「オデロ! 貴方達はまたこんなものを・・・・・・!」
 マーベットの呆れ混じりの怒声に、なんだなんだ、とその場に居合わせた男性数人ばかりが、そちらに眼を向ける。
「べ、別にこれぐらいいいだろう。俺達だって。いつまでも子供じゃないんだから」
 反論になっていない弁解を口にするオデロと、バツ悪そうな顔をするウォレンに、マーベットは一層声を張り上げる。
「よくない! 貴方達が男の子であることは理解しているつもりだけど、こんなものを貴方達が持っていたら、艦内の風紀が乱れることは目に見えてるでしょう!」
「いいじゃないか、マーベット。あんまり、少年の性の目覚めを咎めるものじゃないんじゃないかい?」
「だからそういう問題じゃないのよ!」
 喧々諤々の論争するマーベットとジュンコ、それと首を竦めるオデロとウォレン。
 はて、どういう状況なんだろう、と暫しウェントスは、その状況を観察していた。ジョッシュは、なんとも言いがたい、苦笑交じりの顔をして、やれやれ、とアクションし、
ギュネイはといえば、残尿感に煩わされているような、苦々しい顔をして、その光景を見ていた。
「とにかく、これは処分するわよ。こういうものは、他に迷惑をかけない責任を持てるようになってから見なさい」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。それ、処分するのかよ!」
 焦り顔でオデロはマーベットに言う。
「ええ、そうするしかないでしょ」
「か、勘弁してくれよ。どうせ処分するのは、シャクティや早苗だろ? いくらなんでも、それだけは許してくれよ……。それに、それ、結構したんだよ……」
 泣きそうな顔で訴えるオデロを無碍にするほど、マーベットも厳しい事を言うつもりはない。ジュンコと目配せをした後に、妥協案をオデロに言った。
「……じゃあ、誰か適当な男性に預けるから。処分するかしないかは、後に決めるわ。それでいい?」
「……わかったよ、今はそれでいいよ」
 渋々とした様子で一応の納得の様子を見せるオデロだったが、ふと、マーベットに尋ねる。
「けど、その適当なヤツって誰なんだよ?」
「……そうね、お願いできる?」
 このやり取りを見ていた数人の中から、ウェントスを指名し、マーベットは記録メディアを手渡した。
「……僕、ですか?」
 なるほど、悪くない選択だ。オデロも含めて、とりあえずは皆、納得したのだった。

              *

 各自室に据え付けられたコンピューターの前に座り、ウェントスはマーベットの言葉を思い出した。
『適当な時間、これを預かってもらえないかしら? ただ、保管していてくれるだけでいいから』
『別にいいですけど……これ、そんなに重要な映像なんですか? 中身を見たりしたら……危ないのかな?』
『……多分貴方には、見ても面白いものじゃないと思うわよ。見たところで、どうという話ではないでしょうね』
 そこで、オデロはとりあえず安堵のため息を吐き、部屋に戻っていった。それで、その場はお開きとなった。
 そして今、ウェントスは自室で、小さなケースに収まった映像メディアをじっと眺め、手の中で転がして見る。
 別にどうということはない、単なる標準規格のメディアだ。
「……」
 このところ、ウェントスは人間に対する興味を、少しずつ深めつつあった。だから、このメディアに、マーベットを焦らすだけの効力を持った映像が入っていると考えると、気になって仕方がなかった。
「……見てはいけない、って言われていないよね」
 オデロがこの場にいたら、さすがに顔を蒼ざめさせただろう。だが、事実は事実、見てはいけない、という取り決めはしていない。
「……失礼しますね、オデロ、マーベットさん」
 スロットに記録メディアを差込み、映像を再生してみた。
 ほどなく収録されていたコンテンツが始まり、まず始めに、雰囲気は明るいが、どこか気だるそうな調子の女性が、映った。なんとなく、シュラク隊のメンバーを思い出す、容姿と年齢の女性だ。
 しばらくインタビューのような物が続いた。それで交わされている言語は、ウェントスが知らない言語だったので、何を言っているのかはわからなかった。
 ほどなく、インタビューを受けていた女性は、ベッドの方に移動すると、おもむろに服を脱ぎ始めた。腰をくねらせ、両手で乳房をすくいあげながら、すらりと長い脚をベッドに乗せて、そこに待っていた、既に裸だった男性と、絡み始めた。
 この辺りで、ウェントスはこれがどういうものなのか、なんとなく分かってきた。えーぶい、だとか、えろびでお、だとか、確かそういう名前のもの。男性を興奮させる目的で作られた映像らしい。
 画面に映し出された、えーぶいはまだ続いている。
 さっきまで、一人の男性と性行為を行っていたが、今度は、男性がさらに一人加わり、前後から女性を犯し始めた。どう前後から犯すのかは、しっかり見えなかったが。
 映像が始まって十五分くらいだったが、この辺りでウェントスは、ひどく嫌な気分になってきていた。
 性行為がどういうものなのかは、知っている。人間の営みは、生々しい感触と臭いが伴うもので、だからこそ人間は生きているのだと言える事も、よく知っている。
 けど、この行為は理解しがたい。どう見ても、これは快楽を目的にする度合いが強すぎる。そういうものなのだろうか。人間というのは、そんなに快楽を求めなくてはならない生命体なのか。
 憂鬱な気分を抱えながら、しかし、ウェントスは画面から目を離すことはできなかった。
「何見てるの、ウェン?」
 不意に、後方からリムが、ウェントスの肩に手を回して、画面を覗き込む形で抱きついてきた。
「あっ……リ、リム」
 慌てて、画面を隠そうと試みるが、抱きつかれたこの格好では、それもままならない。
「私に隠れて映画見るなんて、あんまり……」
 そこまで言いかけて、リムは言葉を切った。ディスプレイに映る映像の意味を、勿論リムは、即座に理解することができた。
「え:……えっと……ウェンも、こういうのに……興味あるのかな?」
「そ、そういうわけじゃないんだ、そういうわけじゃ……ただ、その……」
「うぅん……そうだよね、ウェンが自発的にこういう映像を見るわけないものね。……まだ見るの?」
「いや……もういいよ」
 停止ボタンをクリックすると、簡素な作りのデスクトップが、ディスプレイに戻ってきた。
 ちょっとの間、何とも気まずい空気が、二人の間に漂っていた。先に、その空気を動かしたのは、ウェントスだった。
「……リム。人間って、やっぱり、快楽的な行為を望むものなのかな」
「どういう意味? それは、気持ち悪いよりは、気持ちいい方がいいとは思うよ」
「だから……さっきのビデオみたいな事、リムだって望んだりするの?」
 切実な表情で、ウェントスはリムに尋ねる。その切実な瞳をじっと見つめた後、少しおかしそうに笑いながら、リムは言った。
「うーん……ないね、それはないよ。確かに好きな人とエッチするなら、私は気持ちいい方がいいよ。でも、それは優先順位的には、六番目くらい。あんまり大事なことじゃない」
「でも……」
「ウェン、いい? ああいうビデオは、作り手さんには色々な意図があったとしても、私達にとっては、そういうパフォーマンスでしかないんだよ」
 そういうものか。そういうものなのだろう。けれど、胸を覆う憂鬱な気分は、まだ隅の方で引っ掛かっている。
「……ウェン、私の気持ちを教えてあげる。胸に手を当ててみて」
「?」
 ぎゅう、と両手でウェントスの手を握り、リムが言葉を紡ぎ始める。
「もっと貴方を感じたい。体で感じたい。触れる肌の硬さを知りたい。匂いを知りたい。
 私を知ってほしい。私の肌のやわらかさを知ってほしい。匂いを知ってほしい。
 キスしたい。キスしてほしい。抱きしめて、抱きしめてほしい……もう、そんな気持ちが胸の中で、ごちゃまぜになってるの。
 うまく……言葉にできないな。できないけど、そういう気持ちがあるから、私はウェンと一緒になりたいって思うの」
 向き合う格好になったウェントスの胸に、リムは顔を埋め、大きく息を吸い込む。この匂いが、リムは大好きだ。
「だから、一緒に気持ちよくなりたいって思うの。ウェンは、そういう気持ち、わかる?」
「……うん。僕にも、その気持ち、よくわかる」
「よかった、その気持ちをわかってくれて。うまく言葉にできなかったけど、伝わってよかった」
 胸の奥で、シュンパティアの共感触が、確かに触れ合う。
「……ね、今は駄目? アタシ、ウェンとそういう気持ちを感じること、実感したいの」

          *

 ベッドに身を投げ出したリムの上体を、ウェントスが抱きかかえる。リムの手に導かれるまま、掌をリムの胸の上に乗せると、湯たんぽの様にじんわりと伝わってくる温度と、規則的な鼓動が、服と、豊かな胸を挟んでいても、確かに伝わってきた。
 掌で乳房を撫でられると、胸の下で、乳首が転がり、じんわりとした、それでどこかくすぐったい感触が広がってくる。
「あっ……んっ……」
 快感の漏出が、キスによって唐突に防がれる。声に出して快感を表現したがったが、押し込められる様に、内側に押し戻される。
 大人らしく発達した部分と、まだ子供らしく丸みのある部分が同居するリムの体は、少しアンバランスとも取れるかもしれない。
「……私の体って、変じゃないかな」
 少しだけ不安そうに尋ねるリムに、首を横に振って、ウェントスは答えた。
「そんなことないよ、君の体、抱きしめていて僕は楽しいもの」
「……それって、褒めてない……んっ……」
 今まで服の上から揉んでいた手が、そっと中に入り込んで、今度は直接揉みはじめる。
「はっ……ああっ……」
 ウェントスの愛撫は基本的に、優しさといたわりが恥ずかしい位に伝わってくるのだが、シュンパティアのせいで、気持ちいいところは即座に伝わってしまい、そこを攻める時は、本当にぐいぐいと攻めてくる。
 二本の指で乳首をつまみ、その爪が、ピンク色の乳輪の上で円を描きながら、時折抉るように乳首の根元に軽く食い込む。
「ひうっ! そ、そこぉ……だめ、胸、だめだってば……」
 もう一方の手が、胸の谷間からゆっくりと鳩尾を通り、控えめに窪んだヘソに行き当たる。そこからさらに下ろうとする指が、リムがあと少しと思ったところで、止まる。
「……リム? いいよね?」
「いまさら……そんなこと聞くことないでしょ? 私は……いつでもいいよ」
 両手でスカートの裾をつまみ、ウェントスにもよく見える様に、ゆっくりと捲し上げる。ミニのスカートの中で、女性の秘所を隠していたショーツが、露わになる。
 股間の部分には、じんわりと蜜があふれ、薄布の本来の機能を、一層奪って透けている。
「……」
 生唾を飲み込むと、濡れてできた筋を、つつ、と下から上になぞっていく。
「んんっ……! ウェ、ウェンばっかり……ずるいよ……」
「……え?」
「さっきから、私ばっかり……ウェンも、恥ずかしいところを見せてよ」

             *

 ジジ、とファスナーを下ろすと、既に血液を送り込まれて、抗いがたい生理現象を発生させていた男根が、跳ね返るようにズボンから姿を現す。
「わっ……あらためて見ると、男の人って、こんなに凄い大きくしちゃうんだね……」
「ご、ごめん」
 人間社会の常識がよくわかっていないメリオルエッセ、というか彼自身の習性で、ついつい謝罪の言葉を述べてしまう。そんなウェントスの仕草は、リムにはむしろ、可愛らしく映る。
「別に責めたわけじゃないって。それよりも……んっ、嬉しいなぁ」
「嬉しい?」
「うん。さっきのビデオを見てた時は、全然反応してなかったでしょ? でも、今は私でこんなになってくれたんだ。だから、嬉しい」
「君が綺麗だからだよ、きっと」
 微笑んで、事も無げに言うウェントスだったが、リムは赤面し、言葉を濁らす。
「うぅ〜……そ、そういうことは、もうちょっとオブラートに包んで言って。……嬉しいって言えば、嬉しいけどさ」
 そういってリムはそっぽを向く。そういうリムの仕草も、ウェントスは好きだ。
 横を向いたリムの顔に、自分の両手を添えて、自分の方に向き直らせると、今度は不意を突くように、リムの唇に自分の唇を重ねた。
 今日のウェンは積極的だ。互いの下と下が、繋がった口腔と口腔の間で、舌と舌がダンスを踊るように交じり合っていることを実感している中、ふと、リムの頭の中に、声が響いた。
「(クリス、クリス。そろそろアタシにも代わってよ)」
 リアナの言葉に、クリスは抗議する。
「(えー……これから、これからなのに……)」
「(ウェンを独り占めはルール違反。そうじゃなかったっけ? すぐにまた代わってあげるから)」
「(……わかった。ウェンを、お願いね)」
 ふっ、と一瞬リムの体が弛緩したように震えると、ウェントスは、その変化を察した。
「……リアナだね?」
 答える代わりに、リムの手が、いまだ硬度を保っている陰茎を、包み込むように握った。
「どっちでもいいじゃない? アタシの気持ちが、リムの気持ちなのは変わらないんだから。それより……」
 ぎゅっ、と手に力が込められ、親指は鈴口に添えられて、まずはゆっくりと動き始める。
「あっ……くうっ……!」
 逞しい硬さを持ちながらも、どこか、昔流行ったスライム状の玩具を思わす柔らかさが、面白くも感じる。
 だが、それ以上に、こうやって自分の手で、ウェントスが快感に震え始めているという事実が、攻撃性の強いリアナを興奮させる。
「あらためて見ると……男って、こんなに凄い大きさにしちゃうんだね」
「ご、ごめんなさい……」
 不敵な笑みを浮かべながらの責めに、またもウェントスは謝っていた。そんなウェントスの様子に、リムはますます目を光らせる。
「ここをこうすればいいのかな?」
 揉み解すように動いていた手が、上下運動へと変わってゆき、じんわりと、先端から透明な液が溢れ出してきた。
「ふふっ……やっぱり、ウェンも男の子だよね。もうすっかり興奮しちゃってるんだ」
「は……うっ……」
 ぐりぐりと鈴口を人差し指で引っ掛かれ、思わず情けない声を出してしまう。
 しかし、ウェントスもされるがままに甘んじたくはない。
 ちょうど目の前で揺れていたリムの乳房に吸い付き、乳首を上下の歯で、甘く噛んで捉える。
「ひゃあ!? む、むねぇ、いきなりぃ……」
 いきなりの胸への攻撃に、リムの男根を弄る手も、思わず鈍る。リムは乳首があまり強く無い事を、ウェントスはよく知っている。
 喜悦に体を震えさせるリムに、追撃を入れるように、潤い始めた陰裂に、手を宛がう。
「あっ……はぁっん……! や、やめ、ウェン……!」
 自分がやられたのと同じ要領で、クリトリスを二本の指でつまみ、人差し指の腹でさすっていく。
「はう……うぁっあ……! あっ……やっ……!」
 ぎゅう、と指で陰核を押さえつけながら、二本の指を膣の入り口辺りで擦り、不意に、薬指を膣口に突き立てる。
「やっ……ああっ……!」
 もう少し、もう少しリムには気持ちよくなってほしい。
 そう思いながら、リムの秘部を責める手に力を込めようとした時。
「ま……まって、ウェン」
「ん……?」
 風邪を引いた様に頬を赤くし、目を少しだけ、とろん、とさせながら、リムはウェントスに言った。
「指じゃなくて……こっちで……お願い……」

                         *


 服を全て脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿になり、ベッドに身を横たえると、さっきから性的な交渉をしているのは変わらないというのに、
再び羞恥心がこみ上げてきた。
 申し訳程度に両手を胸の前で組むが、いくら腰をくねらせても、隠し様のない部分は、どうしようもない。
「電気、消した方がいい?」
 ふるふると、リムは首を横に振る。
「恥ずかしいけど……このままでいい。ウェンの顔、見えないとやだから」
 リムの体を覆いかぶさる形でその様子を見ていたウェントスは、リムの両のふとももに手を添え、まずはほんの少しだけ、
リムの秘裂が確認できる程度に、両足を割り開く。
 自分の陰茎を、狙いをつけるようにリムの秘部にあてると、まずは緩やかに、互いの性器同士をこすり付けあう。
 くちゅくちゅ、とどちらからともなく溢れた液が、リムの女性器の上でかき混ぜられるように絡み合い、卑猥な音を立て始める。
 まずは、上下になぞるように自分の男性器を擦り当てて、ぴくん、とリムの両足がわずかに開いたのを見て取ると、今度は押し当てるように、動かしていく。
 ちょうど膣口に亀頭が押し当てられた時、軽い驚きと期待が入り混じった様な感覚が、リムの胸の奥ではじけた。ほんの少しだけ、入り口を押し開くように力が加えられたが、
挿入が開始される前に、離れていってしまった。半端に高ぶった興奮が、燻った切なさと、次の期待に分かれて、変な形に絡み合う。
「あ……あの、リム。今、言うことじゃないかもしれないけど、言ってもいいかい?」
「……何? 言って、ウェン」
 耳元に顔を近づけ、自分にも聞こえないような小さな声で、ウェントスは囁いた。
「君と一緒にこうしていると、心が満たされるんだ。君を好きになってよかった。ありがとう、リム」
「――」
 初めから上気していた頬が、ますます激しく紅潮する。
「わ、私も、アタシも、その、ウェンと、ウェンを好きになって……よかった。……大好きよ、ウェン」
 なんとか、それだけ搾り出すと、リムはウェントスの肩に手を回して抱きつき、思い切り、口づけを交わした。
 たっぷり、気が済むまで、ずっと唇を重ねていた。どちらから先に体を離したのか、よく思い出せない。
「……来て。二人で、気持ちよくなろう」
 自分の両膝を抱えて、今度はウェントスの方からもよく見えるように、しかしほんの少しだけ内股気味になって、秘所を晒す。
「……」
 今度は、しっかりリムの膣口に宛がい、ゆっくりと腰を落としていく。
「あっ……くうっ……」
 徐々に亀頭部分が自分の膣を押し広げていく感覚を、リムは感じていた。
「んっ……あっ……はぁっ……!」
 嗚咽を漏らすリムの様子を逐次見ながら、深く、ウェントスは腰を落としていく。
「(僕の……入ってく……リムの中に……あったかい……)」
 ウェントスのモノを受け入れ、蠕動するザラザラとした膣内のあたたかさを感じながら、まずは進めるところまで、
自分の腰を落としていく。
「はっ……はっ……ああっ……」
 まずは、ピッタリと互いの体が密着するまで深く挿入し、腰と腰が擦れ合う感触を確かめると、
亀頭のカリの部分がギリギリまで引き出していく。
 ぬるぬるとした膣内から陰茎が引き出されるリズムに合わせて、リムの口から、切なげな嗚咽が漏れる。
「(もう……一度……!)」
 今度は、膣襞を刺激することを意識しながら、膣の上部に亀頭を擦り付ける形で挿入を深めていく。
「! ひぃあっ! い、いまのっ……すっ、すごい……あああっ!」
 リムの声から、遠慮がなくなってきた。その反応を待っていたとばかりに、ウェントスの腰を動かす速度が増す。
「あっ、ひっ……! ウェン、きてるっ、私の中にぃ!」
 ベッドに投げ出されたリムの両手を、ウェンが強く握り、一層腰を強く打ちつけ始める。キシキシだった膣内も、今は愛液が挿入を助け、
より深い結合を可能にしてくれる。
「(あっ……ここっ……!)」
 奥に突き入れる度、コリコリとした感触が伝わり、ここが一番奥なんだな、と感覚的に分かった。挿入された陰茎が奥に当たる度に、
ウェンはさらにもう一度強く押し付けて、深い部分に刺激を伝える。
「あぅ、くぅ、ウェン、私、アタシ、おかしくなっちゃいそう、だから、抱きしめて! ぎゅって、抱きしめて!」
「抱きしめる、よ……リム……絶対に……離さないからっ!」
 真っ白なシーツの上に投げ出されたリムの肢体を抱き寄せ、力いっぱい両手で抱きしめる。
 抱き寄せる行為と、挿入する行為を同時に行い、一番深い所を、熱い滾りがこみ上げてくる感覚に任せて、ウェントスは深く突きこむ。
「はぁぁぁぁぁぁぁ! ……あっ……あ……」
 熱い精液が子宮を叩き、じんわりとした安堵感を、同時に広げていく。
「はっ……はっ……」
 二人の吐息が交じりあい、その呼吸のリズムに合わせて、体から力が抜けていく。
「ウェ……ン……」
 溢れ出た精液が、いまだ陰茎が引き抜かれていない膣穴から、少しずつ、筋を引いてこぼれてくる。
 もう少しこのまま、溢れ出るまま、繋がったままでいよう。
 そう思いながら、力が抜けつつある手に、いま少し、力を込めた。
「大……好き……♪」
 そう呟くと、愛しい人の匂いを、思い切り、息が続くまで吸い込んだ。

              *

「ねぇ、リム?」
「何?」
 ベッドに身を横たえながら、ウェントスはリムに尋ねた。
「セックスに求める気持ちよさは、六番目くらいって言ったよね」
「そうだね。好きな人と、気持ちいいことを共有するって意味なら、二番目くらい。単純に気持ちよくなるだけの話は、
 あんまり興味はないかな」
「一番目は?」
「聞きたい? そんなに特別な事じゃないよ」
 ウェントスの鼻先に、キスを一つして、微笑みながら、リムは言った。
「愛してます、って伝える事。ウェンにも、ここにも」
 そう言って、リムは自分のお腹をさすった。
「あ……その……僕……」
「たーっぷり、四回もアタシに出したからね。赤ちゃんできたら、責任取ってくれる?」
「……」
 しばらくの間、口を真一文字に噤んで、じっとリムの顔を見つめた後、決然とした表情でウェントスは言った。
「取るよ。どんなことがあっても、僕は責任を取るよ」
 そんな真面目なウェントスの顔をまじまじと眺めた後、クスリと笑いながら、リムは言った。
「大丈夫よ。今日は安全な日だってわかってたから。でも……アタシ、嬉しいよ」
 そう言って、ウェントスの髪に、くるくると指を絡めた。
「ねぇ、もう一つ聞いてもいい?」
「今度は何?」
「三番目と四番目と五番目は?」
「三番目に大事なことと四番目に大事なことと五番目に大事なこと?」
 目を見合わせて、何度かパチクリとまばたきした後、にんまりとリアナが笑い、ウェントスに言った。
「五番目がウェンの髪の匂いを感じることで、四番目がウェンの髪を指に絡めて楽しむことで、
 三番目がウェンの髪でもふもふすること。というわけで……ん〜、気持ちいい〜……♪」
 そう言っていつの間にか後方に回ったリムが、ウェントスの髪に顔を埋める。
「わ、ちょ、ちょっとリム! くすぐったいよ!」
 そんな感じで、夜の間中、二人はじゃれあっていたのであった
 ――のだったが。
「あれ? リム、今そこで、何かが動かなかった?」
「え?」
 ウェントスの指差した先を、リムが眺めると、確かに、球体状の何かが、そこでころころと転がっていた。
「……ハロ?」
『ハロ、ハロ』
 緑色の、いかにも玩具らしい愛らしいデザインのロボット、ハロであった。
「な、なんでハロがこの部屋にいるの?」
「さ、さぁ……どうしてだろう」
『ハロ、ハロ。ハロ、ナニモシテナイ。ナーンニモシテナイ』
 電子的だが、愛らしい声でハロは二人に語りかける。
「……ん」
「どうしたの、ウェン?」
「今、気がついたんだけど、ハロが僕が預かった映像メディアを、咥えてたんだけど……」
「……あ、も、もしかして、オデロの差し金で、この部屋にそれを取り返しに来たの!?」
『チッ、ヤバイゼ。テッタイ、ハロ、テッタイ』
 恐るべき速度で、ゴロゴロとハロが一気にドアまで転がり、口に当たる部分からモジュールを出すと、一発でドアを開放し、脱出していった。
「あれがウッソのハロってことは……さっきまでこの部屋で起こってた事、ずっと見られてたの!?」
「かもしれないね」
「かもしれないじゃないよ! ウェン、早く着替えて! ハロを追いかけ……いや、それよりもマーベットさんに頼んで、オデロ……違う! 
 あの手際のよさは、この黒幕は間違いなくウッソ! ウッソをとっちめてもらわなきゃ!」
「そ、そうなの?」
 そうだったのであった。

                       *   

『ハロ、ハロ』
 コツン、とハロが誰かの足にぶつかった。
「ん? お前は……ウッソのサポートユニットか」
 グラキエースは、ハロを拾い上げ、両手で抱えて、語りかけた。
「こんなところで何をしている? ウッソのところに行かなくていいのか?」
『ハロ、ピンチ、カクマッテ、カクマッテ』
「かくまえ……? まぁ、いいだろう。今、部屋の中に入れてやる。……ん? なんだ? 映像メディア、か?
 ……後でジョシュアと一緒に、中身を確認するか」

                       * 

 後にこの一件は、ブルースウェアの風紀問題に深刻な影響を及ぼすことになり、『ハロのお風呂でドキドキ盗撮大作戦』と併せて、
ウッソは更に上位レベルのケダモノの称号を得るのであったが、それはまた別の話、ということで。

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

編集にはIDが必要です