ちみっこゆーしゃ

「もう朝よ、起きなさい私の可愛いユーシャ」
小窓から入ってくる柔らかい光と体をさするようなひんやりとした風に急かされるように体を起こす。
ベットの隣にいた母親は目覚めた女の子を見つめながら笑顔を見せる。
「今日はとても大切な日。ユーシャが王様に旅立ちの許しをいただく日だったでしょ」
「…ん……ん〜…」
「まったく…どうしてこんなに甘えん坊な性格になってしまったのかしら…ほら!しゃんとしなさい」
「…はぁい」
目をこすりながらベットから這い出し、パジャマを脱いで冒険の為に用意された服に着替える。
この日のために買ってもらった片手剣、片手剣なのに腰に提げるととても重くすぐよろけてしまう。
踏み台を持ってきてタンスの上の段から薬草の入った袋を持ち出し、腰に提げる。
片手剣は背中に提げて特注で小さめに作ってもらった革の盾を手につける。
「ふぁ…」
あくびをしながら鏡を覗き込む、予定ではもう少し体が大きくなる予定だった…それなのに…。
何故か体が成長しない、父親が旅に出てから急に体が育たなくなり、それっきりだ。
背中のマントだってちゃんと調節しないと床についてしまいそうな程で、パっと見は10歳前後の外見だ。
「さ、王様に会いに行きましょうか」
「ん……」
小さな声と同時にこくりと頷いて母親の後ろをパタパタと追いかけていった。

「いらっしゃい、ここはルイーダの酒場ですよ」
「……なかまを…」
「ユーシャちゃん…ほんとに旅に出るの?お姉さんすごく心配」
「ぼくも……しんぱい」
首を横に振りながら諦めたような溜息を吐いた。
王様は大感激していた、小さな体でも勇敢に一人旅立とうとするユーシャの事を…。
本当はユーシャが弱そうだという理由で断られるのを期待していたのだが…王様はかなり興奮していた。
どうやらロリコンの気があるようで、小さなユーシャのきている服…旅人の服をスカートのようにして着ているのだが、
それを見るとじっくりと舐めるような視線でこちらを見つめ、ユーシャをうんざりとさせた。
あんなのが王様なのだからこの世界は魔王がいなくても終わったようなものだ。
「そんなちっちゃなユーシャ様には屈強な男の戦士達がいいかしら…それとも女の子の方が馴染みやすいかしら」
ユーシャは迷った。こんな小さな体に欲情するような男はあまり多くはないだろうが、それでも人見知りな性格の為あまり勇気がでない。
かといって女ばかりのパーティになったとしてもそのパーティで魔王を倒せるのかと聞かれると不安になってしまう。
……ユーシャは考えた、お小遣いでもらった50Gでお昼ごはんとジュースを買いながら考えて結局お金を全部使い果たしてしまった。
本で読んだが冒険の仲間とは物語の途中で出会うことが多いらしい、ここで出会わなくても旅に出れば会えるのではないだろうか…。
ユーシャはそう考え、ルイーダの酒場を後にするとそのまま街の外へと出かけて行った。
広い広い草原がどこまでも続き、風を遮るものがない為か風がより一層強く吹いているように感じられる。
こうして一人孤独に歩いているというのはとても心細く、自然とため息も漏れた。
歩きまわれば自然とモンスターに出くわす回数も増えるわけで、街からすぐに出た場所で疲れ果てて動けなくなってしまう。
一回戦っただけでスライムにボコボコにされ、なんとか勝ったのはいいが疲れで足が全く動かなくなってしまった。
「……はぁ……」
ため息が独りでにこぼれて、さらに虚しく感じてしまう。
空を見上げると水色の空に白い大きな雲がサラリと流れていくのが見えた。
「何をしているのかな?お嬢さん」
「…っ!?」
後ろから声をかけられ、驚いて飛び起きようとした途端に顔から地面に向かって転んでしまう。
顎を強く打ったらしく、顎を摩りながら地面にぺたりと座りこんだ状態で後ろを振り返り見上げた。
後ろに立っていたのは頭にターバンを巻いた少し年を食った感じの男で、手に長めのヒノキの棒を持っていた。
「?足をけがしているのかな?」
「……足…いたいの……」
「どれ、見せてみなさい」
男は馬に引っ張らせていた荷車から小さな袋を持ってくるとユーシャの前に座り足に手を触れる。
足をさらさらと何度か撫でた後、タオルと小さな瓶に水が入ったものを取り出し、タオルにその水を染み込ませ、それを足にかける。
すると自然と痛みや気だるさが抜けおち、ほっと息がつけるほどに足の奥から痛みが消えうせていった。
「……すごい…」
「いやぁ良かったですねぇ、お代は150Gになります」
「……」
この人、商人だったんだ…。お金の話をされてやっとそのことに気がついた。
自分の身なりを見てそれなりに金のある冒険者だと勘違いして治してくれたのだろうが…生憎お金は全くない。
ユーシャは首を左右にふるふると振りながら男の顔を見上げる。
「おかね……ない…」
「ない!?あるじゃありませんかほら、この盾とその剣で良いですよ」
「……でも…これ……」
「え?なに?あなた、泥棒するつもりなんですか?そりゃぁいけませんねぇ…」
男がにやりと笑うのを見て背筋に寒気が走り、足に力を入れると一気に立ち上がり走り出す…が、無理だった。
既に男の腕の中に捕えられ身動きが取れないままバタバタと足を動かしてもがく。
そんな必死の抵抗も虚しく商人は一発だけ頬にビンタを食らわせ、ユーシャが大人しくなり涙を浮かべるのをまたニヤニヤと笑っていた。
抗う力が抜けてへなへなと地面に座り込んでしまったユーシャの腕を縄でキツク縛りあげ、台車の上にユーシャを積み込むと馬を走らせる。
その日、ユーシャはアリアハンを一人、旅立った……。


「さてと、どうするか…奴隷として売り飛ばすにしても幼すぎるか…こういうのを好む奴もいるしな」
「……僕……どうなるの…」
「どうしましょうか、そうですね……私に奉仕をして頂きましょうか、150Gぶんなんてすぐですよ」
「……どうしたら、いい…?」
「これを、あなたの手で扱いてくれればいいですよ」
男はそう言いながらズボンをずらし、半立ちになっている男根を取り出しユーシャの前にぶらりと垂らす。
父親が幼くして出て行ったユーシャにとってそんなものを見る機会などなく、始めてみた変な物体に目を丸くさせる。
恐る恐るというよりも好奇心に背中を押されるような形でゆっくりと男根に両手を伸ばし、優しくそれを包んだ。
小さな、武器を握るには小さすぎ、ふわふわと暖かく柔らかい手に包まれ、男根がぴくりと反応を見せる。
目の前にいる娘はどう見ても歳を10超えるか超えないかというようにしか見えず、背徳感に体が震えるように思えた。
さっきのように何でも知っている風に見せかけたが、こんなに幼い娘にこんなことをさせるのは初めてだ。
長旅の緊張と疲れでたまっていたものがユーシャの手によって温められ、今にも溢れだしそうな気もした。
「そう、そのままゆっくり上下に動かすんです…」
「……?」
ユーシャは不思議そうに首をかしげながら大きく硬くなっていく男根をじっと見つめ、両手を動かしている。
男根から溢れだす液がユーシャの小さな手を濡らし、ぬるぬると気持ちの悪い感触を伝え始めたのかユーシャは顔を顰める。
「…つぶれた…」
小さな声で呟いた言葉が聞こえ、ユーシャが心配そうな目で男を見上げるようにして両手を動かし続ける。
ヌチャヌチャという水音が辺りに響くようにも聞こえ始め、男の息遣いがだんだんと多く、辛そうになっていく。
ユーシャの手の動きもかなり疲れてきたのかゆっくりと、握る力も弱まってまるで撫でられているかのようだ。
娘のような年齢の子供にされる愛撫、心配と好奇心の混ざったような表情をしながら扱き続けるユーシャ…もう限界だ。
「お、い…顔をもっと近づけて…みなさい」
「……へんなにおい……!?」
ドクン、男根が大きく震え白い液体が噴き出した。液体はユーシャの顔や髪にべったりと張り付き、ユーシャはいきなりのことに驚きを隠せない。
…液体の臭いを嗅ぎ、うぇっと吐き気を覚えながらユーシャは男の股間から生えたその器官が何なのかいまだにわからなかった。
母親は勇敢な男のような性格にそだてようとしたらしいが、その分ユーシャは甘えん坊へと変わり、知識も人並み以下になってしまった。
「はぁ…はぁ…ふぅ〜…」
「……だいじょうぶ…?」
「ありがとう、本当にしてくれるとは思っていなくてね」
荒くなった息を整えながらハンカチを取り出すとユーシャの顔についた液をきれいにぬぐっていく。
男はしばらく何かを考えるように止まっていたが、すぐにポンと手を打ってユーシャの頭を撫でた。
「あなたの名前は、なんというんです?」
「……ゆーしゃ…」
「なんと!あなたがあの……筋肉ムキムキの男だとばかり…」
「……おなまえは…?」
「私は…名乗るのも恥ずかしいのですが、商人のゼニスキと申します」
勇者だと知っていればこんなことはしなかったというような言い回しに苦笑いを浮かべながらもユーシャはほっと溜息をつく。
意外とさっきの行為は疲れるらしく、肩が少し痛くなったような気がした。だからもうこういうことはあまりしたくない。
相手はなにやら苦しいのか気持ちいいのかよくわからない表情をしていたが、ユーシャには何のメリットもなかった。
「……ぼく、いかないと…」
「待ってくださいユーシャさん、私も一緒に連れて行ってもらえませんか?」
「……やだ…」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
「……。」
こうして、ユーシャの意思に反して商人男ことゼニスキが旅に加わったのでした。


なんだかんだで二人で魔法の玉を手に入れ、旅の扉にかけられた封印を吹き飛ばす。
大きく揺れる洞窟の中で身をかがめて砂煙が消えるのを待ち、砂煙が薄らと消えたのを見て立ち上がる。
「なんだかんだで遠くまで来た感じがしますねぇ」
「……。」
ゼニスキの独り言を聞きながら洞窟の奥へと足を進めようとした時、後ろから足音が近づいてくるのに気がついた。
足を止めて振り返り暗い洞窟の中で近づいてくる足音に向かい武器を構える。
ゼニスキの手に握られている松明がパチパチと音を立て、足音と炎の音に神経を集中させる。
この洞窟に来るまでにたくさんの敵と戦い、最初の頃よりもユーシャの目には勇気というものが見えるように思えた。
「まってー!」
「…女の子の声が聞こえますぬぇ!?」
「……。」
「し、嫉妬するなんてかわい…ぅ…」
地面に倒れ込んだゼニスキを見てため息をつくと追いかけてくる足音の方へ眼を向ける。
暗闇から現れたのは水色の長い髪に杖を片手に持った自分と同じ年くらいに見える女の子。
その見た目は賢者と呼ばれる人のように見え、どこか神秘的な輝きを放っているかのようにも見えた。
「ふ〜、やっと追いついたぁ」
「……?」
「私よ、アリアハンの城の中で少しだけ出会ったでしょ」
「…おひめさま?」
「せいかい」
人差し指をピンと立ててにっこりと笑うとユーシャの体をぎゅっと抱きしめてふぅっと溜息をついた。
どうやらここまで一人で来たらしく、手や足に少しだけ擦り傷が見えてユーシャは驚いた。
「うふふ、ユーシャちゃんを見たときピンっと来たのよね、やっぱり私と同じだ」
「…?」
「体が成長してない…でしょ?私はユーシャちゃんより一つ上の17歳だけど…一緒の年齢に見える?」
「…ん…」
ユーシャがうなずくと姫様はあははっと困ったように笑みを浮かべて頬を指でポリポリと掻いた。
「私は、たぶんこれは魔王の呪だと思うのよね」
「……のろい…」
「そう!きっと倒される可能性のある人に呪いをかけてるのよ!」
姫様は手をぎゅっと握ると魔王と恐れられる者に対して怒りの表情を見せている。
「こんな体のせいでいつまでも子供扱い!私、賢者の心得だってあるっていうのにそんな扱いなのよ」
姫様の言葉はユーシャにはよくわかるような気がした。
今のところ村人からは勇者だとは思われず、行商人の父親と旅をしている子供だと思われることが多い。
その方が騒がれたりするよりはよっぽどマシだが、こんな父親の娘なんて嫌だと改めて思う。
「ということで、魔王を殺る為に私も一緒に行くことにするわ」
「…でも…」
「いいからいいから!そ・れ・に…ユーシャちゃんとこうして…いけない遊びもしちゃったりして」
「……」
「それから、私のことはケンジャって呼んでね。姫様なんて人前では呼ばない様に」
メッと人差し指を立てながらいうとケンジャはユーシャの頬に唇をつけ、にっこりと微笑んだ。
「よろしくね、ユーシャちゃん」
「……。」
ユーシャの悩みがまた一つ、増えてしまった。
(寝転がってると二人の下着が丸見えですよ…ふふふ…こんな幼い子が…)
ゼニスキは勝ち組となったことの喜びを噛み締めながら寝たふりのまま二人を見上げ続けていた。

「見ていてください、ユーシャさん、私が一発でお金を増やしてまいりましょう」
ゼニスキはそう言うとユーシャの持っている財布からかなりの額の金を抜き取り、どこかへ去って行った。
残されたのはケンジャとユーシャの二人のみ、所持金はポケットに入っていたたったの2Gしかない。
二人はロマリアの町の外門で立ち尽くしたまま夕焼けの空の下、冷たい風に吹かれて呆然としていた。
ロマリアの町はかなりの大きさをもつ城下町で、カジノまで設置されているという珍しい作りになっている。
もちろんカジノなどアリアハンやレーベにあるわけがなく、二人にとっては初めて見る不思議な場所であった。
綺麗に整えられた街並み、高そうな宿屋、美味しそうなディナー、きれいな服を着た女の人たち。
アリアハンがどれだけ田舎だったのかを嫌という程思い知らされ、それと同時にお金のない虚しさも感じた。
外も暗くなり、街はだんだんと賑やかに、多くの人が楽しそうな笑顔を浮かべて歩きまわる。
ユーシャとケンジャは宿屋の裏にあった木製のベンチに二人で腰掛け、深いため息をついた。
「あの変態…ぜったいに許さない!!」
「……ごめんなさい」
「どうしてユーシャちゃんが謝るのよ!あいつが悪いのに!」
「…ぼく、おかね渡しちゃったから…」
涙を浮かべてスカートをぎゅっと握りしめて悔しそうに震えるユーシャにケンジャは首を横に振った。
「落ち込まないの!モンスター倒せば今晩の宿代くらい稼げるから…ね?」
「…でも…」
「そうよね…問題はアイテムも武器も全部盗まれちゃったってことよね」
はぁっと溜息をついてケンジャもベンチに座り、星が見え始めた空を見上げた。
ユーシャとケンジャは村に入る前にゼニスキの台車に武器を乗せたままのんびり話をしていた。
そして、武器を台車に乗せていることを忘れたままでゼニスキ共々消えてしまい、現在の八方塞がりにつながる。
どう考えても武器なしで洞窟を抜けてアリアハンに戻ることは不可能、この辺のモンスターを素手で倒すことだって…。
ケンジャも強力な杖を持っていたからあそこまで追いかけられただけであり、レベルはユーシャと大して違いがない。
魔法を使おうにもMPが切れてもう使えないと言っているし…宿屋に泊らなければMPの回復は望めない。
「…ユーシャちゃん、裏ワザ…使おうか」
「……?裏…技…?」
「そう、えっとね…ごにょごにょ…」
「…っ!?」
「も、もちろんそれ以上はしないわよ?」
二人はごにょごにょと話し合い、顔を真っ赤にしたまま二人だけの会議が終了する。
ごくりと息をのみながら二人は立ち上がり、にぎわう街へと歩き始めた。

「お、お兄さん!その…私たち二人と…いけないこと、しませんか?」
「……しま…せんか…」
顔を赤らめながら上目使いで策士のような視線を見せるケンジャとその隣で恥ずかしそうにモジモジしているユーシャ。
ケンジャの言葉に続けて声を出すだけで顔が真っ赤に染まって涙を浮かべたような顔で大人を見上げる。
逆にケンジャは先に声をかけるだけあってどこか大人びたような表情を見せながらいたずらっぽく笑みを浮かべている。
一晩の宿代どころか武器のお金も揃えれそうだと二人は思ったが、人からお金をこんな風にとるのは良心が痛む。
「500Gなら出せるけど…」
「…口でのご奉仕だけですけど、いいですか?」
「十分!」
簡単にお客さんを捕まえることはできた。
早速宿屋の裏のベンチまで一緒にいくと男の人にはベンチに座ってもらい、二人は膝を地面について男を見上げた。
男のズボンのチャックをケンジャがゆっくりとずらし、パンツの中から硬くなったものを取り出す。
どうやら男は二人の幼い子にご奉仕してもらえると聞いただけで完全に勃起してしまっていたようだ。
「ユーシャ、あなたもやらないとだめよ」
「……うん…おねえちゃん…」
決められたセリフをユーシャは呟き、恐る恐る手を伸ばすと男のものを両手で触り、二人の顔が物に近づいていく。
そして、二人の唇が男根にくっつけられ、ゆっくりと舐めあげる作業がはじまった。
先っぽを避けるように皮を舌で舐め、袋を小さな手がふわふわと揉みほぐす。
次第に興奮し息を荒げ始めた男を見つめるようにしながら二人はペロペロと男根を舐めあげ、先っぽに同時にキスをする。
男は我慢できなくなったのか手を伸ばすと恐る恐る舐めていたユーシャの頭をつかみ、口の中に無理矢理突っ込んだ。
「うぇ!!!」
喉の奥にまで突き刺さる男根に驚きと恐怖で体を硬直させ、上下に頭を揺らしながら涙がぽろぽろとこぼれおちる。
こんな風にされるなんて話が全然違う…苦しいよ…
「お、おにいさん!?」
「ユーシャちゃん!で、でるよ!!うっ!!」
「!?おぐっ!!んんんーーーーーー!!!」
頭を両手で押さえられながら口の中で射精される。
それを口の中で受け止めた、まではよかったがそれを飲み込むようなことはできず。
口から両手に精液を吐き出しながら半ベソをかいて座り込んでしまった。
男は悪い気がしたのか500Gおいてさっさと帰って行った。

「ゆ、ユーシャ…大丈夫…?」
「……ん…平気になった…」
次の日、目をこすりながら起きてきたユーシャにケンジャは心配そうな表情で尋ねる。
だがユーシャの反応はケンジャが思っていたほど重くはなく、昨日の夜のことはやはり少しは覚悟があったようだ。
あの後泣きながらずっとうがいと歯磨きを繰り返していたユーシャは一晩経てば案外嫌な事を忘れられる性質なのかもしれない。
二人きりになった旅は今までよりかなり過酷だった。ユーシャの傷は多くなり、宿で傷を癒すことも多かったが着実に力をつけている。
二人ともがそれを理解し、ケンジャの持つ強力な魔法とユーシャの素早い攻撃と軽い受け流しはモンスターを翻弄し楽に倒せるまでに成長していた。
…そんな二人は王様に会うことも忘れ次の村カザーブへとたどり着いた。山に囲まれた場所にある小さな村で、何でも有名な武道家が住んでいたらしい。
いたらしいというのはもうこの世にはその武道家はいないらしく、長い眠りについている…ということらしい。
「会いたかったね」
「……。」
ケンジャの言葉にユーシャはこくりと無表情のまま頷きテコテコと歩いて宿屋の方へと向かっていく。
長い間一緒にいるが、ユーシャの無口なのは変わらず、たまに見せる多彩な表情はケンジャの好意をひきつけるばかりだ。
宿の予約を取り、夕方になるまでふらふらと散歩でもしようという話になり、村を歩いて回る。
特にこれといって面白みのかける村ではあるが、真ん中にある池に浮かぶ島のような場所、そこがとても綺麗だった。
その場所は小さな広場のようになっており、池のそばで水の音を聞きながらのんびりしていればすぐに日が暮れてしまいそうだ。
ユーシャはこういう静かな場所でのんびりするのが好きなのはケンジャも知っていた、だが今日はユーシャの好きな場所巡りじゃない。
教会の横の墓場、そこへと尋ねとても強かったという武道家の墓の前でケンジャは膝を折って祈りを捧げる。
「もしもう少し旅立ちが早ければ力を借りていたと思うから」
そう言いながらケンジャは残念そうに肩を落とし、ユーシャの頭をクシャリと撫で
「この人は昔、アリアハンに来たことがあって…まぁちらっと見ただけだけどね」
不思議そうな顔をしているユーシャに苦笑いを見せながら説明し、日差しに照らされて輝いて見える墓石に目を向ける。
「知ってる人が死んじゃうっていうのは、ちょっと変な感じ…」
「……ケンジャ」
はぁっと溜息をついたケンジャの横でユーシャはこくりと頷いてケンジャの名前を呼び、ケンジャがやったようにユーシャも祈りをささげた。
「あら?珍しいお客様ですね」
ふと教会の方から声が聞こえ、二人が振り向くとそこには二人よりも少しだけ身長が高く見える女性がいた。
少しだけ高く見える、そうは言っても大人から見れば十分小さく、子供のように見えてしまうが…。
長い黒色の髪を風になびかせ、まるで絵の中の人物のように美しく見えるその人を二人はお辞儀をして一歩後ろへと下がる。
その女性はやさしい笑顔を見せながら近づいてくると先ほどの墓に小さな花を供え、祈りを捧げた。
「彼はあたしを盗賊から守って死んでしまいました。あたしは…何もできず、ただ逃げていました」
小さな声で語り始めた女性の言葉に耳を傾けながらユーシャは何も言わずに墓の方へと視線を向ける。
「駆け落ちしたあたしの夫も、その時の盗賊に襲われ…命を落としてしまいました…」
「……。」
「…だからあたしは勇者さまが現れるまでにこの人のように強くなろうと誓い、今日まで鍛練してきました」
女性はそういうとゆっくりと立ち上がり、二人に向かって頭を深く下げる。
「あたしを仲間にしてください!あたしみたいに弱いのはいらないかもしれませんけど…一生懸命戦いますから!どうか…!」
「…でもさ、この人たちが守ってくれた命なのに…」
「だからこそです。だからこそ、あなた達と一緒に戦いたい」
「……いいよ」
ユーシャは頷くと女性が仲間にはいることをあっさりと認めてしまい、ケンジャは驚きの表情を隠せない。
「ユーシャ?」
「…一緒の目、してたから」
ケンジャはユーシャの言葉に首をかしげ、その女性が本当に戦えるのかも知らないうちに決めていいのかと不安を隠せない。
もし途中で死んでしまうことがあっても責任をとることはできないし、守りながら戦うなんてことできはしない。
「私の名前はブドーカ…。」
何か言いたそうにしていたが、自分の名前を言った後に頷いて妙に納得したような表情を見せる。
その表情になんとなく不安を覚えながらもケンジャとユーシャは自らの名前を名乗り、互いに不安を残したまま解散することになった。
2008年12月27日(土) 20:02:30 Modified by test66test




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