ゴッドイーターでエロパロスレの保存庫の避難所です

任務中に第1部隊のリーダーが特異なウロヴォロスによって陵辱される。そんな事件があった。
 幸いにもリーダーの救出は成功し、その命にも別状はなかったが、彼女は即座に医務室に送られることとなった。

 事件翌日の朝、医務室に向かうサクヤとアリサの姿があった。現在 療養中の第1部隊リーダー…トヨの、見舞いのためだ。
 リーダーの状態について、無事ではないと2人は予想していた。同じ女としてそれぐらいわかる。加えて、サカキ博士からカルテを渡され、同時に忠告も受けていた。

「彼女の状態は、これまで被害のあった女性とそう変わらない。身体はともかくメンタル面で重傷といったところだ。
 彼女の場合、救出が早かったからか、それほど気にしてないように見えるけど……あまり表に出すタイプじゃないからねぇ」

 澄ました顔でとんでもないことをやらかすタイプのリーダーのことだ。きっと今回も、顔ではなんでもない風に装うに違いない。
 だからこそ、何気ない会話の中でも油断できなかった。
 ひょっとしたら、事件のショックで錯乱するかもしれない。苦しみはいつか克服しなければと、特にアリサは分かっているが、いきなり荒療治に走るほど2人も乱暴ではなかった。


 *


 医務室の前にて、その扉をサクヤが叩く。

「リーダー? サクヤだけど、今、いいかしら。アリサもいるわ」
「ん? サクヤさんか。アリサも、遠慮はいらんぞ。入ると良い」

 扉越しの返事は明るく、やはり悲壮なものは感じられなかった。改めて気を引き締め、医務室に立ち入る。

「……あら。リンドウ、来てたの?」
「おぅ、サクヤにアリサ。お前たちも見舞いか」

 ベッドから上体を起こした患者衣姿のトヨの傍ら、そこにはサクヤたちよりも早くリンドウが見舞いに来ていた。朝も早いうちから、仲間想いの彼らしいことだ。
 サクヤたちの姿を確認するとリンドウは腰を上げ、椅子に空きを作った。

「それじゃぁ俺はこの辺で失礼するかな。あとは女同士、気兼ね無くってヤツだ」
「あら、遠慮することはないんじゃない?」
「女3人寄ればやかましい、ってな。悪いがそうなったらついていける自信がない」
「それを言うなら“やかましい”じゃなくて“かしましい”よ」
「あ、そうだったか? まぁ、そういうわけでサクヤ、アリサ。後は頼む」

 そう言って、サクヤの肩をひとつ叩くとリンドウは医務室を出ていった。その背中にサクヤは溜め息をつく。

「頼む、ね。どうせロクなこと言ってないんでしょうけど」
「リーダー。リンドウさん、いつ来たんですか?」
「ほんの少し前じゃよ。ワシの具合を見に来た、とな。
 サクヤさんの言う通り、特に気の利いたことは何も言わなんだよ」
「あら、やっぱり」

 予想的中にサクヤが笑った。本当に、リンドウからはせいぜい「生きてて良かった」程度の励まししかなかった。他に何か言おうとしては「何でもない」。そして「下手なことを言っても、ボロが出るだけだからな」と深追いさせなかった。

「あれで結構 臆病なところがあるからね。多分あなたを心配するあまり、混乱して何も言えなくなっちゃったんじゃないかしら」
「むー、確かに仲間が傷つく事に臆病な節はあるのぅ……」

 トヨが入隊して間もない頃から、リンドウは危険のほとんどを1人で引き受け、そして仲間には「死ぬな」「危なくなったら逃げろ、隠れろ」と言い続けていた。
 危険な目に会うのは自分1人で充分ということだろうが、その裏には仲間の危機には平静でいられないという思いがあったに違いない。と、トヨは納得した。

「サクヤさんって、リンドウさんの幼なじみでしたよね。その予想も、長い付き合いからですか?」
「そうね。付き合いの長さじゃ、ここではツバキさんに次ぐってところかしら」
「リンドウさんの人柄となると、サクヤさんほど理解のある者もそうおるまい。なにせ夫のことじゃからな」
「……別に結婚したから何か変わったってわけじゃないんだけどね」

 慣れたあしらい方。リンドウの話題となるとこの手の冷やかしも毎度のことだった。
 そんなやりとりの中、サクヤは1つ嘘をついていた。
 リンドウが何も言わなかった理由。おそらく、男の自分では大した励ましはできない、余計な事を言って傷を抉りたくない、と考えたからだろう。そのことを伝えて、男にはわからない苦しみとは、となっては困るのだ。
 その後の話題はサクヤの恋愛に関するものばかりが続いた。
 サクヤにとっては少々恥ずかしい話題だが、真剣に耳を傾けるアリサと冷やかしながらも聞き逃さないトヨの姿に、この子たちも年頃の女の子なのだと改めて認識する。だからこそ、トヨの心の傷を迂闊につつく事がないように、話す内容を慎重に選んでいた。
 その話題がひと段落ついたとき、トヨが「ふぅ」と息を吐いた。

「……気を使わせるな」

 ドキリとした。トヨのつぶやいた言葉は、サクヤが性行為に通じるような話題を避けていたことに、気づいてのものだった。
 なんと返そうか。サクヤが言葉を見つける前に、トヨは続ける。

「キズに触れないのは確かに正しかろう。しかしの、ワシの場合キズの痛みに馴れる事の方が優先じゃ。
 さっさと“昔の話”に変えて、笑い飛ばさんと。いつまでも寝ておれんじゃろう」

 それは第1部隊リーダーとしての言葉だった。
 身体の具合は悪くなく、精神も平気なように振る舞える程度には安定している。そうなれば、ゴッドイーターとして原隊復帰を急ぐのは当然のことだった。

「それはわかるけど……本当に大丈夫なの?」
「確かにまだ恐怖は、ある。
 特に腹の中のことじゃ。洗浄は済んだとは言え、ウロヴォロスの体液からなるオラクル細胞が、どこかでワシを侵食しておるかも知れんと思うと……」

 自身の下腹部を撫でつつ、トヨは想像の1つを口にした。

「ワシがアラガミ化する未来も、ないとは言いきれん」

 アリサとサクヤが息を飲む。そんなバカな、と笑い飛ばせない。
 万に1つどころか億に1つも無いとは思うが、人体の神秘や進化の突然変異を考えると起きるときには起きると思えた。なにせ相手は奇跡の産物アラガミで、そしてこちらは(リンドウ復帰の件など)奇跡を起こした女なのだから。

「相手が相手じゃからな。もしなるとすればアマテラスのような姿かのぅ。
 いやしかし……あの大迫力が…………んむぅ」

 しかし、話がおかしな方向に流れ始めた。急な変化にサクヤは呆気にとられ、いち早く我に返ったアリサがトヨをたしなめる。

「な、なにを想像しているんですか! もぅ、リーダーったら、あり得ませんよそんなこと!」
「なんと? アリサよ、ワシがアマテラスになったとて、あのぶるんぶるんはあり得んと?」
「えぇ!?」

 アリサの言葉をどうとらえたか、トヨは目の色を変えてアリサに食ってかかった。そしてアリサが反応する前にその上着の裾に両手を差し込み、左右の丸い柔肉を無遠慮にこねくり回す。

「こんなご立派なモノを見せつけおってからに! 余裕か? えぇい、破廉恥な!」
「ちょッ! リーダー、これはセクハラ……!」

 慌ててアリサが反応したとき、無遠慮な両手は素早く引っ込められていた。
 いきなりなんて事を、と胸を押さえつつアリサが非難がましい目を向けるが、しかしトヨは自分の胸を掴み、アリサのそれと感触を比べては苦々しい表情をする。
 あぁ、これはフォローがいるな。悟り、サクヤは口を開いた。

「あー……リーダー? あなたもまだ若いんだし、希望はあると思うんだけど……ねぇ」
「若いと言うがの。成長期はとうに過ぎておるし、このご時世、栄養不足の発育を考えると…………はぁ、希望なぞ、妊娠でもせん限りは……」
「妊娠ねぇ……確かに母乳で膨らむとは、いうわね。いろいろツラいとも聞くけど」
「遠からずそうなるんじゃろ?」

 すかさず冷やかしが入った。言った本人は軽い返しのつもりなんだろうが、恋愛の一歩先を行く話題にアリサが興味に目を輝かせ、当のサクヤは冷や汗を流す。
 間違いなくリンドウとのことを言っている。確かに結婚初夜にかなり激しくヤることヤったし、お互い避妊もしなかったから、この間 調べたら大当たりだった。遠からず一線を退くことになるだろうが、今の話題はそこじゃない。

「そ……それがわかっているなら、ネガティブな想像はやめて、早く立ち直ってちょうだい。私が安心して産休とれるようにね。
 それに、妊娠するなら好きな男の人と、でしょう? いない? そういう人」
「んッ?」

 持ち直したサクヤが何の気無しに訪ねたところ、今度はトヨが言葉に詰まった。
 視線を泳がせ、言葉を探す素振りにアリサとサクヤの興味が一気に集まる。

「え、笑って返されると思ってたんだけど、そうなの?」
「だ、誰なんですか? いえ……せめて、どの部隊かだけでも!」
「いや、待ておぬしら! そんな……ワシの色恋なぞどうでもよかろう!」
「よくないわよ!」
「よくありません!」
「うッ……!」

 2人から同時に詰め寄られ、さしものトヨも気圧される。こと色恋沙汰に関しては、いつの時代も特に女性の興味を集めるものなのだ。それが見知った相手のこととなると尚更。
 とは言え、アリサはともかくサクヤにはどうでもよくない理由もちゃんとあった。

「いい? そういう好きな人がいるってことはね、どうしようもなくツラいとき、ついついその人に助けを求めちゃうものなのよ。
 慰めてほしい。励ましてほしい。そうしたらあと少し頑張れそうな気がする、なんてね」

 まっすぐトヨの目を見て、サクヤは語りかける。それはサクヤがそうだったから言えた。
 サクヤの場合、ツラい理由が“その人”がいないことだったために救いようがなかった。だがそれだけに、抱え込むしかできない苦しみはよくわかっている。

「甘えだって言われたらそこまでだけどね、でもその人に慰めてもらうことで早く立ち直れることもあるわ。
 ……あんなことがあって、ツラくないわけないってわかってるの。だから、協力できるならなんでも言って」

 その時初めて、トヨは抱えている苦しみに表情を曇らせた。その手をサクヤは両手で包み、慈愛の込もった目を向ける。

「…………すまん」

 だが、トヨは目をつむり、顔を背けた。

「ワシのは、片思いに過ぎん。
 ツラいのは認めるが……この境遇を逆手にとって同情を買おうなど……ワシは、イヤじゃ」

 そう言ってトヨはサクヤの手を退けた。
 頑固な事だ。そう思い、サクヤは ほぅっと息を吐くと医務室のベッドから離れた。

「イヤなら、仕方ないわね。
 今日のところはこれで引き下がるけど、心配はしているから、何でも言ってちょうだい。私たちのリーダーのためってのもあるけど、可愛い後輩でもあるし、なにより同じ女として、ね」

 そう言い残し、「それじゃ」とサクヤは医務室を後にした。
 その背中に、先輩にはかなわんのぅ、とトヨは思う。そして身の置き場に悩んでいるアリサに声をかけた。

「そういうわけじゃ。アリサ、すこし席を外しとくれ……。それともまだ何かあるか」
「え…………あ、その……」

 何かと聞かれて言葉を探すが、しかしかける言葉が見つからない。それに、トヨは目を背けている。
 こんな時、少しでも痛みを分かちあうことができたなら……。

「アリサ」

 不意に、トヨの鋭い声で伸ばした手を止めた。

「今のワシに触れるな」

 新型同士の感応現象。それが起きればトヨの苦しみはアリサに伝わるだろう。ウロヴォロスの慰みものにされる苦しみが。
 それをアリサが味わってしまうことをトヨは恐れた。
 だがその割に言葉は鋭く、はっきりと拒絶の色を見せていた。

「……すみません、また来ます」

 無力さに沈むアリサが医務室を後にする。その背を見送り、トヨは1人、誰もいない医務室のベッドに背を預けた。

「恋など、無理じゃろうに……泣くでないわ、偏屈者が……」

 *


 医務室の外の廊下、エレベーター前にて、コウタとソーマの2人が、ベンチに腰掛けて押し黙っていた。
 ここにはサクヤたちが医務室に入るのと同じ頃からいる。しかし大勢で押し掛けるのも悪いと思い、女性陣の後に入ろうと待っていた。
 そして先ほど、リーダーの様子をコウタがサクヤから聞き出したところ、「かなりまいってる」という答えが返ってきた。
 変に強がってなんでもない風を装うから、傍目にもわかるほど弱っているときは心底 弱っている。なのに頑固に強がって、見ている方もツラくなる。それがサクヤの見解だった。
 さらに、遅れて出てきたアリサに声をかけてみたが、今度は気づかれもしないままに素通りされてしまった。エレベーターを待っている間でさえ声をかけるコウタに反応しなかったとは、リーダーに当てられたのかアリサまでかなりまいっているようだった。
 リンドウはリンドウで「男の俺に気の利いたことは言えねぇよ」と最初からお手上げ。コウタもソーマも、どう手を出したものかと延々悩み続けていた。

「なぁ、ソーマ……なんかいい考え、ない?」
「いや…………」
「お土産とか、持ってったほうが良いのかな……ほら、果物とか、よくあるじゃん」
「あぁ…………」

 生返事。少し前からずっとこの調子で、何かコウタが思いつきを口にしてはロクな反応をされずにまた黙る、の繰り返しだった。
 ついには、しびれを切らしたコウタが腰を浮かせる。

「……やっぱ、ダメだ、ここでウジウジしてたって。
 いい言葉なんて思いつかないけどさ、俺行ってくるよ。ソーマは?」
「後にする。もう少し、考えてからな」
「そ、そっか……お前 口下手だもんな。じゃ」

 1人はちょっと心細かったが、ここが男を見せるときだ、とコウタは己を奮い立たせた。1人が心細いなら、リーダーは今1人なわけで、きっと心細いはずだから。

「…………」

 イヤに真剣な顔で臨むコウタを見届け、ソーマは口を閉ざして思案に浸った。
 後にすると言ったのはただの方便。所謂 臆病だった。
 しかし自分が行ったところでなんになるか。ロクな言葉も思いつかず、そこにいるしかできないようなものを。
 そばにいるだけで意味があることもあるだろう。しかし1人にしてほしい時だって無いわけじゃない。サクヤから聞いた状態ではきっと後者のはず。もう少し間を空けてから……。

『大丈夫なわけあるかぁッ!!!』

 不意に、医務室から怒号が響いた。

「…………日を改めるか」

 各部屋の防音設備も整っているアナグラで廊下まで響くとは。リーダーの精神状態はかなり不安定らしい。
 犠牲になったコウタには後でジュースでも奢ってやろうと考え、ソーマはエレベーターに姿を消した。

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