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丸刈り校則について、地方裁判所による法的判断が下された事例。

事件の全容

熊本県玉名郡の玉東(ぎょくとう)町にある玉東町立玉東中学校に1981年に入学していた男子生徒が、丸刈り校則を拒否した髪型で登校していた。丸刈り指導拒否を理由として体罰はなかったし、教師の直接的説得はなかったが、全校集会で校長が批判し、同級生が嫌がらせをするという事態になった。
中学生とその両親が、丸刈り校則の無効確認その他の手続きを学校長に求め、慰謝料を玉東町側に求めて、1983年に熊本地方裁判所に提訴する。
裁判は長引き、男子生徒が中学校を卒業し、高校2年生になったとき、原告敗訴の判決が下る。

判決の朝日新聞報道1985年11月13日(原告の実名を改変)

ウィキ主の判断により、原告の実名を出さないこととする。

「表現の自由違反しない、教育上の効果は疑問」 中学生の訴え棄却

中学校が校則で男子生徒に丸刈りを強制するのは基本的人権を侵害し、憲法違反だ、として熊本県玉名郡玉東町の、私立高校2年K君(17)が、同町立玉東中に在学中、両親とともに、同中学の校長と町を相手取り、全国でも初めての校則無効確認と慰謝料10万円を求めた「丸刈り訴訟」の判決言い渡しが、13日午前10時から熊本地裁民事3部であった。土屋重雄裁判長は「本校則は法の下の平等を定めた憲法14条、表現の自由を定めた同21条に違反しない。教育上の効果に疑問の余地はあるが、著しく不合理だとはいえない」と、校長、町側の主張を結論的に認め、原告の訴えを退けた。判決は、校則による生徒管理強化を法律面から追認したわけで、教育現場に与える影響は大きい。原告はK君と両親の石灰販売業Mさん(52)、Sさん(48)。校則無効確認では親子3人で校長を、慰謝料請求ではK君1人が町を訴えていた。
土屋裁判長はまず、校則無効確認請求について、K君が昨年3月に同中学を卒業したことを理由に「原告らはいずれも原告適格あるいは訴えの利益はない」と却下した。
続いて町に対する慰謝料請求について、前提になっている丸刈り校則の適法性を判断した。この中で、原告が「丸刈りは地域によって強制する中学と自由な中学があったり、男子だけに強制されるから、法の下の平等に違反する」とした点につき、「校則は各中学において独自に判断して定められるべきだから、それによって差別的取り扱いを受けたとしても合理的な差別。男性と女性とでは髪形について異なる習慣があり、男女で異なる規定をおいたとしても合理的な差別で憲法14条に違反しない」とした。
さらに、「中学生において髪形が思想等の表現であると見られる場合は極めて希有(けう)」と憲法21条の表現の自由にも違反しないとした。
「丸刈りは不合理で、このような校則を決めるのは校長の裁量権を超え、違法」との原告主張については、「丸刈りが中学生にふさわしい髪形であるという社会的合意があるとはいえず、スポーツをするのに最適ともいえず、頭髪の規制で直ちに生徒の非行が防止されると断定されることもできない。その教育上の効果については多分に疑問の余地があるが、著しく不合理であるとは断じることができないので、校則を制定・公布したことは違法とはいえない」とした。
以上の判断から、「違法な校則によって原告が精神的苦痛を受けた」とする原告の主張を退けた。
K君は、56年4月に玉東中に入学した。しかし、同中学の「男子は頭髪を長さ1センチ以下に丸刈りする」という校則を守らず、長髪(坊ちゃん刈り)のまま通学して、同級生から「刈り上げウーマン」と書いた紙を背中に張られるなどのいじめを受け、同年12月に2週間、登校を拒否した。このため両親が、法の下の平等、表現の自由など憲法の基本的人権を根拠に、K君の名前で提訴、58年からは両親も親の教育権を理由に訴訟に加わった。K君は在学中、長髪のまま通学し、59年、熊本市内の私立高校に進学した。

原告の訴え

原告の訴えは、以下の通りである。判決では、いずれも、棄却された。

損害賠償請求

玉東町は、原告生徒に、慰謝料として金10万円を支払うこと。かつ、訴訟費用は、玉東町が負うこと

丸刈り校則無効の確認・無効確認の周知・不利益処分不行使

玉東中学校校長は丸刈り校則無効を確認すること。かつ、確認の趣旨を生徒および父兄に周知するため文書配布すること。丸刈り指導拒否を理由とした不利益処分を行わないこと。訴訟費用は、校長が追うこと

玉東中学校での丸刈り指導

判決文の記述から
1965年の開校から、中学生の丸刈りは慣行としてあった。1980年12月17日、校長は、昭和五六年度新入学予定者の保護者に対し「男子生徒の髪は一センチメートル以下、長髪禁止」という頭髪に関するきまりを記載した「中学校入学にあたつてのお願い」と題する文書を配布し、更に、1981年4月9日、校長は、「短髪・長髪禁止」を校則に定めた。校長らは本件校則の運用にあたり、身体的欠陥等があつて長髪を許可する必要があると認められる者に対してはこれを許可し、それ以外の者が違反した場合は、校則を守るよう繰り返し指導し、あくまでも指導に応じない場合は懲戒処分として訓告の措置をとることとしており、たとえ指導に従わなかつたとしてもバリカン等で強制的に丸刈にしてしまうとか、内申書の記載や学級委員の任命留保あるいはクラブ活動参加の制限といつた措置を予定していないこと、玉東中学校の教職員会議においても男子丸刈を維持していくことが確認されていることが認められた。

玉東中学校校長の主張

判決文にまとめてある玉東中学校校長の主張である。

「丸刈り校則は十分に合理性がある」と主張

判決文の記述から
被告校長は、学校教育の守備範囲を教科活動の面だけに限定することなく、服装や髪形といつた風俗にかかわる指導を含む広義の生徒指導も必要であると考えており、特に、中学生の年代はとりわけ他者志向型の傾向が強く、同輩集団の影響を受けやすいので、集団の質を高め、維持するため形式的な面での生活指導が不可欠であると認識している。
例えば、非行化は、髪形と服装の特異化という形で最も顕著に現われるので、非行化を早期に発見し防止するためには、この特異化をできるだけ早く発見する必要がある。そのために、全生徒に一律に中学生として望ましい頭髪を保たせる必要がある。ところが、「中学生として望ましい」というだけでは基準があいまいであり、適切な指導が期待できない。
そこで、明確な一定の基準を設ける必要が生じるのであるが、その場合の基準として丸刈は、教師、父兄あるいは地域の人に中学生らしい印象を与え、これらの人々との人間関係を円滑にし、質実剛健の気風を培う上でも効果的であり、衛生面で清潔である上、スポーツにも都合が良い。他方、長髪を認めれば髪形に気をとられすぎて朝の手入れに時間がかかり遅刻がふえる、授業中にも櫛を使い学習に対する注意が散漫になる、帽子を被らなくなる、自転車通学に際してヘルメツトを着用しなくなる、整髪料等の使用によつて教室内に異臭が漂うようになるといつた事態が予想される。
本件校則は、被告校長が以上の諸点を考慮した上で、本件中学創立以来の慣行として生徒、父兄及び地域住民の支持を得てきた髪形である丸刈を明文で定めたものであり、十分に合理性がある。

熊本地方裁判所は原告の訴えを棄却の根拠

熊本地方裁判所は、原告の訴えを棄却するが、丸刈り校則の合理性に疑いの余地がありとしている。

丸刈り校則の無効確認および周知・不利益処分の禁止について原告適格なし

丸刈り校則の無効確認の訴を提起する資格が、被告側にないこと。裁判が長引き、判決時には、男子生徒は高校2年生になっていた。
判決文から
無効確認の訴は、当該処分に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分を前提とする現在の法律関係に関する訴によつて目的を達することができないものに限り、提起することができるところ、原告aが昭和五九年三月本件中学を卒業したことについては当事者間に争いがなく、原告b及び同cは原告aの両親であるというにすぎず本件中学の生徒でないことはもちろんであるから、原告らが本件校則の制定、公布に続く処分を受けるおそれはないというベきである。そして、原告らは、原告aの人格権に対する侵害は同原告の卒業後も続いている、原告aの弟がおり、本件中学に昭和六一年に入学予定であるから、同人に対する人格権侵害を予防する必要があると主張するが、人格権に対する侵害については、損害賠償等現在の法律関係に関する訴によつてその目的を達成しうるし、本件中学に入学予定の原告aの弟がいることは、本件校則の無効確認を求める法律上の利益とはいえず、その他原告らに、本件校則の無効確認を求る法律上の利益があると認めるべき事情は見出せない。したがつて、原告らは、いずれも本件校則の無効確認を求める訴について原告適格あるいは訴の利益を有しないものというべきであり、原告らの本件無効確認の訴はいずれも不適法な訴として却下すべきものである。

玉東中学校の丸刈り指導は違法とはいえない

憲法第14条(法の下の平等・身分差別や男女差別の禁止)・憲法第31条(法的手続きの保障)・憲法第21条(表現の自由)には、違反しない。
憲法第14条第一項の「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」について。
可能な地域に丸刈を強制していない中学校が三校存在するから、原告aは、住居地により差別的取扱いを受けていると主張するが、服装規定等校則は各中学校において独自に判断して定められるべきものであるから、それにより差別的取扱いを受けたとしても、合理的な差別であつて、憲法一四条に違反しない。
次に原告らは、本件校則は、髪の長さについて女子生徒と、男子生徒とで異なる規定をおいているから、性別による差別であると主張するが、男性と女性とでは髪形について異なる慣習があり、いわゆる坊主刈については、男子にのみその習慣があることは公知の事実であるから、髪形につき男子生徒と女子生徒で異なる規定をおいたとしても、合理的な差別であつて、憲法第14条には違反しない。
憲法第31条の「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」について。
成立に争いのない乙第三号証及び被告校長本人尋問の結果によれば、本件校則には、本件校則に従わない場合に強制的に頭髪を切除する旨の規定はなく、かつ、本件校則に従わないからといつて強制的に切除することは予定していなかつたのであるから、右憲法違反の主張は前提を欠くものである。
憲法第21条第一項の「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」について
髪形が思想等の表現であるとは特殊な場合を除き、見ることはできず、特に中学生において髪形が思想等の表現であると見られる場合は極めて希有であるから、本件校則は、憲法二一条に違反しない。

熊本地方裁判所は、丸刈り校則の合理性に疑いの余地ありとする

判決文より
次に、本件校則の内容が著しく不合理であるか否かを検討する。確かに、原告ら主張のとおり、丸刈が、現代においてもつとも中学生にふさわしい髪形であるという社会的合意があるとはいえず、スポーツをするのに最適ともいえず、又、丸刈にしたからといつて清潔が保てるというわけでもなく、髪形に関する規制を一切しないこととすると当然に被告町の主張する本件校則を制定する目的となつた種々の弊害が生じると言いうる合理的な根拠は乏しく、又、頭髪を規制することによつて直ちに生徒の非行が防止されると断定することもできない。更に弁論の全趣旨により真正に作成されたと認められる乙第五号証、証人iの証言および原告b本人尋問の結果によれば、熊本県内の公立中学校二〇九校中長髪を許可しているのは三二校であるが、これを熊本市内に限つてみると二六校中二一校が長髪を許可しており、本件中学に隣接し、かつて本件中学の教頭であつた証人hが現に教頭として勤務している中学校においても長髪が許可されていること、最近長髪を禁止するに至つた学校が数校あるが、全体の傾向としては長髪を許可する学校が増えつつあることが認められる。してみると、本件校則の合理性については疑いを差し挾む余地のあることは否定できない。

各界からの反響

丸刈り校則を実践している中学校を多く抱えている地方自治体では、「丸刈り校則は合憲かつ合法」ということで、教育関係者から理解されていた。
法学者の多くは、この判決を批判し、かつ憲法第13条の幸福追求権が争われてない点を指摘し、「丸刈り校則は違憲」との立場を守った。
日本弁護士連合会では、その直後、丸刈り校則に関して勧告を出す方針だったが、一部強い反対意見があったので見送られた。
丸刈り校則に批判的な教育学の専門家は、「教育上の効果に疑問の余地がある」というところに注目し、学校側の対応に不利益処分がないことを確認していることに留意している。かつ丸刈り校則の運用の仕方で違法とする判決が起こりうることを示唆しているものとしている。

その後

小野中学校丸刈り校則事件での1996年2月22日の最高裁判所の判決で、当該中学校入学予定の小学生とその親の訴えを退けつつ、「丸刈り校則は単なる心得にすぎなく守る法的義務はない」ということが確認された。
日本全国レベルでは、1985年に3分の1の中学校で丸刈り校則が実施されていたが、1990年代に激減した。
熊本県では、2000年において、半数の中学校で丸刈り校則が実施されていたが、2006年で丸刈り校則全廃が実現する。
玉東町立玉東中学校は、2004年3月に、丸刈り校則を廃止する。

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