ゴッドイーターでエロパロスレの保存庫の避難所です

「で、コータのフェチについての話の続きなんだけど」

 ずぞ、と、お気に入りらしい冷やしカレー蕎麦を啜って、何の気なしといった具合に切り出した。
 天然か計算か分からないところが魅力だったりする、我らが破天荒リーダー(♀)。
 アナグラ内の女性陣も流石に慣れてきているのか、またか、と言った具合に肩を落とした。

「……そんな危うい話してましたっけ…?」
「確か、討伐任務中に別の大型アラガミが合流した時の戦術性の話を…」
「そんなのもう散々話し尽くしたじゃん。私のトレンディは目下のところ、コウタの性癖にあるわけだよ」

 そんなわけで、此方が今回の被害者、防衛班の女性陣である。
 わずかに頬を染めて首を傾げるカノン…先輩と、唐突な話題の展開に戸惑い気味のアネット。
 ジーナさんは興味なさげに、タバスコ塗れのパスタをくるくるとフォークで巻いている。

 ああ、なんでこんなところに居合わせてしまったんだ、俺の馬鹿。

「よりによって本人の前で、そういう話する…?」
「最近のマイブームが逆セクハラなもんで」

 たまったもんじゃない。
 とりあえず制止は諦めて、今回も傍観者に徹しようと、俺は自分の分の昼食に箸を伸ばした。

「で、でも、その……少しだけ、興味あります」
 おず、と、アネットが手を挙げる。
 途端に、わっと口元を手で押さえるカノンと、盛り上がるウチの隊長殿。
「アネット、そんな大胆な…」
「何、何? アネットもコウタ狙い? こんなところでアピールだなんて積極的だね、このー!」
「ちちち違います! そういうんじゃなくて!」

 はい、フラれました。告ってもいないのに。

 この巻き込まれ事故、これで悪意が無いってんだから性質が悪い。
 最も、そんな彼女をなんだかんだで憎めない俺が言うのもどうかとは思うけれど。
 必死に弁解を続けるアネットが、呼吸を整えて言葉を落ちつかせる。

「…ですから、それってつまり…男の人が女の人の、どういうところに興味を持ってるか、ってことですよね?」
「ん? うーん、ま、そういうことにもなるかも」
「あ、なるほど。…なら、私もちょっと興味あるかもしれません」
「でしょ?」
 本人の意向そっちのけで盛り上がるガールズトーク。何これ。
 藁ばかりの期待をかけてジーナさんを見るも、我関せず、といった具合に、汗一つ掻かず激辛パスタを食べ続けている。

「あー…俺、ごちそうさま、部屋に戻r」
「はーいちょっと大人しくしててねー」

 逃げようとした俺の肩をメリっと掴んで、椅子に引きずり戻す馬鹿力。
 非力な俺は為されるがまま、めり込むんじゃないかと思うくらいの勢いで、再び椅子の上に座り込んだ。

「いっでぇ!」
「被告が逃げちゃダメでしょ」
「何、これ何の裁判!?」

 ふ、と、冤罪を訴える俺の目を覗き込むリーダー。
 その瞳が一切笑っていないことに気付いて、思わず抗議の言葉を飲みこんだ。
 ぞく、と、背筋に冷たいものが奔る。

 声も調子も仕草もいつも通りだけれど、長く隣にいると気づいてしまう。
 本当に不機嫌な時こそ、彼女は騒ぎだすのだ。愉快犯のごとく。

「はい、まず此方が今回の証拠品になります」
 バン、と机に叩きつけられたのは、数冊の雑誌。
 そのどれもが食卓に並ぶにはやや不適切と思われる、肌を露出した女性のグラビアだ。

 というか、俺の秘蔵コレクションだ。

「この間、被告の部屋に遊びに行った時にこっそり応酬しました」
「何してんだよちょっとぉ!」
「はーい静粛にー」
 たまらず取りかえそうとするも、笑ってないリーダーの猫撫で声で、俺は見事に身動きが取れなくなってしまうのだった。

 カノン先輩とアネットが、嫌悪と好奇心の入り混じった目で雑誌を見つめている。
 ジーナさんはやっぱり一瞥しただけで、今度は食後のティーブレイクなんかに洒落こみ始めた。
 いっそ消えてなくなりたい。

「『爆乳戦隊チチレンジャー』……」
「『ミルクたっぷり牧場娘』……」

 うわあ、タイトル音読は勘弁してください。

 表紙を見たまま固まってしまったカノン先輩とは対照的に、アネットはおずおずと手を伸ばし、ページを捲り始めた。
 逃げることも抗議することも許されない俺は、椅子のなるべく隅っこに位置取って、ひたすら素数を数えるのだった。
 というか、リーダーは俺に何の恨みがあるんだろうか。

「ご覧の通り、被告が重度のおっぱい星人であることは明らかです」
「お、おっぱ……」
「う、…やっぱり男の人って、見てるんですか…?」

 困ったような視線が刺さる。
 最近伸びた撫子色の髪を結いあげて、大人びてきた、とアナグラ内でもっぱら評判の台場カノン女史。
 所在なさげにもじもじとさせる指の下で、たわわに実っている果実、実は大きさだけならアリサをしのぐのではとの噂も。

 はて、そんな少女――年上だが、女の子に見上げるように尋ねられて。
 俺はどうしたものか、目を泳がせてみる。
 馬鹿正直に「見ています」だなんて答えた日には、明日から俺のあだ名は『チチレンジャー』で確定だ。
 けれども、「見てません」だなんて応えることは状況証拠が許してくれないし。
 何よりも、女の子にそんなことを正面切って尋ねさせて否定するのは、なんか失礼なような、そうじゃないような。

「ほら、聞かれてるよ、コウタ。カノン先輩のおっぱい、見てるの? 見てないの?」

 鬼がいる。

 口元だけ攣りあげて笑う鬼が、俺の隣に座って、急かすようにわき腹に肘鉄を入れてくる。
 肘鉄が鋭く的確に肋骨をゴリってくるのは、たぶん偶然じゃないだろう。 
 なんとかして言葉を選んで、上手くかわさなければ。

 頑張れ俺、超頑張れ。
 生きることから逃げるな。

「え、あ、ほら、俺とカノン先輩って、基本的にミッションでしか一緒にならないだろ」
「あ、そういえば、そうですね…」
「で、ミッション中は俺もあたふたしてるし、見る暇ないっつーか…」

「ふーん」

 真っ先に相槌を打つ、笑顔の鬼。
 『上手くかわしたな』という副音声が、笑顔の向こう側から聞こえる気がする。

 何なの、何で今日この人こんな機嫌悪いの? 俺が何かしたの?

「オフの日に会えば、そりゃもうガン見するかもしんないけどさ、はは…」
「あ、ぅ…や、やっぱり見るんですね…」

 ぼしゅ、と、髪色と同化しそうになるくらいに頬を染めるカノン先輩。
 あれ、フォローのつもりだったんだけど、失敗したか。

「そりゃ、カノン先輩おっきいからねぇ。アナグラ中の男連中が見てるよ」
「あぅ、あぅ…」
 追撃に、得意のリーダー節が炸裂する。
 どうもこれは、先天的なサディストというか、女の子相手にセクハラするのが楽しいらしい。

「アリサとかサクヤさんみたいな、こう、色っぽい服は着ないの?」
「あ、アリサさんやサクヤさんは可愛いから…私が着ても似合わないし、恥ずかしいです…」
「何言ってるんですか、カノン先輩だって負けないくらい可愛いですよ!」
 力説するのはアネット。
 席を立ち、余りに大声で力説するので、真っ赤になったカノンにたしなめられるようにして座り直す。

 以前ミッションで救出されてから、やたらとカノン先輩に懐いているらしい。
 ウチの職場では数少ない、「露出しない女性神機使い」の双角だ。

「そうだよ。それに普段ガードの固い女の子が露出したら、男はイチコロだよ。ね、コウタ?」
「あ゛ー、アネット! アネットはどうなんだ!?」
「え!?」

 困った時の後輩に無茶ぶり。うん、ホントいいところにいてくれた、アネット。許せ。

「ほ、ほら、アネットも普段パーカーっぽいのばっかり着てるじゃん!」
「私は……ちょっと、その…あまり露出は、ちょっと」
「ふーん、コウタはアネットの裸が見たいんだー。「!?」 どうなの、アネット?」
「う、……その、コウタ先輩に見られるのが特別イヤという訳では、無いんですが…」

 言い淀み、徐々に尻すぼみになっていく。
 カノン先輩が恥じらっていたのとは少し違う、気後れがちな躊躇。

「…その子、ダイエット中なのよ」
 と、それまで一切我関せずだったジーナさんから、ようやっと助け舟。
 え? と、顔を挙げる三人。

「じ、ジーナ先輩! 言わないって約束…」
「あら、そうだったかしら」

 真っ赤、というよりも真っ青か、とにかく慌てふためいて立ち上がった。
 くすり、と、ジーナさんが大人っぽい笑みを浮かべる。
「ハンマーが手放せないから、筋肉が付いちゃって気にしてるのよね?」
「ジーナ先輩っ!」

 あわあわと忙しなく慌てふためくアネットを余所目に、素知らぬ顔で紅茶を啜る。
 なんか、誰かさんと同じ匂いを感じるなぁ。こう、愉快犯的な。

「アネット、そうだったんですか? 私には一言も…」
「う、ぐ……パーカーとか、ゆるい服を着ていれば目立たないんですが…」

 こう、二の腕とか。
 言いながら、アネットが恐る恐る袖を捲る。
 ぐ、と肘を曲げれば、男顔負けの立派な力こぶ。
 おお、と、思わず感嘆してしまった。

 なんて隙に、いつの間にかテーブルの向こう側に回りこんでいたリーダー。
 アネットの力こぶを突っついていたかと思いきや、

 ズボ、と、そのパーカーの下にまで手を突っ込む。

「ふひゃあ!?」
「ちょっ…?」
「んー……でも、ウエストは結構細いじゃん。肌もすべっすべ。見せないの勿体ないよ」

 もぞもぞと、パーカーの中で蠢く腕。
 横目で見て一つだけ分かるのは、今触っているのは絶対ウエストじゃない。
 アリサのように激しく抵抗はしないものの、やはり心地は悪いのだろう、手が這うのに合わせてアネットは身悶えている。

「ほ、ホント…んっ、…ですか?」

 だというのに、この後輩は。
 律義というか真面目というか、どうも先輩に逆らおうとはしないらしい。
 「止めて下さい」くらい言っても良いんだぞ、と、心の中で応援しつつ、横目で捉えた姿から視線を外せないおっぱい星人が俺である。

「うん、胸も大きいし…ここの、おへそからのラインも綺麗だし」
「は、んっ……あ、ありがとうござい、ますっ…」

 揉むな、そしてなぞるな。
 アネットもアネットで、息を荒げてないで、抵抗の一つくらいしてくれ。
 カノン先輩もどうしていいかわからないらしく、俺とジーナさんを交互に見遣っては、あの、あの、とどもっている。

「ね、コウタ。このくびれ、へそのライン、綺麗だと思わない?」
「きゃ、っ……ぁ、…」
「ぶふっ……!」
 がば、と、大きくパーカーが捲り上がった。
 こもっていた石鹸のような花のような香りが、わずかな熱気とともに届いて、脳まで火傷しそうになる。

 何故か食卓で晒される、アネットの引き締まったウエスト。
 一点の染みもない、白い柔肌だ。
 恥ずかしいのか頬を染めたまま、それでも相手が先輩だから抵抗できないのか、されるがままのアネット。

 さすがに、やり過ぎだろう。
 ごちそうさまです、と、どこか悟った頭の中で唱えながら、そろそろと切り出す。

「いや、綺麗だとは思うけど、」
「でしょ? エロいよね?」
「リーダー!」
 やや語気を強める。
 姉貴分のサクヤさんもいないことだし、ここは俺がブレーキになってやらないと。

 そんな俺の思い立ちは、


「…アネット、困ってるだろ。それに、男の前でそういうさ、」

「……何よ、鼻の下伸ばしてるくせに」


 表情一つ変えず、驚くほど低い声に、一瞬でかき消された。

 寒気、じゃない、なんだろう、殺気?
 金縛りにあったように、全身が竦みあがる。
 ひっ、だなんて、口から変な音が漏れて。

 いつもならへらへらと笑いながら、ごめんごめん、で終わるのに。
 俺以上ののお調子者のリーダーが、初めて俺に見せた感情。
 激昂、じゃない。なんだろう。

「……」

 カノン先輩も、抱きかかえられたままのアネットも、一言も発せず黙っている。
 刃のように冷たく鋭い殺気。ひぃん、と、空気が凍ったまま音を立てる。
 ああ、原因はまだ分からないけれど、やっぱり俺に怒ってたんだな、と、心のどこかで納得。


「―――嫉妬が過ぎるわよ、隊長さん」

 と、同じくらい冷たい、凛とした声が、凍った空気の中に割って入る。
 それまでほぼ沈黙を貫いてきたジーナさんが、ティーカップを片手に言ってのけたのだ。

 ぐり、と、固まった表情のまま、リーダーがその方へ向く。

「……ああ、もしかしてコウタ、貧乳派?」
「ばっ…、」
 思わず、声が出る。
 皆が気を使って、言わないようにしていることを、平然と言ってのける! そこに痺れねえし憧れねえよ。
 せめてスレンダーとか、こう、言葉を選んで、

 なんて、一瞬のうちに走馬灯のように思索が巡るも、

「あら、今度の八つ当たりは私?」
 上回る余裕を見せつけて、やや半笑いで、ジーナさんが返す。
 にぃ、と、リーダーの笑みが深くなる。
 いつもの悪戯好きの子どものようなものよりも、もっと邪悪な、化け猫のような笑みだ。

 がば、と、ジーナさんの肩を抱く。
 そして、おそらく誰もが予想していたとおり、そして誰もが止める間もなく、そのカシュクールの内側に手を突っ込んだ。
 はぁ、と、荒い息が漏れる。

 布の内側、胸元を、リーダーの指が這いまわるようにして揉みしだいている。
 じゃれ合うようなアネットやアリサへのセクハラとは大違いの、本当に辱めるための手付きだ。
 俺の位置からはかろうじて見えないけれど、カノンやアネットが、あっ、と何度も呟いているのが聞こえる。

 見えていない、俺には何も見えていないぞ。

「ジーナさんは逆に過激すぎだよねぇ、ホント目に毒だよ。アリサに並ぶ露出狂じゃないの?」

 らん、と輝いた目が、本当に化け猫のようだ。
 いつもの無邪気なリーダーは、そこにはいない。
 セクハラをしているという所だけが共通点の、底知れない何かに代わってしまっている。

 それでも、

「どうするの、ジーナさん。私にこんなに揉み崩されて、ほら、コウタもガン見してるよ? 今晩のオカズくらいにはされちゃうかも…」
「あら、私は構わないわ、別に」

 どうやら、既に軍配はジーナさんに上がっているようだ。
 後ろから抱きしめられるように服の中をまさぐられて、一切の表情を崩さない図は、いっそ滑稽ですらある。

 大人の余裕、というか、それよりももう少し危ういもの。
 薄く笑んだままのジーナさんと対照的に、リーダーの表情が崩れる。
 え、と呟いたのは、きっと無意識に。

「それよりも…さっきから、やけに彼を意識しているのね、貴方」
「はい?」
「私は別にいいわ、初心なねんねじゃあるまいし…胸の一つや二つ見られても。でも、」

 がば、と腕を振り解いて、ジーナさんがおもむろに向き直る。

「隊長さんは良いのかしら」
「えっ…」
「もし彼が、貴女じゃなくて、私の胸に夢中になってしまったら…あり得ない話じゃないでしょう、おっぱい星人だもの、ねぇ」
「な、」

 カノン先輩が、はっと息を飲んだ。
 なんだかよく察せていないのは、俺とアネットは、互いに顔を見合わせる。

 ぎくり、と、音が出そうなほどに、リーダーは強張っていた。表情も、動きも、ぎこちなく。

「なん、で、別に、…私には、関係ないって言うか……」
「とんだ天邪鬼ね、貴女。好きな子は虐めたくなっちゃうタイプじゃない?」

 ぼしゅ、と、湯気の立つ音。
 一瞬でリーダーが耳まで紅に染まる。
 何かを言い返そうとしているらしく、ぱくぱくと口は開けども、言葉は声にならずに消え入った。

 本当に、初めて見る、うろたえたリーダーだ。
 何が何だか分からないまま、俺は話の中心から、いつの間にかいつも通りの傍観者になっていた。
「気付いていないなら教えてあげましょうか、当の本人に」
「あ、う、……」
「素直じゃないのは結構だけれど、それでセクハラを振りまかれては、皆たまらないもの。ねぇ」

 ニコ、と、必殺と言わんばかりの満面の笑み。
 リーダーは真っ赤のまま、何か言いたそうにして悔しげにジーナさんを睨む。

 それでも何も言わずにいれば、微笑んだままのジーナさんが、その矛先を緩やかに俺に向けた。


「ねえ、貴方。隊長さんはね、「わ゛ー! わ゛ぁあーーっ!!」 貴方が他の女の子ばかり見ているのが、気に入らないのよ」


 は? 俺?
 はて、と、素で首を傾げる。

 そこでようやく、アネットも口に手を当てながら、は、と息を吸った。
 カノン先輩と同じく頬を赤らめているところを見ると、二人とも同じ答えに達したらしい。
 当の本人である俺だけが置いてけぼりだ。

「ホントは自分を見て欲しいのに、そんなこと言えないから…お道化ているのも、構って欲しい、弱い心の裏返しなのよ」
「えーっと…」
「コンプレックスなんじゃない? 彼女は、自分自身の体が」
「……」

 先程までは騒いだり喚いたり、必死でジーナさんの声を遮ろうとしていたリーダー。
 今はもうしおらしくなって、やや俯きがちに、それでも頬を染めている。
 前髪から覗く目が睨みつけるのは、ジーナさんではなく、俺。
 心なしか、その目尻が濡れているようにも見える。

 ああ、もう、何なんだ。
 他の皆が知っているクイズの答えを、自分だけ見出せないような、そんな焦り。

「……でもさ、リーダー」
「……何さ」

 それでも、何か言わなければいけない、ということは分かっていたので、


「俺、リーダーのことだって、めっちゃ見てんだけど」

 とりあえず、素直に白状することにした。


「……」
「……」

 数秒の間。
 ぼしゅ、と、再び何かが沸騰する音。
 見れば、顔をあげたリーダーが、信じられないものを見るような目をしている。

 きゃあ、と、アネットかカノン先輩のどちらかが、悲鳴のような歓声をあげた。
 …あれ、もしかして、またフォロー失敗か?
「い、いや、だからさ…その、リーダーとは同期だし、一緒にいる時間も長いじゃん?」
「……、…」

 咄嗟に取り繕うも、どうにも反応は薄い。

「だ、だから、えっと……」
「……でもコウタ、おっぱいが好きなんでしょ…?」

 縋るような目、縋るような声。
 いつもの天真爛漫からは想像できないほど、弱々しくて、聞いているだけで切なくなるほどに、細い。
 殺気をぶつけられた時とは別の意味で、心臓が跳ねあがった。

 リーダーってこんな、なんていうか、可愛かったっけ?

「私、…おっきくもちっちゃくもないし、中途半端で……戦ってばっかで、肌も傷だらけのボロボロで…」
「い、いや、そんなことねえよ!」

 どくん、どくん、と、心臓が早鐘を打つ。
 あれ、何で俺、緊張してるんだ?

「リーダーってスタイル良いし、美人だし、一緒にいて振り回されるけど楽しいし、それに、それに、…えっと…」
「ホント…?」
「ああ、ホントだって!」

 カノン先輩も、アネットも、ジーナさんも。
 気づけば食堂にいた全員が、俺とリーダーの言葉の応酬を、固唾を飲んで見守っていた。
 俺もリーダーも、しどろもどろになりながら、顔を真っ赤にして言葉を探している。

「……、じゃあさ、」
 まだ目尻に涙は残っていたけれど、もう殺気を飛ばしたりはしない。
 少しだけテンパってはいるものの、声の調子もいくらか明るくなっている。
 本当に純粋な、いつものリーダーだ。

 そのいつものリーダーが、恥じらいながら、上目遣いで俺を見る。
 少しだけ躊躇して、それでも意を決したように、彼女は口を開いた。


「わ、私の、その…胸とか、…いつも見てたりする? 見たいって、思う…?」


 いや、だから。
 なんで結局そこに着陸するんだってばよ。
 何これ、裁判? それとも公開処刑か?
 なんだよ、俺がおっぱい星人だから悪いのか?

 でも、リーダーは真剣で、俺たちを見る周りの目も真剣で。
 ついでに言うと、アホらしい話だけど、一番真剣なのが俺だったりして。

「それ、は…」
 一瞬、否定の言葉が頭をよぎった。
 これだけ状況証拠が揃っていても、まだどこかで周囲の目というか、自分の体裁を気にしてしまっている。
「コウタ先輩…」
「コウタさん…!」
「……応えてあげなさい」
 まるで告白されているような、…いや、実際にされたことなんてないけど、そんな雰囲気だ。
 断れる状況なんて、最初っからないんだ。

 それなら、もう自分の欲望に正直に、告白するしかない。

 深呼吸、二回。
 肩の力を抜いて、どういうべきかを探している間も、リーダーは不安そうに俺を見つめている。
 その目をしっかりと見つめ返して、今までにないくらいに真剣な顔で、

「――ぶっちゃけ、めっちゃ見てる。めっちゃガン見してる」

 そう、言ってのけた。


 ぶわ、と、自分の中で熱気が膨張した。
 どこかに出かけていた理性が、一気に逆流してくる。
 なんだこれ、なんだこれ、すげえ恥ずかしい。

「……お、」
 ぷる、と、リーダーが震える。
「おお、おぉおおぉ、」
「あの、……リーダー…?」

 しゅううう、と、湯気がどんどん俯けた顔中から湧きあがって、

 ぽん、と、軽い爆発音。
 おもむろに上げた顔は、今日見た中で一番赤く染まっていた。

「こ、コウタのセクハラ大魔神ーーーーー!!!!」
「えぇえええええええ!!!?」
「ド変態っ!! むっつりすけべっ!! 爆乳戦隊チチレンジャーーーー!!!!」

 あらん限りの俺への罵倒を吐きながら、アラガミに立ち向かう時に見せる全力疾走。
 煙を撒きあげて、リーダーは食堂から飛び出ていった。

 後に残されたのは俺一人と、

「……コウタ先輩」
「コウタさん、最低です…」
「……若いわね、みんな」

 食堂中からの、突き刺さるような白い目線。
 どうやら俺は、情状酌量の余地もなく、有罪確定らしい。

「……ドン引きだよ」

 結局どう答えれば正解だったのか、どうしてリーダーが俺にあんな態度をとったのか。
 何一つ分からないまま、翌日からの俺のあだ名は『チチレンジャー』で確定となった。



 ……IS HAPPY END?

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