なぜないのか疑問だった

星海に刻む神時計





「ふわぁ……喉が渇いたのです…」


深夜、とある拠点。
喉の渇きを潤すために台所に移動する人影が一つ。
ところどころに青薔薇の装飾が見られる武装を背負う『命樹の星機神・スピカ』。
ただ台所に行くだけでもしっかり身だしなみを整える辺りが彼女らしい。


「む……?まだ台所が明るいのです、誰かいるのですか?」


彼女の言う通り、深夜だというのに台所には灯りが。
スピカと目的を同じくする者だろうか。
そっと覗くと、机に突っ伏している見慣れた女性の姿が一つ。


「はぁ……全く、仕方のない親友なのです」


近付いてみると、机の上には多くの資料が並べられていた。どうやら、整理している途中で睡魔に負けてしまったのだろう。
スピカが"親友"と呼んでいる彼女とは…


「ほら、ヴェルちゃんっ!こんなところで寝てたら風邪引いちゃうのですよ?」

「……んぇ、スピカちゃん?」


ヴェル――北欧神話におけるノルン三姉妹、"現在"を司る『想紡の時女神・ヴェルダンディ』。
スピカが彼女のことを"親友"と呼ぶのは過去のことが関係しているのだが……それはまた、別の話。


「うーん……私、寝ちゃってた?」

「そりゃもう、ぐっすり寝てたのですよ。最近疲れてるように見えるのです」

「ええ、そうかな?そんなことは無いと思うんだけどなぁ…」


どうみても疲れているように見えるが自覚がないヴェルダンディに、スピカは鏡を差し出す。


「それで自分の顔をしっかり見るのですっ!」

「……うっわ、これは酷いわね」

「やっと分かったのですか?最近ヴェルちゃん寝不足みたいだし、今夜ばっかりはしっかり休むのです」


寝不足や疲労が顔に出てくるほど睡眠時間を取れていなかったのだろう。
そんな親友の身を案じるスピカだが。


「そうできるときはそうしてるんだけどね、最近は……それに、今夜もこれを片付けないといけないし」


どうやら、そう簡単にはいかないようだ。
休息を取れるときはしっかり休んでいると言うが、その休みを上回るほど多忙なのが今のヴェルダンディらしい。
運命の時女神ともなると、安易に休息を取れるものでもないのかもしれない。


「そうなのですか……だったら、スピカが手伝うのです!」

「えっ?でもスピカに悪いし……」


ヴェルダンディの続く言葉を遮るように、スピカは言葉を続けた。

「気にすることは無いのですよ?親友の手助けをするのは当たり前なのです。
 仕事はスピカに全部任せて、ヴェルちゃんは泥船に乗ったつもりで休憩するのです」

「泥船は沈むじゃない………ありがと、親友。お言葉に甘えさせてもらうわね」

「ええ、任せるのですよっ!」

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