ラブライブ!派生キャラ チュン(・8・)チュンのまとめwikiです。

 破滅。そいつはいつも油断ならないところで大口を開けて待っていやがる。とりわけ望外の成功の影には必ずといっていいほどこいつが潜んでいる。俺が破滅の棺桶に片足突っ込んだのはまさにそんな時だった。

 一年前のあの瞬間は今でも忘れやしない。俺はとある裏カジノで大勝ちした。ほんの遊び感覚でやったルーレットからしてバカ勝ち。調子に乗ってポーカーにブラックジャックと次々に連勝。そこはただの裏カジノじゃなかった。政官財と太いパイプのある、あの西木野グループの息がかかったカジノっていうのがもっぱらの噂だった。最後の締めにバカラをやったあたりには勝ちすぎて黒服に連れて行かれるんじゃないかと肝を冷やしたもんだぜ。

 幸いなことに、俺は黒服に連れて行かれることもなく大金を手に入れることができた。けどな、そのラッキーこそが破滅への第一歩だったんだ。俺には天性のギャンブルの才能がある、そう思い込んじまったんだよ。ビギナーズラックであれだけの大金を手に入れちまった俺の頭には、まともに働くなんて考えは微塵もなくなっちまった。

 そこからの転落は早かった。俺はあの裏カジノに毎晩のように足繁く通うようになった。そしてこれでもかと負け続けた。あの時手にした大金は見る見るうちになくなっていった。勝てない。どうやっても勝てなかった。ルーレットであろうとポーカーであろうと、何をしても勝てなかった。1ヶ月も経たないうちにあの時の金は底を尽いた。それでも俺はカジノ通いをやめられなかった。こうなってくると、もう理性的な行動は無理なんだよな。意地になって勝とうとしちまう。ポケットマネーに手を出し、ついには借金まですることになった。

 ここまででもとんだ転落人生だが、これで済むならまだかわいいもんさ。そう、完全に種銭が切れちまえば嫌でもギャンブルはやめられる。一番困るのは自由にできる金がある場合だ。幸か不幸か、俺は死んだオヤジの跡を継いだボンボンの七光り社長だったんだ。これでも建設業界には顔の利く大手なんだぜ。だからこそ西木野のカジノにもツテで入れたんだ。んで、賭博の種銭に困った俺はとうとう会社のカネにまで手を出しちまったってわけだ。 

 会社のカネをちょろまかしたのは遅かれ早かれバレちまう。そうなったら俺は取締役会で絞られて社長の座を追われるし、横領で告訴されかねない。そのためにも俺は勝たなきゃならない。使い込んだ会社のカネを穴埋めできるくらいにな。そんなわけで、頭では泥沼とはわかっていても今夜も俺は例の裏カジノに足を運んでいた。

「これはこれはXX社長、お早いお越しで」

「特別早くもないだろ。ま、今日もせいぜい楽しませてもらうぜ」

「ご面倒とは思いますが、念のために会員認証の合言葉をお願いします」

「わーってる。真姫ちゃんかわいいかきくけこ。これでいいんだろ?」

「ご協力感謝いたします。ではこちらへ」

 ったく、毎度のことながらけったいな合言葉だぜ。黒服にカジノ会員であることを示す合言葉を告げた俺はフロアに案内された。今にも潰れそうな雑居ビルの地下にこの裏カジノは隠されている。贅を凝らしたフロアには普段よりも客が多い。そう、今日は月1回のビッグイベントがある日だ。そして俺はこのイベントに文字どおり人生を賭けていた。そのイベントこそチュンチュンレースだ。

 ルーレットがカジノの女王でバカラが王様なら、さながらチュンチュンレースはカジノの暴君だ。定石も必勝法もない予測不可能な展開に、他のゲームとは比較にならないレートの高さ。一度はまってしまえば勝ち続けるか文無しになるしかないとまで言われる危険なゲームだ。チュンチュンレースとはチュンチュンに特定のコースを走らせて、どの個体が勝つかを予想するゲームで、ルール自体は至極単純明快だ。ORDERと呼ばれるタイプは競走用に調教されたチュンチュンを使うため、室内型競馬とも言えそうだ。

 しかし、俺が挑むのはORDERではなくCONFUSEDと呼ばれるタイプだ。恐らく今日ここに来ている客のほとんどもこちらに挑むはずだ。CONFUSEDでは競争用調教をまったく施されていないチュンチュンを無作為に選出してレースが行われる。ただでさえ気まぐれなチュンチュンを何の準備もなく競走させることで、レース展開は全く予測不可能となる。これがCONFUSEDのキモであり、まさしく無秩序、カオスなゲームとなるのだ。俺の手持ちのカネは会社の帳簿をいじりにいじって捻出した2000万円。こいつを一発勝負でドカンと増やしてやる。大丈夫だ、今日は勝てる。いや、勝たなきゃ俺の人生はここで終わりだ。

「それでは本日のチュンチュンレースを開催いたします。参加されるお客様はお早目にディーラーへ賭け金をお告げください」
 
 アナウンスとともに、他のテーブルにいた客たちが一斉に特設コースの近くへ集まってきた。開始5分前にはレースに使うチュンチュンを見ることができるためだ。

「プワーオ。ヨクネタチュン」

「ポンチュンスイタチュン」

「ピュアピュア〜♪」

「ウンチュンデルチュン…」

 大金を賭ける俺たちのプレッシャーなどどこ吹く風で、チュンチュンたちは能天気だ。まったく、見ていて腹が立つ。こちとら人生が懸かってんだぞ…。いかんいかん、今はレースに勝てるチュンチュンを見定めなくちゃな。気を取り直して俺はレース用チュンチュンたちを一通り眺めてみた。レースには全部で12羽のチュンチュンが参加する。マヌケ面でお歌を歌っているやつ、こいつはダメだ。ボケっと座り込んでるやつも期待薄。隅っこで糞をたれてるのは論外だ。何だなんだ、今回のチュンチュンどもはロクなやつがいねぇな…。ため息をつく俺の目に、ふと黄緑のリボンをしたチュンチュンが映り込んだ。

「こいつ…勝てるか?」

 黄緑リボンのチュンチュンはうろうろと歩き回っていた。だが、気になったのはその脚だ。わかりにくいが、他の個体よりややあしゆびが大きく感じる。走り合いになったら有利かもしれない。そんなことを考えていると、ベット終了の時間が目前に迫っていた。

「…こうなったらおまえに賭けるぞ。おい!黄緑リボンのに2000万!」

 俺は自身の運命を決めるベットコールを行った。その直後にベットが打ち切られた。やれやれ、ぎりぎりまで悩まされたもんだ。そうこうしているうちにオッズが開示された。俺が虎の子をつぎ込んだ黄緑チュンチュンは意外にも人気が低く、勝てばとんでもない額を期待できそうだ。勝てば、の話だが…。いや、こんなところで弱気になっても仕方ねぇ。俺は固唾を飲んでレースの開始を待った。

「お待たせいたしました。チュンチュンレース、スタートです!」

 ディーラーのアナウンスとともに一斉にチュンチュンが駆け出す…はずもない。さっきも言ったとおり、CONFUSEDタイプは競走用の調教を一切されていないチュンチュンを使うのだ。開始の号令があって律儀に駆け出すチュンチュンなど1羽もいない。思い思いに歌を歌ったり、糞をたれている。

「わかっちゃぁいるが、とっとと走れや糞鳥ども…」

 俺も思わず舌打ちしてしまう。開始から5分ほどして、ようやくチュンチュンたちのうち数羽がゴールの方面へ歩き出した。俺の賭けた黄緑は…よし、歩いてるな。気まぐれでもいい、他のチュンチュンにくっついてでもいい。とにかくゴールの方へ歩き出すことが大事なのだ。

「ぢきしょう!とっとと起きろやぁあああ!」

 隣の客が顔面蒼白になって叫んでいる。こいつが賭けた黄色リボンのチュンチュンはあろうことか開始の号令があってからスタート地点で居眠りを始めたのだ。やれやれ、ご愁傷さま。

「いいぞ!その調子だ!進め!」

 向こうの中年オヤジは上機嫌で声援を送っている。あのオヤジが賭けた紺色リボンのチュンチュンは順調にゴールへ進んでいた。その後にピンクリボンと赤リボンが続く。俺が賭けた黄緑リボンは今のところ4位だ。室内コースとはいえ、チュンチュンどもにとってはけっこうな長さだから、まだ逆転の目はあるはずだ。

「ヂュウウウゥン!?」

突如響くチュンチュンの悲鳴。そう、こいつを待っていた。チュンチュンレースのコースには様々なトラップがしかけてあるのだ。ちょうど赤リボンのチュンチュンがコース上の落とし穴にはまったようだ。

「イタイチュン!タスケチュン!」

落とし穴の中には砕いたガラス片が大量にばら撒かれてあった。赤リボンのチュンチュンは薄汚い身体を血で染めてのたうちまわっている。もはやレースに復帰するのは不可能だ。よしよし、これでライバルが1羽脱落…っと。観客席からは赤リボンに賭けていたやつらが血の気のない顔で去って行った。

 これでライバルは紺色リボンとピンクリボンに絞られた。その差はあまりないが、このまま詰められずに進んでしまうと後がつらい。まずいな、他にトラップはないか…。そんなことに頭をめぐらせていると、思いもしないことが俺の目の前で起こった。

「オトモチュン、イマタスケユチュン!」

なんと紺色リボンが自ら落とし穴に入って瀕死の赤リボンを救出しようとしたのだ。

「サァ、ツカマユチュン。ヂュンッ!?」

しかし、友情パワーもばら撒かれたガラス片には通用しないようだ。紺色リボンも身体を次々とガラス片に貫かれて身動きが取れなくなってしまった。哀れ、紺色チュンチュン。しかし本当に哀れなのはこいつに賭けた客たちだ。

「ふざけんじゃねぇッ!俺の掛け金どうしてくれんだあぁああぁッ!」

 先ほどの中年オヤジが顔を真っ赤にして怒鳴っている。まるでゆでだこだ。いくら賭けたのかは知らないが、恐らく500万はくだらないだろう。ともあれ、これでまたライバルが脱落したわけだ。いいぞ、追い風が吹いてきてる。

「うっし!後はあのピンクリボンだな…」

 ピンクリボンは黙々とゴールに向かって歩んでいる。黄緑リボンもトラップを回避してついては来ているが、いかんせんその差は縮まらない。まずいぞ、このままじゃレースが終わっちまう。何か、何か逆転の目はないか…。

「ピギャアアァ!?」

頭をかかえる俺の耳に届いたチュンチュンの悲鳴。トラップか?そう思って顔を上げた俺の顔には信じられない光景が広がっていた。

「えへへ…もう終わりだァ。俺の人生おしまいだぁ…」

 なんと客の一人がいつの間にかコースに乱入して先頭を進むピンクリボンのチュンチュンを踏み潰していたのだ。よく見るとさっき叫んでいた黄色リボンに賭けていた客だ。負けが確定して気が触れたのだろう。すぐさま黒服たちに取り押さえられて奥に連れて行かれた。

「おいおい、どうすんだよこのレース!」

「こんなんちゃんちゃらおかしーぜ!」

 ピンクリボンに賭けていた客たちが口々に不満をこぼし始める。しかし、ピンクリボンに賭けた客には返金と詫び金がされることでレースは続行された。よし、いいぞ!俺の望んだ展開になってきた!黄緑リボンは順調にゴール近くまで進んでいる。後はトラップの類は見当たらない。他のチュンチュンたちには大幅なリードをとっている。もらった!このレース俺の勝ちだ!俺は人生を賭けたゲームに勝ったんだ!ゴールまであとわずか。俺は飛び跳ねてガッツポーズを決めようとうずうずしていた。

「ウ、ウマレユチュン…」

 は?いま、なんつった?

「チュン…!」

おいおい、勘弁してくれ。冗談だろ?まさか、それだけはないだろ?英国式ジョークだろ?そう言ってくれよ!

「ヂュヴヴヴヴヴヴン!」ポンツ

「うあぁあああぁあああぁあ!?」

こいつは…あろうことかこいつはゴール間近で卵を産んだのだ!なんでだ!なんでだよ!なんでこのタイミングで産むんだよ!?

「チュンチュンノタカヤモノー♪」
 
 黄緑リボンは卵を抱えてその場に座り込んでしまった。まずい、これは本格的にまずいぞ…。

「おい糞鳥!さっさとゴールまで歩け!歩いたらてめぇの出産を100回でも祝ってやらぁ!」

 俺は泣きながら叫んだが、黄緑リボンは卵を抱えたまま動こうとしない。3分ほどが過ぎると、別のチュンチュンがゴール近くまで歩み寄ってきた。

「う、嘘だろ?なんでおまえが…」

 そいつはあの黄色リボンだった。スタート早々に昼寝を始め、こいつの賭け主が連れて行かれたときものんきに糞をたれていたこいつが、すぐ近くまで迫っていたのだ。他のチュンチュンの大半はトラップにかかって死んでしまったらしい。

「や、やめてくれよ…。このままだと、俺の…俺の人生が…」

 俺は眼を真っ赤にして祈った。神様に、仏様に、のんたん様に。しかし、その祈りは無慈悲なアナウンスにかき消されたのだった。

「ゴォオールウゥウ!1着は黄色リボン、黄色リボンです!賭けたお客様はチップをお渡ししますのでお集まりください!1着は黄色リボーン!」

 魂の抜けたようになった俺はカジノの別室を訪れた。賭けたチュンチュンが1着にならなかった場合、そのチュンチュンを引き取ることができるのだ。もちろん、飼うためなんかじゃない。ギャンブルに負けた恨みを晴らすために痛めつけるのが目的だ。チュンチュンレースを行うカジノでは負けた客が暴れないように、こうやってしっかりガス抜きをするのだ。別室には俺の他にも負け客が糞鳥どもに制裁を加えていた。例のゆでだこオヤジも既に失血死した紺色リボンを何度も足蹴にしていた。

「タマチュン、カワイイチュン。チュンチュンソックリノカワイイコニナルチュン」

 黄緑リボンは大事そうに卵を抱えている。俺の我慢は限界だった。乱暴に卵を取り上げると、勢いよく壁に向かって投げつけてやった。卵はぐちゃぐちゃの汚らしい液状へと変わった。

「チュン!?タマチュンニナンテコトスユチュン!」

「うっせぇ!」

 俺は黄緑リボンを鷲掴みにすると、もう片方の拳で力いっぱいぶん殴った。

「ヂュブアァアアア!?」

渾身のストレートは糞鳥の顔面を正確に捉えていた。黄緑リボンは右眼が破裂し、くちばしの上部がもげてしまった。

「てめえのせいで!てめえのせいで俺はぁああああ!」

「ヂュギャアアァアアアア!?」

俺は湧き上がる怒り全てをこの糞鳥にぶつけた。とさかを引き抜き、脚をもいだ。左眼に親指を突っ込んで抉った。口を裂けるまで引っ張り、羽をむしった。とっくに絶命していたが、それでも気が済まず、床に叩きつけて肉片になるまで踏み潰した。

 これで終わりだ。もう使い込んだ会社のカネは埋められない。終わりだ。おしまいだ。俺は先ほどの黄色リボンに賭けた客のように何度も呟いていた。後はバックれるくらいしかなさそうだ。チュンチュンレース。こんなものに手を出したのがそもそも間違っていたんだ。俺は破滅という棺桶に頭から入り込んでしまったらしい。おまえらもやるんじゃねえぞ、チュンチュンレース…。

 完

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