俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。 サマナーズ・バトルロワイアルのまとめWikiです

「あー……」

愛宕洋榎は項垂れた。
日頃冗談ばかり言っているようで、その実しっかりと周囲を見、気を使って立ちまわる少女は、今の状況をしっかりと理解していた。
理解してしまっていた。

「なんでやねん、ほんま」

いっそのこと理解出来ていなければ、まだ幸せだっただろう。
危険は高まるが、それでもここまで頭を悩ませることなどなかったはずだから。

「今時殺し合いて。そーいうエブリスタ的なのは中学生までやろ」

殺し合いであることを理解してしまったせいで、自らの立ち回りを考える必要が出てきてしまった。
いっそ恐怖に駆られていれば楽だったかもしれないが、幸か不幸か洋榎は冷静さを保てている。

冷静だからこそ、分かってしまう。そして考えてしまう。
とりあえず死ぬわけにはいかない場合、どうすればいいのか。
どうするのが、妥当なのか。
……殺人という結論が出てしまうのが避けられない場合、どう動くのが正解なのか。

「どないせいっちゅーねん」

“悪魔”という非現実的なものが“本物”だった場合、この殺し合いには常識外の力がまず間違いなく働いていることになり、自分の理解を大きく超える。
殺し合いなんてしたくない、なんてことが通るようには思えない。
仮に誰かに手をかけてしまったとしても、おそらくは緊急避難――まあ、悪くても過剰防衛で終わるだろう。
殺してしまうこと自体は、“しょうがない”ことなのだ。
なにせ、こんな情強は理解不能で理不尽で、でも紛れも無い現実としてこちらの命を脅かしてきているのだから。

とはいえ、積極的に殺して回るのが賢いこととは思えない。
参加者を速攻で物言わぬ骸にすることは、情報入手の機会の損失を意味する。
いきなり有無を言わさず襲撃するのは、あまり賢明とは言えないだろう。

第一、正気を保っているせいで、良心の呵責というものがある。
躊躇なく襲えないのに自ら仕掛け、仕留め損ない逃げられたら最悪だ。
当然それは避けねばならない。

とはいえ――誰かと同盟を組むにしても、手当たり次第とはいくまい。
優勝者一人の椅子取りゲームである以上、裏切られない保証などどこにもないのだ。
同じ麻雀部の友人達ならともかく、こんな環境で出会ったばかりの人間を即座に信用しろという方が無茶である。
普通に同盟を組むのも、容易いことではないだろう。

そもそも、他の参加者も冷静とは限らない。
恐怖に駆られていきなり襲ってくる可能性だってある。
考えだしたらきりがない。

「……まあ、考えとってもしゃーないか」

言いながらも、思考が止まることはない。
喋りながら思考を動かす卓上での癖のようなものだ。

とはいえ、ここでどれだけ考えても意味が無いとも思っている。
何せ他の連中の出方がわからないのだ。
一人で考えていても、さほど意味などないだろう。
牌譜を眺めることは大事ではあるが、試合をしてみないことにはどうなるかなんて分からないのだ。

「まずは悪魔さんとコンニチハせぇへんことにはな」

悪魔。
俄には信じがたい、ファンタジー溢れる存在。

もしも本当に悪魔なんてものが出てきたら、殺し合いも“ガチ”だと判断するしか無い。
夢である可能性はあるが、現実前提で動いて夢オチでしたなんてことになっても失うものは特にない。
逆に夢を想定し現実だった際の失うものの大きさを考えると、現実であるという前提で動いた方がいいだろう。

勿論悪魔の代わりにドッキリを意味する何か別のものが出てくる可能性はあるが、それはそれで問題ない。
ちょっと大げさなリアクションで騙されたことをカメラに伝えればいいだけだ。

「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

頭の中は、未だに殺し合いに対する『どうする』の四文字でいっぱいである。
慎重に、COMPとやらを取り出そうとして――

「く、串かつだーーーーーっ!!」

頭の中が『くしかつ』の四文字でいっぱいになった。

「ええ!? 嘘やろなんでやねん!」

出てきたもの、それは串かつだった。
衣さくさく、きっと噛んだらジューシーな、串かつであった。
ソースがかかっていないが、しかしそれは、どこからどうみても串かつであった。

「……食えるんやろか、これ」

頭は串かつでいっぱいだし、串かつ食べたいしか考えられなくなってはいるが、しかしここでノータイムで串かつを食べるほど愚かではない。
危険なものという可能性もある。
まず衣を軽く剥いで、中身がカツで間違いないか確認しようとして――

「おわっ!?」

指先が触れると同時に、串かつの一面が光り始めた。
そして、串かつに何やらディスプレイが表示される。
どうやら、串かつ型のCOMPであり、待ち受け画面はどう見ても串かつにしか見えない衣デザインらしい。
なめとんのか。

「……あかん、頭が串かついっぱいで、上手く回らんわ」

もう何もかもが意味不明である。
どちらかというとバラエティの悪質なドッキリの可能性が高まったのではないかとすら思えてきた。
諦めたかのように操作し、いずれ出さねばならない悪魔とやらを召喚してみる。

「いっそこれが全部ジョークで、騙したお詫びで奢りの串かつとかやったらよかってんけどな」

だるまの串かつ食いたいな、なんて思いながら、目の前に召喚された悪魔を見上げる。
逃げ惑う気にもなれないほど、“ピンとこない”フォルムではあるが、しかしそれが悪魔であろうことは理解できた。
少なくとも、自分の知る限り突然こんな巨大なものが現れるような技術はない。
ということは、夢でなければ現実に理解不能なテクノロジーが導入されており、多分殺し合いはマジなのだ。

「で、何でゴールドライタンやねん」

とはいえ、両親が昔見てたとやらでVHSを見た記憶のあるアニメキャラが出てくるというのは、夢要素な気もする。
最も夢なら夢で容赦なく暴れまわるだけなのだけれども。

とにかく、なんでゴールドライタンと突っ込まずにはいられなかった。
思わず横に動かした掌が、ゴールドライタンの体を掠める。
その指の先、触れた部分が、さらりと崩れ去った。

「いい!?」

冷たいとか固いとか、そういった感触を予想した。
しかしどうだ、目の前の巨体は砂のように崩れ去ったじゃないか。
そして――崩れ去った後、砂煙と共に、再構成が始まった。

「な、ななななな……!」
「グォッフォッフォ……生憎だが、オレはそのゴールドなんたらではない」

再構成され、再度ゴールドライタンと化した砂が、洋榎を見下ろしている。
不敵な笑みを浮かべて。

「悪魔六騎士が首領格、“砂地獄”のサンシャインよーーーーーっ!!」
「ゲエーーーーーッ、砂の超人!!」

思わず突っ込んでしまったが、果たして目の前の巨漢は話が通じる悪魔なのだろうか。
これ、悪魔がこちらの話を聞かずに殴って来たら死ぬんちゃうの。
調教師の資格とか持っとらへんで。

「え〜〜〜〜〜〜っと……サンシャインさん?」

サンシャインさんってとても言い難い。
でもサンさんはもっと言いづらいし、シャインさんは更に意味がわからないうえにまるで自分が派遣社員さんにでもなった気分になる。
呼び捨てしたいところだが、変な所で機嫌を損ねるわけにはいくまい。

「グォッフォッフォ……喜べ人間……今のオレは最高に気分がいい」

やっぱり話が通じないタイプなのかもしれない。
正直ちょっぴりメゲそうだった。
いや、まあ、いきなり殴ってこないだけ、マシなのかもしれないけれども。

「あのお方が戻ってくる……これからは悪魔の時代よーーーーーーっ!」

嬉しそうにドスンドスン踊っている。
何これ、音楽に合わせてウネウネ動くハンズで売ってる玩具か何か?

「そのためにも、オレは早急に戻らねばならん。そろそろニンジャの奴も蘇生されているだろうからな」
「蘇生……?」
「我々悪魔は貴様ら脆弱な人間と違い、時間さえあれば地獄の淵から蘇れるのよーーーっ!」

俄には信じがたい話ではあるが、よくよく考えて見れば悪魔自体信じがたい存在である。
そんなオカルトの塊が死ぬという方が、なるほど確かに考えにくい。
一時的に消滅するとか、その程度のことなのだろう。

「安心しろ、このオレが他の連中を皆殺しにして、貴様を優勝させてやる……
 もっとも、悪魔超人を舐めたあの男は、オレが最後に殺すがなーーーーーっ!」

一方的に、サンシャインが宣言する。
どうやら協力してくれるらしい。
“あの男”というのは、殺し合いを強要してきた者のことだろう。
敵対するのが賢い策とは思えないが、どうするかは保留にしておく。
わざわざ悪魔の機嫌を損ねることはない。
止めるとしたら、優勝が視野に入ってからでも遅くはないし、それにまだ、誰かと協力して脱出するという選択肢だって残っている。

「ああ、それやけど、速攻殺したりはアカンで」
「何ィ?」

洋榎にしてみれば、死なずに帰れればそれでいいのだ。
サンシャインはどうやら“早く帰る”ために皆殺しを検討しているようだが、それで手当たり次第殺しにいくようでは取れる選択肢が狭まりすぎる。

「ウチもアンタも、“さっさと帰る”のが目的なんやろ」
「無論よーーーっ、全てはあのお方のために!」

なんやねんその「ウェーーーーイ」みたいなハンドサイン。
そう思ってもツッコまない程度には、洋榎は下手に出ていた。

「それやったらある程度情報を集めた方がええやろな。
 ここにはアホほど参加者がおる可能性が高い。いちいち相手するより早う帰れる方法があるかもしれん」
「ぐ、ぐむーーーーっ」
「まあ、これでも対人能力は高いつもりや。伊達に姫松の主将しとるわけちゃうで。その辺はウチに任せてくれたらええ」

自然に、役割分担の流れへと誘導する。
サンシャインに情報収集が出来るようには、とてもではないが思えなかった。
なんだか頭も悪そうだし。

「グォッフォッフォ……ならばオレが、戦闘の際は超人プロレスで勝利をもたらしてやろう」
「超人プロレス……?」

役割分担の流れにすることで、サンシャイン自ら戦闘を買って出ることまでは想定内だった。
そのために支給された悪魔なのだ、その分担が自然だろう。
しかし、超人プロレスなどという単語が飛び出してきたことは、想定の範囲外だった。

「なんだーーっ、この無知な人間! 超人プロレスを知らないのかーーーーーーっ!?」

大げさに驚いた後、サンシャインは一応の解説をしてくれた。
正直イマイチ分かりにくい説明ではあったのだが、悲しいことに分かりにくい説明には監督代行で慣れている。
超人プロレスの意味については、きちんと理解することができた。

「なるほど……リングの上で激突して、勝者が敗者を支配する、か」

途中で出てきた正義超人という勢力が名前の通り正義サイドの存在なら、敗者を支配することはないようにも思えたが――
まあ、平和な世界を強いていると考えれば、それも一種の勝者による支配なのだろう。

「うん、ええな、ええんちゃう。オカンの影響で、それなりにプロレスは好きやしな」

正々堂々としたルールの元、リングのうえで真っ向から激突する。
悪魔とは思えぬその矜持を、もしも他の悪魔たちも持っているのなら。
“人殺し”への抵抗感は、一気に薄らぐことになる。

「情報収集やらをウチがやって、機を見て指示を出し超人プロレスに持ち込む……うん、それでいこ」

リングの上でスポーツめいたプロレス勝負ならば、血生臭さが軽減される。
ましてや自分はセコンドにつくだけで、直接援護することすらない。
手を下すのはサンシャインで、それも悪魔は蘇生可能であるときてる。
殺し合いに乗ることにした場合でも、ソレならば躊躇なく出来る可能性が高い。
もっとも、他の悪魔もリングで戦ってくれるかは、誰かに会ってフタを開けるまでは分からないのだけれども。

「貴様もリングに上がりタッグを組むか?」
「無理無理、肉弾戦は専門外や。まあ、それでも目の前の試合の戦略練るくらいの脳みそはあるつもりやし、リングの外から援護したる」
「ふん、それが必要な時が来るとは思えんが、まあいいだろう。人間の力を借りようと、悪魔超人は勝てばいいのよ〜〜〜〜!!」

正々堂々とは何だったのか。
悪魔らしい態度と言える。

「ではタッグ名を決めねばなるまい」
「なるほど、チームやもんな」
「貴様もどこぞの首領格らしいし、はぐれ首領超人コンビとでも……」
「だ、だっさーーーーーい!! ウソやろ!? ええ!?
 あまりのダサさにおどろ木ももの木さんしょの木やし、鼻から心臓交互に飛び出す勢いやわ」

まず右心房が飛び出して、それから左心房が飛び出すと同時に右心房が引っ込む。そんな感じ。

「ぐ、ぐむーーーーっ! それなら貴様はもっと良い名前が浮かぶというのか!」
「んー、アレやな、どうやら最近は頭文字を取ってアルファベットを並べるのがトレンドらしいわ」

インターネットでそういうのよく見る。TDNとか。

「では、はぐれ首領超人コンビ、略してHSTCだな!」
「そのクソだっさいヤツから離れろや」

とはいえ、正直洋榎も別にネーミングセンスがあるわけではない。
どちらかというと冷ややかな視線を送られる側である。

「ならば貴様は何なら良いと言うのだ〜〜〜〜〜っ!!」
「うーん……やっぱり英訳するのがカッコええはずやねん。悪魔なら……デーモンとか」

しかしながら、はぐれ首領超人コンビなんて名前だけは御免である。
そもそも自分は超人じゃないし、主将であって首領じゃないし。
何としても代替案を考えねばならない。

「ウチの代名詞と言えば……麻雀か……麻雀……英語でもマージャンか……?
 デーモンマージャンコンビ……いや、コンビよりペアやな……」

コンビでもペアでも大差はないのだが、なんとなく、コンビって単語は避けたかった。サンシャインの案の中に入っているし。
いや、地の文書いてるこっちからしたら、そもそもはぐれ首領超人コンビもデーモンマージャンコンビも大差ないのだが。

「うん、これや! デーモンマージャンペア、略してD.M.P!」
「ほほー、なかなか洒落た略称を思いつくじゃあないか。その名前、貰い受けてやろうじゃあないか」

本当にしょうもないやりとりではあるのだが、どうやら少し打ち解けることが出来たらしい。
こういった良く分からないやりとりの後友情を深める才能が、洋榎にはあるのかもしれない。

「グォッフォッフォ。人間など支配の対象だが、全滅させるわけにもいかないからな……
 貴様は使えそうだ。悪魔超人が地球を支配した暁には、人間達を統括するポストにくらい就けてやろう」
「そらどーも」

なんにせよ、誰かに会わないことにはスタンスは決められない。
麻雀もこの殺し合いも、4人揃ってからが本番だ。
まあ、サンシャインを“人”で数えていいのかは、甚だ疑問だけれども。

「それにしても何だ、そのおかしな形は」
「なんや、串かつ食ったことないんか」
「くしかつ……?」
「よーし、ウチが正しい串かつの食い方教えたるから、こっから出たら2人で新世界に食いにいくで!」

果たして洋榎は、生きて帰って串かつを食べることができるのか。
サンシャインが串かつを食べる未来に繋がるのか。
それは神のみぞ知ると言いたいが、何とキン肉マン世界の神は基本カスしか居ないので、どうせ神すらも知らない――――



【?????/1日目/朝】
【愛宕洋榎@咲-Saki-】
[状態]:健康
[装備]:串かつ型COMP(食べられないうえ、壊れるのでソースの二度漬けは禁止です)
[道具]:基本支給品、確認済み支給品
[所持マッカ]:三万
[思考・状況]
基本:生きて帰る
[COMP]
1:サンシャイン@キン肉マン
[状態]:健康
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