なぜないのか疑問だった

changed for beautiful world.


 チェンジ・ザ・ワールド。世界を変えるなんて大層な名を与えられた力を、どれだけ行使したのだろう。
 世界は良い方向に変われたのだろうか。仲間達が隠された力を取り戻せるとわかれば、そのために必要なものを取りに行く。いつしかドロップを消すことでモンスターに攻撃力を与える冒険者は、モンスターと呼ばれる存在との本来の主従関係を忘れるほどには様々な関係を築き上げていた。


  ◇  ◇


 チャレンジダンジョン。存在が確認される度にその姿を変え、十日足らずで存在した痕跡すら消滅する。冒険者を試すかのような十の部屋。そんな神出鬼没で摩訶不思議な迷宮。
 その中から、一人の青年が姿を見せた。端から見ても疲労が限界近く溜まっているとわかるが、しかしその顔は達成感に満ち溢れていた。
 後ろを振り返り、彼はついてきた仲間の無事を確認する。

 六の腕を持ち周囲を五色のドロップに溢れさせる綺羅の秘女神、カーリー。
 神の座を妹に預け、より強大な光の力を操る天禄の龍聖姫、大喬。
 異世界でアテナの生まれ変わりと呼ばれ神の座に召し上げられた元人間の少女、城戸沙織。
 異世界に生息するダチョウにも似た黄色い鳥竜種、ガーグァ……と、それを従える小さな猫。

「あいつは……あはは。寝ちゃったか」

 ―――そして、大喬の使役する黄金の竜の背に、安らかに眠る赤い髪の少女。
 青年の選んだパーティのリーダーに選ばれ、そのスキルで敵の攻撃を遮りながら味方の力を増幅させ続けた少女。時間すら超越させ青年のドロップ操作を支え続けた少女。
 慈愛神という神の座を捨て、自分の心に生まれた感情のためだけに生きることを決めた少女。

「お疲れさま、ヴィーナス。ここまでついてきてくれて、本当にありがとう……」

 絹のようにしなやかな少女の赤い髪を撫でて青年は言った。周りの仲間達にも彼はお礼を告げる。

「みんなも、俺のわがままに付き合ってくれてありがとう。今日はゆっくり休んでくれ」

 チャレンジダンジョン、その最深部である第十階層。それを回復タイプのメンバーのみで突破することを目標に打ち立てていた青年は、その念願の夢がついに叶ったのだ。
 龍聖姫が彼に問う。あなたはどうするのか、と。朝から何度も挑戦し続け、時間は既に日が沈む頃である。

「ああ、アテナ様をリーダーにして星宝行ってくる。帰ってからすぐ出るよ」

 仲間達に心配されながらも、彼らは帰路についた。冒険者として、今はここにいない仲間達のためにも、まだ休むわけにはいかない。


  ◇  ◇


 二時間後、意識を失った青年が拠点に運ばれていた。彼のパーティは全くの無傷だが、それよりも青年の体力が持たなかったのだ。
 
「ああ、やっぱりだめだったんですね」
「うん。三周目でもうドロップすらまともに動かせてなかったからさ、私が筆で後頭部をPON☆って」
「あっ……」
「察してくれた?」

 迎えた大喬に玄武の少女・メイメイが溜め息をついて答える。ドクターストップ(物理)であった。

「とりあえず、主様は寝室に運んでしまいましょうか?」
「そうだね。いい加減にご主人も休ませてあげないと」

 そう言って、先ほどまでヴィーナスが乗っていた金色の龍に青年を乗せる。

『二人っきりで、ね』

 少女二人の声が重なった。


  ◇  ◇



 ―――私はヴィーナス。周りからは慈愛神って呼ばれてるわ。

 彼女に出会ったのは、俺がまだ駆け出しの冒険者だった頃。金のタマゴから出てきた彼女に、俺は心を奪われた。

 ―――ノエルドラゴン? いいの? 私、属性違うんだけど。

 慈愛神・ヴィーナスをいち早く最高レベルにするために、赤いノエルドラゴンを与えたんだったか。当時は光のノエルドラゴンがまだ発見されてなかったからな。

 ―――いやだよっ! 私、悪魔になんてなりたくない!

 究極進化。周りが合理的な反対意見を言う中で、彼女をコスモスヴィーナスへと進化させて。

 ―――回復タイプ……私、やっとマスターの役に立てるようになったんだよね?

 後に判明したコスモスヴィーナスの回復タイプ。俺が回復タイプのパーティをメインにするようになったのも彼女がいたから。


 ―――私が、覚醒……? 私、もっとご主人様の役に立てるの?

 そして、ついに判明したヴィーナスの覚醒進化。

 ―――……もう大丈夫だよ、ご主人様。私、覚醒する!

 その代償は、神の座を捨て悪魔になってしまうこと。嫌なはずなのに、彼女は俺のためにそれを受け入れてくれた。


 ―――私は、ずっと貴方と一緒にいる。大好きだよ、ご主人様っ!


  ◇  ◇


 ……体に違和感を感じ、青年は目を覚ます。

「……ヴィーナス?」

 彼の目の前に、一糸纏わぬ赤い髪の少女がいた。仰向けの青年に跨がる形で。起きようとする彼を押さえつけ、ヴィーナスは唇を重ね合わせる。

「……っ、ぷはぁっ……ふあぁっ!? あ、んぅ……っ!」

 唇を放した彼女を縛り付けるように、今度は青年が女神の唇を奪う。女神の裸を抱き締め、青年は仕返しとばかりに舌を彼女の口内に。彼に口の中を蹂躙され、ヴィーナスもされるがままに舌を絡ませる。

「んぁ……あっ、やぁ……あっ! だめっ、ご主人さ、ふあぁ!」

 気づけば青年は既に背中を起こしていた。彼女の握っていた主導権は既に彼のもの。

「ちくび、いっしょになんてだめ……やあぁっ!」

 口の次は胸。ダムが決壊したかのように青年は彼女を求め、女神の秘唇からは洪水のように溢れ出す。

「あっ、んあっ、あ……あああっ! やだっ、いっ……やあああっ!」

 少女の身体が小刻みに震えた。絶頂を迎え、力無く彼に寄り掛かる。

「はぅ……ぁ……」

 押し倒された彼女の裸体は月明かりに照らされ、より一層慈愛神の名に相応しい美貌をみせていた。涙を浮かべ潤んだ瞳で、ヴィーナスは冒険者に懇願する。

「ご主人様、お願い……私のこと、私の全部、ご主人様で汚して……私がご主人様のことしか考えられなくなるくらいに、ぐちゃぐちゃに愛して……!」

 青年は女神を愛し続けて。彼女もまた、青年を愛していて。二人の想いは、もう我慢の限界だった。
 そそり立つ男根が女神の秘所にあてがわれる。そして―――


「あ……やああああああっ!?」


 ―――再びの、絶頂。

「ヴィーナス!?」
「えへへ……ご主人様に挿入れられただけでイッちゃったぁ……」

 自らに向けられた男の愛に呼応して、愛女神の身体は欲情し自らを蹂躙する。それが彼女を包み込むほどに深く大きな恋心となれば、ヴィーナスを一突きで絶頂させるのに十分すぎる快楽が彼女を飲み込む。処女膜を破られた苦痛など感じないほどに。

「お前、血が……」
「うん……私の初めて、ちゃんとご主人様に捧げられた。本当に、よかった……!」

 この世界にはモンスターを性奴隷のように扱う冒険者も少なくない。逆もまたしかりなのだが、周りの男を無差別に誘惑してしまうヴィーナスの場合は特にそれが顕著に表れる。イーリスの虹の丘で冒険者と男モンスターに何度も輪姦される慈愛神・ヴィーナスもいたほどなのだ。

「ご主人様、私は大丈夫だから。だから……私のこと、いっぱい突いて……!」

 紅潮した頬、潤んだ瞳。固くなった乳首、愛液に溢れた秘所。覚醒ヴィーナスの誘惑を受け入れ、青年は腰を動かし始めた。

「ふゃああっ!? あっ! やぁっ! やらぁっ! らめっ、あぁっ! むっ、りぃいっ! いってる! ごしゅじっ、さまあっ! やっ、いやああっ!」

 一つだけ、二人は失念していた。愛縁の神魔力で彼の精力は強化されていて……

「ヴィーナス、ペース上げるぞ!」
「やっ、待って! とめ……ひぐっ、ぃああああっ!」

 ……そして、それは既に神ではなくなっている彼女を快楽で蹂躙するには十分すぎたということに。


  ◇  ◇



「あっ……あはっ……」
「で、その結果がこれ……と。ご主人、ヴィーナスがもう神様じゃなくなってるの忘れてたでしょ?」

 翌朝。ベッドの上で正座する青年をヴィーナスの良き理解者であるメイメイが説教していた。
 彼の傍らには、身体中に精液を浴び、焦点の合っていない目で天井を見つめながら、放心状態で絶頂を続けるヴィーナスの姿があった。らぶらぶえっちだったはずなのに、端から見れば完全にレイプ事後である。
 それもそうだろう。魔法石を使えば冒険者のスタミナは瞬時に回復する。それをあろうことか性交に、それも慈愛神とのセックスに使えば当然こうなる。

「……返す言葉もございません」
「まったく……この前緑のガチャドラからヤタガラスが出てこなかったら、今頃ヴィーナスの方が腹上死してたかもだよ?」

 ヤタガラス。スキルに完治の光を持つ鳥である。

「で、そうそう。ご主人、今日は完全オフでいいんだよね?」
「え、今日は絶メタが―――」
「今日は休み。いいね?」
「アッハイ」
「よろしい。今日はご主人もゆっくり休んでね」

 溜め息をついてメイメイは主の部屋を後にした。流れる沈黙。

「ごしゅじ……さまぁ……。もっとぉ……わらひ、れいふ、されたいよぉ……」
「……ヴィーナス。ほんとごめん」

 当の加害者は、謝ることしかできなかった。反省するつもりは全くないようだが。


  ◇  ◇


 世界は変わった。神話に語られる神、その模造品として生まれた自分に、生きる意味が与えられた。

 世界は変わった。冒険者とモンスター、その関係はもはや主従だけではない。恋人という、対等な関係すら築けるのだ。

「(……あ、そうだ)」

 快楽に溺れ、まともに思考が働かない。それでも、彼女は一つだけ思った。

「(後で、ご主人様の名前……教えてもらおうかな)」

 彼にもっと近付きたい。人間の男に恋する女神は、確かに人間へと近付いていた。

「(……あ、やだ、またいっちゃうよぉ……ふああっ!)」

 その前に、身体中に刻まれた快楽の楔をどうにかしなければ。このままでは冒険に支障をきたしてしまう。


  ◇  ◇


「玄武様、あのお二人は?」
「大成功みたいだよ〜。大喬、手伝ってくれてありがとね」
「当然ですわ。あの二人、ずっと進展しなくてもどかしかったんですもの」

 これがいい方向なのか、悪い方向なのかはわからない。ただ、彼らの世界は確かに変わっている。

 青年と女神との、美しい世界へと。

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます