『特捜隊出撃せよ』

透明怪獣ネロンガ 登場

「ふう……っ、良い湯だった。……っと、まだ紗希は入ってるのか」
 真と紗希はとある怪現象の調査の為、伊豆を訪れていた。そしてそのついでに「せっかく伊豆まで調査に行くのだから、2人でゆっくりしてきなさい!これは副隊長命令よ!」という亜希からの提案で温泉旅館に泊まる事にしたのであった。
「思えば正式に特捜隊員になってから、一度も休みらしい休みなんて無かったな。それにしても……」
 そう言いながら、真はロビーに置かれていた新聞の見出しが目に入ると手に取ってみた。そこには『反応弾頭いまだ発見に至らず』、『政府、防衛機構にも協力を要請』という見出しが躍っていた。
「隊長や亜希さんは捜索で忙しいのに俺達はこうして捜査がてら温泉だもんな……」
 
 話は数日前にさかのぼる。

 2年前に打ち上げに失敗し太平洋に墜落した惑星開発用ロケット『ジュピター41号』 それに搭載された反応弾のうち4発は回収されたが、1発は日本海溝の奥深くで爆発。そしてもう1発が行方不明になっていたのだが、最近になってようやく微弱な電波がキャッチされ、特捜隊は海上保安庁や自衛隊と合同で捜索と回収が行われる事になった。
 当然、真と紗希もその捜索に参加する筈だったのだが……。

「ミーティングの内容は以上だ。俺達は準備が出来次第ビートルで急行し現場海域で捜索に参加する」
「了解!」
「真くんと紗希ちゃんは残ってもらえるかしら」
 2人は他の特捜隊員たちと共にミーティング室を出ようとしたところで不意に亜希に呼び止められた。
「はい?」
「どうかしましたか?亜希さん」
「2人には私から特別任務があるわ」
「特別任務ですか?」
「えぇ。現場は伊豆半島なんだけど……」
 そう言って亜希は真にある物を手渡した。
「これって……、旅行券じゃないですか! 亜希さん任務じゃないんですか?」
「えぇ、伊豆に任務に行ってもらいたいというのは本当よ。伊豆半島の伊和見山で怪現象が報告されてるの」
「怪現象ですか」
「近くの水力発電所の電力の異常な低下と謎の声がするそうよ。ただ……」
「何かあるのですか?」
「近くには温泉や観光地が点在しているわ。だから、まだ怪獣とはっきりと判明するまで特捜隊として表立った活動を行う事は控えるべきだという事になったの」
「なるほど、つまり俺達はあくまで観光客として調査を行うという事ですね」
「えぇ、察しが良くて助かるわ。それに……」
「それに?」
「せっかく伊豆まで調査に行くのだから、2人共温泉でゆっくりしてきなさい!これは副隊長命令よ!」
「たはは……」
「お土産はわさび漬けで良いわよ」
「は、はい……(まったく亜希さんったら……)」

 こうして2人は旅行と調査を兼ねた亜希曰く「特別ミッション」を命じられたのだ。

「あっ……、もう上がってたんだ。お待たせ、真」
 ちょうど、そこに紗希が女風呂から出てきた。
「いや……、俺も丁度上がってきた所だったから……」
 濡れた黒い髪とすこし上気させてほんのりと赤くなった白い肌を浴衣で包んだ紗希の姿に真は思わず釘づけになってしまった。
「あっ、そうだったんだ。良かった」
「あぁ、それより温泉はどうだった?」
「えぇ、こんなひろ〜いお風呂って初めてだったけど、あったかくってすご〜く気持ち良かったわ」
「そっか、紗希はこういう所って初めてだったのか」
「うん、あたし外国暮らしが長かったから」
 そう言いながら、気持ち良さそうに身体を大きく伸ばした紗希の姿に真は思わずじーっと見つめてしまった。
 そんな真に「あたしの方を見てるけど、なにかついてる?」と言って紗希が真の顔をぐっと覗きこんだ。すると浴衣が少し大きくはだけて胸元が開き、そこから見事な谷間が真の視界に入ってきた。
「な……、何でもない……///」
 思わず真は目線を逸らした。
「さ、紗希……ほら浴衣……」
 顔を赤らめながら真は紗希のはだけた胸元の方を指さすと「あっ……、そっか」と言ってくいっと浴衣を直していた。
「湯冷めしちゃうもんね。ありがと、真」
「うん、やれやれホント紗希ったらいろんな意味で大胆なんだから……」
「えーっ?」
「じゃあ、ちょっと俺は亜希さん達に連絡してくるからここで待っててくれ」
 そう言うと真は席を立った。

「こちら鈴村。本部応答願います」
≪こちら本部星野。真、調子はどう?≫
「えぇ、各地で聞き取りの結果ですが、なかなか興味深い話もいくつかありました。明日その現場に紗希と……いえ、柚本隊員と一緒に調査を行います。それにしても本当に良かったんですか2人だけ休暇なんて……」
≪休む事も隊員としてとても重要な任務のうちよ。それと……≫
「それと?」
≪紗希ちゃんとはどんな感じ?まさか2人きりだからってエッチな事なんて……≫
「な、何言ってんですか!?」
 亜希の茶化しめいた言葉に思わず動揺し、真の顔は赤くなった。
「そんな事してないですよ!……まったく、そりゃ調査中何度もカップルだと思われたくらいで……というか観光地だからカップルで調査した方が色々と都合が良いだなんて言ったのは亜希さんじゃないですか」
≪ふふふ、わたしの聞き取り術はなかなか使えたようね。健全でよろしい!≫ 
 そう言って亜希はおどけて見せた。
「どうしたの、真? 急に大きな声になったけど……」
「あっ、紗希?どうしたんだ?」
≪あらら……、随分色っぽい恰好じゃないの≫
「あっ、星野副隊長。真、なんだかこの浴衣サイズ合わないみたいでまた緩んできちゃったみたいで……」
「紗希、俺が直してやるよ。という事で副隊長この辺で切りますよ」
≪えぇ、目の保養にもなったわ≫
 紗希のはだけた浴衣姿を目にして、ニヤニヤとした笑顔の亜希は通信の最後に。
≪あっ、それと最後にもう一つ≫
「何ですか?」
≪据え膳食わぬは武士の恥よ〜≫
「な、何言ってるんですか!?」
 そう真が言い終わる前に通信は切られてしまった。

「やれやれ……亜希さんったら仮にも副隊長だってのに相変わらず何言ってんだか……」
 紗希の浴衣を直すのを手伝いながら真はそうつぶやいた。
「ねぇ、真」
「なんだ?紗希」
「亜希さんの最後の据え膳がなんとかって何?日本のことわざ?」
「あぁ、そうだけど紗希にはどうでも良い事だよ」
「そうなの?」
「うん、そうだよ。全く亜希さんったら…… ほら紗希直ったぞ」
「あっ、ありがと」
「じゃあ部屋に戻るか」
 そう言うと2人は部屋に戻ることにした。その時だった。

ゴォオオオオオン!
 
 突然地響きの様な声とともに窓が震え、そしてホテルの中が真っ暗闇になった。
「停電!?まさか例の……」
「あぁ、どうやらこれが最近頻発してるらしい謎の停電現象みたいだな。紗希、明日は早く例の現場に行って調査するぞ」
「えぇ」
 こうして2人は停電現象の謎をつきとめる事になった。


「さて、ここからは特捜隊の仕事に戻るぞ。行くぞ、紗希」
「了解。真」
 翌朝、2人は早くにホテルを出発すると停電現象の発生源と睨んだ、とある伝説のある古井戸に調査に向かった。
現場に到着した2人は昨晩までの私服から特捜隊の制服に着替え、あらかじめ用意していた鍵で古井戸を覆っていた覆いを外すと、縄梯子を下ろしてゆっくりと底へと降りることにした。
「古井戸って言うだけあって、もう水は枯れているようだな」
「やっぱり、いるのかしら。雷獣ネロンガ」
 紗希の言う「雷獣ネロンガ」とは、その昔悪さをしていた所を村井強衛門という侍に追い立てられ、丁度この井戸で退治されたと言い伝えられているこの地方に伝わる妖怪の事である。昨日、観光がてら聞き込みをしていた2人はその事を地元の人から聞いたのであった。
「それにしても、その村井強衛門って人は私たち特捜隊の大先輩ってところみたいね」
「あぁ、そんな昔から俺達みたいな事をしている人たちがいたんだな」
 
 そんな話をしている間に2人は古井戸の底へとたどり着いた。井戸は2人が思った以上に深く、そしてそこあったのは2人を待ち受けるようにぽっかりと開いた横穴であった。
「この横穴がなんだか怪しいな。よし調べるぞ」
 そうして2人が横穴へと入ろうとしたその時であった。

ヴォオオオオオン……

 昨晩、2人がホテルで聞いたのと似た様な声が横穴の向こうから響くと、もわっとした生温かい風が包み込んだ。
「見てっ!」
 紗希が指差した先にあったのは巨大な光る眼であった。その眼は2人の存在に気付いたのかぎろっとこちらを向いた。
「あの目……!やはり怪獣か……、うわぁあ!」
 突然、地面が激しく揺れ出すと山を巻き込みながら古井戸が崩落し始めた。
「まずい!このままだと生き埋めになるぞ。紗希、早く脱出するぞ!」
 強い揺れにパラパラと降り注いでくる土砂と巻き起こる土煙の中、2人はなんとか梯子にしがみつくとゆっくりと地上目指して登出り出した。
「がんばれ、紗希。もう少しで地上に出れるぞ!」
 そして、なんとか井戸から這い出るようにして脱出したのだった。
「はぁ……、はぁ……危なかった……。紗希は大丈夫か?」
「ごほ……っ!ごほ……っ! えぇ、あたしなら大丈夫よ」
「そうか、良かった。……って、紗希アレを見ろ!」

 それは古井戸の近くに建てられた水力発電所が2人の目の前で崩壊して行くところであった。
「ねぇ、真。あそこの煙の中に何かいるわ」
 紗希が指差した方に居たのは、三本角で四足歩行する巨大な怪獣であった。
 怪獣は2人の方に背中を向ける、その頭の角を電車のパンタグラフの様に発電所の送電線にあてると、そこから電気を吸い取っていた。
「こちら鈴村、たった今伊和見山の水力発電所が襲われました!」
 真はすぐさま本部に連絡すると、腰のホルスターからブラスターガンを取りだした。
「エネルギーは…よし満タンだな。俺達はあの怪獣を食いとめる。行くぞ、紗希!」
「えぇ!」
 2人は急ぎ発電所へと向かって駆けだした。だが、その途中で紗希が立ち止まった。
「どうした、紗希?」
「気配が消えたわ。どうやら逃げられたみたいね」
 そう言われ、真は思わず地団太を踏みそうになった。

 伊和見山での事件を受けて、すぐさま設置された災害対策本部に2人の姿はあった。
「大変だったな。鈴村、柚本」
そこに丁度、真たちからの報告を受け、原爆の捜索任務からこちらへと駆けつけた影丸達特捜隊員が入ってきた。
「すみません、隊長。怪獣にまんまと逃げられてしまいました」
「その事は良いんだ。さて……」
 そう言って影丸はこれまでの怪獣やこの事件に関する情報が表示されたモニターの方へと目をやった。
「300年前に退治されたネロンガか、何故今になって現れたんだ」
「それですが、おそらく」
 梶がそう言うと、机の上に地図を広げた。
「3年前です。ここ伊和見城址の近くにに水力発電所が建設されました。そしてそれと同時に……」
 赤い線を発電所の辺りから古井戸の方へと引いた。
「これはその時敷設された送電ケーブルです」
「ちょうど古井戸の近くを通っているいるのか」
「えぇ、恐らくですがこの送電線からの高圧電流を餌にしてネロンガは巨大化して行ったのでしょう」
「という事はそいつは電気を食ってるって訳か」
「えぇ、山木隊員」
「なるほど、だからネロンガは電力施設を次々と……」
 既に伊和見山だけではなく伊豆から関東の南部にかけての発送電施設の何箇所かがネロンガの餌食となっていた。そしてそれは徐々に東京へと進路を向かっていたのであった。
「それにしても、ここまでやられているのにまだネロンガの尻尾は掴めないのか?」
「隊長、あの怪獣は消えるようなのです。俺達はこの目で見ました!」
「えぇ、ネロンガはどうやら電力を吸収し放出する時には姿を実体化させるようですが、移動時にはその姿を透明にしているので。ですが……」
 そう言うと梶は関東南部のある一点を指さした。
「関東第三発電所か」
「万が一の為、近隣の原発には直ちに緊急停止させるよう要請していますので、ここが付近一帯で稼働しているなかでは最大の発電量を持つ電力施設です」
「あそこがやられるとまずいな。何か策はあるか」
 影丸からの問いに、梶は「えぇ、すでに」と言ってディスプレイに地図上にいくつかの点とそれを結んだ線を表示させた。
「流石は梶隊員!」
「あくまでまだ案ですが……」
 涼花達からそんな言葉をかけられ、少し照れ気味に後頭部を掻くようなしぐさをして、梶は更に説明を続けた。
「このラインが防衛ライン、そしてこの点は発電機です。今回これを囮にしてネロンガをおびき出すというのはどうでしょう」
「おびきだした所を袋叩きって訳だな」
「えぇ、そうです。隊長いかがですか?」
「よし、それで行くぞ。全員作戦準備に取り掛かってくれ!」
「了解!」

 こうして、特捜隊はネロンガ撃退作戦に取りかかった。

「……という事で作戦に関する説明は以上だ。何か質問がないようなら、すぐに実行に移るぞ」
「了解です。隊長」
「よし、ネロンガに防衛ラインを越えさせるな」
 防衛軍総出で相模川に沿うように防衛ラインを急ピッチで建設していたこの数日間、ネロンガは最後に目撃のあった箱根の三国峠から丹沢の山中に姿を隠していた。

「そろそろネロンガの奴もしびれを切らして出てくるだろう。その時はこいつで……」
 そう言って山木は金属のケースから何かを取りだした。
「新兵器ですか?山木隊員」
「それについてですが……」
 山木に代わって梶が説明を始めた。
「ざっと簡単に説明しますと、この新兵器は私たちが身につけているこのブラスターガンを大出力、大型化したものになりますね。いわばブラスターランチャーといったところでしょうか」
「なるほど、それは心強いですね」
「えぇ。ただ、これも急ピッチで仕上げた物でしたので、まだ細かい部分の調整がまだまだで……」
「おいおい、梶!本当に大丈夫か!」
「それについては今回は私が立ち会いますのでご安心を」

ピー!ピー!ピー!

 その時、作戦室にアラームが鳴り響いた。
〈βポイントに反応あり!ネロンガです!〉
「さて、どうやら動き出したようですね。こちらも出ましょう」
 こうして、急ぎ現場へと向かった。

「おい!見ろ!」
 罠として設置した拘束ネットに身体を捕えながらも、高圧電線に食らいつきそこから電気をむさぼり食うネロンガの姿に現場に到着した一同は思わず声を上げた。

「こちら特捜隊、現場に到着しました。ネロンガは高圧線の電気を吸収しています」
〈よし!攻撃を開始する〉
 影丸の指示であらかじめ防衛ラインを守っていた攻撃部隊が一斉に攻撃を始めた。
「よし、俺達特捜隊も動くぞ。俺と梶はコイツで奴の目を狙ってやる。鈴村と柚本はその間攻撃部隊と共に奴の気をこっちから逸らしてくれ!」
 そう言って山木と梶、真と紗希の2手に分かれ、ネロンガが攻撃に気を取られているうちに接近することにした。

「出力は……よし、準備完了だな」
「えぇ、では早速……」
 梶の言葉に、山木が「おう!」と答えランチャーのトリガーを引いた。するとブラスターガンよりも強力なビームがネロンガめがけ放たれ、そして狙い通り目に命中した。
 その瞬間、山木は「よっしゃ!」と声を上げかけたが、それよりも怒ったネロンガが報復を仕掛けてくる前に離れる事の方が今は重要だったので、急ぎ退却することにした。

「山木隊員!梶隊員!今、こっちに気をそらしますからその隙に……」
 真と紗希がは2人を援護すべく、巧みにネロンガにじりじりと近づきながらビームガンをネロンガの顔めがけて何発が発砲していたその時であった。ネロンガの角が2人の方を向き、そしてパチパチとスパークしながら光り始めた。
 2人は慌ててそこから離れようとする。
「紗希!危ない!」
 ネロンガが紗希の方を向いたのを見て、とっさに真が駆け寄ろうとした瞬間。辺りがピカッと一瞬光った。

「真……!?」
 とっさに紗希を庇おうとした真は直撃こそ免れたが、電撃によって意識を失いその場に倒れてしまった。

「真!ねぇ、真!」
 紗希は動かない真に必死になって声をかけ、そして胸元に耳を当てた。
(良かった……、気を失っているだけみたいね……)
「柚本!おい、大丈夫か鈴村!」
 真の異変に気付き、山木と梶も2人の元に駆けつけた。

「気を失っているようです。すいません山木隊員、真の事をお願いします」
「お願いします……って、柚本はどうする気だ?」
「私は1人でここに残ってネロンガを引きつけます。その間に山木隊員と梶隊員は真を安全な所へ運んでください!」
「……分かりました。山木隊員、ここは柚本隊員に任せましょう」
「あぁ、俺達も鈴村を運んだら戻るからな。頼んだぞ、柚本」
 山木がそう言って、真を背中に背負うと梶と共に急ぎ作戦室へと戻っていった。

「山木隊員、お願いします……」
 紗希は山木達を見届けると、今にも迫り来ようとするネロンガに1人仁王立ちした。
「ここからはあたしが相手よ!」
 そう言うと胸のポケットからSカプセルを取り出すと、上に掲げる。そして、スイッチを入れた。
 その瞬間、光の中よりウルトラレディ・シャインが姿を現した。

5

「シャイン!」

 防衛隊員達から上がった歓声にウォーミングアップで応えると、こちらを激しく威嚇するネロンガへファイティングポーズを構え、対峙した。
 そんなシャインにネロンガは角を向け、そして放電光線を放った。
「気をつけろ!シャイン!」
 だが、シャインは動じることもなく胸元を突き出し、放電光線を受け止めて見せた。

「効かないわよ」
 そう言いたげな表情でシャインは光線が当たった胸のあたりをトントンと手で叩く、するとそこにネロンガが体当たりしてきた。
そこをシャインは顎にストレートのパンチを叩きこむと、そのままネロンガの体をがっちりと脇に抱え動きを押さえると、そのまま投げ飛ばした。

 その場にズシーン!という轟音と地響きでネロンガは倒れこんだ。だがすぐさまシャインもネロンガが振り回した尻尾が当たり、思わず後ろへとのけ反った。
「うあっ!」
 その間にネロンガが起き上がり、再び体当たりを仕掛けてくるのをシャインはひらりとなんとか流すと、ガラ空きになった背中にチョップを叩きこみ、そして馬乗りになった。そしてネロンガの頭に攻撃を叩きこんでいった。
 だが、ネロンガもそれを振りほどこうと大きく体を左右に動かした。
「あぁ……っ!」
 ネロンガが更に激しく体を揺すった瞬間、シャインは横に落とされてしまった。そして、そこにお返しとばかりにネロンガの体がシャインに覆いかぶさり、のしかかった。

「この……っ!」
 のしかかられながらもシャインはネロンガの上半身をがっちりと掴み捕え、そのまま押し戻しながら両者はその場にゴロゴロと転がった。
 そして、シャインはネロンガの腹部を蹴っ飛ばして弾き飛ばすとようやく立ち上がった。


「見てください、ネロンガが」
 丁度その時、その両者の戦いを見ていた影丸や亜希たちの中で梶が蹴っ飛ばされたネロンガの方を指差した。
「えぇ、体が……!」
 立ち上がろうとするシャインの視界から四つん這いになって逃げながらネロンガの体が徐々に透明になり、そして見えなくなった。
「まずいわね。気をつけて!シャイン」

 その声でシャインは辺りを見渡そうとした瞬間。
「痛いっ!」
 何かが尻に噛みつき、思わず前のめりの姿勢になった。
「いったい何が……、まさか!」
 噛まれたあたりをさすりながら、後ろを振り向こうとした瞬間。シャインの背中に透明化したネロンガがもたれるように組みついた。

バリバリバリッ!
「きゃあああああああーー!」

 今度は至近距離から電撃を放たれ、シャインの体が激しく痙攣しながらのけ反り、そして、シャインの体はネロンガに押し倒された。

「くぅ……、この……っ! きゃああああああ!」
 体を押し戻して、なんとか脱出しようとするシャイン。だが、そこに再びネロンガが電撃を放ってきた事で、シャインは四つん這いの姿勢になったまま、その場から動けなくなってしまった。

 
「くそっ、このままじゃ……」
 苦戦するシャインの様子を見ながらそう呟いた山木だが、梶は何かに気付いたのか影丸と亜希にある作戦を提案していた。
「なるほど……、これなら透明になったネロンガの尻尾を掴めるな」
 
「真隊員!」
 そこに医務室で横になっていた真がようやく目を覚まし、作戦室へと入ってきた。
「鈴村、大丈夫なのか?」
「そうよ真。今は休んで……」

「いえ、もう大丈夫です。それにしても……シャインが!」
「えぇ、なのである作戦があるのですが」
 そう言って梶はそれぞれSとPと書かれたアタッシュケースを取り出した。
「これはスモーク弾とペイント弾のカートリッジ……」
「えぇ、まずはこのスモーク弾を使うわけですが、見てください」
 そう言って、ある一点を指差した。
「砂埃が……」
 それは戦いで捲きあがった砂埃がネロンガの体の周りに集まっていく様子であった。
「はい、電気を吸収するネロンガの体の静電気に引き寄せられているという事です。なのでこのスモーク弾とペイント弾でネロンガの実体を掴んでやろうという事です」
 そう言って梶は2つのカートリッジを隊員たちに渡し、そうして作戦に取りかかった。

 その間もシャインはネロンガの巧みに姿を消しながら攻撃してくる動きに翻弄され、苦戦を強いられていた。
「うぅ……っ……、この……っ!」
 押し倒され、うつ伏せになったシャインに透明になったネロンガがのしかかり下に敷くと何度もその背中を踏みつけられる、そして胸元のカラータイマーも赤く点滅を始めていた。
「まずい……どうにかしないと……」

 その時である。
「シャイン、今なんとかするからな!」
 その声と共にスモーク弾がシャインのその上にいる「何か」目がけて放たれた。すると、スモークがその何かの実体の形を作るようにまとわりつき始めた。
「よし、上手くいったぞ。次はペイント弾だ!」
「はい!」
 そして、今度はネロンガの頭目がけてペイント弾を放つと、着弾したところが蛍光色で塗りたくられていった。
「これで透明になろうとしても、怖くないぞ」
 その塗料が付いた所を狙って、再び攻撃を開始するとネロンガはそちらに気を取られたのかシャインの上から離れていった。
その間にシャインは肩を切らし、肩を上下させながらもようやく起き上がった。

「はぁ……、はぁ……っ……!」
 既にタイマーの点滅もより一層激しくなり、体力は限界近くであったがシャインは特捜隊や攻撃部隊の方へと進もうするネロンガの尻尾を掴み思いっきり引っ張った。
「そっちには行かせないわよっ!」
 そして、ネロンガを引きもどすように投げ飛ばすと、更に頭を掴み上げた。
「さっきはよくもやったわね…… お返しよ!」
 そう言って、ひざ蹴りを角の辺りへとお見舞いすると、自慢の角をボキッと叩き折ってしまった。
「これで電撃も使えないわね」
 さらにもう一度、今度は顎に膝を入れるとネロンガはその場に倒れ動かなくなった。

「これでとどめね! スペリオル光線!」
 シャインのL字に組んだ腕からスペリオル光線の奔流がネロンガの体を貫くと、爆発し木っ端みじんに吹き飛んだ。

「やった……、やったー!」
 そんな歓声を上げて喜ぶ隊員たちに気付いたのか、シャインはニコッとほほ笑むと空高くへと飛び去っていった。

エピローグ


「これにてこっちの件は一件落着ね」
「そう言えば紗希は?」
「あっ、そうだった。鈴村、お前が気を失ってたんで紗希はお前を退避させる為に残ってたんだ」
「じゃあ、あの近くにまだ紗希が!?」

「おーい!」
 その明るい声とともに紗希がこちらへとかけてきた。
「紗希!」
「柚本隊員!」
 そんな紗希の様子に思わず皆の顔に笑みが浮かんだ。
「どうやら無事だったようですね」

「紗希、無事だったのか!」
「えへへ、それはこっちのセリフよ。真」
「話は聞いたぞ。ありがとな、紗希」

「さて、とりあえず俺たちは基地へ戻るぞ。もう一つの事も気になるしな」
「はい!」
 こうして、特捜隊と攻撃部隊は基地へと撤収することにした。

「それにしても半ば任務だったとはいえ、せっかくの温泉旅行が台無しになってしまったな」
 基地へと引き上げる途中の車内で紗希に真は言ってみた。
「うぅん、そんなことなかったわよ。温泉気持ち良かったし」
「そっか、じゃあきっちりと休みのある時にまた行こうな」
「えぇ!真との旅行楽しかったもの」

「2人とも、休み明けで悪いけど引き続いて任務に参加してもらうわよ」
 そんな2人の会話に亜希が割って入った。
「反応弾の捜索の件ですね。亜希さん」
「何かあったんですね」
「そうよ、先に戻ってた隼人から連絡があって今後は特捜隊が主導して行う事になったわ。詳しい話は後で」
「わかりました。亜希さん、いえ星野副隊長」

 その亜希の言葉で2人の顔つきはキッと鋭いものに戻っていた。
そして、基地へと戻った真と紗希、そしてシャインを待ち構えていたのはまた新たな事件であった……。

第3話 END

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