避難所2-507
最終更新：ID:4a/1FrSAeg 2015年11月22日(日) 22:42:19履歴
Eversion of Lovers 
覚醒進化。この世界に適応した、神々の新たなる可能性。
しかし、それは良い意味だけなのだろうか？ 可能性が増えるということは、すなわち悲劇的結末に到る道すら増やしてしまうとも取れないだろうか？
◇ ◇
�爐△呂呂呂蓮帖帖� 全部、貴方様のせいですのよ……？��
赤に染まった大部屋に、穢れ無き純白のドレスを纏う少女。
�犁�方様が、わたくし以外を見ようとするから。��
その口から平然と放たれる、狂気に満ち溢れた言の葉。
�犖世辰燭任呂△蠅泙擦鵑�。わたくしは光の剣であり、そして白き盾。その全てを貴方様に捧げると。��
それが愛なのか。彼女にとって、愛する者から何もかもを奪い、壊し、潰し、殺すことが―――
�爐海譴�らも、ずっと一緒ですわ。わたくしだけの……！��
◇ ◇
「……そう、か」
ああ、あの時と同じだ……いや、違うか。皆が血を流しながら、しかし誰一人として骸と成り果ててはいない。間に合ってよかった。
「あっ！ お帰りなさい、ご主人様っ♪」
俺がその場所に入ると、いつも通りの愛らしい声でヴィーナスが俺を呼んだ。
……しかしその手には光の矢をつがえた弓。それが平然とぶら下げられていて。そして愛と美の女神たるその姿は、あろうことか所々が返り血に塗れて紅く染まっていた。
「……ヴィーナス、一体どうしたんだよ？」
平然を装いヴィーナスに現状を問うと、嬉々として彼女は狂った答を返す。
「だって、この人達が私とご主人様の家に勝手に住みついてるんだもん。だから追い払うの。ご主人様も手伝って！」
だから皆が血塗れになっていたのか。特にメイメイや大喬は穿たれた傷が段違いに多く、このままでは命の危険すらあるレベルだ。他の皆も数発は射たれてしまっているようで、誰も死んでいないことが奇跡とすら思える。本当に、間に合ってよかっ―――
�爛悒襯瓮后� セイレーン？ ええ、殺しましたわ。貴方様にはわたくし以外必要ありませんもの、ね？��
「……っ！」
―――ヴィーナスの姿が、光の戦女神と重なる。
あの時もそうだった。�牋Ν瓩鴆戮辰堂燭發�も奪い尽くしたヴァルキリーと同じ。全てを終わらせて、捨てる覚悟で使った魔法石で、俺はヴィーナスを引き当てたんだった。
そして今、ヴァルキリーと同じ場所にヴィーナスが立っていて。しかし俺の背後には傷付いた仲間達がいる。現状、俺が皆を庇っている形になるのか。
「……諸葛亮孔明。皆を連れてこの場所を発て。そして、セレスの主に全てを―――」
「なっ……主殿ッ！？」
「―――……悪いな。色々考えたけど、やっぱこれが最適解っぽいんだ」
ヴィーナスの放った光の矢を、手元に顕現させた剣で弾く。覚醒したメイメイと同じ力だ。
「ご主人様！？ どうして防ぐの！？」
「……悪い。後の事は頼む、孔明………」
「それに……どうしてメイメイちゃんの力を使うの！？ どうして私じゃない女を……！？」
悲愴とも憎悪とも取れる彼女の問いに答えるつもりはない。ただ、もう繰り返したくない。愛を自称するような狂人を、もう一度止める。今度は犠牲無しで。
「……行ったか」
振り返った先には、もう誰もいなかった。これでもう犠牲は増えないはずだ。投げ捨てた剣が翠の煌めきとなって霧消する。
「……そっか。ご主人様……メイメイちゃんに洗脳されちゃったんだね？」
俺は何も答えない。何も言わず、右ポケットに掛けられた物を取り出す。
「でも、大丈夫だよ。そんなの、私の愛ですぐに治してあげるから」
カチャリ、と無機質な金属音が響く。黒一色の金属塊―――少なくとも、この世界では利用価値など無いはずの物―――を、安全装置を外し構える。
「……？ ご主人様、それ何―――」
透き通るように響き渡る、かつての世界で聞き慣れてしまった炸裂音。
「―――……っ！？ あっ……あぁっ……！？」
�狃騰瓩琉�き金が引かれ、少女の右腕を撃ち抜いた。
「ああぁぁあああああっ！！」
未曾有の激痛に悲鳴をあげ、手にしていた光の弓が紅く塗れた床に落ち消える。
「痛いっ、いたい痛いイタイ痛いぃぁああああっ！！」
ああ、あいつと同じ反応だ。大粒の涙を零し崩れ落ちたヴィーナスに銃口を突きつけ、恐怖に震える体を必死に抑え話しかける。
「……ヴィーナス」
「あぅ……ゃあ……いや、あぁぁっ……！」
「お前、何がしたかったんだよ」
俺がそう問いかけると、ヴィーナスは今にも泣き出しそうな表情を浮かべて答えた。
「ぐすっ……だ、だって……」
「だって？」
「ご主人様が、メイメイちゃんに盗られて、それで、みんながメイメイちゃんを、だから……うわぁあああん！」
最後の一発を残した銃をホルスターにしまい、泣きじゃくる彼女を優しく抱きしめた。
「俺が何でお前を痛めつけたのか……わかるよな」
「うん……私、おかしくなってたんだよね……？」
「……よろしい」
まさか、俺が少し離れている間にヴィーナスが狂うとは思わなかった。
……かつて仲間を皆食われ俺が撃ち殺したヴァルキリーも、本当はこういうことだったのだろうか。もし俺があの場に間に合っていれば、俺はプレシオス達を死なせずに済んだのだろうか。
「ただな、お前はやりすぎた。皆を傷付けて、現に何人か死にかけてる」
「うん……」
「後輩のことだから、事情を話すまでもなくすぐに回復してくれるだろうが……それだけじゃ、足りないよなぁ？」
「あ……うぅ……お仕置き、だよね……？」
そんなことより、今はお仕置きの時間だ。俺が指示するまでもなく服を脱ぎ捨てたのはどうかと思うが、それならそれで良い考えがある。
◇ ◇
「先輩、大丈夫で―――」
「ひぐぅううっ！！ ごしゅじんさま、むりっ、もうむりだよぉっ！！ わたし、壊れひゃ……、……えっ！？」
数分後、拠点に駆けつけた女装冒険者とその姉達が目にしたものは。
「―――……先輩？」
「おっ、ナイスタイミング」
「……いやっ、いやっ………！」
主に両腕を掴まれ、後ろから突き上げられ、今まさに絶頂を迎える淫らな愛女神の姿であった。
「いやあぁぁあああああっ！！ 見ないでっ、みないでぇええええええっ！！」
約一週間もの間、ヴィーナスは主の部屋に引きこもってしまったそうだ。
「ヴィーナス……ほんとごめん。やりすぎた」
「……デート」
「え？」
「明日、またデートして。それで許してあげる」
「は、はい……」
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