最終更新:ID:4a/1FrSAeg 2015年11月22日(日) 22:37:48履歴
「はぁ……?」
夜の公園。
いつもはヴァティーがいるマスターの隣には、ヴァティーとは違う女性が座っていた。
黒い髪をポニーテールにまとめ、緑のドレスを身にまとった女性。
その女性は、一本の注射器を手渡した。
「家に帰る前に、これを使って下さい。恐らく帰ればあの女神は…………はずです」
「なんで、アンタにそんなことが分かるんだ?」
薄い闇の中、二人の声が木霊する。
「私は、私達はそういう存在なのです。覚醒はまだまだ未知数。ここで覚醒した神の契約者に…………貰うのはこちらとしてもメリットは無いと判断しました」
「……分かったよ……」
そう言ってマスターは立ち上がった。
ぐちゃ。
自分の腹を切って、そこから出てくる血。
ぐちゃ。
何度も、とめどなく出てくるそれが。
ぐちゃ。
とても綺麗で、奇麗で。
ぐちゃ。
何度も、何度も。
ぐちゃ。
塞がった腹を、抉る。
ぐちゃ。
「あは」
ぐちゃ。
「あははは」
ぐちゃ。
「あははははははは」
自然とこみ上げる笑いも、その姿と相まって不気味な妖艶さを醸し出す。
パールヴァティーは、狂っていた。
「ヴァティー……ッ!?」
部屋へと入った瞬間、マスターの視界に広がるもの。
赤、紅、朱、緋……──
「お前っ!何やってんだ!」
叫び、マスターはベッドの上のヴァティーに向かって歩き始めた。
ヴァティーの手に握られた、緑色の、赤く濡れた、ナイフ。
あれで、自身の事を自傷していたのか。
「もう、やめろ!」
「あはぁ……」
割り込みようにヴァティーから放たれたのは、恍惚の吐息だった。
「ますたぁがいけないんですよぉ……?えへ、あへ、これ、これ、きもちいい、きれい、たのしい……ますたぁがしてくれないから……わたしぃ、じぶんでやってたんですよぅ」
「っ……」
確かに、最近はあまりしていなかった。
だが、それだけで、ここまで……。
「あ、は?ますたぁ……、いっしょに、きもち、よく、なりましょー?あひ、ふ、ふふふ」
危険だと、マスターの心が警鐘を鳴らした。
しかし、マスターが動くよりも、ヴァティーのほうが早い。
「がっ…………?」
次の瞬間には、マスターの腹には、ナイフが突き刺さっていた。
「っ……え…?」
未だ、状況が掴めない。
自分にナイフが突き刺さっている。
誰の?
そんなの、決まっている……。
「ヴァ、ティー?な、にを」
ぐちゃ。
「あっ、がっ!?」
もう一本、差し込まれる。
溢れ出る、血。
「え、あ、ぐっ」
「あふ、あへ、あひゃひゃ」
ヴァティーの笑い声が耳に刺さる。
「ヴァティー、おまえ、どう、して……」
「あぁ……あぁ……」
返事は無かった、その代わり。
「あぁ!」
ヴァティーの神鎗が、マスターを深々と貫いた。
◆◆◆
ぐさ、ぐさ。
混ざり合う私とマスターの血。
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ言って、私を楽しませてくれる。
裸のマスターと、裸の私。
繋いでいるのはマスターの性器ではなく、私の槍。
隙間なくくっついて、マスターの身体を抱きしめる。
「ずっと、ずぅっと、私だけの……マスター……」
マスターの血の熱を感じて、眠りにつく。
ああ……
なんて、温かいんだろう。
「ってぇ……」
ぐちゃっと、自分の腹から槍を抜きながら、マスターは目覚めた。
同時にヴァティーからもそれを抜く。
「危ねぇな……、あの人からもらった麻酔が無かったら死んでたぜ、精神的に」
「家に帰る前に、これを使って下さい。恐らく帰ればあの女神は狂っているはずです」
そう言って渡されたもの、その中身には魔法麻酔、という一瞬で麻酔が全身を回る強力な麻酔だった。
あの人が何故ヴァティーが狂うことを知っていたのか。疑問に思わない訳ではないが。
「まぁ、いいか」
そう言ってマスターは、後始末を始める。
マスターが生きている理由。それはヴァティーとの契約によって、彼女の回復力までもが受け継がれたからである。
そうでなくても、麻酔がなければ死んでいたが……。
「後で、おしおきだな」
ヴァティーの体を濡れたタオルで拭きながら、今日のことを考える。
殺されかけた事だし、キツイものをくれてやらねば。
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