【不正確】フェミニスト議員連盟は自身宛の署名を無視している

要旨

　『フェミニスト議員連盟は自身宛の署名を無視している』とする主張は不正確で牽強付会である。

発言

荻野稔/大田区議(無所属)*1

　市民無視の政治を変えたいですか。それは7万超えの署名を無視する政治家を変えた方が良いとの主張でしょうかね。
　結果的にあなたの行いによって松戸市内で活動するクリエイターは仕事を一つ奪われた。市議会議員の仕事は市民の仕事、夢の邪魔をすることですか？
(引用者注：増田かおる松戸市議のツイートを引用RTしながら)*2

評価

　事実関係：不正確
　解釈表現：牽強付会

背景

　戸定梨香(とじょうりんか)と彼女が採用された動画、それに伴う騒動の詳細については背景：戸定梨香を参照のこと。
　8月26日、全国フェミニスト議員連盟(以下議連とする)が抗議と公開質問状を送付した*3。これに対応するかたちで、2021年9月10日に大田区議である荻野らが賛同者有志代表となり『全国フェミニスト議員連盟宛抗議と公開質問状』と題する署名(以下、議連宛質問状とする)を開始した*4。
　この署名には以下に引用する5つの質問が掲載されており、荻野らは署名の賛同者はこれらの質問に対する回答がないことを繰り返し問題視していた。

議連宛質問状の質問内容

　番号は引用者が付した。なお、後述の説明で使用する番号と対応している。
①VTuberが「丈の短い着衣」「大きな胸」であることが直ちに「性的対象物」になると断定する理由をお聞かせください。
②VTuberが地域の交通安全啓発をすることが、なぜ「性犯罪誘発」につながるのか、明確な機序をお答えください。
③あなた方の抗議活動は、「株式会社 Art Stone Entertainment」やVTuberを運営するクリエイターの公共空間における表現活動の場を奪い、経営者である板倉節子氏をはじめ、女性の自己表現の機会を潰す結果となっておりますが、そのことについて、女性活躍推進の観点からどのようにお考えか、お答えください。
④自らの肉体の年齢や性別と異なる姿になり、自らの意思によってその服装や肉体の在り方を決定するというVTuberという存在について、LGBT、特にクロスドレッサーの人権の観点から、どのようにとらえているかお答えください。
⑤戸定梨香氏の体型や服装は、VTuberとしてごく一般的なものと考えますが、そうしたVTuberの動画が「女児を性的対象とする」ものであり、「性犯罪を誘発する」と貴連盟が断定する根拠をお答えください。

評価の根拠

事実関係：不正確

　フェミニスト議連のメンバーである増田かおる松戸市議は署名について、『フェミ議連の元に届いたのは6名の代表者の名前が記載された抗議文がメールで届いただけで、署名簿自体が届いたことはありません』としている*5。これに対し荻野はフェミニスト議連の代表のアドレスと電話番号で接触を試みたものの、反応がなかったことを明かしている*6 *7。このことから、少なくともフェミニスト議連へ署名が正式に届いておらず、届けるための働きかけもそれ以上なされていないことは事実であると考えられる。
　署名を受け取らせる働きかけすらされていないものを、議連が無視することは不可能である。そのため、議連が現在に至るまで署名を受け取っていないことは事実であるが、そのことを『無視している』と表現するのは不正確であると評価できる。

解釈表現：牽強付会

　議連や所属議員が、議連宛質問状へ明確に対応する形で意見を述べていないのは事実である。しかし、そのことをもって「署名を無視している」と表現するのは、議連宛質問状の重大な問題点を無視する行為である。議連宛質問状はその内容において、以下に整理する複数の問題を抱えており、質問としての体をなしておらず、議連や所属議員がおよそ満足に回答できるかたちになっていない。このため、議連宛質問状が無視された原因は議連にあるのではなく、議連宛質問状の内容にあるのであり、質問に回答しないことをあたかも議連の問題であるかのように表現するのは牽強付会であると評価できる。

議連宛質問状の問題点

議連の主張に立脚していない

　議連宛質問状のうち、①では『「丈の短い着衣」「大きな胸」であることが直ちに「性的対象物」になると断定する理由』を問うている。しかし、議連はあくまで『体を動かす度に大きな胸が揺れ』ることが性的対象物として描写していることになると指摘しているのであり、『「大きな胸」であることが直ちに「性的対象物」になる』とは主張していない。
　②では『VTuberが地域の交通安全啓発をすることが、なぜ「性犯罪誘発」につながるのか』と問うている。しかし、議連はVTuberによる交通安全啓発そのものが性犯罪誘発に繋がるとは主張していない*8。あくまで、こうしたキャラクターを警察が採用し動画を公開するという一連のプロセスを問題視している。
　⑤においても、議連宛質問状は、戸定の体型や服装が『性犯罪を誘発する』ものであると議連が主張していると指摘している。しかし、上述の通り、議連は戸定そのものが性犯罪を誘発すると主張しているわけではない。

事実に立脚していない

　③では議連の抗議活動が『クリエイターの公共空間における表現活動の場を奪い』『女性の自己表現の機会を潰す結果となって』いると主張する。しかし、抗議は警察の起用に対してのみ行われたものであり、抗議文は戸定個人の活動には言及しておらず、抗議の宛先も各行政機関の長のみであった。このことから、まず、抗議が表現活動の場を奪うことや自己表現の機会を潰すことを目的としていないことが明らかである。
　抗議の結果としては、議連宛質問状が公開された当時、公開が停止されたのは警察の啓発動画のみである*9。このため、少なくとも当時は、抗議が表現活動の場を奪ったとも自己表現の機会を潰す結果となったとも言い難い。
　これらのことから、議連の抗議は、意図の面からも結果の面からも『クリエイターの公共空間における表現活動の場を奪い』『女性の自己表現の機会を潰す結果となって』いるわけではなく、③の質問は事実に立脚していないと言える。

常識の範疇に属する

　議連宛質問状のうち、①では『「丈の短い着衣」「大きな胸」であることが直ちに「性的対象物」になると断定する理由』を問うている(ただし、上述する通り、議連は『大きな胸』そのものではなく、それが動く度に揺れるように描写されることを性的対象物としての描写だと指摘しているため、以降は議連の主張に基づき議論する)。しかし、丈の短い着衣や大きな胸の揺れといった表象が、女性の性的な側面を強調することを意図して、あるいは性的な側面を消費することを目的として使用されることは一般常識の範疇に属すると考えられる。

既に議連の抗議で述べられている

　⑤では『戸定梨香氏の体型や服装は、VTuberとしてごく一般的なものと考えますが、そうしたVTuberの動画が「女児を性的対象とする」もの』と見なした理由を問うている。しかし、議連の抗議文は戸定の服装について『セーラー服のような上衣』と指摘しており、少なくとも議連が戸定の服装を女子学生の制服に酷似していると見なしていることは明らかである。このことから、議連が戸定の表象を『女児を性的対象として描い』たと見なした根拠も自明である。そのため、⑤は議連が既に述べている内容を改めて問う形になってしまっている。なお、戸定の服装が『VTuberとしてごく一般的なもの』かどうかは、⑤が問う内容とは一切関係がない。

抗議に何ら関係がない

　④では、VTuberという存在について、LGBT、特にクロスドレッサーの人権の観点から、どのようにとらえているか問うている。しかし、この点は抗議に何ら関係がない。少なくとも、議連宛質問状は文脈とは無関係なBBCの記事*10を引用しているだけであり、関係があると考えられる根拠は示せていない。この質問は回答が不可能ではないものではあるが、抗議に関係ない以上、回答するかどうかは議連や所属議員の一存によるものであり、仮に回答しなかったとしても不当であると評価することはできない。

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