エピローグ?


チームTDの全てと関係を持ってしまったアラドだったが、実際は多少周りが喧しくなった程度で大きな変化は無かった。それ所か…何処か彼も彼女達に依存する部分が増えてきていたりする。頼りきりとまではいかずとも、それでもお世話になる事は着実に増えている。
ツグミはレーダー官制のいろはや機体整備の手伝いを買って出てくれるし、スレイやアイビスも暇があればシュミュレーターでの訓練に付き合ってくれる。その上、火気官制や航法を手取り足取りレクチャーしてくれたりもした。
その分、やたらと酒盛りに付き合わされたり、半舷休息時の自由時間が拘束されたりと言った事もあったが、それは微々たる事だった。彼にとって負担となっているのは夜のお勤めの方だったりするが、それはそれ。天性の攻めテクと打たれ強さで何とか乗り切れていたりする。
端から見れば、頼りないぷに少年を支えるお姉さん達と言う構図。当のアラドももっとドロドロしたものを予見していたが、それを目の当たりにして拍子抜けした様だった。


そう……それが起こるまでは…


共通ルート第四十五話分岐前。戦艦バトル7
地球に帰還させるか、外宇宙に向かわせるか。αナンバーズ上層部の意見は割れていた。存在の殆どは空気だが、確かにオリ勢の力は凄まじく、恐らく数機で戦局を打開する事も可能であろう能力を秘めている。
今日も今日とて上からの呼び出しを喰らい、進展しない会議の結果を待たされる。先日、累積撃墜数が300を突破したアラド。だが、どれだけ優れたパイロットであろうとも、所詮は現場レベルでの話。曹長たる彼は会議に参加する事は許されぬ。今の彼には待つ事しか出来ない。
この暇な時間を如何に乗り切るか。与えられた課題であり、同時に余暇でもある。普段ならばチームTDの面々とカードでもするか、それともクォヴレーと雑談する位しか手は無いのだが…今回、彼等を捕捉する事は出来なかった。

暇を持て余しながら、限られたエリアのみだがバトル7内を散策しつつ何をするか思案を巡らす。トウマの様に筋トレでもしてるか…それとも、青久保やアイビスの如く煙草でも吸って呆けてるか。はたまた待合部屋で惰眠を貪るか。…うむ。マジでやる事が無い。
「ん?」
そうして、彼は懐かしい顔に出くわした。前方からやって来るおさげを垂らした銀色の髪をした女の子。蒼い瞳を持ち、胸元と太腿を強調したその軍服。該当する人物は一人だけ。
ゼオラ=シュバイツァー。ぷに少年の同期であり、且つ幼馴染。若干短気な魔乳持ち。能力はかなり高いぞ。くまさんパンツは今も健在なのか?
「驚いたな…」
彼にとっては久方振りの再会。小隊分けで別れて以来、彼等は戦闘以外では全くと言って良い程出会っておらず、戦艦が増えてからは乗艦が別々になったりしていた。
「・・・・・・」
そんな懐かしい再会にも関らず、ゼオラは俯き視線を一切合わせようとはしなかった。
「…な、何だ?」
ビクリ。全身が総毛立つ。不穏な空気がこの身を包んだ。その発生源は…目の前の。
「アラド…」
っ!抑揚の無い透明感のある言葉。だが、底冷えする冷たさが含まれたそれが足先から纏わり付く。
ゆらり、と左右に揺れながら近付くゼオラ。危険…危険…危険!今直ぐに走り出さねば大変な事になりそうな予感。が、全身にへばりつく呪詛にも似た凍てついた言の葉がこの身を縛り付ける。
ゆったりとした、とてつもなく重い足取りでゼオラはアラドの前に立った。
「アラドの…」
「ゼ、ゼオ…ラ?」
ハッ、とした。彼女の両肩が震えている。そして、何かを耐える様に唇も噛み締めて。
「な、泣いてる…のか?」
俯き表情は判らないが、確かに頬を伝う筋が確認出来た。そして…
「!」
顔を上げたゼオラは涙を拭く事も無く、それでも見開いた目で敵意に満ちた…否、それすら超えた殺意にも似た視線を送り込んできた。
「アラドの!」
「いいっ!?」
ひゅん!風切り音と共にゼオラの右足が消えた。…拙い!動かない筈の全身を奮い立たせ、その場にしゃがみ込む。頭の会った場所…こめかみ辺りか?にはゼオラの右足が有った。
だが、それで終わりでは無い。今度は対空していた右足が振り下ろされる…!
「っ、ええぃ!」
パン!乾いた音が響いた。しゃがんだこちらの頭頂部を狙ったもの。予測は簡単に出来たので、片手で受け止めた。
あ…くまさんパンツだ。
「あ、危ねぇな。会った途端にハイキックからの踵落しなんざ何考えてやがる!」
受け止めた後に一拍置いて、ゼオラの間合いからバックステップで離脱。こちらもファイティングポーズを取った。一昔前の自分なら直撃を喰らっていた一撃。だが、今の俺は昔の俺じゃあねぇ。舐めんなよ?
「ぐす…」
「あー…えっ?」
攻撃が止んだと思えば、次に待っていたのはゼオラの嗚咽。ひっくひっくしゃくり上げるその様を見て、訳が判らなくなる。
「馬鹿…」
「あのー…ゼオラさん?」

「アラドの馬鹿―――――――!!!!!!」

ぐおっ!突然の大音量の叫びに耳がキーンとして激痛。
「アンタなんかチームTDに移籍しちゃえば良いのよ!!」
呆気に取られる俺を尻目に、ゼオラは背を向けて走り出す。
「もうコンビは解消なんだからぁぁ―――――!!!!」
走り去るゼオラを追う事は出来なかった。しかし…コンビは解消だと?
今更になって何を言うのか?俺はとっくの昔にそう思っていたが……。
だが…今になって口走る意図が判らない。
「……まさか」
心当たりがあるとすれば……

俺は走り出した。

そうして見つけた彼女達。チームTDの面々は外れにある休憩所にたむろしていた。
こちらに気付くと微笑みながら声を掛けてきた。
「あら、アラド君。いらっしゃい」
「…来たか」
「待ってたよ」
息を切らし歩み寄る俺を労う様に微笑んでくる。だが、今の自分には彼女達の笑顔に黒いものが見え隠れするのがはっきりと見て取れた。
「はぁ、はあ…っ、雑談なんざどうだって良い。一つだけ答えてくれりゃそれで良い」
「怖い顔しちゃって。どうかしたの…ふふ」
嘲笑う様に向けられたツグミの視線。今迄に無いそれに一瞬だが気圧された。
だが、それを飲み込み尋ねた。
「アンタ…否、アンタ等か?…ゼオラに何を吹き込んだ?」
「ゼオラ?ああ…あの娘か。別に何もしてはいないが?」
スレイの言う事は嘘だ。こちらを一笑に伏す様に鼻で笑いやがった。何かある。
「化かし合いは良い。アイツの尋常じゃ無い様子。思い当るのはアンタ等位しか無いんだが?」
「まあ、落ち着きなよアラド。スレイの言う事は本当だよ?何もしちゃあいないよ」
ふゆうう。アイビスからは紫煙を吹きかけられる。だが、経験は浅いが今はこちらも喫煙者。煙たいが咽たりはしない。
「あー…でも」
「でも?な、何すか…?」
意味深な事を言いかけたツグミに詰め寄る。だが、掴みかからんばかりの俺の勢いは割って入ったスレイに止められた。自分より背の高い彼女。壁役としては十分役割を果たす。
「彼女…私達と話してたら血相変えて飛び出して行っちゃったのよね」
「な、なに?」
血相を変えて、だ?アンタ等…何を喋って…
「アラド…もう判ってるんじゃないのか?」
見下ろしてくるスレイの言葉が沁み入る。俺と糸を引く程に濃い関係を結んでいる彼女達。そして、俺への依存が病気の域に達しているゼオラ。そのゼオラが飛び出す程の会話。何の事は無い。つまり…
「すまんな。つい、口が滑った」
謝罪しながらも、悪びれる様子が無いスレイ以下。それ以上にこの場を取り巻く空気が非常に重く圧し掛かる。頭がクラクラして息が詰まりそうだ。吐き気も誘われる。
「……そっか。喋っちまった…か」
つまり…ゼオラが自分とチームTDの関係を知った、と言う事。何れはそんな予感がしていた。それが遂に来ただけだったのだ。
しかし…判らない。
「事細かに聞いてくるからさ、彼女。君がしっかりやってるか…とか、迷惑かけてないか…とかね。あたし達も知りうる限り丁寧に答えて上げたよ?丁寧に…ははっ」
アイビス以下は笑いながらこちらにプレッシャーを掛けて来る。

あははうふふふっふふ…

ゾクッ!本能的な恐怖が冷たい針となって皮膚の内側を突き刺していく。
こいつら……これが本性なのか?何々だ?何を…したいんだ?
「目的は何だ?何で今になって俺とゼオラを切り離す?意図が読めねぇ」
「まあ…それは、売り言葉に買い言葉って奴かな?ゼオラも私達を散々泥棒猫だの何だの好き勝手な事を言ってくれたわ」
「こっちも少し大人気無かったやも知れんが…熱いうちに喰わなかったお前が悪いと言ったら走り出した。だが、それは事実だろう?」
「君も判ってるよね?その結果が今の私達だってさ。待ってるだけじゃ、王子様は振り向かない。彼女、それが判ってなかったのね」
む…それは確かに。今の関係は全てが彼女達がモーションをかけて来たのが発端だ。こっちから求めた例は一度だって。跳ね除けられなかった己の弱さもその一端だが。

「ゼオラを逃しちゃったのは痛かったけど…それでもアラド君が居てくれれば、私達としてはそれで良いのよ」
「な、何を…」
ツグミの視線が。
「ここまで言っても判らんのか?否、判ってる筈だな。男らしくないぞ?」
スレイの視線が。
「つまり、君がチームTD第四の戦士として相応しいって事だよ」
アイビスの視線が。
三人の視線が一斉に注がれた。骨に食い込んできやがる。

「だ、第四の戦士だぁ?」
う…え?…理解不能。否、そもそも理解しようとする気すら起きない。チームTDは何時から薬物依存症になったのか。イカレちまったとは思いたくはないが、そうとしか…思えはしない。

「本来的には四番目がセレーナ、そして五人目がイルイ、そして第六の席がゼオラの筈だったんだけど」
「セレーナは今はクォヴレー…否、イングラムか?にべったりだからな。正規ルートでもこちらに付く事は遂に無かった」
「イルイはこのルートではゼンガー少佐一本だし、ゼオラには…嫌われちゃったしね」
ちょっと待て…その穴を埋める為に俺が選ばれたって?
アンタ等は何時の間に路線変更…?それが目的なのか?な、何故に?
「何で俺…お、俺は男っすよ?フリフリに興味はねぇし、俺には未だスクールの生き残りを探す使命が…」
「別にそんな事は強要しないわよ。貴方は立派に四人目の条件を満たしてる。表面上は大喰らいな美少年。しかしてその実態は夜の帝王…ぽっ」
きゃ♪頬を両手で覆い、顔を紅くする腹黒眼鏡。
「屁垂れと見せかけて、その実最強に近い機動力と格闘性能。アブノーマルなプレイもノーマルなプレイも何でもござれな白一点。…うむ」
腕組みし、何処か遠くを見つめる大負け犬。
「ちょっと頼りなさげだけど、守ると誓ったモノは例え命を賭けてでも。菩薩の様な穏やかさと修羅の如き荒々しさが同居したぷにぷにほっぺの魔力……嗚呼」
ほわー。怪しい薬でもやった様な妙な空気を纏う胸なき子。
「ア、アンタ等鼻血拭いてよ…それに涎も…」
お前等、やっぱりジャンキーか?こっちの話、聞いちゃいねぇ。
「あ、捜索の件は可能な限り手伝うから安心して?それも外宇宙に出るまでの一時的なものだけど」
一時的かい!ツグミン…そんな条件提示されて俺が首を縦に振るとでも思ったか?
「ちょっと待ってよ!俺の意思は!?そんな一方的な条件、飲める訳ねぇよ」
「へえ?」
ツグミの片眉が釣りあがる。ビクッ。な、何か怖いんすけど。
「俺達の関係なんざ、ケイサルの爺様を成仏させたらそこまでだぜ?」
「ほう?」
またしてもスレイに鼻で笑われた。何だ?ひょっとして、まだ何かあるのか?
「アンタ等は外宇宙に行く。俺は地球圏に残る。それで仕舞いさ。さようならだ!」
「ふーん?」
笑いを噛み殺してフィルターを噛み潰すアイビス。ちょ、ちょっと待て?何があるんだ?

「あのね、アラド君?」
「…っ、ツグミさん…まだ、何か?」
「ああ…これは言おうかどうか迷った事なのだが、な」
「ス、スレイさん…あの、どうして俺を壁際に追い詰めますか」
「でも、一応アラドにも認知しておいて貰おうかなって。ほら…当事者だしね」
「か、顔が近いっすアイビスさん…」
アラド包囲網完成。壁際に追い詰められたぷに少年はお姉さん方に取り囲まれる。
「な、何?一体何があったんすか!こんな大仰な!」

ふふうふふあはあははあはふはははははは!!

ケイサル兄貴真っ青な黒い笑いがチームTDに張り付く。ただアラドはそれに翻弄されるしかない。

そして…口が開かれた。

「生理が来ないのよね。私もスレイも」

…ぶっ!

「二ヶ月程前から、か?思い当る事は一つしかないんだが…な」

ぐ、ぐは…っ。

「あたしも未だ来ないのよね。…あの日、危険日だったのかも」

き、貴様等……!

「ひょっとしたら只の不順かもね。ブラフだと思ってくれても良いけど…」
「ビンゴかもしれないな。まぁ…私達は大人だ。責任を取れとは言わんが…」
「その場合はさ。何て説明すれば良いんだろうね?父親が居ない事を…さ」
ずいっずいっずいっ!一斉に顔を突き出される。
…ドサ。力を無くし、無様にへたり込む。悪い予感の元はこれか?これだったのか?

「ねえ…アラド君?良い就職先を斡旋してあげるよ?」

「給金は期待してくれて良い。私を…否、私達をしっかり守ってくれ?」

「衣食住の心配も無いよ?アラド…一緒に宇宙(そら)を飛ぼうね?」

…最低だ。幾らバグ技だからってお前等やり過ぎだろ!俺は…ここまでされなならん事をやったのか?そもそも結婚できる歳じゃない。
糞ぅ…責任の一端が俺にもある以上、撥ね付けれない。…俺の馬鹿!否、莫迦!!マンコ!!

男縛るにゃ鎖は要らぬ。女の身一つあればそれで十分。それが鎖となるのです。

ひょっとして…飼われつつあるのは俺の方、か?
「んふっ。正妻は当然、私よね?そうでしょ?ご主人様♪」
「勝手な事を!ア、アラドは…私の、は、伴侶だ」
「そんなの駄目だよ!あたしが唾付けたんだから。…ね、責任…取って?」

職歴について…考え直したほうが良いのかもしれないな。きっと…それが利口なのだろう。

「………て…でお…仕…」
「うん?聞こえないわね?はい。大きな声で」
「地…果て…でお供仕……」
「60点だ。はい、もう一度」

だが、その考えに至るのが致命的に遅かった。もう議論に迄発展する余地だってなかった。
選べたのは一つだけ。

「地の果てまでお供仕ります!何なりと仰って下さい!」

「はい!オッケー!宜しくね、アラド!」
其処まで言った後の記憶は無い。何やら血涙流しながら素敵なポーズで倒れ込んだのは覚えているが……。
う、うう…(涙)。これが、俺のレーゾンデートルかっ!!?この世界での在り方だってのか!!?

俺は神だの仏だのは信じちゃあいないが…なるほど。確かに、この世には神も仏も無い。

………………

しゃーこ…しゃーこ…
砥石に刃を乗せ、一心に研ぐ。砥粒が細かい刃を鋭く尖らす為の砥石だ。
しゃーこ…しゃーこ…
大柄なフォールディングナイフ。刃渡りが100ミリを超えるそれをゆっくりと時間を掛けて磨き上げる。
しゃーこ…しゃーこ…
あの子は…変わった。もう、私を見てはくれない。そうして気付いた己の在り方。私は…あの子の存在があったから、今まで生きられた。拠り所たるそれが消えた今、出来る事はたった一つだけだ。
しゃーこ…しゃーこ…
研ぎ終わった刃が鈍い輝きを放った。粗い鏡面の様なそれに己の顔が映し出される。泣き疲れ、眼窩が落ち窪み、幽鬼の様な顔。それが…今の私。

「アラド……来世で、添い遂げましょう?」


…ゾクッ!意識は無い筈なのに…本能的な危機感だけが湧き上る。
また…死亡フラグなのか?…ま、どうでも良いか。
何故なら…

コの身ハ既ニ終わッてイるノだカら…



エクストラステージに続く!

…いや、続かないよ?

トータルリザルト
使用機体:アラド=バランガ
総撃墜数…3。ツグミ=タカクラ、スレイ=プレスティ、アイビス=ダグラス
総獲得経験値…108
総獲得PP…600
被撃墜回数…1(※撃墜後、拿捕された為に復帰は不可能)

おめでとうございます。貴君はチームTDを全て撃墜した為に、本ステージにおいて称号が与えられます。
『お姉さん殺し』
効果:年上女性と二人っきりの状態で飲酒すると、誘惑される可能性50%アップ。

「……まっこと嬉しくねぇ称号だな」




リトライしますか?[はい/いいえ]

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