架空の世界で創作活動及びロールプレイを楽しむ場所です。

日歴2022年7月上旬(聖歴1992年7月上旬)

ジリリリリリリ……
他国からは旧式だと言われるベル式のアナログ時計が鳴り響いて、私、ウテラ・ノルは夢の世界から追い出された。
もう少し寝ていたかったと考えつつ、目を開けると執務室の白い天井と扇風機、LED照明がぼんやりと見え、視線を写すとガラス越しにタアロアの街並みが見える。
時計の針は2時の少し前を指している。昼寝の時間はそろそろ終わりで、午後の仕事が始まる。

「もう少しで日焼けするところだった」

日陰で寝たつもりだったが、もう10cmも南に寄っていれば日焼けしていた。(相変わらず床で寝ているようだ)
マウサナ人は古くから白い肌を追い求めており、現代においては白の維持のために日焼け止めを使うというのは当たり前のことである。
白象は神の化身として現在も神聖なものとされているし、ごく稀にいるマウサナ人のアルビノ個体もまた、かつては崇拝されていた。(尤も、本人の意思とは関係なく)

「リリィ王女は太陽に当たっても日焼けしなくていいよなぁ」

そういうわけでリリィ王女は羨ましいと思われていたが、そんな事を言っても仕方がない。
なぜならリリィ王女はアルビノ故に太陽の光に弱くマウサナ人のように外で働くわけにはいかないのだ。

「さて、午後の仕事は…まず面会か」

マウサネシア連邦共和国大使館、在ラピタ王国大使のウテラ・ノルは早速仕事を始めるのだった。



「どうも、ウテラ・ノル大使。私はSĒUKより派遣されたエージェント・フホールです、よろしくお願いします」

「こちらこそ」

SĒUK。マウサネシアにおいて他国の諜報、工作、防諜などを担当する特務機関であり、正式名称はソアー・エーッウシ・ウテラ・キナァェメである。
マウサネシアの方針である、ラピタにおける社会主義君主制の樹立に関する工作や、ラピタの諜報、他国からの防諜を行っている。
(ちなみにウテラは『特別』という意味なので、たまたま諜報機関と名前が被っているのだ)

「しかし、この大使館、こんなガラス張りで大丈夫なんですか?」

「この部屋、コアルームは大丈夫ですよ」

マウサネシアの大使館は二階建てで、1階部分は半分以上がピロティになっており、この部分は作業スペースや、マウサナ人たちの憩いの場となっている。
2階部分は側面が全面ガラス張りになっており、全方向に窓を開けて風を取り入れる仕組みになっている。(エアコンはない)
2階部分の間取りは中央の『コア・ユニット』をぐるりとオフィスユニットが取り囲むようになっており、コアユニットは防諜のためにコンクリート製の分厚い壁で守られている。
コアユニットにはトイレの他に会議室と面談室が存在しており、重要な会議や面談は全てこの中で行われている。

「なるほど……しかしこの面談室暑いですね」
「まあ風が通らないですし。コアユニットへのエアコンの導入を今本国に打診してます」

本国にはくだらないマウサナ人プライドがあるみたいで、モダニズムなデザインは社会主義の勝利を、その高床式の構造はマウサネシアの伝統を主張し、エアコンが無いというのはマウサナ人の強さを示している。
でも風通しの良い外周のオフィスユニットとは異なり、コアユニットは換気扇があるくらいで風が通らないので暑い、何故それを想定しなかったのだろうか……

「本題に入りますと、今回はソ連崩壊についてです」

「まあそうですよねぇ」

「まさかあんなに突然崩壊するとは思いませんでした」

「しかもよりにもよって、放任型資本主義とは呆れましたね」

遡ること6月下旬、ソビエト連邦は突如として崩壊し、新たに成立したのは資本主義国家、しかも純粋な資本主義であった。
マウサネシアは純粋な資本主義を何よりも嫌っており、そのような国と仲良くすることは決して出来ないのだ。(裏を返せば、レファルとは異なり大きい政府の国ならば付き合えるということ)

「それで、ラピタ王国は事実上承認したそうです」

「もはや旧ソ連は味方ではない。今後は特務機関にとっては新たな敵が産まれたわけです。」

「とすると、今後は旧ソ連の工作員も監視対象というわけですね」

「ええ。あの国が工作を続けるのかどうかは分からないですが」

その後は30分ほど今後の方針について詳細を詰め、今後の方針が大方纏まった。

「我々も大変ですね、本国では総選挙ですし」

ソ連崩壊の影響で本国ではへオン・トイセノ国家主席が辞任し、衆議院が解散し総選挙が行われようとしている。

「どこに投票しましょうかねぇ」

「私は団結党に入れようかと」
「団結党ってあの新しく結党されたっていう……」

「ええ、右翼だ右翼だ言われてますが、私としては祖国を良くするためには、やはり団結党の政策が最も良いと思いまして」

「まあソ連崩壊の今、国内で団結するのは重要だが……それよりも私は人民新党ですよ」

「大衆社会党から離脱した1部議員と無所属議員によって結成された、中道リベラル政党ですか」

「ええ、これまでは大衆社会党を支持してましたが、今回は人民新党にしようかなと思いまして」

特務機関のエージェントと支持政党の話をするというとんでもないことをしているように見えるが、SĒUKはKGBほど恐れられているわけではないので、世間話は良くあることだ。

「おっと、つい話しすぎてしまいましたね。それでは、これで失礼します」

「お疲れ様でした」


午後の仕事を片付けたころ、執務室に来客があった。

「こんばんは」

「相変わらずひどい雨だね」

「この島では毎日こうですよ!」

ラピタの天候について文句を言っているこのマウサナ人の来客はハルネー・レセットというマウサナ人だ。

「まあまあ、それで今日もアイス目当て?」

「その通り」

レセットはアイスを貰うためにわざわざ大使館を訪ねてくるのだ。マウサネシアのアイスはラピタではまだ出回っていないため大使館でしか入手できない。

「それで、アイスはもう食べたみたいだけど」

「あれ、わかった?」

「匂いがするからね」

「ところで、大使館で選挙に参加出来るっていうのは本当?」

「ええ、この大使館でもやる予定だよ」

「なるほど、それは助かります。それにしても……」

「?」

「いや、ソ連の後釜は政府の義務を果たす気がないんですよ!」

「資本主義国家においても、所得の再分配と社会保障は政府の義務だからね。」

「ええ、我々はあんな国とは断交して正解でしたよ。今は我々が社会主義国のリーダです!」

「クソっ、反動国家の連中が強すぎる。我が国もそれなりの大国とはいえ、カリエステに襲われたらどうなるか分からない」

「私は銃をとって最期まで資本家の軍隊に抵抗する所存です!」

「子供はどうするんですか。もしそうなっても、貴女は自分の命を大切にして?」

「はいはい」

「まあともかく、祖国一か国のみで国際プロレタリア運動を推進するのはもはや難しいかと」

「だからこそ私は民主社会党を支持してます。あの党はエドラチア人民共和国との融和を掲げているからね。」

「同じマウサナ人の国だから、エドラチアとは協力しないと……」

そういうわけで世間話をしていると、もう雨は止んで、辺りはすっかり薄暗くなっていた。

「じゃあ帰りますかぁ」

一見すると最も平和な大使館は、裏では仁義なき戦いを繰り広げていたのだ。
ウテラ・ノル大使は明日も明後日も、ラピタとマウサネシアの関係維持のために邁進するだろう。

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