「でぃいいいやっ!」
 アクセル隊長のアッパーエルボーがボクの顎を打ち抜く。
(麒麟って、ソウルゲインじゃなくてこの人の技なのか……)
 仰向けにひっくり返りながら、ボクはそんな事を考えた。
「今日はここまでだ」
 額にうっすらとにじんだ汗を手の甲でぬぐいながら、アクセル隊長は一対一の格闘訓練の終わりを告げた。
 訓練というか……いきなり呼び出されて、サンドバッグにされただけのような気もする。
 でもその辺を考えるのはやめとこう。ボクもパロスペシャルとか決めちゃったし、おあいこだと、言えば言えるだろうから……。
「人形! そいつを医務室に運んでやれ!」
 少し離れた、壁際にいる相手に怒鳴りつけ、アクセル隊長は訓練室から立ち去った。
 怒鳴られた相手……W−17“ラミア・ラブレス”は、「了解」と素っ気なく答えて、ボクに歩み寄る。
「立てますか?」
「ああ、大丈夫」
 ボクは答えて、ゆっくり立ち上がる。
 しかし麒麟をモロに受けたせいか、頭がクラクラする。
「隊長命令ですので、医務室へお連れします」
 ラミアはそう言って、肩を貸してくれた。
 正直言って、断る気力もない。
 ボクは彼女に付き添われて、医務室に向かった。
 医務室には誰もいない。小用で席を外しているのだろう。
 ラミアは構わず、慣れた様子でボクの手当てを始めた。
 ベッドの端に座るボクの前で、前屈みになって傷の消毒をしてくれる。
 フンワリと漂う髪の匂いと、目の前にある二つの豊かな膨らみが、傷の痛みを忘れさせてくれた。
「……申し訳ありません」
 不意にラミアが謝る。
「アクセル隊長は、あなたが私と一緒にいる事を不快に感じているようです」
 それはボクも思った。
 レモン様からラミアの“初めての相手”を命じられた翌日、ボクはラミアと組んで行動するようにと命令された。
 レモン様曰わく、「実践しなくてはわからないものがある」との事で、ボクと行動させる事でそれを学ばせたいらしい。
 しかし我の強い武人気質のアクセル隊長には、ボクが人形遊びに興じる弱卒にでも見えるのだろう。元々が、Wシリーズ嫌いの筆頭のようなお方だし。
 そんな訳で最近、今日のように訓練がほんの少しだけ厳しく、激しくなっていた。
「おかげで、最近自分でも強くなったのを実感してるよ」
 ボクはラミアにそう答えた。
「だいたい、これくらいで音を上げてたら、ベーオウルフは倒せない」
 ボクたちシャドウミラーを倒すために野に放たれた刺客。
 あの忌まわしい鉄杭に、多くの同志が撃ち貫かれているのだ。
 あいつを倒したいと思ってるのは、アクセル隊長だけじゃない……。
 知らず握りしめた拳に、ラミアの白い手が重なった。
 彼女はボクの足下に膝をついて、ボクの顔を見上げる。
「そのベーオウルフ打倒の為にも、今は身体を休め、傷を治してください」
「…………」
 ボクは一瞬言葉に詰まった。
 自分の耳に響いた言葉が、信じられない。
 こいつがこんな優しい言葉をかけたのは、初めてだ。
「どうか、ご無理をなさらないようにお願いいたします」
 ボクを見上げる瞳も、心なしかキラキラと光り、“情”のようなものを浮かべていた。
「……ああ」
 ボクはそうとしか答えられなかった。
 不覚にも見入ってしまった。
 胸の奥が、妙にうずく。
 ボクはラミアの髪をそっとかきあげた。
「ラミア……」
「はい」
 彼女はボクの命令を待つ。
「ボクの部屋に、行こうか」
 その言葉の意味を察したラミアは、かすかに頬を赤らめて、ただ答えた。
「……はい」


 初めての時とは、位置が逆だった。
 真っ白な裸体をベッドに横たえるラミア。
 その上に覆い被さるボク。
 あの時は、一服盛られてたわ拘束されてたわでそれどころじゃなかったが、改めて見ると、彼女はとても美しい。レモン様が自慢するのも無理はないだろう。
 ラミアが、スッと目を閉じた。
 ボクはその唇にゆっくりと口づけをした。
 舌を差し込むと、彼女も応じる。
 絡ませ合う内に高ぶったのか、ラミアの両腕がボクの首に巻き付いた。
 ボクも彼女の背中に両腕を回す。
 クチュクチュと音を立てて口腔内をたっぷり味わうと、ボクは唇を離し、今度はうなじに吸い付いた。
 張りのある乳房を揉み、その尖った先端を吸い、甘く噛む。
「んっ……」
 ラミアの口から、可愛らしい声が漏れた。
 ボクは彼女の白い肌を余す事なく愛撫した。
 肩。
 背中。
 脇腹。
 へそ。
 下腹。
 内股。
 ふくらはぎ。
 手足の指の間にいたるまで、念入りに。
 ラミアの透き通るような肌は薄桃色に上気し、呼吸は乱れ、いつものポーカーフェイスはすっかりとろけきって見る影もなかった。
「あの……」
 足裏の土踏まずにキスしてると、声をかけられる。
「ま、まだ、してない所が……」
 ボクが意図的に避けた、ただ一ヶ所。
 ラミアはそこへの愛撫を要求していた。
「どこだっけ?」
 ボクは意地悪く尋ねる。
「もうラミアのエッチな身体は、全部しゃぶり尽くしたつもりだったけど」
「いえ……一ヶ所だけ……」
「だから、どこ?」
「〜〜〜〜!」
 ラミアはキュッと目を閉じた。
 彼女にも恥じらいがあるのだろうか?
 何だか新鮮だった。
 ラミアが不意に、ボクの耳元に唇を寄せた。
 囁かれた言葉。
 はしたないお願い。
 ボクは望み通り、彼女の股を大きく開き、その場所に舌を這わした。
 既に、奥まで潤っていた。
 舌でかき回す度に、更に溢れてくる。
 こうして探ってみて、その造りの精巧極まる再現度に、感動すら覚えた。
 ラミアは髪を振り乱して、悶える。
「あっ……くぅっ……ふぁああっ!」
 少しして、彼女はボクの舌で達した。
 無防備にぐったりしている彼女の髪を撫で、ボクは彼女の足を脇に抱えた。
「あっ……!?」
 驚いたように顔を上げるラミア。
「ま、待ってください……今は……!」
 敏感になってるからダメ、とでも言いたいんだろうけど、ボクの方が我慢出来ない。
 構わず、根元まで一気に挿入した。
「はぁあああっ!」
 入れた途端に、激しく締まった。
 本当に敏感になっていたらしく、ラミアはまた達したようだ。
 ボクはラミアの上に覆い被さり、急ピッチで腰を動かす。
 今度はボクが攻めているのだと思うと、それだけで興奮して、腰が止まらない。
 ラミアの両腕がボクの背中に、抱えた両足は腰にしっかりと回っていた。
 何度も奥まで突かれながら、ラミアは唇を重ねてきた。
 舌を絡ませてきた。
 ボクはその舌伝いに、唾液を流し込み、飲ませた。
 うなじを吸い、乳房に指を食い込ませ、乳首をつねった。
 互いの熱く乱れた吐息と、ベッドの軋む音だけが耳に響く。
 ラミアが再びボクを強く締め付ける。
 ボクが限界を迎えるのと、彼女がボクの背中に爪を立てたのは、ほぼ同時だった。

「ご満足いただけたでしょうか?」
 服を着ながら、ラミアが尋ねる。
 唇の端からツゥッと白い糸が垂れた。
 ラミアはそれに気付き、指先で拭ってペロリと舐めた。
「ああ……」
 ボクの方は、頭の中が真っ白で何も考えられず、ベッドに横たわったままだ。
 それだけ激しく、ボクは彼女の身体を貪っていたのだ。
 しかしラミアには、疲れた様子がない。
 アンドロイドだから、回復も早いのだろうか?
 散々欲望をぶつけておいて、そんな野暮を考える自分がちょっと不愉快だった。
「すまない、ラミア……」
「あなたには、何の落ち度もありませんでした」
 そう返す声は、心なしか優しげだった。
「いや、そうじゃなくて……」
 ボクが言いたかったのはそういう事じゃない。
 医務室で、ボクは彼女に“女”を感じて、そのまま部屋に連れ込んで……。
 今更だが、自分の行動が下劣なものに思えてきたのだ。
 レモン様はボクを信頼してラミアを預けてくれているのに、その信頼を汚してしまったような気すらしていた。
「これは、性技の実践訓練です」
「ん?」
「私が、相手をその気にさせる事が出来るかどうかを試しただけなのです……そのようにお考えください」
 ラミアはボクの言わんとする事を察したらしく、そう言ってフォローしてくれた。
 しかし……、
「レモン様に、ばれたりしないか?」
「私は報告しません。レモン様も余程の事がない限り、私のメモリーのチェックは行いませんので、問題ありません」
 ラミアは服を着終えると、ベッドに上がる。
「ですから、どうかお気になさらず」
 細い指が、ボクの髪を優しく撫でる。
「ああ……ありがとう、ラミア」
「いえ」
 彼女の唇の端がかすかに上がった。
 それはW−17じゃない。
 人形なんかじゃない。
 “女”の微笑みだった。

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