表現の自由にまつわる言説の事実関係を検証しています。

要旨

 『共産党が2022年参院選の公約で表現規制を主張した』とする主張は事実に反しミスリードである。

発言

山田太郎/参議院議員(自由民主党)*1

 (引用者注:太字は原文ママ)
 最後は共産党です。各党の公約の中で最も批判を集めたのが共産党の「2021総選挙政策」でした。問題の公約は、次の「女性とジェンダー」にまつわるものです。
<女性とジェンダー>
―――児童ポルノは「性の商品化」の中でも最悪のものです。児童ポルノ禁止法(1999年成立。2004年、2014年改正)における児童ポルノの定義を、「児童性虐待・性的搾取描写物」と改め、性虐待・性的搾取という重大な人権侵害から、あらゆる子どもを守ることを立法趣旨として明確にし、実効性を高めることを求めます。

現行法は、漫画やアニメ、ゲームなどのいわゆる「非実在児童ポルノ」については規制の対象としていませんが、''日本は、極端に暴力的な子どもポルノを描いた漫画やアニメ、CG、ビデオ、オンライン・ゲーム等の主要な制作国として国際的にも名指しされており、これらを適切に規制するためのより踏み込んだ対策を国連人権理事会の特別報告者などから勧告されています(2016年)。

''非実在児童ポルノは、現実・生身の子どもを誰も害していないとしても、子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広め、子どもの尊厳を傷つけることにつながります。「表現の自由」やプライバシー権を守りながら、子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会的な合意をつくっていくために、幅広い関係者と力をあわせて取り組みます。

 国連機関の要請に従って、「表現規制を進めよう」という内容の公約です。
 論点は3つあります。まず「児童ポルノの定義」を「児童性虐待・児童性的搾取描写物」と改めようとしているところです。描写物と書くからには、マンガ・アニメ・ゲームなどもその対象となりかねません。
 特に批判を集めた項目であったため、後日、共産党は公式サイトで「『児童ポルノ規制』を名目にしたマンガ・アニメねどへの法的規制の動きには反対です」と釈明しています。一方で、何が規制の対象なのかは不透明です。
(中略)
 批判を集めた後に公開した釈明の文章では、「『児童ポルノ規制』を名目にしたマンガ・アニメなどへの法的規制の動きには反対です」としていますが、非実在ポルノであれば規制を進めるのでしょうか。
 また、「今回の『女性とジェンダー』の政策は、一足飛びに表現物・創作物に対する法的規制を提起したものではありません」とも書かれています。ということは、徐々に規制を進めていくということなのでしょうか。
 かつては表現の自由を守る同志として共闘してきた共産党が、表現規制を求める立場に変わってしまったことに戸惑いを隠せません。

赤松健/参議院議員(自由民主党)*2

(引用者注:赤松の、表現規制に関する野党の態度が変わったという発言を受けて)
 ――立憲民主党は、2022年夏の参院選の公認候補は、半数を女性にする方針を明らかにしています。そういった姿勢のことでしょうか。
赤松 いや、2021年の衆院選の時点で、例えば共産党は公式な政策集に「非実在児童ポルノ」という言葉を登場させ、「非実在児童ポルノは、現実・生身の子どもを誰も害していないとしても、子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広め、子どもの尊厳を傷つけることにつながります。」と記しました。
 これは石原都知事時代の「非実在青少年」を思い起こさせる言葉ですが、被害者がいなくても風紀が乱れるから創作物を規制せよということで、ずいぶん方針が変わったような印象を受けました。

評価

 事実関係:事実に反する
 解釈表現:ミスリード

背景

 2021年に行われた衆議院選挙に際し、日本共産党は『2021 総選挙政策*3』を公開した。今回取り上げられているのは、そのうち『7、女性とジェンダー*4』の一部である。なお、共産党は批判に対し、『「共産党は表現規制の容認に舵を切ったのですか」とのご質問に答えて*5』を公開して応じた。

評価の根拠

事実関係:事実に反する

 そもそも、『7、女性とジェンダー』において、規制するという主張は登場しない。そのように解釈できるのは『子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会的な合意をつくっていく』という部分であるが、ここで『許さない』とされているのは表現ではなく『子どもを性虐待・性的搾取の対象とすること』である。また、その直前に『「表現の自由」やプライバシー権を守りながら』とあることから、『社会的な合意をつくっていく』を規制を行うことを表現していると解釈することは困難である。公約を額面通り読解するなら、この部分は子供の性虐待や性的搾取を軽視する社会的風潮の改善を主張したものだと考えられる。
 加えて、共産党が批判に対応して公開した『「共産党は表現規制の容認に舵を切ったのですか」とのご質問に答えて』でも、『表現物・創作物に対する法的規制を提起したものではありません』と主張していることから、当該の部分を規制を主張したものと解釈することは困難だと言える。
 さらに、共産党は『60、文化*6』でも『「児童ポルノ規制」を名目にしたマンガ・アニメなどへの法的規制の動きに反対します』と主張している。
 以上のことから、『共産党が2022年参院選の公約で表現規制を主張した』とする主張は事実に反すると評価できる。

解釈表現:ミスリード

 もっとも、党の公約や主張を批判的に読解し、額面通りの思惑を述べたものではないと主張することは必ずしも不合理であるわけではない。党が公約に思惑を全て正しく書くとは限らず、また主張した通りの政策を実際に行うとも限らないためである。
 そのことを踏まえて山田の主張を検討すると、山田は共産党が公約や主張に反し表現規制を試みているとする合理的根拠を提示できていない。山田の主張は全て、共産党の主張に対し、規制しないと明言した部分以外での規制が行われる可能性があることを指摘するものだが、それはあくまで憶測にすぎず、その可能性が十分存在することの根拠は示せていない。また、共産党が『7、女性とジェンダー』において『「表現の自由」やプライバシー権を守りながら』と主張したことを否定するものにもなっていない。
 よって、『共産党が2022年参院選の公約で表現規制を主張した』とする主張は、共産党の公約の最低限妥当な読解から離れておりミスリードであると評価できる。

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