4-8:魂の演説

初公開:2020/02/10


【K.N.C180年 会議所】

「会議所の中に入れろッ!どうなっているんだッ!」

「俺たちの生活を返せッ会議所ッ!!」

「軍神<アーミーゴッド>を出せッ!!」

会議所を取り巻くとてつもない規模の民衆からの声は広がり重なりながらも反射し増幅された怨嗟の地鳴りとなり会議所に届いていた。
デモ隊から必死に門を抑えている会議所の地上兵士たちは、その地鳴りに耐えるには限界だった。

そのデモ隊たる民衆の中心に首謀者は居た。

黒砂糖「DB様…おっと失礼しました、真参謀 B’L殿。この様子ならばァ、会議所への突入も時間の問題と思われます」

きのこ軍兵士に化けたDBに、黒砂糖はそっと耳打ちした。

DB「それは僥倖ゥ。籠城などさせぬ、民衆が黙ってはおらぬからなァ!ゲゲッゲゲハハハッ」

端正な顔立ちからは似つかない下卑た笑いは民衆の声にすぐかき消された。

山本「ほぼ全住民が参加しておりますゥ、いかに籠城しようといつか門は破られましょう」

同じくDBの傍に立つ山本も乙牌を見つけた時と同じように眼光をギラつかせ嗤っている。

DBは勝利の前に自らの人生を振り返った。
彼はこの世界に生まれ落ちてから、兵士の士気向上のためにと幾多にも会議所に私利私欲目的で戦いと捕縛を続けられた。
大戦世界から戦の士気が無くなるや否や幽閉され長い年月を会議所の地下で過ごすこととなった。本来、“負のオーラ”はDBにとって何よりの馳走なのにそれを喰らうことのできない苛立ち、
喰らっても暴れることのできないもどかしさが会議所への恨みをより一層強くした。

そして時がきたら、“計画通り”に隣りにいたスクリプトを引き連れ檻を脱出し、“謎の声”の指示通りに時限の境界を用いた歴史改変を決行した。
心地よく大戦世界に厭戦気分が広がり、“希望-心の本-”を喰らいDBは生き繋いだ。しかし、会議所にすぐ作戦を看破され相棒だったスクリプトは姿を消し、DB自身も窮地に追い込まれた。
それでも策を巡らせ過去に巻いた種を回収するように、黒砂糖を洗脳しアイムとオニロをあと一歩まで追い詰めた。
竹内というイレギュラーな存在により軍神破壊はならなかったが、再突入間近でいま正に会議所の灯は消えようとしている。

目に見えない負のオーラの増大を実感し、食べられもしないのにDBは馳走をくらうように空に向かって大口をあけた。
DBの力は過去最高にみなぎっていた。

山本「DB様ッ!ご覧くださいッ!!」

悦に浸っていたDBを引き戻したのは、山本の叫び声に加え驚嘆した民衆の息を呑む声だった。




軍神が会議所のバルコニーに立ち眼下の民衆と相対す形となると、あれ程煩かった民衆は水を打ったように静まり返った。
軍神がそれ程までに威厳を放っていたためである。

軍神「諸君、我は軍神<アーミーゴッド>だ。君たちが待ち焦がれた軍神<アーミーゴッド>そのものだ」

静かに語り始めた軍神の声は不思議とよく通った。

軍神「今回のこのような事態に一重に胸を痛めている。現状を鑑み、非常の措置をもって時局の収拾にあたるべく、これより善良なる両軍兵士に告ぐ」

誰も声を発すことができなかった。軍神の一挙手一投足にDBも含めた全員が釘付けとなった。

軍神「一刻も早くこの集会を解散せよ。映えあるきのこたけのこ大戦世界に暮らす勇猛果敢な兵士諸君は某かの不幸を願うためにその力を使うのではなく、大戦場で戦ってこそのものである」

「ふ、ふざけるなッ!その大戦を開かないのはお前達だろうがッ!ま、貧しい暮らしに喘ぐ俺たちの気持ちがわかるのかッ!」

誰もが口を開けない中、民衆の最前列にいた一人の兵士が勇敢にも軍神<アーミーゴッド>に意見した。
途端に啖呵を切ったように同調勢力が広がり、再び会議所前は怒りの喧騒に包まれた。

「そうだそうだッ!」

「軍神<アーミーゴッド>が意図的に大戦を延期させているに違いないッ!やっちまえッ!」

「軍神<アーミーゴッド>と会議所をただで許しておくなッ!処刑だッ!」

軍神「静まれいッ!!!」

一通り無言で聴衆の声を聴いていた軍神の一喝は、再び民衆を瞬時に黙らせた。

最初に声を上げた兵士に軍神が鋭い目線を送り、顔を向けた。見つめられた兵士は途端に威勢さを失い怯えるように肩を震わせた。
すると、瞬時に軍神はニカッと微笑った。

軍神「剛毅果断な兵士だッ!素晴らしい、君のような兵士が大戦で誰よりも活躍するんだッ!」

すぐにキッと顔を上げ、拳を振り上げ軍神は民衆に語りかけた。

軍神「会議所とは大戦世界を生きながらえさせる生命の拍動そのものであるッ!兵士諸君が大戦を開催したいと強く願えば、会議所は直ちに君たちの願いを叶えるだろう」

軍神「会議所は兵士諸君の力と意思と情熱で成り立っているッ!時局を読み、何より君たちの意慾を組み大戦開催の判断を行っている」

軍神「なぜ大戦が開催されていないか。意図的にか?はたまた会議所の権力を集中させるため焦らしているのか?ふざけるのもいい加減にしろッ!全てが馬鹿げた戯言だッ!!」

軍神の叫びに、徐々に民衆がざわつき始めた。しかしそれは先程のような怨嗟の声ではなく、ただただ戸惑い迷う民衆の声だった。

軍神「果たしてどれ程大戦復帰を願う者がいたか。答えは我自身が示しているッ!皆が両軍への怒りを忘れ、仮初の平穏を望み戦いから目を背けたことで軍神<アーミーゴッド>は一度大戦世界から消滅したッ!
それが諸君らの大戦への取り組みの意志表示だッ!それが答えだッ!!」

話を続けながら軍神は、民衆たちの失われた心の本の頁<士気>が漠然と眼前に広がりつつあるように見えた。

軍神「だが、我がいまここに存在しているという事実が、また別の解を示している。善良なる両軍兵士が如何のような形であれ大戦復活を切に望んでいるッ!
両軍共栄の楽を共にするため、軍神<アーミーゴッド>は此処に復活したッ!会議所は必ずや諸君らの声を聞き行動に起こすだろう」

民衆の上空でキラキラと薄い膜のように漂っていた本の頁<士気>が、徐々に形を帯びてくる。

軍神「君たちの内なる魂に、情熱の灯を、消えかけた情熱の灯を再び灯すのだッ!大戦世界の心臓部として拍動を続けんとあがく会議所に、君たちが血となり後押しをするのだッ!」

軍神の叫びに、その本の頁<士気>は持ち主に還っていくように―

軍神「感じろッ!大戦で得たあの高揚感と充足感をッ!」

一人、また一人へ―

軍神「目を覚ませッ!勇猛果敢なきのこ軍兵士よッ!百戦錬磨のたけのこ軍兵士よッ!」

その数は瞬く間に広がり―

軍神「思い出せッ!185回にも続く大戦の偉大なる軌跡をッ!!」

パァンと空一面に広がった本の頁<士気>が弾ける音を軍神だけが聴いた。次の瞬間、洗脳が解け本の頁<士気>が戻った兵士たちは一斉にその場で倒れていった。
その数は民衆の大多数を占めた。
軍神が民衆の士気を急激に取り戻した瞬間だった。



その光景を誰よりも許せない兵士がいた。

DB「アアアアアアァァァァアミイイイイイイイイィィィゴッドオオオオオオオオオォォォォッッッ!!」

軍神「おやDB、そんなところにいたのか」

怒りに打ち震えるDBと対象的に、軍神は涼しげな顔で軍帽のツバを上げた。

DBは力を振り絞り禍々しいオーラを発散した。瞬く間に倒れていた兵士たちの中から選りすぐりの者がカクンと人形のように起き上がった。

DB「黒飴くゥゥゥゥん。プランを変更だァ。俺様に相応しい最高の“舞台”に、あの哀れな英雄<ヒーロー>を招待しろォ。
二度仕留め損ねたが、最後に悪は勝つということを歴史に魅せつけてやろゥ」

黒砂糖「御意」

DBと幹部の黒砂糖と山本、そして数は減ったにせよ未だ洗脳された多くの兵士を引き連れ、黒い渦たるDB集団は会議所の正門へ向かい愚直に走り出した。

軍神「『ポイフルバースト』」

軍神の突き出した利き手から幾多の光弾が発せられ、DB隊に向かって勢いよく飛んでいった。オニロとアイムの力が合わさり、光弾は烈火の如く連射された。

山本「いくぞッ神父黒飴ッ!」

黒砂糖「任せろッ!」

集団から山本と黒砂糖が飛び出し光弾に相対した。
山本は自然な体捌きと自らの拳で次々と光弾をはたき落とし、黒砂糖は対抗呪文で次々と軍神のポイフルバーストを撃ち落とした。
熟練の兵士二人が相対すことで軍神の力と互角になり、ポイフルバーストを打ち消したのだった。

DB「悪意に満ちた悪がどれ程強大かということを、その身をもって教えてやるよォォッ!」

軍神「敵が来るぞッ!全員構えろッ!」

咆哮と悪意を撒き散らしながら、DBたちは会議所の正門に激突し破壊した。



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