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5-5:密議編

初公開:2021/01/04



会議所自治区域の成長を主導したのは、自治区域内の政府機構ともいえる【会議所】本部だった。
各国が水面下で互いに警戒しあっている状況の中に、まるで人懐っこい犬のようにスッと前議長の集計班は入り込んだ。
そして、絶妙な均衡を保つ橋渡し役として重要な役回りを担うようになったのだ。
その甲斐もあり、今や会議所自治区域には数百万人もの移住者が定住し、列強諸国も無視できる存在では無くなった。


だからこそ、他国には会議所自治区域という存在が気に食わないのだろう。


議長である滝本はそう分析している。



会議所自治区域は【国家】にならなければいけない。

あくまで自治区域の住民たちは移住者という名目で自治区域の国籍を持たない。
また、【国家】にならなければ他国と対等な同盟も結べないし、通商交渉でも有利に立ち回ることはできない。

過去、何度も会議所自治区域は世界会議で【国家】引き上げを訴えてきた。
しかし、その度に各国から“時期がまだ早い”だの“世界の飢餓問題が解決したらいずれ”などと、何かと理由をつけられては先延ばしにされてきた。
ある国からは面と向かって“会議所国が誕生すれば我が国にも脅威だからすぐに経済封鎖を行う”とまで言われたこともある。

一連のやり取りを経て遂に【会議所】は、自分たちがただの道化師に過ぎないことを痛感した。同時に、ある決意を覚悟した。

正攻法では、いつまで経っても【会議所】を【国家】にすることなど叶わないのだと。

下水に棲まうネズミよりも黒ずんだ、どす黒い思いを彼らに抱かせるには十分な時間だった。





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━━━━


今日も夢を見た。

いつもの【会議所】の会議室で、三人の男たちが額を寄せ合い話し合っている夢だ。そこに自分の姿はなく、ただその光景を天井付近から俯瞰しているようだった。

『まただッ!どうしてッ、どうして【会議所】は【国家】になれないんですかッ!?
おかしいんよッ!こうなったら再度世界会議に駆け込むしか手がないッ』

悔しそうに拳で机を何度も叩き、金髪の男は肩を震わせながら悔しそうに叫んだ。

否、話し合いというにはいささか冷静さを欠いていた。
正しくは悲しみの慟哭のぶつけ合いだ。

『諦めるんや、¢(せんと)。何度も同じことを繰り返したやろ。これが実態や…諸外国は俺達の存在を危険視しとる。
あまり刺激しては、軍事力はともかく経済力できっつい【会議所】はすぐに世界から捻り潰される。耐えるしかないんや』

彼の横にいた袴姿の男も沈痛の面持ちながら、俯いている彼の背をさすり繰り返し慰めようとしているようだった。
二人の様子を見ていると他人事ながら胸が痛い。
彼の語る言葉は悲痛ながら真実で、抗うことの出来ない現実を示していたからだ。

『うう、悔しいんよ。ある国なんか貧窮に喘いでいると言うから【大戦】関連の仕事を分けてあげたのに、経済が回復したと思ったら途端に手のひらを返して。
…もう、ぼくたちは何を信じたら良いかわからないんよ』

そこで若き¢はなにかに縋るように、顔を上げた。
端正な顔は涙と鼻水でくしゃくしゃになり、とても人前では出られない表情をしていた。


その姿を見て、ふと“思い出した”。

何時だったかは忘れてしまったが、かつて彼のこの顔を見たことがある。
自分の“記憶”の中に、この場面は確かに残っている。

『私は人の善意というものを過信していたのかもしれない。
施されたら施し返す。これが全ての大原則で、当然それは国家間でも守られるものだとばかり思っていた――』

―― しかし、そうではなかった。

それまで黙っていた三人目は、座っていた議長席から静かに声を発した。しかし、その声は怒りで震えている。
¢ほど感情を顕にせずとも、充血したかのように真紅に滾らせたその瞳には、怒りと憎しみを宿していた。

『参謀、¢さん。私は決めました。会議所自治区域を何としても【国家】に引き上げてみせる。
そのためであれば…私はどんな策を弄しても、どんな犠牲を出しても構いません』

『まさか…前に話していた“計画”を?』

『本気なんやな?』

二人の顔をみやりながら、男は慎重に一度だけ頷いた。

『私が考えた“壮大な計画”をお二人だけにお話します。

自治区域を【国家】とする計画です。

時間や準備に手間がかかりますが、順調に行けば会議所自治区域は【国家】となるだけでなく領土拡大までできる。
私は自治区域内に住む多くの住民の生命を預かる身として、現状に満足はできない。
そのために“全てを利用する”。それこそ国ごと、ね――』

そう語り。


きのこ軍兵士 集計班(しゅうけいはん)は笑みを浮かべた。

策謀家特有の下卑た笑みを。


━━━━
━━





【きのこたけのこ会議所自治区域 ケーキ教団 地下 メイジ武器庫】

三日後の丑一刻。
その日、教団地下のメイジ武器庫に備え付けの会議室には、珍しい客が三人も集まっていた。

一人は現議長の滝本スヅンジョタン。
もうひとりは副議長で、【会議所】内部を支える大黒柱 参謀B’Z(ぼーず)。
そして、大戦統括責任者で【大戦】のルール波及に務める¢(せんと)。

現議長に、英雄と名高い“きのこ三古参”の二人が加わるという、【会議所】の幹部勢が深夜に額を寄せ合い話すとは、傍から見れば只事ではない。

事実、只事ではない話が行われようとしていた。


参謀「遂に12体全ての陸戦兵器<サッカロイド>が完成する。そうすれば“計画”の準備は完了やな」

参謀は茶をすすり、【会議所】の会議室からはやや小ぶりな会議テーブルの上に、自ら持ち込んだ湯呑を静かに置いた。

¢「長かったんよ…ここまで来るのに五年はかかった」

一方で対面に座る¢は両肘を付き、手を組み合わせ、五年分のため息を吐いた。
顔のたるんでいる皺もその振る舞いにさらに振動し伸びているように見える。

ここでも議長席に座る滝本は、左右に座る二人の対称的な姿を見て思わず口元で笑みを作った。

滝本「寧ろ五年で済んだ、と見るべきでしょう。
“あの人”があなた達に計画を打ち明けた当初、自治区域にはメイジ武器庫も無ければメイジ武器庫の隠れ蓑にするためのケーキ教団すらなかった。想定どおりです」

¢「そのケーキ教団だけど、最近はぼくの想像以上の勢いで信者数が増えているんよ」

滝本は少々大袈裟に目を丸くした。

滝本「これには驚きました。¢さんには宗教家の一面もあったんですねッ」

¢「自分の才能が恐ろしいんよ…」

参謀「宗教家って言っても、あんたは表にでてけーへんやろ」

芝居がかった様子で滝本は驚き、¢もそれに乗り軽口を叩く。そして、参謀だけが冷静に突っ込みをいれる。
三人の関係性はいつも、凡そこのようなものだった。

滝本「まあ元々は、カキシード公国への密輸武器と陸戦兵器<サッカロイド>を作るための隠れ蓑でしたが…ここまで教団の働き手が増えるとは、素直に¢さんの才能ですね」

“さて”、と滝本は逸れかかった話を戻すべく一息ついた。
その雰囲気を察知したのか、二人もすぐに背筋を正した。

滝本「【国家推進計画】は六年の歳月を経て最終局面を迎えています。
今日集まってもらったのは他でもありません。
計画の振り返りを経て、最終の見直し、問題の洗い出しを行いましょう」

【国家推進計画】。
今の三人にとって、この言葉ほど重い響きはない。
実質五年間、彼らは文字通り生命を賭してこの計画に取り組んできたのだ。

滝本「今から六年前。“あの人”がお二人にある計画を打ち明けました。
題して、【国家推進計画】。
力を持たない【会議所】が、世界の喰い物にされる前に“自衛”のために打ち出した策です」

六年前。
当時議長だった集計班は、¢と参謀の前で【会議所】を【国家】にするための非正攻法の策を打ち明けた。

それは、謀略に次ぐ謀略の策を必要とする、“大きな回り道”だった。


滝本「会議所自治区域が【国家】として認められるにはどうすればいいか?
何度世界会議で訴えても、友好国に根回しをしても無駄だった。
つまり正攻法では駄目なのです」

参謀「裏道を通らなきゃいけないってことやな」

相槌をうちながら、参謀は懐から取り出した竹皮の包みを開き、おにぎりを頬張り始めた。
夜中だというのに随分と食い意地が張っている。後で一口貰おう、と滝本は決心した。

滝本「そうです。
そして、裏道を通った先にあるゴールは即ち、【会議所】を【国家】として認めざるをえない情勢にしてしまうことです。

そのためには幾つかの手段がありました。
一つ、自治区域の領土を拡大し、その影響力を世界が無視できないところまで膨れさせること。
もう一つは、自治区域が既存の国家を併合し従えることです」

¢「でも前者、後者の策とも、簡単に世界が許すはずもない。
特に少しでも表沙汰になれば、世界中から批判され必ず妨害にあう」

滝本「幾ら強力な軍事力を有している我々でも、自治区域内で了解を得ていない事案に対しては当然対処のしようがない。
それを動かすだけの許可を内部で取りまとめるだけでも一苦労です。
だからなし崩し的に、“非合法”に【国家】として認可させるように仕向ける必要があった」


会議所自治区域を【国家】として自立させる。


それこそが前議長 集計班の悲願だった。

なぜ、自治区域から【国家】への昇格をこれ程までに彼らが拘るのか。
それは自治区域と諸外国を取り巻く、不公平を超えた関係性にあった。
曰く、集計班は諸外国との関係を、一言で次のように語った。

“我々は奴隷である”、と。





【会議所】は二十年の歴史の中で、密かに窮地に立たされていた。
それは偏に、諸外国との交渉事で優位に進められない構造上の問題に起因した。

自治区域が急成長を遂げる一方で、戦乱中に大戦禍を遺したこの土地には、凡そ動植物が再び芽吹くほどの度量はすでに残っていなかった。そのため、自治区域の自立に他国と交易は欠かせない問題になる。
だが、あらゆる交渉事で【会議所】は交渉の主導権を、諸外国に奪われてきた。全ては、発足当時に結んだ一つの“不平等合意”に端を発していた。

元々【会議所】が発足を宣言したのは、世界が今ほど安定していなかった時代の話だ。
弱小以下の存在が他国に飲み込まれず、だが波風を立てずに存続できる方法といえば、身の安全の保証の見返りに、相手の要求に対し表向き従うほかなかった。

【会議所】が苦労に苦労を重ねとある国と結んだ最初の合意は、平和を担保する代わりに凡そ【会議所】を文明国としては見ていない、酷く不利なものだった。
その内容は次の二点に要約される。

まず、関税の自主権はなく交易の自由性は常に諸外国に握られることになった。
さらに【会議所】が国家ではないことを利用され、治外法権を認めさせられ、自治区域内で起きた犯罪如何によっては、
【会議所】の合意なしに国籍の本土に強制送還をして裁かせるという無茶な要求までも呑まざるを得なかった。
過去にこの合意で、無理に【会議所】の要人を強制送還させた例が幾つか存在したため、その都度、発展を大いに阻害してきた。

不平等合意がある限りは、いずれ国家になってもその主権が完全ではなく、半植民地状態下のままだ。合意の改正は【会議所】の自立に不可欠な課題だった。

それでも、集計班を始めとした過去の重鎮たちは必死に耐え忍んだ。
弱小の自治区域を発展させるためには他国の協力なくしては成り立たない。そして、いつか列強国と自治区域が力を並べられるようになった時に、初めて不平等合意は解消される。

冬を必死に耐え忍ぶ小動物のように、彼らは互いを励まし合いながら“春”を待ち続けた。


しかし、いつまで待てども“冬”が明けることはなかった。


最初に結んだ合意が、【会議所】への交渉のスタンダードとして残りの諸外国も続々と同じような合意を要求した。
五年、十年と時間が経つ毎に、【会議所】が【大戦】の爆発的特需で恐ろしい程の勢いで力をつけても、その状況は一向に改善しなかった。

さらに彼らに向かい風だったのは、長く続いた戦乱の世は終りを迎え、世界が均衡を重視し始めたことにあった。
世界は安定を重視し現状維持を望んだ。
不必要に国家を増やさず、それに反発し各地で蜂起した反乱分子は全力で叩き潰された。

【会議所】は容易に国家樹立宣言ができなくなった。
その時点で彼らにできるのは、同等の国力を持つ友好国に根回しを行い、数年おきに行われる世界会議で【会議所】を国家に引き上げてもらう口添えをお願いすることしかなかった。

それでも過去に、何度か【国家】になれる機会はあった。
だが、その度に【会議所】は裏切られた。他国に裏切られ、要人に裏切られ、そしてまた世界に裏切られた。

諸外国は、規模が大きいながら主体性を持たない【会議所】という集団から甘い蜜を吸い続ける“旨味”から抜け出せなくなっていた。
そのために、理性では自治区域を【国家】に引き上げる妥当性については容認しつつも、中堅国たちがこぞって徒党を組んで妨害した。

【会議所】の中堅幹部たちはこの“捻れた”問題を理論として理解はしているものの、危機感を覚えているのは極一部の上層部だけで表立って共有はされなかった。


そして遂に六年前。

集計班を始めとした“きのこ三古参”は内々で、大きな決断を下した。

非正規の手段で、【会議所】を【国家】に引き上げる。

通常の定例会議で議論するというプロセスを経ず、完全に密室で独断的に決められたものだった。
問題の流出を防ぐために、この計画は【会議所】本部内では三人しか知り得ない最重要機密として扱われた。


以来、彼らは自治区域を【国家】に押し上げるために暗躍の道を進み始めた。

暗い排水管を伝うネズミのように。暗い地下を這いずり回り地上を目指し。
どんなに汚れ辛くても弱音を吐かず、ただひたすらに地上の光を目当てに暗躍し始めたのだ。


その最中、集計班は斃れた。
彼の生前のうちに、その目的を達成することはできなかった。
そのため、彼は死の直前に後任の者に全てを託すこととした。

その後任が、滝本スヅンショタンという人間だった。
集計班から見て、彼は自身の“遺志”を受け継ぐことのできる最適な人物だった。





滝本「まず、狙いを定めたのが隣国のオレオ王国でした。
王国は武力を持たない非戦闘国家。攻め込めば我々でもたやすく占領することができる」

だが、素直に侵攻してはすぐに世界から袋叩きにあってしまう。
その戦争に“正当性”はないのだ。

滝本「正当性を以て、オレオ王国を手中に収めるにはどうしたらいいか…」

参謀「それに対する答えが、“カキシード公国にオレオ王国を侵攻させ、公国が王国まで入り込んだタイミングで【会議所】が乱入し、両軍ごと壊滅させる”。
つまり漁夫の利を狙うっていうのは、とんでもない回答やな…」

カキシード公国とオレオ王国間で戦争を引き起こす。
二国間の戦いが勃発すれば、ともに隣国に位置する【会議所】は戦争終結という名目で、“正当性”を以て介入できるのだ。

滝本「だが、“霧の大国”は強大な軍事力を持っている。
彼の国ごと屠るためには、強力な対抗策が必要になる。
長い歳月をかけたのは、我々が公国の軍事力を無に帰すだけの、全く新しい兵器を作るための牙を研ぐ期間。
そして、その“切り札”がここにきて、遂に完成しつつある」

その切り札が、メイジ武器庫に並ぶ超コーティング飴型陸戦兵器、通称・サッカロイドである。

¢「陸戦兵器<サッカロイド>は超コーティングされた飴でできているから、銃火器は受け付けないし魔法の耐性もすごく高いんよ。公国軍なんかには負けない、最強兵器なんよ」

途端に顔を上げ誇らしげに語る¢の様子は、さながら成果を必死に誇る研究者のようだった。

陸戦兵器<サッカロイド>は角砂糖の魔法錬成により、ダイヤモンド以上の硬度を誇るようになった飴をもとに造り上げた人造兵器だ。
飴の硬度強化は化学班と95黒の研究の末に、遂に秘密裏に解明され実践化された。

20mを有に超えるその巨体は、いかなる銃火器の攻撃を受け付けず戦場を進撃し続ける。
十数体の陸戦兵器<サッカロイド>が戦場を蹂躙するその姿は、敵軍からすればパニックを起こすこと間違いないだろう。
さらにあわせて彼らの専用武器も用意しており、その防御力と火力の高さはこれまでの戦いを根本からひっくり返す革命的な兵器だ。

それだけではない。
陸戦兵器<サッカロイド>を“最強”だと¢が語る理由は他にもある。

¢「選ばれた12体には“歴戦の兵士の魂”を注入しているから、“自分で考えて”動くことができる。自律型決戦兵器なんよ」

―― “歴戦の兵士の魂”を注入している。

彼の言葉は誇張でも比喩でもない。
陸戦兵器<サッカロイド>の動力は魔法でもチョコでもない。


人間と同じ“気力”である。

それを担うのが、陸戦兵器<サッカロイド>に搭載されている歴戦のきのこ軍、たけのこ軍兵士の“魂”なのだ。


参謀「陸戦兵器<サッカロイド>を隠しておくためには広大な貯蔵庫と、飴を錬成するための原材料と成る大量の角砂糖が必要やった。
そのために、合法的に角砂糖を集められるケーキ教団を設立した。
同時に、教団内に武器製造工場を作り、公国に着々と軍事力を用意させた。
さらには武器供与の見返りに公国から魔力付きの角砂糖を収集していったってことわな」

こうしてケーキ教団という隠れ蓑を用意した三人は、教団の支部にケーキ製作という名目で飴を生成させ本部に集約させた。
さらに、一部の敬虔な信者には“【大戦】でいつか使う時のため”という名目で密輸武器を製造させた。

五年という歳月がかかったのはケーキ教団の拡大と、サッカロイドの製造にそれだけ時間をかけたからに他ならない。

滝本「カキシード公国には力を付けさせ、来たるべき時にオレオ王国に“侵攻させる”。
オレオ王国は広大ですが、あそこの王は元来の反戦主義者だ。
まともな対抗手段を持たないので公国軍はすぐに王都まで攻めかかるでしょう」

参謀「そして公国軍の伸び切った補給路に向けて、王国に陸戦兵器<サッカロイド>を出撃させて…
【会議所】はその横っ腹を突く」

他の会議所兵士がいまの二人の姿を見たら腰を抜かすことだろう。
無表情で抑揚のない話し方だが温厚な議長、かたや黎明期から英雄として崇められた副議長。
二人がともに“国を壊滅させる”という共謀案を真剣に話し合っているのだ。

¢「敵の公国軍は壊滅。そして、オレオ王国を保護するという名目で、【会議所】は王都を実効支配する」

滝本「ついでに王都も崩壊させ王国の指揮系統を喪失させておきましょう。
こうなれば後は王国全土を支配下に置くのは、そう難しい問題ではないでしょう」

明日の天気予報を告げるような口調で、平然と滝本は物騒なことを口にした。

そこで計画の振り返りは済んだのか、会議室は一瞬静寂に包まれた。

¢「しかし、こうもうまく行くとは思えないんよ」

沈黙を破る形で¢はポツリと呟いた。
彼はいつもこうだ。
三人の中では一番の心配性で、一度物事に囚われると思考の沼にハマってしまう癖がある。

そのせいで何年経っても若々しい参謀と比べると、彼の老化は顕著だ。
元々、比較対象の参謀が年齢よりも老けて見えていたという問題はあるが、それを差し引いても顔には苦労の分だけ皺が刻まれているように見える。

参謀「たしかに。この仮定には大きな問題を見落としている。他国の動き、とりわけ裏では協力関係を結んでいるカキシード公国の動きを想定していない」

滝本「公国といえど、実質動いているのはたけのこ軍兵士でもあり“宮廷魔術師”でもある791さんでしょう。彼女に我々の考えが看破されていれば、この計画は破綻します」

三人は途端に押し黙った。
滝本はちらりと時計を見た。約束の時間まで“もうすぐ”だ。

参謀「791さんが読んでないと思うか…?」

¢「あの人は表面上こそ天真爛漫な善良なたけのこ軍兵士だが、ぼくが武器商人として公国に行ったことも全て把握している筈。
それでもなお平時の態度を崩さず接しているのは肝が座っている証なんよ」

滝本「如何に【会議所】に有益な兵士といえど、彼女は宮廷魔術師です。
そして、¢さん、参謀。
お二人は“魔術師”というものの恐ろしさを791さんよりも“前に”既に承知の筈です。そうでしょう?」

二人は再度押し黙った。
それが答えだった。

滝本「ただ、ご安心ください。
791さんが気づいていないという確信を、私は持っています」

二人は眉をひそめた。

参謀「なぜそう言えるんや?まさか791さんが教えてくれたわけでもないろうに」

滝本「それは後でご説明しましょう」

そら始まった、と参謀は露骨に呆れ顔をした。

彼は勿体ぶって言いたいことを最後に回す癖がある。おかげで話は長くなる。
会議の時間も必要以上に伸びるのは、彼の性格が三割ぐらい原因だ。

参謀の顔に気付いたのか、滝本は芝居がかったように一度咳払いをして誤魔化した。

滝本「計画はここまで怖いほど順調です。ですが、こういう時ほど落とし穴が潜んでいることを、また私たちはよく理解しています」

今の彼は、普段会議で喋る姿よりも大分イキイキとしている。お得意の芝居がかった口調にさらに磨きがかかっている。
普段はまるでお経を読み上げるような抑揚のない話しぶりで幾人も眠りに誘うが、今は身振り手振りを交え二人の言葉に口元をつりあげ身体を揺らしている。
かつてこのようにおどけた姿で会議を仕切っていた人物がいたことを、参謀はふと思い出した。

参謀「たとえるなら、【大戦】で勝利目前のきのこ軍が慢心してたけのこ軍に大逆転を喰らう。その場面と同じやな」

滝本は苦笑しながら肩をすくめた。
この場にいるのは全員きのこ軍兵士だ。【大戦】初期から、頻繁にたけのこ軍に苦汁をなめさせられている過去を、この場の全員が理解しているのだ。





滝本「さて。ここまで色々とトラブルはありましたが、陸戦兵器<サッカロイド>の完成まで残り2ヶ月です」

¢「公国への武器供与はどうするんで?」

滝本「今月で打ち切りましょう。聡い“宮廷魔術師”のことだ。それを合図と見て、本格的にカカオ産地侵攻を検討し始めるでしょう。
向こうをその気にさせれば、事態は劇的に動き出しますよ」

¢「了解なんよ」

六年前が“思い出される”。
あの頃、滝本はまだこの座に収まっていなかったが、今と同じように二人と額を寄せ合い話していた“記憶”はある。

参謀「“王国戦争”までのシナリオは想定通りやな。
ただ、陸戦兵器<サッカロイド>の問題はどうするんや?この間も、95黒が魂との“定着率”について心配してるようなことを言ってたんやろ?」

“流石は参謀です”と言いながら、滝本は余裕のある笑みを見せた。

滝本「そう。いま、問題になっているのは陸戦兵器<サッカロイド>と魂との定着率の低さについてです。
そして、先程¢さんが危惧していたように。そもそも791さんがこちらの動きを察知しているかどうかがこの“計画”の成功を大きく左右します」

参謀「自分で言っておいてなんやが、定着率の問題については“一つの解決策”があるやろ。利用するわけにはいかんのか?」

参謀の発言に対し、¢は口をすぼめて異議をとなえた。

¢「確かに、その解決策だと定着率を大きく向上させることはできるかもしれないんよ。
でも、荒療治だしそもそも科学的に証明されている方法でもないから、ぼくも含め化学班さんたちは反対しているんよ」

滝本はその二人をなだめるように“まあまあ”と声をかけた。

滝本「それが現状です。
それらの諸問題を一気に解決する策を、私はいまお二人に提示することができるんです」

コンコン。

滝本が話し終わるのを待っていたように。
室内に控えめに部屋の扉を叩く音が響き渡った。

滝本「来たようですね。

さて、ここでもうひとり新たな“協力者”を迎えたい。

我々にとっては強力で劇薬ともなりうる存在ですが、ここまで頼り強い人もいないでしょう」

二人は互いに顔を見合わせた。
今日、この場に自分たち以外の人間が同席するとは聞いていなかったのだ。

滝本「どうぞ。お入りください」

同意を得ずに滝本がパチンと指を鳴らすと、扉がひとりでに開き。
扉の外から一人の兵士が姿を現した。

その姿を見た途端、たちまち二人は驚愕した。




someone「…」


扉の前には、群青のローブを身に纏った若ききのこ軍兵 someone(のだれか)が立っていた。


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