ソーディアンと呼ばれる修羅達の居城が月軌道外宙域に出現し、ヘルゲートがデュミナス一派に占拠されてから幾許かの時が流れていた。
 各地を散発的に急襲する修羅の軍勢や暗躍するノイエDC残党に対処する為に、ハガネ、ヒリュウ、クロガネの乗員達は一端は散り散りとなった。
 だが、ソーディアンの絶界宝を破る術をテスラ研に居る科学者連中その他が見出した事により時局は動こうとしていた。
 オーバーゲート作戦。ソーディアン内部に転移、強襲する作戦が持ち上がり、クルー達は遅々として進まないその作戦の発動を各々自由に待っていた。
 ……その中にはアラド=バランガの姿も当然あった。

――万能戦闘母艦ハガネ アイビス私室
「このパターンなら通用しそうなんスけど……どうっスか?」
「えと、どれどれ……」
 テスラ研に居た戦闘要員のピックアップはかなり前に完了していた。アラドはハガネに戻って来たアイビスの部屋を尋ねていた。
 その用件とは、彼が独自に組んだ空戦機動の検分とそのアドバイスを求める為だった。
 人二人が入れば一杯一杯になる下士官用の個室。アラドは床に胡坐を掻きながら、デスクチェアに座るアイビスにデータの入ったディスクを手渡す。アイビスは手渡されたディスクをノート型のPCに読み込ませ、それに目を通し始めた。
「取り合えず、基本を中心に組んでみたっス。隙が出ない様に極力、モーションの数も減らしてんスけど……どうっスか?」
「うーん……」
 アラドが新規のマニューバーを構築しているのは上官であるカイ=キタムラにせっつかれた訳ではなく、教導隊の仕事と言う訳でもない。己の空戦能力に疑問を感じた上での、あくまでも自主的な錬度向上の一環だった。
 アラドのデータを見ながらアイビスは顎に手をやって思案した。ピッチ角やロール、ヨーのタイミングはTC−OSが勝手にやってくれるので、アイビスはその辺りは一切見ない。彼女が見ているのはそのモーションの組み方だ。
 そのデータを見る限り、良く作り込まれているとアイビスは素直に思った。空戦の基本は押さえているし、隙を減らす工夫だって成されている。突撃野郎のアラドにしては真っ当なモーションの組み方。だが、アイビスは何かが足りないと思ってしまった。
「どうっスかね」
 微妙にそわそわしながらアイビスの顔色を伺うアラドはそれでも真面目そうに彼女の言葉を待っている。アイビスはAM乗りの立場から一切の私情を挟まず答えてやった。
「悪くない。このままでも使える機動だと思う。でも……あたしに言わせれば、これは既存の機動に毛が生えた程度のモノだね。何ていうか、アラドらしさが感じられないよ」
「お、俺らしさっスか?」
「そう。教科書のお手本をそのままなぞったって感じ。それが悪いとは言わないけど、慣れたパイロットが相手だと直ぐに見切られそうだよ」
「う、うーん……」
 きっぱり言い切られてしまったアラドは頬を掻いた。元々、カリオンに乗っていたアイビスは自分に比べ、空戦には一日の長がある。旧西暦では宇宙飛行士が優秀な戦闘機乗りで多く構成されていた事を鑑みれば、彼女の言は間違い無いモノだった。
「でも、組み方は悪くないんだよねえ。……これ、ちょっと手を加えさせて貰って良いかな?」
「へ?え、ええ。どうぞ御自由にっス」
「一、二箇所、スパイスになるモーションを加えれば、がらっと変わるんだけど……」
 手を加える場所は多く無いが、それを見極める為にアイビスはアラドの組んだ機動を頭から見直し始めた。キーを叩きながら作業にのめり込むアイビスは普段の犬っぽさは微塵にも感じられなく、頼もしいお姉さん的な空気を醸し出していた。

「・・・」
 アラドはアイビスの横顔をじっと見入っていた。
 今回の様に機動作成のアドバイスを頼む事を、アラドはそれこそ何度と無くアイビスに依頼していた。それとは逆に、アイビスからアラドに地上戦のモーション作成の手伝いを依頼された事だって少なからずあった。
 アイビスが空戦のエキスパートである様に、アラドもまた搭乗する機体の特性上、地上戦に於いてはゼンガーやキョウスケに並ぶ程の腕を誇っているからだ。
 そうやって何度もデータの共有や構築作業をしていれば、互いの持つ癖と言うのは筒抜けになってしまう。彼女がアラドのデータに手を加えられるのも、或る意味当然だった。
 だが、彼女とアラドは当たり前だが、最初からこうやって気心が知れた仲では無かった。

 ……アラドとアイビスの馴れ初めは数ヶ月前のインスペクター事件に端を発する。
 片やノイエDC上がりの落ちこぼれPT乗り。片や夢物語とレッテルを貼られるプロジェクトの肩身の狭い万年ナンバー04。
 お互いに屁垂れだと言う事が共通事項にあり、その辺りから二人は意気投合した……と言う訳では無い。そして、大食漢と甘い物限定の健啖家と言う点で仲良くなった訳でも無かった。無論、今ではそうだが、そもそもの始まりは別にある。
 彼らが仲良くなったのは単純に二人が戦闘に於いて常に共にあったと言うだけだった。時折、ミスを犯して被弾しそうになったアイビスをアラドは何度も庇っているし、逆にアラドが討ち漏らした敵機をアイビスが始末すると言う事がそれこそ無数にあったのだ。
 ツインを組んで大物ユニットを修行込みで撃墜する事も多く、裁判官や緑ワカメ、星若本を共同撃墜したのは二人にとっては輝かしい戦果としてレコードに残っているのだ。
 ……だが、そんな二人の仲を訝しむ者は一人だって居なかった。
 戦闘が終われば、彼等は落ちこぼれと負け犬に戻ってしまう。そんな二人がつるんでいる様は、第三者には駄目姉と愚弟と言う構図にしか映らなかったのだ。アラドの本来のパートナーであるゼオラだって、二人の仲を疑う様な真似はしなかった。
 しかし、実際の彼等はと言うと……
「?……どうしたの?あたしの事、じっと見て」
「へっ?……ぁ、いや、そ、そんなにジロジロ見たつもりは無いんスけど」
「いや、見てたよ。……そんなに見詰められると、お姉さん照れちゃうな」
「う……申し訳無いっス」
「いや、別に良いんだけどさ」
 何時の間にか魅入られた様にアイビスを眺めていたアラドはその本人に窘められ、少しだけ照れた様に頭を垂れる。だが、アイビスはそんなアラドの視線を満更とも思っていなかった。
 ……この様に、結構只ならぬ空気を二人は発していた。
「……うん。やっぱり、此処かな。終盤のモーション。此処を……」
 アイビスは手を加える冪場所を見出す。その場所をどう改変するかを頭に巡らしつつ、アイビスはデスクの上にあったケースに手を掛けた。
 それは可愛いデザインのシガレットケースで、アイビスはその中から一本取り出すと口に咥える。
「ライターは……あれ?……ねえ、アラド?火、持ってない?」
「え?あ、ああ……どうぞ」
 だが、デスクには煙草はあってもライターの類は無かった。助けを求める様にアイビスはアラドに火を強請り、アラドは自前のオイルライターでアイビスの煙草に火を点けてやった。
「ん……ふはあ。……どうも」
 先端の火を、フィルターを吸って大きくしたアイビスは口から紫煙を吐き出した。
「……アストロノーツが煙草って、やっぱり褒められた事じゃない様な気がするんスけど」
「何言ってるの。君もそうでしょう?お酒も煙草も……あたし以上に消費してる」
「前の大戦の時はそうっだったっスけど、今は自愛してるっス。……これでも未成年っスから」
「何よそれ」
 ぷかりぷかり煙を燻らすアイビスはアラドの言葉に顔を少し綻ばせる。彼等は揃って未成年の範疇だが、既に酒にも煙草にも手を染めている。その手の悪い誘いはハガネやヒリュウに乗っている限り頻繁にある。
 悪い大人達が乗っているのだから、当然と言えば当然だ。しかしながら、アラドもアイビスもそれら悪い嗜みを覚えたのはこの部隊に配属される前だった。
「これでも、一時期止めてたんだよ?……でも、やっぱり戦闘が起こると抑えられなくなる。我ながら意志が弱いと思うけど、どうしてもね」
「判る気がするっスね。……スクールに居た頃は毎日の様にそれに逃げてた。今もきっと、そうっスわ」
 アイビスの言葉に相槌を打ったアラド。その気持ちを何となく理解するからだ。
 常に抑圧され、死と隣り合わせの前線で戦う兵士にとって、ストレスの問題は常に大きく付き纏う。アラドもまた、多大なストレスを抱えていたスクール時代に酒や煙草に逃げ道を求めた事は否定したくても否定出来ない事実だったのだ。
「……重たいね、君が言うとさ」
 アイビスはそんなアラドの言葉を悲しそうな顔で聞いていた。

「そういやあ……アイビスさんは何時から吸ってるんスか?」
 アラドとしてはそんな重い話を語る気は毛頭無いので別の話題をアイビスにふっかける。それは彼女の喫煙歴についてだった。
「ん〜〜?……お赤飯が来てから一、二年後」
「……って事は、ニューヨークに居た時に?」
「うん」
「……その辺は謎っスよねえ。何があったんスか?」
「あはは。うんまあ、やんちゃだったって言うか、やさぐれてたって言うか」
 アイビスは随分と喫煙歴が長いらしい。チェルシー育ちのニューヨーカーであるアイビスがどんな幼少時代を送っていたのか、アラドは興味が尽きなかったが、それをアイビスの口から聞く事は出来ない。はぐらかされてしまったからだ。
 アイビスは最後に一吸いすると煙草の火を灰皿に押し付けて鎮火する。そうして、灰皿をデスクの端にずらすと、キーボードを指で叩いた。

「……よし、完成。これでどうかな?」
「出来たんスか?……えーと」
 雑談をしている裡にアイビスによるモーションの修正は終わっていた様だ。アラドはその出来を見る為にノートのディスプレイに顔を寄せた。
「八番のモーションをスプリットSに変えてみたんだ。ただ普通に旋回するよりは意表を突けるでしょ?」
「下に逃げるって事っスか。……で、再び下から敵機の前に現れる、と」
「ラストは高速で上空に逃げる。……どう?これなら中々捕捉されないよ?仮に何かされてもビルガーの装甲ならどうにでもなるし」
「……うん。良いっスね。良いっスわ」
 流石はアイビスだった。自分では思いつかないモーションを組み込み、空戦機動を洗練させたその辣腕は、とてもでは無いが普段の彼女からは想像も付かないモノだった。
「どう?……少しはお役に立てたかな」
「そりゃ勿論!……でもこれ、結構機体を選びそうな機動っスよね。このタイミングでスプリットSってテスラドライブを積んでる事が前提条件の様な」
「特機タイプでも無い限り、空を飛べるのにテスラドライブを積んでない機体を探すのは逆に難しいよ。それに今更、アラドがビルガー以外の機体に乗るって事は考えられないしね」
「まあ、そうっスよね。……量産ヒュッケとかにも応用出来そうっスわ、これ」
 アイビスの助けもあって、アラドは何とか新たな空戦機動を完成させる事が出来た。何故かアラドは自分の空の地形適応が上がった気がしたのだった。

「何かさ、最近頑張ってるよね。君って」
「そうっスか?」
 モーションデータの構築を終えたアラドは最早、アイビスの部屋に留まる理由は無かった。だが、アラドを引き止めたいアイビスはそんな事を言って雑談を展開し始めた。無論、雑談とは言っても適当な話では無いが。
「うん。あたしにはそう見えるかな」
「・・・」
 確かに、アイビスの言う通り、アラドは戦闘に於いては必死だった。我先に敵陣の頭に飛び込み、斥候を薙ぎ払いつつ敵の中枢部に突入する様は最早、見慣れた絵だ。アイビスはそんな彼の直ぐ横に付いて、サポートに回る事が日常茶飯事だった。
 ……何時の間にか決まってしまった役回り。だが、アイビスはそれを疑問に思う事等はせず、ただ黙ってアラドの直援として彼と一緒に戦場を駆けていた。
「いや、最近って言うのは違うか。アラドは……インスペクター事件の頃から頑張ってたよね」
「あの頃は……まあ、生き延びる為に必死だったって言うか」
 気の無い返事を返すアラド。既にその辺りからアラドは自慢の突進力を活かして切り込み隊長をやっていたのだ。そして、アイビスもまたそれは同じだった。
 幸運の女神……否、或る意味彼等の後見人と言っても過言ではないプレイヤー様に愛されているのか、彼等はどんな激戦や死地からも生還を果たし、誰もが認める戦果を上げていたのだ。
 ……アラドとしては、それは別に褒められる冪話題ではない。ただ、自分の持つ力と可能性を最大限に引き出し、命を燃やして戦場を駆けていただけだ。その見返りとして、成果がついてきただけなのだ。  だが、傍らでアラドを見続けてきたアイビスは当然、アラドがそんな事を言うのは予想済みだった。
「それに頑張ってるって言えば、アイビスさんもそうでしょ?逃げ遂せ様とする敵機をそのスピードで以って追い詰めて撃墜するその姿。……正に猟犬って感じで格好良いっスわ。……別に機体名に掛けた訳じゃないっスよ?」
「格好良いって……あはは。こそばゆいなあ」
 持ち上げられる事に成れていないアラドは自分の背中を守る二番機と言っても過言ではないアイビスを褒めちぎった。世辞でも胡麻擂りでもないそれにアイビスは恥ずかしそうにはにかむ。年下の可愛いアラドにそう言われるのはアイビスだって満更じゃあない。
 猟犬座の名を冠するアステリオンの如く、猟犬となって戦場を飛び回るアイビスの姿に、アラドは確かに憧れを抱いていたのだ。
「あたしもさ……戦いでアラドをそう思う事、あるよ?」
「え?」
 だが、アラドがそうである様に、アイビスもまたアラドに羨望の眼差しを向ける事は多々あったのだ。自分の様にプロジェクトの看板を背負って飛んでいる訳では無いアラドの翼はアイビスには眩しく映る時がある。
「ビルガーの高機動モードの時何かは特に。足先から翼の先まで……それこそ機体全体で風を感じてるみたいだ。……あたしが目指してるのは星だけど、ああ言う飛び方は憧れるよ」
 アイビスは切にそう思っていた。嘘偽り無い感想だ。星を目指す自分にとって、空は所詮は通過点に過ぎないモノだが、アラドの縦横無尽な、荒々しくも洗練された美しい飛翔は自分の心を掴んで余りある。……そう語っていた。
「はは。まあ、アレはミロンガ並の運動性が無いと無理な機動っスからねえ。俺でも長時間アーマーパージを続けてたら血を吐くっスもん」
 アラドは若干真剣なアイビスに冗談とも本気ともつかない惚けた答えを以って返す。それは照れ隠しか……或いは、それを絡めた本気の発言とも取れた。
「うわ」
 ……微妙にだが、ビルトビルガーは危ない機体であるとアイビスは思ってしまった。アーマーパージでミロンガ並みの運動性を得るビルガーは中の人には優しくない機体なのだろう。
 頑丈さが取り得のアラドでさえ吐血の危険性があるのだから、自分が乗ればそれこそ潰れて拉げた赤いトマトになりかねないとアイビスは本気で背筋を振るわせた。
「まあ、良いけど。……じゃあ、アラドはどうして新しい機動を作ったの?今のままでも十分エースとしてやれてると思うけど」
「それは……」
 少しだけ突っ込んでアイビスはアラドに問うた。今回の新機動の作成に当たってはどんな心が働いたのかと言う事だ。
 実際、アラドは一線で活躍するトップエースなので、今回の様な新しい機動をこさえなくとも、全く問題が無いと言う事をアイビスは知っているからこそ、敢えてそれを問い質した。アラドは目を細めて言葉を濁し、発すべき語呂を探している様だった。
「生き延びる為?」
 中々言葉を返さないアラドに、アイビスは正解を探る様に言葉を紡ぐ。
「いや、それもあるけど、今は違うっスよ」
「それは」
 そして、それは半分だけ正解だった。昔はそうだったのかも知れないが、今のアラドにはそれ踏まえた上での確かな目的がある。アイビスは答えをせがんだ。
「上手く言えないけど……誰かを守れる力が欲しい。……そんな処っスよ」
 アラドは戸惑いを見せつつも、そう答えた。人が力を欲する理由は様々だが、アラドのそれは実に判り易い、或る意味王道的な理由だった。
「それって、やっぱゼオラ?」
 アラドの言葉を受けてアイビスは自然にそう言っていた。アラドが守りたい誰かとは誰なのか?彼女の脳裏に真っ先に浮かんだのは彼のパートナーである巨乳の幼馴染だ。アラドには彼女との間に約束がある。
 ……共に生き延びる事。だが、それはもう半ば果たされている、色褪せつつある約束だった。

「……違うっス」
 アラドは一瞬、頷きそうになったが、途中で頭を振ってそれを否定した。確かに、ゼオラの事は大事だが、今はそれ以上に大切にしたいモノがある。それが理由だ。
 自分の気持ちに嘘が吐けるほど、アラドは器用ではないのだ。
「あれ?……えと、じゃあラトゥーニとか!」
「それも違うっスね。って言うか、その二人は俺の力が無くても普通に生き延びられそうっスわ。俺より優秀なんだし」
 それで正解だと踏んでいたアイビスは予想外のアラドの答えに面食らう。そうして、次に怪しいと思われる人物の名を出すが、それもまた外れた。
 スクール時代から縁がある年上の幼馴染と良く出来た妹分。アラドの答えも尤もだった。きっとその二人は誰かに頼らずとも強く生きていける……アラドはそう思い込みたかったのだ。……まあ、実際はそれとは真逆なのだろうが。
「え〜〜?じゃあ、誰なのよ。……あ。案外、あたし、とか」

 正解が全く見えなくなったアイビスは冗談半分にそう零した。……まあ、冗談の範疇ではあるのだが、まるっきり適当と言う訳では無い彼女の言葉には、そうであって欲しいと言う願望の様なモノが混じっていた。

「……っ」
 そして、アラドはそんなアイビスの言葉に一瞬真面目な顔を晒すと、次の瞬間には少し気拙そうに視線を泳がせ、顔を傾かせた。
「あ、あれ……?」
 アラドが纏う空気が変わった事はアイビスにだって判った。これが何を意味するのか、アイビスには最初判らなかった。
 だが、答えを捜している裡に、アイビスの中には徐々にだが期待と言う名の感情が湧き上がって来た。……若しかして、それが正解なのかも知れない、と自分にとって都合の良い展開を予期するアイビスは少しずつテンションが上がっていった。

「そうなのかも、知れないっス」
 そして、そんなアラドはアイビスを裏切らなかった。遠慮がちに小さく呟くアラドは若干、渋めの表情をしていたが、それは彼なりの照れ隠しの手段なのだろう。少なくとも、アラドは冗談やからかい半分でそう言った訳では無い事だけは確かだった。
「ァ、ラド」
 尻すぼみにアラドの名を呼ぶ事しかアイビスは出来なかった。自分にとって好ましい言葉だったが、それを聞いた後にどうするのかが全く頭に沸いて来ないのだ。だからこそアイビスはそれこそ馬鹿みたいに呆としていた。
「い、いや……半分は我儘なんスよ。そう在りたい、そう成りたいって。守るまではいかなくても、せめて隣に並んで飛んでたいって。……ちょっと、餓鬼臭い論理ですけど」
 困惑気味のアイビスにまるで言い訳するみたいに言葉を掛けるアラドは見ていてそれこそ可笑しくなる程に切羽詰った表情をしていた。だが、何処かしら必死に語るアラドに嫌悪の類の感情を催さないアイビスは何とか年上の余裕を取り戻せた様だった。
「ふ、ふ……ふふふ。な、生意気言っちゃって//////」
「あーー、気を悪くしたんなら謝ります。ナマ言って済んません」
 だが、余裕を取り戻せたと言っても、アイビスは赤面しながらもそれ位の反応しか出来なかった。この手のやりとりに疎いアイビスにしては頑張った方だが、アラドはそれを好意的に受け取らなかったのか、何故か頭を下げていた。
「べ、別に謝る事ないよ。あ、あたしは……嬉しかったから、さ//////」
「……そうっスか」
 そんなアラドの挙動にアイビスは真っ赤になってぶんぶん頭を振る。……年上のお姉さんの癖にそう思わしめる要素が見出せなかったアラドは、アイビスよりも早く冷静さを取り戻した。
 ……何れにせよ、一度吐いた唾は飲めないので、アラドは自分が言ったそれを反芻し、改めて飲み込んだ。
 少し、気恥ずかしかったが、自分がアイビスに対して好意を持っているのは今更な事なので、逆にそれを伝えられた事はアラドに取っては満足の行く展開だったのだ。
 ……何と言うか、気拙い空気がアイビスの部屋に充満していた。まあ、それも当然だろう。与太話の果てにあんな告白紛いの台詞を吐かれては、アイビスとてアラドを意識せざるを得なくなる。
 とんでもない言葉を漏らしたアラドはもうとっくに頭の芯は冷えている。だが、アイビスは熱病にうかされた様な胡乱な思考を引き摺りつつ、何も言葉を発せていなかった。ただ、ガラガラとワーキングチェアのローラーを前後させながら悶々とするだけだ。
「・・・」
 ……このままではいけない。それ以前に年下のアラドにこうもドキドキさせれっ放しなのは何か悔しい。そんな思考が頭に涌いたアイビスは、普段の彼女ならば絶対にやらないであろう行動を取った。
 上がりっ放しのテンションが頭を馬鹿にしているのか、それとも仕返し半分の悪戯なのかは判断に苦しむが、残念ながらアイビスは己の行動を省みる事が無かった。
「!?」
 それを見てしまったアラドは目を見開き、同時に生唾を飲み込んだ。
 あろう事かアイビスは、アラドの目の前で脚を何度も組んだり広げたりしたりを繰り返したのだ。床に座るアラドの視線は丁度アイビスの制服のスカートの中身が見える絶妙な位置だったので、彼女の股座の奥にある布地がはっきり見えてしまったのだ。
「……んふ」
「……//////」
 床を蹴って椅子のローラーを前進させ、アラドの至近距離まで来るとアイビスはもう一回同じ事をアラドの本当に目と鼻の先でやってやった。赤い舌で自分の唇を舐めるアイビスの顔には嗜虐的な何かが張り付いている。案外、味をしめてしまったのかも知れない。
 アラドはちらちら視線を行ったり来たりさせながら、朱に染まる頬をそのままに困った様に顔を背けた。

「今、見たでしょ」

 そんな追い詰められたアラドの顔に感じ入るモノがあったアイビスは意地悪っぽい笑みを浮かべて、囁く様に言ってやった。
「いいっ!?……み、見てないっスよ!」
 何を見たのか?まあ、それは当然、アイビスのスカートの中身なのだが、此処で正直にそう言っては立場が無いアラドは大声を上げてそれを否定した。
「何色だった?」
「それは何となく白っぽい……って!何言わせんスか!」
 だが、そんな逃げる様な真似はお姉さんは許さない。逃げ場を無くすかの様に、別の角度から問い質してみると、アラドは実に正直にそれを口にしそうになって声を荒げる。
 因みに、アイビスの今日の下着の色は白で正解だ。
「くすくす……アラドのえっち」
「あうう……//////」
 狼狽するアラドの表情は堪らなく可愛く見える。アイビスは背筋に何か奔るモノを感じつつ、自分の中にむず痒いモノが育ちつつある事に気付いた。臍の裏辺りからそれは絶え間なく発せられ、脳内に在る遍く思考を飲み込み、急速に育っていく。
 アイビスはその正体に気付いているので、それに抗う事はせず、ただ自然にそれに身を委ねた。
「こんなあたしでも……さ」
「え」
 打って変わって静かな口調のアイビスにアラドは警戒心を露にする。何となくだが、デジャヴュじみた映像がアラドの頭を過ぎった。何処かで、こんな事があった気がする。そしてその果てに待っているモノについてもアラドは知っている。
「君を誘惑する事が、出来るんだね」
「あ、う……はい?」
 アイビスの顔に浮かぶのは慈愛に満ちた柔らかな微笑みだった。それに気を取られそうになったアラドはその誘惑を寸での所で断ち切る。……何故なら、顔はそうでもアイビスの瞳は不気味に光を発していたからだ。
「結構さ、君と一緒に居ると、気付かされるんだ」
「な、何を」
 だが、それは最早手遅れの様だった。魅入られてはいけないと知りつつも、アラドはアイビスから目を離す事が出来なかったのだ。だからこそ、アイビスの垂れる口上も不思議と耳を打った。
「あたしが……女だって事に」
「っ」
 情感たっぷりなアイビスの言葉はかなりの破壊力を誇っていた。それが何を意味するのかは、アラドは過去の事から気付いている。加えて、それが最早回避不能な事象だと言う事もだ。
「あたしは、こんなだからさ。色恋とか男の子には縁遠くなりがちだけど……君だけは違った。あたしに懐いてくれてるし、守ろうとしてくれる。……そう言うの、あたしみたいな女の子には堪らないんだよ?」
「アイビスさん?」
 その台詞にアラドはアイビスの心の底を見た気がした。
 己の持つ夢の実現に我武者羅に取り組み、他のほぼ全てを捨てているアイビスにとって、そんな自分を拾い上げてくれる王子様の存在を、彼女は待ち望んでいたのかも知れない。
 まあ、全てはアラドの勝手な推測だが、強ちそれは間違いとも言えなかった。
 何故ならば……
「ねえ……しよっか。アラド」
 アイビスの瞳が、表情が、言葉が。その全てを語っている気がしたからだ。
「それは」
「君は厭?あたしは……そうしたいな」
 突然な……否、この空気が呼び込んだ展開にアラドは顔を顰めた。……何となく、こうなる予感がしていたアラドだったが、それが現実のものと成った今、それを素直に受け入れる覚悟はアラドには残念ながら無かったのだ。

「厭では、ないです。……でも」
 アラドはアイビスとのそれに嫌悪を見せる素振りは無い。寧ろ、望む所な展開と言う奴だ。しかし、アラドはそれにどうしてか難色を示す。それには理由があった。
「戸惑ってるの?……どうして?君とするのは、初めてじゃないでしょ?」
 それが理由だ。嘗て、一度だけアラドとアイビスは繋がった事があった。アラドはその時の事が重石の様に心に圧し掛かっていたのだ。
「ええ。昨日の事の様に、覚えてるっス。あの時は……」
 ……色々、無茶をしたものだと思い返して後悔するアラド。何が原因だったのかは今となっては言及する気は無いが、アラドは確かにアイビスの処女を散らしたのだ。そして、その時の逢瀬は後ろ暗い過去としてアラドの内部に刻まれている。
「ふふ。お互いに急ぎ過ぎた結果だね。でも、君は最後まで紳士だった。あたしも、とっても気持ち良かった」
「・・・」
 アイビスはアラドを褒める類の言葉を紡ぐ。その言には偽りは無く、アイビス自身がそう思った故の素直な感想の吐露だった。その証拠にアイビスの顔は笑っていた。
 その時の事は、お互いにとっては美談とは言えない泥臭い交わりとだったと言っても良い。だが、その時は同時に、アラドの持つ手腕が遺憾無く発揮された瞬間でもあった。初めての事で戸惑うアイビスを、アラドは水を得た魚の如く手玉にとって見せたのだ。
 アラドに取っては忘れ去りたい事だとしても、アイビスに取ってのそれは良い意味で忘れ難い記憶だった。
「また……アラドとそうしたいって思ってたんだ。君はどうなのかな?あたしを求めてくれるのかな?」
「・・・」
 先程から答え難い質問ばかりされている気がする。まるで詐術の様なそれにアラドは自分が嵌って行っているのを知りつつ、それを撥ね付け様とはしなかった。アイビスが必死に自分を誘ってくれているのに、それを振り払うのは失礼な気がしたからだ。
 そして、アイビスもまた切実にそれを望んでいた。一人の女として、アラドに愛されるその瞬間をだ。最初のそれから時は流れて久しいが、アイビスは再びそうなる時を待ち望んでいたのだ。
 そして、今がその時だと確信した彼女は己の全てを以ってアラドに問う。複雑な男心と純な女心のぶつかり合い。勝利の女神が微笑むのは、当然……
「俺は……」
「ん?」
 当然、わんこの方だった。アラドは逃げ場が無い事を悟ったのか、それとも、アイビスに情が移ったのか、全てを受け入れた様に呟いた。
「アイビスさんがそうしたいなら……頑張るっス」
「……嬉しいよ。アラド……」
――ちゅっ
 勝利の笑みを浮かべ、アイビスは若干ぎくしゃくした振舞いでアラドの顎に手を添えると、子供じみた拙いキスを施した。触れるだけの浅い口付けはお互いの温度の差を示す様だった。アイビスが触れたアラドの唇は凍える様に冷たかったのだ。
「今更、アイビスさんとする事の是非は問いたくないっスけど……ホントに良いんスね?」
「ぅ……あ、あたしにそんな事言われても、困っちゃうんだけどな」
 お互いに温度差はあるが、それは火蓋を切った。性欲を全開にしたアイビスと、それに戸惑いを見せるアラドには確かに精神的な溝があった。
 だが、こうなってはどんな言葉も付け焼刃にしかならないと判っているアラドは、アイビスの身体を優しく彼女の寝台に沈めると、渋い顔で問うていた。アイビスは答えに詰まった様に真っ赤に染まった顔を背けるだけだった。
「そりゃ、そうっスね。失礼しました」
 この手の話を女の側に求めるのが間違いだと思い至ったアラドはその謝罪を込めて、アイビスを満足させる事を誓った。
「ん……っ」
 ベッドに横たわったアイビスの鎖骨辺りにアラドは顔を寄せて、大きく息を吸い込んだ。
 汗の匂いが混じる、甘酸っぱいアイビスの匂いはアラドには心地良く、まるで子供の様にアラドはアイビスの身体に顔を埋めた。

「ふふ、とか何とか言って君も……」
 母性本能が刺激されたのだろうか。アイビスは妖しくもまた優しい笑みを浮かべ、アラドの股間に腕をやった。彼女も、女であるなら気にせずには居られない場所だ。
「く、っ……」
 其処を軽く撫で上げると、アラドは可愛い声で呻いた。
「……あれ?」
 アイビスにとって、そのアラドの声は内に在る欲情に火を点けて申し分ないモノだったのだろうが、彼女はその感触に納得行っていない様だ。
 アラドの獅子王剣は鞘からも抜かれていない状態だったからだ。折り返し鍛錬を終え、芯鉄をも包んだアラドの刀の精錬はそこで止まっていたのだ。
 当然、アイビスはそれを不服に思って頬を膨らませる。
「っ。くうっ」
 だが、アラドにとって、股間を撫で上げるアイビスの指は心地良かったので、自然と喘ぎ声ともつかない呻きが口から漏れてしまった。

「何か、切ないなあ。あたしはこんなに乗り気なのに、君は違うの?」
 それも当然だろう。アラドの其処は中途半端な水風船の如く柔らかかったのだ。アイビスは頬を膨らませてアラドに文句を言うが、アラドは年下にも関わらず、立派に答えて見せた。
「そりゃあ、未だ戸惑ってるっスよ。……でも、犯ってる裡にエンジンは掛かると思うっスわ。アイビスさんがえっちい振る舞いを見せてくれるなら、ね」
「//////」
 初戦からしてアイビスの敗北だった。アラドの男らしい言葉に縫い止められたかの様にアイビスは顔を赤くしたまま動けず、アラドはそんなアイビスの肢体を貪る様に愛で始めたのだった。

――凡そ数分後
「脱がしちまうっスよ?」
 服の上からのお触りに飽いたアラドは次のステップに進むべく、アイビスにそう了承を取る。そんなアラドの真剣な顔が可愛く思えたアイビスは、全身に空元気を行き渡らせつつ、零した。
「良いけど……ふふ。男の子って、女の子を脱がすの、好きだね」
 アイビスに取ってはアラドの内面を煽る筈の一言。だが、アラドには効果が無かった。
「俺はそうでもないっスよ。邪魔になるし、汚したくないからそうするだけっス」
「……本当?」
 自分とアイビスのテンションの差を映し出す様に言うアラド。だが、そんな彼の手はしっかりとアイビスのおっぱいの辺りに添えられていた。
 そんなアラドの振る舞いを若干、不審に思ったアイビスは心のままに聞き返していた。
「……半分は。もう半分はアイビスさんの肌が見たいのが理由っス」
 そうして、真意が語られた。正直にそれを言うアラドは嘘が吐けない性格らしい。目の前の女の裸体が見たいときっぱりと言えるアラドは或る意味、男前だった。
「あはっ。正直だね、アラドは」
 ……そんなアラドの振る舞いがアイビスに取ってはツボだったのか、にんまりと笑いながらも彼女は嬉しそうだった。

「っ………あ」
 そうして、自分の身体をアラドに委ねて数分後。アイビスは半分、裸に剥かれながら自分の実情を思い出していた。上半身はとっくに剥かれて、赤みの混じる白い肌と薄い胸を包むブラの白さがアラドの視界には映っている。
「?」
 道中の初めに在って、アラドはアイビスを裸に剥いていく事を止めたくは無かったが、戸惑う様なアイビスの瞳を見てしまったので、アラドはそれを中断せざるを得なかった。
「ご、ゴメン、アラド。誘ったあたしから言うのはアレだけど、ちょっと待ってくれるかな」
「どうしたんスか?……生理でも来たっスか?」
「それは少し前に終わったよ。ん……そうじゃなくてさ」
 アラドの手が止まった事を認識したアイビスは申し訳無さそうに、また恥ずかしそうにアラドを上目遣いで見る。だが、その理由が判らなかったアラドは的外れな答えを口にしていた。

「あ、あたし……さっきまでシミュレーターに居て、汗臭いから、せめてシャワーを浴びさせてくれない、かな」
 それが、アイビスが行為の中断を求めた理由だ。自分の汗の臭いが気になるアイビスは何処まで行っても女の子だったのだ。
「却下っス」
「あう」
 当然ながらアラドはアイビスのお願いを突っ撥ねた。鼻先に指を突き付けられて間抜けな声を発するアイビスは、どう見ても弟に頭が上がらない駄目姉の様相を呈する。
「そんなの俺も同じっスよ。俺も午前中はシミュレーターに居て汗塗れっスもん。着替えもシャワーだってしてないっス」
「だって、恥ずかしいし//////」
 そんな瑣末な事に時間が取られるのは惜しい。汗臭いのはこちらも同じなので観念しやがって下さい。
 ……そんなアラドの心の声が聞こえて来そうなアイビスはそれをどうにかして断りたかった。赤面しながらボソボソと呟く彼女にアラドは退く素振りは見せなかった。
「俺も同じっスわ。でも……」
 それには当然……と、言うかやはり別の理由があったからだ。
「今は、アイビスさんの生の香りに触れたい俺っス」
「・・・」
 今度は指ではなく、鼻先をアイビスのそれに突き付けるアラド。アイビスは何か言う事も、表情を変える事も無く、たた唖然としていた。
 汗臭い女の臭いを嗅いで何が楽しいのか?アイビスの胸中を占めていたのはそんな思いだ。そして、数十秒沈黙を続けた彼女はこう言った。

「アラドって、変態さん?」

 他意も何も無い、真っ直ぐで揺らぎが無い視線。そして、何処までも自然で透明な声色。
 アラドは何故か泣きたくなった。
「……そんな目で見ないでくれっス(涙)」
「やん」
 ……否、アラドは実際泣いていた。だが、擦れていないアイビスが男の心理を理解するのはもう少し後になるであろう。……そう結論付けたアラドは、アイビスの裸の肩口に顔を埋めると、どんどん装いを剥ぎ取っていった。
「ぁ……」
 アイビスが裸にひん剥かれるまで、そう時間は掛からない。ピンクと白を基調とするアイビスにはあんまり似合わないプロジェクトの制服を躊躇なく剥いでいくアラドは淡々としていた。
 無駄口を叩かず、何も顔には映さず、ブラもスカートもブーツも、そして先程見せられたパンティも至極あっさりと剥ぎ取る。どうしてか、アイビスは手馴れた印象をアラドに受けた。
「ぁ……あんまり、見ないでよ」
 アラドの舐める様な視線にアイビスは緊張が如実に見える呟きを漏らした。未だに一張羅であるパイロットスーツに身を包んだアラドと自分には大きく隔たりを感じたアイビス。翠色のアラドの視線と桃色の自分の視線が交差する。
「どうして?こんなに綺麗なのに」
 アラドは瞬間的にアイビスの言葉にコンプレックスの様なモノを感じた。自分の肢体に自信が持てない……そんな類の感情をだ。
 だが、少なくともアラドがアイビスの身体に対して気持ちが萎える様な事は無い。
 骨格そのものの細さを感じさせる、無駄無く搾られたアイビスの肢体は健康的な色気を放っている。確かに肉付きそのものは薄いが、造形美として見る限りはアイビスの身体にそんな余計なモノは必要無いとさえアラドは思った。
 二の腕から肩のライン、肋骨の浮いた脇腹の曲線は見事。特にビキニラインは目のやり場に困る程だ。細い身体だからこそ目を引く脚線美はそれこそ凶器で、その太腿の瑞々しさには思わず涎が出そうになる。
 ……こんな美事な肢体に自信が持てないとは、それは世の御婦人方を敵に回す贅沢な悩みだとアラドは切に思った。
「何か、勿体無いっスね」
 所詮、自分が何を言っても本人が自覚しなければそれは意味を成さない雑音に過ぎない。そう思い至ったアラドはアイビスの橙色の髪の毛を優しく撫でながら、ゆっくりとその慎ましげなおっぱいに唇を寄せた。
「ふあっ」
 黄色い声がアイビスの口から漏れる。冷たいアラドの唇と暖かく湿った舌が胸の膨らみに触れ、若干強い勢いで吸い上げられる。敏感肌のアイビスはそれが心地良かったのだ。
「はっ……ぁ」
 ちゅっちゅっ……キスでもする様に自分の胸を吸うアラドに色々と湧いて来るモノをアイビスは感じる。母性や羞恥、快感や愛しさ。全く毛色が違うそれらは混然し、身を焼く熱さに姿を変えつつあった。
「んん」
 アラドの口が乳輪を捉え、それを吸うと、アイビスは押し殺した喘ぎを上げた。胸が特別弱いと言う訳ではないが、刺激に敏感に反応してしまう自分の体を浅ましく思いつつ、アイビスは淫蕩の海に徐々に浸かって行く。
 ほんの少ししゃぶられただけで、アイビスの乳首は固く充血していた。
「うあ!ぁ、ラド……?」
「?」
 そして、アラドが再び胸のお肉を吸い上げると、アイビスは可愛らしく喘ぐ。少しばかり臍の裏にビリビリ来る痛みにも似たその一撃に、アイビスは何があったのかと視線を下げる。すると、アラドと視線と合ってしまう。
「//////」
 ……アイビスは自分の胸にアラドの唇による赤い痕が点々と付いている事を理解し、真っ赤になった。

「ちょっ、待ってよ!」
「ええ?」
 そうして、アイビスは耐えられなくなった様に叫ぶ。別に、年下のアラドにリードされるのが厭になった訳じゃない。それはアイビスにとって何処までも個人的なコンプレックスの発露だった。
 アラドはアイビスの叫びに只ならぬモノを感じたのか、彼女の薄くともしっかりある胸への愛撫を中断し、彼女の顔を見る。
「アラド、さっきからおっぱいばっかりだ。あたし、何か悲しいんだけど……」
 ……まあ、それが理由だった。自分のナイチチを熱心に愛してくれるアラドに居た堪れなくなったアイビスは半泣きになりながらも、自分の胸中を告げた。
 そんな毒にも薬にもならなそうな……否、自分が気にしている場所を執拗に弄って欲しくないアイビスの心の叫びだった。
「それは……やっぱ、気にしてんスか?」
「あう……ぅ、うう」
 話の流れから、アイビスの慟哭の理由を察知したアラドは当然、フォローに動く。だが、そんな年下のアラドのフォローに年上としての威厳やら何やらが大暴落した気がしたアイビスはその瞳に涙を浮かべていた。
「其処まで思い詰める事じゃない様な気がしますけど」
「だって……あたし、ゼオラやクスハ見たいにおっきくないから……」
 もう此処まで来れば貶そうが褒め様が一緒だと思ったアラドは素直に動いた。
 アイビスさんは胸が無くても十分に綺麗。……アラドはそう思っていたが、アイビスの持つ豊満な乳肉への憧れは、本人以外に知り得ない妄執じみたそれだった。アラドと情を交わしているのに、自分以外の他の女を引き合いに出すのが良い証拠だろう。
「それがどうしたって言うんスか?……気にしてるなら、それこそもっと弄る冪っスよ。ひょっとしたら、バストアップするかも知れないっス」
 もう、アラドはアイビスがナイチチである事には興味を示さない。そのマイナスを差し置いても、彼女の身体が素晴らしいモノである事を知っているからだ。
 だが、彼女がそこまで巨乳への憧れを捨てきれないなら、後は徹底的に揉まれるしかない……若しくは、子供を孕むべきか。それ位しかアラドは解決策を見出せなかった。
 そして、それに対するアイビスの答えは以下。

「知ってるよ。こ、これでも、おっきくなったんだから。前にアラドに弄られてから……」

――なぬ?
 アラドの眉が釣り上がる。一瞬、冗談だろ?と思ったアラドだったが、アイビスの様子を見る限り、そうでは無いらしい。アラドはアイビスのおっぱいを揉みながら、その成果を尋ねた。
「ち、因みに、どれ程」
「5mm……」
 ひょっとしたら、自分が弄った事によって女性ホルモンの分泌が活発になったのか?まあ、正解はどうでも良いが、アイビスはアラドによる(?)豊胸効果を恥ずかしそうに語った。
「は?」
 語られたそれは何とも、微妙な値だった。……それは胸囲?それとも、トップとアンダーの差なのだろうか?アラドはそれを確かめる様にふにふにとアイビスのおっぱいを触るが、残念ながらアイビスの言う様にそれが大きくなった感じはしなかった。
 ただ、何となく以前より柔らかい感じはしたが、それだけだった。
「それ、太っただけなんじゃ」
 アラドは正直にそう告げていた。仮にアイビスの言う事が真実だったとしても、それ以外に信憑性のある答えを見出せないからだ。普段からあれだけ甘味にがっつくアイビスだ。そう言う事もあるだろう。
 ……少なくとも、自分が揉んだ事によるバストアップでは断じてない。アラドはそう信じ込んだ。
「くぉら!」
「うわ!?」
 ガルルルルル……!低く唸りを上げて、今にも噛み付きそうな猛犬じみたアイビスの顔が目の前に顕現していた。それに面食らったアラドは言ってはならない台詞を吐いてしまった事を理解し、肝を潰す。
「喧嘩売ってるのかな?アラドは」
「し、失言でした。だから矛を収めて下さいっス!」
 本気で平手の一発でも飛んできそうな剣幕だった。アラドは平謝りしながら、再びアイビスの胸に顔を埋めて、それに吸い付いた。アイビスを黙らせ、同時に自分の逃げ場を確保するその手段に踏み切ったアラドは非常にクレバーだった。
「やっ、ちょ!ず、ずるいよそんなの!」
 あっという間の出来事にアイビスは怒りやら何やらの感情を根こそぎ刈り取られてしまった。ただ、胸からやってくる甘い痺れの様な感触に喘ぎを零しつつ、身を捩じらすだけだ。……アイビスは完全に手玉に取られていた。
「ふあ!あ……ああ、っ、んく!」
 固くしこった乳首の片方が、乳肉と共に吸われてアラドの舌の上で転がされる。それとは対照的に、もう片方の乳首にアラドは直接的に触れようとはしない。ただ、指の腹でピンク色の乳輪をなぞり、劣情を掻き立てるだけだ。
 もうこれ以上無い程に勃起した突起は言い知れない切なさをアイビスの別の場所に与えてきた。
「お、おっぱいだめぇ……!もう、もうあたしの胸なんて飽きたでしょう……?もっと別の……」
 脚の付け根辺りが疼いて仕方が無いアイビスは脚をもじもじ擦り合わせながら、アラドにその場所も弄ってくれと暗に懇願した。スキーン腺液やバルトリン腺液に代表される自然の恵みが放って置いてもその場所から滲んでくる。
 快楽に抗う術を持たないアイビスはアラドの愛撫によってどんどん理性を奪われていった。
「もう少し、っス」
「あっ!」
 アイビスの其処が大変な事態に陥っている事をアラドは当然知っている。だが、それでもアラドはそこを爆撃しようとはしない。変わらずねちっこくおっぱいを責めるアラドにアイビスは熱くて切ない喘ぎを垂れ流した。
「一応、言っておくっスけど」
 舐りながら、揉みしだきながら自分の胸の内をアラドは語った。
「俺がアイビスさんの胸を触るのは、それがアイビスさんのだからっスよ」
「え//////」
 アラドがアイビスの胸に執心する理由。それは、それがアイビスの身体の一部だからと言う実にシンプルな答えだった。愛でて嬲って然る冪モノ。アイビスは顔を赤く染めた。
「おっぱいで女性は決まらないっス!そりゃ、ボリュームに惑わされる事はあるけど、俺はそれでもアイビスさんの胸、好きっスもん!」
 そして、アラドは力説する様に拳をグッと握り込んだ。そりゃ、胸が女性のセックスアピールである以上は、目を奪われる事はあるかも知れない。しかし、それで女性の価値を決めないアラドは年の割りには考えが大人だ。
 胸もひっくるめて女性のそれはトータルバランスがモノを言う。その点から見れば、確かにアイビスは上玉だったのだ。
「あ……//////」
 ……ゼオラが聞いたら卒倒しそうな台詞だが、アイビスはそれが嬉しかった。

「まっ平らでも、滑走路でも良いじゃないっスか!寧ろ、最近はナイチチじゃないと落ち着かないっスよ!……きっと、あの時にアイビスさんに洗脳されたんスわ」

 だが、そこで黙れば良いモノを、アラドは再び禁句を言ってしまった。過ぎたるは及ばざるが如しだが、残念ながらアラドはそれが判っていなかった。
 ……流石に二回もそんな事を言われて黙っていられるほどアイビスも大人では無かった。
「……(♯)」
――ガリっ
 頭に十字路を浮かべ、アイビスは内にある野犬の心を全開にして、アラドの肩に思いっきり噛み付いた。
「んがっ!?痛ってぇぇ!!」
 手痛いアイビスの反撃にアラドは叫んだ。否、この程度で済ませてくれたアイビスにアラドは逆に礼を言わねばならないのだが、そんな殊勝な心は未だに餓鬼の範疇にあるアラドには湧かなかった。
「何するんスか!血が滲んでるじゃないっスか!」
「判らない。……嬉しい。嬉しい筈なのに憎らしさが先立つこのジレンマ。これって一体何?」
 肩口に赤く咲いたキスマーク……と呼ぶには物騒なアイビスの歯型。アラドはその痛みを散らすべく、その場所を擦っていた。
 アイビスは憮然とした表情でアラドに問う。嬉しさと同時に憎悪も湧いた二律背反に苦しむ自分の心に何か言葉が欲しかったのだ。
「知らないっスよお!!……っ、糞っ垂れぇ!」
 だが、アイビス本人にも判らない心の底が、深い仲とは言っても所詮は他人のアラドが判る筈も無い。アラドは心に溜まった釈然としないモノを解放する為に、アイビスの乳首に噛み付き、また強く捻り上げた。
「あっんっ!!ぃ、痛いぃ……!」
「俺も痛かったんスよ!」
 敏感な場所を苛められるアイビスは苦痛よりは艶の混じる声を上げてアラドを睨む。だが、アラドはそんなアイビスに臆する事は無かった。自分が感じた痛みとアイビスが感じた痛みは別物だろうが、そんな事も当然アラドは承知だったのだ。
「ああん」
 そうして今度は逆に優しく其処に触れると、アイビスはしおらしい甘い声を漏らした。

「こ、これ以上はこっち方面に触れちゃいけない気がする」
 アイビスの胸に触れる事がどれだけマキシマムリスクなのか思い知ったアラドは残念に思いながらもおっぱいで遊ぶ事……ゲフンゲフン!おっぱいを愛でる事を切り上げて、本丸に挑む事にした。
 防衛能力を奪われて久しいアイビスは至極あっさりとアラドの指が其処に触れる事を許した。
「っ!ふああっ!」
 待ち侘びていた感触に歓喜の悲鳴を上げるアイビスは何処までも肉欲に餓えていた。彼女の濁った胸中を示す様に、アラドの指には白く濁った熱い愛液がべっとりと付着している。頸冠粘液とか本気汁とか呼ばれるそれだった。
「うわっ。ビチャビチャっスねえ」
「だ、だって……アラドが焦らすからぁ」
 否、アイビスのそこはアラドの言う様な温い状況ではない。正しくは糸を引く程にぐちゃぐちゃだ。
 ……そうなったのは君の所為だ。アイビスは潤んだ瞳でアラドを見ていた。
「・・・」
 若干、むくれたアイビスの赤い顔はアラドにとってはツボだった。しかし、どうしてそんな責める様な視線で睨まれないとならないのか、アイビスのそれを理不尽に感じたアラドは遠慮無しにアイビスのクレバスを指の腹で撫でてやった。
「じゃあ、次はこっちを弄るっスね」
「んん!」
 相当に溜めていた事は明らかな反応だった。ちょっと触っただけでアイビスは腰を浮かせて泣く様な喘ぎを零す。アラドはアイビスの肋骨辺りに唇を付けると、そのまま滑る様に頭を股座に向けて移動させていく。
「あっ……あっ!あああ!」
 自分の肌を這う暖かい蛞蝓の様なアラドの舌にぞわぞわする怖気を感じながら、アイビスは更なる嬌声を量産して悶える。
 アイビスの汗の味が微妙な塩味を舌に伝えてくる。アラドはそれを自分の唾液と絡ませて嚥下しつつ、どんどん下降していく。横隔膜、臍周り、下腹部、恥骨。うっすらと生い茂るアイビスの橙のヘアを掻き分けて、アラドはあっさりとアイビスの女に到達した。
「っ!ふあああああ!!」
 遠慮する場面ではないので、アラドは汁塗れのアイビスの下の口と卑猥な口付けを交わした。
――ズッ、ズズズ……
 半開きの陰唇に舌先を打ち込む事で無理矢理、入り口を開く。そして、その途端に溢れ出すアイビスの果汁を盛大に音を立てて飲んでいく。だが、どれだけ啜っても、アイビスの愛は涸れる素振りを見せなかった。
 丁度、喉が渇いていたアラドにそれは都合が良く、アラドは膣全体を口に含み、喧しい音を立ててアイビス謹製の生臭いそれで喉を潤す。
「そっ!音立てちゃイヤぁ!」
「……?」
 アイビスはアラドが音を立てて自分の愛液を飲んでいる事実に耐えられなくなった様に、羞恥の混じる悲鳴を上げた。
 だが、顔を手で覆ってイヤイヤと頭を振るアイビスが何を言いたいかさっぱり判らないアラドは変わらずアイビスの汁を啜り続けた。そして、オーラルの基本をも忠実にこなすアラドの顔は既に粘つく愛液でべとべとだった。
「っ!……っ!」
 半開きの口から熱い息を吐き、涎の筋を伝わせるアイビスはもうまともな言葉が発せない程に出来上がっている。黙っていてもビクビク震えてしまう自分の身体を押さえ様とはせず、アラドの施す奉仕にアイビスは蕩けそうになっていた。
「っ……ふいい。理想的な酸味加減。乳酸菌生きてますって感じ?」
「ふええ!?」
 唾液と愛液の混じる糸が自分の口と彼女の割れ目の間に伝う。噎せ返りそうなアイビスの女の味と香りに溺れかけたアラドはアイビスの女から口を離す。
 ……確かに、絶妙な味だった。若い女である事を示す様にアイビスの愛液は少しキツイ酸っぱさで満たされていたのだ。
 だが、それを告げられたアイビスは淫蕩の海に沈みかかっていたにも関わらず、復活を果たした様に飛び起きる。
「後、微妙に汗とアンモニア臭がアクセントになってますっスね。……最高」
 その酸味に混じる汗の塩味と蒸れた様な香り。そして微妙にアクセントになっている鼻を突く小便臭さは意図して出来る類の風味ではない。舌触りやそんなモノは期待できないが、アイビスのそれは紛う事無き自然の芸術だった。
 ……しかも、上級者向けの、だ。
「馬鹿ああああああああ!!!!」
 口元を拭いつつ、陶酔した様に零すアラドにヤバイ位に赤くなってアイビスは噛み付いた。彼女もまた若い女である以上は気にせずには居られない言葉だ。そんなアラドの台詞は彼女の羞恥を煽り、また内にある炎にガソリンをぶっ掛けた。
「痛て」
 涙を瞳に溜めてポカポカ殴り付ける彼女の拳が胸板に当たって少しだけ痛いアラドだった。
「元気っスねえ、アイビスさん。この調子なら、平気かな?」
 お互いに若いだけあって、回復も復活も早いのだろう。それ以上に、アラドはもうこれ以上アイビスを弄る必要は無いと感じたのか、自然とそんな言葉を零した。
 脳内の議会の承認を待つまでも無く、己の取るべき行動を見定めたアラドはそれに向けて動き出す。
「え」
「ちょっとお待ちを……キャスト、オフッ!」
 アイビスの小さい呟きはアラドが何をしようとしているのか、それに若干期待でもしているかの様に何かが籠められている。アラドはそれが直ぐに判ったので、解答を示す様にそれをアイビスの目の前でやってやった。
「きゃっ!」
 ズボンのジッパーを下げると、そこからアラドの男が姿を現す。長さは凡庸だが、かなりの口径を誇るアラド謹製の業物。しかも女を泣かせる事に向いていそうなかなり雁高な一品だ。アイビスはそれに恐怖でも感じたのか、悲鳴を漏らした。
「あ、あ……」
 引き攣った声しかアイビスは発しない。今にも迫ってきそうなグロテスクな男性器は、先走りの一滴も漏らさずに、只管に乾いた肉塊と言うイメージをアイビスに与えてきた。
「どうしたんスか?もう、見慣れたモンでしょう?」
 アラドはそんなアイビスを心底不審がる。以前に繋がったアイビスはもうとっくに自分の一物を知っている筈だ。それなのにこんな反応を見せるアイビスはアラドには妙に映ったのだ。
「見慣れてない!……こ、こんなに、おっきかったんだ」
 ショルダーガードを外し、ジャケットを脱いで上半身を晒しながら、アラドは横目でアイビスの様子を伺う。そして、成る程と納得した。
 どうやら、前にした時、アイビスは自分の一物の全貌を瞳には映さなかったらしい。それこそ、じっと見詰める何て事は、彼女には出来なかったのだろう。だからこそ、彼女の発した、見慣れていないと言う台詞も或る意味では正しいと思えた。
「……あん時は、激しかったっスねえ。アイビスさんってば」
 それならば、今回は現実を知って貰おう。アラドはそんな事を思いながら誇張抜きでアイビスの前回の姿を端的に表現した。
 縋り付き、自分の御神木を咥え込んでざんばらに腰を振っていたアイビス。……思い出すと、少しだけ寒気がしたアラドだった。
「ち、違!…………あたし、そんなに破目外してた?」
「そりゃもう。……喰い散らかされるかと思ったっス」
 否定しつつもそんな事を言うアイビスは、どれだけ自分がはっちゃけていたのかをうっすらと覚えている様だ。そして、アラドが遠い目をして口にするそれは前回の正直な感想だった。
 ……少し、怖かった。アラドの背筋が寒くなるのも納得な乱れ方をアイビスはその時確かにしていたのだ。
「//////」
 見ようとしなかった……否、見たくなかった現実をアラドに語られるとアイビスは穴があったら入りたくなってしまった。初回でそれだけ乱れた自分は今回ではどうなってしまうのか?
 ……想像すると恥ずかしかったし、そう思いつつもまた羽目を外したくなる自分を浅ましく思ったからだ。
「それで……こいつ、どうしましょうか?」
「え?……あ、それは」
 アイビスが何を考えているかアラドには判らないし、判った所でそれはどうしようもない事だ。重要なのは、このいきり立つ怒張をどうするのかだ。アラドは見せ付ける様にそれを揺らすと、アイビスは瞳を潤ませつつ、口を噤んでしまった。
「・・・」
 何ともつまらない反応を返された。否、それ以前にこれをどうしたいのかアイビスの口から聞けない以上、アラドは動けないのだ。年下と言う事に託けて、年上のアイビスに極力甘えたくないアラドの安い自尊心の発露。アラドはアイビスの言葉を待つ。

「ほ、欲しい、よ。……アラドのそれ」

 自分の欲望に素直になったのか、それともアラドの無言の視線に堪えられなくなったのかは判らないが、アイビスはそう口にしていた。極上のスイーツを喰っているのを誰かに見られた時の様なそそる顔をアイビスはしていた。

「つまり、嵌めて欲しいって事っスね」
「判ってるなら……き、聞かないでよね//////」
 その言葉を聞けたアラドは別段厭らしい顔をする事は無かった。それとは逆に、某監査官の少年の如く微笑む。それに何となく厭なものを感じたアイビスは、恥ずかしそうにしながらも若干語尾を荒くして言った。
「ん〜〜、でもどうしようかな」
「ええ?」
 アラドは期待を裏切らない男だった。そんなアイビスの胸中を知っている筈なのに、わざとらしくベッドの上で胡坐を組んで思案を始める。
「このまま普通にアイビスさんを貫くだけじゃ芸が無いしな。……うーーん」
 否、わざとらしくではなく、本気でどうするのか悩んでいる様だった。顎を掻き、自分がどうしたいのかをゆっくりと考える。
「ちょっと、早くしてよお。疼いて、辛いよ……」
 だが、アイビスはこれ以上焦らされるのは我慢ならないらしい。もう、抑えは限界に来ていて何時アラドを押し倒してもおかしくない状況にまで追い込まれている。疼痛にも似たむず痒さはジンジン子宮から発せられ続けているのだ。
「………………良し!決めたっス!」
「っ?」
 そして、長考の末アラドは決断した。この場で今の自分が一番したい事。そして、アイビスにして欲しい事をだ。アイビスは唾を飲み込んだ。

「おねだりの言葉の一つでも俺に下さいっス」

「――え」
 ずいっ、とアラドに顔を寄せられるアイビスは少しの間動けなかった。

「それは、どうして」
「いや、何となくっスけど」
 魅入る要素が多々ある美少年の顔が目の前にある。彼女はどうも、真顔のアラドの表情には弱いらしい。視線を泳がせながら、何とか言葉を返すとアラドは動機に薄い言葉を返した。
 ……何となくでそんな事をさせたいとは、随分とアラドは鬼畜だった。
「おねだりって……こ、媚び諂えとでも言うの?」
「いやいやいや。そこまでは望みませんよ。調教してるんじゃ無いんスから」
 それこそ犬の如く、尻尾を振って怒張を嬉しそうに咥え込めとでも言うのか?アイビスはそう頭の中で思ったが、その顔を見たアラドは手と頭を振ってそれを否定した。
 女を飼う趣味はアラドには無いらしい。
「・・・」
――嘘臭い
 アラドの振る舞いと言動はアイビスにはその様に映った。アラドにその気は無くとも、自分の身体はどんどんアラド好みに変えられていっている気がする。未だたった二回目の筈なのにそう思ってしまったのだ。
 果たして、これは自分の持つ女の性なのか、それともアラドの持つ技巧がなせる業なのか。今の所、答えは見えないが、そのどちらだったとしても大差は殆ど無いであろう事だけはアイビスには判った。
 だが、それに思い至った所で現状は何も変わらないと言う事も思い知らされるアイビス。少し、考えさせられたがアイビスはアラドの要求に対する答えを出した。
「まあ、無理ならそのままでも」
 別にアラドはアイビスにそれを強制する事は無かった。そんな事を無理矢理言わせたとしても、自分の心が支配欲とかそんなものに満たされる事は無いし、そんなアイビスを見て喜ぶ程にサディストではない事を自分で理解しているからだ。
 それ以前にこんなふざけたお願いを聞いて貰える筈も無いと、アラドは諦めてさえいた。

「別に良い、けど」

 だが、アイビスの選んだ答えはアラドの半ば期待していなかったモノだった。

「ゑ」
――what?
 場を盛り上げる為以上の意味を持たないその中途半端な自分の願いをアイビスは聞いてくれたのだ。アラドは自分の聞き間違いを期待した程だ。だが、それは現実だったのだ。
「は、恥ずかしいけど、頑張る」
 アイビスは可愛らしく頷いた。アラドを……否、年下の可愛い彼氏を燃えさせる為に。アイビスは年上として何としてもアラドのハートに火を点けたかったのだ。
 アラドがどんな言葉を望んでいるのかは流石に判らない。でも、自分の胸の中にある、アラドが欲しいと言う気持ちを言葉に出すのは簡単だ。恥じらいはあるが、それに怯える場合でもない。今はただその気持ちを正直に伝えれば良い。
 ……そう、アイビスは思ったのだ。


――ハア
 一度大きく深呼吸すると、アイビスは覚悟を決めた。そして、彼女は大胆になる。
「お、お?」
 ベッドの上で四つん這いになって、アラドに自分のお尻を向ける。アラドの視線が痛いほど刺さってくるのが彼女には判った。
「んっ……アラドぉ」
「!」
 片手を自分の女に添え、指を以ってグッと押し開く。自然と媚びる様な艶のある声が漏れ、奥底からは粘ついた液体がどんどんと溢れてくる。それは太腿を伝い、それだけでは飽き足らずに、まるで涎の様にベッドシーツに糸を引いて垂れ落ちた。
「あたしもう……我慢、出来ないよお」
 何か、涙が出てきちゃったわん。ちょっと無理があるかしら。……とそう思った所で今更後には退けなかった。アイビスは涙を零しながらも、アラドをその気にさせる為の精一杯の台詞を胎の其処から呟いた。
「アラドのぶっといオチ○ポぉ……あたしの涎垂らした駄目マ○コにブチ込んでえ♪」
「……っ」
 これこそが自分の望む事だと迷いも衒いも無く言ってのける。どんな台詞が喉を通過しているのかは考えない様にした。それを考えれば止まってしまう事が容易に想像が付いたからこそ、勢いと空気に任せてそれを言う。
「いっぱい、いっぱいズボズボして……アラドの熱くてこってりした白いの……あたしの一番奥に、頂戴?」
 自分の最奥を晒しつつ、止めの台詞をアイビスは言い切った。良くツグミには犬だとか何とか言われている自分だが、正にその通りだとアイビスは思う。今の自分は服従した様に腹を見せる雌犬と何ら変わりは無いとさえ思った。
 若し、本当に自分に犬耳や尻尾があったのならば、その耳は垂れて、尻尾は嬉しそうにご主人様……否、目の前の彼氏にふりふりしている事だろう。
 だがそれでも、そんな事が出来る……甘えられる相手が居ないよりは遥かにマシだ。
 ……そう切に思うアイビスは、人としての大切なモノを捨て去ったのかも知れない。それとも、本当にアラドに調教されてしまった結果か。そのどちらにせよ、アイビスにはどうでも良い事だった。

「オウ……」
――Jesus
 目の前の女の痴態にクラっと来た。そして、同時に下半身に血が一気に巡った。アラドはアイビスの持つ女の底力を見たのか、自然と溢れる涎を手で拭う。
 ……って言うか、何なんだこの人は。そこまで言えとは言っていない。わざとなのか、それとも確信犯なのかはアラドには判らない。まあ、そのどちらであっても、今のアラドにはそれはやっぱりどうでも良い事柄だったのだ。
 限界を超えてエレクトした股間の獅子王剣が、アイビスを味わいたいと吼えている。じんわりと滲み始めた先走りで黒光るそれをアイビスのその場所に突き立てる為に、アラドはアイビスの細い腰を少し乱暴に引っ掴んだ。
「んっ……こ、こんな感じで、良かったのかなあ?」
「の、悩殺されるかと思ったっスよ。アイビスさん、エロ過ぎっス」
 言って恥ずかしい、そして言われて嬉しいアイビス。だが、アラドにとってアイビスの度を越えたおねだりはスタンショック並みに危険なモノだった。
 ……それで理性を崩されては堪らない。実際、アラドの胸の奥がカッと熱くなったのは本当だ。予想以上に目の前のわんこは雌犬としての素養を秘めるらしかった。

「あ、あたしはそんなに……えっちじゃないよ」
「・・・」
――ズジュッ
「くあ」
 その台詞を聞いたアラドは全く躊躇無く、それこそ無拍子の如き呼吸やリズムが存在しないかの様な予備動作無しの打ち込みをアイビスのふやけきった女に喰らわせる。同時に、アイビスは息が抜けた。
 入り口から最奥までを貫く一撃だ。勢いの乗った重い一撃がアイビスの最奥に突き刺さり、子宮と内臓を振るわせる。既に火が点いて絶賛燃焼中のアイビスがアラドの一撃に耐えられる道理は無かった。

「あああああああああ――!!!!」

 そうして、あっさりと絶頂に導かれたアイビスは犬の様に涎を口の端に伝わせて吼えた。

「今、何か聞こえた気がするんスけど」
 スケベじゃないとかそんな類の台詞を確かに聞いた気がする。
「あ、あ……はっ、あ……あんん……!」
 ……果たして、そうなのだろうか?こうやって、限界まで一物を喰い締め、涙を頬に伝わらせてふるふる震える女はえっちじゃないのだろうか?
「何て言うか、それには議論の余地がある気がするっスねえ」
 寧ろ、議論の余地は無い気がしたアラド。
 ……年下の男に翻弄される、犬チックでえっちなお姉さん。そんな単語が今のアイビスにはぴったりな気もした。そして、それはきっと正しいのだろう。
「く、う……んん……凄え」
「はあっ……んっ、んっ」
 アラドにとっては久し振り味わう女の身体だ。しかも絶頂の余韻を残し、不定期に締め付けるアイビスは想像以上に手強い予感をアラドに伝えてくる。甘く蕩けた声を出すアイビスはそんなアラドの胸中は当然判らない。
 ただ、身を貫いた熱いシャフトに秘肉を絡ませて、腰を振るだけだ。
「気を抜いたら拙そうだな」
「んあ!あっ……ああ!」
 余裕のある台詞の一つでも吐いてアイビスを安心させたいアラドであったが、残念ながらそんな余裕は無かった。理性を総動員して本能を抑え、アイビスをよがらす事はEXハード並の困難さを誇っている。
 ……だが、それでもやるしかない。既に腹を括っているアラドは抽送を早め、アイビスの奥を擦ってやった。それだけで腹の奥から込み上げるモノを感じたが、アイビスの為だと思い、アラドはそれを全力で無視する。
 アイビスの声は艶を増し、どんどんエロくなっていく。

「あーーっ!あっーー!」
 突っ込んでから凡そ10分後。アイビスは悲鳴に近い絶叫を上げて髪を振り乱して悶えていた。そんな彼女の昂ぶりをそのまま映した様に襞や壁の愛撫は苛烈さを増していたが、アラドはそれには動じない。
 ラッキーに上塗りされる形で技能欄に姿を現したアラドの極はとっくに発動済みなのだ。
 ……しかし、クリティカル補正は兎も角として、命中と回避の補正はこの場では一切役に立っていなかった。
「ふっ……へ、へへ。アイビスさん、可愛いっスよ」
 鼻の頭に汗が伝い、アイビスの赤みが差した白い背中にポタリと落ちる。自分の腰遣いで泣いてよがってくれるアイビスの姿にアラドは率直な感想を漏した。
 大人と言うには未だ若干、少女のあどけなさを残すアイビスが端も外聞も捨てて感じてくれている。女を垣間見されるその姿に男としての充足感を感じるアラドはきっと天性のモノを持っているのだろう。
「ァ、ラドだってえ……逞しい、よお?」
 泣き濡れた声でアイビスもまた返していた。男と呼ぶには子供の部分を多く持つアラドは見た目は少年にしか映らない。だが、その内面はアイビスの知る誰よりもずっと大人びている。アイビスはそれを別段不思議とは思わなかった。
 それは彼がどれだけ後ろ暗い人生を歩んできたのか何となく知っていたからだ。アラドがスクールに居た時に何があったのかは判らないし、敢えて聞く様な話題ですらない。ただ、彼の持つ技術や思考がその時に育まれたモノだと知っているだけ良かった。
 その御蔭で、自分は今こうやって泣かされ、また何度も天国を見せられているのだ。熱さと雄々しさを表に出したアラドはこんなにも胸を、身体を熱くさせる。アイビスはアラドと言う男にどっぷりと浸かっていた。
「ありがとうごじます……っとお!」
「ああん!!」
 攻め返す暇も無くに 背中にまた一滴
 汗の玉がまたアイビスの背中に落ちた。土星の人っぽく言うアラドはアイビスの言葉の礼も込めて、一番奥に先端を密着させて擦ってやる。すると、アイビスの身体が少しだけ爆ぜる。軽く逝ってしまわれた様だった。

「少し、旗色……悪いかな」
「で、出そう?出ちゃうの……?」
 益荒男さを全開にするアラドもまた男である以上はその生理には逆らえなかった。喰い締めるアイビスの秘洞の猛攻に己の限界を見たアラドは若干苦しそうに呻く。アイビスは貫かれながら、蕩けた声で問うた。
「ちょっと、込み上げて、うう……来たっス」
「い、良いよ?射精しちゃって。我慢何て……っ、しないで」
 男の生理を何となくだが理解するアイビスはもう少しだけアラドに転がされて居たかった。浅い絶頂は絶え間なく起こっているが、未だに大きな波は来ていないからだ。
 だが、若いのだからそれも仕方が無いと思い、頑張るアラドを労う様に言ってやった。我慢はする冪ではない。寧ろ、全部ぶち撒けろ。アイビスの胎はアラドの精を望むかの様に切ない収縮を繰り返した。
「い、いや。一緒に逝くっス。置いてけぼりに何か、絶対にしないっスよ」
 だが、アラドは辛い筈なのにも関わらず、その誘いをきっぱり断った。
「っ……優しいね。アラドは」
 男……否、漢な台詞を吐いたアラドにきゅんと来たアイビス。胸の鼓動は破裂しそうに高鳴り、子宮の疼きも抑えられないレベルまで来た。心で繋がる目交いと言うモノを理解したアイビスはアラドを愛おしいと思った。
「もうちょっとだから、我慢してね……?」
「ええ。付き合うっス」
 自分の心を理解したアイビスは全てを曝け出したくなった。アラドにならば、全部見られても良い。綺麗な部分も汚い部分もひっくるめて。
 アラドは嬉し泣きするアイビスに対し、何処までも優しい笑みを返した。
「ひっ……きひっ!ひぃ……ひぃうぅうううう!」
 引き攣る様なアイビスの叫び声が絶え間無く耳を打つ。枕に顔を埋めて泣きよがるアイビスはもう少しで絶頂の尻尾を掴むのだろう。
 肉付きが薄い尻肉を掴み、それを割るとアラドとアイビスの結合部はばっちり丸見えだった。ピンク色したアイビスの蕾も呼吸するかの様にヒク付いていた。
「はっ……はあ、はっ、はっ……っ」
 アラドは舐めしゃぶってくる彼女の襞に防御能力を持っていかれつつも、ひたすら耐えていた。一緒に、と言ってしまった以上はそれを反故したくはない。実際、それを成すのはかなりの難物だが、後もう一歩でそれは叶う所まで来ていた。
 滝の如く汗を噴出させ、アイビスを天辺まで昇らせる為に腰を打ち付けるアラドはきっと将来は大物に成るであろう事は間違い無い。
「あ、あ……!ああっ」
「膣内が、震えて……っ、そろそろ、か」
 結合部はぐちゃぐちゃに成り過ぎて、本当に竿を穴に突っ込んでいるのか怪しい程の状況だった。だが、絶頂のサインが自分と彼女との曖昧な境界線から伝わってくる以上は、しっかりと合体は成されているらしい。
 アラドはここぞとばかりに腰の動きを早めた。
「い、逝く……あた、あた、し……逝っちゃ、逝っちゃうよう……!」
 普段では絶対に聞けないアイビスの蕩ける程に甘い涙声。もう、擦り切れる一歩手前のアラドにとって、それは実質止めとなった。アラドの腹で渦巻く青臭い欲望が着弾地点を見定めたかの如く発射されそうになった。
「ナイスな、タイミングっス!んじゃ、俺も……」
――ズルズル……
「あ……あっ♪」
 もう数秒と保たない事がアラドには判った。アラドはアイビスに止めを刺すべく、刺さった一物を抜ける一歩手前まで引いた。そして……
「これで、ピリオドっスよ」
――パァン!
「かはっ」
 耳元で甘く囁き、最初にそうした様にアラドはアイビスを貫いた。入り口から最奥までの串刺し刑。アイビスは涙の玉を散らし、肺から酸素を搾り出す。
「ああぁあああああああんんんぅぅ――!!!!」
 形振り構わない女の絶頂を盛大に極めたアイビスは胎の底にビシャビシャ吐き散らかされるアラドの精を貪る様に飲み干していった。
「ぐっ……ふっ、つうぅっ……!」
 アラドもまた絶頂の快楽に目を瞑り、震えながらもそれを全身で感じる。一物そのものを刈り取る様なアイビスの搾精にだらしなく呻きながら、熱い迸りの全てをアイビスの最奥に届けていった。

 放つなら 種付けが基本 群馬県。……字、余り。こうして一ラウンド目は終了した。

――で、インターバル
「ふううう」
「あんっ♪」
――ぬぽっ
 溜まっていたモノの一部を吐き出したアラドは仕事をやり遂げた様に満足気な表情をしていた。そうして、射精直後の半立ちのそれをアイビスから引き抜くとアイビスはえっちい声を出して戦慄く。
 相当に濃いモノを射精したのは明白だった。アラドの鈴口とアイビスの割れ目の間には白い橋が架かっていた。
「ふいいいい。久し振りに……射精したあ」
「ハア……ハア……」
 顔に張り付いた汗を手で拭ったアラドはちょっとだけ疲労の色を露にしている。……まあ、若いのに女の為に色々と押し殺し、望む結果を引き入れたのだからそれも当然だろう。
 そんなアラドに泣かされっ放し、且つ天国を見せられたアイビスはぐったりと横たわり、全身を痙攣させながら、肩で荒く息をしていた。泡立つ愛液と少量の精液のカクテルを割れ目から垂れ流すも、消耗した彼女はそれに気を割く事は出来なかった。
「んああ……♪」
 アラドは瀕死のアイビスの頭を何も言わずに優しく撫でてやる。まるで主人に懐く犬っころの如く、アイビスは悶えながら身を捩っていた。
 ……本当に尻尾でも振っていそうな甘えた表情だった。


――それから更に十数分経過
「ふう……随分、溜めてたみたいだね。お胎の中、アラドのでたぷたぷしてるよ♪」
「ん……まあ、アイビスさんとしてから、自分では処理してないっスねえ」
 復活。行動不能を脱したアイビスは恥ずかしそうに、また嬉しそうにそんな事を言っていた。
 アイビスに手を取られ、彼女の下腹部を何となく撫でていたアラドは戸惑いながらもそう零す。蒔いた種の量についてはアラド自身がしっかりと理解しているのだ。
「そうなの?……そんなに我慢出来るモノなの?男の子って」
「ムラムラする事はあったけど、それは訓練とかで忘れる様にしてたっスよ。……何か、勿体無い気がして」
 アイビスはアラドの言うそれに興味を持った様だったが、アラドにとっては正直、口にはし難い事柄だった。だが、別に隠す様な事でもないのでアラドはアイビスに答えてやった。
 自分で処理するよりは、溜めたそれを女にぶち撒けたい。……そう思っている辺り、アラドはやっぱり男の子だった。

「淫夢の類が一番辛かったっスわ。夢の中でアイビスさんが出てきた事、それこそ何回もあったから」
 そうして、アラドはつい口を滑らせてしまった。彼にとっては何気無い一言。だが、本人にとっては聞き逃せない嬉しい類の言葉だった。
「……へえ。そうなんだ」
 それはつまり……夢の中でもアラドは自分の姿を思い浮かべ、下着を汚す事があったと言う事に他ならない。
 にんまりと笑ったアイビスは自分の唇を舌で舐める。そして、内に湧いた思いのまま、アラドに覆い被さっていた。

「うおっ……な、何スかアイビスさん」
 突然の事で戸惑うアラド。一瞬、アイビスの事を跳ね除けようと思った彼だったが、それが成される事は無かった。
「これで終わりって言うのは……あたしとしては寂しいんだよね。だから、さ」
「う」
 そうしようと思った矢先にそんな台詞が聞こえて来ては、そんな気は失せてしまう。
 もっと愛してくれ。アイビスの瞳はそう語っていた。
「アラドは平気?あたしは未だ……足りないかな」
「そりゃ、大丈夫っスけどね。……少し待って貰えれば」
 アラドもまた若さを持て余している。続きをする事には賛成だし、消費されていない弾だって残っている。
 しかしながら、アラドのそれは一度の射精で満足してしまったのか、縮こまってしまっていた。それをアイビスに指差しながら、アラドは困った様に愛想笑いした。
「駄目」
 だが、隆盛を取り戻したアイビスがそんな事を許す筈もなかった。
――かぷっ
 アイビスはアラドの股間に顔を寄せると、自分の汁に塗れた柔らかいそれを口に含んだ。
「おわっ……!?」
「んうぅ」
 アラドの驚嘆の声がアイビスの耳に入ってくる。それにちょっとだけ嗜虐心を刺激されつつ、アイビスは唇を窄めてアラドの男を扱いてやった。酸っぱい様な塩っぽい様な微妙な味がアイビスの口腔を満たした。
「んっ、ふっ……んっんっ……ふうぅ」
「くおっ……う、っ、つう」
 艶っぽいアラドの呻きを聞いていると、再び胎の奥から汁が垂れてくるのがアイビスには判った。舌先で亀頭の裏や鈴口を突付きながら、陰嚢を優しく揉んでやる。ビクビクとアラドの男は振るえ、口の中でその体積を増していく。
「んんううぅ」
「があっ!?」
――ちゅうううう……
 止めに口の中を真空にして、尿道を吸い上げる。アラドの発する可愛い叫びに酔いそうになりながら、硬さを取り戻したそれを更に吸い上げた。
 そうすると、尿道の深い部分にあったであろう微妙に硬さを持った塊がアイビスの口腔に流れ込んできた。栗の花の匂いがするそれはアイビスが始めて口にするモノだった。

――ちゅぽ
 暴れん棒将軍から唾液の糸を伝わらせつつ、アイビスは口を離した。そうして、口に残るその塊を舌の上に何度か転がして唾液に包む。そして、それを一息に嚥下した。
「っ……ふあ。……んくっ」
「・・・」
――ゴクリ
 アイビスの喉が動いたのがアラドにははっきり見えた。何を飲んだのか知れないが、その姿には蟲惑的な何かが張り付いている気がする。アラドはアイビスから目が離せなかった。
「ふう……」
「アイビス、さん」
 そうして少し待つと、アイビスはブルッ、と身体を震わせて、熱い吐息を零す。自分の一物を元気にしつつ、何をやったのかが気になったアラドは彼女の名を呼んだ。

「んあ……っ、けほっ。な、何コレ。美味しくないよお」

 発せられたのはそんな一言だった。

「へ」
 涙目になって噎せるアイビス。それを見て、アラドはアイビスが何をしたのかが判った。
「喉に絡むしイガイガするよお。……水で溶いた片栗粉?苦しょっぱい」
「そんな事言われたって。ま、不味いなら吐き出せば良いじゃないっスか」
 アラドの言う事は正論だ。アイビスに取ってはサービスの一環だったのだろうが、別にアラドはそんな事を望んではいなかった。無理に口するモノではないと、その味を知っているからこその言葉だ。
「そりゃあ、そうなんだけどさ。でも、これがアラドのだと思ったらどうしても飲みたくなっちゃって……」
 じゃあ、どないせえちゅうんじゃい。口元を拭い、自分でも判らないと言った表情で語るアイビスにアラドは何も言えなかった。
「美味しくないのに不思議だよね。……愛の力かな」
「そ、そんな生臭い愛なんて厭っスわ」
 精液を飲んで改めて感じる愛なんてアラドは愛として認めたくなかった。だが、それをやったアイビスとしては、その行為は間違い無くアラドへの情がさせたものだった。
「今更だね。いや、君の気持ちは判るよ?……でもさ、一歩突っ込んだ男と女なんて、腐って爛れた縁になるのが当たり前だよ」
 アイビスの言う事もまた正しい。深い男女仲はそれだけで生臭いモノだ。それに当て嵌まらない関係なぞは稀だろう。当然、自分達がその例に漏れない事をアイビスは良く判っている。
 こうやって相手の為に生臭い事だって出来る実情やさっきまで下半身で繋がっていた事を顧みればそう考えざるを得ない事だった。
「いや……俺とアイビスさんはそこまで末期的じゃないっしょ」
 だが、アラドはそれを受け止めたくない様だ。どんな心理が働いているのかは正確には判らないが、きっと少年特有の純真さが働いているのだろう。
「あたしはそうなりたいけどなあ」
「……マジっスか?」
 そして、アイビスは残念ながら、アラドの理想には興味が無かった。
 何処までも汚れ堕ち、そして腐れきって切れない程に糸を引いた濃い関係になる事が願いだと言いたげに彼女は呟く。アラドは信じられないと言った視線でアイビスを睨んだ。
「まあ、それは極端だとしても、一緒に気持ち良くはなりたいよ。やっぱり」
「ああ。そう言う事っスね」
 どうやら、それはあくまで究極的な末路であり、それを望むアイビスとて容易には踏み込めない領域であると気付いているらしい。
 少なくとも今は、普通の恋人同士の様にイチャ付いて、快楽を共有したいと言うのがアイビスの望みの様だ。それならば未だ理解出来るアラドはホッとした様に頷いた。
「そうよ。……それじゃ、アラド?また、あたしを愛してくれる?」
「ええ。喜んで」
 そろそろおしゃべりにも飽いた。お互いにもう準備する事も残っていないので、素直にそれに動く事が出来た。
 自分の発した汁で薄汚れたベッドに身を横たえながら、アイビスは再びアラドに愛される事を望み、その目の前で胡坐を掻くアラドもまたアイビスにそうしたい気分だった。
「今度は前からなんだ」
「アイビスさんはバックが良いんだろうけど……それじゃあ、アイビスさんの顔が見れないから」
 膝下に腕を差し入れられ、アイビスは開脚させられる。そんなアイビスに覆い被さるアラドは彼女の好きな体位は知っていた。犬の様に後ろからガツガツ突かれるのが彼女のお気に入りだ。
 だがそれでもアラドが正常位に踏み切るのは、単にアイビスの面を拝みたかったからだ。淫蕩に呆けたアイビスの綺麗な顔は前からずっとアラドの脳裏にこびり付いている。
「そっか。……そうだね。お互いの顔が見れないのは寂しいよね」
 アイビスだって同じだ。真剣に自分を穿つアラドの凛々しい顔をアイビスは忘れられない。お互いの顔が見れない事は二人にとっては問題だった。寂しさとかそう言う感情の面からもだ。
――チュッ
 繋がる前にアイビスはアラドにまたキスを見舞った。少しばかり煙草の苦味と精液のそれが混じって口の中が変になった感じがしたアラドだったが、アイビスの唇の心地良さに比べればそんな瑣事は直ぐに頭から吹っ飛んだ。
 お互いの唾液を交換しながら、アラドは自分のそれを汁塗れのアイビスの股座に宛がう。
「好きに動いて良いからね?今度はあたしがついていくよ」
「俺に追い縋るって?……はは。じゃあ、アイビスさんの奮闘に期待するっスわ」
「んもう。生意気なんだから」
「へへ。その辺は自信ありますから」
 今度は自分をアラドの好きに抱いて欲しい。アイビスの可愛いお願いに少しだけ噴出したアラドは皮肉混じりの笑みを顔に浮かべた。膨れっ面を晒しながらも、アイビスは年上っぽい余裕を失わない。
 ……だが、それでも彼女はやっぱりアラドには敵いそうには無かった。

「あん!あん!あはぁ!」
「チィッ」
――さっきより、エグくなってる
 最初から限界MAXのアイビスの中は二戦目なのにも関わらず、アラドの余裕をどんどん削り取っていった。侮っていた訳では無いが、それに翻弄されつつあるアラドは苦しそうにしながら舌打ちする。
 その襞や壁の挙動には、初戦には確かに見られた搾り取る様な要素は殆ど無い。だが、それとは逆に、包み込んでそのまま溶かす様な優しい動きが追加されていた。
 本能に則った荒々しい蠢動には耐性を示すアラドだが、そう言った本人の心を感じさせる様なそれには彼は弱い。そして、目の前に展開する予期した通りのアイビスの顔が胸の鼓動を早くさせ、その甘い泣き声も気持ちを昂ぶらせる要因となった。
 最悪、敗北も在り得るかも知れない。そう頭に思い描いたアラドはアイビスの最奥に到達しているにも関わらず、無理矢理腰を捻じ込んだ。
「アラド!アラドぉ……!」
 膣の伸縮を無視し、内臓ごと子宮を押し上げるアラドの一撃に螺子が跳んでしまったのだろうか。アイビスは自分の目の前で腰を打ち付けるアラドの名を何度も何度も呼んだ。
 心細さと寂しさが満たされたアイビスの瞳からは涙の筋が幾重にも伝わっている。貫かれているにも関わらず、アイビスにはアラドの姿が幻の様に映っている様だ。
「俺は此処に……居るっスよ。……アイビスさん」
 宥める様に、安心させる様にアラドはアイビスの耳元で囁いた。そんなそそる顔と声で求められれば、その程度の事しか言えなくなるのも当然だ。だが、何故だろうか。胸の奥がこんなに熱いのは。
「あはぁぁ!!」
 嬉しそうにきゅうきゅう締め付けるアイビスの膣からは彼女の自分への情がひしひしと伝わってくる。アラドは胸の痛みの正体を理解した。心に燻り続けているアイビスへの情が大きく燃えただけだったのだ。

「ふ、フッ……ふふ」
 含み笑いにも似たモノがアラドの顔に張り付く。だが、それはアイビスを嘲笑う為のモノではない。寧ろ、彼女を包む様な暖かいそれだった。
 ……目の前の女の普段を知っているからこそ、ありのままを曝け出すアイビスはアラドには新鮮に映っている。アラド自身から見ても憧れるほどに立派な女性だ。そんなアイビスがこうやって自分を求めてくれている実状には湧き上がる感情が多々ある。
 一番先に来るのはこの女性(ひと)を包んでやりたいと言う思いだった。その小さな背中も、時折見せる泣き顔や眩しい笑顔も全部纏めて守りたいと。
 恋慕の情とは少し違うそれは俗に言う父性と呼ばれる感情だが、アラドにはその正体が判らない。だが、確かに言える事はそれがアラドの心の底だと言う事だ。
「……いや、やっぱ駄目、だよな」
 そして、自分自身でもアイビスへの気持ちをアラドは理解している。手を伸ばせばそれは手に入るのだろう。だが、アラドは其処からの一歩を踏み出さず、暖かさの中に一抹の寂しさを含む笑顔を湛えるだけだった。
「どうっスか?気持ち、良いっスか?」
「凄っ、いぃ!奥っ!奥が擦れて凄いよぅ!」
 ……余計な事に気を取られている場合ではなかった。行為が疎かになってしまった事を反省しつつ、謝罪の意味合いを込めてアイビスの奥を抉った。
 それが堪らないアイビスは白い喉を見せて仰け反る。吹っ飛び掛けている事が丸判りなその反応に、アラドは纏わり付く滑った襞ごと引き摺り出すが如く一物を引いた。
――ズンッ!
 そして体重を乗せて一物を強く打ち込むと、先端が子宮口にめり込むのを確かに感じた。
「きゅぅんんっ!!」
 子犬の様な嬌声がアラドの耳を打つ。それが引鉄になったのか、アラドは自然と理性の手綱を緩めてしまった。こんな犬っぽい可愛い声を聞かされては内に潜むワイルドビーストが目を覚ますのも当然だった。
「……堪んねえっスわ。声も表情も……凄え可愛い」
「ば、馬鹿ああああ//////」
 湧き上がる肉欲に抗わず、それを受け入れながら、アラドはアイビスの顔を軽く撫でた。お姉さんとしてはそれが恥ずかしいのか、はたまた嬉しいのか、アイビスは紅潮した顔に新たな涙を伝わせて叫ぶ。
「んくっ!……きゅ、急に締めるのは、勘弁して下さいよお」
「だって、だってぇ!」
 それが腹筋やら括約筋やらに力を込めさせたのか、いきなり締まってきたアイビスの膣にアラドは泣きそうになった。一瞬、確かに耐久力の限界を超えそうになってしまったのだ。
 だが、アイビスにはアラドのそんな苦悩は伝わらなかったらしい。涙を溜めて恨みがましい視線でアラドを射抜くだけだ。

「拗ねないで、下さいよ。俺は、本気でそう思ってるんですから」
 年上の癖に手が掛かる女。アラドはそう思いつつも、やっぱりアイビスを放って置けなかった。心にある気持ちをそのままぶつけて、アイビスの桃色の瞳をじっと見詰める。潤んだ瞳は更に揺れて、目の前のアラドの顔をそのまま映し出した。
「ふうっ!?」
――ちゅく
 アイビスが何か言おうとしている事は空気で判ったので、アラドはそれを封じる為にアイビスの唇を奪った。自分がそんな積極的な攻勢に出るとはアイビスにも予想外だったのだろう。少しの間を置くと、アイビスは自分から舌を差し入れて、それを絡めてきた。
「ん……っ」
「んうっ!……んふぅ……!んっ、ぁんん」
 下の口と同じく、上の口もまたぐちゃぐちゃに蕩ける半歩手前。アイビスの舌を口腔に引き入れて、その唾液を吸いながら自分の唾液をアイビスに送る。歯茎の裏や粘膜を執拗に舐め擦り、アラドは大人のキスを以ってアイビスを溶かしてやった。
 それにときめている事を示す様に、アイビスの膣はきつく締まりっ放しだった。

「ひゅう」
 生臭いのは厭だとか言っていたのは嘘だったのか、お互いの唾液でベトベトになりながら、銀色の橋をお互いの口から伝わらせるアラドはアイビスとの爛れた関係が更に深まった事にきっと気付いていないのだろう。
「ふ、あ……♪」
 キスは終わり、アイビスはゾクゾクと身体を震わせてアラドの鍛えられた逞しい胸板に倒れ込んだ。
 痩せてはいるが、無駄な肉が一切無い傷だらけのアラドの上半身は女のアイビスから見ても羨ましい位綺麗だった。歴戦の兵と言うには幼過ぎるその身体に刻まれている傷の多さはどれだけの修羅場を潜ってきたのかを容易に想像させる。
 切り傷や火傷、銃創はそれこそ無数に在り、何かの手術跡の様な生々しいモノだってあった。それがスクール時代に負った物である事は間違い無い。
 そんなモノを背負って尚、懸命に生きるアラドの生き様から、アイビスは何度となく言い知れない感情を貰っていた。そして、今はその正体が彼女には明確に理解出来る。
 ……アラドが欲しい。そんな稚拙な独占欲だった。だが、それこそが彼女の願いだったのだ。
 そして、それはもう一つの意味合いを持っていた。
 それに気付いてしまったアイビスは、一切合財の雑念を捨ててアラドの首っ玉に縋り付き、甘える様に身体を擦り付けた。
「アラドぉ……♪」
――落とされた
 それを心で理解したが故だ。身体はトロトロに蕩け、心もメロメロだった。
「・・・」
 ……だが、そんなアイビスの胸中を何となく知りつつも、アラドはドライだった。身体も心も熔けそうな程に密着しているのに、アラドは心の奥に在るしこりを取り除く事が出来なかった。
「ぐっ……ぐ、ぁ」
「あ……あ!あ、ぁ!」
 喉が潰れたアイビスはもう、苦しそうに息を吐き出すだけだった。死体一歩手前の状況に追い込まれても尚、アイビスの膣はアラドの剛直を溶かそうとしている。
 その一途とも言える襞と膣壁の動きにアラドの堰はとっくに決壊しそうになっている。それを気合で抑え、アイビスを更なる肉欲の奈落に突き落とすアラドは年下の彼氏の鑑だった。
「ふっ……ふう、ぅ……ぐう」
 好い加減に辛くなってきた。放出の開放感をその身に得たいアラドはスパートに入った。技術を捨てて本能に従ってアイビスの女を穿ち、また泣かせる。
「アラド……!」
「くあ……」
 そんなアラドの荒々しい腰遣いにときめいたアイビスは泣き顔のまま、思いっきり膣を締めた。全方位から襲う、引き絞る様な痛みともつかない快感がアラドの腹に蟠る欲望に活力を与えた。
「アラド……アラド!アラドぉ!!」
「アイビス、さん!」
 お互いに名前を呼ぶ事位しか出来ない状況だった。それ以外の何かが頭に浮かぶ事も無かった。
 握り潰す程強く膣を締めて、アラドの魂魄すらも求める様に搾り上げるアイビスと恥骨に骨盤を叩き付ける様にガンガン腰を振り、子宮そのものを貫く様にアイビスを穿つアラド。目指す場所が同じ二人は一つに熔けそうになっていた。
「好きぃ!……好きだよぉ!アラドぉ!」
「アイ、ビス……っ、あ、ぁぁっ!!」
 大きな波が子宮を中心に伝播し、アイビスの全身を蝕む。そして、全力で収縮する自分の膣でアラドの竿そのものの形をも理解したアイビスは心のまま、愛おしい男に捧げる言葉を叫んだ。
 それに射精を誘発されるアラドもまた、アイビスの最奥に控える本当の最奥に誘われる様に腰を突き入れた。細いゴムの輪を通過した様な有り得ない快感で背筋を震わせながら、その女の名をそのまま呼んだ。
「んむっ!?」
 射精の直前、アラドは唇をまたまた奪われた。都合四度目のそれ。眼前に広がる女の顔。
 涙で化粧したアイビスは本当に綺麗だった。
「ふうううううううううううう――!!!!」
「っ!っ!……っ、う、ぁぁ!」
 ショウダウン。揃って高みへと昇るアイビスとアラドの視界には同じモノが映っていた。青白い火花が何度も咲いて、そのままブラックアウトを誘ってくる。
「ぐっ…っ!つ、お……く、あぁ」
 アラドはアイビスの子宮に直接子種をぶち撒けながら、何とかその誘いを跳ね除けた。
「ふぅ!!っ!!んんぅっ!!!……………っ、ぁ」
 だが、子宮全体を燃やす様な灼熱感と抗えない女の快楽両方に曝されたアイビスはそのまま意識が刈り取られた様にベッドに沈み込む。ふっつり糸が切れた人形の様に動かなくなったアイビスはそれでもアラドの分身を胎の底をも動員してしゃぶっていた。
「っ、っ……?」
 射精の快楽にふら付くアラドは自分の股間が何故か生暖かくなった事に気が付いた。何が起こったのかを検証すべく、平常心を何とか取り戻し、自分とアイビスの結合部を見やる。示された正解は或る意味、大変なモノだった。
「うわ……失禁してら」
 天国を超えた肉欲の地獄を垣間見たアイビスは意識を完全に消失しつつ、アラドのズボンを小水で汚していた。それを見てしまったアラドは一気に頭の芯が冷めた気がしたのだった。
「平気っスか?アイビスさん」
 アイビスが意識を取り戻すまでは少し時間が掛かった。その間に色々と後始末に奔走したアラドは素っ裸だった。
 薄汚れたシーツを取替え、マーキングされてしまった自分のズボンを含めた衣類全般を洗濯機に押し込んで、それを干し終えた所でやっとアイビスは目を覚ましたのだ。
 ……因みに、アイビスのお漏らしの件について、アラドは彼女に何も言わなかった。意識がブッ飛んでる最中の出来事なのだから、それこそ知らぬが仏と言う奴だったのだ。
「ちょっと……腰に来たかも。……ぁ、痛」
「無茶が過ぎたっスかね。……申し訳ない」
 真新しいシーツを引っ掴んで自分の身体を隠す様にアイビスは寝台に横たわっている。アラドはベッドの端っこに腰掛けて、腰が撃沈しそうになっているアイビスに謝った。
 ……あんな基本を無視したやり方でウテルスに至ってしまうとはアラド自身としても驚きだった。それ以前にあの角度では挿入は絶対不可能な筈なのだ。
 腰に来たのもきっとその所為だろう。だが、どうしてそうなってしまったのか、どれだけ考えてもアラドには正解が判らなかった。
「いや、それは良いよ。……何かさ、アラドってば必死で、可愛かったよ?」
「う//////」
 事が済んでしまえば、アイビスは何処までも年上の彼女っぽい余裕を見せ付ける。それが何となく恥ずかしいアラドは不覚にも顔を真っ赤にした。
「まあ、それ以上に格好良かったけど。……ほんと、本気になっちゃいそうだよ」
 そして、アイビスは男を立てる事も忘れない。確かに、可愛かった。だが、それ以上に格好良かった。アイビスがそう零すのも納得な程、アラドは頑張ったのだ。
「・・・」
「あはは、これはあたしの我儘だけどさ。……って、どうしたの?」
 はにかむアイビスとは対照的にアラドは辛そうな表情をしていた。精神的な苦境を感じさせるそれにはアイビスとて流石に気付く。何か暗いモノが過ぎるアラドの顔にアイビスは只ならぬ何かを感じた。

「……何でもないっス。気にしないで」
「そんな顔で気にしないでって言われてもねえ。……ひょっとして、迷惑だったりするのかな」
 アラドとしてはこれ以上突っ込んで聞いて欲しくないので、顔を背けてぶっきらぼうに言った。だが、アイビスはこう言う場面では強い。アラドを捨て置けないアイビスは年上の女の持つ包容力を露にしつつ、そんな事を聞いていた。
「……いや」
 アラドはやっぱり嘘が吐けない正確だった。アイビスの事を迷惑になんて全然思っていないので、適当に茶を濁す事も出来なかった。
「ゼオラの、事?」
 遠慮がちに呟くアイビスはきっとそうだと踏んでいた。だが、それはさっきと同じくやっぱり間違いだった。
「全然違うっスよ。アイツとは……何も無いから」
「そうだったんだ」
 今度のアラドは躊躇を見せずはっきり言い切って見せた。アラドが大好きなアイビスにとって、ゼオラの存在は無視できないモノだが、そのアラドの台詞には少しだけ安心した表情を見せた。
「ええ。アイビスさんとこうしてる以上のモノ何て、ゼオラとの間には無いっスからね」
 アラドが言いたいのはそう言う事だ。確かに、自分とゼオラの間には因縁がある。だが、アイビスと肌を重ねている自分には少なくともそのアイビスに対する気持ちはあるのだ。
 対で調整された存在だと言っても、ゼオラはあくまで戦闘に於けるパートナー以上の意味を持たない。その証拠に、アラドはゼオラを抱いた事などはスクール時代をひっくるめても唯の一度だって無かったのだ。
「じゃあ、どうしたって言うのよ。顔、怖いよ?」
「・・・」
 では、一体全体何だってそんなしょっぱい顔をするのか?アイビスにはその理由が全く想像出来なかった。唯、何となく、それを無視すれば大変な事になるであろうと言う女の勘みたいなモノは働いていた。だからこそ、アイビスはしつこくその理由を聞くのだ。
 想像以上に食い下がって来るアイビスにアラドは若干、うざったいと言う気持ちを胸に孕みながらも、それを口に出して言う事は出来なかった。そんな事をして怒らせたく……否、悲しませたくないと言う心理が働いたが故だ。
「ハア」
 そして、そんな感情が矛盾だと言う事もアラドは知っている。それに揺れ動く事にも好い加減疲れたので、アラドはその理由を語ってやる事にした。最悪、これで彼女の関係が終わっても良いとさえアラドは思った。
 ……表面上はヘラヘラしつつも、今のアラドはそれだけ闇を飼っていたのだ。

「アイビスさんには……俺に本気になって欲しくないって事っスよ」

「え」
 それが、理由だ。アイビスの存在はアラドにとって大きくなり過ぎた。遊びで終わらせる程にアラドは擦れていない。出来るなら、ピリオドの向こう側まで突き抜けたい。だが、アラドはそれが出来ない事を知っているからこそ、悩んでいた。
 アイビスは語られた重たい言葉の真意が理解出来ていなかった。
「ど、どう、して」
「それ、は……」
 そう聞き返すだけでアイビスは精一杯だった。もう、とっくに心で繋がっていると思っていたのに、突然掌を返す様なアラドの言葉に泣きたくなったアイビス。
 その表情を見てしまったアラドは言葉に詰まってしまった。
「……アラド!」
 自分の勘が正しかった事に気付いたアイビスは尋問するかの様な強気な態度と言葉でアラドを追い詰めた。退いてはならない。退けば、アラドは二度と自分の下に返らない。そう直感的に思ったのだ。
「だんまりって訳にゃいかねえか。……そんなの、単純っスよ」
「だから、何なのよそれは」
 ……やっぱり、こうなってしまった。諦めを顔に張り付かせたアラドはどうしてそう思ったのか、アイビスが望む答えを示す。何処までも自分本位なそれに愛想を尽かして欲しいともアラドは思った。

「俺は所詮、アイビスさんにとって都合の良い男に過ぎないって事です」

「なっ!」
 その言葉が許容出来なかったアイビスは本気でアラドの横っ面を殴りたくなった。頭が沸騰した様に熱くなって、身体が勝手に動きそうになる。だが、アイビスは何とかそれを自制した。
「お、怒るよアラド」
 否、実際、怒っている。語尾を荒げ、アラドを睨むアイビス。

「違うって言えるんですか?」

「!」
 だが、アイビスは次の瞬間には凍り付いていた。垣間見たアラドの表情はこれまで見た事が無い程に寂しげで、また恐怖を煽る程に冷たかったのだ。
「アイビスさんにとって、一番大事なのは宇宙(そら)を飛ぶ事だ。残念だけど、俺はそこまでアイビスさんの内部まで食い込めない」
「あ……」
 真実が語られた。アイビスは心臓にナイフを突き立てられた様な激痛を味わった。それは心の痛みだが、それを取り除く事は出来ない。
「その時が来たら、俺と自分の夢を……アンタは秤に掛ける筈だ。そして、俺にはその結末が見える。俺が捨てられるって未来がね」
「そ、そんな事!」
 アラドは感情を押し殺した声色で淡々と語る。
 一介のPT乗りとアストロノーツの生き方の違いだ。地面を這い蹲る……否、空は飛べても所詮は成層圏止まりのアラドとその向こう側にある星の海を飛ぼうとしているアイビスにはどうにもならない隔たりがあるのだ。
 ……敢えて言うなら、それは蚤と鳥の生活圏の違いだろうか。
 アイビスは何とか声を振り絞って叫んだが、それが何かを成す事は無かった。
「そんな泳いだ視線で言われても、説得力は無いです」
「うう」
 アイビスはアラドが顔に湛える無言、且つ無貌の表情に口を縫われてしまった様に言葉を発せなかった。

「愛だの何だの……難しい事は判らないけどさ。若し、俺の心にあるこの感情が、アイビスさんと同じモノなら……それは愛って言えるんでしょうね。だけど、だからこそ……俺はそれを受け入れる訳にはいかないよ」
 今の自分の心境を語るアラドは冷徹さや威圧感を手放していた。
 きっと、アラドはアイビスの事が大好きなのだろう。だが、だからこそ……彼はそれに縋る訳にはいかないのだ。
「何で……!」
 泣きたい。声を上げて泣きたい。そう思ってもアイビスの涙腺は反応を見せなかった。ただ、責める様な声が喉を通過するだけだった。
「アイビスさんが本気なら、俺もそうならざるを得ない。それで、貴女無しで……アイビスさん無しで生きていけなくなって、そんな最中に別れを告げられたら……俺は本当に生きていけなくなるだろうから」
「っ//////」
 深い、そしてその先にある深淵を覗かせる様なアラドの言葉は残響となってアイビスの心に響く。
 アラドがアイビスを嫌いになぞ、成れる訳は無い。そこまで薄情じゃあないし、酷薄にだって成れない。だが、それに一度溺れてしまえば、きっとその居心地の良さを手放せなくなる。それを本気で恐れているが故にアラドは最後の一歩が踏み出せないのだ。
 アイビスはその意味を理解しつつも、女心を擽られたのか、顔を赤くして俯くしかなかった。
「きっと、アイビスさんは耐えられる。貴女は強い女性(ひと)だからね。……でも、俺にゃあ無理だ。失う事の痛みにはきっと耐えられない。だから……」
 アラドがアイビスとの関係を身体だけのそれに留めたいのも、そうした理由があったからだった。
 アラドの依存心の強さをアイビスは理解していなかった。スクールの生き残り全般に言える事だが、アラドもその例に漏れない。だが、アラドにとって不幸だったのは、その依存心の強さを理解しつつも、ここまでアイビスとの愛を育んで来た事だった。
 ゼオラやラトゥーニも同じく依存心を抱えているが、彼女達は自分のそれを理解していない。それこそが、彼女達とアラドの差だ。気付かない事、気付けない事が幸せだと言うなら、自分をしっかり把握しているアラドは不幸だったのだ。
 それ以上、アラドが何かを口走る事は無かった。言いたかった事は全て伝えたが故だろう。アイビスは俯くアラドを見ながら頭のピーナッツバターをフルドライブさせる。
 一体、どうすれば良いのか?……否、自分はどうしたいのか?一番重要なのはそれだった。
 だが、アラドの言葉が真実である以上、そんな結末を迎えてしまう事は残念ながら可能性としては十分にあるのだ。
――でも、アラドは絶対に手放せない
 そして、宇宙を飛ぶ事も諦められない。そんな救いの無い二者択一的なエンディングはアイビスには必要無いモノだった。為らば、共にエンドクレジットに名を刻むには、どうすれば良いのか?
 ……我ながら欲の皮が突っ張っていると思いながらも、アイビスはその手段を見出した。きっと、それを選んで最後まで突き抜けるには大きな代償が必要になる事だろう。だが、望む結末を引き込む為なら、アイビスはそんなモノは惜しくなかった。

「だから……これ以上、心は許さないって言うの?」
 もう、アイビスに迷いは無かった。迷妄に囚われたアラドを篭絡する為にアイビスは自ら打って出る。失敗は恐れない。きっと、上手く事は運ぶ。そう思い込む事が必要な状況だった。
「……ええ」
「くすっ」
 アラドのその頷きはアイビスには予期していた事だった。本当にそうなった事にアイビスは自らの勝ちのヴィジョンを明確に見る事が出来た。
 戦略云々は苦手だが、今はそれがモノを言う。アイビスは柔らかく微笑むと、アラドを背中から抱き締めた。搾られた逞しいアラドの背中は想像以上に硬く、また小さく感じられた。
「!?」
 ビクッ。跳ね上がるアラドはアイビスがそんな事をするとは思っていなかったらしい。背中越しにアラドは振り返る。アイビスは攻勢を緩めなかった。
「馬鹿」
「う、あ……?」
 そっと。アラドの耳元で呟いた。壊れ物を扱うかの様に優しくアラドを抱くアイビスはやっぱり年上の女だった。
「馬鹿だよ、アラドは」
「そんな事は知って「いや、解ってない」
 自分が愚かだと言う事はアラド自身が良く知っているのだろう。だが、そのニュアンスはアイビスが言いたいそれとは若干違うモノだ。だから、アイビスはアラドの言葉の途中で口を挟んだ。
「失うのが怖いから、目の前にある幸せに手を出さないって言うの?」
 アイビスがアラドを馬鹿だと言いたいのは、そう言う点からだった。
「……ええ。そうですよ」
 だが、アラドは拒絶を続けた。半ば、居直りとも取れるその振る舞いにアイビスの胸の奥は疼きっ放しだった。

「うあ!?」
――ギュッ
 抱擁をきつくすると、アラドは若干、苦痛の混じる声で叫んだ。
 ……こう言う時に肉付きが薄いと辛い。アイビスは少し悲しかった。
「これは……思った以上に当たりだったみたいだよ、君は」
「え」
 まあ、今はそんな瑣事に思考を割く訳にはいかない。悲しさを頭の隅に追いやり、再びアラドを口説くアイビス。
 アラドが良い男かどうか、もうそんな事は言うまでも無い事だ。それを引き当てた自分は大凶に当たる並の幸運だったのだろうとアイビスは考えた。
 ……だからこそ、その恋路を何としても成就させたい彼女はこの一世一代の勝負に何としても勝たねばならないのだ。
「喪失と共栄の絶対量は等価じゃない。……絶対に、プラスの方が多い。あたしはそう信じてるよ」
 人生に於いて、出会いと別れは頻繁にある。そして、別れの際には当然痛みと喪失感が付き纏う。それが深い仲であればある程その度合いは大きくなるのだ。
 しかし、孤独で居るよりは誰かと共に歩む方が得られるモノは多い。何れは失われるモノだとしても、トータルで見ればそのマイナスを上回って余りあるモノを齎す。
 ……アイビスにはそんな確固たる信念があった。アラドの気持ちの全てを理解している訳では無いが、それだけは正しい事だとアイビスは信じていた。
「……ええ。最終的には、そうなるでしょうね。でも俺は」
 アラドもそれが真理だと言う事は本当は解っているのだろう。だが、解っているからこそ、安易にそれを求められないアラドは臆病者と言っても良い程だった。
「判ってる」
「っ」
 だが、アイビスはそれを責めない。唯、受け入れるだけだった。スクール時代の彼の日常を鑑みれば、そうなってしまっても当然だと考えたからだ。
 生と死が常に交差し、近しい者が次々と失われていく日常に身を置いていたアラドだ。誰かとの絆の喪失に怯えるのはそう言う背景があるからと言う事をアイビスは知っていた。加えて、インスペクター事件の時も彼は、最も救いたかった義理の姉も失っているのだ。
「離れ離れになるのが、怖いんだよね、アラドは」
 それらの事象に同情の余地は多々あるし、アラドはそれを撥ね付けるだろうけど、アイビスはアラドを包んでやりたかった。母性愛か、それとも愛に託けた独占欲なのかはアイビス自身としても判らない。だが、そうしてあげたいと言う気持ちだけは本物だった。
「……そう、です」
 アイビスに核心を言い当てられたアラドは唇を噛んだ。それ位の抵抗しか出来ない程にアラドは追い込まれていたのだ。

「あたしだって、そうだよ」
「・・・」
 抱いた腕に力を込めると、アラドはそれに抵抗する気を奪われた様に身を委ねた。
「好きになって……それこそ、お嫁さんになっても良いって思った相手と別れて暮らさなきゃって思うと、胸が軋むよ」
 説教と口説きを両方平行してやらねばならないのは辛い所だが、不思議とアイビスの思考はクリアで、何故かドジを踏む事も無かった。
 案外、今の彼女には恋愛の神の加護でもあるのかも知れなかった。

「よ、嫁?」

 ……だが、調子に乗って天狗になるのは考え物だ。アイビスは本心をそのまま口に出してしまう。アラドは聞き捨てならないその台詞に引き攣った顔をしていた。
「いや、それは良いからさ//////。……でも、あたしはやっぱり、アラドの言う通り、宇宙を目指し続けると思う。そうやって生きてきたし、今迄の自分を無駄にしたくないからね」
「でしょうね」
 どうやら、彼女としても言う気はなかった言葉らしい。それを忘れ、アイビスの口上を賜ったアラドは素直に相槌を打った。それこそがアイビスの取るべき正しい選択だと思った故だ。

「だけどさ」
「う?」
 だが、アイビスの言葉には続きがあったのだ。それはアラドには読めなかった展開だ。彼女のその瞳には何か大きな決意の様なモノが秘められている気がした。
「それであたしが君を捨てるって考えるのは、浅慮なんじゃないかな」
「は、はあ?」
 何を言いたいのかさっぱり判らない。……否、何となくだがその先に続く言葉は予想出来る。背中越しに伝わって来るアイビスの鼓動や脈拍は強くて早い。それだけ興奮し、また緊張している事の証だろう。アラドは一瞬、それに高血圧を心配した程だ。
 そして、そんなアイビスに耳を貸したくないアラドだったが、無駄だった。

「こうは考えられない?
あたしが君を攫って……一緒に宇宙を飛ぶって」

 ……それこそが、アイビスが選んだ選択肢だった。

「いいっ!?」
「……そんなヴィジョンはさ、アラドには見えない?」
 アラドはお決まりの台詞を吐き散らかしつつ、自分が口説かれている事にやっと気付いた様だった。赤みの差す、アイビスの顔はこれ以上が無いほど危険なモノだ。それに転ぶ訳にはいかないアラドは叫ぶ。
「そんな無茶な!フィリオ少佐やタカクラチーフは絶対、首を横に振るっスよ!それに、今此処に居ないスレイさんはどうやって説得するっスか!?」
 そんな事は出来る訳が無い。自分はアストロノーツではないし、立ちはだかる壁も多過ぎる。何時の間にアルコールを摂取したのかは知らないが、酔っ払っているなら正気に戻って欲しいと勝手に思ったアラドはアイビスの顔を見て、ゾッとした。
「勿論、纏めて黙らせるよ」
「っ」
 どうやら、酔っている訳ではないらしい。空恐ろしい台詞を低く呟くアイビスの顔は何処までも真面目で、且つイカていた。
「漸く見つけたあたしの王子様を……否定なんてさせない!」
――うわあ。目がマジだ
 そう思った所で有効的な対処方などアラドの頭には浮かばない。アラドの予想以上にアイビスは情が深い女だった様だ。そして、それに目を付けられた時点で、運の尽きだったのだろう。
 ……どうやら、本気にさせてはいけない相手のハートに火を点けてしまったらしい。先程の自分の推測が的を射ていた事がアラドには笑えなかった。
「ぼ、暴力に訴えるのはその、やり過ぎの様な」
 やっと頭に湧いたのは錆付いて威力も何も期待出来ない様な酷い台詞だった。当然、アイビスがそんなモノに揺らぐ筈は無かった。
「それはどうしようも無くなった時だけどさ。……それ位の戦果は、あたしは挙げてると思う。プロジェクトTDの宣伝以上に、あたしの我儘が許される位には、さ」
 インターミッション画面に顔グラが表示される位には。それも、アラドの横で。インスペクター事件の時もそうだった。
「う、確かに」
 そうなる為に結構、並々ならぬ苦労があった事はアラドも重々承知していた。直ぐ傍で見てきたのだから、それは当然だった。
 ……しかしだからと言って、イリーガルな手を使う事も辞さないとは。その何処かベクトルが間違ったアイビスの実直さは色々な意味で賞賛したくなるアラドだった。
 ひょっとしたら、宇宙飛行士用の基礎訓練プログラムに今から着手した方が良いのかも知れない。それと、再就職先を見繕う事も。
「宇宙を飛ぶのはあたしの夢。そして、アラドを手に入れるのはあたしの野心だ。両立するのは難しいだろうけど……きっと出来る、そんな気がするんだ」
 普通ならば無理、と其処で話は終わりだろうが、それを為そうとするアイビスは真剣そのものと言った言葉を吐いた。
――君が居るなら、あたしは翔べる
「アイビスさん……」
 ……この人ならば、それをやってのけそうな気がする。アラドは何故かそう思った。つんのめりながら、倒れそうになりながらも、最後にはきっと己を叶える。何処までも真っ直ぐなアイビスの心にアラドは心底魅せられた気がした。

「で、どうなの?……アラドは」
「え……っ//////」
 そうして、アイビスはアラドに止めを刺そうとする。
 一瞬言葉に詰まったアラドは、次の瞬間には顔を真っ赤にしていた。本気の視線を湛えたアイビスの涙ぐんだ、そして何かを強請る様な表情がそこにあったからだ。何処かしら犬っぽさを張り付かせるそれにアラドはどうしようか迷ってしまった。
「あ、はは」
 愛想笑いで逃げようとしたアラドだったが、そんなものはもう無駄だ。
「アラドぉ」
 アイビスがそれをさせてくれないのだ。
「……はあ」
――こりゃ、駄目だ
 アラドはそう理解する事にした。抗おうとも思ったが、やっぱり無理だった。今にも本気で泣き出しそうなアイビスの顔を見たら、そんな気も失せてしまった。
 その結末は当然、誰もが予想出来るモノだった。

「あ、アイビスさんが俺を攫ってくれるって言うんなら、その時はお付き合いしますっス」
 アラドは今のアイビスに敵う箇所が全く見出せなかった。泣き落としに弱い訳ではないが、それが反則的にツボだったアラドはそう言う事位しか許されなかった。
「それは、何処まで?」
「・・・」
 有無を言わさぬそのやり口が若干卑怯とも思ったが、もう遅い。自分は胸中を語ってしまったのだ。
 アイビスは今しがた見せた泣きわんこっぽい表情を捨て去って真面目に聞いてくる。嘘泣きだったとは思いたく無いが……気持ちを口に出した時点で全ては手遅れだった。

「因果地平の彼方。最悪でも、地獄の底位までは」

――儘よ!
 ハイになった頭に蛆の如く涌いた糞の様な戯言がそのまま喉を通過した。
「んふふ〜〜♪」
「おわっ」
 餓鬼臭さが際立つ真っ直ぐな台詞。それに満足したアイビスは愛おしむ様にアラドを掻き抱き、極上の笑みで顔を満たす。
「ゼオラには悪いけどさ。……君の事、奪わせて貰うよ」
 それがアイビスの答えだった。……もう逃げられない。アラドは腹を括る。

「あ、アイビスさん?」
「ん〜〜?」
「いや、実はアイビスさん……とっくの昔に本気だったんじゃあ」
 今迄の台詞を聞く限りではどうしてもその様にしか思えない。今更、それを言っても詮無き事だが、アラドはどうしてもその辺が気になるのだ。
「むぎゅ」
「そ、そう言う事は言わないの!……アラドの馬鹿//////」
 存外に目敏いアラドの口を封じるかの如く、アイビスは自分の薄い胸でアラドの顔を抱いた。まあ、アイビスの胸中は……推して知るべし。
 今の二人は年上の彼女と年下の彼氏。……誰が見てもその様にしか映らなかった。


 そして……


――数日後 ハガネ 休憩所
「相変わらず、オペレーションオーバーゲートの進捗状況は芳しくないんだね」
「そうね。でも、肝心のダガーが手に入らないんだから、仕方無いわよ。ギリアム少佐も泣いてたわ」
「待つしかない、か」
「そう言う事」
 ブリーフィングルーム近くの自販機コーナー。アイビスはコパイであるツグミ=タカクラと何時まで経っても動き出さない作戦について愚痴を零していた。
 作戦立案から結構な時間が経っているが、ダガーが確保出来ない以上、待つしか出来ないと言う事は誰もが解っている事だった。頓挫した作戦は当然、兵士達にとっては退屈な待機任務を強いる事になる。
 骨休めにもならない微妙に温い時間に皆うんざりしていた。
「処で、アイビス?」
「何よ、ツグミ?」
 烏龍茶のカップを一口飲んだツグミはゲオルグ的MAXなコーヒーを啜るアイビスに切り出した。それは上層部が決めた兵達への労いとも言えるイベントについてだった。
「明後日の半舷。久し振りに私と街に出ない?」
 テスラ研にハガネとヒリュウが寄航してからは始めての半舷休息だ。ツグミはそのお相手としてアイビスに白羽の矢を立てた。近くにはコロラドの小さな街しかないが、甘い物を楽しむ位は出来るだろう。ツグミは是非ともアイビスを誘いたかった。
「あ……それは、ちょっと」
 しかし、そんなお誘いにアイビスは残念そうに顔を傾けた。アイビスはツグミの誘いを断らねばならない理由があったのだ。
「何?先約でもあるの?」
「うん、実はそうなんだ。彼と約束してて」
 そう言う事だった。先約を反故出来ないアイビスは何故か照れ臭そうにしながら、呟く。
 ……彼女は自分が何を言ったのか気付いていなかった。
「!!??」
「?…………あぁ!?」
 ズザザッ!埃を巻き上げながら盛大に後ずさったツグミの様子に妙なモノを感じたアイビスはその理由を探る。そして、それが自分の言動にあった事に直ぐに気付かされたアイビスは焦りを顔に張り付かせる。
「彼……?」
「ち、違うんだよツグミ!彼じゃない!?哩……って、無理があるか。鰈……これも駄目だ。コマネチ!……アレ、全然違う。え、えーと……えーと、ん〜〜、何だっけ!?」
 那覇ナハナハハ。……そんな愛想笑いも出ない程にアイビスは大慌てだ。うっかり口に出した言葉が寿命を縮ませる要因に成り得る事を知ったアイビスは何とか誤魔化そうと必死になる。
「いや、私に言われても」
 当事者と第三者のテンションの違いが如実に現れていた。そんな事を聞かれてもどうしようもないツグミはアイビスとは対照的に冷静だった。

「ああ、こんな処に居たんスか、アイビスさん。探したっスよ」

「うわ!」
「え?」
 計ったかの様なタイミングで聞こえて来た少年の声にアイビスは全身を総毛立たせ、ツグミはその人物の居る方向に視線を向ける。その正体は当然、彼だった。
「こんちわっス、タカクラチーフ」
「え、ええ。こんにちは」
 アラドは何気ない挨拶をツグミと交わす。ツグミは少しだけ顔を歪めた。
 ……少し前に財布の中身がスッカラカンになる程にアイビスとアラドにケーキを奢ったのだからそれも当然だった。
 だが、アラドはツグミの胸中には気付けない。アラドが目当ての人物はアイビスなのだから、それ以外の事が疎かになってしまってもそれは仕方が無い事だろう。

「処で、アイビスさん?明後日の半舷なんスけど、何処に行くとか全然話してないっスよね?そろそろ決めとかないと時間が足りなくなるっスよ?」

 アラドがアイビスを尋ねたのはそう言う理由だった。二日後の休みに何をするのかと言う事。未だ二人はその辺りの事を全く決めていなかったのだ。

「ぁ、あっちゃぁ」
 アイビスはそんなアラドの言葉に頭を抱える。……アラドに罪は無い。うっかり口走った自分にこそ責任があると判っているアイビスはもう言い訳が出来ない事を悟った。
「なっ……!あ、アイビスの言う彼って……真逆!?」
「へっ?」
 ツグミも話の流れから、それが誰なのかが判ったらしい。目の前に居るトップエースにはとても見えない少年がそうであるとツグミは断定した。
 だが、アラドはツグミが向ける視線の意味を少しの間、理解出来なかった。
「?、?……?…………うげっ」
 そして、暫く考えて何があったのかを認識したアラドは若干、困った様な視線をアイビスに向ける。
「……(ゴメン!)」
 そんなアラドにアイビスは両手を合わせて平謝りするだけだ。
 ……二人の関係については未だ秘密にしていようと言うのがお互いの見解だった。それが突然破られればこうなるのは必定だったのだ。

「アラド君?……そう、なのね?」
「……ええ。そうっスよ?」
 ツグミは真顔だった。だが、その視線には何故か咎める様なモノが混じっている。アラドは臆さずにきっぱりと言い切った。
「!」
 漢を感じさせるその台詞に痺れた様にアイビスは固まってしまった。
「冗談、よね?」
「遊びでそんな事が言える程……いえ、出来る程、擦れてないっスよ」
「・・・」
 まあ、彼女が冗談だと思いたいのも納得だ。だが、アイビスと自分の間に交わされたモノを否定する事はアラドには絶対に出来なかった。
 それが事実である事を認識させる為に、アラドは戦闘中に見せる苛烈さと穏やかさの同居した真摯な表情でツグミを射抜く。
「……本気なの?」
 ツグミはそれに気圧されたのか、一瞬だが視線を逸らす。そして、何とか気を落ち着かせるとそうされた様にアラドを睨んでいた。
「本気云々って言うより、覚悟が入ったんスわ。……俺はアイビスさ……いや、アイビスを守る。常に傍らで飛び続けるってね」
 それが空元気だと言う事が判ったアラドは自分の本音を語る。
 そもそも、本気でなければこんな夢物語は語れないのだ。
「そしてそれは星の海に於いても同様っス。そう……決心したんスよ」
 そして、そうたらしめる愛が無ければこの人についていこうとは思わない。
 ……それらの台詞に嘘は含まれなかった。

「アラド君……」
 もう一度だけツグミはアラドの瞳を見た。翠色のそれ。その色は底無しに深く、また暖かかった。

「言葉は古いけど……俺が惚れた女性(ひと)なんスよ。アイビスは」

「//////」
 それがアラドの殺し文句だった。アイビスは臆さず、迷いを見せずツグミにそれを語ったアラドに心を根こそぎ持っていかれた気がした。顔面を沸騰させてアラドの台詞を噛み締めるアイビスは恥ずかしくて死にそうだった。
「ふう。どうやら本気みたいね」
 じっくりとそれを検分し、衒いや揺らぎが一切無い事を確認したツグミは呆れた様に溜息を吐き、アラドから離れた。
「あ、ツグミ!」
 そうして、ツグミは踵を返す。背中にアイビスの言葉を受けながらツグミはゆったりとした足取りで休憩所を離れる。
「私は邪魔そうだからフィリオの顔でも見てくるわ。……アラド君」
「はい」
 アラドの横に一瞬だけ立ち止まり、ツグミは口を開いた。
「アイビスの事、頼んだわね」
 その言葉がツグミの気持ちの全てを語っている気がした。アラドはツグミの顔を見ず、アイビスを見ながら頷いた。
「お任せを……っス」
「宜しい。……じゃあね」
 それに安心したツグミはこの場での別れを告げる。パートナーを託せる相手だと、アラドの事を認めた様にその顔は笑顔だった。

「……ハッ」
 ツグミの背中を見送り、その姿を見失ってから数秒後。アラドは力尽きた様にその場にしゃがみこんだ。
「ふいいいぃ〜〜。寿命が二分位縮まったぜ」
 その顔には色濃い疲労と、冷や汗が張り付いている。その呼吸だって荒かった。
「アラド」
 アイビスはアラドにゆっくりと近付いた。
「いや、チーフってば、有り得ねえプレッシャーぶつけてくるんだもん。俺も思わずブラフをかましちまったっスよ」
 苦笑いをするアラドは強敵撃破を成し遂げた事に御満悦だったのか、そんな事を言っていた。
「アラド……」
 果たして、その言葉はハッタリだったのか真実だったのか。
 ……アイビスはもうそんな事は興味の外だった。
 それを聞かされたアイビスにとっては、その台詞こそが紛う事無き真実だったのだから。
「アクセル隊長並みっスわ。上手くいって良かっ「アラドぉッ!」
――ガシッ
 アイビスは思いっきりアラドにしがみ付く。もう、絶対に離さない。そんな心が働いたかの様な熱烈な抱擁だ。休憩所に彼等以外の人が居なかった事は幸いだった。

「……ありゃ?」
 抱き付かれたアラドは自分の身に何が起こっているかを判っていなかった。
「あたしを、選んでくれたんだよね?……そう思って、良いんだよね?」
 自分の胸にすっぽり収まったアイビスが上目遣いで見詰めてくる。桃色の瞳が涙を溜めて揺れていた。
「え、えーーと」
 ……何か、人生の分岐点にでも立っている様な、理解し難い危機感やら高揚感やらがこの身を駆け抜けている。
 いや、もうそれはどうでも良い。問題なのは、この場でアイビスに対しどう答える冪かだろう。だが、気の利いた台詞の一つも、冗談交じりの不真面目なそれも、その一切がアラドの頭には浮かばない。
 躊躇う場面ではない。そんな事をしても、もう遅いのだ。だが、アラドはそれを知りつつもどうしてか口を開けなかったし、動く事も出来なかった。
 そうして、視線を泳がせて答えに窮していると、アイビスに止めを刺された。
「アラドぉ……」
――くうううぅぅん……
 そんな、心に訴える犬の悲しげな唸り声がアラドには聞こえた気がした。
 主人に捨てられた犬宜しく、切ない表情をしたアイビスは比喩抜きでわんこだった。

「う、うん」

 アラドは気の無い返事をしながら頷く事しか出来なかった。
「っ、ふふ!良かったぁ」
 アイビスはアラドの挙動を好意的に受け取ったのだろう。瞳に溜めた涙の玉をそのままにアイビスは満面の笑みを顔一杯に咲かせた。
「これからも、宜しくね。……アラド♪」
 ……こんな笑顔を向けられたらどうしようもない。
「これ、フラグを立てちまったのかな?……ま、良いか」
 何を今更と言えるかも知れ無いが、アラドは漸く己の運命を受け入れた。
 世界は広いのだ。お姫様に掻っ攫われるしがない男が居たとしても、それはきっと間違いではない。そう納得する事にした。
――斯くして、アラドは自分に精一杯甘えてくる年上の彼女をゲットしたのだった


「負け犬……許すまじ!」
 物陰からそれら一連のやり取りを見ていた輩がその二人の間に割って入ろうとする。その両手にはゴツイ何かが握られていた。オイルの臭いを撒き散らすそれは低い唸り声を上げている。
「ちょ、ゼオラ!チェーンソーは拙いわ!?」
 それを止めに入ったアラドの義理の妹分は間違い無く貧乏籤を引いていた。
 ……どうして、私がこんな事を。ラトゥーニは泣きそうだった。
「うわーーん!アラド殺して私も死ぬぅぅーー!!」
「だ、誰か!誰か取り押さえるの手伝ってえ!!」
 物凄い力で引き摺られていくラトゥーニは大声でそう叫ぶ。無理心中を図るゼオラを一人で抑えるのは無理だと判断した故だ。だが、その叫びは誰にも届かなかった。

「……(ゾクッ)」
 何か、騒がしい。そして、命に関わる危機が持ち上がった気がする。アラドは背筋を振るわせる。
「えへへ〜〜♪」
 アイビスは自分の匂いをマーキングするかの様に、アラドに身体を嬉しそうに擦り付けるのだった。

〜了〜

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