、熱々に熱した半田ごての先端を、台に縛り付けたチュンチュンに近付ける。
それだけで何をされるか理解したチュンチュンが、再び喉が張り裂けんばかりに絶叫する。
『ヤ゛ン゛ヤ゛ン゛ヤ゛ッ…ヂュギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!』
「〜♪」
チュンチュンの皮膚に半田ごてを押し当てて穴を開け、そのまま奥まで突っ込んでからずぶずぶと横方向に切開していく。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!!!!!ヂュヴヴヴヴヴヴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!!!!!!』
そのうち男は、半田ごてをあてる箇所や切り開く速度を変えることで、チュンチュンの悲鳴の音程や音階も変わることに気付いた。
これで囀りも異なる種類のものを聞くことが出来る。新たな発見に彼はますますもって陽気になり、いつしか自然と鼻歌を歌っていた。
それは次第に明快な歌詞を交えたものとなり、手の中の執刀用具がそれに合わせてリズムを刻む。
「スキスキ、プワプワ〜」
『ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァァァガッ…!!!!』
囀りが突然途絶えたことで、彼ははたと気が付いた。
作業台に載っているのは、もう、ほとんど蜂の巣と変わらない密度でみっちり穴だらけにされ、ぶすぶすと灰色の煙を立ち昇らせるチュンチュンの焦げ臭い骸であった。
しまったな。解体するつもりが、つい楽しくて、蓮の花みたくしてしまった。
チュンチュンとは別に、以前は鳥肌が立つほどの嫌悪感を覚えたその様相すら、今の彼の瞳には百億ドルの夜景と違わぬ素晴らしい眺めに映っていた。
ともかく、もう少し冷ましてから、この子もいただくとしよう。
この調子で、全身をくまなく守護天使で満たすことが出来れば、その時は――
「ハノケチュン、そこにいるの?」
もう何度目になるか分からない、脳内に直接響くあの囀りが――女神の声が――より近い場所で、よりはっきりと、自分を導いてくれている気がする。
いつの間にか、股間が生温かく湿ってた。全てが、心地よい。もう、脳ごと蕩けてしまいそうだ。
「ハノケチュン…今そっちへ行くからね」
恍惚の表情でそう呟くと、これまでの惨劇を目にしてケージ内で喚き、失禁し、泡を吹いて昏倒し、ショック死寸前まで震えあがっているチュンチュン達の方へ向き直る。
逃げ場のない倉庫という檻のなかでギンギンと反響するチュンチュンフィルハーモニー交響楽団の重厚な演奏はリビドーのボルテージを極限まで高め、
その絶え間ない快楽物質伝達の奔流は男の脳細胞をショートさせる一歩手前まで酷使させていたのだが、しかし――おいおい、ここでやめるのかい? ふん、まさか。

――聖餐は、まだまだ始まったばかりだ。

つづく


「聖餐は、まだまだ始まったばかりだ。」

Tの遺書ともいえる手記はそんな言葉で締めくくられていた。
彼の亡骸を発見したあの日以来、悪夢のせいでほとんど眠れぬ夜が続いている。食事も碌に喉を通らない。

その原因はもちろん彼の、かつて恋人として愛した男性の、あまりにも変わり果ててしまった最期を見てしまったことに他ならない。
あまりにも変わり果てた――それは文字通りの意味だった。貸倉庫の冷たい床で大の字に伸びていた彼の姿は、もはや人間のそれではなかった。
もう、思い出したくもない。しかし、毎晩夢に出てくる彼はあの姿をしていて――

恐ろしい、あまりに恐ろしい。だがそれ以上に、許せなかった。
Tはその姿になってから、どのくらいまで生きていたのだろう。彼を歪ませ、死に追いやり、自分の元から奪った“何か”が恨めしい。
その“何か”の正体を突き止めるべく、死体発見の翌日から私は奔走し始めた。
警察はあてに出来ない。遺体の第一発見者でその関係者である私に、一切の捜査状況を明かさず箝口令だけを押しつける彼らには。
もっとも、あんなものを前にして、それは無理のない判断だったが。

そして、数々の紆余曲折を経て、私はついに事の真相を全て知る人物との接触に成功した。


それは××大学で、線虫研究を専門とするKという教授だった。
なぜ今回の事件に、線虫マニアであるこの男が関わってくるのか。
それは司法解剖されたTの体内から、多量の線虫が発見されたからだ。それも今までになかった新種だという。
私に発見された時点で、Tの全身は、いたるところその線虫の住処となっていたのだ。
「俺はこの線虫を、仮にブラジル脳線虫と名付けた。理由は分かるだろ?」挨拶もそこそこにKは切り出した。
「ええ。Tは、取材に行ったアマゾンでこの線虫に感染したんですね」
「その通り。俺の考えでは、この線虫は元々は彼が嫌々食したというブラジル産チュンチュンを宿主としていた可能性が高い、というより間違いないだろう」
「どうして、そう言い切れるんですか」
「それはまあ、色々実験してみた結果さ。さてどこから話したものか」
「……論より証拠というし、まずは実物を見てもらおうか」
そう言って、彼は私を自分の実験ラボに案内した。


『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『ヤンヤン!!ハヤクマカヨンモッテクユチュン!!』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』
「っ――!」
ラボに入るなり、小生意気で微塵の可愛げも感じられぬ濁声の嵐が一斉に鼓膜を揺さぶった。
室内には大量の飼育ケージが置かれ、そこでは信じられない数のチュンチュンが、もれなく腰のあたりをカクカク小刻みに動かしながら、やんやんやんと思い思いに喚き立てていた。
ここは、この世の掃き溜めか何かか――Kから差し出された無線付きイヤーマフをすぐに装着する。耳を塞ぐものが無ければ、ものの十秒と経たないうちに発狂してしまいそうな空間だ。
「どうしてこんなにたくさんのチュンチュンが?」
「君の恋人から取り出した線虫をやつらに感染させて、どうなるか観察するためさ」
こともなげに言ってのけると、Kはケージの一つを掴み、足早に出口へ向かう。慌てて私もそれに倣う。こんな場所に一人取り残されたのではたまったものじゃない。
研究室に戻ると、早速彼はケージの蓋を開き、中のチュンチュンを一匹取り出してみせた。
『ヤンヤン!!モットヤサシク タイセチュニアチュカウチュン!!チュンチュンハカアイイオンナノコチュン!!』
この醜いなりで、何が可愛い女の子だ。Kの掌に収まりきらぬほど肥大化したそいつは、ふてぶてしく台の上に寝転がると、『オナカヘタチュン!!チーユケーキモッテコイチュン!!』と要求した。
「どうぞ、殴ってみて」
「え?」
「こいつら見てるとムカつくでしょ?ほら、早く」
「それはそうですけど、これは仮にもあなたの実験動物で」
「これが実験です、さあ」と、手袋と保護ゴーグルを渡して催促する。
「そこまで言うなら」と、それらを身に着け、ここしばらくの溜まりに溜まったストレスをぶつけるように、そのぶくぶくに膨れ上がった樽腹に思い切り正拳突きを打ち込んでやった。
『ヂュブッ!!!』


『チューーーン!!!!』
「え?」
見間違いか?こいつ今一瞬、喜色に満ちた笑みを浮かべたような――
『ソンナノチュンチュンニハゼンゼンキカヤイチュン。チュンチュンオマエヨリチュヨイチュン』
「このっ!」
激情に駆られて固めた握り拳を、今度は脳天めがけ振り下ろす。
『ヂュバッ…!!!』と、癖になりそうな呻き声をあげ、チュンチュンの体が台の上を跳ねて転がった。
ごろりと、小法師の様に起き上がったチュンチュンの頭部には、はっきりとこぶのような鬱血した膨らみが出来上がっていたのだが
『イタクモカユクモナイチュン。オマエ ヨワムシチュン』
もう限界だった。気が付けば私はチュンチュンを何度も何度も殴打し叩き潰し、羽毛を滅茶苦茶にむしっていた。
「はっ」
ようやく我に返ってみれば、目の前の糞生意気なチュンチュンの嘴は折れ曲がり、片方の瞼は腫れあがて開かなくなり、
両足はあらぬ方向を向いて、手羽は骨が露出するほどに肉ごと毛が引き抜かれていた。
『ピュワピュワ〜ラビュラビュ〜』
私は心底から戦慄させられた。この状況で、自分の様態などどこ吹く風といった調子で陽気にオウタを歌うチュンチュンの尋常ではない様子に。
「これだ、これだよ」
Kは狂気のチュンチュンをむんずと掴むと、濃硫酸が入っているというビーカーの中にそいつを沈めた。
じゅわじゅわと気泡が弾け、瞬く間にその首から下が真っ赤に染め上げられていく。
それでも、チュンチュンは最期の瞬間まで、相変わらず調子はずれなオウタを調子はずれなまま歌い続けて、突然血反吐を吐いてこと切れた。
「見ての通りだ。こいつらは自らが傷つくこと、死ぬことを全く恐れていない」
「なんですって?」
「ブラジル脳線虫に感染したチュンチュンは、恐怖を快楽に感じてしまうんだ。そして、それは人間にも同じことが言える」
「そんな、まさか…」
「説明しよう」


Kのブラジル脳線虫講義を簡易的にまとめるとこうだ。
この線虫は、ヒトをはじめとする霊長類、もしくは、低能な割に何故か人語を解することの出来るチュンチュンの脳に存在するA10(快楽)神経に干渉し、
宿主が感じた恐怖をそのまま快感へと転換させてしまう。
それは宿主をより強大な天敵に捕食させるためで、ブラジル脳線虫はこの方法を用いて広く快適な住処へと次々移動していく。
そのための格好の仮宿として彼らが目をつけたのが、自然界の食物連鎖の最下層に位置するチュンチュンだったというわけだ。
「ちょ、ちょっと待ってください」
理屈は分かったが、まだ納得はできない。チュンチュンはそのサイズの割に信じられないほど脆弱な生き物である。
自然界に存在するありとあらゆる生物(自身より矮小なものも含め)から捕食の対象とされるチュンチュンにこの線虫が寄生するというなら、
チュンチュンを食べた動物がまた別の動物に食べられ、そうやって巡り巡って人間が食用とする動物に線虫が感染して未曽有のバイオハザードが引き起こされる可能性が、
というより、既に起きていない方がおかしいのでは? と、率直な疑問をぶつける。
「まあ、君の言う通りなら、我々はとっくの昔に滅んでいただろうな」
人類の歴史は、チュンチュンと共にあったといっても過言ではない。古代エジプトの壁画には、既に労働用家畜としてピラミッド建設に使役されるチュンチュンらしき生き物が登場している。
「幸運なことに、この線虫は生まれたてほやほやのニュービーらしい。まだアマゾンの奥地にしか生息していないようだ」
ただし、と付け加える。「ブラジル脳線虫に感染した生物に見られるあと二つの特徴、覚えてますかな」
異常なまでの食欲と性欲の増進。忘れるはずもない。
「これは余談になるが、先日俺はとある感染チュンの消化器官の一切を除去し、ついでに去勢手術も施した。にも拘らずそいつは今でも食料を求めながら、ケージの隅で腰を振り続けている。実に滑稽だろ?」
「はぁ」
「まあそれはともかく。この二つの傾向は、何も感染したチュンチュン特有のものではない。お分かりかな」
「あ――」
醜いまでに張った食い意地、際限なく発情し卵を産み続ける自己増殖性。どうして気付かなかったのだろう、これはまるで――


「自然界の生物の大半は、何らかの線虫の宿主とされている。当然我が国に生息するチュンチュンも例外でない」
「そこで、国産種のチュンチュンに寄生していたとある線虫を調べたところ、このブラジル脳線虫と構造が驚くほど類似していることが分かった」
「そんな…」しばし、絶句する。
「どうして、今になってそんな重大なことが。誰か、これまでにそのことを調べた人はいなかったんですか?」
「いないんだなこれが。俺も含めて、あんな無意味な生き物を研究しようなんて考えた暇人は」
「……」
「このことに関してはさらに面白い仮説がある。なんと今より2、3世紀ほど前までのチュンチュンの体は、成鳥でも今より幾分小柄でスマートなものだったらしい」
「らしいというのは正確な記録が残されていないからだ。全てが伝聞、口伝えによるものさ。自称皆のアイドルチュンチュンは、昔から誰にも相手にされてなかったんだ。泣けるな」
「しかしその自意識過剰な性格もかつては礼儀正しく謙虚で、自身の分を弁えたものだったというから驚きだ。とてもあのラボにいる身の程知らず共と同種とは思えんね」
彼の言わんとすることが、理解できた。近世になってからのチュンチュンの気質の変化と個体数の爆発的な増加が引き起こした人類との軋轢。
偶然の一致とは思えない。
「現在国産種が感染している線虫はブラジル脳線虫の親戚、というより直系の先祖のようなものだ。奴らの一部が、アマゾンの奥地でさらなる進化に成功したんだ」
「ブラジル脳線虫は国産種の線虫に比べ全ての面において遙かにパワーアップしている。A10神経への干渉能力、食欲、性欲の過剰すぎる増進。そして…」
「逆に言えば、現在国産種に巣食っている線虫も、弱いとはいえ同じ能力を有しているわけですよね。だったら」
「ああ、当然人間にも感染するだろうな」
「そっ――」


「安心しろ。近代に入ってからのチュンチュンは、確かにこの線虫のお陰で、誰よりもひ弱なくせに相手を挑発するような思い上がりで、年中発情しっ放しのデブチキン野郎に成り果てたわけだが」
「しかし、この性質が人間社会に持ち込まれた場合、直ちに世界が滅ぶ程のものでないことは歴史が証明している」
「そうだな。妙に怒りっぽい奴や、体重が百数十キロもあるような大食漢、セックス依存症の奴らはこの線虫に感染している可能性が高い」
「まあ罹患者の総数はHIVやらの性病患者数より全然少ないだろうな。しかも感染した場合のリスクは、それらのものと比べても遥かに低いものだ。直ちに命に係わるレベルじゃない」
「だが、これがブラジル脳線虫となると話は別だ。一度あれに感染したが最後、取り返しのつかない恐ろしい事態になるのは、君もその目で見たんだろ?」
学者らしい率直な物言いに、私は思わず視線をそらしてしまう。すると、ケージの中のチュンチュンと目が合った。
まるでこちらを見下しているようにも見える無感動な目つき。たぷたぷに緩み切った頬と相まって思わずぶん殴ってしまいたくなる。
そんな私の気持ちを察してか、Kはケージより新たなチュンチュンを一匹掴み出す。
彼は、刃渡り15センチはありそうなサバイバルナイフを取り出すと、そのまま無造作にチュンチュンのお腹を突き刺した。
それから何度も何度も、ナイフが刺さったままのチュンチュンの体を作業台に打ち付ける。
チュンチュンは『ヂュッ!!』『ヂュバッ!!』と、吐瀉物混じりの血反吐を振り撒きながら、それでいて楽しげに先程の個体と同じメロディを奏で始める。
対照的に、Kの表情は冷め切っていた。子供が飽きてしまった玩具を前に、壊れても構わないといった感じで粗雑に扱う様に似ている。
「ちっとも楽しくないんだよ、これじゃあ」ぼそっと彼が呟いた。
「人為的に恐怖症(フォビア)を形成する実験もした。親鳥の目の前で雛を蜘蛛に喰わせたんだ。そのチュンチュンは蜘蛛を見ただけで全身委縮し失禁するようになった」
「しかし線虫に感染すると、そいつは喜んで自分から蜘蛛に喰われにいった。蜘蛛の顎が自分の腹を食い破るのを眺めながら、発情して卵を産みやがった」
「極度の綺麗好きだったチュンチュンはオシャレと称して羽毛に糞を塗りたくるようになった。終いには仲間たちが作った肥溜めに頭から飛び込んで、糞の中で溺れ死んだ」
「親鳥から雛を奪ったり、卵をその嘴に押しこんでも、すぐに手羽を叩いて喜ぶようになる。仲間が処刑されているところを見て興奮して、ケージの格子を掴んでやんやん野次を飛ばす有様さ」
「今のやつらは毒物であるニンニクすら喜んでパクついたあげく恍惚の表情で中毒死していく。そんなチュンチュンに何の価値があるっていうんだ」


「来たまえ」
しばしの沈黙の後、彼はおもむろに腰を上げた。「最後に見せるものがある」
「もっとも、君は見たくないかもしれないが。しかし君が事件の真相を全て知るには、どうしてもあれを見る必要がある」
案内されたのは、最初のラボとは別の部屋だった。
彼が電気をつけると、いくつかの飼育ケージが中央のテーブルに載せられているのが分かった。その一つには覆いが被せてある。
「これは…」再び、言葉を失う。
覆いが被さっていないケージ内のチュンチュンは、いずれもそこに一匹が収まるのがやっと、という大きさにまで膨れ上がっていった。
灰色のバスケットボールの表面に、チュンチュンの(・8・)が付いている、という感じだった。
「静かなもんだろ? 脂肪で声帯が圧迫されて、もはやほとんど声を上げられないんだ」
「ここまでの状態になる前に、呼吸困難に陥って死亡する個体も少なくない」
呼吸困難――今呼吸が苦しいのは、私も同じだった。幾度となく生唾を飲み込んで胸のあたりを押さえる。
このチュンチュンたちはあまりにもそっくりだった。私が発見したTの遺体の状態と。

つづく






貸倉庫の内部は酷い有様だった。
まずその匂い。密閉された空間で行き場を失ったチュンチュンたちの糞便の臭気であやうく私は死にかけた。
しかしその落とし主たちは、一匹残らず忽然と姿を消していた。後に残されたのは大量の空ケージと、その床にこびり付いた茶褐色の忘れ物だけ。
そしてゴミだらけの床の真ん中で果てていたTの亡骸は、腹の部分がそこにもう一人の人間が丸ごと押し込まれているようなサイズに突出し、
さながらドーム状のオブジェが佇立しているようだった。信じられないことにその手足は、萎びた大根を思わせる見た目となって、本来の数分の一の長さ、太さに収縮していた。
頭部だけが、胴体に負けじと本来の二倍近い大きさに膨張していた。
Tの大まかな体型は、有り体に言ってチュンチュンそのものだった。Tはチュンチュンとなって、死んでいたのだ。


「この線虫は自分で進化の袋小路に陥ったんだ」
「優秀なこいつらは、効率よく捕食されるために、目立つ大きさ、操作し易い一定の容積の脳を持ちながら、それでいて自然界最弱の存在であるチュンチュンを最優良の中間宿主に選んだ」
「それがそもそもの間違いだった。本来自然界では長きに渡る激しい生存競争の末、食うもの食われるもの、利用するものされるもの、両者が切磋琢磨し合ってお互いに進化していくものだ」
「だが数千年の時を経ても、何一つ学習せず原初の生き方を続けている甘ったれたやつがいる。そう、チュンチュンだ」
辛そうな様子の私に説明を聞かせることで気を紛らわそうとしているのか、Kがまくしたて始めた。私は必死でそれを理解しようと耳を傾ける。
「寄生虫も呆れるほどの愚図たれなチュンチュンの中で足止めをくっているうち、ほかの生物たちは線虫をはねつけ、体内での増殖を抑える進化を遂げた」
「線虫たちが気付いた時にはもう手遅れだった。もはやほかの優良そうな物件に乗り換えることは困難。仮に成功してもそこでは碌に数を増やすことが出来ない」
「本来ならチュンチュンからいくつかのルートを経由して、最終的に現在地球で最も繁栄を謳歌している霊長類、すなわちヒトを完全に乗っ取ることを目的としていた線虫の計画は潰えたかに思えた」
「しかしこいつらは諦めなかった。最優良どころか、とんだ貧乏くじだった不甲斐無い宿主の中でじっと息を潜め、競争によってではなく自分たちの潜在能力だけを頼りに進化する道を選んだんだ」
「そして、恐ろしいことだが、やつらはついに、それに成功したらしい」
「ブラジル脳線虫となったやつらの感染力、繁殖能力はこれまでの比じゃない。国産種の線虫に耐性を持った生物の体内でもあっという間に増え出すだろう。もし、アマゾンの奥地からこいつらが文明社会に出てきたら…」
ごくりと、息を呑む音がした。
「人から人には、感染するんですか?例えば、梅毒やエイズみたいに性行為で…」
「それはないはずだ。現に君がまだ大丈夫なんだからな。ただ」
「ただ?」
「さっき言ったように、こいつらはあまりにも長い間チュンチュンの中に居過ぎた」
「君の恋人の肉体の変容がチュンチュンに似ていたのは偶然じゃない。チュンチュン内部での線虫の自己進化の過程でそのようなプログラムが出来上がってしまったんだろう」
「人間の身体をチュンチュンみたくしてしまうなんて。恐ろしすぎる…」
「……実はあれが最終段階じゃない。もっと先がある」
「はっ…?」
「お見せしよう」


Kは、一つだけ覆いが被せてあったアクリル製のケージに近付いた。その縦幅、横幅ともに、これまでのものと比べて数倍ある時点で、嫌な予感はしていた。
「覆いを取る前に一つ考えてみてくれ。こいつらは宿主の体をチュンチュンのような形にしてしまう。では最終的な宿主がチュンチュンのままだった場合はどうなると?」
私は沈黙で返す。
「これが答えだ」
勢いよく、覆いが取り払われる。そこで待ち受けていたのは――

『ヒューーーーーー………ヂューーーーーー………』

「あっ…ああああぁぁ…?」

この物体は、何? 遊星から送り込まれた物体Xか?

『ハノ、ケ…チュ…』

「これ、本当にチュンチュン、なの…?」
「驚きだろう? こいつは紙切れのように薄くなった声帯で、まだ懸命に喋ろうとしてるんだ」
いや、驚くべきなのはそこではなく。これは、この形状は一体全体なんなのだ?

それはもはやチュンチュンの形をしていない。最初に思ったのは、毛むくじゃらのヒトデ。そう、灰色の毛で覆われた(アメリカンサイズな)ホールピザ並の直径がある巨大ヒトデだ。
その中央、元はお腹であっただろう箇所から、Tの時と同じく、しかしこちらはドームというよりはタワーと呼ぶべき高さの突起物が天を衝く勢いで悠々とそびえ立っていた。
突起物の側面には、イソギンチャクの触手に似た外見の枝が、等間隔に斜め上を向いてびっちりと生えそろっている。
「この触手は、所謂地雷だ。絶対に触れちゃいけない」
「どうなるの?」
「菌類の射出胞子に近い。触れると破裂して、周囲に線虫を撒き散らす」
「っ…!」
「分かっていると思うが、このタワーの中身は全部線虫だ。というより、このチュンチュンの体の9割強が、と言った方が正しいな」
そうか、ようやく理解した。これは生命の樹(ツリー・オブ・ライフ)なのだ。丁度、五本の極太な根を地に降ろした大木のように見えなくもない。
問題はこれが植物ではなく、まだ意識のある動物の体だということだが――


「線虫が遺伝子レベルでチュンチュンの体を作り変えている。手羽や足は不要と判断され、養分として分解吸収された。骨格も線虫たちを包み込む籠状に変化した」
「ただ、野生のチュンチュンがこの形態にまで至るケースは限りなくゼロに近いだろう。何せ自力での活動が困難になっても多量の餌を与え続けてくれる誰かが必要だからな。途中で他者に捕食される確率も高い」
「しかし、これが人間の場合となると話が違ってくる。言いにくいことだが君の恋人はこうなる途中だった。その前に死亡したことは幸いだったというべきか…」
そこまで聞いた時点で、私はもう吐き気を堪えるのに必死だった。Kは続ける。
「国産種とブラジル種の最大の違いはここだ。やつらは宿主を内側から丸ごと食い尽くしてしまうんだ。体の中身がそっくりそのまま線虫に置き換わると言ってもいい」
「そうして、もうこれ以上増えようがなくなると、宿主に残った僅かばかりの骨と皮を使って家を作り、次なる宿主候補が近付いてくるのをじっと待つ。これが人から人への感染手段になる」
信じられない思いで、私はこの世のものとは思えぬ醜悪な姿に成り果てたチュンチュンを見やった。
五本の根の一つ、頭部だった箇所に、白濁しきった二対の目があった。その嘴は、厚ぼったい肉の皮の中に埋没していて、よくよく目を凝らさないと分からないほどだ。
特徴的なサイドテールをはじめとする髪の毛はすべて例の触手に置換され、細長のそれらがわしゃわしゃと垂れ下がっている様はギリシア神話に登場するメドゥーサの怪物そっくりである。
『ヒューーーーーーー……コヨ、シ…テ……ビィィ…フューーーー』
「楽にしてあげないんですか?」
「まさか。ここまで育った奴は珍しい。この先どうなるか、まだ変身を残しているのか、最期の最後までしっかり見届けさせてもらうよ」
「……実はこの段階まで進んだやつがもう一匹いたんだが。そっちは遺伝子組み換えの過程で何らかのエラーが発生したのか、触手の代わりに全身から新たな手羽と頭部が生え出した」
「自然界でも時たま双頭の奇形チュンが目撃されるが、あれはそんなもんじゃなかった。想像してもみろよ。チュンチュン千手観音、頭はヤマタノオロチュンだ。それらが一斉に好き勝手喚きながら蠢いて…」
もう、漫画やゲームに登場するホラーの親玉状態だ。世の中の愛護派と呼ばれる人々がそんなチュンチュンの姿を見たら、どう思うだろうか。
「もっとも流石に無理があったのか、すぐくたばったがね。こっちもこのザマじゃ、そう長くはもたないかもだが」
「あと付け加えれば、こいつが死を懇願してるのは救いのためじゃない。死は今やこいつらにとって最上の快楽になってるんだ。こいつはただ、浅ましいまでにその快を求めているに過ぎない」
「俺自身のポリシーの問題もある。俺は自ら死にたいと言うチュンチュンを殺すのは好きじゃない。まだ死にたくないと必死に頭を垂れるのを踏みにじるのが好きなんだ」
「……」
「おいおいそんな顔をするなよ。俺は世間一般で言うところの虐厨と言われる人種だが、さっき見たところ君だってその素質は十分だったぜ」
つい数分前に自分が憤怒の感情に流されるまま夢中になってチュンチュンを痛めつけたことを思い出し、恥じるようにさっと顔を背ける。
「別に恥ずべきことじゃない。愛護心と虐待癖を兼備してるやつもいるくらいだ」そこで彼は私の顔をちらと見て「まあ、ホモやバイセクシャルと同じ、個人の信条みたいなもんだ。他人がとやかく干渉することじゃない」
「それでも依然として世間から諸手を挙げて肯定されないのは理解してるつもりさ。しかし、これからはそうも言ってられなくなるぞ」

私が「それってどういう意味です?」と言いかけたところで、ケージ内のツリーチュンがかすれ声で囁いた。
『ハノケ、チュン…ソコニ…イユチュン?』


『ヤット…チュンチュンニ アイニキテクエタ…チュンネ……ウエシイチュン…チュンチュンモ……アイタカッタチュン』
「これは、一体何を言ってるんですか」
『ヨクミテ…ホシ…チュン……ハノケチュンノ オヨメサンニナユタメ…ダイエットシタヤ……チュンチュン コンナニカワユクナッタチュン…』
「戯言だよ。脳に隙間なく食い込んだ線虫のおかげで幻覚を見てるんだろう。ある意味、幸せなやつさ」
『ハノケチュン…ハノケチュン…! モット…ハノケチュンノコエ…キキタイチュン』
『チュ…アアァ…チューン……キコエテキタ……キコエユチュン…ハノケチュンノウタゴエ…ヨクキコエユチュン…!!』
「感染したチュンチュンにはこの“声”とやらが聞こえるらしい。だがそんなものは、ただ線虫が頭蓋の裏を這って脳へと登っていく時の音を勘違いしているだけなのさ」
これですべての謎が解けた。Tの言っていた天使の囀りとはこのことだったのだ。
「脳線虫の名の通り、こいつらは感染したら真っ先にA10神経のある脳を目指す。そうして宿主を乗っ取り体内で次々繁殖してはまた脳を目指すことの繰り返し。やがて頭部を肥大化させる必要が出てきて…」
『チュン…チュン…ハノケチュンノオウタハ メガミサマミタイチュン…チュンチュンモ ミンナノアイドユヤカラ イッショニウタウチュン…』
「まあ、あとはこの通りというわけだ」
『ピュ…ピュワ〜……ララ、ビュ〜………』
涙を流しながら、K曰く紙の様になった声帯から控えめに言っても歌とは呼べぬノイズを必死に絞り出そうとするツリーチュン。
聞くに堪えないので、私たちは部屋を出た。ケージには再び覆いが被さり、照明は落とされた。
きっとあのチュンチュンは死ぬまでこの真っ暗闇の中、いもしない花嫁の幻想に包まれながら囀り続けるのだろう。

籠の鳥、という言葉が浮かんだ。この場合は、まさに文字通りだ。あれは、線虫たちの籠なのだから。


「さて、さっきの話の続きだが」研究室に戻ると、真剣な顔つきになってKが私を見つめる。
「君はこのブラジル脳線虫をどうすべきだと思う?」
「どうって…こんな危険な種、放っておくわけにはいかないでしょう」
「当然だな。精一杯楽観的に考えてみても、こいつらが人類種に深刻な仇をなすのは火を見るより明らかだ」
「まだ感染が広がっていないのは奇跡的……いや、もしかしたら見えないところで密かに始まっているのかも」
「なにせ線虫は小さい。駆逐するにしても、完全には難しい。というか不可能だ、うん」
「そんな…!」
「そこでだ。線虫ではなく、それを媒介するチュンチュンたちの方を始末するのさ。なに、同情する必要なんてない」
「元々は何千年も線虫対策を怠ってきた無能なチュンチュンどもの失態だ。やつらに足を引っ張られて、そのツケを最終的に我々が肩代わりする事態など断じてあってはならない」
「俺は明日、この研究成果を大々的に発表するつもりだ。そうすれば、流石に政府のやつらも重い腰を上げるだろう。日本が駄目でも他国が動く。これは地球全体の問題なのだから」
「討伐隊を組織して、まずはアマゾンからだ。あそこにいるチュンチュンを一匹残らず狩りつくす。あれが人類にもたらす災厄の大きさを考慮すれば、俺はナパームで熱帯雨林ごと焼き払ってでもやる価値があると考えるね」
「もちろんそれで終わりじゃない。次は他のチュンチュンどもだ。こいつらの中にいる線虫が、いつブラジル種と同じく進化するか分からないからな」
「というかこの二つは根本的には同じ種なんだから、チュンチュン線虫と名付けてしまおう。チュンチュン線虫をもれなく体内に飼ってるチュンチュンは種ごと滅ぼすべきだ」
「…!」
「これは戦争なんだよ。俺たちと、線虫とのね。前にも言ったが、生物は熾烈な生存競争の中でこそ進化する」
「線虫が進化してチュンチュンの性格が生意気になり始めた時、我々の中から俺たち虐厨と呼ばれる人種が出現したのも、全ては必然だ。俺たちの遺伝子が警告してるんだ。こいつらは危険だ、殺せと」

これは私たち哺乳類の話だが、生まれてからしばらくの間庇護を必要とする赤ん坊は、生存率を上げるために、他者に可愛いと思わせる姿をして生まれてくるのだという。たとえ成長しきった姿がどんなに醜くなろうとも。
チュンチュンはその生存戦略の究極系ではなかろうか、とはKの推測だ。しかし、私たちの中にはチュンチュンの、その愛らしい(と本人たちは思ってる)姿を見ただけで保護どころか逆に殺意を覚える人間が増えてきている。
これは体内に線虫を有したチュンチュンへの嫌悪感を覚えさせるよう、人間の遺伝子が対抗進化した結果なのだとKは熱っぽく語った。
「すると線虫たちはチュンチュンを人間から遠ざけるようになった。学習能力皆無なチュンチュンが現在、人の姿を見て逃げ出すのはこのためさ」
「こうやって俺たちは、そのほとんどが無意識のままに、水面下で線虫との戦争を始めていた」
「ただ、この争いの渦中において、チュンチュンだけは相変わらず何の進歩もしようとしていない」
「この無能さが人類をこれまで線虫から遠ざけ、そして今最大の危機に陥れようとしている。我々も線虫も、ある意味チュンチュンの被害者だったというわけだな」
「全く、どうしてこんな種が生まれてきてしまったのか……チュンチュンは地球外から人類への嫌がらせのために持ち込まれたエイリアンだというジョークも、案外真面目に考察してみる余地があるやもしれん」
と、学者らしいのからしくないのか判断しかねる言葉で結ぶと、さあ話すことは話した、と言わんばかりにKは立ち上がった。
「明日から忙しくなるんでね。これから用済みの標本を始末するんだが、見るかい?」
私は無言で頷いた。


大きなトレーに山盛り乗せられたチュンチュンたちが、どさどさ焼却炉の中に流し込まれていく。
小学校の給食室で処理される残飯を思い出す光景だった。
蓋が閉ざされ、火が付くと、チュンチュンたちは『チューン!!』とひと鳴きし、それから歓喜の歌を合唱し始めた。
やがて炉の中が高温になり、轟々と燃え盛るようになっても、大合唱の音程はますます甲高くなり、自分たちの燃焼音を掻き消さんばかりだった。
狂喜のオウタを歌い続けるチュンチュンたちが焼却されるその大火を見つめていると、私の心の中でくすぶりかけていた思いに再び着火された気がした。
そもそもTを奪われたことへの怒りを原動力に、私はここまで来た。
明らかとなったおぞましい真実の数々に圧倒され打ちのめされてしまっていたが、こんなことじゃいけないのだ。ぎゅっと拳骨を握りしめる。
「しかしチュンチュンを滅ぼすことに反対するやつも出てくるだろうな」
「えっ、どうして!」自分でも驚くくらい、大きな声が出た。
Kは少し苦笑いすると「それは何を隠そう俺たち虐厨なのさ。俺たちはチュンチュン絶滅を標榜しているが、同時に心のどこかで居なくなってほしくないとも考えているやつは多い」
「だから対策も考えてある。これまで誰もやらなかったチュンチュン遺伝子の研究だ。チュンチュンのDNAを解析し、保存するのさ」
「それからどこかの孤島か、もしくは完璧に隔離された空間で、人間の完全な管理のもとチュンチュンたちを再び繁殖させる。もちろん厳しい検疫を設けた上でだが」
「そんなことが可能かしら。こんな生き物の保護に、予算を割いてくれるところなんて」
「世界中から寄付を募ってみるさ。某映画よろしくテーマパークにして、収益を管理費に回せばいい。来場者はチュンチュンと触れ合えるほか、望めばお仕置きだってできるんだ」
「もちろんチュンチュンを再生させる際、遺伝子に一種の安全装置も組み込んでおく。例えばそうだな…多量の水に対する恐怖症(アクアフォビア)とか」
「万一チュンチュン線虫に感染した場合、それが広がる前にまとめて自殺させる仕組みだ。もっともアクアフォビアは、川や海で溺れ死んだチュンチュンの死体を魚が食う恐れがあるから実際には使えないな…」
どうしてそこまでして――と思ったがあえて口には出さなかった。再び線虫に感染されるかもしれないリスクを残してでも、チュンチュン種を保存することはKたちにとって「やる価値がある」ことなのだろう。
もしかしたら私にも、いずれ分かる日が来るかもしれない。

「これ、お土産だ」と、大学を去り際に、Kは感染してないチュンチュンが入ったケージを差し出した。
私は微笑んでそれを受け取ると、感謝のしるしに彼とハグしようとしたが、Kには「よしてくれ、俺はストレートだ」と一蹴されてしまった。


『ガタガタユエテ キモチワユイチューン! チュンチュンヲココカヤダスチュン!』
「うるさい!」
後部座席のチュンチュンを一喝して黙らせると、愛車のハンドルを握ったまま、唐突に私は、幼き日に友人たちと何度交わした分からない、とある命題についての議論を思い出した。

《チュンチュン味のうんこと、うんこ味のチュンチュン。どちらかしか食べられないとしたら、どっちを食べる?》

昔の私は迷いなく後者を選んでいたように思う。いくらチュンチュンが汚らわしく、その肉がうんこ味だったとしても、本物のうんこを食べるよか全然マシだろうと。
ここまで読んでくれた賢明な読者諸氏ならもうお分かりだろうが、明日からこの命題は成り立たなくなる。
著名な政治家の言葉を借りれば、つまりこういうことだ。

虐厨が、コニャックを飲んで、顔をしかめ『チュンチュンの味がする』と言った。
負けじと愛護厨は、チュンチュンを捕まえて、その体を舐めると『コニャックの味がする』と言った。
あまり好かないが、それでも私にとっては、チュンチュンを舐めたりする愛護厨より、チュンチュン味のコニャックを飲む虐厨の方が良い。

――ウラジーミル・プーチ○ン(1952〜)


Tはアマゾンの奥地で食に困窮し、チュンチュンに手を出すくらいなら飢え死んだほうが良かった。
某生物災害ホラーのキャッチコピーではないが、死より恐ろしい現実というものは確かに存在したのだ。
Tをチュンチュンのような姿に変えた悪魔の線虫――今ではそれと同じくらい、チュンチュンが憎らしかった。
あのだらしない生き物が進歩のための努力の一切を放棄した皺寄せがTにいったのだ。Tは、チュンチュンたちのせいで死んだ。
――あんなやつらは一匹残らずこの世から消え去ってしまえばいい。恋人の意志は、私が引き継ぐ。
Kはこれを戦争だと言っていた。戦争には武器が必要だ。私は近場のホームセンター目指し、無心でフィアットのアクセルを踏み続けた。
長い沈黙にケージのチュンチュンは退屈したのか、『チュンチュン♪』と歌うように囀り始めていた。
先見の明がある賢人たちはいつから気付いていたのだろうか。この囀りが天使の福音などではなく、遠くない将来に人類に破滅をもたらさんとする悪魔の印(サイン)だと。

最後に、チュンチュン虐待の偉大な先人の言葉を引用してこの手記をしめたいと思う。


自由の木とは、チュンチュンと愛護厨の血を吸って育つものである。

――虐厨の父 ト○ス・ジェファーソン(1743〜1826)


愛チュン心とは、邪悪な美徳である。

――19世紀のとある詩人


(了)

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