天使×魔法使い 132@Part17

(どうしてこうなった?)
そう、魔法使いは考えながら寝がえりをうった。眠れない、眠気がない。
その原因ははっきりしている。自分の隣で眠る少女が原因だ。

セントシュタインのルイーダの酒場で今日、自分は妙な格好をした
少女に旅に誘われ二つ返事で返答してしまった。
というのもその少女はまるで天使のように美しく、仲間になりたがった野郎どもの
熱気で悶々としていた酒場で彼女に声をかけられてしまい、
嬉しかったし周囲の嫉妬に似た羨望の視線が痛く、早くその場を去りたかったからだ。
無論、彼女の仲間になれたことに後悔はない。
今日はセントシュタインの周辺のモンスターと戦いレベル上げと旅の資金集めに奔走し
皆予定通りにレベルも上がり資金もたまった。
今夜はパーティを組んだ記念に酒場で飲み会をしたのだが自己紹介で彼女は
自分の年を117歳だとか職業は「ウォルロ村の守護天使」だとか冗談を言い、場を盛り上げていた。

話を聞くに世間知らずのお嬢様といった感じだった。何のために旅をするのかと聞けば
「天使界から落っこちてしまい羽と光輪を無くしてしまったので仲間の天使を探すため」と言い出す始末。
パーティ内での彼女の呼び名は「天使」になりそうだ。
勘定するに世間知らずのお嬢様が家出をして素性を知られたくないためでっち上げたのだろう。
彼女のような美人が誰か悪い男にだまされる前に自分と出会ってよかったと思う。
うん、間違いない。

ただ、うぶな外見とは裏腹に相当酒が強いらしく天使を酔いつぶして
何かよからぬことをしようとしていた戦士は逆に一気飲み競争で酔いつぶされてベッドに送られてしまった。
そうしているうちに楽しい宴会はルイーダさんやリッカさん、
他の宿の客を巻き込んで熱気溢れる大宴会に突入し、天使に絡んでいった男どもは次々にベッド送りにされていった。
自分はパーティの男僧侶とその様子を嬉々として眺めていた。
彼女も底なしではないはず、彼女が潰れるまで他の連中に頑張ってもらおう。
そして、その後はお楽しみだ。

男3人と女1人のパーティを組んだ彼女が悪いのだ。

だが本当に彼女は本当に底なしで自分に絡んできた男達の
ほとんど全てを素面のまま返り討ちにして宴会は終わってしまう。
薔薇に棘ありのレベルではなく、屍累々のルイーダの酒場はさながら戦場のようだった。

あてが外れがっかりしたが神は俺を見捨てなかった。
そのままこの宿屋に今日は泊まることになり、二人部屋しか空いていなかったのだ。
僧侶と一悶着した後、天使との相部屋を確保できたのだが・・・・。
彼女はどうも世間知らずなだけでなく男にも疎いらしく
自分の目をあまり気にしていないようなのだ。部屋に着いた後、
自分がいるにも関わらず絹のローブに着替えたり、風呂上がりの彼女が下着姿で部屋に戻ってきたり
と思春期の自分の精神衛生上非常によろしくない事態が続いたのも眠れない原因だろう。
自分の苦悩も知らず天使は気持ちよさそうに寝息を立てている。
はっきり言って金髪碧眼の美少女の寝顔の神々しさは美人揃いのこの宿の従業員の
比ではありません。宴会のときに見た天使の笑顔とはまた違った魅力を放つその顔を見るだけで
独占欲だとか支配欲とかいった邪な感情が次々に溢れてくる。
そんなよからぬ事を考えていたのだが、いざ彼女のような少女を目の前にするとそれを実行するのは良心と
純白を汚す罪悪感が許さなかった。
がんばれ、耐えろよ俺。

そうしてベッドの中で孤独な戦いをしていると布のすれる音が聞こえ、
天使のベッドを見ると布団がめくれていた。彼女が寝返りをうったときにめくれてしまったようだ。
このままでは天使が風邪を引いてしまうだろう、天使に近づく名分ができた。

自分の鼓動が少し速くなるのを感じながら布団から起き上がり慎重に動く。
音を立てるだけで、声を出すだけで全てが終わるような気がした。

そうして彼女のベッドへたどり着き、めくれた布団を少女にかぶせる。
ミッションコンプリート!直ちに自分のベッドへ戻れ。
だが、次の瞬間また彼女は寝返りをうち布団が乱れる。
彼女は寝相が悪いのだ、このままではいけない。天使に風邪を引かせないためにどうすればいいか
思考するとあるとんでもない考えが浮かぶ。


自分が彼女を抱いて眠ればいい――――。


この案は理性がすぐに「正気じゃない」という評価を下す。しかし・・・・。

しばしの葛藤の後、魔法使いの中で「天使に風邪を引かせないためだから許される」
という明らかに××な結論が下されてしまう。

「もう、どうなってもいい」そんな感情が彼を支配していた。

布団をめくると天使の体が露になる。
細くて白い脚、かなり大きめのバスト、乱れた金の長髪、静かな夜だからこそ聴こえる少女の小さな寝息、
どれをとっても完璧だ。男を惑わす罪作りな少女が悪いのだ。

俺は悪くない。

自分の鼓動が痛いほど大きくなる。そっと天使の背中と太股の下に手を差し込み腕を滑り入れ、慎重に彼女を持ち上げる。
柔らかな女の子の身体に自分の指や腕が食い込み、その感触だけで頭がくらくらする。
さらに彼女の着る絹のローブがずれ、胸元と股から黄色い下着が覗く。

全身にゾクゾクとしたものが流れ、熱いような痒いような感触が彼を支配する。
ゆっくりとできる限りの理性で自分を抑えながら天使を起こさないように抱きかかえ自分のベッドに彼女を運ぶ。
天使は長身にもかかわらず意外と軽い。

1メートルも離れていない自分のベッドにゆっくりと慎重に彼女を降ろし布団をかぶせる。
そして、自分もベッドの中にもぐり込んだ。女の子特有の甘く、美味しそうな香りが鼻いっぱいに広がり
これから彼女と触れ合うと思うと全てがどうでもよくなる。

天使の後頭部に腕を差し入れ彼女の枕代わりにした。まるで事後のようだと彼は妄想し、悦に浸る。
だが、次の瞬間天使は魔法使いの方に寝返りを打ち彼女の顔が自分の顔の前に接近する。

「ぎゃあ!?」という言葉にならない叫びが彼の心の中で響く。
しばしの焦燥のあと天使が寝返りをうっただけとわかり安堵する。
こんな不意打ちは反則だ、彼は恐怖と焦りで身動き一つ取れなくなった。

しかし、その恐怖と焦りは興奮へと変わる。天使の肌理細やかでしみひとつない白い肌、完璧な配置の顔。
目の前に珠玉の宝が転がっているのだ。

欲しい、抱きしめたい、口付けを交わしたい、そんな欲望が絶え間なく湧き上がる。
天使の背中に腕を回し優しく抱きしめる。彼女の体が自分の体の上に乗り、重なりあう。

しかし、興奮が最高潮に達し理性を凌駕する直前それらは全てリセットされる。

「・・・・お父さん。」

その言葉と同時に彼女は彼の体を抱きしめる。彼女の切ない声が魔法使いの理性を呼び戻す。
家族の夢を天使はみているのだ。興奮が一瞬で鎮まってしまう。
彼女は家族と離ればなれになってしまい悲しいと言っていた。
そんな不安な中、自分を信頼し仲間に誘ってくれたのだ。罪悪感で心が満ちる。

「信頼を裏切るのは最大の罪」と母が旅に出る前に自分に教えてくれた。
天使と自分は仲間なのだ。信頼には信頼で応えなくてはいけない。
愛しいならばその存在の盾となり守らなくてはならない。自分に何度も言い聞かせる。

魔法使いはそうしているうちに急に眠気を感じる。いつもより疲れた気がする。
彼女を元のベッドに戻して早く眠ろう・・・。そう魔法使いは思ったが天使に抱きしめられ動けない。

先ほどまで気付かなかったが彼女の柔らかで温かい感触は心地よく、さしずめ人間抱き枕といったところだ。
女の子って柔らかいんだな・・・。
誰かと同じ布団で眠るのは何年ぶりだろうか、人肌の温もりがこんなに心地よいとは・・・・。

そうしているうちに情動に任されず行動できた安心感と
人肌の心地よさが心に満ち、魔法使いは眠りの淵に浸っていった。

「う・・・んッ・・・。」
心地よい眠りが終わり天使は名残惜しく目を開いた。
布団の中は温かく、思い出すことはできないが何だかいい夢を見た気がする。
体を動かすと柔らかな布団の中で違和感があることに気づく。
布団とは明らかに違う感触が伝わる。

昨日仲間になった魔法使いが自分の下敷きになっていた。
驚いて体を起こし辺りを見回すと隣のベッドに自分の服と荷物が置いてある。
どうやら昨夜、間違えて彼のベッドに入りこんでしまったらしい。

「あ・・・・。」
下のほうから声がするので見ると魔法使いと目が合う。
自分の動きで魔法使いも目を覚ましてしまったようだ。彼と見つめあうと何だか気まずい。

「いや・・・・あの・・・これは!」
彼は何故か慌てている。間違えて布団に入ったのは私なのに、謝らなくては。

「ごめんなさい。こんな、上にのっちゃって。」

その言葉に魔法使いは安堵の表情を見せる。
「え・・・?・・・・別にいいよ。」

「勝手に貴方の布団に入りこんじゃうなんて・・・。」
謝った後、今度は羞恥の感情が湧き天使は魔法使いから目を逸らす。

「いや、いいよ。とってもよく眠れたし・・・。」
彼の言葉に少し羞恥の感情が薄まる。よく眠れたのは彼も同じだったのだ。

「そう、よかった。」
そういうと天使は魔法使いの上に乗ったまま体を起こして背を伸ばして首をコキコキ鳴らす。
お願いだから止めて、魔法使いは心の中で哀願する。
そうやって天使が体を捻るたびに彼女の体の輪郭が表れて変な気分になるからだ。
彼女は立ちあがるとベッドから出て行ってしまい布団には天使の温もりが残るだけになる。

魔法使いは名残惜しいだけではなく喪失感すら感じていた。

「でも一緒に寝るのも悪くないわね。」
彼が一緒に寝てくれたからだろうか、今日は天使界から落ちて以来久しぶりによく眠れた。

「あの・・・ね、私・・・家族とずっと離ればなれで少し寂しいの・・・。」
一呼吸おいて魔法使いの目を見る。子供のようなことを言っても彼は呆れないだろうか。
少し躊躇しながら天使は言う。

「また、今みたいに貴方と同じベッドで寝ていい?」
天使のその言葉の数秒の後、ブシュッという音とともに紅い鮮血が宙を舞う。
魔法使いは鼻血を噴きながら放物線を描きベッドに倒れこんでしまった。

「きゃあ――――!?」
天使の悲鳴が部屋にこだまする・・・・・・。




「魔法使い――。」
誰かが自分を呼ぶ声が聞こえる。返事をしなくては・・・・。
だが、体が上手く動かない。

「魔法使い――。」
また、自分を呼ぶ声が聞こえる。次第に意識が戻る中、
自分の頬を撫でるものを反射的に手が掴むのを感じる。意識を集中し身体に「目を開け!」と指令を出す。
重いまぶたが開き目に飛び込んできたのは少女の顔だった。

「良かった。大丈夫みたいね。」
自分を覗き込む天使の顔が笑顔に変わる。

「あー・・・・うん。大丈夫。」
昨日のベッドの中よりも彼女の顔は近い。恋人同士の距離だよ、これは。
顔を上げるとみると自分はベッドの上で天使に膝枕してもらっていたのだ。

「一体どうしたの?」
貴方が可愛すぎるからです、とは言えない。
「昨日、飲みすぎたせいだと思う。」
とっさに理由をでっち上げる。
「あっ・・・ごめんね。昨日はあんなにつきあわせちゃったから・・・・。」
「いや、いいよボクは昨日少し疲れてたから・・・・。」
天使はすまなそうに膝に乗る魔法使いの頭を撫で始めた。心地よい感覚に身悶えながら彼は先ほどの彼女の問いを思い出す。
「あの・・・・天使。」
「なぁに?」
「さっきの一緒に寝るってはなしだけど・・・・いいよ。一緒に・・・・。」

そういうと彼女の顔は輝くような笑顔を放つ。
「ありがとう。」
その笑顔は彼の心を照らし、目からは涙すら溢れさせる。魔法使いは暖かい光に包まれ全てが満ち足りた。
(天使のためなら・・・・俺は・・・・。)

魔法使いは天使に恋をする。
2013年08月07日(水) 21:54:01 Modified by moulinglacia




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