なぜないのか疑問だった

楽しい女装羞恥プレイ


 街中そこかしこで桃色とハートの装飾が目に付いた。それだけでも強制的に意識させられるというのに、ダメ押しで踊る“チョコレート”の文字の入ったのぼり。いわゆるバレンタイン商戦である。
 冒険者が己と腕を組むヴィーナスをちらりと盗み見る。どんなチョコレートを選ぼうだとか、どう贈ろうだとか、そんな悩みは一切感じさせない闊達な所作で、冒険者を半ば引きずるようにして街中を歩いていた。
「今度はあっちのお店、見てみよっか」
 冒険者の可否など微塵も気にせずに小洒落たアパレルショップへ足を進める。ショーウィンドウには闇と桜の髪が美しい少女と、黒髪の地味な少女が写り込んでいた。
「(僕が男だなんて、誰も気が付かないんだろうな……)」
 諦観とともにヴィーナスの玩具となる冒険者。冒険者がヴィーナスと結んだ“契約”……その内容は、性的に奔放なヴィーナスを占有する代わり、自分が従僕となること。ヴィーナス曰く、男遊びも女遊びもしたいから、ということで定期的な女装を迫ってこうして好き勝手に弄ぶのだ。ヴィーナスが何着かの服を見繕い、冒険者を試着室へと送り込む。渡された女物の服を仕方なく着用する冒険者だったが、残念なことに着方も堂に入っていた。
「……どう?」
 声で性別がバレる可能性を考え、可能な限り最低限の言葉でヴィーナスに問う。
「良いよ、すっごい可愛い! ほら、こっちも着てみて!」
「うん……」
 楽しそうなヴィーナスが次の服を差し出す。対する冒険者は黙々と渡された服を受け取る。受け入れはしたが、まだ抵抗感はある。とはいえ、楽しげなヴィーナスの表情を見られるのは悪くない。そう思うから冒険者はどんな扱いも甘受する。それに……。
「あと、それに合わせて……」
 ヴィーナスが服を入れた籠から合わせるための小物を探しているうち、襟元が垂れて乳房がしっかり見えた。確かな質量を持ちながらも、決して垂れぬ張りと柔らかさを持つ極上の胸で、ヴィーナスを構成する要素の中でも特に好きな場所だ。胸だけでなく、胸から腹、腹から腰への美しいラインの出発点であることも見逃せない。
「(……役得、だよね)」
 ヴィーナスは胸元の開いた服を好むのに、それに目をやると怒るのだ。なので、束の間の眼福を楽しむ。
「これを合わせて……どうしたの?」
 どうしたのって、何がだ? そんな疑問符を抱く内にヴィーナスが試着室に入り込んで来た。さっとカーテンを閉め、股間のブツを掴む。胸元を見るうち、知らぬ間に血の集まったその部分を。
「女装して勃っちゃうなんて、本当に変態ね。気付いたのが私じゃなかったら今頃どうなったか……」
「ご、ごめんなさい……女装して勃起しちゃう変態で……」
 とにかく、意地を張らずに謝るしか冒険者には無かった。というか、下手に意地を張るとそれを無理矢理へし折った挙句、さらに愚行を後悔させるような苛烈な懲罰が待っているとその身で知っているのだから。
「ふーん、やけに素直だけどそれだけ?」
 何気ない一言だが、冒険者の心には恐怖が湧出する。幾度となく行われた調教が、偽証や誤魔化しは許されないと訴えていた。
「ヴィーナスのおっぱい、見ていました……」
「……正直に答えたことに免じてお仕置きは後にしてあげる。今はこっちをどうにかしないとね」
 ヴィーナスが冒険者を握る力を僅かに強めた。
「飲んであげる義理も無いけど、今回は特別に飲んであげる。あなたが声さえ抑えられれば誰にもバレないけど、もし外にバレたら……楽しいことになるわね。ちなみに私は時を止めて一人で逃げるから」
 それだけ告げてヴィーナスが跪き、冒険者のスカートの中に頭を突っ込んだ。
「ああ、もう先走りが裏地に付いちゃってるじゃない」
「……ごめん」
「髪に付いちゃうから捲っておいて」
 ヴィーナスの命令に従って冒険者がスカートを捲り上げるやいなや、ヴィーナスがしゃぶりついた。客観的に見ると、一見した限り少女に見える男が皮を被った肉棒を可愛らしいショーツから飛び出させ、それを少女が咥えるというとんでもない絵面がそこで展開されていた。


「っ、ヴィーナ……」
 口を開く冒険者の口にヴィーナスの指が差し込まれた。
「いうまりぇもないへろ、かまなりぇね? かんりゃりゃわはひもかうかりゃ……おう、ほんっほうにへんふぁいなんらかりゃ……」
 日々の調教の賜物と言うべきか、冒険者は口に突っ込まれた時点で指フェラを始めていた。ヴィーナスは冒険者の性器を、冒険者はヴィーナスの指を、互いに口で愛撫する。未だに拙い冒険者とは違い、ヴィーナスの口淫は見事な技量で、冒険者を天国へと導く。だが、歯を噛みしめても堪えられるか怪しい快感に声を出し、バレてしまえば社会的にも天国行きだ。
「ぁっ、ヴィーナス、これダメっ……」
「らめ、ひゃなくへいい、でひょ? おひんひんこんなにうぃくうぃくふぁふぇふぇ、わかいふぁふぁいふぉ、こうふんふぃふぇうくふぇい」
 普段は下品な音を立て、盛大に唾液も撒き散らしながらしゃぶるヴィーナスが静かに奉仕しているという事実が非日常感を醸し出すが、薄膜一枚の向こうには見ず知らずの他者の日常が広がっている。その事実に冒険者はヴィーナスの言うように興奮していた。いつ露見するか分からない、嬌声を聞かれる、バレれば破滅、周囲からの軽侮の目線……そんなワードが冒険者の脳内をグルグルと駆け回り、否応なしに興奮させる。
「ほりょほりょおわいにひようっほ」
 ヴィーナスの宣言は死刑宣告に等しかった。その言葉を合図に一気に責めが勢いを増す。
「拙いって、ヴィーナス、本当に拙い……」
「おう、がわんふふふぉ」
 冒険者の静止を無視し、ヴィーナスの責めが続く。
「ふぉーふぉふぇっ!」
 楽しげな声とともにヴィーナスがカーテンを開いた。
「ひぁっ、イく、イッちゃう!やだっ、だめだめだめ、見ないでぇーっ!!」
 ヴィーナスの口内に大量に射精しながら冒険者が崩れ落ちる。
「(終わった……僕の人生、完全に終わった……)」
 破滅的な羞恥と快感を覚えながら、冒険者の意識が暗転した。





「ひぁっ、イく、イッちゃう!やだっ、だめだめだめ、見ないでぇーっ!!」
 恥ずかしいのに、どうしようもない快感で何も考えられなくて泣きたい……そんな表情で冒険者が絶頂し、大量の精を吐き出す。
「(あ、きたぁ……)」
 きゅうきゅうと胎の奥を疼かせながら、口内に吐かれた精を堪能する。出したそばから飲まなければ溢れかねず、それが勿体無かったと言えば嘘になる。だが、それを差し引いても満足できる量と言えた。
「ぷはぁ……御馳走様、美味しかっ……」
 冒険者はいつの間にやら白目を剥いたアヘ顔で失神していた。大方、カーテンを開けた瞬間に絶頂してそのまま意識を手放したのだろうと判断。
「……私、そんなに信用無いのかな?」
 小さからぬ落胆とともに、ヴィーナスはカーテンを閉めた。それと同時に、止まっていた時が動き出した。

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