チュンチュンの親子は森の奥で静かに暮らしていました。
チュンチュンはヒナチュンのことが大好きで、ヒナチュンもチュンチュンのことが大好きでした。
今日も親子は、巣の中でよりそってお昼寝をしていました。
ヒナチュンはお母さんの匂いに包まれて、安心して夢を見ていました。
夢の中でヒナチュンはその手羽をパタパタと羽ばたかせ、空を自由に飛んでいたのです。
「マーピヨ!ミテミテ!ヒナチュン、ソラヲトンデユチュン!」
「スゴイチュン!サスガオカアサンノヒナチュンチュン!」
「ピィ♪モットモットトンデミセユチュン!」
それはとても気持ちが良い夢でした。
しかし、その夢は突然終わってしまいます。
夢が終わる時、ヒナチュンはまるで空から落ちてしまったような恐い気持ちになりました。
そして、目覚めた瞬間、ヒナチュンは自分が空を飛んでいるのだと思いました。
空から落ちたのに空を飛んでいる?
それが夢なのか、現実なのかもわからず混乱したまま、ただひたすら怖くて怖くて仕方がありませんでした。
そして、目が覚めるにつれて、自分が自分よりずっとずっと大きな人間に、
自分の身体よりも大きな手で掴まれて、高く持ち上げられてるのだと理解しました。
さっきまで幸せな夢を見ていたのに、今は自分の力ではどうしようもない強い相手に捕らわれている。
とっても怖くて泣いてしまいそうです。
「マーピヨ!マーピヨ!」
ヒナチュンにできることはもうお母さんに助けを求めることだけでした。
「ヒナチュンヲハナスチュン!」
お母さんも一生懸命ヒナチュンを助けようとしていますが、大きな人間には全く通じていません。
ヒナチュンはお母さんでもどうにもならないことがあることを、この日初めて知ることになりました。
それでもヒナチュンはお母さんに助けを求め続けます、助けて、助けて、助けてと。
その必死の叫びが効いたのでしょうか。人間はヒナチュンをお母さんの下へと差し出しました。
やっとお母さんのところへ帰れる、恐いのが終わってくれる。
そう思った瞬間、ヒナチュンを今まで経験したことのない痛みが襲いました。
それは想像を絶する痛みで、ヒナチュンは何が起こったのかもわかりませんでした。
人間の手から解放され、お母さんの下にすぐにでも駆け寄りたいのに、痛くて身体が動かないのです。
とくに、あんよが全く動きません。
「マーピヨ…イダイヂュン…ウゴケナイチュン…アンヨガスゴクイタイチュン…ヒナチュンノアンヨ、ドウシチャッタチュン…?」
痛みの中、声を振り絞ります。
しかし、お母さんは涙を流してヒナチュンを見るのです。
ヒナチュンはわけがわからないまま、その意識を閉じました。
・・・・・
・・・・
・・・
ヒナチュンが再び目覚めた時、側にはお母さんが居ました。
悲しそうな顔で、ひたすらヒナチュンの身体を舐めています。
そして、思い出したような強烈な痛みがヒナチュンを襲います。
「マーピヨ…イタイチュン!アンヨガイタイチュン!」
それを聞いてお母さんチュンチュンは更に悲しそうな顔をします。
「ヒナチュン…ウゥゥ…」
どうしてそんな顔をするのでしょう、ヒナチュンはふとお母さんが舐めていたところを見ます。
そこには、あるべきはずのあんよがありませんでした。
「ピィィィィィィィ!?ナンデ!?ヒナチュンノアンヨドコチュン!?」
「ヒナチュン…カワイソウナヒナチュン…」
「イタイチュン!!アンヨガイタイチュン!?アンヨガナイノニイタイチュゥゥゥゥゥン!?」
痛みと喪失感。
身体があり、あんよがある。あんよを動かせば歩ける。
それが当たり前だったのに、もう二度と戻ってこないのです。
「ピィィィィィィー!!ピィィィィィィィィィィィィィィィィィー!!!」
ヒナチュンの頭のなかはもう痛みや悲しさでぐちゃぐちゃです。ひたすらに泣き叫ぶしかできることはありませんでした。
何日かして傷は塞がりましたが、当然、あんよは戻りません。
「マーピヨ、ヒナチュンノアンヨハドウナユチュン?モトドオリニナユチュン?」
「…ヒナチュン」
そう、あんよは二度と戻ることは無いのです。
ヒナチュンは二度とお母さんとお散歩をしたり、お友達と鬼ごっこをして遊んだりできません。
それどころか生きるために必要な餌を手に入れることすらできないでしょう。
お母さんチュンチュンは、この先ヒナチュンが生きていくためには自分が助けてあげなければいけいない。
自分がヒナチュンを支えてあげるしかないんだ、そう思いました。
それから更に何日か経ち、ヒナチュンの心も落ち着いてきました。
「ヒナチュン、チュンチュンハタベモノヲトッテクユチュン、シズカニ、オリコウサンニマッテユチュンヨ?」
「ワカッタチュン、イッテヤッチャイチュン」
ヒナチュンは思いました、自分は一生このままお母さんのお世話になるしかないのだろうか。
大人になってもいつまでも自分で食べ物ひとつ手に入れることができず、お母さんに頼るしかないのだろうか。
外敵から逃げることもできず、お母さんにずっと守ってもらう。それでいいのだろうか。
そんなのは嫌だ、お母さんにもそんな負担をかけたくない。
ヒナチュンがそう思うようになった時、ヒナチュンは気づきました。
自分にはまだ手があるじゃないか、と。
そうだ、いつか夢で見たように、この手を使って羽ばたくことができれば動くことができる。
可能性を感じたヒナチュンは、その日からお母さんが居ない時間を使って羽ばたく練習をすることにしました。
最初は這いずることくらいしかできませんでした。
しかし、「いつか空に羽ばたく」という本能と、このまま動けないなんて嫌だという思いがヒナチュンを押し続けます。
這って這って力をつけ、羽ばたいて羽ばたいて力をつける。
そして、ヒナチュンの努力がついに奇跡を起こしました。
「マーピヨ!ミテテホシイチュン」
「ヒナチュン?ドウシタチュン?」
お母さんを連れて巣から這い出てきたヒナチュンは、その手羽をバタバタ動かし始めます。
「ヒナチュン……スゴイチュン!!」
するとどうでしょう、飛行することはさすがに出来ませんでしたが、地面をホバリングするようにヒナチュンが動きまわっているのです。
しかも、その速さはチュンチュン族が全力で走るよりもずっと速い。
チュンチュンの知る限り誰よりも速いのです。
「ハァハァ…チュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!」
さらにヒナチュンはお母さんを驚かせました。なんと自分の背の高さを超えるくらいまで浮かび上がったのです。
そして、近くの樹の枝についていた木の実を取ってみせたのです。
「イチュッ」
もっとも、羽ばたいてる手を使って木の実を取ったので当然ポテっと墜落してしまいましたが。
しかし、ヒナチュンは証明してみせたのです。
自分はお母さんを苦労させるだけじゃない、自分でも食べ物を手に入れることができる。
普通のチュンチュンのようにはいかないかもしれないけど、まだ生きていけるんだ、と。
「マーピヨ…ミテテクエタチュン?ヒナチュンハ…ガンバエルチュン!」
「ヒナチュン…」
「アンヨガナクナッチャッタノハカナシイケド…ソレデモガンバッテイキテイクチュン!」
「ヒナチュン、スゴイチュン、ホントウニスゴイチュン、ヒナチュンハチュンチュンノホコリチュン!」
チュンチュンは今度は喜びの涙を流してヒナチュンをぎゅっと抱きしめました。
ヒナチュンがこんなことになって、悲しみのどん底に居たチュンチュンが、他ならぬヒナチュンの力でここまで勇気づけられることになるとは。
ヒナチュンは悲しみを乗り越えてきっと幸せを掴むことが出来るだろう。
こんなに良い子のヒナチュン、頑張り屋のヒナチュンが幸せになれなければ嘘だ。
「ピュワピュワ〜、ラビュラビュ〜」
「ピアピア〜、ラピュラピュ〜」
久々に歌う、喜びの歌が森に響く。
チュンチュン達は、閉ざされていたと思った未来の扉が開くような気がしました。
その様子を影から見て笑っている者が居たことに、最後まで気づきませんでした。
チュンチュンside1 終
チュンチュンはヒナチュンのことが大好きで、ヒナチュンもチュンチュンのことが大好きでした。
今日も親子は、巣の中でよりそってお昼寝をしていました。
ヒナチュンはお母さんの匂いに包まれて、安心して夢を見ていました。
夢の中でヒナチュンはその手羽をパタパタと羽ばたかせ、空を自由に飛んでいたのです。
「マーピヨ!ミテミテ!ヒナチュン、ソラヲトンデユチュン!」
「スゴイチュン!サスガオカアサンノヒナチュンチュン!」
「ピィ♪モットモットトンデミセユチュン!」
それはとても気持ちが良い夢でした。
しかし、その夢は突然終わってしまいます。
夢が終わる時、ヒナチュンはまるで空から落ちてしまったような恐い気持ちになりました。
そして、目覚めた瞬間、ヒナチュンは自分が空を飛んでいるのだと思いました。
空から落ちたのに空を飛んでいる?
それが夢なのか、現実なのかもわからず混乱したまま、ただひたすら怖くて怖くて仕方がありませんでした。
そして、目が覚めるにつれて、自分が自分よりずっとずっと大きな人間に、
自分の身体よりも大きな手で掴まれて、高く持ち上げられてるのだと理解しました。
さっきまで幸せな夢を見ていたのに、今は自分の力ではどうしようもない強い相手に捕らわれている。
とっても怖くて泣いてしまいそうです。
「マーピヨ!マーピヨ!」
ヒナチュンにできることはもうお母さんに助けを求めることだけでした。
「ヒナチュンヲハナスチュン!」
お母さんも一生懸命ヒナチュンを助けようとしていますが、大きな人間には全く通じていません。
ヒナチュンはお母さんでもどうにもならないことがあることを、この日初めて知ることになりました。
それでもヒナチュンはお母さんに助けを求め続けます、助けて、助けて、助けてと。
その必死の叫びが効いたのでしょうか。人間はヒナチュンをお母さんの下へと差し出しました。
やっとお母さんのところへ帰れる、恐いのが終わってくれる。
そう思った瞬間、ヒナチュンを今まで経験したことのない痛みが襲いました。
それは想像を絶する痛みで、ヒナチュンは何が起こったのかもわかりませんでした。
人間の手から解放され、お母さんの下にすぐにでも駆け寄りたいのに、痛くて身体が動かないのです。
とくに、あんよが全く動きません。
「マーピヨ…イダイヂュン…ウゴケナイチュン…アンヨガスゴクイタイチュン…ヒナチュンノアンヨ、ドウシチャッタチュン…?」
痛みの中、声を振り絞ります。
しかし、お母さんは涙を流してヒナチュンを見るのです。
ヒナチュンはわけがわからないまま、その意識を閉じました。
・・・・・
・・・・
・・・
ヒナチュンが再び目覚めた時、側にはお母さんが居ました。
悲しそうな顔で、ひたすらヒナチュンの身体を舐めています。
そして、思い出したような強烈な痛みがヒナチュンを襲います。
「マーピヨ…イタイチュン!アンヨガイタイチュン!」
それを聞いてお母さんチュンチュンは更に悲しそうな顔をします。
「ヒナチュン…ウゥゥ…」
どうしてそんな顔をするのでしょう、ヒナチュンはふとお母さんが舐めていたところを見ます。
そこには、あるべきはずのあんよがありませんでした。
「ピィィィィィィィ!?ナンデ!?ヒナチュンノアンヨドコチュン!?」
「ヒナチュン…カワイソウナヒナチュン…」
「イタイチュン!!アンヨガイタイチュン!?アンヨガナイノニイタイチュゥゥゥゥゥン!?」
痛みと喪失感。
身体があり、あんよがある。あんよを動かせば歩ける。
それが当たり前だったのに、もう二度と戻ってこないのです。
「ピィィィィィィー!!ピィィィィィィィィィィィィィィィィィー!!!」
ヒナチュンの頭のなかはもう痛みや悲しさでぐちゃぐちゃです。ひたすらに泣き叫ぶしかできることはありませんでした。
何日かして傷は塞がりましたが、当然、あんよは戻りません。
「マーピヨ、ヒナチュンノアンヨハドウナユチュン?モトドオリニナユチュン?」
「…ヒナチュン」
そう、あんよは二度と戻ることは無いのです。
ヒナチュンは二度とお母さんとお散歩をしたり、お友達と鬼ごっこをして遊んだりできません。
それどころか生きるために必要な餌を手に入れることすらできないでしょう。
お母さんチュンチュンは、この先ヒナチュンが生きていくためには自分が助けてあげなければいけいない。
自分がヒナチュンを支えてあげるしかないんだ、そう思いました。
それから更に何日か経ち、ヒナチュンの心も落ち着いてきました。
「ヒナチュン、チュンチュンハタベモノヲトッテクユチュン、シズカニ、オリコウサンニマッテユチュンヨ?」
「ワカッタチュン、イッテヤッチャイチュン」
ヒナチュンは思いました、自分は一生このままお母さんのお世話になるしかないのだろうか。
大人になってもいつまでも自分で食べ物ひとつ手に入れることができず、お母さんに頼るしかないのだろうか。
外敵から逃げることもできず、お母さんにずっと守ってもらう。それでいいのだろうか。
そんなのは嫌だ、お母さんにもそんな負担をかけたくない。
ヒナチュンがそう思うようになった時、ヒナチュンは気づきました。
自分にはまだ手があるじゃないか、と。
そうだ、いつか夢で見たように、この手を使って羽ばたくことができれば動くことができる。
可能性を感じたヒナチュンは、その日からお母さんが居ない時間を使って羽ばたく練習をすることにしました。
最初は這いずることくらいしかできませんでした。
しかし、「いつか空に羽ばたく」という本能と、このまま動けないなんて嫌だという思いがヒナチュンを押し続けます。
這って這って力をつけ、羽ばたいて羽ばたいて力をつける。
そして、ヒナチュンの努力がついに奇跡を起こしました。
「マーピヨ!ミテテホシイチュン」
「ヒナチュン?ドウシタチュン?」
お母さんを連れて巣から這い出てきたヒナチュンは、その手羽をバタバタ動かし始めます。
「ヒナチュン……スゴイチュン!!」
するとどうでしょう、飛行することはさすがに出来ませんでしたが、地面をホバリングするようにヒナチュンが動きまわっているのです。
しかも、その速さはチュンチュン族が全力で走るよりもずっと速い。
チュンチュンの知る限り誰よりも速いのです。
「ハァハァ…チュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!」
さらにヒナチュンはお母さんを驚かせました。なんと自分の背の高さを超えるくらいまで浮かび上がったのです。
そして、近くの樹の枝についていた木の実を取ってみせたのです。
「イチュッ」
もっとも、羽ばたいてる手を使って木の実を取ったので当然ポテっと墜落してしまいましたが。
しかし、ヒナチュンは証明してみせたのです。
自分はお母さんを苦労させるだけじゃない、自分でも食べ物を手に入れることができる。
普通のチュンチュンのようにはいかないかもしれないけど、まだ生きていけるんだ、と。
「マーピヨ…ミテテクエタチュン?ヒナチュンハ…ガンバエルチュン!」
「ヒナチュン…」
「アンヨガナクナッチャッタノハカナシイケド…ソレデモガンバッテイキテイクチュン!」
「ヒナチュン、スゴイチュン、ホントウニスゴイチュン、ヒナチュンハチュンチュンノホコリチュン!」
チュンチュンは今度は喜びの涙を流してヒナチュンをぎゅっと抱きしめました。
ヒナチュンがこんなことになって、悲しみのどん底に居たチュンチュンが、他ならぬヒナチュンの力でここまで勇気づけられることになるとは。
ヒナチュンは悲しみを乗り越えてきっと幸せを掴むことが出来るだろう。
こんなに良い子のヒナチュン、頑張り屋のヒナチュンが幸せになれなければ嘘だ。
「ピュワピュワ〜、ラビュラビュ〜」
「ピアピア〜、ラピュラピュ〜」
久々に歌う、喜びの歌が森に響く。
チュンチュン達は、閉ざされていたと思った未来の扉が開くような気がしました。
その様子を影から見て笑っている者が居たことに、最後まで気づきませんでした。
チュンチュンside1 終
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