「いいか、よく聞け。これから見る映像は正直きつい。見てて辛くなるだろう。でもな、これのお陰で今の世界は平和なんだ。見るのが辛くても目をそらさずにしっかり見て欲しい。」
そう言うと私は記憶媒体を映像機器にセットした。
毎年一回行われるこの授業。社会科の教師として行うのは当然だ。しかし、まだ中学生という年頃の子供たちにこれを見せるのは心が痛くなる。だがこれは国から義務づけられている授業なのだ。やるしかない。
核教育。
そう呼ばれている。
西暦202X年。世界から核兵器が消えた。世界各国の首脳が核兵器根絶のために一致団結したのだ。
それはただ、平和のために核兵器をなくそうというものではない。
人類が皆、もう核はこりごりだと思ったからである。
核兵器が根絶する一年前、人類滅亡の危機が訪れたのだ。某独裁国家が大国アメリカに向け核兵器の標準を合わせた。それに気づいたアメリカも報復のため某独裁国家に核の標準を合わせる。それにともないアメリカの同盟国家及び敵対する国家もそれぞれがミサイル発射ボタンに指をかける。
人類を何回も絶滅させるだけの威力を持つ兵器がいくつもスタンバイされたのだ。
幸い、某独裁国家の主導者が部下によって暗殺されたことで、事は終わりを告げる。
そして人類は恐怖した。自分達は何をしようとしていたのか。数多ある予言の滅びの日を迎えようとしていたということを。
核兵器による滅亡に恐怖した人類は核を捨てた。アメリカとロシアという二つの核大国が真っ先に核を捨てたことで、事はすんなりと進んだ。大国に続き他の核保有国も次々と核を放棄したのだ。
そしてもう核保有国がでないようにするために、国連が中心となりあることを全世界の国の教育機関に義務づけた。
それが核教育だ。
核教育は核保有国が現れないことを目的として、核兵器の恐ろしさ、非人道さを訴えるためのものだ。その内容は主に、核によって生物がどのような被害を受け、どのように命を落としていくのか、というものである。そして使われる動物はチュン(・8・)チュンという動物である。
チュンチュンは不思議なことに人語を操ることができる。その姿を人間と重ねる人も多いのだろう。チュンチュンが核兵器によって命を落としていく様は子供たちの心に強く印象を与えるのだ。この教育の効果についてはついては賛否両論あるが、核の恐ろしさを伝えるには十分だと私は考えている。
そうして私は映像機器の再生ボタンを押した。ざわついていた教室が静かになり、そして映像が始まる。
映像がある場所を映した。
ここは地下深くにある、とある核実験場だった場所である。
今はもう使われてはないのだが、核教育のために使用された地球上最後の核兵器関連の施設である。(無論、核の平和利用:原子力発電は世界中で行われている)
ここには人工的に作られたチュンチュンの巣がたくさんあり、そして数千のチュンチュンたちが楽しそうに暮らしている。
地下とは言えど照明も設置されており、夜になれば明かりも消えるので地上と変わらずに生活できるようになっているのだ。それだけではなく、水や食料も用意されているのでチュンチュンたちにとって何不自由ない暮らしができる、まさに地下の楽園ともいうべき場所だ。
そして映像はチュンチュンたちを映す。
ﾋﾟｭｱﾋﾟｭｱ〜ﾗﾋﾞｭﾗﾋﾞｭ〜
ｵｳﾀﾉｵｹｲｺﾊｵﾜﾘﾁｭﾝ。ﾏｶﾖﾝﾀﾍﾞﾕﾁｭﾝ。
ﾋﾟｨｨﾏｶﾖﾝﾀ-ﾉｼﾐﾁｭ-ﾝ♪
これはチュンチュン親子だろうか。楽しそうにお歌を歌っている。親であろうチュンチュンと子供たちがいるようだ。子供たちはまだ産毛に包まれている。それでも一生懸命お歌を歌っている姿はなんとも微笑ましい。
(・8・)ﾏﾏﾁﾝﾅﾃﾞﾃﾎｼｲﾁｭﾝ
ﾋﾟﾖﾁｭﾝｵｲﾃﾞ。ﾅﾃﾞﾅﾃﾞｼﾃｱｹﾞﾕﾁｭﾝ。
ﾏﾏﾁﾝﾀﾞｲｽｷﾁｭﾝ
ﾋﾟﾖﾁｭﾝﾀﾁｵｻﾝﾎﾟｲｸﾁｭﾝ。
ﾔｯﾀﾁｭﾝ!ｵｻﾝﾎﾟﾀﾞｲｽｷﾁｭﾝ
ｵｻﾝﾎﾟﾊｵﾝﾅﾉｺﾉﾀｼﾅﾐﾁｭ-ﾝ
それぞれの親子が幸せそうに生きている。ここには怖いものなど何もないのだ。これからもずっとこの幸せが続いていくだろうとどのチュンチュンたちも思っていた。
ﾋﾟｶｧｯ!!!!
ﾄﾞｶｧｰｰｰﾝ!!
それは突然のことだった。
一瞬強烈な閃光が走ったかと思うと、辺りは一瞬にして火の海となった。そして半球状に衝撃波が広がる。
この地下実験場は直径50kmほどの広さだ。使われた核は小型の威力を抑えたものである。強力な威力を持つ核を使うと、すんでいるチュンチュンたちは一瞬にして絶滅してしまうので、教育にならないのだ。
それでも半径1�劼砲垢鵑任い襯船絅鵐船絅鵑燭舛楼貊屬砲靴鴇�発した。自分達が死んだことにすら気づくことができなかっただろう。
半径7km以内にすむチュンチュンたちも、強烈な熱線とその後の衝撃波、そして爆発によりすべてのチュンチュンが10秒以内に命を落とした。
ｱ"ﾂ"ｲ"ﾁ"ｭﾝ"!!ｱ"ﾂ"ｲ"ﾁ"ｭﾝ"!!!
ゴロゴロと火だるまになったチュンチュンが転げ回っている。直接の熱線は避けることができたのだろう。しかしその後大気の温度は数千度まで上がり、体が発火したのだろうか。
そしてすぐにその動きは止まった。
立ったまま消し炭になっているチュンチュンもいる。
人工的に作られた巣はすべて吹き飛び炭となった。この光景を言葉で言い表すなら地獄としか言えないだろう。
半径7kmよりも外側にすんでいるチュンチュンたちはもっと悲惨であった。猛烈な被害を受け、それでも死ぬことができないチュンチュンが多くいたのだ。
ｵﾐﾕｶﾞﾎｼｲﾁｭﾝ…
ｵﾐﾕ…ｵﾐﾕ…
熱線により皮膚は焼けただれ、ふらふらとあるはずのない水を求めてさまよっている。
そして十数分後、このチュンチュンは息絶えた。最後まで猛烈な渇きに苦しんで死んでいったのだ。
ﾋﾟｭｱﾋﾟｭｱ〜ﾗﾋﾞｭﾗﾋﾞｭ〜
おかしくなってしまったチュンチュンもいた。このチュンチュンは両手がない。きっと爆風によって引きちぎれたのだろうか。
そして大量に吐血をしたあと、ばたりと倒れてもう二度と動くことはなかった。
ｸﾕｼｲﾁｭﾝ ﾀｼｭｹﾃ… ｵﾈｶﾞｧ…ｲ
ｺﾖｼﾃ…ｺﾖｼﾃ…ﾗｸﾆｼﾃﾎｼｲﾁｭﾝ…
ﾁｭｹﾞｪ…ｵﾛｵﾛｵﾛ
そこらじゅうから水を求める声と苦しむうめき声が聞こえた。
どのチュンチュンも皮膚は焼けただれ、臓器や骨が露出してるのもいれば、真っ黒に焦げているのもいる。
ﾐｴﾅｲﾁｭﾝ……ｸﾕｼｲﾁｭﾝ…ｵﾐﾕ…
目がある場所からだらんと球状のものが垂れているチュンチュンがいる。おそらく眼球であろう。かろうじて神経によって繋がっている状態だ。
パタリ、またパタリとふらふらさまよっているチュンチュンたちが事切れる。
実験場に埋め込まれた、核の爆風にも耐える特殊なカメラはその様子をしっかりととらえていた。
「うっ、おえぇ!!」
生徒の一人が嘔吐した。あまりにも強烈な映像に耐えられなかったのだろう。
それにつられて何人かも嘔吐した。
こんなもの子供に見せるべきではない。改めてそう思うが、毎年この授業を怠ったとして何人の教師が罰せられたことか。
映像を一端止めて、生徒が戻したものを素早く片付ける。こうなることは予想されていたのでバケツ等の準備もなされていた。
戻した生徒を保健委員に任せ、私は映像を再び再生する。
映像が切り替わった。
ここは爆心地から15kmほど離れた場所だろうか。
強力な爆発とその高温による被害はかろうじて免れたが、爆発に伴う衝撃波による甚大な被害を受けていた。
巣は吹き飛び、木々の枝には吹き飛ばされたチュンチュンたちが刺さっていた。
ｹﾞｪｪ…ｸﾕｼｲﾁｭﾝ…ｵﾄﾓﾁｭﾝ…ﾀｽｹﾃﾁｭﾝ
ﾏｰﾋﾟ…ﾖ
ｲﾀｲﾁｭﾝ…ｲﾀｲﾁｭﾝ…
木々の枝に深く刺さったチュンチュンを助けるものなどいなかった。
そして枝に刺さったまま死んでいった。
倒壊した巣の下敷きになったチュンチュンがいる。ぶよぶよの体は完全に挟まり、出ることができないようだ。
ﾊｻﾏｯﾃﾕﾁｭﾝ…ｸﾕｼｲﾁｭﾝ…ﾀﾞﾚｶﾀｼｭｹﾃｪ
ｵﾈｶﾞｧｲ…
バチバチとものが燃える音が近づいてくる。建物の火災が広がっているようだ。下敷きになったチュンチュンの建物にも火が移る。
ｱﾂｲﾁｭﾝ!!ｱﾂｲﾁｭﾝ!!
ﾀｼｭｹﾃ!!
ｼﾇﾉﾊﾔﾝﾔﾝ!!!
ﾋﾞｨｨｨｲｲ!!!!!
誰も助けてくれるはずもなく、このチュンチュンは自分の肉が焼ける音を聞きながら死んでいった。
ここは爆心地から25kmほど離れた場所だ。地下実験場の端のほうである。直接な被害は受けなかったもの、爆風によって巣が崩壊しているところもある。
ﾋﾞｨｨ!ﾏｰﾋﾟﾖ ｺﾜｲﾁﾝ
ｵｵｷﾅｵﾄｶﾞｼﾀﾁﾝ!
ﾏｰﾋﾟﾖ ﾏｰﾋﾟﾖ
地下の中心部で起こった大爆発。
それが何なのかチュンチュンたちにはわかるはずもなく、ただ恐怖していた。
ｷｯﾄ ｵﾄﾓﾁｭﾝﾀﾁ ｸﾕｼﾝﾃﾞｲﾕﾁｭﾝ
ｲﾏｶﾔ ﾀｽｹﾆｲｸﾁｭﾝ
ﾏｰﾋﾟﾖ ｺﾜｲﾁﾝ…
ｵﾄﾓﾁｭﾝ ﾀｽｹﾆｲｸﾁｭﾝ
無事だったチュンチュンたちは地下の中心部へと向かった。オトモチュンが助けを求めていると信じて。
しかしそれは成されることはなかった。
まずはピヨチュン、ヒナチュンの体に異変が起きた。
ﾏｰﾋﾟﾖ…ｻﾑｲﾁﾝ (ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ
ﾌﾞﾋﾞﾋﾞﾋﾞﾋﾞ!!
ﾋﾞｨｨ! ﾋﾅﾁｭﾝﾉ ｳﾝﾁｭﾝ ﾏｯｶﾁｭﾝ
異様に寒いというヒナチュンもいれば血便をするヒナチュンもいた。
パサッ パサッ
体に異変が出たヒナチュンの毛がひらりと抜けていく。
ﾎﾟﾝﾁｭﾝｲﾀｲﾁｭﾝ…
ﾁｭｹﾞｪ…ｵﾛｵﾛｵﾛ
そしてとうとう吐血した。
ﾋﾅﾁｭﾝ ｼｯｶｲ ｽﾕﾁｭﾝ…
チュンチュンが娘を抱き抱えると、すでにヒナチュンは息絶えていた。とさかの毛がすべて抜け落ちた。
ﾋﾞｨｨ… ﾁｭﾝﾁｭﾝﾉﾀｶﾔﾓﾉ…ﾔﾝﾔﾝ……
核爆発によって撒き散らされた放射性物質は、爆発の被害を受けなかった場所にも影響を与えた。
強い線量を浴びると細胞が破壊されて、代謝がなされなくなる。
皮膚や内蔵が駄目になり、そして死に至る。
それはすぐにチュンチュンに起こる。
ｻﾑｲﾁｭﾝ…ｻﾑｲﾁｭﾝ
ﾁｭﾝﾁｭﾝﾉｶﾜｲｲｶﾐﾉｹｶﾞ…
ﾋﾟｨｨｨ!!ﾋﾟｨｨｨ…
パサリと抜け落ちていくとさかの毛。
この期に及んでも身だしなみを心配しているようだ。
ﾁｭｹﾞｪ…
ﾎﾟﾝﾁｭﾝｸﾕｼｲﾁｭﾝ…
ﾀｼｭｹﾃ…ﾀｼｭｹﾃ……
内蔵を放射線でやられたことにより吐血するチュンチュン。
口の回りを吐いた血で染め、身体中の毛が抜け落ちた様は言葉に言い表せない。
この実験場にすむどのチュンチュンにも同様な症状が出ていた。
ｸﾕｼｲﾁｭﾝ…ｼﾆﾀｸﾅｲﾁｭﾝ
ﾀｽｹﾃﾎｼｲﾁｭﾝ…
ヒナチュンやピヨチュンはとっくに息絶えた。
残ったチュンチュンももう長くはないだろう。しかしどのチュンチュンも必死に生きようとしていた。
そのチュンチュンたちが命を落としていく様子が次々と映し出された。
身体中の毛が抜け、里芋のような姿で死んだ我が子を抱き締めているチュンチュン。
このチュンチュンはそのまま動かなくなった。
水を求めてふらふらとさまよい続けるチュンチュン。
死んだオトモチュンの露出した内蔵を水溜まりだと思い顔面から突っ込み息絶えた。
吐血しながらお歌を歌い続けるチュンチュン。
最後に盛大に血を吐きそして息を引き取った。
爆発から丸一日後、数千もいた地下のチュンチュンたちはすべて事切れた。
映像はチュンチュンの死体を次々と流しながら
"平和は、武力によっては維持できない。それは唯一、理解によってのみ達成される。"
というアインシュタインの台詞とともに終了した。
最後のアインシュタインの台詞の意味を考える。理解とは何を理解するということなのか。
無論、社会科の教師としてこの台詞は知っていたが、その意味は他者を理解しろということだととらえていた。しかしこの映像のこのメッセージは、核の恐ろしさを理解しろ、ということであろう。
教室は静寂のままだ。そして授業終了を告げるチャイムが鳴る。
生徒はだれ一人動かない。
シーンとした教室を見渡す。いつもやんちゃしているしている生徒さえも、何もしゃべらない。
核兵器がもし打ち込まれたら…
核兵器をもし打ち込んだら…
自分達は、相手の国の人々はどうなるのか少しは想像できただろうか。
この映像は世界中の教育機関で使用される。世界中の子供たちがこれを見て大人になる。いつかこの映像を見た子供たちが大人になり、そして世界を動かしていくのだ。
私もこの映像を見ながらいつも思う。どうか、何も知らぬまま核の炎に焼かれていったチュンチュンたちと同じ目にはあいたくないものだと。
チュンチュンの死が無駄になるようなことは勘弁して欲しいと。
核がなくなった今の世界。それは核による抑止力もなくなったということだ。それをいいことに、どこかの狂人がおかしなことを考えなければいいが。
そう考えながら、授業終了の挨拶を済ませた。
おし( - 8 - )まい
そう言うと私は記憶媒体を映像機器にセットした。
毎年一回行われるこの授業。社会科の教師として行うのは当然だ。しかし、まだ中学生という年頃の子供たちにこれを見せるのは心が痛くなる。だがこれは国から義務づけられている授業なのだ。やるしかない。
核教育。
そう呼ばれている。
西暦202X年。世界から核兵器が消えた。世界各国の首脳が核兵器根絶のために一致団結したのだ。
それはただ、平和のために核兵器をなくそうというものではない。
人類が皆、もう核はこりごりだと思ったからである。
核兵器が根絶する一年前、人類滅亡の危機が訪れたのだ。某独裁国家が大国アメリカに向け核兵器の標準を合わせた。それに気づいたアメリカも報復のため某独裁国家に核の標準を合わせる。それにともないアメリカの同盟国家及び敵対する国家もそれぞれがミサイル発射ボタンに指をかける。
人類を何回も絶滅させるだけの威力を持つ兵器がいくつもスタンバイされたのだ。
幸い、某独裁国家の主導者が部下によって暗殺されたことで、事は終わりを告げる。
そして人類は恐怖した。自分達は何をしようとしていたのか。数多ある予言の滅びの日を迎えようとしていたということを。
核兵器による滅亡に恐怖した人類は核を捨てた。アメリカとロシアという二つの核大国が真っ先に核を捨てたことで、事はすんなりと進んだ。大国に続き他の核保有国も次々と核を放棄したのだ。
そしてもう核保有国がでないようにするために、国連が中心となりあることを全世界の国の教育機関に義務づけた。
それが核教育だ。
核教育は核保有国が現れないことを目的として、核兵器の恐ろしさ、非人道さを訴えるためのものだ。その内容は主に、核によって生物がどのような被害を受け、どのように命を落としていくのか、というものである。そして使われる動物はチュン(・8・)チュンという動物である。
チュンチュンは不思議なことに人語を操ることができる。その姿を人間と重ねる人も多いのだろう。チュンチュンが核兵器によって命を落としていく様は子供たちの心に強く印象を与えるのだ。この教育の効果についてはついては賛否両論あるが、核の恐ろしさを伝えるには十分だと私は考えている。
そうして私は映像機器の再生ボタンを押した。ざわついていた教室が静かになり、そして映像が始まる。
映像がある場所を映した。
ここは地下深くにある、とある核実験場だった場所である。
今はもう使われてはないのだが、核教育のために使用された地球上最後の核兵器関連の施設である。(無論、核の平和利用:原子力発電は世界中で行われている)
ここには人工的に作られたチュンチュンの巣がたくさんあり、そして数千のチュンチュンたちが楽しそうに暮らしている。
地下とは言えど照明も設置されており、夜になれば明かりも消えるので地上と変わらずに生活できるようになっているのだ。それだけではなく、水や食料も用意されているのでチュンチュンたちにとって何不自由ない暮らしができる、まさに地下の楽園ともいうべき場所だ。
そして映像はチュンチュンたちを映す。
ﾋﾟｭｱﾋﾟｭｱ〜ﾗﾋﾞｭﾗﾋﾞｭ〜
ｵｳﾀﾉｵｹｲｺﾊｵﾜﾘﾁｭﾝ。ﾏｶﾖﾝﾀﾍﾞﾕﾁｭﾝ。
ﾋﾟｨｨﾏｶﾖﾝﾀ-ﾉｼﾐﾁｭ-ﾝ♪
これはチュンチュン親子だろうか。楽しそうにお歌を歌っている。親であろうチュンチュンと子供たちがいるようだ。子供たちはまだ産毛に包まれている。それでも一生懸命お歌を歌っている姿はなんとも微笑ましい。
(・8・)ﾏﾏﾁﾝﾅﾃﾞﾃﾎｼｲﾁｭﾝ
ﾋﾟﾖﾁｭﾝｵｲﾃﾞ。ﾅﾃﾞﾅﾃﾞｼﾃｱｹﾞﾕﾁｭﾝ。
ﾏﾏﾁﾝﾀﾞｲｽｷﾁｭﾝ
ﾋﾟﾖﾁｭﾝﾀﾁｵｻﾝﾎﾟｲｸﾁｭﾝ。
ﾔｯﾀﾁｭﾝ!ｵｻﾝﾎﾟﾀﾞｲｽｷﾁｭﾝ
ｵｻﾝﾎﾟﾊｵﾝﾅﾉｺﾉﾀｼﾅﾐﾁｭ-ﾝ
それぞれの親子が幸せそうに生きている。ここには怖いものなど何もないのだ。これからもずっとこの幸せが続いていくだろうとどのチュンチュンたちも思っていた。
ﾋﾟｶｧｯ!!!!
ﾄﾞｶｧｰｰｰﾝ!!
それは突然のことだった。
一瞬強烈な閃光が走ったかと思うと、辺りは一瞬にして火の海となった。そして半球状に衝撃波が広がる。
この地下実験場は直径50kmほどの広さだ。使われた核は小型の威力を抑えたものである。強力な威力を持つ核を使うと、すんでいるチュンチュンたちは一瞬にして絶滅してしまうので、教育にならないのだ。
それでも半径1�劼砲垢鵑任い襯船絅鵐船絅鵑燭舛楼貊屬砲靴鴇�発した。自分達が死んだことにすら気づくことができなかっただろう。
半径7km以内にすむチュンチュンたちも、強烈な熱線とその後の衝撃波、そして爆発によりすべてのチュンチュンが10秒以内に命を落とした。
ｱ"ﾂ"ｲ"ﾁ"ｭﾝ"!!ｱ"ﾂ"ｲ"ﾁ"ｭﾝ"!!!
ゴロゴロと火だるまになったチュンチュンが転げ回っている。直接の熱線は避けることができたのだろう。しかしその後大気の温度は数千度まで上がり、体が発火したのだろうか。
そしてすぐにその動きは止まった。
立ったまま消し炭になっているチュンチュンもいる。
人工的に作られた巣はすべて吹き飛び炭となった。この光景を言葉で言い表すなら地獄としか言えないだろう。
半径7kmよりも外側にすんでいるチュンチュンたちはもっと悲惨であった。猛烈な被害を受け、それでも死ぬことができないチュンチュンが多くいたのだ。
ｵﾐﾕｶﾞﾎｼｲﾁｭﾝ…
ｵﾐﾕ…ｵﾐﾕ…
熱線により皮膚は焼けただれ、ふらふらとあるはずのない水を求めてさまよっている。
そして十数分後、このチュンチュンは息絶えた。最後まで猛烈な渇きに苦しんで死んでいったのだ。
ﾋﾟｭｱﾋﾟｭｱ〜ﾗﾋﾞｭﾗﾋﾞｭ〜
おかしくなってしまったチュンチュンもいた。このチュンチュンは両手がない。きっと爆風によって引きちぎれたのだろうか。
そして大量に吐血をしたあと、ばたりと倒れてもう二度と動くことはなかった。
ｸﾕｼｲﾁｭﾝ ﾀｼｭｹﾃ… ｵﾈｶﾞｧ…ｲ
ｺﾖｼﾃ…ｺﾖｼﾃ…ﾗｸﾆｼﾃﾎｼｲﾁｭﾝ…
ﾁｭｹﾞｪ…ｵﾛｵﾛｵﾛ
そこらじゅうから水を求める声と苦しむうめき声が聞こえた。
どのチュンチュンも皮膚は焼けただれ、臓器や骨が露出してるのもいれば、真っ黒に焦げているのもいる。
ﾐｴﾅｲﾁｭﾝ……ｸﾕｼｲﾁｭﾝ…ｵﾐﾕ…
目がある場所からだらんと球状のものが垂れているチュンチュンがいる。おそらく眼球であろう。かろうじて神経によって繋がっている状態だ。
パタリ、またパタリとふらふらさまよっているチュンチュンたちが事切れる。
実験場に埋め込まれた、核の爆風にも耐える特殊なカメラはその様子をしっかりととらえていた。
「うっ、おえぇ!!」
生徒の一人が嘔吐した。あまりにも強烈な映像に耐えられなかったのだろう。
それにつられて何人かも嘔吐した。
こんなもの子供に見せるべきではない。改めてそう思うが、毎年この授業を怠ったとして何人の教師が罰せられたことか。
映像を一端止めて、生徒が戻したものを素早く片付ける。こうなることは予想されていたのでバケツ等の準備もなされていた。
戻した生徒を保健委員に任せ、私は映像を再び再生する。
映像が切り替わった。
ここは爆心地から15kmほど離れた場所だろうか。
強力な爆発とその高温による被害はかろうじて免れたが、爆発に伴う衝撃波による甚大な被害を受けていた。
巣は吹き飛び、木々の枝には吹き飛ばされたチュンチュンたちが刺さっていた。
ｹﾞｪｪ…ｸﾕｼｲﾁｭﾝ…ｵﾄﾓﾁｭﾝ…ﾀｽｹﾃﾁｭﾝ
ﾏｰﾋﾟ…ﾖ
ｲﾀｲﾁｭﾝ…ｲﾀｲﾁｭﾝ…
木々の枝に深く刺さったチュンチュンを助けるものなどいなかった。
そして枝に刺さったまま死んでいった。
倒壊した巣の下敷きになったチュンチュンがいる。ぶよぶよの体は完全に挟まり、出ることができないようだ。
ﾊｻﾏｯﾃﾕﾁｭﾝ…ｸﾕｼｲﾁｭﾝ…ﾀﾞﾚｶﾀｼｭｹﾃｪ
ｵﾈｶﾞｧｲ…
バチバチとものが燃える音が近づいてくる。建物の火災が広がっているようだ。下敷きになったチュンチュンの建物にも火が移る。
ｱﾂｲﾁｭﾝ!!ｱﾂｲﾁｭﾝ!!
ﾀｼｭｹﾃ!!
ｼﾇﾉﾊﾔﾝﾔﾝ!!!
ﾋﾞｨｨｨｲｲ!!!!!
誰も助けてくれるはずもなく、このチュンチュンは自分の肉が焼ける音を聞きながら死んでいった。
ここは爆心地から25kmほど離れた場所だ。地下実験場の端のほうである。直接な被害は受けなかったもの、爆風によって巣が崩壊しているところもある。
ﾋﾞｨｨ!ﾏｰﾋﾟﾖ ｺﾜｲﾁﾝ
ｵｵｷﾅｵﾄｶﾞｼﾀﾁﾝ!
ﾏｰﾋﾟﾖ ﾏｰﾋﾟﾖ
地下の中心部で起こった大爆発。
それが何なのかチュンチュンたちにはわかるはずもなく、ただ恐怖していた。
ｷｯﾄ ｵﾄﾓﾁｭﾝﾀﾁ ｸﾕｼﾝﾃﾞｲﾕﾁｭﾝ
ｲﾏｶﾔ ﾀｽｹﾆｲｸﾁｭﾝ
ﾏｰﾋﾟﾖ ｺﾜｲﾁﾝ…
ｵﾄﾓﾁｭﾝ ﾀｽｹﾆｲｸﾁｭﾝ
無事だったチュンチュンたちは地下の中心部へと向かった。オトモチュンが助けを求めていると信じて。
しかしそれは成されることはなかった。
まずはピヨチュン、ヒナチュンの体に異変が起きた。
ﾏｰﾋﾟﾖ…ｻﾑｲﾁﾝ (ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ
ﾌﾞﾋﾞﾋﾞﾋﾞﾋﾞ!!
ﾋﾞｨｨ! ﾋﾅﾁｭﾝﾉ ｳﾝﾁｭﾝ ﾏｯｶﾁｭﾝ
異様に寒いというヒナチュンもいれば血便をするヒナチュンもいた。
パサッ パサッ
体に異変が出たヒナチュンの毛がひらりと抜けていく。
ﾎﾟﾝﾁｭﾝｲﾀｲﾁｭﾝ…
ﾁｭｹﾞｪ…ｵﾛｵﾛｵﾛ
そしてとうとう吐血した。
ﾋﾅﾁｭﾝ ｼｯｶｲ ｽﾕﾁｭﾝ…
チュンチュンが娘を抱き抱えると、すでにヒナチュンは息絶えていた。とさかの毛がすべて抜け落ちた。
ﾋﾞｨｨ… ﾁｭﾝﾁｭﾝﾉﾀｶﾔﾓﾉ…ﾔﾝﾔﾝ……
核爆発によって撒き散らされた放射性物質は、爆発の被害を受けなかった場所にも影響を与えた。
強い線量を浴びると細胞が破壊されて、代謝がなされなくなる。
皮膚や内蔵が駄目になり、そして死に至る。
それはすぐにチュンチュンに起こる。
ｻﾑｲﾁｭﾝ…ｻﾑｲﾁｭﾝ
ﾁｭﾝﾁｭﾝﾉｶﾜｲｲｶﾐﾉｹｶﾞ…
ﾋﾟｨｨｨ!!ﾋﾟｨｨｨ…
パサリと抜け落ちていくとさかの毛。
この期に及んでも身だしなみを心配しているようだ。
ﾁｭｹﾞｪ…
ﾎﾟﾝﾁｭﾝｸﾕｼｲﾁｭﾝ…
ﾀｼｭｹﾃ…ﾀｼｭｹﾃ……
内蔵を放射線でやられたことにより吐血するチュンチュン。
口の回りを吐いた血で染め、身体中の毛が抜け落ちた様は言葉に言い表せない。
この実験場にすむどのチュンチュンにも同様な症状が出ていた。
ｸﾕｼｲﾁｭﾝ…ｼﾆﾀｸﾅｲﾁｭﾝ
ﾀｽｹﾃﾎｼｲﾁｭﾝ…
ヒナチュンやピヨチュンはとっくに息絶えた。
残ったチュンチュンももう長くはないだろう。しかしどのチュンチュンも必死に生きようとしていた。
そのチュンチュンたちが命を落としていく様子が次々と映し出された。
身体中の毛が抜け、里芋のような姿で死んだ我が子を抱き締めているチュンチュン。
このチュンチュンはそのまま動かなくなった。
水を求めてふらふらとさまよい続けるチュンチュン。
死んだオトモチュンの露出した内蔵を水溜まりだと思い顔面から突っ込み息絶えた。
吐血しながらお歌を歌い続けるチュンチュン。
最後に盛大に血を吐きそして息を引き取った。
爆発から丸一日後、数千もいた地下のチュンチュンたちはすべて事切れた。
映像はチュンチュンの死体を次々と流しながら
"平和は、武力によっては維持できない。それは唯一、理解によってのみ達成される。"
というアインシュタインの台詞とともに終了した。
最後のアインシュタインの台詞の意味を考える。理解とは何を理解するということなのか。
無論、社会科の教師としてこの台詞は知っていたが、その意味は他者を理解しろということだととらえていた。しかしこの映像のこのメッセージは、核の恐ろしさを理解しろ、ということであろう。
教室は静寂のままだ。そして授業終了を告げるチャイムが鳴る。
生徒はだれ一人動かない。
シーンとした教室を見渡す。いつもやんちゃしているしている生徒さえも、何もしゃべらない。
核兵器がもし打ち込まれたら…
核兵器をもし打ち込んだら…
自分達は、相手の国の人々はどうなるのか少しは想像できただろうか。
この映像は世界中の教育機関で使用される。世界中の子供たちがこれを見て大人になる。いつかこの映像を見た子供たちが大人になり、そして世界を動かしていくのだ。
私もこの映像を見ながらいつも思う。どうか、何も知らぬまま核の炎に焼かれていったチュンチュンたちと同じ目にはあいたくないものだと。
チュンチュンの死が無駄になるようなことは勘弁して欲しいと。
核がなくなった今の世界。それは核による抑止力もなくなったということだ。それをいいことに、どこかの狂人がおかしなことを考えなければいいが。
そう考えながら、授業終了の挨拶を済ませた。
おし( - 8 - )まい
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