私のお兄ちゃん離れ(ラウル×ミズホ)(570-577)青鳥氏


ただただ、怒りが込み上げてきた。思い出しただけでも、グツグツと心の中の“何か”が沸騰してくる。拳に怒りのエネルギーを貯め、通路の壁にたたきつけた。

 ──ガンッ!

『いったぁ〜〜!!』

 だが思った以上に壁は硬く、ただ拳を痛めるだけに終わった。赤くなった拳の痛みから発する熱を逃がすように、赤毛が印象的なスレンダーな女性──フィオナ・グレーデンはふぅふぅと涙目になりながら息を吹きかけた。
(大体、なんなのよ!ラウルとミズホのヤツ!)


 ──それは数分前の出来事。

「・・・よしっ!エターナルの整備は大体終わりね」
 いつものパイロットスーツの上着を腰に巻き、タンクトップ一枚の姿のフィオナはひょいと愛機であるエクサランスに架かる梯子から飛び下りる。
 そんな活発的な彼女を見てラージは何故か溜息をついて言った。
「フィオナ・・・たかが関節の油圧調整だけで、どうしてそんな顔に・・・」
 降りてきたフィオナの顔はまるで泥遊びをしたかのように、オイル塗れだった。
 しかし、そんなフィオナはまったく気にすることはなく、エクサランスの足元に置いてあったミネラルウォーターの入ったボトルを手にとり、大きく上を見上げようにゴクゴクと飲み干す。
「ぷはっ!いいじゃない。別に洗えば落ちるんだし」
「まあ、そうですけど、僕なら間違いなくシャワールームに駆け込んでますね」
「男がそんなこと気にしないのよ。オイルの一滴やニ滴」

  優柔不断な双子の兄とは、まるで正反対のサッパリとした性格──ラージは双子なのに、こうも違うものなのかと、人類の神秘を感じられずには入られなかった。
 エクサランス開発チームの中で一番男らしいのが、女性である彼女だった。ただ、そんなことは本人の目の前で絶対に言葉にできないのだが・・・
「・・・それより、珍しいですね。フィオナが機体の整備するなんて」
 エクサランスの整備は普段は担当整備士であるミズホが行っていた。少なくともラージはフィオナがコクピット内の計器以外を扱っているのは見たことがない。
「・・・まあね。そ、その、最近、出撃も多くなってきたし、ミズホも大変だろうなって、思っちゃて。だから、自分で出来る範囲の簡単なことはやっておこうって・・・」
 何が恥ずかしいのか、フィオナは少し照れながら頬を指でポリポリと掻きながら小さな声で言った。
 ──それは、今までのフィオナからは考えられないことだった。
 いつも自己中心的で自分の意見が通らなければ、相手に噛み付く、まさにジャジャ馬といった彼女だ。そんな彼女が、こんな心遣いをするのは意外だった。
 もしかすると、こちらの世界に来て、様々な人々との出会いが彼女を変えていったのかもしれない。
 フィオナの照れはそういった心遣いに慣れてないための恥じらいだった。そう思うとラージは微笑ましく思えてきてしまう。
「いい心がけですよ。関心します」
 そう言ってラージはフィオナに真っ白なタオルを差し出し
『しかし、女性なんですから顔の汚れは気にしたほうがいいですよ』と言葉を残し、格納庫を後にした。

  小さなラージの心遣いにフィオナは心にじんわりと温もりを感じる。
 去り際のラージの顔を思い浮かべ、小さく微笑みながら、フィオナはゴシゴシと顔を拭いた。
 気分もハッピーにフィオナは軽くスキップしながら、格納庫を出ようとしていた──が、その途中。

 ──カランカラン・・・

 フィオナのつま先に何かが当たる。

(これって・・・)

 ピンク色のかわいらしいスパナ。これはいつもミズホが使っているオーダーメイドの物だ。
 ミズホの工具はすぐに自分の物だとわかるように、ピンクのカラーリングが塗装されている。
 落としたのだろうか、と思いフィオナはミズホに届けようと、スパナを手に取りミズホがいつも休憩している、コンテナに囲まれた場所へと向かう。
 コンテナに囲まれた格納庫の端の一角にテーブルとイスを置いて作った休憩所で、この時間帯はミズホは飲み物を飲んでいるハズだった。
 だが──

 ──ギシギシ・・・

 フィオナはその休憩所に近づくにつれ、聞き慣れない妙な音が聞こえることに気がついた。例えるなら木が軋むような音だ。
(何の音なの?)
 フィオナは本能的にゆっくりと足音を立てないように音の発生源に近づき、コンテナの影から、そっーと覗き込む。

(え?)

 フィオナは思わず目を疑った。

『はぁんっ!ら、ラウルさぁんっ・・・』

 ミズホと自分の双子の兄であるラウルが息を荒げ、交わっていた。
 ミズホはテーブルに俯けの状態で上半身を預けて、後ろから突き上げるラウルの快楽に身を任せていた。  ショーツは膝まで降ろされ、胸元ははだけ、サイズのよいバストがラウルの動きに合わせて揺れている。
 ラウルはミズホのヒップをわしずかみにし、もっと深くをえぐるように、腰をグラインドさせる。
「ひぃんっ!りゃうるさ・・・ん、そこっ!そこはぁっ!」
「ミズホは相変わらず奥が弱いなぁ」
 そう言ってラウルは、ゆっくりと自身をギリギリまで引き抜くと、再び一気に突き上げる。
「ひゃんっ!」
 ミズホは目を見開き、口をだらし無く開けて、大きく喘いだ。その反応に嬉しくなりラウルは悪戯心から、ミズホの弱点を責め立てる。
 もう完全に二人の世界が出来上がっていた。
(うわぁ・・・あんなに激しくして、痛くないのかしら?)
 フィオナは本来の目的も忘れて、その光景をコンテナの影から見つめていた。ゴクリ、と自然に喉も鳴る。
 ラウルはミズホの片足を抱え上げて肩に乗せ、まるでフィオナに見せ付けるように、二人の結合部分をあらわにする。ラウルが動くたびに、淫らな雫が床に散り、マダラ模様を作っていく。
(すごっ・・・っていうか、あの二人、いつからこんな関係だったの?)
 フィオナな自身、ミズホのラウルに対する気持ちには気づいていた。むしろ、気づかない人の方がおかしいぐらい、ミズホはラウルに対して積極的にアプローチをしていた。
「ひゃ、はげ・・・しす・・・ぎっ!ああっ!」
 そのアプローチが身を結んだのか──二人はもう誰かに見つかっても、関係ないといった感じに“こと”に励んでいる。

  その光景を見つめるフィオナの心には何故かモヤモヤとした何かがあった。決して、興奮など類いではなかった。
「くっ!・・・み、ミズホ、締めすぎだぞ」
(ラウル・・・あんなだらし無くて気持ちよさそうな顔してる。あんな顔、私見たことない・・・)
 ミズホしか知らないラウル・・・そう思うとフィオナは無償に腹が立ってくる。
 二人は双子の兄妹。小さい頃から仲良しで、何をするのにも一緒だった。それが一番楽しかった。兄といる時間が。
 しかし、今、その兄は自分の知らない一面を他人に見せている。
 ──ミズホにラウルを取られた気分だった。
「み、ミズホ・・・そろそろ、俺」
「いいっ・・・い、いいですっ!・・・きゃん!下さいっ!ラウルさんのぉ、ラウルさんのをっ!はぁんっ!」
 フィオナは最後まで見ていられなかった。逃げるようにその場を去ろうと振り返る。
「イクぞっ!ミズホっ!!」
 ラウルの腰が力いっぱい打ち付けられた。

『イクっ!わ、わたひぃも・・・あぁぁぁぁあああっ!!』

 聞きたくもない絶頂の声──思わずフィオナは握るスパナをその場に落とす。
 カランっという音に慌てフィオナはその場を後にした・・・。


 そして、現在──
 フィオナはミズホに対する嫉妬で怒りの炎燃やしていた。
 壁を殴り、赤くなった拳を見つめてフィオナ考えていた。今までのフィオナなら、二人を呼び出して
『場所を考えろ!』などと、もっともらしい理由をつけて、怒りを表わにしていたハズだ。
(・・・でも、ミズホはラウルのことが好きで好きで仕方なくて・・・やっと思いが伝わったのよね。それゃ、しょうがないかぁ)
 そう思うと、徐々にではあるが、誰に向けることもできない怒りが収まっていく気がした。
 壁に背を預けて目を閉じ、ふと、小さい時のことを思い出す。
 誕生日にケーキの蝋燭を消すのを譲ってくれり、野良犬に睨まれていた自分を助けてくれたこと・・・もっと沢山あるハズだ。そんな優しいフィオナの“お兄ちゃん“なのだ。
(こんなことで怒っちゃって・・・結局のトコロ、私がお兄ちゃん離れできてないのかもしれないわね・・・)
「何やってるんですか?こんな所で」
「いっ!?」
 どれだけ真剣に考えごとをしていたのだろうか?気づけば、沢山の資料を抱えたラージがフィオナの目の前に立っていた。
「その・・・考えごとを、ね」
「こんな所でですか?」
 若干、顔の赤いフィオナを訝しげに見つめる。しかし、すぐにラージの思考は顔よりフィオナの格好に反応し、はぁ、と小さく溜息をついた。
「それより、いくら機内は空調管理がしっかりしてるとはいえ、夜は若干冷えます。タンクトップのままじゃ風邪ひきますよ」
 そう言いながら、両手に抱えた資料を一度床に置き、自分の上着をフィオナの肩に優しく掛ける。
 意識しているのか・・・ラージのちょっとした気遣いの言葉にフィオナは心が温かくなった気がした。
「・・・ねぇ、暇でしょ?一緒に食事でもいかない?何なら私が作るよ」
「・・・セロリはごめんですよ」
「にしし、どうしよっかなぁ?」


 ──気付けば自然と、フィオナはラウルにも見せたことない笑顔で笑っていた・・・。

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