架空の世界で創作活動及びロールプレイを楽しむ場所です。

――ラピタ王国に存在するレファルの大使館にて


「暑いな……祖国は寒いがここは正反対だ……」

王国の伝統的な建築物とは全く趣の異なる新古典建築の大使館で、一人の男が呟いた。
ここは赤道に近いラピタ王国。彼が住むレファル・ソビエト民主社会主義共和国とは殆んど正反対と言って差し支えない国家である。

彼は、ここ最近両国の間で結ばれた国交に関係して、外交官としてラピタに滞在している。

大使館はわざわざ祖国から取り寄せた設計図の通りに、しかもラピタや諸外国の人々に委任せずに建築された。何故ここまで手の込んだ事をしたのかと言えば防諜の為である。彼の祖国では他国の大使館の建設時に盗聴機を仕掛けるのは恒例となっているため、それを警戒してのことである。(そしてレファルが他国の為に建築した大使館は基本的にその国に建て直される。当たり前である。)

新古典様式であるのは社会主義の絶対的勝利を表すらしいが、はっきり言って全く気候にあっていない。男はそう思った。
冷房があれば多少はマシなのだが、それらの需要がなかったレファルではそのような物は存在しなかったから地獄である。
НАБ(諜報機関)が諸外国の製品を大使館に持ち込むのを禁止しているので、手詰まりなのが現状だ。
そんな中、唯一持ち込みを許可されたのは団扇と扇子である。そのせいか、この大使館は皆がそれらで風を扇いでいる。これが最近流行りの環境に対する配慮である。
祖国は素晴らしいかな。男の訓練された脳はそのような演算結果を弾き出した。



男が慣れない気候環境にノックアウトされていると、甘い香りが大使館の中を漂う。
懐かしい匂いに彼は釣られた。匂いをたどり、大使館の中を徘徊する。これがレファルを代表する外交官の姿だ。仕事をサボって歩き回るその姿は国の代表に相応しいと決して言えない。

そう回りから思われているとは露知らず、彼が歩き回ること5分間。彼はようやく匂いの発生源にたどり着いた。
そこは食堂のすぐ隣、調理室である。そこで彼が見たものは、彼の同僚がロールケーキを焼いている場面である。

「やあナーシャ!何故ケーキを焼いているんだい?君がケーキを焼いている所なんて初めて見たよ!」

「アンドリュー、このケーキは任務の為に焼いているの。まさか忘れたなんて言わないでしょうね!それに最高会議からの親書をここの国語に翻訳したの?」

「待ってくれナーシャ、僕はこの気候にやられてしまったんだ。決して仕事をサボっている訳ではないんだ。君と僕は名誉あるНАБ職員だ。仕事をサボるなんて事はしないだろう?」

「アンドリュー!貴方はいつもそう言って私に仕事を押し付けるんじゃない!早く翻訳を終わらせたらアイスクリームをあげるから、文句を言わずに任務に責任を持ちなさい!」

彼は彼女の剣幕に押されて渋々調理室から出ていった。そして、彼は自分のデスクに向かい仕事を再開する。
まるでダメダメな彼であるが、実は調理室での会話で発覚したようにエリート中のエリートであるНАБの職員、レファル市民が夢見るキャリアの持ち主だ。実際に、彼は短期間でラピタの国語を習得し王国に滞在している。

彼はПроект77が発令され、自身がこの王国に派遣されると決定したときには小躍りした。彼にとって初めての熱帯の国である。彼の同僚の何人かのНАБ職員は、マウサナに出張(潜入)したことがあるのでその同僚から注意事項を聞いていた彼であるが、そんなものは彼の耳には全く入っていなかった。(本当にエリートなの?彼が?―ナーシャ談)



2時間と少しが経過した頃、彼はようやく自分の任務を終えた。党から送られたここの王国の王女に対する親書の翻訳に彼は頭を使い果たし、ナーシャが約束したアイスクリームを求めて再び調理室に足を運んだ。
そして現れたのは冷気を放つ純白のアイスクリーム。彼は感動した。

「ナーシャ!ありがとう!僕は君が天使に思えるよ!」

「どういたしまして。所でアンドリュー、天使ってどう言うこと?まさか私が資本主義者の手先だと言いたいの?」

「あー、ナーシャ、違う。そうではないんだ。その、言葉の綾と言うか……」

「ふふ、分かってるわよアンドリュー。冗談よ、一緒にアイスを食べましょ。」

二人はアイスを食べ始めた。高身長で金髪の見目麗しい若い男女がアイスを食べている風景は、野次馬がいればカップルとして冷やかしを行うだろうが、そんな事は起こらなかった。
ちなみに、レファルのアイスは高カロリーであり、НАБ職員にはこの束の間の休息の後には体形維持のトレーニングが待っている。



「やっぱり思うけど調理室やキッチンが大きいのは良いことね。コムナルカ(共同アパート)の相互扶助の雰囲気も好きなんだけどもね。」

「そうなのかナーシャ。君は料理が好きなのかい?」

「ええ、そうよアンドリュー。将来住むならコムナルカよりもマウサナのような団地が良いわね。祖国にもわずかにあるじゃない?」

「確かにあるね。コムナルカだとどうしてもキッチンを使える時間もスペースも小さいからね……ところでナーシャ、僕たちとは違った任務の為にここの人々に扮している同志達にもこのアイスを食べさせたいな……もちろんダメなのはわかっているけれども……」

突如として沈黙が支配する。そう、実はこのラピタ王国に滞在するНАБ職員は彼らだけではない。彼らよりも優秀で、なおかつより過酷な状況下で、世界革命を追及する共産党と共和国のために闘うНАБ職員がいるのである。
これまでも、НАБ職員は様々な困難に直面し、常にその困難を乗り越えてきたが今回ばかりは過去に例のないほどに困難な任務であった。

沈黙を破ったのはアンドリューだった。彼は何かを思い付いたのか、突然立ちナーシャに向かって力説し始めた。

「ナーシャ!よい案を思い付いたんだ!私達がこれを島民を含めた人々に売るんだ!そうすれば同志たちも食べられる。そうだ!王女に対してもこのアイスの作り方を教えて広めてもらえば良いんだ!」

「それは名案かもしれないわね……でも、通貨はどうするの?ここの通貨なんて全く何の価値もないのよ?それに、一日中ずっと外にアイスを置くことなんてできないし……一度王女に打診してみたら?一個だけなら余ってるし、ロールケーキと一緒に持っていけるわ。」

「よし!僕はアイスクリームのレシピを書いてくるよ!ちょっと待ってて……1時間後には王宮に向かえるようにしようか?」

そう言って、アンドリューはナーシャの答えを聞くこともなく駆け出していった。

「珍しくやる気があるわね……さて、私も準備をしましょうか。」

それから一時間後、二人は王宮に向かった。
彼らのお陰で、ラピタにアイスクリームが普及したのかも知れない……



追記
レファル人がこよなく愛するアイスクリームのレシピが知りたい人は『ロシアビヨンド』にあるアイスクリームのレシピを見つけよう‼
めっちゃ美味しいよ。(by筆者)

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