リリカル龍騎1話

第一話『戦の始まり』
H14.1.31 PM5:00 路地

 その日、佐野満は落ち込んでいた。勤めていた警備員のアルバイトをクビになったからだ。
「クソッ、何なんだよ…何で俺がクビになんなきゃ…」
 彼は怒り、そして嘆いていた。これで収入源は無い。自らの生活手段が立たれたも同然なのだから…
 ライダーの戦いの創始者、神崎士郎が彼の前に現れたのは、正にその時だった。
「落ち込んでいるようだな」
 どこからか聞こえた声に気づいた佐野は、辺りを見回す。だが、周りには誰もいない。
 気のせいかと思い岐路につこうとしたそのときに気付いた。いなかったはずの場所に神崎が『いた』のだ。
「何だよあんたは。俺は見ての通り落ち込んでるんだよ」
「お前にチャンスを与えに来た」

同日 PM7:00 佐野のアパート

「仮面ライダー、か」
 佐野は自分の住むアパートで神崎の言葉を思い返し、受け取った四角形の物体を見ていた。
 あの時にカードデッキの事、ミラーワールドの事、そしてライダーの宿命の事を聞いたのだが、今の時点ではどうでもいいように感じられる。
「ま、いいか。今はそんな事より仕事探さないと…」
 そう言うと就職情報誌を手に取って読み、そして一件の記事が目に止まる。
『使用人募集』

H14.2.1 AM7:55 大通り

 なのはは走っていた。寝坊し、遅刻寸前になっているからである。
 フェイトやアリサ、すずかは既に学校に到着している。早い話がなのはだけ置いてけぼりにされたのである。
「うう…なんで今日に限って起きられなかったんだろう?」
 だがそんなことを言っている場合ではない。今は遅刻しないよう走るべき時だ。
「そこのお前、占ってみないか?」
「占い?…はい、じゃあお願いします」
 …哀れにも遅刻決定である。
 なのはは占い師の方へと歩いて向かい、近くにあった椅子に腰掛ける。
「それで、未来でも占ってくれるんですか?」
「ああ、それでもいい。俺の占いは当たる」
「凄い自信ですね…じゃあそれでお願いします」
「分かった」
 そう言うと占い師は数枚のコインを指で弾く。
 コイン占いという奴だろう。占いの中では比較的簡単なものだが、実力はそれこそピンからキリまで…と、話がそれた。
 そしてコインが台の上に落ち、そして止まった。
「…どうなんですか?」
「お前、何かと戦っているな?」
 言い当てられ、怯むなのは。確かに傀儡兵とも戦っているし、最近は謎の怪物とも戦っている。
「近々その戦いに、ある大きな変化が現れる」
「あの、それってどういう…」
「お前に、危機が訪れるだろう。遅くて1週間、早ければ今日にも」
「…でも、占いなんて信じなければ「俺の占いは当たる」…」
 なのはの表情が陰る。
 占い師曰く「当たる」占いで危機が訪れると言われれば無理もないだろう。
「ありがとうございました…」
「だが運命は変わらないわけじゃない。むしろ変えるべきものだ」
 それを聞き、なのはに笑顔が戻った。
「…そうですよね!」
 そう言って去ろうとするが、
「待て。占いの代金1200円だ」
「有料だったんですか?」
「商売だからな」
「…(うう…無駄な出費…)分かりました。どうぞ」
 なのはの差し出した代金を受け取る占い師。
「ところで急がなくていいのか?見たところ急ぎのようだったが…」
 そう言われてはっとする。
 そうだ、今は学校へと行く途中、それも遅刻寸前で急いでいたところだ。
 そう気づいたなのはは、大急ぎで学校へと走っていった。それも占い師のところに来た時よりさらに速く。
 よく「火事場のバカ力」とか言うが、今のなのははそれを如何なく発揮しているようだ。
 もっとも、今の時間はAM8:00であり、今から急いでも遅刻は確定だが…
 ちなみにこの後彼女は案の定遅刻して先生にこってり絞られるのだが、それはまた別の話。

同日 PM3:40 公園

 放課後、なのははいつもの友人とともに今公園にいる。
「占い?」
 月村すずかがなのはに問い返す。
「うん。今日大通りで占いをやってもらってたの」
「ははあ、なるほど。つまり遅刻寸前くらいまで寝坊して、急いでる時に占いやってもらってたから遅れたってワケね」
 それを聞いたアリサ・バニングスが茶化す。
「う…」
 それを聞いて石化し、先生に絞られたことを思い出して沈むなのは。
 心なしか、物理的にも沈んでいるように見える。
「…ま、まあまあ。そんなに落ち込まないで」
「そうそう。遅刻の一回や二回ならまだ取り返しがつくって」
 いろんな意味で沈んでいるなのはを引き上げるかのように励ます。
 やっとの事で持ち直したなのはにフェイトが聞く。
「それで、その占いって何て言ってたの?」
「それは…私に危機が訪れるって」
 そう言い終わるか終わらないかのうちに、何かの違和感を感じ取った。
 そしてその数秒後、違和感の正体を知ることになる。
「なっ…何あれ!?」
 すずかが驚き、声を上げる。
 その声に気付き、すずかの見ている方を向くと、その方向にある物…公園の池から怪物が這い出す。
 吸盤の付いた触手を持ち、頭に口が付いている。地上で動けるイカとでも言えば分かりやすいだろうか。
 一応バクラーケンという名が付いているのだが、それを知ることになるのはもう少し後の事である。
「なのは、あの怪物、もしかして例の…」
「だとしても、今までのと違う…何なの?」
 バクラーケンを前にして、なのはとフェイトはあるものを思い浮かべる。
 それは、最近現れた人を襲う怪物のことだ。
 確かにあの怪物たちは鏡のように姿が映るものから現れ、そして人を鏡に引き込む習性があるから池の水面から出てきても不思議ではない。
 だが、今まで出てきたのはヤゴのようなモンスター(シアゴーストと名付けられている)ばかりだったので、てっきりそれくらいしかいないのかと思っていた。
「…アリサちゃんとすずかちゃんは逃げて」
 冷静さを取り戻したなのはは赤い宝石を取り出し、アリサとすずかを逃がそうとする。
 何を言わんとしたかを察したフェイトも同じく金色の宝石を取り出した。
「逃げて…って、あんたたちまさか!」
「「ここは、私たちで抑えるから」」
 なのはとフェイトの声が見事にハモる。
 幸いここにはこの四人以外の人がいない。元からいた人たちも既に逃げ散った後だ。
「で、でも、あんた達を置いて行けるわけ…」
「大丈夫、負けないから。レイジングハート・エクセリオン」
「バルディッシュ・アサルト」
「「セットアップ!」」
 声とともに二人の服装が変わり、取り出した宝石も武器へと変化した。
 戦いが、始まる。

同日 PM3:42 公園

 今、実にまずい状況となっている。
「く…強い…!」
 傀儡兵やシアゴーストなんかよりもはるかに強い。二人揃って押されている。
 さらには煙幕で周りがよく見えないという状況だ。
 ここでフェイトはある事を思い出す。
(そうだ、確かこの怪物たちは人を食べることで力を増すんだ)
 それでこれ程までの力があるということは、相当数の人を食らってきたのだろう。だとしたら到底許すわけにはいかない。
 最近海鳴市で行方不明者が増えているのは、おそらくこいつの餌になったからなのだろう。
『Accel Shooter』
『Haken Saber』
 同時に攻撃魔法を仕掛けるも、どこにいるか分からず、当てずっぽうだ。
 そんなものが当たるはずも無く、バクラーケンの姿を見失う。
 そして、占いの通りとなった。煙幕が晴れたとき、バクラーケンが既になのはの後ろにいたのだ…
「あぁぁぁっ!」
 触手により、締め上げられるなのは。そして、そのなのはを連れて池の方向へと移動するバクラーケン。
(そうか…占いで言ってた危機って、この事だったんだ…)
 そんなことを思いながらも抜け出そうと必死にもがくが、なかなか触手が緩まない。
 あわやミラーワールドへと引き込まれそうになったが、突如バクラーケンが吹き飛ぶ。その衝撃でなのはも開放される。
 解放されたなのはは、何が起こったかを理解した。赤いバイクがバクラーケンを跳ね飛ばしたのだ。
そしてその赤いバイクから、なのはやフェイトがよく知る人物が二人降りてきた。
「なのは!フェイト!」
 そのバイクに乗っていた二人、アリサとすずかが二人に駆け寄る。
「二人とも、どうして…」
「置いて行けるわけ無い…って、そう言ったでしょ?」
 話を聞くと、二人は公園を出た後で助けを呼びに行っていたそうだ。
 そんな暇があるのかと疑問に思うかもしれないが、バクラーケンは既にミラーワールドへと戻っている。
 バイクを運転していた男はそれに気付くと、すぐに池の前へと走る。
「お前たちは離れていろ。あれは俺が倒す」
 なのはにとって聞き覚えのある声をしている。
「あなた…今朝の占い師さん?無茶です!普通の人が太刀打ちできる相手じゃ…」
「心配するな、ああいうのは俺の専門分野だ」
 そう言った占い師は、エイのようなレリーフが刻まれた四角い物体―そう、佐野が昨日もらったカードデッキと同じものだ―を取り出す。
 そのカードデッキを池の水面にかざすと、どこからか現れたバックルが占い師の腰に巻きつく。そして…
「変身!」
 右手を前にかざしながらそう言い、カードデッキをバックルにはめ込む。すると…彼の姿が変わった。
 簡単に言えば、銀色の仮面とピンク色の鎧をつけているような感じだ。
 占い師はなのはたちを見てうなずくと、池の水面からミラーワールドへと飛び込んでいった。
 彼の名は手塚海之。後に時空管理局によって運命を変えられることとなる仮面ライダー「ライア」である。

   次回予告
『FINALVENT』
「あれがモンスター!?」
「時空管理局のクロノ・ハラオウンだ」
「…分かった」
仮面ライダーリリカル龍騎 第二話『仮面ライダー』

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2007年06月15日(金) 17:34:23 Modified by beast0916




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