その少女はチュン(・8・)チュンを飼っていました。半年前の誕生日に両親にねだって買ってもらって以来、彼女の親友です。ぬいぐるみのような見た目に、犬や猫のような頭の良さ、時折歌うように鳴き出すところなど、すべてが彼女を夢中にさせました。
見た目がまるでぬいぐるみのようなので、着せ替え人形のように洋服を着せて遊ぶのも彼女のお気に入りです。チュン(・8・)チュンは洋服を着せると手足をバタバタと振って喜びます。何度か喜びすぎて服を破いてしまったこともありましたが、その可愛らしさから少女は許してしまっていました。
そんな少女を、かつての友達は最初は遊びに誘いましたが、チュン(・8・)チュンに夢中になっていた少女はその誘いも邪険に断りました。いつしか、少女の周りから人間の友達はいなくなりました。
さて、そんな少女でしたが、チュン(・8・)チュンに対して一つの不満がありました。チュン(・8・)チュンが人の言葉を話さないことです。もちろんチュン(・8・)チュンは鳥なので人間の言葉など話すことはできません。しかし、少女が読む絵本に出てくるチュン(・8・)チュンはどれも人間の言葉を話します。チュン(・8・)チュンの仕草が人間に近いこともあり、少女はチュン(・8・)チュンが人間の言葉を話すようになればもっと可愛くなるのに、といつも思っていました。
それからさらに半年後、また少女の誕生日が来ました。少女は家を飛び出すと、近所に住む魔女の家に向かいました。魔女は近所の子供が誕生日を迎えると、一つだけ願いをかなえてくれます。
少女は言いました。
「私の飼ってるチュン(・8・)チュンが人間の言葉を話せるようにして!」
魔女は言いました。
「お安い御用だよ」
魔女は呪文を唱えると、
「もうお終いだよ。これであんたの飼っているチュン(・8・)チュンは人間の言葉をしゃべれるよ」
と言って微笑みました。
少女は、
「ありがとう!来年もお願いね!」
と言って帰ろうとしました。すると魔女は、
「いや。来年はもうないよ」
といって寂しげに微笑みました。
「なんで?」
少女は困ってしまいました。
「私が何か悪いことをしたの?怒らせちゃったの?」
魔女は、
「あんたは何も悪くないよ。なに、アタシも歳だってことさ。もう魔女も今年で引退さ」
と言いました。
少女は複雑な気持ちで家路につきました。「魔女」ではあるものの、あの魔女は願いをかなえてくれるだけでなく、とても優しいお婆ちゃんでした。その魔女にかなえてもらった最後のお願い…。それに見合うように、少女は人間の言葉を話せるようになったチュン(・8・)チュンと楽しく過ごそうと決めました。
部屋のドアを開けると、チュン(・8・)チュンが目に入りました。
「チュン(・8・)チュン、ただいま」
というと、チュン(・8・)チュンは、
「オナカスイタチュン、チーユケーキクレチュン」
と言いました。人間の言葉が話せています!
少女はさっきまでの憂鬱など忘れてしまいました。
チュン(・8・)チュンが人間の言葉を話すようになって一週間が過ぎました。しかし少女は思ったより楽しくないことに気づきました。チュン(・8・)チュンが全く楽しそうではないからです。
チュン(・8・)チュンはことあるごとに「オウチチッチャイチュン。オヤマニカエリタイチュン」とか、「オトモチュンイナイチュン、サビシイチュン」などと言います。どうやら今の家に不満があるようです。
そんなことがあって不満が募っていた少女でしたが、魔女に最後に叶えてもらった願いです。楽しまなければ魔女に悪いと思いました。
少女は以前したように、チュン(・8・)チュンと着せ替え人形ごっこをしようと思いました。
「チュン(・8・)チュン、着せ替え人形ごっこしよ?」
するとチュン(・8・)チュンは、
「イヤ、イイチュン」と言って首を横に振りました。
「そんなこといわずにやろうよ」
「イヤ、イイチュン」
「やろうよ!」
「シツコイチュン!チュンチュンハオニンギョウジャナイチュン!」
そういってチュン(・8・)チュンは怒鳴りました。突然怒鳴られたことで少女はびっくりして黙ってしまいました。
チュン(・8・)チュンは続けます。
「チュンチュンハチュンチュンデオニンギョウジャナイチュン!オニンギョウゴッコシタカッタラオニンギョウトアソベバイイチュン!」
「そんな・・・せっかく魔女さんにチュン(・8・)チュンがしゃべれるようにしてもらったのに…」
「ソンナノシラナイチュン!」
そのとき、少女は気づいてしまいました。チュン(・8・)チュンのことを友達だと思っていたのは少女だけだったのです。人間の友達をなくしてまでチュン(・8・)チュンを一番の友達だと思っていましたが、当のチュン(・8・)チュンは全くそんなことは思っていなかったのです。
少女は思いました。こんなことに気づくなら魔女にお願いなんてしなければよかった、と。
チュン(・8・)チュンは少女を見ながら、
「チュンチュンイガイニオトモチュンハイナイチュン?チュンチュンモオヤマニイタコロハニンゲンジャナクテオナジシュルイノオトモチュンガイタチュン」
と言いました。心なしか、少女のことを哀れんでいるように見えます。
やめて。少女は思いました。もうチュン(・8・)チュンには話してほしくない。
少女は机の引き出しから鋏を取り出しました。そして、チュン(・8・)チュンの体を押さえると、口をこじ開けて鋏を口の中に入れました。
「チュン!?ナニスルチュン!?」
チュン(・8・)チュンは手足をばたつかせて抵抗します。しかし少女は全く力をゆるめませんでした。そして舌を見つけ出すと、鋏に強く力を込めました。
ブチュッ、という嫌な感触とともに、チュン(・8・)チュンの舌は切り落とされました。
チュン(・8・)チュンは叫び声をあげてのたうち回りました。そして、少女をにらみながら何か必死に言おうとしています。しかし、舌を失ったチュン(・8・)チュンの言葉は言葉になりません。
少女は鋏を短く持ち替えると、空いている方の手でチュン(・8・)チュンの体をまた押さえつけました。そして、チュン(・8・)チュンに鋏を突き立てました。何度も何度も。
少女がふと我に返った時には、チュン(・8・)チュンは肉の塊になっていました。少女は思いました。魔女に叶えてもらった最後のお願いがこんな結果を招くなんて。人間の友達をなくしてまでチュン(・8・)チュンと話したかったのに、こんなことになるなんて。
少女は思いました。一方通行の愛情は却って幸せだということを。
見た目がまるでぬいぐるみのようなので、着せ替え人形のように洋服を着せて遊ぶのも彼女のお気に入りです。チュン(・8・)チュンは洋服を着せると手足をバタバタと振って喜びます。何度か喜びすぎて服を破いてしまったこともありましたが、その可愛らしさから少女は許してしまっていました。
そんな少女を、かつての友達は最初は遊びに誘いましたが、チュン(・8・)チュンに夢中になっていた少女はその誘いも邪険に断りました。いつしか、少女の周りから人間の友達はいなくなりました。
さて、そんな少女でしたが、チュン(・8・)チュンに対して一つの不満がありました。チュン(・8・)チュンが人の言葉を話さないことです。もちろんチュン(・8・)チュンは鳥なので人間の言葉など話すことはできません。しかし、少女が読む絵本に出てくるチュン(・8・)チュンはどれも人間の言葉を話します。チュン(・8・)チュンの仕草が人間に近いこともあり、少女はチュン(・8・)チュンが人間の言葉を話すようになればもっと可愛くなるのに、といつも思っていました。
それからさらに半年後、また少女の誕生日が来ました。少女は家を飛び出すと、近所に住む魔女の家に向かいました。魔女は近所の子供が誕生日を迎えると、一つだけ願いをかなえてくれます。
少女は言いました。
「私の飼ってるチュン(・8・)チュンが人間の言葉を話せるようにして!」
魔女は言いました。
「お安い御用だよ」
魔女は呪文を唱えると、
「もうお終いだよ。これであんたの飼っているチュン(・8・)チュンは人間の言葉をしゃべれるよ」
と言って微笑みました。
少女は、
「ありがとう!来年もお願いね!」
と言って帰ろうとしました。すると魔女は、
「いや。来年はもうないよ」
といって寂しげに微笑みました。
「なんで?」
少女は困ってしまいました。
「私が何か悪いことをしたの?怒らせちゃったの?」
魔女は、
「あんたは何も悪くないよ。なに、アタシも歳だってことさ。もう魔女も今年で引退さ」
と言いました。
少女は複雑な気持ちで家路につきました。「魔女」ではあるものの、あの魔女は願いをかなえてくれるだけでなく、とても優しいお婆ちゃんでした。その魔女にかなえてもらった最後のお願い…。それに見合うように、少女は人間の言葉を話せるようになったチュン(・8・)チュンと楽しく過ごそうと決めました。
部屋のドアを開けると、チュン(・8・)チュンが目に入りました。
「チュン(・8・)チュン、ただいま」
というと、チュン(・8・)チュンは、
「オナカスイタチュン、チーユケーキクレチュン」
と言いました。人間の言葉が話せています!
少女はさっきまでの憂鬱など忘れてしまいました。
チュン(・8・)チュンが人間の言葉を話すようになって一週間が過ぎました。しかし少女は思ったより楽しくないことに気づきました。チュン(・8・)チュンが全く楽しそうではないからです。
チュン(・8・)チュンはことあるごとに「オウチチッチャイチュン。オヤマニカエリタイチュン」とか、「オトモチュンイナイチュン、サビシイチュン」などと言います。どうやら今の家に不満があるようです。
そんなことがあって不満が募っていた少女でしたが、魔女に最後に叶えてもらった願いです。楽しまなければ魔女に悪いと思いました。
少女は以前したように、チュン(・8・)チュンと着せ替え人形ごっこをしようと思いました。
「チュン(・8・)チュン、着せ替え人形ごっこしよ?」
するとチュン(・8・)チュンは、
「イヤ、イイチュン」と言って首を横に振りました。
「そんなこといわずにやろうよ」
「イヤ、イイチュン」
「やろうよ!」
「シツコイチュン!チュンチュンハオニンギョウジャナイチュン!」
そういってチュン(・8・)チュンは怒鳴りました。突然怒鳴られたことで少女はびっくりして黙ってしまいました。
チュン(・8・)チュンは続けます。
「チュンチュンハチュンチュンデオニンギョウジャナイチュン!オニンギョウゴッコシタカッタラオニンギョウトアソベバイイチュン!」
「そんな・・・せっかく魔女さんにチュン(・8・)チュンがしゃべれるようにしてもらったのに…」
「ソンナノシラナイチュン!」
そのとき、少女は気づいてしまいました。チュン(・8・)チュンのことを友達だと思っていたのは少女だけだったのです。人間の友達をなくしてまでチュン(・8・)チュンを一番の友達だと思っていましたが、当のチュン(・8・)チュンは全くそんなことは思っていなかったのです。
少女は思いました。こんなことに気づくなら魔女にお願いなんてしなければよかった、と。
チュン(・8・)チュンは少女を見ながら、
「チュンチュンイガイニオトモチュンハイナイチュン?チュンチュンモオヤマニイタコロハニンゲンジャナクテオナジシュルイノオトモチュンガイタチュン」
と言いました。心なしか、少女のことを哀れんでいるように見えます。
やめて。少女は思いました。もうチュン(・8・)チュンには話してほしくない。
少女は机の引き出しから鋏を取り出しました。そして、チュン(・8・)チュンの体を押さえると、口をこじ開けて鋏を口の中に入れました。
「チュン!?ナニスルチュン!?」
チュン(・8・)チュンは手足をばたつかせて抵抗します。しかし少女は全く力をゆるめませんでした。そして舌を見つけ出すと、鋏に強く力を込めました。
ブチュッ、という嫌な感触とともに、チュン(・8・)チュンの舌は切り落とされました。
チュン(・8・)チュンは叫び声をあげてのたうち回りました。そして、少女をにらみながら何か必死に言おうとしています。しかし、舌を失ったチュン(・8・)チュンの言葉は言葉になりません。
少女は鋏を短く持ち替えると、空いている方の手でチュン(・8・)チュンの体をまた押さえつけました。そして、チュン(・8・)チュンに鋏を突き立てました。何度も何度も。
少女がふと我に返った時には、チュン(・8・)チュンは肉の塊になっていました。少女は思いました。魔女に叶えてもらった最後のお願いがこんな結果を招くなんて。人間の友達をなくしてまでチュン(・8・)チュンと話したかったのに、こんなことになるなんて。
少女は思いました。一方通行の愛情は却って幸せだということを。
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