架空の世界で創作活動及びロールプレイを楽しむ場所です。

 日が暮れて夜が来る。側に街灯や摩天楼のないヴィラヌフ宮殿の窓からは、満天の星空と月明かりを望むことができる。
 宮殿のファザードの一角に造られた公爵執務室は、正しくそうした特権をフルに活用するための作りをしていた。
「もうこんな時間ね。そろそろ終わりにしましょうか」
「後三件ご承認を頂ければ。いずれも、自治体の条例公布状ですから、サインだけで結構でございます」
「分かったわ」
 私は差し出された三枚の公布状にざっと目を通し、略式で「L.J.Wiśniowiecki」と署名する。基本的に私に異議を申し立てる権利は無い為、そこに選択の余地など無い。
「ありがとうございます。これにて本日のご公務は全て終了でございます」
「ありがとうイヴァン。ところで、ステンカはどこかしら」
「あの馬鹿息子でしたら、今頃ホールの掃除をしておるところです。このところ、何やら変な勉強にかまけて仕事を放置しておりましたからな」
「あはは…」
 イヴァン・サハイダーチュヌィイ。ヴィシニョヴィエツキ公爵家に代々使える執事の家柄で、現在は大家令として家政事務の最高責任者となっている男だ。半分以上白くなった髪の毛を丁寧に撫で付け、ノリの効いたスーツでしっかりと威儀を正しているその姿は、正しく数百年前から変わらない古い貴族の家臣の姿そのものである。
 普段なよなよして頼りない子息は、この父親の遺伝子を本当に半分受け継いでいるのか、私は常日頃から疑問に思っていた。
「ダンスといえば、それで思い出しましたが…ベルナー・オーパンバルでのエスコート役、候補はお決まりでしょうか」
「全然。そもそもとして、今この国の貴族にどんな人がいるのかもうろ覚えだから」
 半分は事実だ。一度父と一緒に貴族名鑑を読み込んで、全員を覚えたことはあったが、最近は公務の忙しさからほとんど抜け落ちてしまっている。
「差し支えなければ、私めが家格と教養、容姿に優れた方を候補者としてご提案させて頂きますが」
「それには及ばないわ。一応は私のことだもの。当主として決める責務があるわ」
「とは申しましても、舞踏会はデニエスタ皇帝の主催。お嬢様の語学、教養の才華が群を抜いて優れていらっしゃるのは存じております。しかし、それに釣り合い、尚且つ容姿も同じ程に端麗な方となれば…」
「別にそう褒め殺しにしないでいいわ。そもそも容姿だって、こんな姿では不気味がられるだけよ…」
「いいえお嬢様、その様なことは決して…」
「一先ず、今は下がって。舞踏会の相手は必ず選任するから」
「ご命令に従います…ですが」
「なぁに?」
「あり得ないこととは存じますが、我が息子ステパンをとお考えでしたら、どうかお止しくださいます様に。あれば身分、教養、容姿、度量、どれを取りましてもお嬢様には遥か及びませぬ。この父が断言いたしますゆえ」
「覚えておくわ」
 出ていくその背を見送りながら、私は苦笑いした。せめて実の父からでも、高く評価されないものかな、という心境だ。いや、きっとイヴァンも父として、最大限息子を引き立ててやりたいのだろう。だが、その考え方は伝統的で、即ち保守的だ。彼にとって、自分の息子が主人と並び立つことなど、あってはならない。だからこそ、ああいう言い方をしたのだろう。
「『緑の草原に、黄金の麦畑に、風により名は伝う。ああ、母なるオルィカ。オルィカ河よ。汝は見たか、ヴィシュネヴェーツィクィイの栄華を。かの赤旗を掲げよ。あらゆる街に、あらゆる城に…』」
 昔覚え込んだ古典の一節。幼い時、幾千行にも及ぶ祖先を讃える叙事詩を諳んじるまで、二人で歌った。
「歌は彼の方がずっと上手かったな」
 覚えは私の方がずっと良かったが、歌は彼の方がずっと上手かった。朗々と、楽しげに歌って、私の手をとって踊り回った…。
「お嬢様、イェシー…」
「ステンカ…」
「うたた寝かい?今日はもう休む?」
「大丈夫。ちょっと仕事の疲れが出ただけだから」
 ほんの少し目を閉じていたつもりが、眠りこけていたらしい。ギシギシと音を立てる椅子から立ち上がって伸びをした。
「それで、今日は何を教わるんだっけ、イェシー」
「…レーヴ語で『こんばんは』」
「え、あっと、『ヴォヌム・ヴェスペルム』!」
「デニエスタの武勲叙事詩『メッジーロの歌』、皇帝の十八騎士最年少者の名前は?」
「え、エーベルハルト」
「…結構。それじゃ、次に進みましょうか。『いい?今からはイェスパッシャンの言葉は禁止、標準デニエスタ語で喋りなさい』」
「『は、はい!』」
「『今日は社交ダンスのやり方を教えるわ。キチンと付いてきなさい』」
「ごめん、もう一回言ってくれない?」
「『バーカ!』」
「痛い!」

 例の招待状が来てから一週間。私はステパンに、密かに舞踏会に出る為の作法やしきたりを教え込んでいた。舞踏会の日は、招待状到着の日からひと月後の四月十七日。今年のソティル教における復活祭の日だ。
 ベルナー・オーパンバルは、世界でも最も格式高いデビュタント舞踏会の一つ、それに相応しく厳格なしきたりや高い教養が求められる。少なくとも、貴族ではない彼をそのまま連れていくわけにはいかなかった。
「『言っておくけれど、もう時間がほとんどないの。今日で折り返しの一週間、語学や教養学の面で遅れが目立ってるわ』」
「『は、はい。わかってございます』」
「『また変になってる。イェスパッシャン語に引っ張られてるでしょ」
 出席者登録の期限は四月十日であり、それまでに正式な返事の手紙を認めなくてはならない。衣装を仕立てることも考えると、余裕があるスケジュールとは言えなかった。
 だから私は冷然と告げた。期限までにものにならない時は、一顧だにせずあなたを切る。別の男性の貴族とペアを組んで、あなたには見送りだけしてもらう、と。
「(それから一週間、朝から日暮れまで自主学習させて、公務が終わった後に私がテストすることを続けてるけど…正直難しそうね)」
 決して彼が怠惰だったわけではない。むしろ、十分すぎるほどだった。彼はメキメキと語学の力をつけ、基礎的な挨拶や会話は直ぐにマスターした。元々ある程度の力もあったのだろうが、それでも上流階級の複雑な言い回しを短期間で覚え込めるのは賞賛に値する。
 また、マナーや教養面でも伸びは凄まじかった。招待状が届くまで、ステパン・サハイダーチュヌィイという青年は、ほとんど貴族のマナーや教養に興味を示さない人だった。しかし、それが今ではどうだろう、あらゆる隙間隙間の時間で必死に本を読み、詩や古典を覚えて会話に取り込める様努力している。今では少なくとも、「一代男爵家の息子」位には見える様になった。
 だが、それでは余りにも足りないのだ。少なくとも知識はまあいい。それはなんとかなるだろう。しかし、語学や所作などは付け焼き刃では必ずボロが出る。ほんの小さな一コマ、貴婦人相手に挨拶をする動作一つ一つだけでも、相手には真実が透けてしまう。
 少なくとも、私にはその様なものが簡単に見抜けるのだ。他国の貴族となれば推して知るべしだろう。
「『舞踏会の曲目は伝統的にワルツと決まっているわ。ある程度型が決まっているから、社交ダンスの基礎と一緒に抑えればそれなりには見える。だけど…』」
「『だけど…』」
「『舞踏会でのワルツはベルナー・ワルツ、普通のワルツとは違うのよ。ちょっと聞いてみなさい』」
 防音性の高い秘密の部屋、そこに私は機材一式を持ち込んで練習と勉強の場にしていた。その中には当然、音楽を再生する為のレコードプレイヤーもある。
 私は箱の中から一枚のレコードーベルナー・ワルツの代表曲、「我が人生は愛と喜び」ーを取り出して掛けた。
「『ちなみに、この曲の作曲者は知ってる?』」
「『デニエスタのシュトラウスでしょ?』」
「『どのシュトラウスよ。ヨハン一世、二世、ヨーゼフ、エドゥアルド、誰?』」
「『…ワルツの帝王!』」
「『不正解。二世じゃなくてヨーゼフよこの馬鹿!』」
「『あいたっ!』」
 「我が人生は愛と喜び」は、ワルツとしてはかなり定番のチョイスだ。私も何度かカルドニアの王宮で行われた舞踏会で、幼い時に踊った覚えがある。そして、それは普通のワルツとは異なるある特徴を持っていた。
「『はい、聞いてみて何かわかるところは?』」
「『すごくいい曲だと思う。メロディは綺麗で、なんというか、パズルみたい』」
「『いいところに気がついた…とはいえ、三角かしら。正解は、拍子の取り方が少し違うの』」
「『というと?』」
「『普通ワルツは三拍子で踊るものなんだけど、これは二拍子がちょっと早めにずれて演奏される。こんな風に』」
 伝わったかはわからないが、私は何度か手を叩いて示してみせた。実のところ、私自身が何度かこの微妙なズレで足下を掬われたことがある。
「『普通のリズムでやると、結構難しい。まあ、一見に如かずということで、踊ってみましょうか』」
「『うん、宜しく』」
 差し出された手をステパンは素直にとった。乾いていて、私に比べて少し温かみのある手だ。いつも頭を撫でてくれる、寂しければ抱き締めてくれる、いつもの手だった。
「『じゃあ行くわよ、アインス、ツヴァイ、ドライ』」
「『おっと!』」
「『きゃあっ!』」
 が、良かったのはそこまでで、私達は初手からつまづいた。そもそもとして、彼は社交ダンスどころか運動会のフォークダンスさえ満足に踊れない程の下手っぴだったから、当たり前といえば当たり前だ。
 …いくらなんでも、最初に足を上げるタイミングさえずれ込むとは思わなかったが。
「『私の話聞いてた?』」
「『…半分以上うまく聞き取れませんでした』」
「語彙力とリズム感覚くらい身につけなさいよ馬鹿ステンカ!」
 それから何曲かワルツをかけ、手と手を繋いで踊ったが、結果は暗澹たるものだった。そもそもとして、彼にはリズムを取る能力が致命的に欠けている。しかも、身の丈が百八十五センチと大きく、いくら私が百七十センチあったとしても御しきれない。むしろ、彼の外れた動きに引っ張られて、私の方がバランスを崩してしまうのだ。
 デニエスタ語での指示をやめて、私的に使う二人だけの言葉として慣れ親しんだ方言で指示をしてみても、なかなか上手く行かない。力を抜いて、私の言う通りに動いて、と言ってみても直ぐにズレてつまづいてしまう。
 一時間程の練習で、私達は早くも疲れ切っていた。息は上がり、段々と集中は切れてミスも多くなる。私の方もステップを踏み違えたり、転びそうになって支えられたりする場面が増えた。
「(どうして私、わざわざこんなことをしてるんだろう)」
 踊りながら、ふと、そう疑問に思い始めた時。ダンスの佳境、難しいステップが連続する瞬間。
「あっ!」
 踏み違えた。しかも、よりによってステパンの足ともつれ込んで、もろとも姿勢が崩れる。
「受け身は…っ」
 ダメだ。ぎゅっと握り込んだ手はそう簡単には外れない。覚悟を決めなければ。そう思った時、
「イェシー!」
 彼は信じられない動きで私の体を抑え、倒れない様に支えた。ぴたり、と崩壊が止まる。
「よかった、危なかった」
「あ、ありがとうステンカ」
「いや、君こそだいじょいだだだ!」
 良かったと息をついたのも束の間、彼は急に足を抑えて倒れ込んだ。
「ど、どうしたの!?」
「足を、捻ってっ…!」
 どうやら、私を支える時に無理をして、彼は足を捻ってしまったらしい。急いで救急箱を取り出し、湿布を貼って手当てする。
「ごめん、イェシー。迷惑かけちゃって」
「…今日はもうおしまい。ゆっくり休んで、明日にしましょう。明日は勉強の続きをするわ。ダンスはまた今度」
「そんな!ただでさえ時間がないのに!」
「そんな足で踊ってなんてみなさい。骨が折れるかもしれないわ。それにステンカ、あなた大分寝てないでしょ。このところ毎日の様に夜更かししてる」
「いや、別にそんなこと」
「嘘。あなたの私室から光が漏れてるのを何度も見たわよ。毎朝、柄にもないお化粧で隈を隠そうとして。私を馬鹿にしてるの?」
「…ごめんなさい」
「いいわ。とにかく今日はもう休んで。もし、また夜更かししてるの見つけたら、エスコートの話は金輪際無しだから」
 厳重に言い渡して、私は部屋を出ていく。少なくともその時は、本気でそうしてやるつもりだった。

 それから数時間後。妙な寝苦しさを覚えた私は、目を開けた。だだっ広い宮殿の片隅にある狭い私室、その天井が目に入る。
「水…」
 喉が渇いたので、傍の水差しを取る。中は空だった。
「そういえば…補充の係はステンカだった」
 私は眠い目を擦りながら、水差しを持って部屋を出た。部屋の扉を開けると、ぼんやりとした常夜灯で照らされた広い廊下に出る。雰囲気はひどく不気味で、石膏の彫像が今にも動き出しそうな表情でこちらを見つめている。何しろ、このヴィラヌフ宮殿の創建は数百年前だ。どんな現象が起きても、あまり不思議はない。
 ほんの少し怖い。でもここは自分の家だ、怖がって何になる。私はそう自分自身を叱咤して歩いた。台所の方に行けば、交代で警備と寝ずの番をする使用人たちがいる筈だ。彼らは私がベルを鳴らせば、どんな夜更けでも来てくれることになっている。とはいえ、流石に心苦しいので、深夜にベルを鳴らしたことはほとんど無かったが。
「…あれ、ここって」
 ふとある部屋の前で足が止まった。中から光が漏れている。部屋の札の名前は、「ステパン・サハイダーチュヌィイ」。彼の使用人部屋だった。
「(約束を破ったのね。ステンカ)」
 急速に心が冷めていく。あれほど言ってやったのに。もうこれっきりだ、明日の朝、いや、今すぐにでも破談を言い渡してやる。弁解なんて聞いてやるものか。
「ステンカ」
「イェシー!?」
 扉を開けて踏み込むと、ギョッとした表情でステパンが振り向いた。その拍子にポロポロとイヤホンが耳からこぼれ落ちる。
「なるほど、イヤホンでワルツを聴きながら練習してたわけね」
「いや、これは好きな音楽を聴きながらついリズムに乗ってただけで」
「ふうん。あなたがまさか、『美しく青きナルデール』なんてワルツが好きとは思わなかったわ」
「…えっと、その…」
「…約束を破ったのね。きちんと休めって言ったのに。嘘つき」
「ごめん、でも、どうしても練習したくて」
「言い訳は聞かないわ。残念ね、あなたと一緒にベルンまで行けると思っていたのに」
「待って、イェシー、あっ!」
 背を向けた私を追いかけようとして、足の痛みが蘇ったのだろう。彼は地面にまた倒れた。でも、それでも縋り付いて離すまいとしている。
「…そんなに必死になって、どうしたの?そんなに舞踏会に行きたい?そんなに貴族との縁が欲しいの?王家のお姫様とか、どこどこの公爵令嬢とかと踊って、あわよくば何で考えてるのかしら」
「違う!そんなこと関係ない!」
「じゃあどうしてよ。どうしてそんなに必死になるの?単にダンスがしたいだけなら、暇な時に誘えばいい。なんなら、私があなたの父さんに頼んで人を集めて、ここで開いたって良いわ。どうしてそんなに必死になるの?」
「…それは」
「言って。言いなさい」
「…ああいうデビュタントは、家同士の縁談を纏める、お見合いの場にもなるって聞いたから…」
 恥ずかしげに言って、彼は顔を伏せた。その態度が余りにもいじらしく、幼げに見えて、思わず私は訊いてしまう。
「…それが理由なの?」
「…そうだよ、イェシー」
 顔を上げたステパンは頷いた。力なく項垂れて、やってしまった、と言う雰囲気を全身で醸し出している。
「ふふ、ふふふっ…」
「な、何がおかしいんだい?」
「いいえ、別に。でも、ちょっと、ふふふ」
 流石の私も、彼の言葉の意味がわからないほど鈍感ではない。決して認めないだろうが、彼の内心は手に取るようにわかった。
「…ステンカ。一応言っておくけど、誰がエスコート役になったとしても、私はデビュタントで結婚相手を決めるつもりは無かったわ」
「そうなの?」
「そうよ。第一、あんな場所で相手探しなんて、私が一番嫌いなことだもの。政略結婚みたいな、そう言うことが大嫌いだって、あなたが知らないわけないでしょ?」
「でも、万一ってことがあるし。特に、父さんが何を言うか」
「イヴァンね。まあ確かに、あなたのお父さんは昔気質過ぎるところがあるわ。でも、結局は私に押し切られるのよ。別に心配いらないわ」
「……」
「それに、言ったでしょ。『決めるつもりは無かった』って。語学のやりすぎで、こっちの方言の過去形と現在形の違いも分からないかしら」
「それって…」
「明日の朝、覚悟しておきなさい。あなたのお父さんが、とんでもない剣幕で怒鳴り込んでくるかも知れないから」

 翌朝。いつもの通り目を覚まして、朝食と入浴を済ませる。そして、執務室で定例の報告を受け、公務の準備を始める。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう、イヴァン」
「本日の公務ですが…」
「待って、その前に。ベルナー・オーパンバルのことなのだけど」
「遂に、お決めになられましたか」
「決めたわ」
 そう言って、私は返信用の手紙を取り出す。空欄にしていた相手の名前のところに、一つの名前を書き込んだ。
「この人と一緒に出るわ」
「はは…ん、こ、これは…」
「どうしたの?何か変なことでも書いたかしら」
「お、お嬢様!まさか、『ステパン・サハイダーチュヌィイ』、私の息子をお連れするつもりですか!?」
「何か問題でも?」
「昨日申し上げたではありませんか!貴女には、息子は全くふさわしくないと!お嬢様は、よりにもよって我が一族に、五百年来の主家の名に泥を塗れと、その様に仰るのですか!?」
「…イヴァン。どうしていつもそうやって、あなたは決めつけてしまうの?ステンカがヴィシニョヴィエツキ家の名前に泥を塗るなんて、誰が決めたのかしら」
「決めたも何も、確実な未来です!あやつは器量も身分も、お嬢様とは到底…」
「器量はこれから釣り合わせる!身分だって、私にかかればいくらでもしてやれる!父親なら、息子を信じて送り出してやれないの!?」
「…!」
「…イヴァン。あなたの思いはわかってる。あくまで、私の『家臣』に徹したいんでしょう?…でも、それをステンカに押し付けてはダメ。少なくとも私にとって、彼は生まれた時から隣にいた特別な人。…だから、この記念日にも隣にいて欲しいと、そう思ってる」
「……私のバカ息子を、そこまで高く評価して下さるとは…」
「イヴァン。これから舞踏会までの間、あなたとステパンに有給休暇をあげる。その代わり、彼に付きっきりで、礼儀作法、語学、皆教え込んで。『私に相応しいパートナー』に、あなた自身が育て上げて欲しい」
「…分かりました!このイヴァン、全身全霊を以て、お嬢様の恩顧に報います!」
 これでいい。彼ならばきっと、無事にステパンを一人前の紳士に育ててくれる筈だ。どうかこれを、私からの一番の気持ちとして受け取って欲しい。
「ステンカ、楽しみにしてるわ。あなたと一緒に、ワルツを踊る日を」

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