マクロスFのキャラクター、早乙女アルトとランカ・リーのカップルに萌えた人たちのための二次創作投稿所です。

一応「悪い夢を見ても君がいるなら大丈夫」の続きのようなものですが、
読まなくてもなんら問題はありません。








「あの…失礼ですがランカ・リーさんでしょうか」
「…はい?」
声を掛けられ振り向くと、そこには和服の男が立っていた。
一見にこやかだが何故か心の底から笑っているように思えなくて
ランカは少し警戒心を覚えた。
「…あの、…なんでしょうか?」
アルトと出会ってからしばらく出ていなかった人見知りの症状が体中を支配する。
渇いた喉から搾り出すように声を出すと目の前の男はクスリと笑った。
それがなんだか嘲笑されているように感じて、ランカはますます身を強張らせた。


「アルトさんのことでお話が」








アルトは焦っていた。
ランカが待ち合わせの時間に来ない。
ランカの仕事の関係上、時間に遅れることは多々ある。
早乙女アルトの恋人、ランカ・リーはアイドルだ。それもこの銀河中知らないものはない、超トップクラスの。今日は番組の収録があると言っていた。それが長引いているのかもしれない。
だがしかし。時間に遅れる時、メール一通でも必ずランカは連絡をくれる。収録時間がずれこんだときはタレント思いの社長兼マネージャーが無理矢理でも休憩時間をぶんどってくれるらしい。そのお陰でアルトくんに連絡できるの。あんなにいい社長さんはいないよ。前にランカはそう話していた。

時計を見ると約束の時間からすでに3時間が経過していた。


もちろん約束の時間から1時間経った所でアルトはランカと連絡を取ろうとした。
最初はメールで。しばらく経ってメールの返事が来ないと知ると、アルトは迷うことなく電話をかけた。だが出ない。携帯の電源が切られているわけではない。ただ出ない。ここでランカの携帯の電源が切られていて留守番電話に切り替わったのならまだ、安心できたかもしれない。電源が切られているのは仕事中だという証明で、今回は珍しく社長兼マネージャーの力が通らなかったのだと(無理にでも)納得できたし、留守番電話に伝言を吹き込めることができれば、それを聞いて後からランカが連絡をしてくれるだろうから。
・・・いや、それだけではないだろう。つまるところアルトは留守番電話に吹き込まれたランカの声でさえ聞きたかったのだ。聞けば安心できたのだ。

「くそっ」
焦りの余り苛立ちを隠せないアルトを通行人は怪訝な顔をして見ていたが、そんなものを気にしている余裕はなかった。事故にでもあったのだろうか。それともなにか事件にでも巻き込まれたのだろうか。あいつは抜けているところがあるから、その可能性は全く否定できない。思考がどんどん暗い方向へ向かい、最悪の事態が頭の中で展開される。ランカの兄であり、アルトの上司であるオズマに連絡をするべきだと決意したその時―。

「ランカっ?!」
アルトの携帯が待ち望んでいた彼女からの着信を知らせた。コンマ1秒で通話ボタンを押し、アルトはランカの名前を叫んだ。
「っ!・・・あ、あの、・・・アルト、くん・・・?」
「ランカ、お前いまどこにいるんだ?!!」
突然聴こえた怒鳴り声にランカは怯えた様子だったが、それを気にする余裕はアルトにはなかった。
「・・・あ、あのね、その・・・。私、今アルトくんのおうちにいるの・・・」
「はぁ?」
アルトの家、と言われてアルトはとっさに一人暮らししている古いアパートを思い浮かべた。確かに合鍵は渡している。ランカには好きな時に入っていいと言っているし、何も問題はない、筈だ。少しの違和感を覚えたが、最悪の事態を想定していたアルトは、ほっと息をつき脱力した。
「お前なあ。なんで外で待ち合わせしてるのに俺の家にいるんだよ」
張り詰めていた緊張がとけ、いつもよりもいくらかぶっきらぼうな調子でアルトは言った。
「えっ・・・とアルトくん、その、そうじゃなくていやそうなんだけど・・・!」
と、ここで再び違和感を覚える。さっきも言ったが、外で待ち合わせしているのになぜランカはアルトの家にいるのか。いくらランカが抜けているとはいえ、待ち合わせを忘れて直接アルトの家にいくはずはないだろう。そしてランカの『そうじゃなくていやそうなんだけど』という言葉。『そうじゃなくて』はランカがアルトの家に居ない、ということ。では『いやそうなんだけど』は?一度打ち消したものを再び肯定している。つまりアルトの家には居ない、けどアルトの家に居る。一見矛盾しているこの言葉から導き出される答えは―。

「お前・・・まさか早乙女の屋敷にいるのか?」
「(・・・?え、あ・・・はい・・・。)
 アルトくん…ごめんなさいっ」
「ランカ?!」
謝罪の言葉を残して突然電話が切れた。
・・・一体これはどういうことだ?
突然の出来事にアルトは目の前が暗くなった。脳が、思考が上手く働かない。拳を額に押し当てて必死に頭を巡らす。どういうことだ。何が起きた。アルトの実家にいるというランカ。突然切れた電話。考えろ。考えろ考えろ。電話が切られる直前のランカの言葉。謝罪の少し前、電話の向こうでランカは誰かと会話をしていなかったか?誰かとは誰だ。いや、自分は知っている。忘れるはずも無い。忘れるはずが無い。芸に魅入られ、芸を高めることに己の身を人生をかけている男。そしてアルトを、アルトの受け継いだ血を誰よりも尊び、ことあるごとにアルトを連れ戻そうとする男。

「―兄さんっ!」
間違いなくあの声はアルトの兄弟子矢三郎のものだった。







銀河でも有数の歌舞伎の名門、早乙女一座。その門の前にアルトは立っていた。

「こんな形でこの家に帰ることになるなんてな」

父に勘当を言い渡され、自らも二度とこの家の敷居を跨ぐものかと心に誓ったあの日のことをアルトは思い返す。あの頃のアルトは子供だった。芸の鬼で、もはや人にあらずという風な父とまともな話ができるはずがないと思い込み、ただ自分の考えを押し付け家を飛び出した。
アルトは父の、自分の考えが全てでそれを他人に押し付ける所が堪らなく嫌で仕方がなかったのだが、今考えてみるとあの時のアルト自身も嫌だと思っていた父と同じ行動をとっていた訳だ。どうせ話が通じるはずがないと思い込み、伝える努力もしようとしなかった。自分の気持ちだけを叩きつけるように押し付けた。あの頃の自分は真実、嫌なことから逃げているだけの子供だった。
今、それに気づけたのは間違いなく友人達や今までに出会った人々のお陰だ。彼らは狭かった自分の視野を広げてくれた。自分でも気づいていない心の奥底にあった様々な思いを掬い上げて自由にしてくれた。時にはぶつかり合う事もあったが、そういった経験が他者を認めることが出来る心の広さをアルトにもたらしてくれた。
だから残念だった。こんな形でこの家に帰ることになることが。様々な人々との出会いのお陰で父や家に対するわだかまりが大分解け、アルトは自らの意思で家に帰るつもりだった。
父はアルトを許さないかもしれない。それでも何度でも分かってもらえるまで足を運ぶ、心積もりは出来ていたのに。いつかは分かり合えるはずだと、お互いを尊重できるはずだと信じることが出来始めていたのに。

「どうしてだよ、兄さん」
アルトの世界を広げてくれ信じる力をくれた少女、ランカ・リーは矢三郎の思惑によって間違いなくこの家に居る。


屋敷に入ると門下生の一人が出迎えた。
「矢三郎さんは奥にいらっしゃいます」
どうやらアルトがくることを見越してあらかじめ話は通しておいたらしい。計画的なものだと確信し、内心毒づく。返事はせずに靴を脱ぎ久々の本宅に足を踏み入れた。何の感慨もなかった。
板張りの廊下を早足で歩いていると、奥の部屋から話し声が聞こえた。
間違いない。兄弟子、矢三郎とランカの声だ。
よくよく注意して聞くとランカの声には嗚咽が混じっている。
その瞬間アルトの頭に血が上った。

―ランカを泣かせやがったな…!たとえ兄さんでも許さない。
 状況次第では反応弾ぶちこんで蒸発させてやるっ!

アルトは障子に手を掛け勢いよく開け放った。

「あ、アルトくん!」




ズバダーン!!

頭に血が昇り、最悪の状況に備え臨戦態勢に入っていたアルトは、予想に反して和やかなムードで茶を囲んだ人々と、満面の笑顔をこちらに向けてきたランカに気を削がれ思い切りずっこけた。
「っ〜!!」
「大丈夫?!アルトくん?!」
かろうじて受身はとったものの痛みに襲われているアルトにランカは慌てて駆け寄った。その背後では矢三郎が袖で口元を隠し笑いを堪えている。
「ランカ・・・お前・・・大丈夫か?何もされてないか?」
ランカが擦ってくれたお陰で大分痛みも引き、アルトはランカに無事を確かめる言葉をかけた。
「え?もちろん大丈夫だよ。どうしてそんなこと聞くの?」
ランカは小首を傾げ心底不思議そうに答えた。そんな仕草も可愛いと思う。
「だって、泣いてただろう・・・ほら」
アルトはランカの目尻にたまっていた涙を人差し指でそっとぬぐった。これこそランカが泣いていた動かぬ証拠であり、矢三郎によって”何か”されたのではないかと思う原因の一つだった。
「え、あの、これは違うの!何か嫌なことがあったんじゃなくて」
「じゃあなんで泣いてるんだよ?!」
何かを隠すように首をぶんぶん振り否定するランカに少し苛立ちを覚えて、アルトはついきつい眼差しで詰問してしまった。
「・・・・・・・・・あう」
みるみる内に萎縮し、再び目に涙を浮かべるランカを見てアルトは慌てた。―俺が泣かせてどうする!
「ランカすまない!ちょっときつく言い過ぎた、悪ぃ!だから泣かないでくれ」
「ぷっ。くすくすくす・・・!」
赤子に泣かれてしまった父親のように必死にランカのご機嫌をとろうとしているアルトを見て矢三郎が笑っている。何を笑っているんだ、元はといえば兄さんのせいなのに。アルトの怒りは自然矢三郎に向かった。
「兄さん、これはどういうことだよ!」
「おやアルトさん、私はそのお嬢さんに危害を加えるなどということはしていませんよ」
「ランカは泣いてたじゃないか!」
「今泣いているのはアルトさんのせいでは?」
「・・・ぐっ!」
常に一歩以上先にいるような兄弟子だ。もちろん口で敵うはずもなくアルトは言葉を詰まらせた。
「そうじゃなくて・・・!俺がこの部屋に来る前だよ!ランカの泣き声が聴こえたんだ!」
「よく聴こえたものですね。・・・これが愛の力、というものでしょうか」
「っ!からかわないでくれ!」
何を言っても柳に風、暖簾に腕押しといった様子でかわす矢三郎に、アルトは一生この兄弟子には敵わないだろうと心から思った。と、その時背後から服の裾を引っ張られる感触がした。
「・・・・・・あのね、違うのアルトくん」
「ランカ」
振り向くとなんとか涙を引っ込めたランカが申し訳なさそうに言う。
「その、舞台のね、映像見てたの・・・・・・・・・アルトくんの」
「・・・は?」
今までの騒ぎで気づかなかったが、落ち着いて周りを見ると、テレビが何かの映像を流しているのが見えた。間違いない。アルトの女形姿の映像だ。
「そしたら感動しちゃって・・・涙がでちゃったの。だから嫌なことは何もなかったんだよ。
 本当だよ?」
女形姿を見られた羞恥と、勘違いで怒鳴り散らした羞恥でアルトの顔は真っ赤になる。
「そういうことですよ、アルトさん」
「う・・・じゃあ、じゃあ!電話の時のごめんなさいは一体なんだったんだよっ」
「あ、それは・・・アルトくん舞台の映像見られるのすごい嫌がるだろうなぁって・・・
 だから先に謝っとこうと思って」
「ちなみにその後電話が切れたのはちょうどいいシーンが始まる所だったもので。
 結果的に私がランカさんに電話を切れとお願いした形になりましたね。
 申し訳ありません、アルトさん」
「本っ当にごめんねぇ、アルトくぅん・・・」
申し訳なさそうに顔の前で両手を合わせて謝るランカを責める気にもならず、アルトはその場に崩れ落ちた。肩に小さな温もりが触れる。
「心配、してくれてたんだよね。ありがとうね、アルトくん」
「・・・ランカ。お前に何かあったんじゃないかと気が気じゃなかったんだ」
「本当にごめんねアルトくん」
アルトは大事なものを二度と離すものかとランカを抱きしめた。―ここが何処かということをすっかり忘れて。
「おやおや。幼い頃から面倒を見てきたあのアルトさんが、人前で堂々と女性を抱きしめる
 ことができるようになったなんて。なんだか感慨深いですねぇ」
「に、ににににに兄さん!」
袖で目元を拭い泣きまねをする矢三郎に恥ずかしい所を見られ、アルトは赤面した。
―と、視界の端にある人物が座っているのにアルトは気づいた。
「・・・親父?いつから、そこに」
「おや、最初からいらっしゃいましたよ」
どうやら頭に血が昇り、今の今まで存在に気づかなかったらしい。そこまで冷静さを失っていたことをアルトは恥じた。



「その、親父・・・」
どうしよう、言いたいことは山ほどあったはずなのに何故か出てこない。この家を出るまでに抱いていた憤りや不満。この家を出てから色々な出来事を経て導き出された思い、疑問。そういったものを父にぶつけ、また父の考えを、思いも受け止めるつもりだった。その心積もりは出来ていたはずなのに言葉を発する勇気が出てこない。辺りを沈黙が包み込む。息を吸い、吐く。それだけの動作を何十回と繰り返し、やはり己は駄目なのだろうかと、心は家を出た時の子供のままなのだろうかと絶望しかけたその時。右手を包み込む暖かな体温に気づく。顔を向けるとランカが微笑んでいた。いつか悪夢を見たとき、怯えていたアルトを優しく包み込み支えてくれたあの笑顔で。
―ありがとう、ランカ。
アルトはランカに微笑み返し、そして父、嵐蔵の目をまっすぐに見つめて口を開いた。
「親父。まず最初に言わせてくれ。・・・いままで俺を育ててくれてありがとう」
嵐蔵が僅かに目を見開いた。アルトの言葉に矢三郎も驚いた。
「昔の俺は子供だった。もちろん今の俺は大人だと胸を張って言える訳じゃないけど。
 でもあの頃の俺は自分一人で生きていると・・・生きてきたと粋がっている子供だった。
 養育面だけじゃない。あの頃の俺は親父が一人の人間だと、どうしても思えなかった。
 感情を切り捨て、芸に全てを捧げる鬼だと思い込んでいた。
 ・・・鬼が愛情を持っているなんて思いもしなかった。あんたにとっての俺は血の繋がった
 子供でもなくて、ただ芸を受け継がせるだけの、マシーンとしてしか見ていないと、
 そう思ってたんだ」
嵐蔵はほんの僅かに目を伏せた。この仕草も、他人が見れば無表情にしか思えないだろう。アルトにその僅かな仕草が分かるのは、芸によって鍛えられた洞察力によってだけではあるまい。きっと、家族だから。家族だから、分かる。
「母さんのことも。母さんが死んだ日も親父はいつもどおり稽古をしてて。
 だから俺はきっと親父は悲しくないんだろうと、なにも思わないんだと憤った。
 あんたを愛した母さんが可哀想だって、腹を立てた。
 でも、家を出て。いろんな人に出会って分かった。愛にはいろんな形があるんだって。
 感情の表し方も人によって違うって。楽しそうに笑ってる奴が辛い思いを全くしていないかと
 いうと、そうじゃない。普段は何でもない顔をして必死で隠して、誰も居ないところで泣いて
 いる奴がいる。・・・親父もそうだったんじゃないかって思った。
 それに母さんは幸せそうだった。少しだけ寂しい顔もしていたけれど、
 辛くて嫌でしょうがないって顔じゃなかった。
 それって親父の愛を母さんも受け取っていたってことだろう?
 あの頃の俺には分からなかったけれど」
そう。父の話をするときの母の顔は少女のようにはにかんでいて、その時アルトは何故だか面白くないように感じたのだった。
「なあ、親父。俺は、もっと親父と話をするべきだったと思う。
 自分の意見を押し付けるだけ押し付けて、この家から逃げる前に。
 俺は空を飛びたい。遊びじゃない。嫌なことからの逃避でもない。
 心の底から空を求めている。母さんから本物の空の話を聞いたときから、ずっと。
 だから悪いけど、早乙女の芸を継ぐことはできない。
 親父がこんな息子いらないって言うなら、しょうがない。
 でも本当は親父にも認めてほしいんだ。だって俺達は家族なんだから」
再び沈黙がその場に流れる。アルトの心は不思議と穏やかだった。一番伝えたいことは言った。この場で分かってもらえなくても、いつか分かってもらえるまで話し合おう。こんな気持ちでいられるのは、間違いなく隣で支えてくれている少女のお陰だ。心の中で感謝の言葉を呟く。
「・・・戦場で、お前の舞を見た」
嵐蔵の言葉にアルトは少し驚いた。先の大戦、フロンティアの、銀河の危機。パイロットとして戦ったあの時のことを父が見ていたとは思っていなかったのだ。
「ああ、親父。あれだけ芸を継ぐのが嫌だと言っておきながら、
 やっぱり俺には早乙女の芸が染み付いているんだと少し可笑しくなったよ」
岐路に立たされたとき。頭に浮かんだのは”思えば花ならざりき、思わざれば花なりき”というあれほど嫌っていた筈の父の言葉だった。そして舞の型だった。
「結局の所俺は、早乙女の芸から逃げられないんだろうな」
アルトは笑いながら言う。
「・・・有人。今まですまなかった」
「え、親父?!」
まさか父の口から謝罪の言葉が出るとは思っていなかったアルトは心底驚いた。
「儂はお前に芸の全てを受け継がせることが何より正しいのだと思っていた。
 それが儂がお前に親としてできる唯一の事だと。それが最善のことだと思っていた。
 でも違っていたんだな。お前にはお前の道がある。人生がある。
 戦場でのお前の舞を見て気づいた。
 儂がお前に伝えたかったことは確かにお前の中に息づいている。
 ・・・これからはお前の思うとおりの道を歩きなさい。
 それから、今まで寂しい思いをさせてすまなかったな」
「・・・ありがとう、お父さん」
目頭が熱くなる。そう、アルトは寂しかったのだ。父に愛されていないと思い、心が凍り付いていった幼少時代。この場ではじめて己に対する父の愛を確認することができて、アルトは胸が熱くなる。
「・・・よかったね、アルトくん」
ランカがそっと囁いた。
「・・・ああ、ありがとう、ランカっ・・・」
声に涙が混じるが、誰が彼を笑うことができようか。自分自身を乗り越えた一人の男を。





「有人、これからは好きなときに帰ってきなさい。ここはお前の家なのだから」
落ち着いた頃に嵐蔵が口を開いた。
「・・・ああ、親父」
「特に用などなくても顔を見せに来てくれると嬉しい・・・そちらのお嬢さんと一緒に」
「え!わたしですか?!」
「ちょ!なんでそこでランカが出てくるんだよ!」
ランカは髪をぶわっと膨らませ驚いている。
「おや。だってアルトさん、いずれランカさんとはご結婚なさるんでしょう?
 未来の義娘に会いたいと思うのは当然のことでしょう。ね、先生」
「うむ」
「け、けけけけけけっこん?!な、なんで!」
アルトとランカは顔を真っ赤にして叫んだ。
「おや、ランカさんとはご結婚なさるつもりはないのですか?
 つまり、遊びという関係で?あまり良いこととはいえませんね」
「違うっ!遊びなんかじゃない!俺は真剣にっ」
と言いかけたところでアルトはまたしても食えない兄弟子にからかわれていることに気づいて脱力した。
「おや、アルトさん。真剣に、の続きはおっしゃらないのですか?」
「・・・こんな所では言えませんし言うつもりもありません。
 第一兄さん、どうしてそんなに俺達を結婚させたがるんだ・・・?」
矢三郎はアルトに顔を近づけ、耳打ちする。
「ふふ、私は早乙女の血筋をまだ諦めてはいないんですよ。
 ただアルトさんが早乙女の芸を継がないと先生がお認めになった以上、
 残る可能性はアルトさんのお子様、という訳で」
「こ、ここここ子供っ!」
顔を真っ赤にさせたアルトの叫びに、両手を頬に押し当ててランカも反応する。
「わ、わたしとアルトくんの・・・子供・・・。
 い、いつかそんな日がく、来るのかなぁ・・・?
 きゃーっ!」
「ほら、先生もお孫さんの顔が見たいでしょうし。これも親孝行の一つですよ、アルトさん」
「式はいつ挙げるんだ、有人。結納の儀式等手続き、費用は全部こちらで負担しますから
 ご心配はいりませんよ、ランカさん」
「え、ええ?!し、式だなんてあの、その!」
「花嫁衣裳ならアルトさんのお母様のものなんてどうです?」
「そうだな。ランカさんがお嫌でなければ是非」
「え、わたしはその嫌だなんて、そんなこと・・・」
アルトをそっちのけで話を強引に進めている父と兄弟子に、アルトは吼えた。

「お前らいい加減にしろぉー!!!」



ここまで読んでくださった方ありがとうございます。
アルランとアルトパパンと矢三郎兄さんを絡めた話が書きたかったのですが、
書いてみたらアルトとアルトパパンの和解がメインでアルランはそれなんてオマケ?みたいな感じになっちゃいました。あとアルトパパン書くの難しかったです。口調とか全然分からないし、書いている人の人生経験が足りないものだから台詞喋らせてもなんかしっくりきませんよパパン。
あとこれの続きの100%アルラン話も書いてみましたのでそちらもよろしければどうぞv
アルトの里帰り おまけ

まる

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