戦いが終わっても、彼らに休息の日々がやってくる事はない。
SRXチームは現在も尚、パトロールの一環として世界各地を巡回しながら、過酷なトレーニングを行っている。
中でもSRXのメインパイロットであるリュウセイ・ダテ少尉には最も厳しい訓練が課せられていた。

「はぁ…。こうも毎日キツいんじゃそのうち身体がどうにかなっちまうぜ…」
「リュウ、その様子じゃまた隊長にたっぷりと絞られたわね?」
そう問いかけるのはアヤ・コバヤシ大尉。R-3のパイロットだ。
「おぅアヤか。まあな、…はぁ」
「どうしたのよ? ただ疲れてるだけじゃないみたいだけど」
リュウセイの様子が微妙におかしいと感じたアヤは、それはないかな?と思いつつも鎌を掛けてみる。
「はは〜ん、さては最近ラトゥーニと会えないから寂しいんでしょう?」
「な、何でそこでラトゥーニが出てくるんだよ!?」
現在は教導隊に行っているラトゥーニ・スゥボータ。彼女がリュウセイの事を気に掛けている、と言う事実は前大戦に参加していた者ならば誰もが知っている事だ。まぁリュウセイ自身にはその自覚は全くないのだが。
現在フリー(?)のアヤから発せられた言葉は、リュウセイに対する嫉妬心からきたものかも知れない。
「焦ってるあたりがますます怪しいわねぇ…。ま、それはいいとして少し気分転換が必要なのは事実ね」
「そんな事言ってもなぁ…、あの鬼隊長がそう簡単に休みなんてくれるとは思えねぇけど」
「大丈夫大丈夫。ヴィレッタ隊長の方には私の方から上手く言っておくから」
そう言ってアヤはリュウセイの元を足早に去って行ってしまった。リュウセイからしてみれば、『アヤの方こそ何かおかしいんじゃねぇか?』と感じていたが、言葉にする事はなかった。

それから数日後、どうヴィレッタを言いくるめたのかは分からないが、正式にリュウセイに休暇の許可が下り、その旨はアヤの方から予定通りリュウセイにも伝えられ、彼も素直にそれを受け入れたのだった。
そして休暇の日。いつもならとっくに起きて発進準備を行っているような時間になってもリュウセイは眠っていた。
そんな中、『コンコンッ』と控えめなノックの音が部屋内に響く。しかしその程度で起きるような男ではなかった。
やがてその人物はドアを開けリュウセイの体を揺すって起こそうとする。…しかし彼は異常なほど寝ぼけていた。
「くっ! 俺が死ねば反陽子爆弾が…がぁっ!!」
「リュウ、いつまでも寝ぼけてないで早く着替えて!」
声の主は、意外にもアヤだった。アヤに軽くではあるが叩かれた事により我に返ったリュウセイは、目の前にアヤがいる事に驚いた様子だった。無理もない、通常ならば既にR-3の整備をしている時間帯なのだから。
「あ…アヤ? 何でお前が?」
「実はね、隊長に話したら『気分転換ならばアヤ、リュウセイをどこか連れて行ってやったらどう?』って言われたの。
だから今日は私も休みをもらったのよ。…というわけでさっさと着替えて。出かけるわよ!」

どことなく今日のアヤは普段と様子が違っていたが、鈍感なリュウセイの事だ。
それに気づく事もなく、ただアヤのペースに飲まれていくばかりだった。
ここだけの話、ヴィレッタはアヤに『そうしてくれた方が私にとっても都合がい…げふんげふん』などとかなり意味深な発言をしていたらしいが、その言葉はリュウセイに伝わる事はなかった。
「お、俺は別に構わねぇけど…。マイのヤツをほったらかしにしていいのかよ?」
「あの子は大丈夫よ。少し甘えん坊だけどしっかりしてるし、隊長やライが一緒だし、ね?」
「わ、分かったからとりあえず外で待っててくれよ。着替えるからさぁ…」

そんなこんなでアヤはリュウセイの気分転換の為と称して出かける事になったのだが、気づいてみればリュウセイではなく自分の気分転換に利用するような結果になってしまっていた。
「リュウ、こっちこっち! 時間あんまりないんだから」
「ったく…何で休暇潰してこんなのにつき合わなきゃならねぇんだよ…。って俺の気分転換じゃなかったのかよ?」
せっかくだからとリュウセイも行きたい所をそれとなくリクエストしては見たものの、まぁ…正直アレだったのでアヤに聞き入れられる事もなく、彼女のチョイスで流行りのスポットを足早に回ったり買い物をしたり…という感じだった。

「ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったみたいね。付き合わせたみたいになっちゃってごめんなさいね」
「…こう言うのもたまには良いんじゃねえかな。所で、こう言うのはデートって言ったりするのか?」
リュウセイの口から『デート』などと言う単語が発せられるとは思わず、アヤは内心ドキッとした。
まぁ本人からすれば大した意味はないだろうが。とりあえず二人ともお疲れの様子だったが充分な気分転換にはなっていた。
特にアヤにとっては年頃の女性らしく振る舞う貴重な機会だったため非常に満足した様子だった。

「すっかり遅くなっちまったな。結構疲れたしすぐ寝ないと明日の特訓で倒れちまうかもな…」
「リュウ、そう言ってる所悪いんだけど…。後でちょっと話があるの。後であなたの部屋に行くからそれまで起きて待っててくれる?」
「ん? ああ…。じゃまた後でな」
別に大した用事でもないだろう、と思ったたリュウセイは生返事で承諾してしまう。
しかし、リュウセイは重大な事実をアヤに隠していたのを忘れていた。まぁ事の重大さに気づいていないだけなのだが。

そしてその晩…時刻は午前1時を過ぎたあたりか。アヤが約束通りリュウセイの部屋へ向かっている頃である。
SRXチームの一員であるマイ・コバヤシは、一度は眠りにつくものの、決まってこのくらいの時間に目が覚めてしまう。
「また眠れなかった…。どうしてだろう…?」
このところ毎晩、しかもその理由も分からない。寝付けないマイは半ば習慣化している行動を実行に移す。
「また、向こうへ行こうかな」
マイの言う『向こう』とは、何を隠そうリュウセイの部屋である。リュウセイと一緒だと不思議と安心してよく眠れるらしいのだ。
初めのうちはリュウセイも『アヤに怒られるから自分の部屋に戻れ』と言っていたのだが、あまりに毎晩続き、拒否するのも面倒になったため、今では抵抗なくマイを招き入れるようになっていた。
…と言っても、本当に一緒に添い寝をしてやっているだけなあたりはさすがにリュウセイらしい。

…そう。リュウセイはそのことをすっかり忘れてアヤが部屋に来る事を許可してしまったのだ。
マイ共々その手の話に疎いため、男と女が一緒に寝る(それも同じベッドで)と言う事の重大さにも気づいていない訳だが、さすがにアヤが間に割って入るとなると話が違ってくる。しかもアヤとマイは(形式上は)姉妹なのだから。

それはともかくとして、いつもの通りリュウセイの部屋へ行くため、物音を立てないように静かにドアを開けるマイ。
しかしここでようやく隣のベッドで寝ているはずのアヤがいない事に気がつく。
「アヤ…? どこへ行ったのかな…」
もし夜中に部屋の外をうろうろしてる事がアヤにばれたら怒られるだろうな、と一瞬思うもやっぱり安眠には変えられない。
何とか誰にも見つかることなく、ようやくマイはリュウセイの部屋の目前まで辿り着いた。
しかし次の瞬間に何者かが通路を歩いているのに気づき、あわてて物陰に隠れる。『誰だろう?』とそっと覗いてみると…
「ライ…? こんな時間にどうしたのかな?」

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