ムーンブルク×悪魔神官5

 夢を見ていた。
子供の頃の、まだ三人が互いの立場など知りもしなかったあの頃の。
ぼく、カイン、そしてナナ……。
あの頃は楽しかった。毎日が大好きなモノに溢れていて。稽古事は嫌いだった
し、普通の子供達よりは面倒な事もたくさんあったけれど、周りの大人達は一
身にぼくを愛してくれた。
三人で、泥だらけになって遊ぶ毎日。
あぁ、ナナがぼくの頭にシロツメクサの冠を乗せてくれる……。
あの頃は君は、おしゃまって言葉が良く似合うやんちゃな子供だった。
膝を出して、男の子みたいに走った。
いつだって、三人一緒。
でも、再会してからのぼく達は、少し違う。
二人と、一人。
二人の男と、可愛い女の子。
君はおしゃまなんて言えなくなっていた。
カインはお転婆なんて言うけれど。
あのころをそのままに、大人になっていた。
でも、もうあの頃の君じゃない。
いや、変わったのはぼくの方なんだろうか。
君がわんわんと声をあげて泣いたとき、昔はあんなに素直に抱きしめることが
できたのに。
今は、かける言葉にさえ戸惑う。
あの頃から、君が好きだった。そして今でも。

ぼくがどんなに君を好きか……。
君は知らない。

「あぁ……」
また昔の夢だ。
うろんな頭で確認して、僕はころりと寝返りを打った。
いくら野営に慣れても、地べたに毛布一枚じゃ、どうしても背中は痛む。
そういえば、最近昔の夢を見ることが増えた。
あの頃に帰りたいのかもしれない。
告げられない想いを抱えて側に居る今よりは、男でも女でもなかった、子供の
頃に戻れたら……。
火の番をしていたカインが、小さく寝息をたてている。

無理も無い。今日は深い森の中を一日歩き通しだった。
ナナを起こさぬように、そっと毛布を抜け出すと、ぼくは静かにカ
インの肩を揺さぶった。
「カイン、無理しないで。今日はもうぼくが代わるから」
余程疲れているのか、起きる気配がない。普段なら近づいただけでも目を覚
ますのに。
そっと荷物からカインの毛布を取り出し、肩からかけてやる。
「お疲れ様、カイン」
楽な姿勢で寝られればそれに越したことはないのだけれど、無理に起こすの
も気が引ける。
乾いた小枝を消えかけていた火に放り、ぼくは水筒の水をぐびりとあおった。
不意に違和感を感じて、辺りを見回す。
なんの匂いだろう。
腐臭というか、毒の沼地に漂うあの邪気に近い何かがぼくの鼻を刺す。
この辺りに腐った死体でも出るのかもしれない。
奴らは群れを成す。魔除けの香に邪魔されて、近づけずに遠巻きにぼくらを狙
っているのだとしたら?
それよりも、魔除けも効かないほどの上位の魔物だとしたら、尚始末が悪い。
二人を起こしたほうがいいだろうか。
眠りにつく直前まで、森の息吹に包まれていたというのに。
風向きが変わって近くの沼から匂いがやってくるだけかもしれないけれど。
そういえばナナは魔術師としての素養なのか、周囲の気配に敏感だ。起こ
して意見を聞いてみるのもいいだろう。
「ナナ……?」
夜営の時は、彼女に気を使って僕ら二人は少し離れて横になる。
普段どうり、今日も少し離れた所に彼女の敷布が見えた。
そして、毛布、荷物……あれ?
ナナの姿がそこには無かった。
彼女が愛用するいかずちの杖も見当たらない。
用でも足しに行ったのか。それなら特に問題も無いだろう。
だが、もしもぼくと同じ、何かを感じて辺りを探りに出たとしたら!?
彼女は強いけれど、それも魔術あってのこと。接近戦にはひどくもろい。
僕は光の剣を引っつかんで、慎重に駆け出した。
月明かりは木々の隙間から僅かに差し込んでくる。
昔ならいざ知らず、旅慣れた今となっては夜目も利くようになった。

木の根に足をとられぬよう、いくらか進んだ先に、ぼくは明りを見つけ
た。松明の火なら揺らぐ、魔術の明りは揺らがない。それは間違いなく
魔術の光だった。
ナナかもしれない。ろくに音も聞こえないところを見ると、魔物ではな
かったのかもしれない。
だとしたら、明りを目指すほどに強くなるこの腐臭はなんだっていうの
だろう?
気配を殺し、木々に紛れて、ぼくは慎重に距離を詰めた。
声をあげれば届く距離まで近づいて、様子を窺う。
そして木の幹からそっと顔を出した。

「ほら、また大きくなったわ」

ナナ……?

「あたしのお口、ちゃんと気持ちよかったのね」

何をしてるんだ?

「きゃっ、もうっ次はあたしが上になるって言ったのにぃ!」

何が起きているのか、ぼくにはわからなかった。
眩しいほどの白い肌がくねる。
隆々とした剛直に、小さく口付けて……。
胡坐をかいたそいつの上に、彼女はゆっくりと腰を降ろした。

「あ……やっぱりこれ気持ち良い」
ふるりと身を震わせ、胸板に額を付ける。
「男の人って、何度も何度もできるものじゃないんでしょ?」
長い足をそいつの腰に絡めて、ナナはゆるゆると腰を動かし始めた。

なんで……。
なんでナナが……。
魔物と交わっているのだろう。

そう、それは間違いなく魔物とナナとの交わりだった。
男の背中には蝙蝠のような皮膜の羽。全身は鱗に覆われ、頭部は豹。
尾は蛇だ。

ナナは甘い吐息を漏らしながら、魔物の胸元に舌を這わせている。
ゆっくりと舐め上げ、一点を執拗になぶり始める。
「あははっ、さきっぽがからくなっらわよ。つんってひてゆ……」
静寂の中、喘ぎ混じりに彼女の舌が踊る。
魔物は、満足そうにそんなナナの頭を優しく撫でて、言った。
「ナナ、今度はもっとゆっくりと楽しもうか」
「うん、ナナのおしり、たくさん可愛がって?」
胸元から口を離し、魔物を見上げてナナは応えた。そしてそいつの頬に
手を添えると、そちらに舌を伸ばしてゆく。
魔物もそれがどういう意味なのか心得ているらしく、すぐさま舌を伸ば
し始めた。
触れる舌先……。
見詰め合うままに舌だけがくちゅくちゅと絡み合い、魔物の胸元に、どち
らのものとも言えない唾液が一滴こぼれた。
「あっ……」
ナナが見ていて欲しいと言わんばかりに、上目遣いでそれを舐め取る。
「激しいのもいいけど、ゆっくりするのも素敵ね」
普段の彼女からは想像もできない仕草、声。
ぼくは、まだ夢を見ているのか?
ありえない。こんなことありえない。
魔物の魔術に操られているのか?
どちらにしても、はっきりとひとつだけ言える事がある。
彼女は自ら望んで彼と交わっている。
「シドー様シドー様、わたしのおしりをもっともっといやらしくしてくだ
さい。カレのおちんちんも、もっともっといやらしくしてください」
今なんて……?
「きゅって締め付けます。カレがたくさん気持ちよくなれるように、たく
さんきゅって締め付けます。ですからカレのおちんちんから、あったかい
子種がたくさんびゅぅって出ますように♪」
まるで、小さな女の子が父親にお菓子をねだるような口調……。
「ふふふっ、これできっとたくさん子種が出るわねっ」

頭がくらくらする。腐臭が強くて吐き気が抑えきれない。
あぁ、そうか、この腐臭はあの魔物から……。
ナナはなんで平気なんだろう。
そんなことよりナナを止めなくちゃ。
そうだよ、ぼうっとしてる場合じゃない。止めなくちゃダメじゃないか。
ナナが危ないんだ。だって相手は魔物なんだぞ。でもあのナナはひょっと
して偽者なんじゃ。いや、たぶんあれは本物。信じたくないけどたぶんあ
れはほんもの。わなだったらどうするとにかくとめなくちゃとめてからそ
のさきはかんがえればたとえわなだってぼくはかまわないとめなくちゃ

とめられるのか?

とめて?

もしも……。

あれがほんもののナナだったら?

もしもあれがナナののぞんだことなら?

みてみろよ。

あんなにきもちよさそうにこしをふってる。

あぁ。

しりだ。

しりのあなでつながっているんだ。

きづかなかった。

「ねぇっ、アルハド。このまま達しそうなままでいたら、あたまがおか
ひくなっひゃうっ!」
「まだだよナナ。もっともっと気持ちよくしてあげる」
「あはっ、でもそれもいいかも……あたまおかひくなるのもいいかもっ。
あぁんもうっ、こんなにきもちいいことされて、くせになったらどーす
るのよぅっ!」
いやだ。
「何度でもしてあげるよ。ナナが望むなら」
見たくない。
「んぅぅぅぅぅ……らめらもん。あたひもどれなくらっひゃうもん」
聞きたくない。
「ねぇっ、アルハドっ、らからあっつい子種びゅーしてっ。あたしのお
しりにびゅーってしてよぉ」
なのに……。
「ナナ、ひょっとしてそれは子種が欲しいだけなんじゃ」
どうして……。
「そんらことないよっ。子種はらいしゅきだけど……うん、子種しゅきっ
おしりにだされるとぞくぞくってするの。ふぁっ、でもでもおくちにださ
れるのもスキっ。いやらしいからスキ♪」
ぼくの体は動かない?
「アルハドっアルハドっ、子種びゅぅってされると思ったら、もうダメな
の、たっしそうらのっ、たっしてもいいよねっ。ねっ、アレして。たっし
ながらぐりぐりしてっ、あれしゅきなのっあれすっごくきもちいいのっ!」
二人の動きはゆっくりと激しさを増していく。
「ごめんねっアルハド。先に達しちゃってごめんねっ、でももう我慢できな
いの達したいのっ!」
「じゃあほら、さっき教えたみたいに……」
「うん、うんっ言うよっ。聞いててねっ、ちゃんと聞いててね!」
ナナが愛しげに魔物にしがみつく。

「シドー様、ナナは達しますっ、カレのおちんちんれたっしまひゅ。きもち
いいれすシドーさまとってもきもちーれすシドーさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
きもちいいよぉ、おひりさいこぅなのぉ、禁忌とかもうどうでもいいのぉぉ
ぉぉぉぉぉぉぉ!」
「どうでもいい?」
「うんっ、どうでもいいっ、こんなきもちいいことやめられないもんったっ
しながらおちんちんぐりぐりさいこうですシドーさまぁ♪」
「ふふっ、それじゃあ私もそろそろ出しますよ?」
「きゃはっ、出るの、子種出ちゃうのっ。いいわよ、出して出しておもいっ
きり出してよんかいめのこだねナナのおしりどろどろにしてっ達してるナナ
のおしりにあっついどろどろらしてぇぇぇぇぇぇ!」
あぁ……出ている。
魔物の子種が、ナナの尻に注がれている。
「素敵素敵ぃっ、こだねあっついのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
やがて、ぐったりとする二人は、ゆっくりと唇を押し付けあって動かなくな
った。

ぼくは、最後までそれをじっと見ていた。

何も、できないままで。
2013年05月24日(金) 00:21:02 Modified by moulinglacia




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