サマナーズ・バトルロワイアル まとめWiki - 呪術:応酬
「貴方は、ヴラド・ツェペシュを知っているの?」

 長く続いていた沈黙を破ったのは吸血鬼の少女、レミリアだ。
 その口から飛び出したのは、奇妙な質問であった。
 あっけにとられた顔をしながら、インテグラはレミリアに問い返す。

「どういうことだ? 幼き末裔、それを名乗るということは彼奴を知っているのではないのか?」
「彼の名前を出すのは、言わば儀礼の一つ。吸血鬼の始祖として、敬意を払ってそう呼んでいるだけ。
 彼が居なければ、私達のような存在は居なかったのかもしれないのだから、ね」
「つまり……?」
「私も単なる一人の吸血鬼に過ぎない、ということよ」

 なんだそういう事か、とインテグラは納得する。
 直接的に"アイツ"の子孫、という訳ではないらしい。
 変な想像をしてしまったが、杞憂だったということだ。
 ああ、よかったと胸を撫で下ろすが、本当に安心していいのかどうかは、少し悩んでしまう。

「それはともかく、吸血鬼を殲滅するのではなかったのかしら」

 そんな一息をついた時に、レミリアが再びインテグラに問いかける。
 確かに、自分は名乗りを上げた時にそう語った。
 それに嘘偽りはないが、インテグラは銃を構え直さない。

「それは無闇矢鱈に罪なき人を食い散らかす、誇りなど無い"化物"だった時だ。
 お嬢さんには、彼奴の末裔を語るだけの確固たる誇りがある。ならば、私はその誇りに賭けよう」

 理由は、簡単だ。
 目の前の少女は吸血鬼であっても"化物"ではない、それだけのこと。
 ふっ、と笑みを浮かべながらそう答えるインテグラに、レミリアも笑みを返す。

「見る目のある人間は、嫌いじゃないわ」
「お褒めに預かり至極恐悦、宜しく頼まれてくれるか、レミリア嬢」
「そうね、宜しく頼まれてあげるわ、ヘルシング卿」

 軽い一礼を交わし合い、二人は互いを見つめなおし、再び笑う。
 それ以上、言葉は必要なかった。
 インテグラの思考も、レミリアの答えも、共に理解しているのだから。

 そうして、二人は豪邸――――もとい、皇居を後にし、反逆への一歩を踏み始める。



 所変わって、千代田区。
 肩を並べて歩く一人の少年、ネギと一匹の妖怪、とら。
 いや、どちらかと言えば、ネギがとらに合わせて歩いている、と言うべきか。

「あの」
「あァン?」

 何かを問いかけようとネギが声をかけるが、とらの返事に思わず竦み上がってしまう。
 いちいち忙しいやつだな、と思いながら、とらはネギの言葉を待つ。

「その、どうやって、魔神皇を……?」

 半分くらいは予想していた続きが、ものの見事に的中する。
 何かが吹き飛んでしまいそうなくらいの大きなため息をついてから、とらはネギへと言葉を返す。

「だーーーーからよ! ワシがそこまで分かってる訳がねぇだろっ!!」

 とらの大声に、ネギは目を見開き、 再びビクリと跳ね上がる。
 そんなネギを指差しながら、隙を与えないように、とらはまくし立てるように喋る。

「つーかよ、それを考えんのも、オメーの役目じゃねえのか?
 そりゃここにいんのはオメーだけじゃない、どっかの誰かがいるさ。
 だったらよ、オメーはニンゲンなんだから、ニンゲンと話すのはオメーの方が向いてるはずだ、違うか?」
「それは、そう、ですけど……」

 ようやく分かったかと、とらは一息つこうとする。

「何を聞けばいいんでしょうか……?」
「だーーーーっ!! もうっ!! いちいちワシが言わなきゃいけねーのかっ!! ちったぁ自分で考えやがれ!!」

 しかし、その安堵は脆くも崩れ去り、再び頭を抱えるハメになる。
 こんなことになるのならば、軽率に魔神皇を捕えるだとか言わなければよかった、と少し後悔し始めた時。
 ふと、近くに何かの気配を感じ取り、そちらをの方へと意識を向ける。
 やがて、その気配の正体を大まかにつかみとった所で、とらはネギの肩を軽く叩く。

「ホラ、丁度いいとこにニンゲンが来たじゃねぇか。オメーの本領発揮だ、しゃんとしなよ」



 びゅうう、と人と人を分けるように、風が吹く。
 人と人、怪と怪、互いが互いの顔をじっと見つめたまま、動かない。
 沈黙が、静かに続く。

「首輪……」

 先に口を開いたのは、インテグラ。
 ネギの首、そして自分の首にも課せられている、命を握る枷に気がついたからだ。
 となれば、隣の"化物"が、彼の"悪魔"と言ったところだろうか。
 相手の表情、そして場に流れる空気から、少年に敵意が無いことを確認しつつ、インテグラは次の一手を思考する。

「あ、あのっ!! 魔神皇について、何か知りませんか!?」

 次に口を開いたのは、ネギ。
 少し怯えながら、それでもまっすぐにインテグラの目を見つめて、彼は問いかける。

「……私も、それをこれから調べるところだ」

 インテグラの答えは、あっさりとしたものだ。
 だが、それ以上に答えることも出来ないし、ひねった答えを用意することも出来ない。
 だから、ありのままにそれを告げるだけのこと。

「わかりました、ありがとうございます」

 すると、その答えを聞いたネギはそう言い残し、くるりと踵を返してどこかへと立ち去ろうとする。
 突然の行動にネギの悪魔、とらも驚きを隠せない様子だ。
 インテグラもちらりとレミリアの顔を見るが、彼女も僅かに肩を竦めるだけだ。

「どこへ行く?」

 今にもどこかへ走り去って行きそうなネギを、背中越しに呼び止める。
 ぴたり、と足を止め、ネギは振り向いてインテグラへと答える。

「行かなきゃいけないんです、魔神皇のことを知ってる人のところに」
「ならば、共に行こう。私もあの魔神皇を討とうと志す者だ。私も、魔神皇について情報を集めておきたい」

 ネギの答えに、インテグラは即座に提案を返す。
 いずれ魔神皇を討つ身として、敵の情報を掴んでおきたいのはインテグラも同じだ。
 ならば、共に行動することは決して悪くは無いはず。
 しかし、ネギは首を横に振り、その提案を拒否する。

「……ダメ、ダメなんです。急がなきゃ……急がなきゃダメなんです」

 何故だ、と問い返そうとするインテグラの口を遮るように。
 溢れ出してくる言葉を、ネギは吐き続ける。

「だって、早く明日菜さんを蘇らせないと、僕は――――」
「待て」

 ネギの言葉を割って入る、冷たい声。
 ぞくり、と背筋に寒気が走り、ネギはもう一度インテグラの顔を見る。
 そこにあったのは、先ほどと全く違う、悪魔のような恐ろしさを秘めた顔。
 それを見たネギは、ひっと小さな声が漏らし、とらも警戒を彼女へと切り替えていく。

「蘇らせるとは、どういうことだ」

 続く声は、やはり冷たい。
 自分の返答次第で、ここからどう転がるかは変わっていくだろう。
 だが、ネギは決めたのだ。
 何がどう起ころうと、それを成し遂げてみせると。
 そのために自分は悪魔と契約したのだ、立ち止まっている暇など無い。
 ゆっくりと息を吸い込んだ後、しっかりとインテグラの顔を見て、ネギは彼女の問いに答える。

「こんなコトが出来る存在なら、人を蘇らせる方法を持っているかもしれない。
 僕は、その方法を、その事をなんとしてでも聞き出さないと――――」

 その途中で、ネギは口を噤んでしまう。
 目の前に居る"人間"の、その気迫に押し潰されそうになってしまったから。
 顔を背けようと思ったが、彼女はそれを良しとしてくれない。
 ひゅううと、冷たい風が吹き抜けた後、インテグラはゆっくりと口を開く。

「……自分が、何を言っているのか分かっているのか?」

 一段と鋭さを増した声が、ネギの耳を突き抜ける。
 人間相手に、これほどまでに恐怖を感じるのは初めてかも知れない。
 けれど、ここで引き下がる訳にはいかない。
 一つ、ゆっくりと深呼吸をしてから、ネギは口を開く。

「分かってます、分かってますよ、僕は魔神皇に会わなきゃいけないんです」

 そして、目をしっかりとインテグラに合わせて、ネギは言葉を続ける。

「明日菜さんの――――」

 その途中、響いたのは一発の銃声。
 間もなくして、ふわりとネギの体が浮く。
 続いて、もう一発の銃声。
 再び、音がネギの体を貫き。
 彼は、血を吐き出して、その場に倒れ伏した。

 ネギへと駆け寄る悪魔を尻目に、インテグラはひとまず身近な物陰へと逃げこんでいく。
 銃弾が貫いた場所をしっかりと見ていたインテグラは、ネギが助からないことを察していた。
 もはや死人にも等しい存在に、かまけている時間は無い。
 冷静に状況を判断しながら、インテグラは次の一手を考える。
 銃声が聞こえてきた方向は、同じ方向だ。
 音の遠さから推察しても、狙撃銃の類であるのは間違いないだろう。
 だが、問題はネギが撃ちぬかれた"方向"だ。
 一発目はネギの背後から正面に向けてだったが、二発目はその逆であった。
 同じ方向から銃声が聞こえているのだとすれば、銃弾の向きも同じでなければいけないはずだ。
 それが違うということは、単なる狙撃では無いということ。
 では、どうやってそれを可能にしたのか。

「あれは……?」

 その時、高い場所で浮いている、何かの姿を見つけた。
 それが何なのかは分からないが、先ほどの狙撃に噛んでいる可能性は大きい。

「レミリア、あれを捕らえられるか」
「そうね、準備運動にはなるかしら」

 ふわふわと浮かぶそれを見て、レミリアはにやりと笑う。
 あくびが出るほど低速で動いている物を捕えることなど、造作も無いことだ。

「狙撃銃による狙撃に気をつけろよ」
「人間に撃ち落とされるほど、落ちぶれては居ないわ」

 念押しのインテグラの忠告を聞き流しながら、レミリアはたんっと地面を蹴り上げ、それへと向かっていく。
 後は爪で切り裂くだけ、あっけない決着だと、思っていた。
 ふわふわと浮かぶ"何か"が、超速のレミリアの一撃を、ゆらりと避けるまでは。

「あら、思ったよりも楽しめそうじゃない」

 どうやら一筋縄では行かないようだと、レミリアは笑う。
 その笑みは、まさに「鬼」の笑みであった。

「……さて、どうするか」

 そんな姿を横目に、インテグラは再び思考する。
 銃弾が二箇所から放たれたトリックの正体が、今レミリアがおっているアレだとすれば、自ずと道は開けてくる。
 銃声のした方向、そこにそびえ立っている高いビルへと向かえば良いだけだ。
 だが、そこに向かうとなれば自分の姿を曝け出すという危険を伴ってしまう。
 狙撃銃相手に身を晒すことは、あまりにも愚策だ。
 しかし、いつまでもここに潜んでいるわけにも行かない。
 どうすべきか、と考えこみそうになった時。
 ふとインテグラは、少年の方へと目をやった。
 そして――――そこに居たはずの"悪魔"が居ないことに気がついた。



 少し離れたビルの屋上から街を見下ろす、一人の黒尽くめの男、ジン。
 先ほどの狙撃を行った、張本人だ。
 インテグラの予想通り、一発目の狙撃は直接ネギの姿を狙っていた。
 そして、インテグラが疑問に思っていた二発目は、今レミリアが追い回している「マンハッタン・トランスファー」による中継射撃だ。
 わざわざそんな事をしたのは、気まぐれだ。
 元より、マンハッタン・トランスファーに頼り切るつもりなど無い。
 自分だけの力で、狙撃を行うことだって出来る。
 もし、マンハッタン・トランスファーの力を使うとすれば、それは「普通なら届かない場所」を撃つときくらいだろう。
 その時の為に、もう一度マンハッタン・トランスファーの力を試したに過ぎないのだ。

「さあ、次だ……」

 ふっ、と笑い、再び銃を構える。
 銃声が響いたというのに、ジンは逃げる素振りすら見せない。
 それもその筈だ、もう一人の老女が逃げ込んだ物陰は、あくまで急拵えの壁。
 そこから少しでも動けば、身を晒すことになる。
 こういう時にこそ、マンハッタン・トランスファーを使うべきなのだろうが、マンハッタン・トランスファーは今、何かに追われている。
 だが、問題はない。
 自分の手で、老女を撃ち抜けばいいだけなのだから。

「姿を現した時が、テメェの最後だぜ……」

 スコープを覗き、ジンはただ笑う。
 追い詰めた獲物が、観念してその場から出てくるのを、じっと待ちながら。



「――――おい、おい!!」

 遠く、声が聞こえる。
 自分の悪魔、とらが自分に呼びかけてくれているのがわかる。
 けれど、声は少し遠くて、覗き込んでいる顔も、少し霞んでいる。
 そうだ、自分は撃たれたのだ。
 どこから、どうやって、どうして、わからないことは沢山ある。
 だが、撃たれたという事実は、決して覆らない。
 肺を貫かれているのか、息をしようにも上手く行かない。

「オメーはよ! こんな所でくたばってる場合じゃねえだろ!!」

 とらが、自分に一生懸命語りかけてくれる。
 まだ出会って間もないのに、そんなに律儀に向き合ってくれるのが、少し嬉しくて。
 悪魔として出会っていなかったら、友達になれただろうか、なんて考えたりして。

「明日菜ってのを蘇らせるんじゃねーのか! おい!!」

 ああ、きっとこれは罰なのだろう。
 人を蘇らせる為に、悪魔と契約した自分への。
 だったら、この罰は甘んじて受けよう。
 だから、ネギは呼び出した悪魔、とらへと願う。

「明日、菜……さん、を」

 この生命と引き換えになったとしても、叶えたい願いを口にする。

「よろ……しく」

 僕を、食べてもいいから。
 そんな続きの言葉は、口に出来なかった。
 死にたくないという、純粋な気持ちが溢れだす。
 だが、それに反するように、ネギの体からは力が徐々に抜けていく。
 ふと、ネギは考える。
 あの時、明日菜さんもこんな風に苦しんでいたのだろうか、と。

 それを、最後に。
 ネギは、ゆっくりと目を閉じていった。

【ネギ・スプリングフィールド@魔法先生ネギま!(アニメ版) 死亡】
【残り 39人】
※遺体傍のデイパックに基本支給品、とら@うしおととら入りCOMP(明日菜さんこの鈴音がしないよ型)、三万マッカが入ったままです

【千代田区・丸ビル付近/1日目/午前】
【インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング@Hellsing】
[状態]:健康
[装備]:COMP:聖書型
[道具]:基本支給品、454カスールオート(弾数×60)@Hellsing
[所持マッカ]:三万
[思考・状況]
基本:魔神皇を必滅する、殺し合いに乗った奴も必滅する
1:狙撃者への対処
[備考]
※参戦時期は最終話直前辺り
[COMP]
1:レミリア・スカーレット@東方Project
[種族]:夜魔
[状態]:健康

【千代田区・丸ビル/1日目/午前】
【ジン@名探偵コナン】
[状態]:健康
[装備]:ドラグノフ式狙撃銃
[道具]:基本支給品、漫画本(ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン)型COMP
[所持マッカ]:三万
[思考・状況]
基本:魔神皇込みで皆殺しにする。
1:老女(インテグラ)の抹殺
[COMP]
1:マンハッタン・トランスファー@ジョジョの奇妙な冒険
[種族]:スタンド
[状態]:健康
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056:手を繋がぬ魔人
時系列順
064:現実:恐怖
061:そして集いしスターライト
投下順
063:笑顔:選択
008:隠し子発見!!インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング072:急降下爆撃
013:漆黒の狙撃手ジン072:急降下爆撃
020:もしも君が亡くならばネギ・スプリングフィールドGAME OVER