決戦の前夜に

「明日。デスピサロを倒す」
導かれし者たちの前で、勇者が言い放った。
「昼までには準備を整え、あとは自由解散だ。明日の夜明けまでには各々戻ってきてくれ」
明日死地へと赴く彼らと自分のために、勇者は皆に一日限りの自由を与えた。
ある者は家族のもとへ、ある者は肉親の眠る生まれ育った村へ、
そしてある者は全てを奪われ滅ぼされた故郷へ。
それぞれの思いを胸に、一同は散っていく。

高い窓から夕日の差すサントハイム城は美しく、
人気が無い事を除いては旅立つ以前そのものだった。
城内には緑と色とりどりの花が咲き乱れ、
揺らめく水は夕日を煌かせていた。
空の玉座を前に、サントハイムの姫がひとり呟く。
「お父様・・・。私、必ず・・・」
その先の言葉は、嗚咽でかき消された。
暫く心を落ち着かせ、階段を上る。
自室へ向かう靴の響き。己の孤独と不安に、少女は気がつく。
幾度となく蹴り破った壁はぽっかりと穴を開けたまま風を通していた。
今は飛び降りる気になれなくて、来た道を引き返した。

同じ頃、城下町の教会にいた藍色の髪の若き神官は、
慈愛の微笑みを浮かべた女神像を見上げ、思いを馳せる。
あの日、階上からの大きな音を聞きつけ
ブライと共にアリーナの部屋に駆けつけたこと。
そして迷いを振り切り姫を守るために旅立ったこと。
明日、命を賭した決戦が待っている。
後悔はしていない。

サランの町は、何事も無かったかのように人たちが過ごしていた。
城の事については触れないようにしているのかもしれない。
普段はあまり信仰を深めることがないアリーナも、足は自然と教会へと向く。
重い扉を開くと、見慣れた姿がそこにあった。
跪き、手を組んで一心に祈りを捧げているクリフトの後姿に、
アリーナは話しかけることができなかった。

どれくらい立ち尽くしていたのだろう。
顔を上げ、ゆっくりと立ち上った誠実な神官に向かって、
アリーナはその名を静かに呼んだ。
クリフトが振り返る。
「姫様も、ここにいらしたのですね」
「うん・・・お父様を近くに感じられる場所にいたくて。
 さっきまでお城にいたんだけど、あまりに閑散としてて」
解散してから大した時間は経っていないはずなのに
久しく会っていなかったかのような感覚にとらわれながら、クリフトを見る。
「サランはクリフトが育った場所なのよね」
「はい」
この地で幼少時代を過ごしたという神官は多くを語らなかった。
「少し町を歩かない?」
「はい、御一緒いたします」

薄暗くなってきたサランの町に、マローニの歌声が響く。
歩幅をアリーナに合わせ、クリフトはゆっくりと歩いていた。
「私ね、最近怖い夢を見るの。
 恐ろしい化け物に身を引き裂かれたり、身体を焼かれたりするの。
 サントハイムの血を恨んだりもしたわ。お父様も予知夢を見たと聞いたから」
おてんばと呼ばれた姫を、神官は何も言わず見つめていた。
「・・・・・・。そういえばブライは一緒じゃなかったの?」
「はい、ブライ様はエンドールに泊まると仰っていました」
「ブライはああ見えて楽観的なのよね・・・」
笑顔を作り月を仰ぐアリーナのために、クリフトが足を止める。
いつもこうして自分に合わせてくれる神官の優しさは、
明日前線で戦う姫の心を暖めていった。

家臣のクリフトは姫を気遣い、サランにて宿を共にすることにした。
宿の部屋の窓に切り取られた夜空には、星たちが瞬いていた。
アリーナはまた、独りになった。
人気のないサントハイム城を思い出し、身を震わせる。
壁を隔てた隣にクリフトがいる。
それが彼女の孤独を癒すのか、淋しさを際立たせるのかは、アリーナにはまだわからなかった。
明るい色の服を脱ぎ、シルクの丈の長い寝衣に袖を通す。
その滑らかな感触に、生きているのが今日で最後かもしれないという思いが脳裏をかすめると、
アリーナはこれから眠ることにうっすらとした恐怖を覚えた。

ベッドに横たわり、ただじっとしている。
窓から見える星たちはやがてその位置を変えていった。
そうしてどれくらいの時間が経ったのだろう。
壁の向こうから物音を感じ取ると、アリーナは急に独りが怖くなった。
毛布をあけベッドから降り、静かな足取りで部屋を出た。

隣室では一人の男がその気配に頭をもたげる。
ノックも無しにドアノブが回されていた。
扉が開き、少女は黙ったまま部屋に忍び込むと、
後ろ手に扉を静かに閉めた。
微弱なランプの灯りが、シルクの夜着をまとったアリーナの姿を浮かび上がらせる。
ベッドの上で壁に背中を預けて座っていたクリフトは、
「姫様・・・」
とだけ口にすると、すぐに視線を落とした。
「眠れなくて。明日が来るのが、怖いんだ」
黙りこんだままぴくりとも動かない神官に、姫は続ける。
「クリフトと一緒に・・・居たくて、」
なりません、とその言葉は遮られた。
ランプの灯りが微かに揺れる。
「どうして」
その答えを幾度もためらいながら、クリフトはようやく口を開いた。
「先ほどからずっと・・・姫様の事を考えておりました。
 明日が怖いのは、私も同じなのです。
 そして共に時間を過ごしたい事を望んでいるのも」
「じゃあ、どうして? どうして一緒に居たら駄目なの?」
「それは・・・、」
言い掛けたまま、クリフトは言葉を詰まらせている。
「教えて」
彼の気持ちを察することなく、先に言葉が出た。
「決して考えてはならない事を・・・考えてしまうからです」
うなだれ、手で顔を覆うとクリフトは大きな溜息を吐いた。
それは己に失望しているかのようにも見えた。
そのまま、クリフトは想いを吐き出した。
「あなたを抱きたい、と」

どのくらいの沈黙があったのだろう。
やがてベッドが軋む音が聞こえると、クリフトがハッとした。
息遣いさえわかるほど近くに、アリーナがいた。
「クリフト・・・、今は姫とか神官とか、そんな事忘れて欲しいの。
 明日になるまで、ずっと一緒にいて・・・?」
甘く優しい言葉に惹き付けられる。
その頬に触れられ、彼は理性を手放した。


想いのままにアリーナを抱き締め、口付ける。
背中に細い腕が回されると、アリーナの身体を支え横たわらせる。
アリーナは静かに目を閉じた。
己の身体を重ね、その瞼にキスをしてから、再びアリーナに唇を重ねる。
その小さくふわりと柔らかな唇は、幾度となくクリフトを求めさせた。
シーツの上で身体を支えていたクリフトの手は、やがて情に任せ動きだす。
髪を撫で、頬を伝い、肩をなぞる。
首筋に音を立てながらキスを落とし、その指先がシルクを隔ててアリーナの胸元を這うと、
アリーナはびくんと身体を震わせた。
「っ・・・クリフト・・・」
自分の名を呼ぶ弱い声は男の欲求をさらに刺激する。
姫様、と囁くと寝衣の釦に手をかけた。
「んっ、・・・!」
首元に与えられた感触と晒されようとする肌への羞恥に、
気が張り詰めたアリーナは肩を縮め、身を捩じらせた。
そうしている間にひとつ、またひとつと釦が外されていく。
クリフトの背中に回されていた細い腕は力なくシーツの上に落とされる。
全てを外し終え、クリフトが身体を起こすと、
横たわるアリーナを真っ直ぐに見下ろした。
襟の内側に手を差し入れ、細い肩をゆっくりとなぞる。
アリーナの寝衣がはだけてゆくと、
クリフトは白く覗ける肌に吸い込まれるように目をやった。
「ん・・・」
アリーナはその視線に耐えかね目を閉じた。
胸を隠す肌衣があらわになると、クリフトは
アリーナの首に腕をまわし少しばかり身体を起こさせる。
されるがままになっているアリーナに優しく口付けると、
背中に手を滑らせ、金具の結びを解いた。
再びベッドの上に身を横たえたとき、アリーナが思わず手で胸を隠した。
「クリフト・・・私、恥ずかしいよ・・・」
飲み込むような言葉を受け取ると、クリフトは自分の寝衣に手をかけ、床に脱ぎ捨てた。
「これで・・・よろしいですか」
アリーナは視線を逸らしたまま黙って頷いた。

緩んだ肌衣の下に指先を滑らせる。
柔らかく、なだらかな膨らみを手で覆う。
クリフトの手にすっかり収まるその膨らみには、更に柔らかな部分があった。
そこに触れると、アリーナが背を反らせた。
「んっ、んん・・・あっ、」
口を結び、耐えるように身をよじらせていたアリーナだったが、
クリフトの手がやがて胸元の小さな実を愛でるように弄ぶと、
両の唇が離れ、意識にない声を漏らした。
羞恥の想いに頬は紅く染まり、顔をしきりに動かす。
指で小さな実を愛するたび見をよじらせるその姿を、クリフトは凝視していた。
肌衣をずらし、その実を口に含む。
それは心地よいほど柔らかい。
充分に潤った舌で、ちゅぷちゅぷと音を立てながら食すと、
やがて硬い突起に変わっていった。
「はっ、はぁ・・・、んんんっ」
淫らになってゆく嬌声。
膨らみを柔らかい動きで揉む。指先で愛撫しながらも、
左右の突起を口に含み、舌先を絡め、すくいあげ、吸い上げる。
「やっ、はぁ・・・あん、くっ、クリフト・・・あっ、」
未だ身体に纏わりつく寝衣を乱し、眉をひそめ、目は快楽に身をまかせ虚ろになる。
アリーナはシーツをきゅっと握り締めた。
クリフトは顔をもたげその悦楽の表情を見届けると、
半ば開いた唇に口付けをし、その中に舌を滑り込ませた。
貪るように幾度もアリーナの唇と舌を吸い上げながら、
男の手が胸元から腰に降り、さらにその下を本能のままにまさぐった。


「あ・・・い、イヤ・・・っ」
求める行為に、アリーナが抗う。
クリフトはその声に我を戻すと、身を離し、ベッドの上で力なく横たわる少女に視線をやった。
皺だらけのシーツの上に、撒き散らされたように広がる亜麻色の髪。
赤い瞳は切なく潤み伏せられ、頬は上気し口元は緩んで濡れていた。
純白の絹で織られた丈の長い寝衣はしどけなく乱れ、
諸肌もあらわに、しかし白い腕だけは袖から抜かれることなくかろうじて通されている。
淫らな、女の身体がそこにあった。






「嫌・・・ですか」
情を抑えながらも、クリフトは静かに尋ねた。
「違う、嫌じゃないの、嫌じゃないんだけど、その・・・恥ずかしくて・・・」
アリーナが口元を押さえながら、くぐもった声を出す。
「戸惑わないで下さい。・・・私に、全てを許してください」
アリーナがこくんと頷くと、纏わりついていた絹と肌衣が脱がされ、床に落とされていった。
彼もまた、同じように全てを晒け出す。
充分に膨らみそそり勃つ男のそれを、アリーナは直視できなかった。

長い口付けが交わされる。
「んんん、んん、うぅぅ・・」
唇を塞がれたまま少女は荒く短い呼吸を繰り返す。
男は腰を、臀部を、太腿を、慈しむように撫でていった。
女の部分を隠す肌衣が形を崩しながら降ろされていく。
クリフトが探るように花弁に指を這わせると、アリーナの身体はぴくんと跳ねた。
「あっ、んんん・・・・はぁ・・・ん」
唇を開けて、高い嬌声があがると、
クリフトは更に快楽を与えようと探し当てた肉芽をなぞり続ける。
くちゅくちゅという淫らな音と、突き上げてくるような快感に、アリーナは戸惑った。
「やっ・・・、もう、やめ・・・っ」
身悶え、睫毛を濡らすが、男は行為を止めようとはせず、
黙って恥じらいの表情を伺っている。
「あっ・・・、クリフト、私・・・変になっちゃい・・・そうっ、はっ・・・くぅ、」
顎を上げ腰をくねらせながらも、初めて迫り来る絶頂に身を委ねられず、意味の無い言葉を漏らす。
「駄目だよっ、・・・んっ、くっ・・・クリフト、クリフトっ」
「姫様、どうか、私のもとへ」
クリフトが囁くと、アリーナの身体に強い快楽の波が押し寄せた。
眉をひそめ、背を反らし、胸の先端を固く尖らせる。
花弁の奥は幾度も凝縮を繰り返し、その度に蜜が溢れ出た。
絶頂に支配された肉体はびくんびくんと過敏に反応し、愛らしい声が悦を叫ぶと、
クリフトはその悩ましい表情を見届けた。


息も荒く、ベッドの上でぐったりしているアリーナは、
時折絶頂の余韻に身体をぴくんとさせている。
クリフトはそんなアリーナの美しい脚のラインを暫く撫でていたが、
やがてその膝を割り白い脚を押し広げ、
自身の先端を蜜でたっぷりと潤った場所にあてがい、腰を据えた。
アリーナが肩を縮める。
「ちょっと、怖いよ・・・」
クリフトが亜麻色の髪を優しく撫でた。
「力を緩めていてください。少しずつ、息を吐いて」
言われるままに従うアリーナに、クリフトは自身を送り込んだ。
熱せられた金属が氷を溶かしながらゆっくりと沈み込んでいくように、
クリフトは自身をアリーナの中に埋めていった。
「・・・っ」
強い異物感と、痛み。激しい鼓動。
アリーナはクリフトの首にしがみつき、息を吐き出しながら耐えていた。
可憐な声は幾度となくクリフトの名を呼ぶ。
時間をかけ、蜜をからめながら根元まで自身を埋めると、
クリフトは吸い付かれるような肉壁の感触に溜息をついた。
今すぐにでも激しく突き動かしたい衝動に駆られるが、
アリーナが肩を小さく震わせているのを目にして、堪えた。
「大丈夫、ですか」
優しい声に、アリーナが頷く。
「・・・動きます」
えっ、という声が小さく聞こえた。
姫はその行為を知らなかったのか、戸惑いの表情をしていた。
クリフトは自身をアリーナの中に深く埋め込んだまま、僅かに腰を揺らしはじめた。
「う、ううぅん・・・」
アリーナの痛みを声と表情で読み取りながら、
クリフトは少しずつ動きを大きくしてゆく。
初めて男を受け入れ、硬い肉壁を無理に押し広げられる痛みの中、
少女の中で微弱な電流のような感覚が走り、やがて駆け上がる。
噛んでいた紅い唇が緩むのを見届けると、男は腰を引き、ゆっくりと突いた。
「ああぁっ・・・クリフト、クリフト・・・!」
痛みの中に、じわじわと生まれる快感。
突かれる度に、声が漏れる。
ベッドの上で揺すぶられるアリーナが、背中に爪を立てた。

二人の吐息が絡まり、声に声が重なる。
「はぁっ・・・あん、んっ・・・クリフト・・・」
うわ言のように己の名を呼ぶアリーナをきつく抱きしめ、
更に自身を幾度も送り込んだ。
その締め付けに、すぐにでも果てそうになる。
「姫様・・・っ、もう・・・、」
クリフトの熱くたぎったそれは一瞬大きく膨らみ、どくんどくんと強く脈打った。
アリーナに精を流し込みながらも、自身は更に求め腰を動かしていた。
やがてその動きが納まり、力尽きるとアリーナはその体を受け止めた。
激しい鼓動の音を互いの肌で感じ取る。
クリフトはアリーナにキスをした。


「クリフト、あとで思いつめたりしないでね」
「・・・・・・努力は致します」

ベッドの上で、夜が更けるまでぬくもりを分け合い、二人はしばらく話をしていた。
やがてアリーナの声は途切れ、まどろみ、程なくして深い眠りにおちた。
今しがた女になったとは思えない姫の寝顔を見つめ寝息を聞くと、神官は小さく、
――愛しています、姫様。
と呟いた。

マローニの歌声はいつしか風が木々を揺らす音に変わっていた。
窓の星は静かに光を放っている。
夜は、更けてゆく。

【END】
2009年08月29日(土) 14:26:09 Modified by khiromax




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