11/04/12(火)01:14:09 No.1426595 del
猫車の乗り心地は思いのほか悪い――

何故か唐突に俺はそれを知るハメになった
ごとごとごとごと振動が直に伝わってきてバウンドするたびに身体が痛いし
狭いから足ははみ出し背中は丸まり窮屈な事この上ない
おまけにこの猫車を押してる奴の上機嫌そうな鼻歌のせいでちっとも眠れないときた
そりゃ人が乗る事を想定していないのだから当たり前といえば当たり前だが
現に人が乗っている以上加減とか気づかいって物がだな――いや、そもそもだ

「……なんだこれ」
「うにゃ!?」

あまりといえばあまりな状況に俺が疑問を呟いた瞬間
俺の身体は見事に前方へダイビングしていた



「あっはっはっはごめんようお兄さん!まさかまだ生きてると思わなくて」

などと失礼な事を言いながら、その赤毛の女はもう一度俺を猫車に乗せた
大人しく乗る俺も俺だが、何事も無かったかのように俺を運ぶこの女もこの女だ

「普通道端に行き倒れていたら死体だと思うじゃない?」
「普通はその前に生きてるかどうか確認すると思うが」
「いやー、久々にフレッシュな死体を見つけたから嬉しくなっちゃってさー」
「だから死体じゃねぇ」
「ああそうだったねぇ、あはははは」

屈託無く笑みを零すその顔は年相応の少女のものだ
まともな審美眼を持つものなら、まぁ可愛いと思うんじゃないだろうか、
といった感じではあるのだが……



火車(かしゃ)という妖怪が居る
簡単に言えば人の死体を運ぶバケモノなのだが、この女はどうやらそれらしい
頭の上に猫の耳がついてる時点でおかしいなとは思ったが
人間ではないというならそれも納得だ

死体を運び、灼熱の地獄に放り込んで薪の代わりにする

それがこの女が俺を猫車で運んでいる理由に他ならない
という事はこの女の行き先は勿論灼熱の地獄ということになり
つまり、このままでは俺は地獄まで一直線というわけだ

「お兄さんくらい新鮮だとよく燃えるんだよねぇ」
「褒めてんだかよくわからんがちっとも嬉しくねぇ」

……さて、この状況をどうしたものだろう?


見たところ全体的に細っこく、背丈は俺より低いだろう
やもすれば逆に押し倒して手篭めにしてしまう事など造作も無く見える
だが、この娘っ子(にしかみえない妖怪)は、今鼻歌交じりに猫車を押している
俺を乗せた、成人した男一人分の重量を苦にしていないのだ
そのパッと見の見た目からは想像もつかないほどの力を秘めているに違いない
もし押し倒そうとでもしようものなら、俺はその場で死体になるだろう
というかここ何処だ?

「ここ?ここは旧地獄さ」
「旧地獄?」
「そ、今はもう使われていない捨てられた地獄」
「なんてこった」

どうやらもう既に逃げるのも不可能なようだった


「地獄の入り口が一丁目なら今ここは二十八丁目ってとこかね」
「……なんてこった」

俺はあえて見ないようにしていた天を仰いだ
そこにあるはずの青い空はなく、ただ暗い天井が広がるのみ
ここは間違いなく地獄なのだ

「ま、生きてる人間を放り込むのはちょっち気が引けるけど」
「だったら返してくれ」
「にゃははは、それは出来ない相談だね」

猫の妖怪は屈託無く笑うと手をひらひらと動かした
本来ならこういう場面でなら、死の恐怖にガタガタ怯えるところだろうが、
この娘っ子の笑顔を、こんな状況で少し可愛いと思ってしまった自分が恨めしい



「ところでさあ」
「なんだ」

会話が途切れてすぐあっちから話しかけてきた
少し怪訝な表情をして妖怪少女が尋ねてくる

「あんたさっきからうんともすんとも怖がらないけど、死ぬのが怖くないの?

正直な話、怖い怖くないで言えば怖い
ただ、いささか命の危険が急すぎて、自分が死ぬという実感が持てないだけだ
だってそうだろう?能天気そうな娘っ子と猫車に乗って散歩してるだなんて
誰だって和みこそすれ、一瞬後には自分が死んでる想像なんて普通は出来まい

「まぁそれだけじゃあないんだけどな」
「?」



俺には身寄りが無い、これといった親戚も無い、天涯孤独の身だ
加えて顔を知っている知人くらいはいても、そいつとだってそこまで親しい間ではない
今までどうしてか運良く生き延びてきたが、これが年貢の納め時ってやつなんだろう
そう考えると、怖がる気もうせてくるというものだ

「俺を怖がらせようと思ったなら、運が悪かったな」
「…………」

俺の言葉にしばしまゆをハの字にして黙りこくる猫娘
しかしすぐ困ったような苦笑いするような顔になり

「いやでも、それじゃあ“あたい”が困るんだよねぇ」

といいながら器用に片手で猫車を押し、離した片手で頬をかく
その表情は本当に困ったような、バツの悪そうな表情だった




「お兄さん怨霊って知ってるかい?」

そういって説明し始めた内容によると
恨みや憎しみを募らせて死んだ人間の霊が怨霊と呼ばれ
この妖怪はそいつらをある程度自由に操れるのだと言う

「お兄さんがあたいを恨んで死ねば、お兄さんはそのまま怨霊になる」

つまり、まだ生きている俺を殺すということは
死体の調達と自分の使いパシリの両方を得るまたとない機会なのだそうだ

「というわけでお兄さん、今からでもあたいを恨んでみない?」
「無茶苦茶だ……」

どうして会ったばかりの(中身は妖怪とはいえ)女の子を恨まにゃならんのだ




「むう……」

猫車を押す手を止めず、妖怪娘は静かに唸り声を上げる
しかしわずか数秒後に破顔し、突然急ブレーキをかけやがった
当然俺の身体は再び前方にダイビングした

「そっか!そうすればいいじゃん!」
「……なんなんだ一体」

強かに打ちつけた腰をさすりながら俺が顔を上げると
彼女はにたりとした笑みを浮かべて俺のほうに歩み寄ってきた

「恨んでくれないなら今ここで恨みを作ればいいのさ」

なるほど、そうきたか





だがどうせ死ぬのが早くなるか遅くなるかの違いに過ぎない
俺はもうとっくに自分の命を諦めていたからだ
こんなろくでもない男の命なぞ捨てて惜しいとも思えなかった

「さあ、殺るなら殺れ……せいぜい苦しませてくれ」
「ふぅん?お兄さんマゾ?まぁいいや、苦しませてあげる」

妖怪少女は俺の首に手をかけ、顔を上向かせる
赤い瞳の中に縦長の瞳孔がぬらりと光り、獲物を見定める
思った以上に細くしなやかな指先が、爪を立てながら喉笛を滑る
ふわ、と汗のような花のような匂いが鼻をくすぐる
濡れた唇、長いつけまつげ、それでいて飾りの無い素の貌(かお)
野生の獣の様な美しさを、この女は確かに持っていた

「ただし、殺しはしないけどね」


無題 Name としあき 11/04/12(火)01:40:40 No.1426800 del
どういうこと、と問う間もなく――

「んっ……」
「む、ぐっ?!」

少女の唇が俺の唇に押し当てられていた
俺の人生初めての接吻だった
どれくらいの時間かよくわからない
全ての感覚が麻痺して何も考えられなかった
何故?などと思うことさえ出来なかった
居あい抜きで一太刀のもとに切り捨てられた気分とはこういうものかもしれない

「……ぷは」

最後にちゅうっと音を立てて吸いながら、彼女は唇を離していく




「な、なんっ……」
「あーらら、おにーさん顔まっかっか」

さっきと同じ、屈託の無い可愛らしい笑み
だが、その目の奥に、背後に漂うオーラに、ただならぬものを感じる

「ひょっとして、おにーさん……ど・う・て・い?」
「……!」

そう、言動……仕草……どれをとっても艶かしい
ついさっきまでは自分よりちょっと年下ぐらいに見ていたはずだったのに
少女の化けの皮をはいだ途端、年上の女にも見えるくらいに変貌した
流石は猫の姿をした妖怪、と言ったところなのか

ゾクゾクと……俺の中を何かが走り抜けていった




「……んー、どうやらアタリみたいだねっ」

俺の反応で気をよくしたらしい少女は、唐突に自らの衣服を脱ぎ始める
俺はというと、突然の口付けと唐突な濡れ場の香りに、完全に圧倒されていた
少女が裸身を何割がた晒したところで我に返り、思わず目をそらす

「な、何を考えっ……」
「だからぁ、苦しませるって言ったじゃん?」

手で前を隠しているため、下半身でしか後ずさる事の出来ない俺
そんな俺に少女は、正に獣じみた四つんばいの姿勢で這いよってくる
恐ろしい妖怪などとはとても思えない、人間そのものな肌色が眩しすぎる

「ほら、もうこんなに苦しそう……♪」




気付かぬうちにすぐ傍まで近寄ってきていた少女
その可憐な手が、まるで蛇が獲物に食らいつくかのごとく伸びてきた

「……っ!?」

一瞬、電気が走ったのかと思った
少女の手が、俺の股間にある、いつの間にか既に漲っていたモノを捉えたのだ
途端に例えようの無い初めての痺れが頭のてっぺんまで突き抜ける
俺はもう目の前を隠す事も後ずさることも出来なかった

「ふふ、おにーさん本当に慣れてないんだねぇ」

ペロリと唇の端をなめながら、少女は更に近寄ってくる
もう既に吐息と吐息がぶつかる程度の距離だと言うのに……じりじりと。




こんな、女の裸を見ただけでどぎまぎしてしまうような俺であるが
一応性の手ほどきくらいは、多少なら知っているつもりだった
春画を見たりしたこともあるし、隠れて行為を覗いた事もある
だが、次に起こったことは俺の想像をはるかに超えていた

「まずは、ご対面といこうかなっ」

少女はおもむろに、自身の凶器の如く伸びた爪を俺の服に引っ掛けた
そして、一瞬、凄まじい早業で、布を切り刻み、引きちぎり、ボロ布にする
当然俺は下半身丸出しになるが、あまりの事に何も出来ず
少女はそんな俺をよそ目に、あろうことか

「わあお、おにーさん意外といいモノもってんねぇ!」

俺のイチモツを見て喜色満面の笑みを浮かべた




子供の頃、ガキ大将に無理やり比べさせられたのとはわけが違う
少女は明らかにコレをそういう対象としてみている
そのことが俺にはたまらなく恥ずかしかった

「まだまだ、苦しいのはこれからだよ?」

少女がいつの間にか弱りきった俺の顔を覗き込むような位置に移動していた
つまり俺のイチモツのすぐ目と鼻の先である
俺は思わず悲鳴を上げそうになったが

「んん……キツイけど、いい匂い……ちょっと気に入ったよ」

少女の、匂いをかぐ、という行動によってさえぎられた
頭にカッと血が上るような、わけがわからなくなるような、そんな衝動に全身を支配され
またしても背中の辺りがゾクゾクとあわだつ感覚に襲われる




「さすが、童貞だけあって普段はムケてないのかな?」

ガチガチに勃起してなお、俺のものは半分皮をを被ったままである
大人になれば皮を剥くのが普通らしいのだが、俺はそうしていない
それを咎められたようで、俺の羞恥は更に募っていくばかりだ
これは確かに苦しい、主に精神的に

「……ほんとは、そのつもりじゃなかったんだけどさぁ」

少女は赤い髪とおさげを揺らし、猫の耳をぴこぴこ動かしながら呟く

「……でもここまできたらさぁ、味見くらい……してもいいよね」

――味見
その意味に俺が気がついたときには、少女は俺のイチモツに口をつけていた




「んっ、んうん……」

唾液に濡れ、ぬめぬめとした少女の口の感触
ぷりぷりでみずみずしい、さっき自分の唇が触れた唇
熱い、熱い、火傷してしまいそうな、自分のものではない吐息
そして、

「くっ、うああっ!?」

にゅるりと蠢き、つるりと皮の隙間に滑り込み、ざらりと全てを舐めとるように
少女が舌の動きだけで俺の皮を剥いた、その瞬時だった

「わっ、あぷっ!」

俺は刺激に耐えられず、先端からびゅくり、びゅくりと白いものを迸らせていた……





「あああ……ああ」

情けない声が喉をついて出る
がくがくと勝手に腰が震え、刹那の快感の大きさを嫌でも強調する
(見た目は)年端もいかない女の子に悪戯をされて果ててしまった
こんな辱めが果たして他にあるだろうか?

「むー、おにーさん早いよぉ」

少女はというと、少し不満げに、だが少し嬉しそうに顔の周りの液体を舐めとり

「でも味も悪くないね……ますます気に入っちゃったな」

ねっとりと絡みつくような笑みと視線で俺の目を射抜いた
何故だろうか、俺はその眼から目を逸らす事が出来ない





「おっと、これで終わりだと思ってないよね?」

少女がスッと身体を起こすと、今まで地面を向いていた部分があらわになる
桜色に色づく突起、華奢なようで力強い感じのする肢体、足の付け根のお大事
でも俺はもう躊躇無くそれらを眼に焼き付けた
焼き付けて、またイチモツが硬度を取り戻していく……現金なものだ

「……へぇ、まだまだ元気じゃない

そういって微笑むと、少女は肌が触れ合うような距離まで近寄ってくる
にいっと口の端から見える八重歯がとても可愛くて、心の臓が早鐘を打つ
柔らかい素肌の感触が、いやがおうにも頭の中をかき乱す
こんなのは本当に生まれて初めてだ

「でも、次はそこじゃあないんだよね」





そんな声と共に突然視界が一回転した
少女に無理やり転がされ、四つんばいにさせられたのだ
さっきの彼女と同じ獣のような姿勢、俺は流石に抗議しようとしたが

「な、なにを」
「するかって?」

先を言われ言葉に詰まる
振り向かなくても判る、彼女の声が笑っていた
きっとまたあの笑顔を浮かべているのだろう、根拠も無くそう思った

「こう、するのさっ」

ずぶり、という擬音が聞こえたような気がした
……あろうことか、俺の尻の中に少女が入ってきたのだ




「っ!ぐぅ!?」
「あっは、すんなり指が入っちゃったよおにーさん?」

赤毛の少女がけらけら笑い、恐ろしいほど滑らかに指が蠢く
まるで彼女の尻尾のように、俺の中でぐにゅりぐにゅりと
猫が毛を逆立てるように、全身に鳥肌のような感覚が走る

「もしかして、じぶんでいじったりしてるのかにゃー?」

子供をからかう時のような口調で言われ、俺の眼から自然と涙がこぼれた
恥ずかしい、死にたい、死んだ方がマシだ、いっそ殺してくれ
お前の勝ちだよ火車の猫妖、俺を早く楽にさせてくれ
だが、今の俺は捕食者に捕らえられ、ただ弄ばれるだけの存在でしかない
俺の願いは届くはずも無い





「く、う、うあ……あ」

少女の手は執拗に俺の内側の同じ場所を狙ってきていた
しばらくするとそれが次第にむずがゆいようなピリピリした刺激に変わってくる
腹の内側を何かが跳ね回るような感覚だ

「どう?おにーさん……お尻虐められる気分は」

ああ最悪だよ、と悪態をつこうにもできない
なぜなら、それは俺にとってどうしようもなく、この上なく

――気持ちよかったから。

勝手に身体が動こうとし、身をよじろうとしては快感に脱力させられる
……頭がどうにかなりそうだった。





「んー……そろそろかな?」

何がそろそろだ、俺が胸の中だけでそう思ったときだった
びりっびりっと断続的だった尻の中の刺激が、
突然、びびびびびびびびびびびっと連続したものに変化した

「うっ、ふぅあ!?」

同時に、怖気とも寒気ともとれる凄まじい波が身体の中を駆け巡る
全てが腰の奥のある部分に向かって収束していくような奇妙な感覚
頭の奥まで痺れに犯され、思考が真っ白になっていく

「ほら、イっちゃいなよ変態おにーさん」

耳元で囁かれた、その言葉が……引き金になった




「あ、ああ……あう……あうあぁ」

……何が起きたのか理解できなかった
がむしゃらに雄たけびを上げて、全部はじけたような感じがした
イチモツから精を放つのとは全く違う、異質すぎる快楽だった

「ふぅ……すごいねえ?お尻で気持ちよくなっちゃうなんて」

少女はやり遂げた!といった風な満足げな笑みを浮かべていた
俺の中から引き抜いたのだろう指をペロリと舐め、さらに笑みを深める
そして、未だに身体を痙攣させている俺に抱きついてきた

「あたい……やっぱおにーさんのこと本気で気に入っちゃったよ」

俺は未だ震えるか細い声で、そりゃどうも、と返すので精一杯だった




「……というわけで、これからあたいについてきてもらうよ?」
「どういうわけか判らんがつまりどういうことだ」

その後、俺は下半身丸出しのまま再び猫車に乗せられた
さっきまでとは明らかに逆方向に進んでいるのは気のせいではあるまい

「ようするに、お兄さんにはあたいのペットになってもらうから」
「は、はあ?!」

自分でもよくそんな素っ頓狂な声が出たもんだと思った
驚く俺の顔を見下ろしながら眼を細め、くっくっと少女は笑う

「今すぐ死体として処理するのが惜しくなっちゃったのさ」

そんな彼女の表情は、実に実に楽しそうだった




「そうか、なら俺はまだ生きていられるのか」
「運がよかったねぇお兄さん」
「……もう突っ込む気にもならん」

疲労した身体をぐったりと猫車の底に背を預け、変わらず暗い天井を仰ぎ見る
ほのかに赤い炎のような明かりに照らされて、少女の前髪が翻る
赤味を増した髪と、赤らんだように見える頬の配色に思わず胸が高鳴りを覚えた
そして、ふと思い至る

「なぁ……俺、名前も知らない奴が主人っての流石に嫌なんだが」
「あ、そういえばまだ言ってなかったね」

少女は猫車を軽やかに押しながら、俺を覗き込み、軽やかに名を告げた

「あたいは燐!お燐でいいよ」



「燐、か」
「おりんりんってよんでもいいよ?」
ははっ、と二人から自然と笑いがこぼれた
一瞬やけになってそう呼んでやろうかと思ったけれどやめておいた
かわりに口から出たのは

「燐、様」
「へっ?」

彼女を主と認める言葉だった
なぜかは判らないが、しっくり来る感じがした

「うん、悪くないな」

俺はそのとき確かに、人生初の、生き甲斐を感じていたんだ







2話

前回のあらまし

ある日、道端に行き倒れていた“俺”は
俺の事を死体だと思い込んだ火車の少女、燐と名乗る少女に拾われ
あわや灼熱地獄に生きたまま放り込まれるところだったのだが
すったもんだの上、妖怪のペットになることになっちまった

このまま生きててもいい事が何も無いなら、いっそ。
力でも性的な意味でも惨めに屈服させられてしまった俺は
彼女を主として、余り長くはならないだろう余生を楽しむ事にした……

決して、その……辱められたのが気持ちよかったからとかじゃない
断じてない



「んふふふふふ〜〜ん♪ふふふふふふふ〜〜ん♪」

燐様は何が楽しいのかずっと鼻歌を歌っている
そんなにペットを手に入れたのが嬉しいのだろうか、
人間の俺から見ても最高に楽しそうな血色のよい表情だった
さっきまで妖艶に俺を辱めていた少女とはとても思えない

俺はというと猫車のスピードがアップしたせいでほとほと参っていた
今走っている場所が悪路なもんだからなおさら酷いことになっている
歯を食いしばって揺れに耐えなければ舌打ちの一つも上げていただろう
流石に走る速度をもう少しゆっくりにして欲しかったのだが
口を開いた瞬間舌を噛みそうでそれもできないという……ここは正に地獄だ

天井の染みでも数えられればよかったんだろうがそんな余裕すらない
……こんな調子で一体何処へ運ばれるというのだろうか。




祈るような気分で猫車のへりにしがみついていると次第に速度が緩やかになる
歩みは普通の人並みの速度にまで落ち、やがてぴたりと止まった
どうやら三度目は無かったようだ……ホッとした。

「さあついたよ!」

元気よくそういう燐様の声に周囲を見渡すと……

「お、おお?」

そこには何処となく薄気味悪い色の大きな屋敷がそびえていた
俺の背の何人分だろう?幻想郷じゃここまで大きな建物はそうそうお目にかかれない
もしかしてこのバカみたいにでかい屋敷が燐様のものなんだろうか?

「怨霊の棲まう屋敷、地霊殿へようこそ、お兄さん!」



「随分広い屋敷なんだな」
「まぁね」

俺を乗せた猫車を押しながらだだっぴろい廊下をとことこと進んでいく燐様
内装自体も少しおどろおどろしい感じもするが、外見よりはずっとまともだった
何より意外なのが、手入れが行き届いている、生活感があるということだ
配色こそどぎついものの、ろうそくのような明かりと清潔さと相まって
とてもじゃないが恐ろしい妖怪の棲家とはとても思えない

「まぁ掃除の手はいくらでもあるからね」
「そうなのか?」
「うん」

今は見えないがそんなに大勢使用人でも居るんだろうか?
ますますもって、立派なもんだな




ちなみに俺が燐様に敬語を使っていないのはその方がいいと燐様が言ったからだ
俺が上手く敬語を使えずに変な喋り方になってしまうから、というのもあるが
かしこまる俺に「いいよいいよ」と手を振って普通に接する事を許してくれたので
有難くそうさせてもらっている。俺も堅苦しいのは好きじゃない

「そろそろあたいの部屋だよ」

言って、燐様は猫車を持ったまま華麗にコーナリングをし――

「おりん。」
「にぎゃあ!?」
「うお!?」

――その先にいた人物の呼び声に凄まじい悲鳴を上げて猫車を放り出した
燐様と出会って三度目のダイビングであった




「さあ、ささささ、さとり様ぁ!?」
「そう……なるほど?そういうことですか」

燐様にさとり様と呼ばれた少女はくるりとこちらを振り向き、
あまり感情を感じない二つの目が俺に向けられ、俺は視線だけで射すくめられた
胸元に奇妙な目玉の飾りをつけていて恐ろしく不気味だった
人間とは明らかに違う、異質な感じがする

「私が恐ろしいですか?地上の人間」
「…………」

まさか素直に、はい、と言うわけにもいくまい
何か下手な事を喋った瞬間に何をされるともわかったもんじゃない
そういう強烈な、威圧感とも違う何かをその少女は纏っていた




そもそも燐様がさとり様と呼ぶこの少女は何者なのだろう
そこからして既に判らないもんだから、軽く混乱状態だったのだが……

「私ですか?私は古明治さとり、この地霊殿の主です」
「!?」

しかし俺の心を読んだような一言で、俺はますます混乱した
どういうことだ、俺は何も喋っていないぞ?そもそも何故俺が地上の人間だと?

……主?この屋敷の?

「どうやら混乱が酷いようですね」

さとりと名乗った少女はふうとため息をつき、イチから説明をし始めた……





「つまり、ここは元々私の屋敷であり、お燐は私のペットなのです」
「…………」
「信じられませんか?確かに私はお飾り的意味も強いし、怨霊はお燐に任せきりですが」
「…………」
「そうですか。ご理解いただけたようでなによりですわ」

しばらくそんな感じの奇妙な会話が続いた
はたから見ると彼女が一人で延々喋っているようだが違う
俺が心に思ったことを次の瞬間には口に出されているせいで喋る暇が無いのだ
これが心を読める覚というやつらしい……いやはや凄い能力の妖怪も居るものだ

「まぁ、全体で見れば大した事の無い能力ですよ」

少女は本当にそう思っているのか、眉一つ動かさずそういった
……個人的にはえらく便利な能力だと思うのだが。




「……随分と順応性の高い人間ですね、あなたは」

それだけ言うと俺から興味をなくしたのか、さとりは燐様の方へ向き直る
すると廊下の隅で小さくなっていた燐様はびくんと身体を震わせた
どうやら完全に怯えているようだ

「……お燐?何が言いたいかわかりますね?」

びくびくと身体を震わせて、許しを請うようにさとりを見上げる燐様
その姿には先ほどまでの快活さや元気はつらつさはまるでなく、
ああ本当に、このさとりこそは燐様の主なのか、と実感した

「この人間を地上へ帰してきなさい」

燐様はさとりの言葉にもう一度、びくりと身体を強張らせた





俺のペット生活は早くも終わりを迎えそうな勢いだった
燐様はいまやがっちがちに縮こまって、本当に借りてきた猫のようだった

「死体ならともかく、生きた人間を攫ってくる……これは重大な違反ですよ」
「で、でもさとり様」
「地上の存在と交わした約定は今でも生きています。その意味がわかるでしょう?」
「…………」
「貴女だけではない、地獄そのものに責任が降りかかる可能性だってあるんです」
「で、でも……」
「でももかももないのです、お燐。これは貴女のためでもあるのですよ?」

どうやら事態は俺が考えていたよりかなり深刻なようだ
さとりは本気で燐様を叱っていた

しかしそれは、決して憎くて叱っているわけではないということも、同時に伝わってきた




燐様は耳と尻尾をしなだらせ、それでも諦めきれない表情をしていた
たったこれだけの短い間でそこまで気に入られてると思うと悪い気はしない
しないが、状況のまずさは俺にも大体把握できてきた
少し勿体無い気もするが、俺は地上へ帰ろう。
……この出来事は夢だったと思えば諦めもつくさ
しかし俺が口を開きかけたかけた所で燐様がそれをさえぎった。

「さとり様……もう二度と我儘は言いません、お願い、お願いですから」

燐様は頭を地べたにつけ、ほとんど涙声で懇願する

「お燐……」

さとりは大きなため息をつき、あからさまに困ったような顔をした
おそらく、それだけ燐様の意志が固いのだろう






「お願いですっ!その人間を私の……ペッ……」

顔を上げた燐様を、さとりはみっつの目玉で思い切りギョロリと睨んだ
なんとも凄まじい絵面だった……俺なんかが真正面から見たら卒倒してしまうだろう

しかし、燐様は怯みきらず言い放った
モロに言い放った
俺の人生を終える一言を


「〜〜〜〜〜〜っ、ぺっ、ペニスケースとして認めてくださいッ!!」


――世界が凍ったような気がした





  • ペニス【penis】[pi:nis]
陰茎や男根。つまりナニであり男のアレを意味する
  • ケース【case】[keis]
一般的に容器、入れ物という意味を持つ

ペニスケースとは、つまり「男の入れ物」ってことだ

「「…………」」

さとりは怒った様な呆れた様な笑い出す寸前の様な非常に面白い顔で絶句していた
勿論俺も絶句していたが、何故か当のセリフを放った燐様まで絶句していた
自分の喉から出てきた言葉が信じられないといった様子だった

薄ら寒い何かが三者の間にひょおっと流れてその場に沈黙をおとしていく





やがて沈黙を破ったのはさとりだった

「ふっ、あははははっ!」

何がおかしいのか、お腹を押さえて笑い始め、ひとしきり笑った後、

「そう、ペニスケース!ペニスケースね……くっ、ふっふふっ」

ペニスケースペニスケースとあられもない言葉を連呼し始める
直感的にだが、俺はこの少女も見た目通りの年齢ではないのだろうと悟った
それはもちろん燐様も……俺の想像を超える年月を重ねているだろう

「さ、さとり様……」
「そう、ペニスケース。なるほど、それはいいアイディアよお燐」





さとりがなんかトンでもないことを言い出した
事態は何故か、俺を燐様のペニスケースにするという方向で決着しそうな勢いだ

「じゃあさとり様!」
「ええ、ペニスケースね……それならいいわ、認めてあげるお燐」

というか決着した。俺の意思を完全に無視して。

「ただし!条件があります」
「?!」

しかし、さとりはすぐさま元の厳かな調子に戻ると、ピシャリと言い放った
さっきとは違う、嫌らしい笑みを無表情だった貌に浮かべながら……

「……相応の覚悟を見せてもらいますよ?」






相応の覚悟。
勿論それは、俺のペニスケースとしての覚悟だ
此処で少しの間我慢すれば、俺ははれて燐様専用ペニスケースとして仕える事となる

……ペットならまだしもモノ扱い、それもペニスケースときたもんだ
大体ペニスケースってなんだ?燐様はれっきとした女の子だろうに
素肌ならさっき地獄跡で見てしまったが、あの時はそんなもんなかったぞ

「さて、準備はいいですか?」
「…………」
「あまりよくない、ですか。まぁそれもそうでしょう」
「…………」
「ええ、運命と思って諦めてもらうしかありませんね」

くそっ、なんつー背水の陣だ






……通された客間の、わりとふかふかの寝床の上。
俺はまたしても強制的に四つんばいにさせられ、しかもがっちりと手足を固定された
地べたのように顔が痛くないのだけが、救いといえば救いだ

「ではお燐?はじめなさい」
「は、はいさとり様……」

さとりの合図に従って燐様が俺の目の前に回ってくる
既に服を脱ぎ捨て全裸になり、頬を染める姿は外での時と違って更に可愛く見えた
見ているだけで下半身がなにやらもにょもにょしそうになるというものだが――

「おにーさん……」
「!!!??」

燐様の股間には、いつの間にやら薄紅色の先端を持つ、立派なモノがそびえていた





「ちょっ、なんっ……!?」
「おにーさん……今からコレをおにーさんの中に入れるんだけど」

びくんびくんと跳ねながら手をさすそれは正に陽根だった
華奢で少女らしい身体に不釣合いな物体、まさしく物体だ
しかもそれを、俺に?いれる?どこに?

「いきなりだとアレだと思うから……その……濡らして?」
「濡らして……って、おま……いや、燐様……」

ずずいと俺の顔に近づけられた燐様の……ペニス。
間近でよく見れば、なんだかトゲのような突起が無数についている
これを、こんな凶器みたいな代物を……入れる……だと?!

「おにーさん……っ」






切なげな燐様の吐息、それとは裏腹に次第に凶悪さを増していくペニス
俺は人生で最高に追い詰められていた

「どうしたのですか?あなたはお燐のペニスケースなのでしょう?
「くっ……」

にやにやと笑いあざけるようなさとりの声が俺を責め立てる
俺は正真正銘心根まで男だ、それが他者の男の象徴を受け入れるなんて。
確かに衆道という文化が無いわけではない……だが正直俺はご免だと思っていた
それなのに……

「おにー……さんっ……!」

どうしてだろうか?燐様の俺を呼ぶ切なそうな声を聞いていると……
……俺はよくわからない感情が胸の内で昂ぶっていくのをはっきりと感じていた……







「ええい、ままよ!」
「ひゃ、ふああっ!?」

俺は高鳴る心臓の鼓動を押さえつけるように、燐様のペニスに不器用に口をつけた
かつて燐様にそうされたように、舌を突き出し、一気に舐めあげる

ぞりぞりっ

「……!」
「ふにゃああぁぁ……」

ほのかにしょっぱいような味と共に舌に当たる突起の感触に、俺は改めて戦慄した
本物の茨のトゲよりは柔らかいだろうが、思った以上に硬くてしっかりしている
おそらく、性交の際に簡単に抜けないようにするためのものなのだろう
こんなものを俺は受け入れないといけないのか……





「お、おにーさんっ!ごめん、あたいもう……!」
「ん、ごっ!?」

燐様はそれだけいうと俺の口の中に無理やり剛直を突っ込んできた
大きさ的にそれほど大きくは無かったのが救いといえば救い、とはいえ
麺棒をいきなり突っ込まれたくらいの衝撃はあった
そして……

「あにゃあ!もうっ、もうでりゅう!」
「んぐ!?ぐぶっ!」

燐様のペニスから強烈な勢いで精が迸り、俺の口内を埋め尽くしていく
喉の奥に焼ける様な熱い塊が何度もぶち当たり、思わず飲み下す以外の選択肢が無かった

「あーっ!ひゃああ、はっ、ふあ、飲んでるっ!おにーさんがっ!あたいのぉっ!」





「ぐっ、ぶえっ!げほっ」

そんなことをするのも初めてなら、当然それを飲んだのも初めてだ
あまりに苦々しい、絶対に好きになれそうに無い味だった

「はーっ、はーっ、はぁぁ……」

燐様は放心したように俺の口から引き抜いたペニスをびくりびくりと震わせている
先端からはまだじわり、どろりと残滓が零れ落ちて、太股まで伝っていた
頬を染めて、だらしなく口で息をするその姿は、普段の彼女からは想像もつかない
猫の耳と尻尾も時折連動してひくひくと動き、可愛さを促進させている

……胸の中が粟立つ感覚
自分のイチモツが勝手に反応して硬度を増していく
俺は……興奮してるのか?男根を咥えさせられて、飲精までさせられたってのに……






「まさかコレで終わりじゃないでしょう?」

沈黙を保っていたさとりがニヤニヤと笑みを浮かべながら聞いてきた
言葉の意味は覚じゃない俺にもわかる……「さっさと本番に移れ」、だ
さとりの言葉に、燐様もとろけていた表情を一瞬で曇らせる

「……で、でも……」

ちらりと俺のほうを見たその目が物語っていた
……燐様は俺のことを心配してくれているのだ
行きずりに、死体と間違って拾っただけのこんな男の事を
人間としちゃろくなもんじゃない生き方しか出来ないこんな俺の事を

頭の中と身体の芯と胸の奥で、カッと火がついたような気がした
そして俺は……





「燐様、俺に……燐様のそれを収めてください」
「お、おにーさんっ!?」

気がついたときにはとんでもないことを口走っていた
正直怖いし、痛いのも辛いのも嫌だ……でもそれでも不思議と後悔はなかった
なぜなら

俺のせいで彼女の顔が曇るのはもっと嫌だったから

……俺は自覚した
自分は案外、戻れないところまで来ていたんだな、と

「お燐、彼の覚悟はもう出来ていますよ?後はあなた次第です」
「……はい……」




「それじゃあ、おにーさんっ……いくよ?」

俺は無言で頷いた
燐様のペニスの先端がぬるりと菊門を濡らす感触、声を上げそうになったがこらえた
そして、指よりも太く、熱すぎるものが、門を貫き穿ち始める

「くっ、うっ……」
「…………!!!」

指とは比べ物にならない異物感
鋭い痛みが入り口のあたりに走り……しかしそこまで想像していたほどの事もなく
燐様のモノは意外なほどすんなり、ズルリと俺の中に納まっていった

「ふっ、はぁあ〜〜〜…………っ……お、おにーさぁん!」




だが。本来、そこはそういう風な事をするためには出来ていない
ましてや、俺はそんな行為に慣れてなど居やしない
第一、燐様のペニスには、凶器のようなトゲがついている

「ぐっ、ぐぅああああアア……ッ!!!」

痛いなんてもんじゃなかった
それほどでもなかったのは最初だけで、燐様が動き始めてからは真の地獄だった
地獄の針山で直接、尻の中も外もえぐられるようなものなのだ
全身から脂汗がふきだし、異物を排除しようと括約筋が悲鳴を上げる
当然締め付ければ締め付けるほど……こちらの苦しみは増すばかりだ

「お、おにー…さん……だ、だいじょう、ぶ?」

燐様が心配そうな声をあげる……だめだ、これじゃあだめなんだ




「い、いいですっ……きもち……ぐぅ……いいですっ、からっ」
「そ、そんな……だって……」
「続けてっ……くだ、さ……あ、ぐ……ぅ」

無理やり笑っているような声を作って燐様に先を促した
声が震えて上手く喋れなかったけれど、俺はちゃんと伝えきった
自分にこれほどの根性があるなんて正直思わなかった

「……わかったよ……少し、力抜いて?」

燐様の言葉に、つっかえる胸で深呼吸をし、落ち着ける努力をする
身も心も、もう既にいっぱいいっぱいだったが、それでもこれは意地だ
男には、意地をはりたい、通したときが、誰だってあるもんだ

「すぐ……終わらせるから」





燐様のピストンが激しさを増した
俺はもう悲鳴を上げる事も出来ず、目の前の敷布をかみ締めて耐えた
はぁ、はぁという燐様の息遣いが艶かしく俺の耳を犯してくる

「もう、すぐ!もうすぐっ!だからっ!あっ、あああッ!」

ピストンにあわせてえぐられ、えぐられては削られる
だがそうやって幾度となく燐様のペニスを尻穴でしごき続けていると、
……ある変化が俺の身体を襲った

次第に尻の感覚が無くなっていき、段々下半身の感覚も麻痺したようになくなってくる
やがて麻痺は全身に広がり、頭の中がぐわんぐわんと揺さぶられる感じに変わった
痛みが消えてくると次に来たのは、腹の底からこみ上げてくる熱い熱い何かだった
射精の感覚とは違う、燐様に指でされたのとも違う、変な感覚
痛みがあった部分から、次第に溢れてくるのは紛れもなく快感だった





「うあっ……?ふぁ……あ、ああ、あああ……」

……俺はついにおかしくなってしまったのかもしれない
さっきまであんなに痛かったのに、こんなにも気持ちいいだなんて
それも並大抵の気持ちよさじゃない……死んでしまいそうなほどの気持ちよさだ

「おにーさんっ!おにーさん!!あたいっ、もうっ!!」
「あぐっ、うああ、ひゃ、ひゃあああーーーっ!」

無意識に女みたいな悲鳴を上げて快楽にのた打ち回る
頭の中で何かが何度も爆発していくような感じに翻弄される
こみ上げてくるものが、抑えきれない

「っく、うっ……ああああ!もう、くるうううう!!」



「っにゃああ!!おにーさーんっッッ!!!!」
「きっ、は、おああーッッッ!!?」

腹の中に火傷しそうなくらい熱い感覚が生まれ、
同時に俺は目の前が全て真っ白に塗りつぶされる様な錯覚に襲われた
自分の身体がどこかへトンで行ってしまいそうな、凄まじい快感だった

勝手に痙攣してのけぞった背が寝床に落ちた瞬間、俺は唐突に理解した
女が本気で気をやる瞬間に、逝くだの来るだのと叫ぶというのは
ありゃ本当にそういう感覚だったんだな、と

「っはーっ、っはああーー……お、おにーさぁん……あ……に……し」

……燐様のどことなく幸せそうな声が聞こえた気がした
が、残念ながら、俺の意識はそのまま闇に向かって真っ逆さまに沈んでいった




「……気がつきましたか?」

俺が目を覚ますと、枕元にさとりが座っていた
出会ってすぐの時の暗く不気味な空気はそこにはなく、
育ちの良い柔和な物腰を程よく感じさせる、普通の少女らしい雰囲気だった

「ええ、あの時は少し機嫌が悪かったものですから。……気分は如何です?」
「…………」
「そう、悪くはないようでなによりです」

相変わらず俺の心を先読みして話しかけてくるさとりは、そこでふふっと笑い

「まさか本当にやり遂げるとは思ってませんでしたよ」

と、意地悪そうな目をこちらに向けて微笑んだ。




「まぁ約束は約束です、認めましょう……あなたとお燐の事を」
「そりゃどうも……つつ」

だるい身体を無理やり起こそうとすると、さとりにやんわり止められた

「無理はしないほうが身のためですよ」
「……そうさせてもらう」
「そう、それが賢い選択です」

さとりはぴょんと跳ねて立つと、ふわっと服の裾を翻して扉に向かおうとする
しかし途中でまたくるりと振り向いて

「ちなみにお燐はあなたの隣にいますよ?ごゆっくりどうぞ」

と言ってさっさと出て行ってしまった




「お燐は隣にいる」
その言葉に従って反対側を見ると、一匹の黒猫が俺の傍で添い寝していた
猫の姿にはなっているが、黒い耳に黒いリボン、まさしく燐様のものだ
ということはやはり、この猫が燐様の獣時の姿なのだろう

「なんだかなぁ」

俺はすやすやと気持ちよさげに眠る猫の、いやさ燐様の喉元を撫でてやった
その姿を見ていると、なんかもうどうでも良くなるというかなんと言うか
こそばゆいような、申し訳ないような、変な気分だ

「もうちょっと寝るか……」

もういいや、考えるのは後にしよう
この変な出来事と、幸か不幸か判らない俺のこれからの行く末についてなど……




――結局

その後すぐ、尻に塗ってあった薬の効果が切れて
痛みに飛び起きてえらく苦しむ羽目になった


……もう使い物にならないかもしれん。


to be continued...?


3話

前回のあらまし

地上で普通の、というには駄目人間な生活を送っていた“俺”は
行き倒れの死体と間違われ、燐様により地獄に連れてこられてしまった
そこで俺を待っていたのは、燐様の棲み家・地霊殿の主であるさとりと
燐様の爆弾発言、そして非情な命令……

燐様の手、もとい、股間の凶器によって地獄の攻めを受け
辛くもそれに耐え切った事で、晴れて燐様に仕えることを認められた俺は
こうして第二の人生、もとい、ペニスケース生を歩む事になったのだった




――地底には朝という概念が無い。
そのため、目覚めるのは往々にして自分の時間感覚頼りであったり
誰かに起こしてもらったりするのが生活の基本となっているらしい
当然ながら俺も例外ではないようで……

あれからどれだけの時間が経ったのか。暗闇の中、股間に違和感を覚え、意識が引き戻されていく
痺れ、あるいは疼きとでも呼ぶべき心地よい刺激……俺はゆっくりと眠い目を開けた
たった一日で随分濃い目に会ったので、多少の事ではもう驚かないだろうと思っていたが……

「ん、おふぁよう」

目を開けた瞬間飛び込んできたのが、自分の愚息を咥える淫らな主人の姿だったりすれば、
嫌でも心臓が飛び出そうになるくらい驚くんじゃないだろうか

「……っ!?な、なにを……?」




「何って、目覚ましだけど?」

驚く俺を尻目に、事も無げに俺のイチモツの腹に頬擦りをする燐様
おさげを降ろした長い髪を手で“耳”の後ろに撫でつけ、上目でこちらを見る姿が実に扇情的だ
少し乱れた赤い髪が、ぬらりと光る男根にべったりとまとわり付いているのが艶かしい
……寝起きの頭には少々強烈過ぎる光景に、俺は完全に動揺していた

「ったく、こんなに元気にしちゃってさ……♪」

燐様は俺の反応に気を良くしたのか、ペロリと可愛く舌なめずりをすると
指で輪を作るように俺のモノを握りこみ、やわやわとしごき始める
再開された行為に股間のそれが更に硬度を増し、腰が勝手に持ち上がる
口でされたときとは違う、手ごたえのある気持ちよさが腰の辺りで燃え上がり……

勿論、一秒たりとて我慢など出来るはずも無かった




「……いくらなんでも早すぎじゃない?」
「…………モウシワケアリマセン」

寝ている間の愛撫で既に限界を迎えていたのだろう
刹那の快楽と共に俺の迸らせた白濁液は見事に燐様の顔面をとらえ、綺麗な顔を汚していた
……言い訳はしたくないが、俺は童貞だ。はっきりいってこういうことにはとんと慣れていない
だとしても、これが笑って済まされないだろう事は憮然とした燐様の表情を見ればわかることで、
燐様に向かって平身低頭土下座する俺は、はたから見たらえらく無様でカッコ悪い奴に違いない

すると燐様はふぅんとため息のような声をもらし……何事か思いついたようにぽんと手を打った
何事かと俺が顔をあげ、表情を恐る恐るうかがうと、

「じゃあ、誠意を見せてもらうよ……お兄さん?」

そう言って、にいっと精液の張り付いた貌を綻ばせたのだった……





「そう、そうやって口だけで……」

燐様が俺に命じたのは
『自分の出したものは自分で始末をつけること、但し手を使わずに』というものであった

俺はこれまでにも既に、燐様の精を強制的に味わわされたりしているのだが
いざ改めて、となると、やはり抵抗を覚える心の方が少なからず勝るものだ

「ほら、どうしたの?は・や・く」

燐様は意地悪に微笑み、ぬうっと精液に汚れた指を突き出すのみである
……どうにも口で処理するほかに道が無いようだが、よくよく考えてみれば、
昨日のように尻の穴をとげとげペニスでえぐられるより何倍もマシなのかもしれない。

えいいままよ、と俺は覚悟を決め……精液に濡れた燐様の指に、そっと口をつけていく




俺は手始めに、差し出された手の甲や指に垂れた白濁を舐めとることにした
にちゃりとした感触が舌に伝わり、独特の香りが鼻をついて、実感になる
……ほろ苦いような渋いような味が口の中に広がるも、何も考えないようにして耐えた

「ん、んっ、く……は、ぅ……くすぐったい」

……俺としてはペロリ、ペロリとしっかり力強く舐めているつもりなのだが
燐様にはそれがどうも絶妙にくすぐられているくらいの力に感じられるらしく
なんとも艶やかな、聞いてるこっちが変な気分になりそうな吐息を何度もついた
俺も犬が水を飲むように舌を突き出し、液体を口に収めようと必死に動かすのだが
舌だけで綺麗にするのは意外にも難しく、唇も使ってすする様にしてようやく、といった具合だ

「あ、ふぅ……ン、お兄さん上手だよ……」

技術的なことはよくわからないが、これで燐様の機嫌が直るなら……




「ふ、はぁぁ……」
「ん、んぐっ」

唐突に、俺の口の中に、燐様の指が分け入ってきた
ぬるりぬるりと、まるでそういう行為を連想させるかのように、唾液にまみれた指を出し入れされ
ちゅぷちゅぷと唾液と指の摩擦する音が、これでもかと目と鼻の先で奏でられる
反射的に歯を当てて傷をつけないよう唇をすぼめ、しなやかな指先に吸い付くようにすると
燐様はうっとりと目を細め、本格的に俺の口内を蹂躙し始めた

「すごい……お兄さん、やっぱり才能あるよ」
「ん、ぐ、う」」
「ほら、舌も、舌も使って……」

燐様の指示に、指の腹や関節、指の間を舌先で転がすようにすると
燐様はさらにとろけたような声を出し、口の中の指の動きも次第に大胆になっていく





不思議な気分だった。
別段性的な行いをしているわけでもないのに、妙な興奮が湧き上がり、心の中を支配していく

頭の中が口の中を弄ぶ燐様の指の感触で満たされていき、それ以外が抜け落ちていく
身体が勝手にぞわぞわと粟立ち、さっき出したばかりのモノに再び活力が漲る
燐様の指を舌でつつき、燐様が刺激に反応する事が何より喜ばしく感じる
口の中がじんわりと熱を持ち、指と擦れる箇所がびりびりと疼きを放ち始める
ずっとこれを続けたいという感情が胸のうちに膨らんでくる

「あははっ、お兄さんいい表情ぉ……」
「ふーっ……ふーっ……ぅむ……ぅ」

直に感じる指の温かさと感触がたまらなく心地いい
自分の出してしまったのを処理させられてるだけだって言うのに
俺は……こんなことをされて喜んでる、のか……?




「いいよ……すごくいい……あたいゾクゾクしちゃうよ」

口の中につきこまれる指の本数はいつの間にか二本になり、動きが複雑さを増していく
トントンと舌の根をつつくように中指が動くと、もう一本は円を描くように舌の表面を撫で
くるりとひねりこまれて上あごをリズミカルにくすぐられたかと思えば
奥まで一気に差し込まれて激しいピストンを繰り返される

「んぶっ、ぐ、んんんううー!」

……俺は先日の、尻の中に指を入れられて弄られた感触を思い出していた
気が狂いそうになる波が背骨を通り頭のてっぺんまで走り抜ける、暴力的な快感の記憶
今、俺の口の中を動き回り、好き放題犯している燐様の指の動きは、
正にあの時のそれと同じものだと……気付いてしまったのだ

――頭の中が真っ白に蕩けた気がした




「あはははは、いや……びっくりだね。女の子みたい」

記憶と現実の二つの絶頂に翻弄され、今ひとたび身体を痙攣させる俺を燐様は笑った
ケラケラという感じの、しかし嫌味のまるで無い、子供の様な無邪気な笑顔だった
荒く息をつき、滲む視界の向こうにそれを捉えたとき、俺はどうしようもなく嬉しかった
燐様の笑顔を見るだけで、何故か胸の奥ががふわふわと満たされていく

「で・も、まだ終わりじゃないよ?お兄さん♪」

燐様はそう言うと、今の今まで俺が舐めていた指先をペロリと舐めながら顔を近づけてくる
滲み出る妖艶さに、自分のものを舐められたように感じて、ドキリとした

そうだ、まだ終わりじゃない。燐様の言いつけはまだ守られていないのだ
俺は快楽の余韻に負けながらふらふらと身を起こすと、燐様の様に四つんばいになり燐様に向き直る
汚濁に濡れたきめ細かい頬にそっと舌を伸ばすと、燐様はそっと目を閉じてくれた





それは、猫同士であれば普通の行為なのかもしれない
でなくとも、獣同士であるなら親愛表現として行うこともあるだろう
だが、おおよそ人の形をしたものがこういうことをするというのはあまり聞いた事が無い

「ん」
「……」

ぴちゃ、ぴちゃと、舐める。丹念に、丁寧に、燐様の頬を、口元を、まぶたを、鼻を……
何も味がしなくなるまで丹念に舐めては、別の場所へ……別の場所へ……
わずかもたたないうちに、燐様の顔は俺の唾液だらけになり、てらてらと光っていた

どこか口付け以上の恥ずかしさを感じつつも、やはり俺は高まる気持ちを抑えきれずに居た
自分の行為を彼女が黙って受け入れてくれる、その事に俺は確かに喜びを見出していた
それほど長いとはいえない今までの人生の中で、一度も得たことのない感情だった
短期間の間に異常な事尽くめで……俺はおかしくなってしまったのだろうか





「……お兄さん」

気がつくと、燐様が薄目を開けてこちらを見ていた
わずかに潤んだような瞳が愛らしく、しかし確実に、ゾクリと情欲をそそられる色気がある
不意に目と目が合ったその瞬間、燐様は俺の頬に手を添えると、唇を合わせてきた

これでは言いつけが出来ない、そう思いながらも、俺はされるがままを貫いた
ただ触れ合い、わずかに離し、また合わさり、濡れた唇同士がねっとりと繋がる
自然にどちらからともなく舌が突き出され、舌同士が触れ合うようになり
口の中、外を構わず、にちゃり、にちゃりと粘性の高い水音が立ちはじめた

「んちゅ……っふ」

粘膜同士の触れ合う独特な感触は、指に奉仕しているときとはまた違った心地よさだった
……例えようの無い快感に、没頭させられていく。




燐様の舌はかなり表面がざらざらとしていた
というか、人間の舌より毛羽立った感じにも思われる
あまり強く擦りあわせるとちくちくと刺激があって、こちらの舌が若干痛いくらいであるのだが
燐様の舌の動きに自分の舌を完全に委ねると、ただ気持ちいいだけの感覚が残るのだ
だから俺はそのうち自分で動くのは諦め、燐様に任せるままになっていた
どうやら燐様は、自分の身体の特性というのをちゃんと理解しているようだ
……一体どういう技術なのかはまるでわからなかったが、気を回す余裕はもう無い

やがて、燐様が唇を離す頃には、お互いに口の周りは唾液でベタベタになっていた
繋がっていたあたりの空間につうと糸が引いて、それにまたどうしようもなく興奮した
「もしかしたら今自分はとんでもない事をしているんじゃ?」
そんな思いに囚われるほど、自分が酷く昂ぶっているのを感じていた

俺の愚かなイチモツはそれだけで、先ほど燐様の手で吐精したときよりもパンパンにはりつめ
またすぐにでも精を吐き出しそうな勢いで膨れ上がり、欲望のはけ口を捜し求めていた……





「……おにーさん」

俺を呼ぶ燐様の声は、先日以上に熱を帯びているように感じられた
『性的に興奮したおなごは、殆どが皆肌を上気させ、どこか夢見るような眼をする――』
いつか艶本で読んだままの姿……いや、それよりも遥かに官能的で生々しい姿に、思わず生唾が喉を通過した
もしこれが一人寝の自室であったなら、間違いなくその場で自慰をしていたはずだ
だが、今や慰めるべき肉根は目の前の少女の手の中……

「……今度はちゃんとガマンしてね?」

ゆっくりと手が上下され、ぞくぞくともどかしい痺れが下半身を疼かせる
それだけで頭に血が上って正気を失いそうな俺を尻目に、燐様は小ぶりな唇を大きめに開けると、
頭からイチモツにかぶりつき、先端の割れている部分をチロチロと舌先でなぞり、何かを促す
舌が別の生き物のように蠢き、再び被っていた醜い皮を、つるりと器用に剥き上げられ
ぷりぷりとみずみずしい唇が直に敏感な部分に絡みつく感触……柔らかく、熱い……気持ちいい。





……先ほど一回達しているおかげで、俺は何とか燐様の責めに耐えていた
上目遣いで自分の男の象徴を少女に頬張られる、夢のような光景にもなんとか精神が持ちこたえた
不浄の穴で感じた、濁流に飲まれる様な快楽とは違い、まだ幾分堪えようがあるのが救いだった

「ね、おにーさん……あたいのも……して」

いつのまにか寝そべるような格好になっていた俺の顔の前に、燐様のペニスが差し出される
先日、俺の尻を非情にも犯しぬいた、いかつい突起が無数にある禍々しい凶器のようなペニスだ

しかし俺は躊躇無く燐様のペニスを口に含んだ
ペニスケースである(らしい)俺の責務に目覚めた、とかそういう軽々しい論理によるものではなく
俺が今感じている、燐様の融けるような口の感触が、自然と俺にそうさせた。

自分がされてこれだけ気持ちいいのだから、相手がされても気持ちいいに違いない
俺はただ――燐様にも気持ちよくなって欲しかっただけなのだ





「ふにゃああぁ……!あ、あああ!おにー、さぁんっ!」

俺と互い違いに寝そべった燐様の膝がガタガタと震え、俺の行いが正しかった事を示した
ついで下半身への刺激が緩み、俺は初めて、燐様のそこをじっくり観察する機会を得る事になった

燐様の股には男のような玉袋は存在せず、凶悪な竿のみが姿を覗かせていた
その付け根には、皮のような袋の名残のようなものが申し訳程度に存在し
さらにその下からはキレイな薄紅の中身がわずかに顔を覗かせている
昔読んだ艶本ではどれも、もう少し肉がビラビラとはみ出し赤黒く描写されていたが、
どうも本の知識というのは全くアテにならないものらしい

さらによくみると粘膜の中ほどあたりから、肌に沿って透明な液体が零れていた
おそらくこれが、女性が興奮したときに出す愛液というものなのだろう
今俺が刺激しているのはペニスのみだが、燐様が性的に感じているのは火を見るようなものであり、
そのことがもうどうしようもなく、嬉しくてたまらなかった





「はぐっ!うーっ、んんーーー!」
「おうっ!?くぅ……!」

突然再開された股間への刺激に、思わず悲鳴を上げてのけぞりそうになる
……燐様が見たこと無いくらい真っ赤な顔で、俺の男根を咥えていた
見れば、目には涙の粒がたまっており、俺を非難する様に眉がハの字によっている

ああ、まあそうだろう、そうだろうさ。
燐様だってやはり、女の子なのだ。じっくり見られたら恥ずかしいに決まってる
そんなことにも気付かないで主を辱めるとは、ペニスケース失格ではないか

燐様の恥じらいをどこかご褒美のように感じながら、これ以上はもういいだろう、と
俺は燐様のペニスを口に含んだまま、両方の目をつぶった

真っ暗な世界の中で、熱い二つの陽物だけが……鮮明に浮き彫りになる





そこからはお互いに言葉も無く、貪った

「ふーっ、ふーっ、んんん……んぅ!」

燐様の少ししょっぱいような味のするペニスを丁寧に舌で舐めていく
舌先がなぞるたびにビクビクと反応が強くなる場所を重点的につつき
とげととげの間を埋めるように唾液をタップリとまぶして吸い上げる
ゆっくりとではあるが唇でしごく動きも加えると、燐様は声にならない声を上げる

「はふ……むぐっ、ん……う!」

お返しとばかりに、燐様は自身のざらざらした舌を巧みに操り俺のモノを弄る
裏の部分や頭の突出したカリの部分を、にゅるにゅると何度も唇でしごかれ
玉袋に近い部分はきゅっきゅっと指でリズミカルに刺激され、どうしようもなく気持ちいい
再び何かがたまっていくような感覚に襲われ、段々と攻める手が早くなっていく




気持ちよかった
我慢なんて必要ないくらい気持ちよかった
相手も気持ちいいのがただただ物凄く気持ちよかった

「むぐっ、うっ」

俺が限界を越え、精を放とうとした瞬間、

「むー、んんんぅ!!」

燐様も限界を迎えたようで、びくびくびくっと口の中のペニスが脈動し

俺たちは同時に、お互いの口に精液を放出していた……





一体感

この感覚を表すなら、まさにそういうことになるのだろう
口の中で燐様の精を受け止めた俺はぼんやりとそんな事を考えていた

つい先日出逢ったばかりの相手にこんな事を思うのはおかしなことなのだろうか
だが、それ以外に言い表す言葉も無い、奇妙な感覚だ

「ん……」

口に何かを含んだような燐様が、俺の顔のほうに向き直り近づいて来る
それだけで何をしたいか、する気なのか大体わかってしまう
こちらからも、それを望み、そうしたいと思ってしまう

こういうのは果たして、おかしなことなのだろうか。




俺は燐様に向けて、燐様のが溜まったままの口を薄く開く
燐様は俺に向けて、俺のが溜まったままの口を落してくる

「んぐ」
「ふ……むぅ」

二人分の精が、熱い熱い口の中で、どろどろとにちゃにちゃとぐじゅぐじゅと絡み、混ざり、溶け合う
互いの舌と舌がのりでくっつくように、鉄が鉄と溶接して一つになるように、求め合う
濃密な匂いが鼻に抜け、おかげで燐様の、芳しい花のような匂いに初めて気付く
複雑さを増した液体の味が、どちらからともなく喉を滑り落ちていき、残った残滓を全力で奪い合う

他に最早交わすものは無く、それだけが、そうすることのみによって満たされる
不思議と懐かしいような、初めて感じる衝動に突き動かされ、燐様の華奢な身体をきつく抱きしめた

息が詰まって、胸が苦しくて、耳鳴りがして、わけもわからず震え、涙がこぼれた





しばしの静かな静かな余韻……ゆったりとした波の様なそれに身を委ね、まぶたを閉じる
そのままもう一度寝てしまっても……そう思えるだけの奇妙な充足感に浸りながら、しかし……

「……もうよろしいですか?」
「「!?」」

しかし。突然横合いからかかった声に、二人の閑はあっけなく破られた
そこには一体何時入ってきたのか、燐様の主である(らしい)さとりが佇んでいたのだ

「まったく、遅いからと呼びに来て見ればいきなりこの有様とは」

目覚ましに何時間かけてるんですか、と物凄いジト目で睨まれた
よく見たら三個目の目玉までもが、ジトーっと半眼で俺たちを見つめていた
もしかしなくても、さとりは相当呆れているようだった





だがよく見ると、さとりの頬は昨日見た不健康そうな色ではなく、妙に血色がよいように見えた
それがどう見ても上気して染まっているようにしか見えず……俺は不埒な想像をする
ひょっとしたら今の“目覚まし”をずっと覗いていたせいで……

「違います。あなたたちの思念波に当てられただけです」
「それってつまり、心を読んで……」
「違います。あんなに見せ付けられたら顔も火照るというものです」
「さとり様それ否定になってな」
「違います。貴女の想像したような事は断じてしてません」

可能性をきっぱりと否定し、ぷいと横を向くさとり
小声で「大体会って二日目であんなラブラブな方がおかしいじゃないですかなんですかあれ」
等と呟いているのが丸聞こえで、なんだか妙におかしかった

……なんだ、意外と外見相応な所もあるのか。俺はさとりの印象をそう改めた





「……まあそれは置いといて、あなたたちに話があります」

こほんと咳払いを一つしたさとりは、少し真面目な顔をする
燐様がハッとしたように居住まいを正すのを見て、俺もつい背筋を伸ばしてしまった
人のふり見て我がふり直せ、は人間の美徳の一つだが、半裸のままでは締りが今ひとつない感じだ

「実は、今日はあなたたちにやってもらうことがあるのです」
「やってもらうこと?」
「ええ、彼を新たに地底に住む者として、認可をもらわねばなりません」

認可と言っても印を押したりするわけではないですが、とさとりは小さく付け加える
だが、その言葉を聴いて俺は正直驚いていた
地底、それも地獄だなんて呼ばれるところに、そんな仕組みがあるだなんて思わなかったのだ

「当たり前でしょう?旧地獄はそんな無法地帯のような場所ではありませんよ」





「……いえ、むしろ地上よりもその辺の管理はしっかりしているかもしれませんね」

さとりは目を細め、一瞬何かいいたげに視線を俺に向ける
管理、つまり燐様に仕え続けるには、俺もその管理下に入らないといけないという事か

「そういうことです。最も前例はいくつもあるので、手続き自体は簡単にすぐ終わるでしょう」

前例、手続き、簡単、そして『あなたたち』
ふと、いくつかの疑問が俺の頭を掠める
しかし俺がその疑問を口にする前に、さとりは俺の心を読んだのか薄く笑ってこう答えた

「なぁに、大したことではありません。……地獄の酒宴に付き添ってもらうだけですので……」

……その言葉は、何故かとても不穏な響きを持って、俺の心にのしかかるのだった――。





「ところであなたたち……そろそろ服を着なさい」
「「あ」」
「……10分ほどで軽食を準備するから、先に食堂で待ってる事。いいわね」

to be continued...[>

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