「久しぶりだね! また手合わせしてみる?」

今日の昼休みに、サラサラの髪を揺らしながらあいつが微笑んできた。
それからの話の成り行きで人気がなくなった柔道場で俺はあいつと対峙していた。

「ねぇ、悪いんだけど稽古着貸してくれない? あたしもう柔道やってないからさ。」

あいつには男子用で一番小さいサイズの胴着を貸してやることにした。
久しぶりのせいなのか帯の締め方が緩いような気がする。


あいつから言い出してきたことではあるが、やはり気が引ける。
背丈もそれほど変わらなかった小学生のときならまだしも、今の俺とあいつとの身長差は20cm以上ある。
しかも俺は中学生柔道選手権で全国三位になった。そのおかげでこの学校に推薦入学できたわけだ。

久しぶりに出会った今日の昼休みのあいつをみて女らしくなったと感じた。
もはやこいつと手合わせすることなんてないだろうと俺は一人で考えていた。
かつてこいつに負け続けていた悔しさをばねに全国大会レベルまで鍛錬した。
ある意味、今の自分があるのはこいつのおかげかもしれない。

「じゃあ始めよっか!」

長くなった髪をゴムで一つにまとめたあいつは
俺に向かって軽く礼をすると軽快なステップを踏み始めた。
身軽なところは以前と変わってないようだ。しかし今の俺の前では・・・


「えいっ!!!」

気がつくと俺は天井を見つめていた。呼吸ができずに時間が止まっているかのような錯覚に陥る。
おれにの体には投げられた痛みすらない。
いや、痛みが腰の辺りからジンジンと湧き上がってきた!

ろくに受身も取らせてもらえないまま投げ飛ばされ、
足元で悶絶する俺を見下ろしながらあいつが言う。

「久しぶりなのになんだかいい感じじゃない? あたし♪」

コロコロと笑うあいつを見て、俺の中で何かが弾けた。
もはや痛みなんか気にしている場合じゃない。
おれは痛みを無視して立ち上がると正面の「敵」を睨みつけた。

今の一撃で小学生のときに俺はこいつに負け続けていたことを思い知らされた。
深呼吸を一つする。

もはや俺の中に油断はない。
体格差も、男女の違いも関係ない。今はただこいつを倒すだけ!

しかし・・・

スパァーン!!

人気のない柔道場に、畳がきしむ音がこだまする。
投げ飛ばされた男は必死になって受身を取っている。
しかし現実には、投げる相手が「受身を取れるように」投げているだけなのだ。


柔よく剛を制す


自分よりはるかに背丈の大きい相手(=男)を投げ飛ばしているのは、
どこにでもいるような可憐な女子高生だった。
一つに束ねた髪がふんわりと揺れ、うっすらと汗ばんだ表情がなんとも美しい。

「いい感じで体があったかくなってきたよ! やっぱり柔道はいいもんだね〜」

彼女は相手の男を投げ飛ばすと、間髪いれずに彼を引き起こす。
決して筋肉質の女性ではない。

無理やり起こされた男は、投げのダメージを抜く間も与えられずにフラフラの腰つきで立たされる。
しかし彼の目はまだ敵意の光を失っていなかった。
彼女をなんとしても投げ返すという気迫だけは強く感じられた。
そう・・・気迫だけは・・・・・・

震える両腕に力を入れてファイティングポーズを取る。
しかしそんな彼の気力も、彼女の技巧の前には無意味だった。

「久しぶりだけどあなたの動きって、相変わらずわかりやすいのよ。 ほらっ!」

力を振り絞って彼女の奥襟をつかもうとする男の手を軽く払いのけ、すばやく懐に入る。
ああ、もう何度目だろう・・・男はまたもや軽く絶望する。
先ほどはこの後右腕を釣られた後に一本背負いを食らったのだ。

「ほらほら、内股がおろそかになっているわよ♪」

彼女の細い足に左足を払われバランスを崩す。
そして今回はそのまま体落し。
彼女の肩と肘が男の筋肉にめり込む。

「ふふふ、また一本だね! でも有効でいいや。このままじゃつまらないし。
 あたしもいいかげん投げるのにも飽きたから、ここからは寝技で責めてあげるね。」

「はいどーぞ♪」

あいつはそう言うと、肩で息をする俺の横にころんと大の字になった。

「どうしたの? あなたがあたしを押さえ込むところからやらせてあげるからさ。」

その言葉に俺の頭はカーッと熱くなる。
ふざけやがって・・・どこまでおれを馬鹿にすれば気が済むんだ!

「ふふっ、なぁに? その目。 それとも、あたしに押さえ込まれたいのかナ?」

いたずらっぽく挑戦的な言葉と視線を投げかけるあいつに、俺は恥も外聞もなく襲い掛かる。
完璧な横四方固め。左腕はあいつの細い首を抱え込んだ上で襟とともに締め付け、右腕は股の間から太ももを捕らえて締め付ける。
俺はなりふりかまわずグイグイとあいつの体を締め付ける。

「くっ、さすがにキツイわね・・・!」

当たり前だ。俺が全国大会で何度も一本勝ちした寝技の得意技だ。
こうなってしまった以上、相手は簡単には身動きできない。
おれはさらにあいつの体を強烈に締め付け、ギリギリと音がするくらい両腕を華奢な体に食い込ませた。


「そろそろ反撃してもいいかな・・・」

グググッ・・・と、俺の腕の中であいつの体が一瞬だけ小さくなったように感じた。
まるで猫科の猛獣が全身をバネと化して跳躍するように、
あいつは全身に力をみなぎらせ、俺の押さえ込みの力をはるかに上回る威力で両腕の拘束を弾き飛ばした。

「なかなかいい押さえだったけど、やっぱりこんなモンかぁ・・・」

あいつは肩が凝ったとでも言いたげな様子で、首を軽く左右に振っている。
しかし俺のほうはそれどころではなかった。両腕に全く力が入らない!
得意技を破られ、やつに押さえ込みをあっさりと解かれただけでなく、両腕まで脱力させられてしまった。

「じゃあ今度は私からいくね! 覚悟してね?」

「じゃあ一番簡単なので行こうか?」

可愛らしい顔で俺にウィンクした次の瞬間だった。
一瞬で俺をとの間合いを潰したあいつに、俺は足払いかけられ体を転がされた。

あいつは俺の左手を取り、腕を首に巻きつけるようにしながら肩固めの体勢に移る。
その動きは驚くほど滑らかで無駄がなかった。
すでに感覚が消えかけている俺の左腕が軽くねじりこまれ、おれの間接が悲鳴を上げる。

「左手に力が入らないようにしてあげるね・・・」

まるで抱きしめられるかのような押さえ込み。
視界をふさがれた俺の額にあいつの束ねられた髪が触れているのがわかる。
無意識に女を感じさせられて、おれの股間が緊張する。逆に俺の全身は弛緩する。
ほんの一瞬ではあったがその変化に気づいたあいつが俺を嘲笑する。

「ねえ、ちょっと! なに感じてるの? あなた責められて喜ぶヘンタイだったの??」

あいつの膝頭がおれの股間をグリグリと刺激してくる。
それは痛みを伴わない絶妙な刺激だった。
思わずため息が出てしまうほど甘く切ない性的な愛撫。
この刺激にすべてを任せてしまいたい・・・・・・俺の意識の中にそんな感情が芽生えてくる。

「うふふっ、もうすぐ技ありになっちゃうぞ?」

あいつのその言葉に意識を取り戻した俺は
慌ててなんとか両足の力で押さえ込みをはずそうとするがなかなかうまくいかない。
しかし必死でもがく俺の動きが幸いしたのか、25秒に差し掛かる瞬間あいつの技が解けた。

「あんっ、さすがね! はずされちゃったか」


・・・嘘だ。わざとあいつが技をはずしたんだと俺は直感した。
お互いに立ち上がり仕切りなおす。
すでにボロボロのおれと、はじめの頃と変わらぬあいつ。優劣はもはや明確だった。

「じゃあ次はこの技だね。今度は一本とってあげるから・・・フフフ」


そこから先は無残なものだった。

あいつは俺を何度も投げ飛ばし、そのまま寝技をかけ続けては自ら技をはずした。
文字通り教科書どおりの完璧な基本技を受け続けた俺は根こそぎ体力を奪われていった。

「最後はこの技でおとしてあげる♪」

ようやく飽きたのか・・・あいつはそう言い放つとまたもや無理やり俺を立たせる。
もはや棒立ちの俺にすばやい動きで払い腰をかけて転がすと、あいつは俺の背後に回りこんだ。
俺はというと両腕には力が入らずあいつの腕を払うこともできない。

「うふっ、こんなにボロボロにされちゃって悔しくないの?」

後ろから抱きしめるような体勢で、あいつが俺にささやいてくる。
くそっ・・・悔しいのが当たり前のはずなのに、なぜか股間が今まで以上に熱くなってるのがわかる。
俺は無意識にこいつに技で翻弄されることに快感を覚え始めていた。

「今迄で一番恥ずかしいカッコさせてあげるね!」

胴三角締め。あいつの細い脚が俺の腹に絡みつきながらグイグイ締め付けてくる。
その華奢な体からは想像できないほど強烈な脚力だ。
さらに脇の下から腕を通され、襟と胸を締め付けられる。

「恥ずかしいねぇ・・・ここまでがっちり決まったらさすがにはずせないっしょ?」

あいつが言うとおり、もはやはずすことはできない。
女に後ろから抱きかかえられた上に意識を刈り取られるという屈辱。
しかしおれはどうすることもできない。

「情けない男・・・もうイっちゃいな!」

ひときわ強くあいつが俺を締め付ける。
呼吸することも許されず断末魔の叫びもあげられない俺が最後に覚えていたのは
甘酸っぱいあいつの汗のにおいだけだった。



意識をなくしてぐったりと横たわる俺の脇で、
胴着から制服に着替え終わったあいつは俺に向かってこういった。

「少しは強くなってると思ったけど、全然だめだったね。フフフッ♪」




END

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