なぜないのか疑問だった

元就さんは筆まめ



「あのう……元就さん?」
「うん?なにかな?」
「な、何で後ろ手に縛られてるんですか?」
「その方が君がよく見えるからかな」

つつと指の腹で露わになっている女の白い肌をなぞると、ひえっと声を上げて身動いだ。
その反応が可笑しくてもう片方の手も動かす。
指でした時よりも軽く触れたはずなのに、より高い声をあげて驚いた様子を見せる。

「そ、それっ、なんですかっ」
「何って、見ての通り筆だよ」

穏やかに微笑んでそう言う男の手には一本の筆が握られている。
普段から使用しているものだと流石に衛生的に問題があると判断したのか、未使用品だからと説明する。
説明されても女の顔は強張ったままである。
先ずは緊張を解すことが第一だと、先程したように筆先が女の腹部に触れると途端に声を上げた。

「あぅ、んっ…やっ…こそばいっ…」

女は両の腕を後ろに回した状態で拘束されているので、男の手を払いのけることは出来ない。
素肌の上を通る微かな感触はこそばゆいばかりどころか、未知の感覚から来る不安からか毛穴が粟立っているではないか。
そんな女の様子を見て、男は顎に手を当ててふむ、と考える。

「こそばゆいと感じる所は性感帯になるはずなんだけどな…」
「はあ……というか、何で…ひゃっ…ちょ、ちょっと、もひょっ…」
「腹では刺激が足りない?脇はどうかな?」
「ひゃあっ、そこはだめですっ…ふぁ、あぅうっ…ひゃ、や、やめっ」

人間誰しも、脇の下や腹の脇をくすぐられては黙ってはいられないものだ。
こちょこちょと筆先でそういう箇所を撫でてみると、予想通りと言うべきか、ひいひいと声を上げて女は悶絶する。
一頻りくすぐって、女が息も絶え絶えという状態になったので止めると、腕を拘束されたまま布団にぽてんと倒れ込む。
はあはあと肩で息をしているので、相当体力を消耗したようだ。

「何か違う……私が策を違えた?」
「あの、だからなんで…わたしは元就さんに筆でくすぐられたんですか?」

布団に埋もれたまま女は問いかける。
薄っすらと汗をかいて髪が額に張り付き、白い肌は上気して赤らんでいる。
折角講じた策がいまいち功を奏しなかったその問題点を探してどこか宙を見ていた男は女に視線を戻す。

「理由?君が筆の使い方を教えてくれって言ったからだよ」
「えっと、それは…確かに、言いましたけど……なんでこうなるんですか…」

普段から頻繁に手紙を書くために筆を使っている元就を、達筆な彼の書く字を見て、
使ってみたいと興味本位で女が言ってみたことが発端だった。
だが、どうして今の状況に繋がるのかが理解し難い。


「息も整ったみたいだし、続きをしようか」
「まだやるんですかっ」
「うん、するよ」

明らかに嫌そうな様子な女を無視してにこやかに、だがはっきりと言い放つ。
体を横にして寝転んでいる女を仰向けにさせて、それに向き直って再び筆を持つ。
さながら今から書道をするかのように。

「先程は策を誤ってしまったけれど、今度は上手くやるから。安心して欲しい」
「安心できませ…って、ひゃ、いっゃ、ふっ…く、ぅ…」

右の胸の膨らみの下辺りのあばらに筆を立てて、軽く浮き出た骨の筋をすうっとなぞっていく。
筆先を下から上へとなぞり、上まで通ったら隣の線へと移る。
右を終えたら左の外側へと動かす。

「む、ぅ……んっ……ふ…ぅっ……」

くすぐられてこそばゆいのだろう、強く目を瞑り、微かに睫毛を揺らして責め苦に耐えている。
きゅと真一文字に結んだ口からはくぐもった声が漏れている。
折角するのであらばもっと乱れる様を見たいものだ。

「ひゃあっ、ぁ、やっ…あぅ…ん…んんっ………」

思い切って薄く色付いた胸の頂きに筆を落とす。
筆先で小さく円を描くようにそこを何度も動かしていると、徐々に膨らみの先端が硬くなってくる。
ふるふると頭を振っているが、声が出るのは抑えられないようだ。

「はっ……ぁ、んっ……は、ぁ…」

すっかり硬くなった突起から筆を遠ざけて周辺を渦を巻く様に滑らせていると、上がっている息はそのままだが、どうにも切なそうに声を漏らす。
筆によって与えられるのは決して強い刺激ではないが、だからこそ焦らされると堪らないのだろう。

「こっちはまだ触ってもいないのに、もうこんなにして。期待しているのかな?」

男の言う通り、筆を滑らせていない片方の乳房の頂きは既に隆起している。
言われて女はかあと顔を赤くして目を伏せる。
と、先程までとは異なる感触が肌に触れる。
手のような温もりがなく、もっと硬いものが当たっている。

「こっちの方が好きかい?」

男は筆を通常とは反対に持ち、硬い尾骨を硬くなってその存在を主張する胸の蕾を押し潰すようにぐりぐりを押し付ける。
壊れ物に触るような微かな感覚とは全く異なるしっかりとした感覚が肌に残る。
呻くように声を漏らす女の目は潤んでいる。

「今日の元就さんは、いつもよりいじわるです…」
「それだと私がいつも意地悪みたいじゃないか」
「…こういうときはいじわるです」

幼子がするように膨れっ面と涙目で訴える女に、そうかなあと苦笑しながら男は手に持っていた筆を置く。
小さい肩に腕を回して体を抱き上げてやる。
相変わらずむくれているが、嫌がるような素振りは見せない。
少し汗ばんだ女の背中を軽くぽんぽんと叩いていると、徐々に気持ちも落ち着いてきたのか、荒かった呼吸は穏やかになってくる。
男の胸に体を預けて、そろそろと目を閉じる。
背中をさすっていた手をずらして、頭を撫でる。


「…ふひゃっ、ひ、やっ、どこをっ……み、耳はあっ…ゃあ、あっ」

不意に首筋、耳元をくすぐられて、女は驚いたあまりに電気が流れたかのようにびくんと体を跳ねさせた。
体を捩って逃げようにも頭を押さえられていては当然それも叶わない。

「…んっ…ぅ…やぁ…もっ、もとっ……」
「んん、もっと?君も好き者だね」
「ち、ちが……ひゃああっ、いやっ、やぁ、ぅあ、あ………っ…………ぅ、…っ…」

耳の外側だけでも十分に耐え難い責め苦だというのに、内耳に柔らかい毛先が寄せられて、
敏感になった体には別の生き物が這っているような感覚を覚えて、堪らずに悲鳴を上げてしまった。
だが当然ながら、そんな事では終わらない。
男の着ている寝間着を噛み締め、歯の隙間からふうふうと荒い息を吐いて、責め苦に耐え忍ぶ他に術はない。

「………もう元就さんなんて、きら、いぃ、ひゃ…ちょ、ゃ、やっ」

そんなひどい、と口では言いながらも特に気に留めるような様子もなく女の脚を広げる。
未だ後ろ手に拘束された状態で局部を露わにされて、隠すことも許されないので、
女は顔を先程よりも更に赤くしてやだやだ言うことしか出来ない。

「すごい濡れてるよ。やっぱり好き者だね」

声も上げられない女とは対照的に男は涼し気な表情で目を細めてふふと小さく笑う。
女の傍に膝を進めて、広げた脚を閉じられないように腕を乗せ、再度筆を持ち直す。
筆先を落とし、細い線を書くように立てた毛先のまま動かす。
薄い茂みの間を通り下っていく。

「…んっ……ぅ、く……ふ、はぁっ…」

最も敏感なところの一つを筆が掠めると堪らずに息を漏らした。
だがその後は、肝心なところには触れないようにその周辺をゆっくりとなぞる。
そうしていると、徐々に女は切なそうに声を上げ始める。
しかしその表情は快感に浸っているというよりも、苦悶の表情を浮かべている。
口の端から幾筋も唾液の線を垂らしているものの、歯を食いしばり喉の奥でひゅうひゅうと音を鳴らしている。

「……ひっ……んんっ………ぁ、ふぁっ…あ、ゃ、ああっ…はぅ、ゃ、やあんっ…ひゃっ……」

しとどに濡れて息をする度にひくつく秘裂に触れると熱っぽい息を漏らした。
その余韻に浸る間も持たせずに、充血した肉芽に筆を進ませる。
途端にびくと体を揺らした。
先程まで閉じていた口を大きく開いて声を上げる。

「…ふ、くぅんっ、ああっ……やぅっ…ひゃ、あぅっ……だ、めっ…だめぇっ…」
「駄目?嘘は良くないね」

こっちは正直なのに、と月並みな台詞を口にしつつ、筆を小刻みに動かして肉芽を嬲る。
決して激しい刺激ではないが、絶え間なく与えられるそれにもう既に限界寸前で腰を浮かせている女が耐えられるはずもなく、
理性が決壊するとがくがくと身悶えをして嬌声を上げた。

「筆を一本駄目にしてしまったよ」
「そんなの、知りません…」

汗をかいたため少し湿っている女の頭を撫でながら言っても、相変わらず機嫌の直らない女からは素っ気ない返事しか返ってこない。
片方の手で髪を撫でている一方で、空いているもう片方の手で自身のものを取り出しながら女の耳元で囁く。

「私のは、駄目にしないでくれよ?」
「……ん…はい」

先刻よりも更に赤くなった耳を指で突付くと、控えめな音量で返事が返ってきた。
拘束を解いてやると、そろそろと体を起こして男の方へと向き直る。
羞恥心から顔どころか耳も首までも赤くして目を伏している。
男を一瞥だけすると恐る恐る手を伸ばし体を屈めて顔を近付ける。
舌を出してそっと近付けると、ちろちろと舐め始める。
亀頭だけではなく陰茎、裏へと舌を動かしながら、添えた手で扱いていると既に半勃ちだったものは更に硬く、大きくなっていく。
唾液を含んだ舌を絡めている女の頭を大きな掌で優しく撫でる。


「…ああ、いいよ。上手くなったね。……咥えられる?」

撫でられて目を細めていた女は男の言葉を聞いて、少し戸惑った様子で上目遣いでちらっと見る。
口の周りを唾液と体液で塗らしているため、一旦口を離すと糸を引く。
酸素を取り込もうとして、はあっと一息吐くともろに男のものに吐息が掛かる。

「その…あんまり、見ないで下さい……」

恥ずかしいので、と付け加えると女は口を大きく開いて思い切って咥え込んだ。
口の中が男のものでいっぱいになっているのが目に見えて分かる。
ただ単に口に咥えるだけではなく、口内で性器に舌を絡ませて愛撫しながら奥へと導いていく。
舐めている時以上に口の周りを唾液でべとべとにして、音を立ててむしゃぶりついている。
見るなと言われても見てしまうのが性というもの。
女が自分のものを一生懸命しゃぶっているという視覚的効果は絶大で、先程よりも更に大きくなった気がしないでもない。
拙いながらも徐々に追い詰められていき、とうとう女の口の中に吐き出した。
驚いて目を白黒させて涙目になっている女にごめんと言いながら吐き出すようにティッシュ箱を渡した。
焦点が定まらずにぼんやりとしていたところから急に視界が開けたように意識が覚醒した。
立ち上がると寝間着を整えるよりも先に文机の硯に向かい墨を磨り卸し、筆を手に取る。

「あの…元就さん…?」
「寝て」
「へ?と、というか、その筆は…?」
「悪いようにはしないから。ね?」

女が何か言いたそうなのは表情を見れば一目瞭然であった。
穏やかな声色だというのに有無を言わさない謎の凄みを感じた女は早々に諦め、言われるがままに再び布団に寝転ぶ。
というより、押し倒される。

「ひぅっ………っ…はぁ………んっ……んっ…」

先程と同様に筆が女の肌を滑っていく。
しかし大きく違うのは、先程は乾いた筆だったが、今度は墨を含んでいる。
筆が離れたかと思うと、墨を付け直して再度落とすということが何度か繰り繰り返される間も、
女は息を殺して小刻みに肩を震わせて耐える。
書けたよ、と言った男の声を耳にして全身の力が一気に抜けて、ようやく布団に体が沈んだ気がした。
最早起き上がる気力も無くなったのか、よく我慢したねえ、と子供みたいになでなでされるのにも甘受している。

「なんて書いたんですか?」
「私の名前だよ。………君、他の人に見せるんじゃないよ?」

余程のことがなければそんな事はしない。
見せませんよ、と間髪入れずに返事をした女の言葉を聞いてにこにこしている。
そんな男の様子を見て、半ば諦観を決め込んで瞼を閉じていると、未だ顕になっている腹部をぺたと何かが触れる。
先ほどの感覚が蘇って、思わず飛び起きる。

「なな、なんですか、もとなりさっ…ミズシバちゃん…?」

元就が青い毛並みの犬を抱えて、その前足を女の腹部に押し付けている。
離すと黒い肉球の跡が残る。
既に黒くなっている肉球に筆で墨を付けていると、くすぐったいのか犬は体を捩って男の腕から抜けだしてしまう。
そのまま布団へ床へと肉球の跡が点々と続く。

「…元就さん」
「はい」
「だれがお掃除すると思ってるんですか?」

些か策を弄し過ぎたと自室の床掃除をしながら自省する男がいた。

(おわり)

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