「アイビス、あなた好きな人とかはいないの?」
「んぐっ! …な、なによ、突然!」
 口に含んだコーヒーを噴出しそうになるのを必死でこらえ、アイビスはツグミを見やった。
「さっき、モンシア中尉たちに言ったでしょ。私の今後の課題はあなたの人間的成長だって。恋愛修行も入ってるって」
「余計なお世話だよ」
 コーヒーを一気に飲み下し、紙コップをゴミ箱に投げ捨てる。そしてツグミから逃げるようにレクリエーションルームから足早に退散する。
「ねぇ、いないの?」
「いないよ」
 しかし、ツグミもしつこいもので、アイビスにぴったりとついてくる。
「私にはそうは思えないんだけど」
「ツグミの勘違いよ」
 自分の心を見透かしたようなツグミの言動に、アイビスは動揺と苛立ちを覚える。
(ツグミはいつもこうなんだ!)
 アイビスは自分の心の中に住み着いた男の事を、一人であっても好きだと口に出した事は無いし、また、頭では常に否定し続けていた。
 何故なら、手の届くことはない、絶対に自分に振り向いてくれる事はないと判りきっているからだ。
 だからこそ、ツグミの無遠慮な言葉がイラついた。
「私はあなたのパートナーなんだから、隠す必要は無いじゃない」
「いないったらいない! あたしに好きな男なんていないよ!」
 アイビスの歩が段々と速くなる。もうすぐ自室に着く。
 ツグミとは別々に一室をあてがわれている事を、今日ほどに感謝した日はないだろう。
「そうかしら? 私が見る限りアイビスはキン……」
「もう、うるさいよ!」
 以前のヒステリックだったころのように声を張り上げ、振り返ってツグミを睨み付ける。そして拳をドアのスイッチに叩きつけて開け放つや、
「あたしはキンケドゥのことなんて何とも思っちゃいない!!!」
 と怒鳴りつけた。
 幸いな事に周囲に人影は無く、アイビスの叫びを聞いた人間はいなかったろう。
 アイビスの部屋にいた男以外は。
「よ、よう…」
「なっ! キ、キンケドゥ!? な、なんであたしの部屋に…?」
「私が呼んでおいたの。アイビスから話があるって」
「ツ、ツグミ、あんた勝手に!」
「キーロック外したり、キンケドゥさんにお願いしたり大変だったのよ♪」
 ツグミはニコリと笑った。
 気まずい沈黙が流れる中、一人平然としているのはツグミだ。
「すまなかったな、アイビス。勝手に君の部屋に入ってしまって……悪いとは思っていたんだが」
 一番最初に重い沈黙を破ったのはやはりキンケドゥだった。彼にはアイビスが困っているのが見て取れ、それが申し訳なかった。
「べ、別にいいよ。ツグミが悪いんだし。見られて困るようなものも無いしね……」
 アイビスは顔を伏せたまま答えた。無味乾燥な部屋を見られたことはさほどショックではない。それよりさきほど口走った言葉を聞かれたのかが気になっていた。
(聞こえたよね……声大きかったし、ドアも開けちゃってたし……)
 あの言葉をどういう風にキンケドゥが受け取ったのか? それを考えるだけで気が滅入った。
(あたしがキンケドゥを好きだって風に受け取ったんだろうか? それとも、あたしがキンケドゥを嫌ってるって風に取られてしまったんだろうか?)
 抱くようにしていた両腕に、無意識に爪が食い込んだ。
「それでアイビス、話ってのは何なんだ? 君の頼みならできるだけ善処するぞ。だが、芋の皮むきをしたくないってのは却下だけどな」
 自分のあずかり知らない所で、自室に男が入り込んだ事が腹に据えかねていると思ったのか、キンケドゥはアイビスをなだめるように話しかけ、包むような笑顔を向けた。
(やめてよ……そんな風に笑いかけないでよ……)
 ドキンドキンと、小ぶりな乳房を心臓が内側から叩いてるのが判った。
 顔が紅くなった事を知られまいと、アイビスはさらにうつむいた。
 キンケドゥは困った。数々の修羅場は潜り抜けてきた彼だが、色恋沙汰はベラ一人しか経験していないため、アイビスの気持ちを理解してやる事が中々出来ない。
「う……む。……今日は出直すことにするよ」
「まぁまぁ、もう少しゆっくりしていって下さい。アイビスももうすぐ落ち着きますから。はい、どうぞ」
 出て行こうとしたキンケドゥを遮るようにツグミは立ちはだかり、手に持ったアイスティーを手渡す。
「ああ、ありがとう」
「いえいえ♪」
(アイスティー? そんなものあたしの冷蔵庫にあったかな?)
 アイビスの記憶にはアイスティーをしまって置いた記憶は無かった。が、その事を深く考える余裕は今のアイビスには無い。
 もし彼女にそのことを不審に思う余裕があれば、今しばらく処女を散らすことも無かったし、また、キンケドゥとの関係も平行線を保っていただろう。
「ささ、ぐいっと一息に」
「ひ、一息?」
「はい♪」
 何やら良く分からないツグミのプレッシャーに促されるように、キンケドゥはアイスティーを一気に胃の中へと流し込んだ。
「……ふぅ……美味かったよ。これはツグミが淹れたのか? 苦味が利いていて俺の好みだ」
「お粗末さまでした」
 ツグミは空のコップをキンケドゥから受け取ると、そのままアイビスの傍らへと移動し「ガンバってね」と耳打ちした。
 そしてキンケドゥにぺこりと頭を下げ
「それじゃ、私は邪魔者なので下がらせてもらいますね。キンケドゥさんアイビスのことよろしくお願いします」
 というと風のように去っていってしまった。
「あ、あたし一人でどうしろっていうのよ……」
 アイビスは底の無い谷底に突き落とされたような絶望感に涙が出そうになった。

 それから10分ほどたっただろうか。
 さきほどのアイビスの絶望感が嘘のようにアイビスとキンケドゥの会話は弾んでいた。
 年長者の余裕か、アイビスの緊張感を解きほぐすようにキンケドゥが彼女に語りかけ、彼女の口から自然と言葉を引き出していたからだ。
(なんだろう。すごく、楽しい)
 アイビスは初めて好きな男と会話する楽しさを知ったような気がした。
 フィリオと話していた時も似たような感覚を憶えたが、その時の比ではなかった。
(あたし、興奮してるな……。この人の言葉を聞いているだけで楽しくなってる。この人にもっとアイビスって言って欲しいって思ってる……)
 アイビスはツグミを怒鳴りつけた事を謝らなければならない。そしてこのお膳立てを感謝しなくちゃいけないと思った。
(でも、ツグミ。ツグミはあたしに告白させようとしたんだと思うけど、あたしはしないよ。あたしはこの人とこうしてるだけで満足なんだから……)
 これで満足。アイビスはキンケドゥと言葉を交えながら、その事を心の中で反芻した。自分に言い聞かせるように。
「なんか、熱いな」
 キンケドゥが会話を止め、ふとそんなことを言った。
 彼の顔は紅潮し、じんわりと汗をかいていた。そしてしきりにまばたきをし、身体がふらふらと左右に揺れ始めた。
「どうしたの?」
 アイビス自身熱かったが、それは興奮のためだとわかっていたので、すぐにキンケドゥの異常に気づいた。
「いや、大丈夫だ…」
「大丈夫には見えないよ。風邪でもひいてたの?」
「そんなことは無いさ。アイビスに風邪がうつるかもしれなかったらここには来なかったよ」
「つらそうだよ……ね、ちょっと横になりなよ」
「すまない。女の子のベッドを借りるのは心苦しいが、少しだけ横にならせてもらうよ」
「いいって」
 キンケドゥが横になるのを手伝うと、アイビスはすぐさま備え付けの冷蔵庫に飛びついた。そして氷嚢を取り出し、壁に無造作に掛かっていたタオルを巻きつける。
「はい、これで少しは楽になるかも」
 ちょこんと氷嚢をキンケドゥの額に乗せ、彼の顔を覗き込む。ぐったりとしており、つらそうに眉が折れている。
 普段の頼りがいのあるキンケドゥしか知らないアイビスにとってこれは衝撃だった。それゆえ彼女の心配は果てしないものだった。
「どうしよう……ドクターを呼んでこようか?」
「いやいい。それより……」
 キンケドゥ心配そうに自分を覗き込むアイビスの手を取り、ぐいっと引き寄せた。
「うわっ」
 アイビスはベッドに倒れこむかたちになり、気づけばキンケドゥの逞しい腕の中にいた。
「!?!?!?!?」
 何が起きたのか理解出来なかった。今自分がどこにいるのも判らなかった。
 ただ感じられたのは、頬にあたる厚い胸板、腰に回された腕、後頭部を撫でている手のひら、そして髪の毛に埋められたキンケドゥの鼻と唇の感触だけだった。
「それよりこうやって、俺にエネルギーを分けて欲しいな、アイビス。そうすればじきに良くなる」
 キンケドゥがアイビスの髪の香りを嗅ぎ、腕に力を込めて強く抱きしめる。
(いっ……く、な、こ、こ、これって……どーいう状況!?)
 アイビスは動けない。キンケドゥの力が強いのではない、身体はマネキンのようにカチコチになってしまっているのだ。
 じわりじわりとキンケドゥの体温がアイビスの身体に伝わり、その伝わってきた部分からアイビスの体温もかっかかっかと跳ね上がる。
 頬にあたる胸板からキンケドゥの心臓の躍動が聞こえ、アイビスの中に鳴り響く。
(このままキンケドゥの身体の中に入ってしまうんじゃないだろうか……)
 そんなことをアイビスは思った。
(そうなればいい。そうなってしまえばいい。キンケドゥ、あたしをあんたの中に入れてよ!)
 アイビスは身動きも、声も出せない代わりに、心のなかでキンケドゥに叫んだ。心の中で何を言っても彼には聞こえないのだから。
「こ、こんな、ので本当に元気に、なるの……?」
「なる。男は女を抱きしめれば元気になるものさ」
「あ、あ、あ、たし、みたいなの……でも?」
「アイビスのような娘なら、男はみんな格別元気なるさ」
「そっ……かぁ……」
「俺はさらに、……もっと元気なるけどな」
「へ?」
 アイビスが間の抜けた声を上げると、不意にキンケドゥの手がアイビスの顔に触れられた。
「わっ」
 そして幾度かさわさわと撫でられ、尖った顎に手を添えられるや、キンケドゥを見上げるかたちにさせられる。
「ところでな、アイビス。こうして君を抱きしめているより、ずっと元気になる方法があるんだが、協力してくれるか?」
 ほんの数cmの空間を隔てた先に、キンケドゥの顔があった。優しげな微笑を浮かべ、アイビスの瞳を覗き込んでいる。
 いつも自分を見守ってくれている時の笑顔。アイビスの一番好きな表情だった。
 自然とアイビスの瞳は潤む。
「うん…」
 アイビスは期待半分、怖さ半分の気持ちで肯いた。
 キンケドゥのいう抱きしめるより「もっと元気になること」とは何なのか、もしやキス? いや、もっと先の行為かもしれない。
 刹那、アイビスの脳裏に裸で抱き合っている自分とキンケドゥのビジョンが走る。
(な、何、考えてる! あたし!)
 顔がりんごのように真っ赤になり、心臓が大暴れする。
(キンケドゥがそんなことするわけないだろ! キンケドゥにはベラ艦長がいるんだから……)
 キンケドゥの顔がゆっくりと近づく。
(こ、このままじゃ、くっつく。唇がくっつくよ、キンケドゥ!)
 アイビスは瞳を硬く硬く閉じた。
 その表情は口づけを待つ少女というより、ジェットコースターやホラーハウスで目を瞑る子供のようだった。
 そして、キンケドゥの唇がアイビスの唇に重ねあわされた。

(嘘! あたしキンケドゥとキスしてるの!?)
 興奮のあまり、キンケドゥのジャケットの裾を握り締める。
 全身がフルフルと小動物のように震えているのが自分でもわかった。
(男の人の唇ってもっと硬いのかと思ってたけど……柔らかいな、キンケドゥの唇)
 しかし、アイビスがファーストキスの感動に打ち震えている時間はあまりにも短かった。
 ぬるりとしたものがアイビスの唇の合わせ目を這ったのだ。
 アイビスは驚き、キンケドゥから顔を離そうとしたが、いつの間にか顔をがっちりと押さえられていた。
 ぬるりとしたものがアイビスの唇を這い、液で湿らせていく。並びの良い白い歯がつつつとなぞられて行く。
(これ、舌だ)
 アイビスはようやっとこの滑り気を帯びたものの正体が判った。そしてそれが自分の口に入りたがっているのも同時に理解できた。
「ん、ふぅ」
 アイビスは緊張で硬く閉じていた口を軽く開けた。すると、すぐにキンケドゥの舌がぬるりと入り込んだ。
(うわぁ! 中に入ってきた!)
 そしてアイビスの口内を愛撫し始めた。
 秘境を探検する冒険家のように、キンケドゥの舌はアイビスの口中を縦横無尽に這い回り、奥で縮こまっていた秘宝を絡め取った。
「んぁん」とアイビスとキンケドゥの合わさった唇の隙間から、黄色い喘ぎがこぼれる。
 ざらついた舌が擦り付けられる。こそばゆいのに何とも気持ち良く。マッサージを受けているようだった。
(ずっとこのままでいたいよ)
 アイビスの舌も積極的に動き始めた。キンケドゥの舌に自分から擦りつき、巻きつく。
 と、キンケドゥの舌がついさっきよりずっと濡れていることに気づいた。キンケドゥはアイビスの口内に唾液をたっぷりと流し込んだのだ。
 アイビスはそれを享受し、コクリコクリと飲み下していった。
 そのまま二人はきつく抱擁しあい、しばしディープキスに熱中した。互いにハァハァと昂ぶった息をぶつけ合いながら、唾液と唾液を絡ませ、口内でねっとりと溶かしあった。
 暫くしてキンケドゥが唇と身体を離した時には、アイビスは口元に垂れた唾液を気にもせず、初めての接吻の余韻に浸るようにぼんやりと天井を見つめていた。
 その様相は男であれば発情せずにはおれないものだろう。ましてやツグミによって一服盛られているキンケドゥの場合は尋常なものではない。
 背中とベッドの隙間に手を差し込み、アイビスの上半身を起こすと、ジャケットとビスチェを難なく脱がし、またベッドに寝かした。
(あたし脱がされてる……キンケドゥに全部見られてしまうんだ)
 アイビスは自分が脱がされていることを自覚していたが、キンケドゥの自由にされていた。
 頭が霞み掛かっているようで、上手く考え事を出来なかったし、キンケドゥに好きにされているのが堪らなく心地良かったのだ。

 ブーツもソックスもホットパンツも脱がされた。今やアイビスの身体を覆っているのは、ぐっしょりと濡れているショーツだけになった。
 アイビスの身体にはほとんど贅肉が付いていない。引き締まっていて、少年の身体に女性らしさを加えたような感じだ。
「綺麗な身体だ」
 アイビスの肢体をじっくりと観賞していたキンケドゥの手がふわりと柔肌に触れる。
「あ」
 ピクリと身体が反応する。
「フッ」
 アイビスの初々しい反応にキンケドゥは微笑を浮かべ、身体をまさぐり始める。
 あまり大きくない二つの乳房を手で包まれ、やわやわと揉まれる。
「あっふ……」
 喘ぎがこぼれる。けれどそれは自分の声じゃないような気がアイビスにはする。
「あっ……ぁぁ」
 止めたいのにかすかな喘ぎはどんどん唇からこぼれて行く。
 キンケドゥはアイビスの反応を確かめるように、乳房を揉みながら顔を見下ろしている。
(そんなに見つめないでよ……)
 アイビスはそれが堪らなく恥ずかしい。
 だから、アイビスは自分の乳房を見る事にした。恥ずかしさを紛らわせると思ったからだ。
 けれどそこではもっと恥ずかしい情景が繰り広げられていた。
 胸の上に小さな、それでいて柔らかい丘を作っていた乳房が、愛する男の手によって様々な形に変化していたのだ。
(うわぁ……)
 あまりの光景に、アイビスにはそれが自分の乳房だと自覚できない。感覚的には判っていてもどこか現実味が無かった。
「なんか夢見たいだ……ん、ぅぅ」
「何がだ?」
 握るようにして揉まれ、親指と人差し指の形作る円から乳房が搾り上げられる。硬くしこった乳首にキンケドゥの舌が這い、桜色の小さな乳倫を舌がぐるぐると嘗め回される。
 そして右手がさわさわと、腹部を撫でながら股間へと近づく。湿った布切れの奥に息づいている、熱く火照った粘膜の存在を調べるように愛撫してくる。
「きゃっ!」
 敏感な2箇所を同時に弄られ、アイビスは堪らず声を上げてしまう。シーツを破けんばかりに握りこみ。必死に刺激に耐える。
(すごい……キモチ良いよ……キンケドゥぅ……)
 今まで決して男が触れることの無かった禁忌の箇所に、キンケドゥの舌と指が触れ、うごめく事にアイビスは至福を感じた。
 キンケドゥとはありえない事と諦めていただけに、その感動はひとしおだった。
「アイビス、何が夢みたい、なんだ?」
 キンケドゥの顔が近づき、そう問う。彼の両手は休みもせず、未熟な乳房を揉み上げ、ショーツ越しにぷにぷにと柔らかな恥丘の感触を楽しんでいる。
「そ、それは……」
「ん?」
 キンケドゥの顔がさらに近づき、アイビスの耳たぶを口が捉える。こりこりと甘噛みし、ねっとりとした舌でくすぐる。
 アイビスは噛まれる小さな痛さと、生暖かく、ざらざらした柔らかい感触が交互に襲ってくる刺激に身悶えた。
「んんん〜……」
「どうした、はっきり言わないか、アイビス」
 秘所を嬲っていた手が不意に止まり、ショーツを乱暴に掴むや、Tフロントのようにしてアイビスの股間にぐいぐいと食い込ませてくる。
 濡れ光るオレンジの陰毛が顔を出し、食い込んだショーツの生地から充血した花びらがちょこんとはみ出る。
 くちゅくちゅと、ショーツを食い込まされるにたびにはぜる湿った水音。アイビスが漏らした淫らな粘液が、すこしづつ部屋の空気に溶けて二人の鼻腔を刺激する。
(恥ずかしい)
 文字通り顔から火が出そうになった。思わず「やめて」と言いそうになったが、口から出るのは「あっあぁ……」という頼りなげな喘ぎだった。
(あたし、こんな風にされるのも好きなのか、な……?)
 そんな事を思う。
「アイビス」
 返事の無いアイビスの言葉を促すように、キンケドゥはさらにぐいぐいとショーツを秘所に食い込ませてくる。
「だから……あんたに、こ、こんな風にされるなんて夢みたい、て……んっ!」
「ほう、そこまで言ってくれるか。光栄だな、君のような娘にそんな風に思われるなんて」
 パっとショーツから手が離れる。
(……やめなくていいのに……)
 そうは思っても、それを口に出来るほどアイビスはすれていない。ただ次の行為を黙って心待ちにし、甘受するだけだ。
(この人がする事なら何でも悦んで受け入れちゃうんだろうな、……あたし……)
 じっとキンケドゥを見つめる。アイビス自身は気づかなかったかもしれないが、その視線は熱っぽく、淫蕩で、次の行為を心待ちにしているのがキンケドゥにありありと伝わった。
 キンケドゥがベッドから離れ、ジャケットを脱ぎ捨てる。その下にはシャツを着込んでおり、布地の下からでもわかるようにキンケドゥの身体は鍛え上げられていた。
「けっこう筋肉あるんだ」
「まあな」
「カッコいいよ……うん。カッコいい……」
「ありがとう」
 アイビスはキンケドゥの鍛え抜かれた身体に見惚れた。と、同時にあの身体はベラ・ロナを守るために鍛えたという事も気づいた。脳裏にベラの顔が走る。その顔はどこまでも美しく、そして高貴だ。自分とはまったく違う女性。
 小さな胸が嫉妬と罪悪感でちくちくと痛み出す。
(やっぱり……もうやめようかな……)
 キンケドゥがズボンのジッパーを下げ、硬く勃起したペニスを取り出す。
(なんだか今日のキンケドゥちょっと変な感じもするし……)
 キンケドゥはぼんやりとそんな事を考えているアイビスの横に腰を下ろすと、寝転がったままのアイビスの腰を掴んで引き寄せた。ベッドの端に座っているキンケドゥに膝枕をしてもらっているような格好になる。
「アイビス、今度は君が俺にしてくれないか」
 アイビスの髪を撫でながら、キンケドゥは言う。
 髪を撫でられながら、アイビスの視線は目前のキンケドゥのペニスに釘付けになる。男性器の形は断片的な知識でおぼろげに想像はついていても、明確な形は今始めて見るアイビスだった。
(何か、血管浮き出てるし、先っぽだけ色とか違うし、こ、こんな形だったの?)
 驚きを隠しもしないアイビスにキンケドゥは苦笑し、彼女の頭を撫でていた手を滑らせる。首筋を撫で、背中を撫で、臀部に到達する。
「ぁ、ふっ」
 ショーツの中に無遠慮に手が進入する。臀丘を揉みながら指が谷間をなぞり、潤った秘所をまさぐる。
 クリトリスが押しつぶされ、花弁をこねられ、アナルをくすぐられる。指が蠢くたびに、ベラに対する嫉妬と罪悪感がハラリハラリと剥がれ落ちていく。
(止めてもらうにしても、あたしばかり気持ち良くなってちゃ、駄目だよ……ね? たぶん)
 アイビスは自分にそう言い聞かせ、膝枕をしてくれているキンケドゥを見上げた。
「どうすれば、いい?」
「舐めるんだ」
「わかったよ」
 アイビスはこくりと頷き、ペニスに顔を近づける。今まで嗅いだ事の無い、不可思議な匂いがアイビスの鼻腔を突く。
(嫌な匂いじゃない……)
 舌を伸ばし、おずおずと亀頭の先を舐め始める。
(こんな感じかな?)
 アイビスはフェラチオというものは知っていた。が、当然のように浅い知識だけで、今一つ勝手がわからない。
 キンケドゥは気持ち良くなってくれているのか、アイビスは不安だった。
 表情を見て確認しようにも、ベッドの端に座っているキンケドゥの横からペニスを舐めているのだ、彼の顔はアイビスの真上にあり、ヨガの達人でも無い限り表情を見ることなど出来ない。
 そんなアイビスの思いが通じたのか、キンケドゥはアイビスの股間を嬲っていない右手で、彼女の頭に手を置き、子供を誉めるように撫で始めた。
(あ、こんな感じでいいのか)
 アイビスは俄然やる気を出し、ぺちゃぺちゃと、紅く丸いキャンディでも舐めるような調子で亀頭に舌を這わせだす。
(変な味。……苦くてしょっぱい……)
 ペニスの独特な味に顔をしかめる。けれどアイビスの舌の動きは鈍るどころか大切な我が子を慈しむ母犬のように、丹念に亀頭を舐め上げていく。
「ふぅー、ふぅー」という心地よさげな息使いや「うぅ」といった喘ぎが頭の上から降ってくるたびに、アイビスは堪らなく嬉しくなる。
(あたしの舌でキンケドゥが気持ち良くなってくれてる……あたしでも、この人のためになることが出来るんだ!)
 アイビスは宝物を発見した子供のように顔をほころばせて、フェラチオに没頭する。
 ペニスの先端は、滲み出たカウパーとアイビスの唾液によって室内の光を反射し、てらてらと濡れ光っている。
「んん」
 柔らかな舌先で尿道をつんつんと軽くツツキ、亀頭の先から管の浮き出た陰茎まで隙間無く、ねっとりと舐め回す。
「アイビス、そろそろ咥えてくれ」
「うん、……わかった」
 口を大きく開けて亀頭を口に含むと、ゆっくりと頭を動かし始める。
「歯は立てないでくれよな」
(そんなヘマしないよ)
 アイビスは無言の証明をするように、丁寧にペニスに舌を絡めつつ頭を前後させる。
 陰茎を飲み込むたびに、口の中で溜めた唾液でべっとりと濡らしすようにする。
 時折口をすぼめ、ちゅぅちゅぅと音を立てて吸い上げる。こねまわすように舌を動かし、キンケドゥのペニスをしゃぶりたてる。
「うっ、っうっく……くく」
「んふぅ……んっく、んんっく、う、……んふぅん」
 室内には男の低い喘ぎと、女の情熱的な吐息、それとお互いの性器を愛撫しあって流れる淫らな水音だけが、ただただ響き続けた。
「くっ、アイビス! 出そうだ!」
 いわゆる射精が差し迫っている。ということはアイビスにもわかった。
(あたしが、あたしがキンケドゥをイかせてあげるんだ!!)
 アイビスは大きく頭を振りながら、じゅっぷじゅっぷと音を立ててペニスを吸い上げる。
「んっ…、んん…、んっんっ」
「くっ!」
 ドクン!と口の中でペニスが脈動し、膨張するのを感じた。
 と、同時にキンケドゥの手がアイビスの顔に伸び、ペニスから引き剥がす。その勢いでアイビスはころりとベッドに転がってしまう。
 そのまま口に受け入れるつもりだったアイビスは突然の事に流石に驚いたが、もっと驚いたのはペニスから射精されたザーメンが自分の顔に直撃している事だった。
「んんっ!」
 何時の間にか自分の上にキンケドゥの股間があり、顔すぐ近くにペニスがあった。
 そのペニスがびゅっびゅっと白濁液を吐き出し、自分の髪や顔、小さな胸を白く染めていっているのだ。
(すごい量……あたしがキンケドゥからこんなに搾り取ったんだ……)
 アイビスは満足感に打ち震えながら、なすがままに黙って瞳を閉じた。男は女の顔に出したい願望があるという話は、ツグミから教授済みだった。
 キンケドゥがそうしたいならそうさせてやろうとアイビスは思う。
(良いよ、キンケドゥ。あんたが、あたしの顔に射精したいっていうなら射精させてあげるよ。あんたが、あたしを汚して嬉しいなら、あたしは、あんたに汚されて嬉しいんだ。だから……いっぱい、いっぱいかけてね、キンケドゥ……)
 ベチャベチャと粘度の高い液体がアイビスを濡らし、ズルズルと流れ落ちていく。
 ツグミの仕込んだ薬はこんなところにも効果を発揮し、とめどなく精液をあふれ出させている。止まった頃にはアイビスはすっかり白濁液まみれになっていた。
「終わった?」
 アイビスが薄めを開け、キンケドゥに問いかける。キンケドゥは「待て」と言い。指でアイビスの顔にべったりとこびりついた拭い始めた。
「眼に入ったら痛むからな」
「ありがとう、キンケドゥ」

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