架空の世界で創作活動及びロールプレイを楽しむ場所です。

「…では、リリィ殿下、本日はありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ。お役に立てて幸いです」
「失礼致します」
 記者達が部屋の戸を閉め、コツコツと歩き去っていくと、リリィ・ティナ・ポマレは大きなため息をついて、机の椅子にもたれかかった。
「…疲れた」
「何か飲み物でも」
「…オレンジの汁を頂戴、クリス」
「分かりました、すぐに用意しましょう」
 クリストファー・オウムアムアは、着ているチュニックにも劣らないほどに気を緩ませた主人を眺めつつ、一度部屋を出て望みの物を調達した。次いでに自分用の飲み物も用意して部屋に戻り、椅子にもたれる…というより、椅子上で溶けている主人に手渡す。
「ご苦労さま」
 威儀だけは一人前にリリィが労う。これが、王国一の切れ者の本当の姿と知ったら、この国の外交は大打撃を受けるに違いない。クリスは心中で苦笑いした。
 目の前で蕩けつつ木製のコップの中身を啜る、この国には余りにもそぐわない「真っ白な」女性。
 その姿は、体に流れる最も偉大な英雄の血の証であり、国民にとっては神々の名の下に自らを率いる指導者の資格そのものである。
 リリウオカラニ・”ティナ・ポマレ”。髪の色も、肌の色も、まるで空の雲の様に真っ白なその中で、ただ一つ鮮やかな青色の瞳が、何処か遠い地を見通す様に鈍く輝いた。

 「クリス、他に仕事はある?」
「ええと、今日の仕事…今しがたお帰りになったのが『国民の声』の記者さんで…はい、お疲れ様でした。今日の仕事はこれでおしまいです」
「やったぁ〜、これで休める〜」
 ぐぐぐっと伸びをして、リリィはまた椅子に負荷をかける。ぎしり、と安楽椅子が音を立てて前後に揺れた。
「そんなにお疲れですか」
「当たり前よ…昨日は日が変わるまで翻訳作業、一昨日は外交関係の諮問と諸国合同の空港建設で閣議、その前は大使館の落成祝い式典…これだけ続けば嫌にもなるわよ」
「でしたら、お断りになれば…」
「『国民の声』の仕事だけは断れないわ。だって、多くの国民にとって、外国のことを知れるのはあの新聞が唯一だもの。できるだけ沢山の情報を知れる様にするのも、王族の仕事でしょ?」
「真面目でいらっしゃいますね」
「…でも疲れるものは疲れるのよねぇ」
「では、今日と明日はゆっくりご休息ください。国王陛下と、摂政殿下にはその旨お伝えしておきます」
「いいわ、どうせ夕食で顔を合わせるから。自分で申し上げるわよ」
「はい。…それで、この後どうなさいますか?」
「んー…寝たい。寝たいけど、はっきり言って暇になるのも嫌。そうね…」
 少し考えて、リリィは椅子から跳ね起きた。その速さに、クリスが思わずびくりと体を震わせる。
「ど、どうかなさいましたか」
「クリス…わたしは決めたわ」
「な、何を…?」
「決まってるじゃない、街へ出るのよ!あなたもついてきて!」
「え、俺、いや私もですか!」
「そうよ、そうと決まれば、さっさと支度なさい!」
 いつの間にか、そういうことになっていた。

 「お着替えは終わりましたか?」
「終わった。入っていいわよ」
「失礼します」
 執務室に入ると、そこにはいつもの通り、緩いチュニックと外出用のマント、そして日除けの傘を被ったリリィがいた。
 白いチュニックの袖口と裾には、赤い布地の上に黒い糸で紋様が刺繍され、身につけているマントも同じ様に、一面赤と黒の鮮やかな色で染められている。この複雑な紋様と赤いマントは、平原に住む人々に対し、高貴なアリイであることを示す為のものだ。
 そして、乾いた藁で編まれた日除けの傘は、ちょっとした陽光でも肌に痛みを覚える彼女が外出するには必須のものである。
「で、あなたは相変わらず洋服なのね」
「というより、王族の方々や側仕えの人達の多くは、開国前からこういう洋服ですよ。むしろ、ずっと昔ながらのお衣装を召されているリリィ様の方が少し稀です」
「その白い…ええと、なんていったかしら、そうワイシャツよ。わたしにとっては、いささか暑く窮屈に見えるけれどね」
 マントの釦を肩口で留め、「黄金よりも貴重な」サメの歯の首飾りを下げ、腰に鞘に収められた山刀を下げる。その様は数百年前から変わらぬラピタの民の伝統を体現していた。
 一方で、クリスの装いはと言えば、上半身は白のワイシャツに下は灰色のズボン。腰の刀と顔に入れられた刺青を除けば、その様は完全に外国人のそれと変わらない。
 開国以来10年、ポマレ4世の頃から洋装が浸透していた王族の他にも、多くのアリイ達が真似て外国風の服装をする様になっていたが、リリィはそうした世の流行に抗い、頑なに古めかしい衣装を着続けていた。
「さ、行くわよ」
「どこに行かれますか?」
「…まあ、色々よ」
「はあ…」
 リリィの後をついて、クリスも歩き出す。が、長年付き従った彼には、主人が特に何も考えていないことがはっきり見てとれた。つい先程までの賢者の影は既に無く、今あるのは遊びたい盛りの子供の様に無垢な精神だけだった。
「ほら、早く着いて来て。そうね…まずは腹拵えと行きましょ、いつもの食堂まで急ぐわよ」
「分かりましたから、そんなにお急ぎにならないでください」
 半ば走る様にして、彼女は仕事場の書記官府を飛び出す。外の天気は曇り空で、今にも雨が降ってきそうな、ぐずついた様子だった。

 宮廷書記官の勤務する書記官府は、一万人の人口を擁する王国の都、タアロアの中心部に位置している。
 区画の中には、王立図書館と外務省庁舎が同居し、隣の区画にはマウサネシア、スカセバリアルの大使館が軒を連ねている。
 そして、道路を一つ挟んだ正面には、都の中心にして、王国の心臓たるハワイキ宮殿が古くからの威容を示しており、そこでは彼女とその父親が日々を送っていた。
 そして、王宮より更に北には来るべき外国人達の来訪に備え、古い外国人区画を再構築する為の工事が続けられている。
 だが、リリィ達が目指すのはそうした首都の形をした北側ではなく、その逆方向である。
「その食堂というのはどこにあるんです?」
「南の…確か四番路地だったかしら」
「えぇ…そこまで行くんです?」
「行く。あなたは黙ってついてきて」
 正直に、「一緒に食事がしたい」、と言えば良いものを、そうした素直さはなぜか彼女に備わっていない、数少ない美徳の一つだった。頭の中では、いつも着いてきてくれるクリスに対し、感謝と親愛を伝えるべきだ、と理解はしているものの、その過程のどこかでそれが阻害されてしまう。そして、口をついて出るのは、傲慢なセリフかどこか未熟な悪口だけ。
 しかし…。
「…あ、その…」
「…何ですか?」
「好きなものを食べて良いのよ、うん」
「…では、ありがたく」
 素直さの不足は、決して心が通じ合っていないわけではない。初めて出会った時から、それは変わらない二人の真実なのだ。
 
 さて、タアロアの北側は王宮、政府庁舎、大使館などが整然と立ち並び、その雰囲気は一国の首都にふさわしいものである。だが、南へ足を伸ばせば、事情は全く異なってしまう。
 都の南側には、王都に住む技術者、商人、庶民から奴隷まで様々な階層の人々が、住居から職場に至るまで雑多に入り混じって暮らしているのだが、外国人から見たその様子は、よく言えば伝統的、悪く言えば貧相にして粗悪であり、どれほど贔屓目に見ても都市には、剰え王都になど見えようはずがない。
 王宮を中心とする道路網こそ宛らナイン・メンズ・モリスの様に整然と並んではいるが、その中を満たすのは柱と茅葺の屋根だけの壁が無い簡素な熱帯向けの住居と、大きな木箱をそのまま建てた様な商店と鍛冶場、そして人々が日々の糧を得る畑であり、他国にある様な摩天楼や煌びやかな劇場などは影も形も無い。
 かつてこの都を見たとある外国人は、「道路村」と見事に本質を言い当てた表現で評価を下しており、同時にこの小国がいかに発展において取り残されているかを明確に示した。
 が、一方住む人にとってこの街は、これ以上無い大都市であり、同時にいつでも過ごしやすい理想的な場所でもある。特にリリィにとっては、愛着深い故郷であり、世界に誇るべき理想の都市だった。

 「そういえばクリス、聞いたことがあるかしら。少し前にこの都を見た外国人がね、ここを評してなんて言ったと思う?」
「…小さい、ですかね」
「違うわ。そいつは何と、『道路村』って呼んだのよ!『まるで、石並取の盤面みたいだ』って!」
「ははあ、なるほど?」
「全く、腹が立って仕方ないわね。この街の建物は、皆この国で一番過ごしやすいというのに」
「ただまあ、外人さんの気持ちは分かりますよ。だってほら、壁の無い建物なんて受け入れられるものではありませんし」
「風通しがよくって過ごし易いのに、勿体無いことね。着替えだとかをする場所を別に確保すれば、あんないい家はないと思うけど」
「理解し難いですが、わざわざ自分を孤立させて、窮屈に生きたい人の方が世界には多い様ですね」
「全くね」
 クリスの感想は、リリィへの同意と自身の思いとが半分ほどないまぜになっている。確かに、周りの視線を断ち切って、一人になりたい気持ちもわかる。だが、一方で解放感と涼しい風を取り込んで、緩やかに過ごせるラピタの住処もよい。
 だが、二人がそうした感想を持つのは、おそらく心の奥底では「家とはその人だけの空間である」という原則に同意しておらず、全てを共有し、助け合ってきたラピタ人の精神が強く生きているからだろう。彼らの祖先達の心にのっとれば、例え住居であっても、誰か一人の独占物というわけではない。その家を日常的に占有する者はあっても、他者に対して閉ざされたものにする資格がある者は居ない。いつでも誰でも、そこで寛ぎ、雨から身を隠すことができる。
 リリィにとって、ー或いはクリスにとってーこのタアロアはそうした古き祖先の心を体現した、一つの象徴だった。
 閑話休題
 外国人に対する愚痴や、ちょっとした小話などをしながら、二人は街を南へ南へと歩いて行った。途中様々な人とすれ違い、リリィは彼らから挨拶をされると、必ずそれに応じていた。
「あら、こんにちは王女様!」
「こんにちは!今日の調子はいかがですか?」
「調子はよろしいですよ、なんたって、うちの息子が昨日おっきなサメを獲りまして」
「あら、それはおめでとうございます!息子さんも『サメの勇者』の仲間入りですね」
「ええ!今日刺青を入れてもらうんですのよ」
 気安く会話をしているが、二人の間には絶対的な身分の壁がある。一人はマカアイナナ、もう片方はアリイの中の最上位たる王族、更にその中でも王の次に高貴な立場だ。一生涯言葉はおろか、顔を見ることも他の国では叶うまい。
 だが、この王女はそうした壁を紙同然に破って相手に向かう。彼女一人で、一体幾つの身分のタブーを破壊したのだろうか。そう思うくらい、彼女は何処にでも溶け込んだ。外交の場にも、政治の場にも、庶民の囲む輪の中にも。この国とあらゆる場所が彼女の居場所たり得るのだ。
「王女様、あまりお喋りに興じていると、食堂が混み合いますよ」
「あ、ごめん。それでは、これで失礼します!」
「はーい、王女様もお元気で」
 クリスに促され、リリィはお喋りを切り上げる。そして、更に雑然とした街の中を目的地目指して歩き回った。
「ええと、あった、あれよ!」
 10分ほど経って彼女が指差したのは、民家をそのまま大きくした様な、茅葺き屋根を柱で支えた壁無しの建物だった。その中には、いくつかのテーブルと椅子が置かれ、何人かの庶民達が食事と飲み物を囲みつつ談笑を続けている。
「あそこがいいお店なんですか?」
「そうよ。あそこのポケ(生魚の切り身に塩や油で味を付けたもの)とラウラウ(タロイモの葉で豚肉や魚を蒸し焼きにした料理)は絶品なの。ヤシ酒と一緒に食べるとほっぺが落ちそうになるわ」
「な、なるほど」
「さ、早く行きましょ!」
 ぐいぐいと同伴者の手を引き、彼女が食堂に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ!」
 女将の威勢の良い声が上がると同時に、外の天気は、ざあざあと降るスコールへと変わった。

 「いらっしゃいませ王女様、何になさいますか?」
「いつものを二人分お願い。あと、ヤシ酒も二杯」
「そちらの壺からどうぞ!」
 そう言われたので、リリィは受け取った木製の杯で壺から二杯酒を汲み、テーブルに戻ってくる。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます…というか、もう『いつもの』で通じてしまうくらい、頻繁にここへお出でだったんですか?」
「んー、まあ、確かにそれもそうね。仕事が終わって、あなたと別れた後とか、たまの休みとか。そういう時にふと一杯引っ掛けたくなるのよ」
「なんというか、おじさん臭いですね。私より3歳も年下なのに…」
「なんですって?」
「いえ、何でもありませんよ」
「はい、お待ちどお様です」
 警戒する山猫の様な視線が、運ばれてきた料理を見てすぐに緩む。主食のポイ(蒸し焼きにしたタロイモを叩いて、パン生地くらいの柔らかさにした料理)と、採れたての魚を山盛り切り身にしたポケがテーブルに置かれるや、リリィは匙をを手に取ってがっつき始めた。
「んん、旨い!これ、アク(カツオ)ね。この味は他の店ではなかなか味わえないわよ」
「…本当だ。美味しいですね」
「でしょ〜?」
 そう笑いながら、彼女はポイを手でちぎって口に放り込む。デニエスタ式の洗練された宮廷マナーから見れば、蛮人の烙印を押されても仕方ない様な食べ方だ。
 しかし、そうした粗野さの中にも華がある。クリスは口の中で切り身を噛みながら、薄ぼんやりと考えた。或いは、贔屓目に過ぎるだろうか…。

 そうして二人が食事を楽しんでいる間、外の雨は激しくなる一方だった。いつの間にか通りから人は消えていて、一寸先も怪しいくらいの土砂降りの雨が、土の道路に小さな穴をいくつも開け、水溜りを作り出していた。
「この分じゃあ、出て行かれねえなあ」
 客の一人がヤシ酒をあおりながら呟いた。筋骨隆々の体躯に、所々鋭い傷跡が覗く。背中にはマグロの様な大型魚に使う太く長いモリを背負い、腰にはリリィと同じ様に戦士の証である刀を帯びている。
「漁にですか?」
「お、これは王女様。…ええ、まあそんなところです」
 彼は苦笑いして、顎に生えた無精髭を撫でる。
「と言っても、ちょいと面倒な漁でしてね。単なる魚じゃないんです」
「ほほう」
「人喰いザメでさ」
 興味を示したリリィに対し、彼は生真面目さと少しの冗談味を含んだ表情で話し出した。
「今から少し前、ここから南のポポトウ島で、1人子供がサメに襲われて亡くなったんですがね、それがことの発端でさ」
「ふむ」
「この襲ったサメってのが、イッチョー(イタチザメ)みてえな奴じゃあなくって、なんと大の男三人分はあろうかというホホジロだったんです」
「えぇ…それ、盛ってないわよね」
「子供を助けようと海に入って、片腕喰い千切られかけた漁師に聞いたんで間違いござんせんよ」
「うえぇ…それで?」
「で、ポポトウ島じゃ漁師や戦士を総動員して、そのサメを首を上げてやろうと気炎を上げたんですが、これがなんと捕まらない。大人が舟を出すとサメは姿を見せず、子供らが海辺で遊んでると途端に背鰭が見えてガーっと寄ってくる。大人達も生業が有りますから、いつでも弓構えてるわけにゃいきませんからね。そして、捕まらないうちに、今度は沖合に出た旅客カヌーが襲われたんです」
「旅客カヌーが!?」
「はい。カネオヘから出てポポトウ、モヒを結ぶカヌーが有るんですが、これが例の人喰いサメに襲われました。妊婦含めて6人乗ってたんですが、酷いことに皆殺しです…」
「なんて惨い…」
「どうやら奴は人の味を覚えた様で、これからはもっと頻繁に出てくる様になるでしょう。そして、そうなる前にやっちまわなきゃいけねえ。国中の漁師がそう肚を決めて、サメを狩り出す手筈になったんです」
「なるほど?つまり、あなた達はそれに参加してるんですね?」
「ええ。俺は故郷はパペーテの側の村ですが、サメに友達が襲われたことがありまして。以来サメへの恨みは骨髄でさ。だから必ず、このモリで仕留めて…痛え!」
「コラ!王女様になに吹き込んでんだい、この玉無しパワン!アンタ、そんな形して未だにサメの勇者になれてないじゃないの」
「ちょっと女将さん、そいつぁ言わないでおくんなさいよ!折角王女様に良いとこ見せられそうだってのに!」
「貴方、パワンさんと仰るんですね」
「王女様、この男には関わらない方がいいですよ。コイツは、こんな大きな体してるのに、今だにサメの一匹も狩れていないんですからね!
 女将はメインのラウラウを運びながら、厳しく宣った。この国の男、特に海辺の人々にとってサメを狩ることはある種一人前の証でもある。特に、他人の力を借りることなく、一人で一匹を倒した男は、「サメの勇者」と呼ばれて尊敬の対象となり、特別な刺青を彫ることが許される。
 リリィの付き人であるクリスはそうした稀有な男の一人であり、かつてヨゴレを独りで打ち倒した優れた戦士でもあるのだ。
「なるほど、つまりは今回の機会は真の男になる貴重な機会、そういうことですね?」
「は、はあ…まあそういうことです…」
 くすくす笑うリリィに対し、パワンは先程の威勢はどこへやら、しょげかえって俯いてしまう。
「まあ、それじゃあ頑張ってくださいね。サメがいるとあっては、わたしも安心して海を渡れませんから」
「え、ええまあ…。頑張らして貰います…」

 他方、そうしたやり取りを黙って見ていたクリスは、二人よりも幾分か冷静に考えていた。
 勇者たる彼は、サメという生き物のしぶとさや恐ろしさはよく知っている。彼らは、たとえエラに刀を深く突き立てようとも、そう簡単には死なない。
 激しく暴れるだけではない、舟を転覆させ、水中に引き摺り込もうとする。一匹を助け無しで打ち倒すのには、精妙にモリを扱う高い技量と、恐怖で体の動きを乱さない精神力が要求されるのだ。
 比較的小さいヨゴレでさえそうなのだから、ホホジロザメを一人で狩るなど、おそらく人では無理であろう。剰え、相手は人を恐れない凶暴なサメなのだから。
 もぐもぐと豚肉を食べつつ、彼は自身が勇者になったあの時を思い出す。冷たい水の中、光の中で青色がゆらめく。眼前には一匹のサメ。相手を刺激しない様息を殺し、縄で繋いだ餌をちらつかせる。食いついた。一瞬の間にモリを構えて狙いを定め…そして、背中に深く突き立てるのだ。
 尻尾を後ろに叩きつけ、暴れ回るサメからモリが抜けない様抑え、傷を抉り取る。そして、敵が動かなくなった時、辺りは真っ赤に染まっていて…。
「クリス、ねえ、クリス」
「ん、ああ、なんですか?」
「さっきから、ずっと黙々と食べてるけど、どうしたの?」
「いえ、王女様がお話に興じていらしたので、邪魔をしてはと」
「……」
 そう返すと、リリィは黙り込んでじっとクリスを見つめる。真っ青な瞳が見開かれ、その中に映る自分の表情さえはっきりと見えた。
「…ごめんなさい」
「え、どうして謝るんです?」
「いえ、わたしが無理に言って来てくれたのに、あなたをほっぽり出して、お喋りに興じてしまって…」
「…大丈夫ですよ。それに、私は王女様が楽しげにしていらっしゃるのを見るのが、一番幸せですから」
「ん、むぅ…」
 照れ隠しの為にリリィは食事を口に入れ、酒を飲む。顔は酔いではない原因でほんの少し赤くなっていて、視線も心なしか逸らされている様に見えた。
 苦笑いしてふと外を見ると、雨は段々弱まり、晴れ間さえ見え始めている。この分なら、都の外に足を伸ばすこともできそうだ。そんな平和な考えが浮かんだ時、
「大変だ!漁師と戦士は武器を持ってすぐに来い!はやく、早く!」
 そう叫びながら、二人の男が食堂へ飛び込んで来た。
「何事だい、騒々しい!」
「サメが出たぞ!人喰いザメが、北の湾に出てきやがったぞ!」
 刹那、一人を除いた全員が立ち上がり、同時に駆け出した。彼らは嵐の様に食堂から出ると、港に向けての大路を全速力で走り去っていったのだ。
 ーなお、立ち上がらなかった、いや立ち上がれなかった一人はリリィではない。念の為、書き添えておく。

 「早く舟を出せ!」
「急げ急げ!」
 都の北の浜辺では、殺気立った男達が舟を囲み、出航の支度をしていた。彼らは手に手にモリや刀、中には火縄銃を持ち出している者もいる。
「ご覧下さい、サメは湾の出口付近をウロウロとしています。今、あの辺りに何艘か舟が出てますが、奴らが網と銃でサメを逃さない様に抑えてます。今から俺達が引き付けて奴を仕留めます!」
「わたしも行くわ。舟に乗せて頂戴」
「な、駄目ですよ王女様!」
「クリス、あなたは向こうの舟に乗りなさい。武器も誰かから借りるのよ」
 そう言い捨てて、リリィは舟に乗り込む。すると、漁師達から歓声が上がった。
「聖なる白髪の御子が、舟にお乗りなさった!」
「これでサメの野郎も必ず倒せるさ!」
 漁師達は、未だに高貴な人間が持つ魔力、ーマナと呼ばれるーを信じ、崇拝している。魔力が宿る人は決して傷付かず、戦に負けることは無い。魔力が刀に宿れば切れぬ物は無く、網に宿れば大漁が約束される。
 そうした信仰の中で、リリィの様な白髪の御子は、聖なる一族の最上位の力を宿す存在とされていた。
 漁師達にとって、戦士達にとっては、彼女が舟に乗り込んでその守護を受けられるということは、この命懸けの戦いの勝利が保証されたことに等しい。そしてそれは、当の本人も重々承知している筈のことだった。
「(単なる好奇心だけではない、あの方はきっと、ご自身が命を懸けることで、漁師達を鼓舞しようとしているのではないか)」
 だが、何にせよ追いかけなくてはならない。彼女の命が失われることは、即ちこの国の未来が失われることに他ならないのだから。

 「サメは湾の中を回遊していますから、これをまず囲む様に舟を持ってって、それから縄付きの餌で持って引き寄せまさ。それで寄ってきたら、モリで刺して仕留めます」
 パワンはそう大まかな作戦をリリィに説明した。
 クリスが乗り込んだ別の舟に目をやると、成程大きな肉の塊に、鋭い釣り針と太い縄を仕込んでいる。縄のもう片方の先は舟の舳先に結び付けられていて、サメが食いついて逃げようとすれば、重い舟を引き摺らなくてはならない機構になっていた。
「奴も、十人からが乗った舟を引きずるのは一苦労でしょう。疲れたところを一気に叩きます」
「そう、分かったわ」
 ぶるり、とリリィの体が震える。これから始まるのは、本当に互いの命を賭けた死闘だ。決して興味本位で着いてきた訳ではない、だが文字通りの戦場が放つ剣呑な空気は、彼女に冷や汗をかかせた。特に、クリスが乗る舟はよりにもよってサメを引き寄せる最も危険な役回りを担う。どうか無事であれ、と彼女は祈った。
 一方、クリスは自身が乗る舟が最も危険な場所となることは、乗る前から既に理解していた。寧ろ彼は、リリィがこの舟に運良く乗らなかったことを神々に心中深く感謝していたのである。
「若いの。アンタ、勇者だろ」
「ええ、まあ」
「助かるね、何しろうちの若いのときたら、サメが出たと聞いただけでキンタマを縮み上がらせてビビっちまう」
 船長役の老漁師は、餌に縄と鋼鉄の針を仕込みながら笑った。その顔には、クリスと同じ勇者の刺青がある。
「頭領は何を狩られたんです?
「イッチョーを二匹だ。今日みたく、舟の上から叩き殺したのを一匹、そして、水中で仕留めたのを一匹だ」
「水中で!?」
「あれは、我ながらよく出来たものだと思うわい」
 カッカッカ、と老漁師が笑う。どうやら彼は、ホホジロザメという強敵に挑めることを、心の底から楽しんでいる様だった。
「さて…支度はできたが、その前にだ」
「ん…あれは!」
 老漁師の視線の先には、舟の舳先に立つリリィが居た。何をしている、クリスがそう叫ぼうと口を開いた。その瞬間、
「『爾 来たりて見よエ アイア ホイ』」
 すぅ、と息を吸い、彼女が朗々と歌い出した。
「『爾 来たりて見よ 美しき花の様な 若き勇者をエ アイア ホイ オ ケイ ア メ エ へ プア ラ』」
「「「爾 来たりて見よ 美しき花の様な 若き勇者を」」」
 彼女の歌に続いて、漁師達も歌い出す。勇者を讃え、神々の加護を願う聖なる歌を。
 彼女が歌を喉から送り出す度に、皆の心は一つに溶け合い、勇気の炎はますます燃え上がる。その姿は正しく、古の英雄そのものだった。
「『豊かな海の守り手たるクー神よ 我らを守り給えかしエ オ ‘クー ウラ カイ’エ オル オル エ コク ア マ イア マアコウ』」
「「「クーの神よ 我を守り給えかし!」」」
 そしてリリィは微笑み、初めて彼に視線を返した。遥かな海の様な真っ青な瞳で共を見据え、高らかに叫ぶ。
「さあ、行こう。皆、クリス我が友!」
「「「応!」」」
「…はい、何処までもお供いたします」

 ざざ、と乱れていた海面はいつの間にか凪に入り、平穏さを取り戻している。その中心点、緑色の海を切り裂く真っ黒な背鰭を除けば。
 サメは人間達など気にもならぬと言いたげに、我が物顔で海を泳ぎ回っている。だが、それも今日までだ。
「さあ行くぞ、餌を投げろ!」
「応!」
 老漁師の命令に従って、クリスは餌を投げ込む。舟から適切な距離に投げると同時に、その真ん中を持って引っ張られない様注意する。
 ざぶん、と音を立てて肉の塊が水に入ると、中の血が漏れ出して海面を赤く染めた。
「さあ、若いの。きっちり抑えといてくれよ」
「はい」
 クリスは縄を持つ手に力を込める。平穏な海の上で、船が不気味に揺れた。ーその時、
「……!!」
 凄まじい力で縄が引っ張られた。クリスは体ごと持って行かれそうになるのを、船の底に足を押し込んで強引に止める。先を見ると、赤い肉の塊に食いついた、鼠色の巨大な魚影が見えた。
「来たぞォ!!」
 舟に乗る他の若い衆に抑えられながらも、彼は声を張り上げる。そして、サメが肉を攫って泳ごうと舟ごと前へ進み始めるのを合図に、他の舟が一斉に側へ寄せて来た。
「弓と鉄砲はまだダメだ!味方の舟にあたる!」
「早くモリを持って来い!」
「前へ回り込め!」
 鋭い指令が飛び、全ての舟で戦闘の支度が始まる。一方クリス達は、眼前に現れた巨大な殺戮兵器に対抗する為、必死で縄を後ろは引き、少しでも動きを鈍らせる様死力を尽くした。
「若いの、少し力を緩めい。距離を取らせて、射撃させるんじゃ」
「はい…!」
 力を僅かに緩めると、サメの体が一気に二、三メートルほど前へ進む。如何に火縄銃の命中率が悪いとはいえ、ここまでの距離を弾が逸れることは余り無い。
「よし、撃て!」
 ボン、ボボン、という爆発音が響き、白煙と共に弾がサメへ向けて飛ぶ。また、それに混じって弓からも鋭い矢が放たれ、的へ向けて一直線に空間を裂いて走った。
「当たったか!」
「銃は奴が深く潜ると役に立ちません。出来るだけ撃ち込みます!」
 弾と矢が着水すると、鋭い音を立てて水飛沫をあげ、次いで僅かに水がまた赤く染まる。どうやら何発かはサメの体表を貫いた様だ。だが、やはり水中のことであるから、その効果は強弓には及ばない。第一射は五発の命中を達成したが、その過半数は水中用に拵えられた刺突向けの矢であった。
「次の矢だ、急げ!」
「こうなったら、毒矢を使うぞ」
 火縄銃は弾を込めるのに時間がかかる為、数を揃えなくては意味が無い。故に第二射は、殆どが弓矢によるものだった。
「当たったか?」
「皆命中しました。少なからず毒を仕込んでありますので、動きは鈍るでしょう」
「舟を至近へ寄せろ!」
 いよいよトドメを刺す時がきた。リリィの乗る舟も含めて、全ての舟がサメに向けて全速力で漕ぎ始める。この先には網が張られていて、そこに追い込んで袋叩きにする。そう算段をしていた。その筈であった。
「ん?」
 ふと、クリスは縄の手応えに違和感を覚えた。軽い、妙に軽いのだ。サメが力尽きたのか、そうも思った。その時である。
「おい、サメが!」
「なっ!」
 彼は、サメの影が餌を離れ、深くへ潜り込むのをはっきりと見た。そして、餌の肉は鉤の無い下部分だけが食いちぎられていて、上の部分には傷一つついていない。
「まさか、甘噛みだったとでも言うのか!」
「いや、それよりも、眼前の餌を諦めるサメなど見たことが無い!今までにそんなものは一匹たりともいなかったぞ!」
 急に自身を引っ張る力を失ったクリスと仲間達は、危うく海に落ちそうになりながら、恐慌寸前の声で叫んだ。一方、その様を見ていた他の舟も同じ思いでいる
「野郎、クソッタレ!」
「どう言うことだ…?」
 熟練の海の戦士達が、宛ら妖魔でも見たかの様に、冷や汗と共に呟く。彼らが不気味な平穏を取り戻した水面を見つめるしか出来ない中、サメの意図を正確に洞察した者が一人居た。
「皆、危ない、奴がー」
 アザラシを狩る様に、海底から猛進したサメによって、リリィの舟が転覆させられたのは、その二秒後のことである。

 「ごぼ、がはっ…!」
 肌と視界を刺す激しい痛みと、体の中へ塩の味が入り込む苦しさで、リリィは何が起きたのかすぐに理解した。
 他の船員共々海に投げ出された彼女の側を、傷を負ったホホジロザメがクルリと周る。
「(もがくな、もがいてはいけない…!)」
 ともすれば意識を失いそうになる痛みの中、彼女は冷静に判断を下し、命の為の策を立てる。そして、サメの姿をとった自らの死が迫って来るのを、奇妙な笑みと共に迎えたー。

 「り、リリィ…」
 信じられないことが起こった。リリィの乗った舟が、真っ白な水飛沫と共に転覆し、彼女が海に投げ出されたのだ。飛沫の中に忌まわしい影を認めると、全てを理解したクリスの体は、本能のままに動いた。
「リリィー!!!」
 裂けよとばかりに絶叫すると、彼は海へと飛び込んだ。躊躇いなど無い、自らの生存さえ置き去りにした。今はただ、彼女を助けることだけ考えろ!
 クリスが目を開くと、転覆した舟の周りで浮く漁師達と、その一段下で沈んでいるリリィの姿が見えた。真っ白な長髪が水の中で揺れ、太陽の光を反射して美しい光のカーテンを作っている。
 しかし、その風景に見惚れているわけには行かない。彼女の後ろをサメの影が掠めたかと思うと、それはすぐに正面へ周り、獲物を見つけたと突進を開始したのだ。
「(間に合うか…!)」
 彼女の体を抱きかかえて正面から外れる?持っている刀で闘う?それとも彼女とサメの間に割り込み、命を捨てて盾になる?その誰だって構わない。彼女の命が守れるのなら。
 彼は器用に足で泳ぎながら、スピードをそのままに腰の刀を抜く。そして、まさに食いつこうとするサメに向けて必死に手を伸ばした。しかし、その手は届かない、否、届く必要が無くなった。何故ならば、彼はもう一度、信じ難い光景をその目で見たからである。
 サメが目と鼻の先まで迫った時。その大きく開けた口で、華奢な人間の体を引き裂こうとしたその時、リリィの右腕が素早く動き、マントの中の刀を抜いてその鼻先を深く切り裂いたのだ。
「(!!)」

 サメの鼻先には、ごく微細な穴が大量に開いており、ロレンチーニ器官と呼ばれる筒型をしたゼリー状の器官へと繋がっている。これは100万分の1Vというごく小さな生物電流の変化を感じ取り、獲物を的確に捉えることが出来ると言う、嗅覚と並ぶサメの持つ最大の武器の一つである。
 しかし、それは裏を返せば鼻の周りに大量の神経細胞を集中させる必要があると言うことであり、一気に自らの感覚が無力化されるリスクを孕んでいることに他ならない。
 故に、サメにとって鼻先は致命的な弱点となり得るのだ。そして…ラピタの優れた漁師達は、幾千年にも及ぶ積み重ねの末に、科学的な知識を一切持つこと無くこの結論に辿り着いた。その知識の血脈は、連綿と今尚受け継がれている。

 鮮血が再び海を染めた。しかし、それは犠牲となった彼女のものではない。殺戮者は、自身の血の中でのたうち回り、恐慌に陥って遁走する。そして、向きを変えて敵が逃亡したのを確認すると、勇者は刀を捨てて、最後の力を振り絞って浮き上がり、転覆した舟の縁に捕まって呼吸を取り戻した。
「ふぅ…!」
「リリィ!」
「きゃあっ!…って、クリス、びっくりさせないでよ」
「油断するな、まだヤツが側にいる。舟を復原して、助けを待とう」
「げほっ、ごほっ。そうね、せーのっ!」
 側にいた漁師達と共に舟を元に戻すと、リリィとクリスは水に濡れた重い服を引きずって、舟縁から中へ滑り込んだ。
「はは、なんとかなったわね…」
 満足げな彼女の呟きは、クリスの怒声に遮られた。
「なんであんな無茶な真似をしたんですか!!」
「え、」
「もう少しで死ぬところだったんですよ!」
 主人であるはずの彼女の胸ぐらを掴んで怒鳴るその表情は、何処か子供じみている。出会った日から変わらない、純粋でひたむきな表情だ。
「…ごめんなさい、心配をかけたわね」
 背中へ手を伸ばして、命懸けで助けに来てくれた友を抱き締める。彼は、抗わなかった。
「泣いているの?」
「…泣いてなんか、いませんよ」
「そう。なら、いいわ…」
 彼の手が背中に伸びるのを感じる。力強くも優しい腕の中で、リリィは静かに目を閉じた。

 「あ、クリス…」
「リリィ様!?ダメですよ、寝ていなくては!」
 夜、王宮から出て来たクリスは、玄関の階段に座り込むリリィを見つけ、思わぬところで出会ったと声を上げた。
「あ、いや。体をきっちり洗って昼寝したから、別に辛くはないのよ」
「ダメですよ!その、あんなことがあった後ですよ…!」
「いや、むしろわたしの方が心配よ…命懸けでわたしを助けてくれたでしょ?怪我とかしてない?」
「いえ、大丈夫です。ただまあ、陛下へのご説明で大変骨が折れましたが…」
「お父様が?」
「ええ、とてもお怒りでした。なんて危ないことを、と」
 立ち上がったリリィと共に門を出て、都の大路を歩き出す。他国の首都と違って、この国の都は夜になるとわずかな明かりを除いては、本当に街中が闇に包まれる。店屋も殆どが暖簾を下ろしてしまい、明かりを灯しているのは食堂が数軒と政府関係の施設だけだ。
 が、どうやら今日は事情が異なる様である。
「ん?ねえ、あれを見て!」
「…あ!」
 遥か遠くから赤々と燃える松明の列が、歓声と音楽と共に近づいて来る。そして、その先頭に押し立てられているのは、高い柱に尻尾を括り付けられた傷だらけの巨大なサメだった。
「あれは…!」
「遂にやったのよ、彼らが!」
 やって来た人々は口々に、「パワンが勇者になった!」と叫んでは、飛び跳ね、踊り回り、歌を歌っていた。
 そして、その騒ぎを聞きつけた他の家々からも人が飛び出して来て、辺りは忽ち明るい喧騒に包まれる。
「聞いた!?パワンさんが、あのサメを狩ったのよ!あんな大きいのを!」
「ええ、リリィ様が戦われた、あのサメですね!」
 気がつけば二人は走り出していた。先程までの重苦しい雰囲気は何処へやら、今は二人とも祭りの雰囲気に飲まれ、心地よい高揚感に突き動かされるまま、その輪に躍り込んだ。
「王女様だ!」
「海の中で自ら剣を振るわれた王女様だ!」
 どこからか声が上がり、それは続いて爆発の様な歓声へと変わる。
「さあみんな踊ろう!歌おう!新しい勇者の誕生だ!」
 歌舞音曲は夜を徹して続く。海の平和と、勇者を讃える祭の火は、遥かなあの星空まで焦がせとばかりに、熱く燃え続けた。

 ー後にクリスはこう述懐している。「思えば、あの日は私たちにとって、永遠とさえ思われた平和な日々の…最後の一日だったのかも知れない」と。

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