Twitterの「#いいねした人を同じアパートの住人として紹介する」タグにて書いたSSの原型まとめとなります。オカルト色強め、心霊・グロテスク・サイコな設定多数。

※本文は投稿後、投稿者本人から掲載を取りやめてほしい旨のご連絡をいただきました。
 既に記事作成に入っていたことも考慮し、御本人様との協議の結果、内容の一部を削ることで掲載の承諾を得ました。
 そのため矛盾が生じる箇所などお見受けされると思いますが、ご了承ください。


投稿者:佐竹和成


お久しぶりです。毒田改め、佐竹和成です。残念ながら幸いにも、私はこうして生きております。
ここ最近は所謂ROM専とやらに徹していましたが、どうしても見過ごせない投稿があったので禁を破り再び筆を取らせていただきました。
念の為、有村に関しての事ではないと言っておきます。彼女に関する事象は依然として現れません。
そちらに関して皆様が私に言いたいことは山ほどあるのでしょうが、それはまたの機会に。

本題に入ります。
光源氏氏の投稿された「オンハラミ」、こちらが事の発端でした。
別な方の投稿で言及されていましたが、私はあの土地をオンハラミと呼ぶ文化については微塵も知りませんでした。
そしてそれに付随する形でアズ鞄氏による「まわしもの」が投稿され、私の中で事態は大きく動きました。
ここへ来て、土地の関係者の末裔ともあろう人々が現れたのですから無理もありません。
内容の真偽のほどは置いておきます。そもそも、証拠を出しようがない事柄の推理をするためには一旦出ている情報が「真」であると仮定しなければ進みませんからね。
私は全面的に投稿内容を信じる形で色々と考え、そして調べました。

そこでふとある可能性に思い当たりました。
我々はとんだ思い違いをしていたのかもしれません。完全に見落としていた。
何故気付かなかったのでしょう。

私が「忌み地」で語った話は、実際この身で調べたものになります。過去の事ですから裏取はどうしたってできませんが…
その時から僅かに違和感を覚えていました。そして何度も己の投稿、それから一連の投稿を読み返してその正体に気付きました。
もしかしたら誰も違和感など抱かなかったかもしれません。ですが、私は自分の勘を疑わないようにしています。
「忌み地」において、神社や神主夫婦の名前が明かされる事はありません。いくら調べてもわかりませんでした。
「忌まわしい土地だから」と消されたのでしょうか。
しかしもう一つ足りないものがあります。
神主夫婦を殺害し、神社に火を放つよう命じた大地主・安左衛門。彼の苗字です。
大地主ともあらばそれなりの名家、何処かしらに名前を残していてもおかしくありません。断絶するまでの資料があったって当然なのです。
それなのに、神社同様彼の家に関しては全ての情報が不明です。調べても出てこなかった。
昔話の主人公のように、下の名前だけが資料に残されていました。

そう。主人公だったんです、彼は。

神社の詳細が存在しないのは、呪いを恐れて当時の人間が残さなかったのかもしれない。
では何故、逆に安左衛門の名前が遺ったのか?何故安左衛門の悪行が伝えられているのか?
本当にこの土地の歴史が禁忌だとしたら、安左衛門の事も含めて誰も伝えないでしょう。
それなのに安左衛門「だけ」が記録に遺された。それはつまり、この出来事を遺したいという意思がどこかで働いていたのです。
そしてその意思にとって必要なのは安左衛門という存在だけだった。
もっと言えば、安左衛門の苗字が伝わるのは、神社同様「何か都合が悪い、忌まわしいものだった」のではないでしょうか。

「まわしもの」で、安左衛門の腹心と思しき人物の存在が示唆されています。その子孫だと言う方達によってです。
その家系でも、安左衛門と神主夫婦の情報に関しては極一部の人間にしか伝わってこなかった。それも、肝心な部分は全て伏せられたまま。
それは何故か?腹心であり裏切り者だとわかれば、安左衛門同様「神主の呪い」を受けるから?果たして本当にそうなのでしょうか?
「忌み地」では安左衛門の家族を含め、実行犯達が「呪われて」次々に不自然な形で命を落として行きます。
「呪い」という超常的な現象であるならば、仮に黙秘した所で意味がないのではありませんか?ただ押し黙る事で「呪い」を防げるとは思いません。
もしかしたら安左衛門の腹心は「呪い」に見逃されたのではないでしょうか?
では、何故?
それは、「呪い」が万全ではなかったなかったからではありませんか?
そして、「呪い」という人智の及ばぬ絶対的な力に、そんなわかりやすい綻びが存在するのでしょうか?
加えて腹心の一族には「この出来事を遺したいという強い意思」が存在したのではないのでしょうか?

安左衛門の消された苗字。
細々と伝わり続ける腹心の話。
そして、何一つ浮き彫りにならない神社の詳細。

もしかしたらこの話は、ただのオカルトではないのかもしれません。
限られた人間にしか伝わらなかったのは、それでも伝え続けたのは「そうしなければならない理由があるから」。
仮に、貴方がひょんな事から重大な裏取引の内情を知ったとします。勿論その内容はとんでもない悪事です。貴方はそれを告発しようとする。
しかし、たとえば警察の癒着や政治家の圧力で思うように告発できない。下手をすれば己が消されてしまう。それでもその事実を伝えたい。
そう言う場合にどんな手段を取るでしょうか?
「限られた信用できる人間」に、「敵に漏れないよう伝える」のではありませんか?
そう考えると、腹心の話がどうしてこういう形で伝わったのか納得できませんか?
安左衛門の腹心は、この事実を伝えたかった。しかし敵がいた。
「敵=呪い」と捉えることもできますが、腹心の家系は今も続いています。つまり、「敵」は呪いではない、実態のあるなにかだったのでは?
その「敵」が、安左衛門の苗字諸共神社の存在を闇に葬ったのだとしたら?
「敵」にとっては安左衛門も神主夫婦も都合の悪い存在だったのではないでしょうか。
不自然なまでに彼らの情報が消されたのは、「敵」の攻撃の結果だとしたら。
現に今、令和の世でも。神社焼き討ちの話を昔話として知っている近隣の老人達は、安佐衛門を「呪われて然るべき悪」としています。
恐らくあの話を聞いたもの全てがその感想を抱くでしょう。現に私もそうでした・・・・・
ですが、神主夫婦と安左衛門の間には、「忌み地」で語ったことよりももっと何か深い繋がりがあるのかもしれません。
そしてそこに第三者が絡んでいる可能性も。



私は居ても立っても居られず内藤アパートに赴きました。なんでもいい、どんな些細な事でも良い。新しい情報が出る事を祈って。
こんな昔話の情報など現代人が知ってるわけもないでしょう。
ですが、彼ならば。恐らく気の遠くなる程の時間をあの場所で過ごしてきたであろう、彼ならば。
ポケットに忍ばせたボイスレコーダーのスイッチをオンにして、私はエントランスに駆け込みました。彼はいつも通り掃除をしていました。
息せき切らせた私を見て、感情の読めない目で微笑みました。

「お久しぶりです。…随分とお急ぎの様ですが、生憎貴方が欲しい答えなど私は持ち合わせていませんよ」

こちらの考えを見透かした言葉。それでも私は食い下がりました。
「忌み地」に書いたことも含め、私が調べた全て、思った全てを伝えました。彼は黙って聞いていました。
一頻り話し終えたところで、彼が口を開きました。

「貴方は、その『神主夫婦』と『大地主』の事をどう思っているのですか?」

機械のような固い声でした。彼は続けます。

「神主夫婦は哀れで恐ろしい呪いの存在。大地主は冷酷非道な蛮人。…そう思っていますか?」

私は。
私には、何度聞き直しても、彼のその言葉が、暗に「彼らはそうではない」と言っているように思えてなりません。
今こうして文字に起こしている時でさえも。

「違うんですか」

その時はそう返すのが精一杯でした。そのぐらい、彼の顔は今までにないぐらい凍てついていたのです。
彼は否定も肯定もしませんでしたが、その沈黙を私は肯定と受け取りました。

「貴方達が思うような面白おかしい話は、ここにはないんです」

酷く冷めた、全てを諦めた声。嘆いているようにも見えました。
私はある一つの仮説、さっき敢えて言わなかった仮説…
…いや、思い込み、むしろ妄想と言った方が適切かもしれません。それを伝える事にしました。

「大地主は、安左衛門は」

マイクが一瞬ノイズを拾います。

「…何者かに、利用されていたんですか…?」

彼の顔が、本当に僅かばかり揺らいだのを、私ははっきりと目にしました。
本当に僅かに。気のせいだったのかもしれません。彼は少なくとも私の前では常にポーカーフェイスなのです。
しかし。

神社の焼討ちが仕組まれたものだとしたら。もっと大きな何かにより、安左衛門の存在がスケープゴートにされたとしたら。
黒幕が別にいるとしたら、安左衛門もまた哀れな被害者の一人なのではないか───?

彼は小さく溜息を吐くと、自嘲するように笑いました。先ほどとはまた違う低く暗い声でした。
ここからの音声は何故か酷いノイズに消されていましたが、私の記憶に一言一句しっかりと残っています。
記憶を頼りに書き起こします。

「『安左衛門』の心はそんなに強くない」

何処か懐かしむような遠い目。どこを見ているのかわからないほど、遠い目でした。

「地主の仕事ってね、案外色々大変なんですよ」

私は確信しました。

安左衛門は真犯人ではない。

冷酷無比な、神主を毛嫌いする悪者「安左衛門」……それは、そうあるように創られた・・・・存在だったのだ。
別れ際、彼は私の疑問を知っているように付け加えました。

「残念ながら、私は安左衛門じゃありませんよ。…ただの大家です」



研究室に戻ると同時、郷土資料をひっくり返し改めて全てを洗いました。最早神社に関わりのない事まで寝る間も惜しんで調べ尽くしました。
その結果、私は一つだけ鍵を握る事ができました。

アパート裏手の林にある沼。そこに沈んだ石碑をご存知でしょうか?
あの石碑は昔に土地の有力者達の手によって創られた慰霊碑なのだそうです。謂れはあまりこの件とは関係がないので省きます。
私は沼に入って調べました。この時期です、寒中水泳はこたえます。下手したら溺死する可能性もあります。
それでも。
劣化した石碑に刻まれている文言は殆ど読めません。しかし私は確かに見付けたのです。
殆ど朽ち果て、苔に覆われたその文字。もしかすれば同じ名前の別人かもしれない。
それでも!!

確かにそこにあったのです。歴史の闇に葬り去られた鍵のひとつが。

『藤浪安左衛門』

それが、彼の名前です。

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